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[[File:Thomas Malthus.jpg|thumb|150px|[[トマス・ロバート・マルサス]]]] '''マルサスモデル'''({{lang-en|Malthusian model}}{{Sfn|人口研究会|2010|p=281}})とは、ある生物の個体数ないしは[[個体群]]サイズの[[指数関数]]的な増加あるいは減少を記述する[[数理モデル]]。1798年に[[トマス・ロバート・マルサス]]が発表した『[[人口論]]』でこの考えが示されたことにその名を由来する{{Sfn|人口研究会|2010|p=282}}。広義には、『人口論』でマルサスが主張した人口原理に基づく、人口と経済の相互関係モデルも含める{{Sfn|人口研究会|2010|p=282}}。 ==モデルと解== [[File:Malthusian growth curves.png|thumb|280px|マルサスモデルによる個体数増加曲線の様子。赤色が ''m'' = 4、紫色が ''m'' = 2、藍色が ''m'' = 1。いずれも最初は ''N'' =''1'' だが、その後の急激な成長が見て取れる。]] マルサスモデルでは、ある生物の個体数(人間の場合は[[人口]]) ''P'' の増加速度が個体数自体に[[比例]]するとして、次のように個体数増加速度 ''dP''/''dt'' を表す{{Sfn|巌佐|1990|p=3}}。 :<math>\frac{dP}{dt}=mP</math> ここで、''t'' は時間で、''m'' は定数である。発案者に因み、係数 ''m'' を'''マルサス係数'''と呼ぶ{{Sfn|巌佐|1990|pp=3–4}}。上式のマルサスモデルを解くと、次のような解が得られる{{Sfn|日本数理生物学会|2008|p=61}}。 :<math>P=P_0 e^{mt}</math> ここで、初期 ''t'' = 0 における個体数は ''P''<sub>0</sub> である。''m'' が正のとき、''P'' は増加の一途をたどることになる。このような形で与えられる指数関数的増加型の個体数増殖のことをマルサス増殖と呼ぶ{{Sfn|寺本|1997|p=5}}。 マルサス係数 ''m'' について、もう一歩、生物学的な意味を与えれば、出生や分裂などによる個体数増加率と、死亡や分解などによる個体数減少率の差と考えることができる{{Sfn|日本数理生物学会|2008|p=62}}。すなわち、繁殖率を ''b''、減少率を ''d'' とすれば、''m'' = ''b'' − ''d'' となる。この場合は、''b'' と ''d'' は正の値に限定される{{Sfn|マレー|2014|p=1}}。 [[トマス・ロバート・マルサス]]は1798年に発表した『[[人口論]]』で、人口の増加は[[幾何級数]]的に増えていくことを指摘したことから、このモデルにマルサスの名が付けられている{{Sfn|人口研究会|2010|p=282}}。同時にマルサスは、食糧の生産は[[算術級数]]的にしか増えていかないことを指摘し、幾何級数的に増える人口に対して食糧不足が必然的に発生し、悲観的な将来が訪れることを示唆した{{Sfn|寺本|1997|p=6}}。ただし、伊藤嘉昭によれば、マルサスモデルとされる式自体を立てたのは1677年の[[イギリス]]の人口学者ヘール (Hale) とされる<ref name="伊藤1994">{{cite book |和書 |author=伊藤嘉昭 |title=生態学と社会―経済・社会系学生のための生態学入門 |year=1994 |edition=初版 |publisher=東海大学出版会 |isbn =4-486-01272-0 |page=43}}</ref>。 ==離散型、派生型== 上記のマルサスモデルでは、対象の生物の世代交代が切れ目なく連続的に起こることを想定している{{Sfn|寺本|1997|pp=4–5}}。昆虫などでは、世代交代がある時期に一斉に起こる場合もある{{Sfn|マレー|2014|p=37}}。このような個体数増減をモデル化するには、時間 ''t'' を整数として、飛び飛びの時間間隔で個体数変化を考える必要が出てくる{{Sfn|寺本|1997|p=11}}。''t'' を世代とし、''P<sub>t</sub>'' を第 ''t'' 世代における個体数とすれば、離散型のマルサスモデルとその解は :<math>P_{t+1}=mP_{t}</math> :<math>P_t=P_0 m^t</math> と表される{{Sfn|マレー|2014|p=38}}。 マルサスモデルでは無制限な個体数の指数関数増加が続くが、これは現実的ではない{{Sfn|日本数理生物学会|2008|p=62}}。この点を解決したモデルとして、''t'' → ∞ で個体数が有限な値に収束する[[ピエール=フランソワ・フェルフルスト]]による次の[[ロジスティック方程式]]がある{{Sfn|マレー|2014|pp=2–3}}。 :<math>\frac{dN}{dt}\ = r \left( \frac{K - N}{K} \right) N</math> ここで、''K'' は[[環境収容力]]と呼ばれ、その環境における個体数の最大定員を示している{{Sfn|寺本|1997|p=9}}。 ==出典== {{reflist|2}} ==参考文献== *{{cite book ja-jp | editor= 人口研究会 | year = 2010 | title = 現代人口辞典 | url = http://www.harashobo.co.jp/book/b369510.html | location = 東京都 | publisher = [[原書房]] | edition = 初版 | isbn = 978-4-562-09140-9 |ref={{Sfnref|人口研究会|2010}} }} *{{cite book ja-jp |others= 瀬野裕美(責任編集) |editor= 日本数理生物学会 |title=「数」の数理生物学 |url = https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320056756 |publisher=[[共立出版]] |series=シリーズ 数理生物学要論 巻1 |year=2008 |edition=初版 |isbn=978-4-320-05675-6 |ref={{Sfnref|日本数理生物学会|2008}} }} *{{cite book ja-jp |author= 巌佐庸 |title= 数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る |year=1990 |edition=初版 |publisher= HBJ出版局 |isbn =4-8337-6011-8 |ref ={{Sfnref|巌佐|1990}} }} *{{cite book ja-jp |author= 寺本英 |editor =川崎廣吉・重定南奈子・中島久男・東正彦・山村則男 |title= 数理生態学 |year=1997 |edition=初版 |publisher=[[朝倉書店]] |isbn =4-254-17100-5 |ref ={{Sfnref|寺本|1997}} }} *{{cite book ja-jp |others =三村昌泰(総監修)、瀬野裕美・河内一樹・中口悦史・三浦岳(監修) |author=ジェームス・D・マレー |translator =勝瀬一登・吉田雄紀・青木修一郎・宮嶋望・半田剛久・山下博司 |title= マレー数理生物学入門 |url = https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b294437.html |year=2014 |edition=初版 |publisher=[[丸善出版]] |isbn =978-4-621-08674-2 |ref ={{Sfnref|マレー|2014}} }} ==外部リンク== *{{MathWorld|title=Malthusian Equation|urlname=MalthusianEquation}} {{経済成長論}} {{デフォルトソート:まるさすもてる}} [[Category:数理生物学]] [[Category:人口統計学]] [[Category:個体群生態学]] [[Category:トマス・ロバート・マルサス]] [[Category:経済学のエポニム]]
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