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{{出典の明記|date=2012-03}} '''メカニズムデザイン''' ({{lang-en-short|mechanism design}}) とは[[経済学]]の一分野である。資源配分や公共的[[意思決定]]などの領域で実現したい目標が[[関数 (数学)|関数]]の形で与えられたとき、その目標が自律的/分権的に実現できるようなルール(「メカニズム」とか「ゲームフォーム」とも呼ばれる)を設計することを目指している。言い換えれば、与えられた関数が要求する目標を、各プレイヤーの誘因を損なうことなく実現できるようなゲームを設計することをメカニズムデザインでは目指している。メカニズムデザインは経済学のなかでも特に[[社会選択理論]]および[[非協力ゲーム]]理論、さらには[[契約理論]]やマーケットデザインと密接な関係を持つ。 メカニズムは一般的に次のような基本的な性質を持つよう設計される。 *[[正直]]さ([[:en:truthfulness|truthfulness]]) *[[経済人|個人の利己性]] *[[ミクロ経済学#均衡理論|価格の均衡]] *[[公共の福祉|公共の利益]]([[:en:social welfare|social welfare]]) より進んだメカニズムでは、プレイヤーの[[談合]]も排除するよう設計される。 メカニズムデザインの分野での功績のほとんどは[[経済学]]によってもたらされてきたが、近年では[[数学]]、[[計算機科学]]、[[電気工学]]もこの分野で活躍している。 メカニズムデザインの一分野として、[[市場]]や[[オークション]]、組み合わせオークションの設計がある。その他にも、医学部生の[[インターンシップ]]配属に利用される[[安定結婚問題]]がある。更なる応用として、[[公共財]]の供給や[[最適課税]]の設計などについても研究されている。 ==メカニズムの例== === オークション === [[オークション]]の設計では、''効率性''と''耐戦略性''をみたすオークションメカニズムの設計が重視される。ここで各用語の意味は以下のようである。 ; 効率的なオークション : 財をもっとも高く評価する入札者にその財を配分するようなオークション ; 耐戦略的なオークション :入札者が財に対する自分の評価額以外の額を入札しても得をすることがないようなオークション。[[ゲーム理論]]の言葉でいえば、評価額をそのまま入札することが''弱支配戦略''になっているようなオークションメカニズム たとえば最も高い入札額をつけた入札者がその入札額を支払うことで財を受け取る'''ファーストプライスオークション'''(第一価格オークション)は耐戦略的ではない。最適な戦略が他人次第であることは、各自が自分の評価額以下かつ2番目に高い入札額以上の範囲でできるだけ低い入札額を狙うことから分かり、実際に理論的にも入札者は評価額よりも低い金額を入札することが示せる。なお、このオークションは各入札者が互いの入札額を知らずに入札する''{{仮リンク|封印入札オークション|en|sealed-bid auction}}''の代表例でもある。 効率性と耐戦略性をみたすオークションとしては、'''セカンドプライスオークション'''(第二価格オークション; [[:en:Vickrey auction|Vickrey auction]])が知られている{{#tag:ref | 坂井・藤中・若山, 2008<ref name = sakai-fw08 />, 4.5.1節.}}。これは最も高い入札額をつけた入札者が''2番目に高い入札額''を支払った上で財を受け取る封印入札オークションである。なぜ自分の評価額をそのまま入札するのが最適かは、次のように説明できる。いまオークションの対象となっている財に対するあなたの評価額が10,000円で、あなた以外の入札者の入札額 ({{en|bid}}) で最高のものを ''b'' 円とする。 * ''b'' > 10,000円 の場合。たとえば ''b'' = 10,700円とする。この場合、財を落札すれば 10,700円以上を払うことになるため、落札しない方が得である。そのためにはその額 ''b'' 円未満を入札しておけばよく、10,000円を入札するのはその条件に適っている。 * ''b'' < 10,000円 の場合。たとえば ''b'' = 9,800 円とする。この場合、財を落札すれば支払いが 9,800 円で済むため、落札した方が得である。そのためにはその額 ''b'' 円より多い額を入札しておけばよく、10,000円を入札するのはその条件に適っている。 要するに各人にとって、自分の評価額をそのまま入札する戦略が常に最適であり、それ以外の額を入札する戦略はこの戦略に弱支配されている。 === 非分割財の配分 === 「オークション」といえば金銭の授受を伴うメカニズムになってしまうが、状況によってはもっとも評価額の高い人に''金銭の授受を避けた形で''「財」を配分することを目標とした方が自然なこともある。たとえば'''ソロモン王のジレンマ'''として知られる配分問題がそれである。「自分がこの子の母親だ」と主張する二人の女が[[ソロモン|ソロモン王]]の前に現れたという[[旧約聖書]]のエピソードから来ている。ソロモン王の目標は、赤ちゃんを真の母親に返すことであり(ただし王自身はどちらの女が真の母親かは知らない)、金銭の授受なしにこれを遂行することである。ここでは話を簡単にするため、真の母親がその子供に対するもっとも高い「評価額」を持つと仮定する。 この問題を解決するメカニズムとしては様々なものが提案されている。ここではセカンドプライスオークションを利用した非常に単純なメカニズムを取り上げ、一単位だけある財を ''n'' 人いる個人のうちの''最高評価者''(最高評価額を持つ個人)に配分できることを説明する{{#tag:ref | Mihara, 2012<ref name=mihara12jer>{{cite journal|last1=Mihara|first1=H. Reiju|title=THE SECOND-PRICE AUCTION SOLVES KING SOLOMON'S DILEMMA*|journal=Japanese Economic Review|volume=63|issue=3|year=2012|pages=420–429|issn=13524739|doi=10.1111/j.1468-5876.2011.00543.x}}</ref>. 坂井・藤中・若山, 2008<ref name = sakai-fw08>{{Cite book | author= 坂井豊貴; 藤中裕二; 若山琢磨 | title=メカニズムデザイン: 資源配分制度の設計とインセンティブ | date=2008 | publisher= ミネルヴァ書房| isbn=978-4623052349 }}</ref>, 1.1 節は ''n'' = 2 人のケースを概説。}}。なお、各人は最高の評価額と2番目の評価額の差がある値 δ > 0 より大きいことを知っており、自分の評価額が最高かどうかも分かるものとする。メカニズムは次の2段階から成る: # 各人はそれぞれオークションに参加するかどうかを表明する。 # 参加表明者が2人以上の場合、参加者は参加費 δ を払った上でセカンドプライスオークションに参加する。参加表明者が1人以下の場合、参加者がタダで財を得る。いずれの場合も参加しない者には支払いも生じないし財も得られない。 最高評価者への配分がこのメカニズムでうまく実現できることは、[[解概念#後ろ向き帰納法|逆向き帰納法]]で示せる。まず、第2段階のセカンドプライスオークションに参加した個人は自分の評価額を入札するはずである(参加料は[[サンクコスト]]となって影響を与えないため)。したがって最高評価者以外の参加者は、オークションへの参加費を取られる一方で財は得られないことになる。これは彼らにとって参加することより損なので、彼らは第1段階で不参加を表明する。一方、第2段階で(参加費を払った上でも)損せずに財を獲得することが予想できる最高評価者は、第1段階で参加を表明する。以上から実際に第1段階で参加を表明するのは最高評価者だけになり、金銭のやり取りなしで財がこの人に配分されることが分かる。 == メカニズムデザインのモデル化 == メカニズムデザインのモデルは、環境とメカニズムによって表される。 ;環境 :<math>(N , \Omega, \Theta)</math> と表記される。 :*<math>N = {1, 2, ..., n}</math> :参加者の集合 ただし設計者自身を含むときは設計者を<math>0</math>として加える。 :*<math>\Omega = {\xi, ...}</math>:実現可能な結果の集合 :*<math>\Theta = {\mathbf t, ...}</math>:参加者タイプの集合 ただし<math>\mathbf t = (t_1, t_2, ... , t_n)</math>。 ::(各参加者<math>i</math> のタイプ(参加者の信念や価値観)の集合<math>\Theta_i</math>に対して<math>\Theta = \Theta_1\times \Theta_2 \times ... \times \Theta_n</math> ) ;メカニズム :<math>(S, \omega)</math>と表記される。 :<math>S = {\sigma, ...}</math> :戦略の集合 ただし<math>\sigma = (\sigma_1 (t_1), \sigma_2 (t_2), ..., \sigma_n (t_n))</math> ::(各参加者<math>i</math> の戦略を<math>S_i</math>として<math>S = S_1 \times S_2 \times ... \times S_n</math>) ;<math>\omega = [\omega(\sigma), ...]</math> :結果の集合(つまり<math>\omega</math>は写像 <math>\omega : S \to \Omega</math>) [[ギバード=サタースウェイトの定理]]では、支配戦略で誘導可能な結果は独裁だけであるということが示されている。これに対し、[[ナッシュ均衡]]を社会に適用する際は可能なものがいくつかある。 [[レオニード・ハーヴィッツ]]、[[エリック・マスキン]]、[[ロジャー・マイヤーソン]]の3人は、「メカニズムデザインの基礎を作り上げた」として2007年に[[ノーベル経済学賞]]を受賞している。 == 出典 == <references/> {{ゲーム理論}} {{Economy-stub}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:めかにすむてさいん}} [[Category:ゲーム理論]] [[Category:社会選択理論]] [[Category:ノーベル経済学賞]]
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