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'''マスムーブメント'''({{lang-en|mass movement|links=no}})とは、[[斜面]]において地形物質が[[重力]]によって下方へ移動する現象のことであり{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=840}}{{Sfn|松倉|2008a|p=5}}、地形の斜面プロセスの1つである{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=840}}。'''マスウェイスティング'''({{en|mass wasting}})と同義であるほか、日本語訳では'''集団移動'''および'''物質移動'''も用いられる{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=840}}。日本ではマスムーブメントは大きく[[山崩れ]]と[[地すべり]]に分けられ{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=841}}{{Sfn|松倉|2008b|p=86}}、どちらも日本の[[山地]]でよく発生する現象である{{Sfn|町田|1985|p=15}}。 == 分類 == マスムーブメントの分類には複数の見解がある{{Sfn|山岸ほか|2000|p=2}}。マスムーブメントの分類時には、動きの速度とメカニズム、物質の種類、動き(変形)の様式、移動体の形状、物質の含水比の5点に着目して行われることが多い{{Sfn|松倉|2008b|p=86}}。 {{harvtxt|Varnes|1978}}では、落下({{en|fall}})、転倒({{en|topple}})、すべり({{en|slide}})、流動({{en|flow}})に分け、それら複数の組み合わせによる分類も考慮されている{{Sfn|山岸ほか|2000|p=2}}。これは、ヨーロッパの地すべり地形学のほか世界的に共有されている考え方である{{Sfn|山岸ほか|2000|p=2}}。 {{harvtxt|鈴木|2000}}では、運動の様子をもとに、[[匍行]]{{refnest|group="注釈"|斜面物質が重力に従ってゆっくり運動する現象のこと{{Sfn|鈴木|2000|p=789}}{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=826}}。}}、[[落石 (自然災害)|落石]]、[[崩落]]、[[地すべり]]、[[土石流]]、[[陥没]]、[[地盤沈下]]、[[荷重沈下]]として8つに分類している{{Sfn|松倉|2008b|p=86}}。 [[日本地質学会]]では、匍行、滑動、流動、崩落、転倒に分けられている<ref>{{Cite web|和書|url=http://old.geosociety.jp/organization/hazard/niigata-eq/debris%20flow.html|title=平成16年新潟県中越地震 :関連情報|publisher=日本地質学会 地質災害委員会|accessdate=2021-02-05}}</ref>。 == 原因 == マスムーブメントは素因と誘因の双方により発生するが、原因を考察するときは、素因と誘因に分けることが多い{{Sfn|高橋ほか|2008|p=102}}。 素因には、地形条件、地質条件、水文条件が挙げられる{{Sfn|高橋ほか|2008|p=102}}。地形条件としては、例えば斜面の[[傾斜]]が挙げられる{{Sfn|松倉|2008b|p=89}}。地質条件では、斜面を構成する物質の違いが挙げられる([[砂質土]]{{refnest|group="注釈"|[[真砂土]]、[[シラス (地質)|シラス]]など、砂分が多い土のこと{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=291}}}}では山崩れが、[[粘性土]]{{refnest|group="注釈"|[[シルト]]、[[粘土]]などが多い土のこと{{Sfn|日本地形学連合|2017|p=703}}}}では地すべりが発生しやすい){{Sfn|松倉|2008b|p=89}}。この他[[地質構造]]も重要な素因となり、例えば砂岩泥岩互層の層理面でマスムーブメントが発生することもある{{Sfn|松倉|2008b|p=89}}。 誘因には、[[降雨]]、[[地震]]、[[火山活動]]などが挙げられる{{Sfn|松倉|2008b|pp=89-90}}。この中でも最も主要な誘因は降雨であり、降雨が土中に[[浸透]]することにより、土や岩石の[[含水比]]の上昇による[[せん断強度]]の低下および、[[地下水位]]の上昇による安定度の低下を引き起こす{{Sfn|松倉|2008b|p=89}}。 == マスムーブメントの力学 == [[File:Mechanics of mass movement.jpg|thumb|地形物質にかかる重力、およびマスムーブメントに関与する駆動力と抵抗力を示している。]] === 発生条件 === マスムーブメントが起こるのは、斜面における[[駆動力]]<math>F_D</math>が[[抵抗力]]<math>F_R</math>を上回ったときである{{Sfn|松倉|2008a|p=90}}。このためには、[[せん断力]]が増加したり、[[斜面安定解析#せん断強度|せん断強度]]が減少したりすることが求められる{{Sfn|松倉|2008a|p=90}}。具体的には、前者は河川の[[侵食]]による斜面の傾斜や高さの増大、後者は降雨や[[風化]]が挙げられる{{Sfn|松倉|2008a|pp=90-91}}。 なお、<math>F_s = \frac {F_R}{F_D}</math>を[[安全率]]({{en|safety factor}})とよび、<math>F_s > 1</math>ならば安全斜面と判定することができるものの、<math>F_s < 1</math>のときは斜面が危険であると判断される{{Sfn|松倉|2008a|p=92}}。安全率はマスムーブメントの発生の有無の判定に使用できる{{Sfn|松倉|2008a|p=92}}。 === 駆動力 === 重力を<math>mg</math>、斜面の傾斜を<math>\beta</math>と表すとき、駆動力<math>F_D</math>は <math>F_D = mg \sin \beta</math> と表せ、これは重力の斜面方向の成分である{{Sfn|松倉|2008a|p=91}}。 === 抵抗力 === <math>\tau</math>をせん断強度、<math>c</math>を粘着力(定数)、<math>\sigma</math>を[[垂直応力]]、<math>\phi</math>をせん断抵抗角(定数)とする{{Sfn|松倉|2008a|p=71}}。潜在破壊面の長さを<math>L</math>、奥行きを<math>1</math>とする場合、抵抗力<math>F_R</math>は <math>F_R = \tau L = \left ( c + \sigma \tan \phi \right ) L</math> と表せる{{Sfn|松倉|2008a|p=92}}。なお垂直応力<math>\sigma</math>は<math>\sigma = mg \cos \beta \times \frac{1}{L}</math>と表されることから、最終的に <math>F_R = cL + mg \cos \beta \tan \phi</math> が導かれる{{Sfn|松倉|2008a|p=92}}。 == 形成される地形 == マスムーブメントに伴い形成された地形を'''集団移動地形'''({{en|mass-movement landforms}})とよぶ{{Sfn|鈴木|2000|p=779}}。また'''重力地形'''とよばれることもある。集団移動地形は、匍行地形、落石地形、崩落地形、地すべり地形、土石流地形、陥没地形、地盤沈下地形、荷重沈下地形に大きく分類することができる{{Sfn|鈴木|2000|p=784}}。 形成される地形の例として、匍行地形では[[麓屑面]]{{Sfn|鈴木|2000|p=789}}、落石地形では[[落石窪]]、[[転石]]、[[崖錐]]{{Sfn|鈴木|2000|p=793}}、崩落地形では[[崩落地]]、[[崩落崖]]、[[崩落堆]]{{Sfn|鈴木|2000|p=801}}、地すべり地形では大きく[[滑落崖]]と[[地すべり堆]]{{Sfn|鈴木|2000|p=813}}、土石流地形では[[土石流谷]]、[[土石流堆]]、[[土砂流原]]、[[沖積錐]]{{Sfn|鈴木|2000|p=849}}などが挙げられる。 == 災害 == [[File:Chuetsu earthquake-myouken2.jpg|thumb|[[新潟県中越地震]]による土砂災害]] マスムーブメントは[[災害]]を引き起こす{{Sfn|高橋ほか|2008|p=145}}。[[地すべり]]はその1つであり、[[豪雨]]による[[地下水]]への影響によって斜面物質の力学的なバランスが保てなくなって発生する{{Sfn|高橋ほか|2008|p=145}}。[[表層崩壊]]は地すべりの1つであるが、花崗岩質の地域にて起こりやすいマスムーブメントでもある{{Sfn|高橋ほか|2008|p=145}}。 また、地震がマスムーブメントによる災害を引き起こすこともある{{Sfn|高橋ほか|2008|p=146}}。例えば、[[新潟県中越地震]](2004年)では、[[斜面崩壊]]、[[土石流]]、地すべりなどの災害が発生している{{Sfn|高橋ほか|2008|pp=145-146}}。 == 脚注 == === 注釈 === {{Reflist|group="注釈"}} === 出典 === {{Reflist|3}} == 参考文献 == <!-- 立項者註: 松倉 (2008)が複数ある関係で、2冊を区別するために当該文献のみ故意に{{Cite book}}で「和書」を外しています。--> * {{Cite journal|author=Varnes, D. J.|year=1978|chapter=Slope movements type and processes|editor=Schuster, R. L. and Krized, R. J.|title=Landslides|journal=Transportation Research Board Special Report|volume=176|pages=11-33|publisher=Transportation Research Board|url=http://onlinepubs.trb.org/Onlinepubs/sr/sr176/176-002.pdf|format=PDF|ref={{Sfnref|Varnes|1978}}}} * {{Cite book|和書|author=町田洋|authorlink=町田洋 (火山学者)|chapter=風化とマスウェイスティング|editors=[[貝塚爽平]]・[[太田陽子 (地理学者)|太田陽子]]・小疇尚・小池一之・[[野上道男]]・町田洋・[[米倉伸之]]|year=1985|title=写真と図で見る地形学|publisher=東京大学出版会|isbn=978-4-13-062080-2|ref={{Sfnref|町田|1985}}}} * {{Cite book|和書|author=鈴木隆介|year=2000|title=段丘・丘陵・山地|series=建設技術者のための地形図読図入門|publisher=古今書院|isbn=4-7722-5015-8|ref={{SfnRef|鈴木|2000}}}} * {{Cite book|和書|author=山岸宏光|author2=志村一夫|author3=山崎文明|year=2000|title=空中写真によるマスムーブメント解析|publisher=北海道大学図書刊行会|isbn=4-8329-9841-2|ref={{SfnRef|山岸ほか|2000}}}} * {{Cite book|author=松倉公憲|author-link=松倉公憲|year=2008a|title=山崩れ・地すべりの力学 地形プロセス学入門|publisher=筑波大学出版会|isbn=978-4-904074-07-7|ref={{SfnRef|松倉|2008a}}}} * {{Cite book|author=松倉公憲|year=2008b|title=地形変化の科学 ―風化と侵食―|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-16052-9|ref={{SfnRef|松倉|2008b}}}} * {{Cite book|和書|editor1=高橋日出男|editor2=小泉武栄|editor2-link=小泉武栄|year=2008|title=自然地理学概論|series=地理学基礎シリーズ|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-16817-4|ref={{SfnRef|高橋ほか|2008}}}} * {{Cite book|和書|editor=日本地形学連合|editor-link=日本地形学連合|year=2017|title=地形の辞典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-16063-5|ref={{SfnRef|日本地形学連合|2017}}}} == 関連項目 == * [[マストランスポート]] - 重力ではなく、水流や風、氷河などの媒体により物質が移動する現象のこと。 == 外部リンク == * {{Kotobank|マス・ムーブメント}} {{デフォルトソート:ますむうふめんと}} [[Category:地形学]] [[Category:侵食]]
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