マンセル表色系のソースを表示

{{色}}
'''マンセル表色系''' (まんせるひょうしょくけい、{{lang-en-short|Munsell color system}}) とは、[[色]]を正確に表示することを目的とした[[表色系]]である。色の見え方で色を体系化する、顕色系と呼ばれる表色系に分類される<ref name=サミュエル>色彩活用研究所サミュエル監修『色の事典 色彩の基礎・配色・使い方』（2012年、[[西東社]]）</ref>。アメリカの画家・美術教育者の[[アルバート・マンセル]]によってつくられた<ref name=サミュエル />。

== 概要 ==
マンセルは[[1898年]]に研究を始め、[[1905年]]にその成果として『A Color Notation』（色彩の表記）という本を著して発表した<ref name=TOYO />。1915年には『Atlas of the Munsell Color System』という色票集を発表した<ref name="shinoda2007">{{Cite book|和書|author=篠田博之・藤枝一郎|title=色彩工学入門 定量的な色の理解と活用|publisher=森北出版株式会社|series=|year=2007|isbn=9784627846814|pages=74|chapter=}}</ref>。その後、[[1943年]]に[[アメリカ光学会]]によって修正が加えられた<ref name=サミュエル /><ref name=TOYO />。修正したものは'''修正マンセル表色系'''（{{lang-en-short|Munsell renotation color system}}）とも呼ばれるが、現在単に「マンセル表色系」と言った場合、一般的に修正したものを意味する<ref name=サミュエル />。なお、マンセルの死後に出版された新しい書籍『マンセル・ブック・オブ・カラー』（{{lang-en-short|Munsell Book of Colors}}）は現在でも使用されている。

色を[[色の三属性]]（[[色相]]、[[明度]]、[[彩度]]）という理解しやすい属性で表現している点が特徴<ref name="槙">[[槙究]]著『カラーデザインのための色彩学』（2006年、[[オーム社]]）</ref>。色を系統的に整理し、三属性を尺度化して、数値や記号を用いることで正確に表示することを目的としている<ref name=サミュエル />。国際的に通用する表色系の1つであり、日本では[[日本産業規格|JIS]] Z 8721（三属性による色の表示方法）の規格として採用されている<ref name=サミュエル />。カタログなどの参考色の表記としても用いられるなど最も一般性の高い[[表色系]]であるといえるが、反面[[色見本]]を前提としたシステムであり、色表記から実際の色をイメージする際の正確さに欠けるという意見もある<ref name=TOYO>{{Cite web|和書|url=https://www.toyoink1050plus.com/color/chromatics/basic/003.php |title=仕事で使える色彩学 #03 マンセルカラーシステム |website=TOYO INK |author=東洋インキSCホールディングス|authorlink=東洋インキSCホールディングス|date=2015-01-29 |accessdate=2021-07-07}}</ref>。同じ表記であっても再現される色には幅があるため参考値と考えるのが現実的であり、日本における工業分野の色指定には[[DIC (企業)|DIC]]や[[日本塗料工業会]]が作成した色見本が用いられることも多い<ref>{{Cite web|和書|url=https://ino-ue.jp/words/words_77 |title=【DICカラーガイド】 |website=井上紙袋 |author=井上紙袋|authorlink=井上紙袋|accessdate=2022-05-11}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nipponpaint.co.jp/nippelab/term/112/ |title=マンセル表色系 |website=日本ペイント |author=日本ペイント|authorlink=日本ペイント|accessdate=2022-05-11}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.mixing-colors.jp/?mode=f3 |title=日塗工番号について |website=調色屋 |author=タカラ塗料|authorlink=タカラ塗料|accessdate=2022-05-11}}</ref>。

== 色相 (Hue) ==
[[ファイル:MunsellColorCircle.png|thumb|200px|マンセル表色系の[[色相環]]]]
マンセルは色を基本となる5つの色相 (R・Y・G・B・P) に分け、それぞれの中間を5つの色相 (YR・GY・BG・PB・RP) を加えて補完することで、大まかな10色相を設定した<ref name=サミュエル /><ref name=槙 /><ref name=TOYO />。
{| class="wikitable" cellpadding="6" cellspacing="3" style="text-align:center; font-size:smaller;"
! 色
|width="40px" bgcolor=#ef0000|
|width="40px" bgcolor=#e88000|
|width="40px" bgcolor=#f0e000|
|width="40px" bgcolor=#80e800|
|width="40px" bgcolor=#0fc010|
|width="40px" bgcolor=#04a085|
|width="40px" bgcolor=#0059cc|
|width="40px" bgcolor=#2000e0|
|width="40px" bgcolor=#8000c8|
|width="40px" bgcolor=#e000af|
|-
! 略号
| R || YR || Y || GY || G || BG || B || PB || P || RP
|-
! 名称
| 赤 || 黄赤 || 黄 || 黄緑 || 緑 || 青緑 || 青 || 紫青 || 紫 || 赤紫
|}
各色相をさらに10分割し、計100色相の細かな色相を設定した<ref name=サミュエル /><ref name=槙 /><ref name=TOYO />。分割された色相は左から順に数字が割り振られ、色相「R」の2番目であれば『2R』のよう表記される<ref name=サミュエル /><ref name=槙 />。以下は5RPから5YRまでの範囲の奇数番号のみを抽出したもの。
{| class="wikitable" cellpadding="6" cellspacing="3" style="text-align:center; font-size:smaller;"
! 色
|width="40px" bgcolor=#e000af|
|width="40px" bgcolor=#e3008c|
|width="40px" bgcolor=#e60069|
|width="40px" bgcolor=#e90046|
|width="40px" bgcolor=#ec0023|
|width="40px" bgcolor=#ef0000|
|width="40px" bgcolor=#ee1900|
|width="40px" bgcolor=#ec3300|
|width="40px" bgcolor=#eb4c00|
|width="40px" bgcolor=#e96600|
|width="40px" bgcolor=#e88000|
|-
! 略号
| '''5RP''' || 7RP || 9RP || 1R || 3R || '''5R''' || 7R || 9R || 1YR || 3YR || '''5YR'''
|}
付された数字は数字が小さいほど左隣の色相に、大きいほど右隣の色相に近い色であることを意味し、中心の5番目（黄色であれば5Y）にはその色相の典型的な色が置かれている<ref name=サミュエル /><ref name=槙 />。

== 明度と彩度 ==
[[File:Munsell 1943 color solid cylindrical coordinates gray.png|thumb|200px|マンセル表色系の[[色立体]]（カラー・ツリー）]]
[[File:Munsell 5 PB 5Y.png|thumb|200px|5PBと5Yの等色相面]]
色相ごとに最高彩度やその明度が異なるため、マンセル表色系の[[色立体]]はでこぼことした歪な形状となっている<ref name=dic>{{Cite web|和書|url=https://www.dic-color.com/knowledge/munsell.html |title=マンセル表色系とは |website=DIC color & comfort |accessdate=2021-07-14}}</ref>。その形状は自然界に自生する[[樹木]]のように見え、また技術の進歩によって成長（変化）する可能性を秘めたことから「カラー・ツリー」とも呼ばれる<ref name=dic />。

=== 明度 (Value) ===
マンセル表色系における{{読み仮名|'''明度'''|めいど|{{lang-en-short|value}}}}は純黒を0・純白を10として中間の[[無彩色]]の知覚的明るさが等間隔になるよう[[明度]]属性を尺度化したものである<ref name=":0">"明度の表示方法 色知覚の属性のうち，明度を尺度化した明度Vは，無彩色を基準とし ... 理想的な黒を0，理想的な白を10とし，その間を明度知覚の差がほぼ等歩度になるように分割し" JIS Z 8721:1993, p.2 より引用。</ref>。'''バリュー'''、'''マンセルバリュー'''<ref>"マンセルバリューは明度を ... 表す。" JIS Z 8105:2000, p.29 より引用。</ref>とも呼ばれ、'''V''' で略記される<ref name=":0" />。

明度は[[反射率]]に対応する色の属性である。マンセル表色系ではこれを明度（バリュー）V として尺度化している（以下、この尺度をバリューと呼ぶ）<ref name=":0" />。バリューは基準となる純黒を0・純白を10とし、その間の[[無彩色]]が知覚的明るさ（[[ブライトネス]]）上で等間隔になる、つまり「同じ調子で段々と明るくなる」ように定義されている<ref name=":0" />。現実には純黒と純白の[[色見本]]は印刷/表示困難であるため、無彩色の色見本として黒は V=1、白は V=9.5 程度を用いる<ref name="サミュエル" /><ref name="槙" /><ref name="TOYO" />。

[[有彩色]]のバリューは同じ知覚的明るさをもった無彩色のバリューで表現される。各色相における代表色の最高バリューは色相ごとに異なり、最高値は黄（<span style="color:#f0e000">■</span> 5Y）の「8」、最低値は赤（<span style="color:#ef0000">■</span> 5R）や紫青（<span style="color:#2000e0">■</span> 5PB）の「4」である<ref name="槙" />。これはマンセル表色系において「真っ黄色は真っ青より明るい」ことを意味している。

アメリカ光学会が1943年に発表したレポートでは、バリュー V と[[XYZ表色系]]の「Y」との間には、反射率の観点から以下の関係性があることを示唆している<ref>{{cite journal|date=May 1943|title=Final report of the O.S.A. subcommittee on the spacing of the Munsell colors|volume=33|issue=7|pages=385–418|last=Newhall|first=Sidney M.|author2=[[ドロシー・ニッカーソン|Nickerson, Dorothy]] |author3=[[ディーン・B・ジャッド|Judd, Deane B]] |doi=10.1364/JOSA.33.000385|journal=Journal of the Optical Society of America}}</ref>。
:<math>Y = 1.2219 V - 0.23111 V^2 + 0.23951 V^3 - 0.021009 V^4 + 0.0008404 V^5.</math>

=== 彩度 (Chroma) ===
無彩色を0とする<ref name=サミュエル /><ref name=槙 />。有彩色は鮮やかになるほど数値は高くなるが、色相や明度によって最大値は異なる<ref name=サミュエル /><ref name=槙 />。最大値はおおよそ8～14の範囲で、最高値の「14」は黄（<span style="color:#f0e000">■</span> 5Y）、最低値の「8」は青緑（<span style="color:#04a085">■</span> 5BG）である。<!--整理前の記述では最低値が「10」に修正されたとありましたが、追って出典探します。-->

以下は黄緑（<span style="color:#80e800">■</span> 5YG）と青（<span style="color:#0059cc">■</span> 5B）を例にした場合の[[等色相面]]のイメージ。
<div style="float: left; vertical-align: top; margin-right: 1em;">
{| border="0" style="text-align:center; font-size:smaller;"
| 明度
|-
| style="text-align:right;" | 9
| width=30px bgcolor=#e3e9c6 | 
| width=30px bgcolor=#e0ecac | 
| width=30px bgcolor=#dcef92 | 
| width=30px bgcolor=#d9f276 | 
| width=30px bgcolor=#d4f457 | 
| width=30px bgcolor=#d0f629 | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
|-
| style="text-align:right;" | 7
| bgcolor=#acb396 | 
| bgcolor=#a8b67f | 
| bgcolor=#a4b868 | 
| bgcolor=#a0ba4d | 
| bgcolor=#9cbc27 | 
|-
| style="text-align:right;" | 5
| bgcolor=#777e67 | 
| bgcolor=#738151 | 
| bgcolor=#6e8338 | 
| bgcolor=#6a8517 | 
|-
| style="text-align:right;" | 3
| bgcolor=#454b38 | 
| bgcolor=#404d25 | 
| bgcolor=#3b4f0b | 
|-
| style="text-align:right;" | 1
| bgcolor=#191f12 | 
|-
|  || 2 || 4 || 6 || 8 || 10 || 12 || 14 || 彩度
|}
</div><div style="float: left; vertical-align: top; margin-right: 1em;">
{| border="0" style="text-align:center; font-size:smaller;"
| 明度
|-
| style="text-align:right;" | 9
| width=30px bgcolor=#d2eaef | 
| width=30px bgcolor=#b4effd | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
| width=30px bgcolor=#ffffff | 
|-
| style="text-align:right;" | 7
| bgcolor=#9db3b9 | 
| bgcolor=#85b7c4 | 
| bgcolor=#68bbcf | 
| bgcolor=#3cbedb | 
|-
| style="text-align:right;" | 5
| bgcolor=#697f85 | 
| bgcolor=#518290 | 
| bgcolor=#2d859c | 
|-
| style="text-align:right;" | 3
| bgcolor=#364c53 | 
| bgcolor=#144f5f | 
|-
| style="text-align:right;" | 1
| bgcolor=#0a1f27 | 
|-
|  || 2 || 4 || 6 || 8 || 10 || 12 || 14 || 彩度
|}
</div>{{clear|left}}

== 色の表記方法 ==
基本的な表記方法は「'''色相 明度/彩度'''」であるが、無彩色は色相・彩度の表記が不要なため{{lang|en|Neutral}}の頭文字をとって「'''N 明度'''」と記す<ref name=サミュエル /><ref name=槙 />。具体的な表記例は以下のとおり。
{| class="wikitable" cellpadding="6" cellspacing="3" style="text-align:center; font-size:smaller;"
! 色 !! 表記
|-
| width="40px" bgcolor=#ef0000 |  || 5R 4/14
|-
| bgcolor=#b3de69 |  || 3GY 8.5/11
|-
| bgcolor=#888888 |  || N 5.5
|-
| bgcolor=#ffffff |  || N 9.5
|-
| bgcolor=#000000 |  || N 1.5
|}
日本語では『5R 4/14』は「ごアール よんのじゅうよん」、『N 5.5』は「えぬごてんご」と読む<ref name=サミュエル />。

この表示は「マンセル値」「マンセル記号」などとも呼ばれ、また有彩色の表記は頭文字をとって「HV/C」とも呼ばれる<ref name=サミュエル />。[[アクリルガッシュ]]など一部の[[絵具]]などに色はマンセル近似としてこれが表記されている。

== 歴史と影響 ==
[[File:Albert-munsell.jpg|thumb|upright|アルバート・マンセル]]
[[File:Munsell Books.jpg|thumb|『マンセル・ブック・オブ・カラー』のいくつかの版。この色票集は40の特定の色相ごとにさまざまな明度と彩度の色票が取り外し可能なページにまとめられている。]]
三次元の[[色立体]]を使用してすべての色を表現するというアイデアは、18世紀から19世紀にかけて開発された。1758年に[[トビアス・マイヤー]]が二重三角錐、1772年に[[ヨハン・ハインリヒ・ランベルト]]が一重三角錐、1810年に[[フィリップ・オットー・ルンゲ]]が球体、1839年に[[ミシェル＝ウジェーヌ・シュヴルール]]が半球、1860年に[[ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ]]が円錐形、1868年にウィリアム・ベンソンが傾斜立方体、1895年にアウグスト・キルシュマンによる斜めの二重円錐形など、いくつかの異なる形状が提案された。これらのシステムは次第に洗練され、キルシュマンは異なる色相の明るい色の価値の違いさえ認識していた。しかし、それらのすべては純粋に理論的なままであるか、すべての色を収容する上で実際的な問題に直面した。さらに、人間の視覚の厳密な科学的測定に基づくものではなかった。マンセル以前は、色相、明度、彩度の関係は理解されていなかった。

画家であり、マサチューセッツ師範美術学校（現在の[[マサチューセッツ芸術大学]]）の美術教授であったアルバート・マンセルは、色の名前の代わりに10進表記を使用する「色を記述する合理的な方法」を作成し、学生に色について教えるために使用したいと考えた。彼は1898年に初めてこのシステムの研究を開始し、1905年に『A Color Notation』で完全な形で発表した。

オリジナルのマンセル表色系には、理論システムの物理的表現としていくつかの欠陥があった。これらは、1929年の『マンセル・ブック・オブ・カラー』で大幅に改善され、1940年代にアメリカ光学会が実施した広範な一連の視感評価実験を通じて、現代の『マンセル・ブック・オブ・カラー』の表記法（サンプル定義）が生まれた。

マンセル表色系のいくつかの代替品も発明されている。アメリカ光学会の均等色空間、[[国際照明委員会]]の[[Lab色空間|CIELAB(L*a*b*)]]および[[CIECAM02]]カラーモデルなど、マンセルの基本的なアイデアに基づいて構築されている。しかし、マンセル表色系は、[[米国国家規格協会]]（ANSI）では法医学のために肌の色と髪の色を定義し、[[アメリカ地質調査所]]（USGS）は土壌の色を合わせるために、[[歯科補綴学]]では歯科修復のための歯の色の選択時に、[[ブルワリー]]はビールの色を合わせるために使用されています。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references />

== 参考文献 ==

* {{JIS|Z|8105|2000}} - 色に関する用語
* {{JIS|Z|8721|1993}} - 色の表示方法−三属性による表示

== 外部リンク ==
{{commonscat|Munsell color system}}
* [https://munsell.com/ Munsell Color]{{en icon}}
* [https://www.dic-color.com/knowledge/munsell.html マンセル表色系とは] - DICカラーデザイン

{{color topics}}
{{DEFAULTSORT:まんせるひょうしょくけい}}
[[Category:色]]
[[Category:エポニム]]
[[Category:ダイアグラム]]