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{{経済学のサイドバー}} '''マネタリスト'''({{lang-en-short|monetarist}})は、マクロ経済の変動において貨幣供給量([[マネーサプライ]])、および貨幣供給を行う[[中央銀行]]の役割など、経済のマネタリー(貨幣的)な側面を重視する[[経済学]]の一派およびその主張をする[[経済学者]]を指す。'''貨幣主義者'''または'''通貨主義者'''とも訳される。マネタリストの理論および主張の全体を'''貨幣主義'''あるいは'''通貨主義'''または'''マネタリズム'''({{lang-en-short|monetarism}})と呼ぶ。 == 概要 == 貨幣供給量の変動が、[[短期]]における実質経済成長、および[[長期]]におけるインフレに対して、決定的に重要な影響を与えるとする。裁量的な[[財政政策]]への傾斜を強めていっていた[[ケインズ]]的[[総需要]]管理政策への対立軸として生まれ、[[貨幣数量説]]に再び光を当てるとともに、裁量にかわってルールに基づいた政策の実行を主張する点に特色がある。主唱者は[[ミルトン・フリードマン]]。彼の「経済産出より早いペースで貨幣量が増えることによってのみ生まれ得るという意味で、インフレーションとはいついかなる場合も貨幣的現象である」<ref name="Friedman_1970">"Inflation is always and everywhere a monetary phenomenon in the sense that it is and can be produced only by a more rapid increase in the quantity of money than in output." Milton Friedman, The Counter-Revolution in Monetary Theory (1970)</ref>という言葉が有名である。また、主唱者フリードマンがその側面を強調したように、経済の短期変動の主因を貨幣量の変化に求める貨幣的景気循環を重視する<ref>加藤寛孝、『幻想のケインズ主義』、[[日本経済新聞社]]</ref>。 == 解説 == 貨幣供給量が[[短期]]の経済変動に大きな影響を与えると考えることから、裁量的な貨幣供給・金融政策に否定的であり、ルールに基づいた政策を行うべきだと主張する。これは、経済状況に対する政府中銀の[[ラグ (経済学)|認知ラグ]]や政策が実施されるまでのラグ、そして効果が実際に波及するまでのラグという各種タイムラグの存在などから、裁量的に貨幣供給を行おうとしても常には適切な供給を行うことが出来ず、その乖離がマクロ経済に大きな影響を与えてしまうので、却って経済に不要の変動を生み出してしまうとするからである。 貨幣量が[[短期]]的には実質経済に大きな影響力を持つとする一方で、[[長期]]的には実質経済への影響がなくなりインフレにのみ作用するという考え方や、裁量よりルールを重視すべきという主張は、[[ニュー・ケインジアン]]を含め現代のマクロ経済学に広く組み込まれており、多くのモデルが何らかの意味でマネタリズム的である<ref>[http://www.j-bradford-delong.net/movable_type/2004_archives/000393.html "The Monetarist Counterrevolution: An Attempt to Clarify Some Issues in the History of Economic Thought]," J. Bradford DeLong</ref>。そのため、かつてのようなケインジアンかマネタリストか、といった区別は意味を持たなくなってきており、「今日のマクロ経済学者の中で伝統的なマネタリストを見つける事は難しくなっている」<ref>クルーグマン『マクロ経済学』第三版p496</ref>と言える。 == 貨幣数量説 == マネタリストの提唱する[[貨幣数量説]]とは[[アーヴィング・フィッシャー]]の[[フィッシャーの交換方程式|貨幣数量方程式]]<!--mv=pt-->の変形版 :<math>Mv=PY</math> :''M'' :貨幣供給量 :''v'' :[[貨幣の流通速度|貨幣の所得流通速度]] :''P'' :価格水準 :''Y'' :産出物の数量 に基づき、貨幣の所得流通速度(v)が一定であるとき産出物の数量(Y)が一定ならば、貨幣の供給量(M)によって価格水準(p)の名目価値が決定されること、すなわち物価は発行される貨幣の量で決まると主張した。貨幣数量方程式は状態方程式なので本来はそのような因果関係を表したものではないが、マネタリストは因果関係を表す式として解釈し、貨幣供給量を安定的に管理することを重視する。これは、貨幣の所得流通速度(v)は景気拡大局面では上昇し収縮局面では下落する傾向にあるなど、短期的には変動する<ref>[[ミルトン・フリードマン]]、[[アンナ・シュワルツ]] 共著、『A Monetary History of the United States, 1867-1960,』。[http://mathdays.blog67.fc2.com/blog-entry-1015.html ここ]に一部抜粋されている。</ref>ものの、長期的には安定しているという観測結果に基づく。 一方で、[[ケインジアン]](ケインズ経済学者)は、価格水準(p)が一定であれば変化するのは産出物の数量(Y)であり、またMとYがそれぞれ独自に変化することがあるのでそのような因果関係を見ることは出来ないと主張していた。また、貨幣の所得流通速度(v)が一定でないこともあり貨幣供給量とPY(名目GDP)の関係は安定的とは限らない、とした。 マネタリストの主張の骨子は、以下のようにまとめられる。 #貨幣供給量の経済に与える影響力は非常に大きく、人々の予測形成が困難な裁量的政策は無用な景気変動を生み出す #貨幣供給量は政策的にコントロールできる #[[インフレーション]]は貨幣的現象である #貨幣の増加率とインフレ率には長期的に単純な比例関係がある #よって、インフレや景気変動を安定化させるために、貨幣供給は裁量ではなく、一律のルールに基づいて行うべきである 貨幣供給量は、短期的には貨幣錯覚などにより実物経済に影響を与え、その典型が[[1930年代]]の誤った金融引き締めによる[[大恐慌]]だという。[[ミルトン・フリードマン]]は緻密な[[実証]]研究によりこのことを証明し、裁量的なケインズ主義政策への激しい攻撃を続けた。彼の主張は、[[1970年代]]米国の[[インフレ]]と[[不況]]の並存([[スタグフレーション]])により、[[フィリップス曲線]]の崩壊の予言の的中をもって頂点に達した。 そして[[1979年]]から[[1982年]]まで米国連銀は、マクロ経済変数を最終目標とするのではなく、貨幣供給量(=マネーサプライ)を目標とするマネタリズムを採用した<ref name="PeddlingMatenalism">Paul Krugman 『経済政策を売り歩く人々』、第一章 1980年における状況</ref>。この政策展開におけるアメリカでは、[[原油価格]]の変動にともなってスタグフレーションは収まり、景気は回復した。一方で超高[[金利]]・超[[ドル]]高の継続、この結果としての中南米途上国の[[債務不履行|デフォルト]](国債償還不能)、さらにこの結果として中南米諸国に融資していたアメリカの銀行の金融危機が生じ世界経済のシステム危機へとつながってしまった。1982年中頃には不況が深刻になり、連銀はマネタリズムを放棄した<ref name="PeddlingMatenalism"/>。 一方[[イギリス]]では、[[サッチャリズム|サッチャー政権]]により、1979年からマネタリズムが採用され、GNPや雇用に関しての目標は公表されず、貨幣供給量である[[マネーサプライ#統計の種類|M3]]の目標が表されるようになった。しかし1979年から1983年にかけて不況が深刻になり、失業率は5.4%から11.8%へ上昇した。最終的に、1986年で貨幣供給量の目標値は公表されなくなった<ref>Paul Krugman 『経済政策を売り歩く人々』、第七章 通貨、インフレ、失業。</ref>。 貨幣の流通速度が不安定化したことを受けた現代のマネタリスト理論においては、銀行信用の重要性に比して[[マネーサプライ]]だけを論じることに懐疑的な傾向がみられるようになり、晩年の[[ミルトン・フリードマン|フリードマン]]自身を含め、インフレについての市場予想を目標とする政策などを模索するようになった<ref>[http://www.cato-unbound.org/2009/09/14/scott-sumner/the-real-problem-was-nominal/ THE REAL PROBLEM WAS NOMINAL], Scott SUMNER, Cato Institute</ref>。 == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 ==<!--発表年順--> * {{Cite journal|和書|author=吉野正和 |date=2002-12 |url=https://ypir.lib.yamaguchi-u.ac.jp/tu/547 |title=フリードマンの貨幣数量説について |journal=徳山大学論叢 |ISSN=02873680 |publisher=徳山大学経済学会 |volume=58 |pages=1-18 |id={{CRID|1050564287562549760}} |ref=harv}} * {{Cite journal|和書|author=吉澤昌恭 |date=2004-12 |url=http://id.nii.ac.jp/1821/00000961/ |title=マネタリストとケインジアン(1) |journal=広島経済大学経済研究論集 |ISSN=0387-1436 |publisher=広島経済大学経済学会 |volume=27 |issue=3 |pages=61-86 |id={{CRID|1050577232667469696}} |ref=harv}} == 関連項目 == * [[ミルトン・フリードマン]] * [[新古典派経済学]] * [[人工市場#合理的期待仮説]] {{マクロ経済学のフッター}} {{Normdaten}} {{デフォルトソート:まねたりすと}} [[Category:マネタリスト|*]] [[Category:マネタリズム|*]] [[Category:経済理論]] [[Category:マクロ経済学]] [[Category:経済学の学派]] [[Category:20世紀の経済]] [[Category:インフレーション]] [[Category:ミルトン・フリードマン]]
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