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マーティンの公理
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数学の[[集合論]]における'''マーティンの公理'''(マーティンのこうり、Martin's axiom, MA)とは、マーティン ([[:en:Donald A. Martin]]) とソロヴェイ ([[:en:Robert M. Solovay]]) によって1970年に提唱された、[[ツェルメロ=フレンケル集合論|ZFC]]と独立な命題である。 この命題は[[連続体仮説]](CH)から導かれるが、ZFC + ¬ CHとも矛盾しない。すなわち、MAを仮定するかどうかに興味があるのはCHを仮定しないときのみである。 この[[公理]]は非形式的には「連続体濃度<math>{\mathfrak c}</math>未満の任意の[[基数]]が<math>\aleph_0</math>と似たような振る舞いをする」と述べるものである。この主張の背景となる直観を知るには、[[ラショーヴァ=シコルスキの補題]]を研究するとよい。この公理はある種の[[強制法]]論法を制御する上で使われる原理である。 == 概要 == マーティンの公理のいくつかの表現は概して二部に分かれている。 MA('''k''')は、「任意の[[可算鎖条件]](以下、cccと略記)を満たす半順序<math>P</math>と<math>P</math>の中で稠密な集合の任意の族<math>D</math>(ただし<math>|D|</math>は高々'''k''')に対して、 <math>P</math> 上のフィルター <math>F</math> で、いかなる <math>D</math> の要素 <math>d</math> に対しても<math>F</math> が <math>d</math> と交わりを持つというものが存在する」という命題で、MAは「連続体濃度 <math>{\mathfrak c}</math> 未満の任意の基数'''k'''に対してMA('''k''')が成り立つ」という命題である。( MA( <math>{\mathfrak c}</math> )が偽であることはZFCの定理である。) cccを語る際の注意として、ここで反鎖とは <math>P</math> の部分集合<math>A</math> で、その互いに異なる任意の二元が両立しないものことである。(二元が両立するとは、その半順序の意味で共通下界が存在することである。)これは、例えば木における反鎖とは定義が異なるので注意が必要である。 MA(<math>\aleph_0</math>)は真である。これはラショーヴァ=シコルスキの補題として知られている。 MA(<math>2^{\aleph_0}</math>)は偽である。:[0,1]は[[コンパクト空間|コンパクト]][[ハウスドルフ空間]]であり、可分なのでcccを満たす。[0,1]は孤立点を含まず、[0,1]内の点による[[一元集合]]は疎(至る所非稠密)である。しかし、[0,1]は<math>2^{\aleph_0}</math>個の点による単集合の和であり、<math>2^{\aleph_0}</math>個は多すぎる。 == MA(''k'')と同値な命題 == 以下の命題はMA(''k'')と同値である。 * ''X''をcccを満たすコンパクトハウスドルフ位相空間とすると、''X''は疎な部分集合の族(濃度''k''以下)の和にはなり得ない。 * ''P''を空でない、上方可算鎖条件(cccの共通下界に関する要請を共通上界に関するものに置き換えたもの。すなわち、どの二元も共通上界を持たないように要素を取るなら可算個までしか取れないということ。)を満たす半順序集合とし、''Y''を''P''の共終部分集合の族(ただし、<math>|Y| \leq k</math>)とすると、右有向集合''A''で、全ての''Y''の要素と交わるものがある。 * ''A''を0でないccc[[ブール代数]]とし、''F''を''A''の部分集合の族(ただし、<math>|F| \leq k</math>)とする。このとき、ブール準同型写像<math>\phi : A \to \mathbb{Z}_2</math> で、任意の<math>X \in F</math>に対して「<math>\phi(a) = 1</math>となる<math>a \in X</math>が存在するか、または''X''の上界''b''で<math>\phi(b) = 0</math>となるものが存在する。」を満たすものが存在する。 == MA(k)からの帰結 == マーティンの公理からいくつかの組み合わせ論的、解析的、位相的な性質に関する興味深い帰結が得られる。 * コンパクトなハウスドルフ空間''X''で濃度が<math>|X| < 2^k</math>未満のものは点列コンパクトである。すなわち、任意の点列は収束する部分列をもつ。 * 濃度が''k''未満である基底をもつような<math>\mathbb{N}</math>上の非自明なウルトラフィルターは存在しない。 MA(<math>\aleph_1</math>)は特に興味深い。以下のような命題を導く: * cccを満たす位相空間の積はcccを満たす。更にこのことから、ススリン線が存在しないこと([[ススリンの問題|ススリンの仮説]]:SH)が導かれる。 MA+¬CHからは以下の命題が導かれる。 * 自由でないホワイトヘッド群が存在する。[[サハロン・シェラハ]]はこの事実を使って、ホワイトヘッドの問題がZFCと独立であることを証明した。 == 関連項目 == *マーティンの公理には[[:en:proper forcing axiom]]や[[:en:Martin's maximum]]と呼ばれる一般化が存在する。 *Sheldon W.Davisは自著で[[範疇 (数学)|ベールの範疇定理]]がマーティンの公理考案の動機になったのではないかと示唆している。<ref>Sheldon W. Davis, 2005, Topology, McGraw Hill, p.29, ISBN 0-07-291006-2.</ref> == 脚注 == <references/> == 参考文献 == *{{cite book | last=Fremlin | first=David H. | title=Consequences of Martin's axiom | publisher=[[:en:Cambridge University Press]]| location=Cambridge | year=1984 | isbn=0521250919 | others=Cambridge tracts in mathematics, no. 84}} *[[:en:Thomas Jech|Jech, Thomas]], 2003. ''Set Theory: The Third Millennium Edition, Revised and Expanded''. Springer. ISBN 3-540-44085-2. *[[:en:Kenneth Kunen|Kunen, Kenneth]], 1980. ''Set Theory: An Introduction to Independence Proofs''. Elsevier. ISBN 0-444-86839-9. **{{citation|mr=0270904 |last=Martin|first= D. A.|last2=Solovay|first2= R. M. |title=Internal Cohen extensions. |journal=Ann. Math. Logic|volume= 2|year= 1970 |issue= 2|pages= 143–178|doi=10.1016/0003-4843(70)90009-4 }} {{DEFAULTSORT:まあていんのこうり}} [[Category:数理論理学]] [[Category:集合論の公理]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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