メタネーションのソースを表示

'''メタネーション'''（{{Lang-en-short|Methanation}}）は、[[水素]]（{{Chem|H|2}}）と[[二酸化炭素]]（{{Chem|C|O|2}}）から[[都市ガス]]の主成分である[[メタン]]（{{Chem|C|H|4}}）を合成する技術である<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.gas.or.jp/gastainable/methanation/ |title=メタネーションとは|author=[[日本ガス協会]]|accessdate=2023-01-09}}</ref>。

再生エネルギーなどから製造された水素を、さらにメタンへ変換することで、より取り扱いやすい燃料が得られる

== 歴史 ==
「メタネーション」は、従来は[[石炭]]から{{仮リンク|合成天然ガス|en|Substitute natural gas}}を生成するプロセスを指し、1984年に{{仮リンク|ダコタガス化会社|en|Dakota Gasification Company}}が実用化した<ref name="shibata">{{Cite journal |和書|author --=柴田善朗|authorlink = |title =低・脱炭素社会に向けたメタネーションの意義|date =2020|publisher = |journal =エネルギー・資源|volume =41|issue =1|url =https://eneken.ieej.or.jp/data/8838.pdf|format = PDF|accessdate=2022-04-10|pages =32-33|ref = }}</ref>。

{{chem|C|O|2}}の[[水素化]]で合成メタンを生成する技術は、[[1911年]]にフランスの化学者[[ポール・サバティエ]]が発明しており<ref>{{Cite web|和書|date=2020-11-20|url=https://www.j-lpgas.gr.jp/data/greenlpg_presen02_aist_20201120.pdf|title=メタネーション関連技術および産総研の取り組み紹介|publisher=[[日本LPガス協会]]|format=PDF|accessdate=2022-04-10}}</ref>、2010年代頃以降は、[[脱炭素]]や[[温室効果ガス]]排出抑制の点からこの{{chem|C|O|2}}の水素化技術が注目されるようになった{{r|shibata}}。

日本では、1993年に、東北大学、東北工業大学名誉教授の[[橋本功二]]がグローバル二酸化炭素リサイクル構想を提案。橋本と[[日立造船]]グループは1995年に世界初の実証実験を行った。[[ヨーロッパ]]では2009年ごろから取り組みが活発化した<ref>{{Cite web|和書|date=2019-8-02|url=https://www.jstra.jp/conference/docs/GHG%E6%88%A6%E7%95%A519-2-2-3%20%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB%E6%8A%80%E8%A1%93%EF%BC%88CCR%EF%BC%89%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8F%96%E7%B5%84%E3%81%BF.pdf|title=カーボンリサイクル技術（CCR）に関する取組み|publisher=[[日立造船]]|accessdate=2022-04-10}}</ref>。日本政府はグリーン成長戦略や第6次[[エネルギー基本計画]]において、[[2030年]]の合成メタンを4億m<sup>3</sup>、比率にして1%の導入を目標にしている。日本ガス協会では、[[2050年]]の導入目標を90%とし、水素の直接利用や[[バイオガス]]と併せて100%の[[カーボンニュートラル]]化を目指している<ref name="next">{{Cite web|和書|date=2022-04-18|url=https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00076/?P=1|title=マーケット考察 メタネーションのCO2削減価値は誰のもの？|publisher=日経エネルギーNEXT|accessdate=2022-05-02}}</ref>。

=== 普及、実装 ===
2019年6月、日本では[[気候変動]]対策に関する方針「[[パリ協定 (気候変動)|パリ協定]]に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定された。「我が国の産業界や研究機関は、メタネーションにつながる要素技術、素材技術等に[[イニシアティブス・オブ・チェンジ|イニシアティブ]]をとっていくことが求められている」とされた。それに伴い、大手事業者は以下の経営ビジョンを発表。<ref>[https://www.hitachi-hri.com/keyword/k127.html 「メタネーション」]、株式会社日立総合計画研究所、研究第一部政策グループ、御手洗茂樹、2022年6月25日閲覧。</ref>

2021年1月、大阪ガスは[[SOEC共電解]]の研究開発など、革新的なメタネーション技術の導入によって[[脱炭素社会|脱炭素化]]の更なる深化に取り組む。また、海外で[[カーボンニュートラル|カーボンニュートラルメタン]]を製造し、国内へ輸入する[[サプライチェーン・マネジメント|サプライチェーン]]の構築に取り組む。また、2024年度から2025年度にかけて、INPEXと共に鉱場内から{{chem|C|O|2}}を回収して[[メタン|合成メタン]]を生成する実証実験を実施。これは、世界最大規模の設備であり400{{nbsp}}Ｎm<sup>3</sup>/h{{efn|ノルマル立体メートル毎時。ノルマル立方メートルは大気圧、0{{nbsp}}℃の時の体積。}}の合成メタン製造能力が予定されている。2021年7月、東邦ガスはメタネーション技術の実用化によるクリーンな合成メタンの大量導入をに取り組む。2030年までに、メタネーション技術を活用した都市ガス製造を開始する<ref>[https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2021/__icsFiles/afieldfile/2021/01/25/210125_3_1.pdf 「Daigasグループ カーボンニュートラルビジョン」]、大阪ガス株式会社、2022年6月25日閲覧。</ref>。

2021年11月、東京ガスは脱炭素化に向け、メタネーション技術を自社コア技術として確立。官民合わせた協力体制や連携のもと、社会実装に向けたカーボンニュートラルメタン[[バリュー・チェーン|バリューチェーン]]を構築。横浜市鶴見区の近隣企業と{{chem|C|O|2}}を融通することによるメタネーション[[社会実験|実証実験]]を開始。最新の[[電気分解|水電解]]装置や革新的メタネーション装置を導入し、地域におけるカーボンニュートラルの地産地消化に取り組む<ref>[https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20211126-02.pdf 「Compass Action Compass2030実現のための具体的な道筋」]、東京ガス株式会社、2022年6月25日閲覧。</ref>。

== 実証実験 ==
ドイツのETOGASと[[アウディ]]は、2013年よりバイオガスから分離した{{chem|C|O|2}}を使用して合成したメタンを、既存の導管網を使って[[天然ガス自動車]]向けの供給を行った。フランスの[[エンジー]]グループの{{仮リンク|GRTgaz|en|GRTgaz}}は、再生エネルギー電力で製造した水素と工場の排ガスから収集したCO2を使用した産業用メタネーションの実証実験「Jupiter1000」を2018年より開始した<ref name="kanmin">{{Cite web|和書|date=2021-06-28|url=https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/001_08_00.pdf|title=第1回メタネーション推進官民協議会 メタネーション技術に関する動向|publisher=産業技術総合研究所|format=PDF|accessdate=2022-05-02}}</ref>。

[[新エネルギー・産業技術総合開発機構]]（NEDO）は[[INPEX]]（当時の社名は国際石油開発帝石）、日立造船と共同で2019年にINPEX[[南長岡ガス田|長岡鉱場]]内にメタネーションの試験設備を設置した<ref>{{Cite press release |和書 |title=CO2を有効利用するメタン合成試験設備を完成、本格稼働に向けて試運転開始|publisher=新エネルギー・産業技術総合開発機構|date=2019-10-16|url=https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101217.html|accessdate=2022-05-02}}</ref>。2021年からは、[[大阪ガス]]もこの事業に参画している<ref>{{Cite press release |和書 |title=世界最大級のメタネーションによるCO2排出削減・有効利用実用化技術開発事業の開始について ～都市ガスのカーボンニュートラル化を実現する技術の実用化へ～|publisher=大阪ガス|date=2021-10-18|url=https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2021/1300478_46443.html|accessdate=2022-05-02}}</ref>。東京ガスは、2022年より横浜市と共同で、同市[[鶴見区 (横浜市)|鶴見区]][[末広町 (横浜市鶴見区)|末広町]]の自社敷地内で実証実験を開始する。{{Chem|C|O|2}}源には市の[[下水処理場]]の[[消化ガス]]と、[[清掃工場]]から発生する排ガスを分離して使用する<ref>{{Cite press release |和書 |title=横浜市と東京ガスがメタネーションの実証試験に向けた連携協定を締結|publisher=東京ガス|date=2022-01-18|url=https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20220118-01.html|accessdate=2022-05-03}}</ref>。東京ガスの実証実験には、[[宇宙航空研究開発機構]]（JAXA）、[[山口大学]]<ref>{{Cite press release |和書 |title=JAXAおよび山口大学とメタネーション技術実証に向けた共同研究を開始|publisher=東京ガス|date=2021-12-22|url=https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20211222-01.html|accessdate=2022-05-11}}</ref>および[[三菱重工業]]グループ<ref>{{Cite press release |和書 |title=CCU実証試験を横浜市および三菱重工グループと共同で開始|publisher=東京ガス|date=2022-02-24|url=https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20220224-02.html|accessdate=2022-05-11}}</ref>も参加している。

== 技術 ==
: <chem>CO2 + 4H2 <=> CH4 + 2H2O</chem> ΔH = -165 [[ジュール#キロジュール|kJ]]/[[モル|mol]] (298{{nbsp}}K){{r|kanmin}}
メタネーションは[[発熱反応]]であり、既知のサバティエの技術では反応温度が500{{nbsp}}℃にのぼる<ref name="tg211222">{{Cite web|和書|date=2021-12-22|url=https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20211222-01_01.pdf|title=東京ガスが取り組むメタネーションの技術開発について|publisher=東京ガス|format=PDF|accessdate=2022-05-12}}</ref>。触媒には、主に[[ニッケル]]や[[ルテニウム]]が使われる{{r|kanmin}}。東京ガスでは固体高分子膜（PEM）による水分解と組み合わせて、220{{nbsp}}℃程度の比較的低温でサバティエ反応を行う「ハイブリッドサバティエ」や100{{nbsp}}℃程度で反応を行う「PEMCO<sub>2</sub>還元」{{r|tg211222}}、[[メタン菌]]を応用した「バイオリアクター」による{{仮リンク|生物学的メタン化|en|Biological methanation}}<ref>{{Cite press release |和書 |title=バイオリアクターによるメタネーションの技術実証に向けた産学共同研究の開始について|publisher=東京ガス|date=2021-10-13|url=https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20211013-01.html|accessdate=2022-05-12}}</ref>の技術の開発も進められている。大阪ガスでは、発熱反応で生じた熱を有効活用する[[固体酸化物形電解セル]]（SOEC）メタネーション技術を開発している<ref>{{Cite web|和書|date=2021-07-09|url=https://www.daigasgroup.com/studio/article/article02.html|title=脱炭素化のキーテクノロジー「メタネーション」|publisher=大阪ガス|accessdate=2022-05-12}}</ref>。

[[一酸化炭素]](CO)の水素添加によるメタネーションは、[[アンモニア]]合成時において原料ガス中のCO除去に応用される。この反応では、1モルあたり206{{nbsp}}kJ（49.3{{nbsp}}kcal）の熱が生じる<ref>{{Cite journal|和書|author=北川稔 |date=1975 |title=新メタネーション技術開発の現状 |journal=燃料協会誌 |ISSN=0369-3775 |publisher=日本エネルギー学会 |volume=54 |issue=3 |pages=146-156 |doi=10.3775/jie.54.146 |url=https://doi.org/10.3775/jie.54.146}}</ref>。

=== メリットとデメリット、課題 ===
熱需要は民生用の比較的低温から、産業用の高温に至るまで幅広く、[[ガス燃料]]は幅広い温度帯に対応することができる<ref>{{Cite web|和書|date=2021-11-26|url=https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/methanation.html|title=ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術|publisher=[[資源エネルギー庁]]|accessdate=2022-04-10}}</ref>。水素の直接利用に比べ、メタン化の工程が加わる分、燃料の費用の増加と10 - 20%ほどの[[エネルギー効率|エネルギー損失]]が生じる。だが、都市ガス導管網や[[LNGタンカー]]、{{仮リンク|天然ガス火力発電所|en|Gas-fired power plant}}など既存の[[インフラストラクチャー|インフラ]]が活用できる利点がある<ref>{{Cite web|和書|date=2020-01-10|url=https://www.hitachi-hri.com/keyword/k127.html|title=「旬」なキーワードについての研究員解説 メタネーション|publisher=[[日立総合計画研究所]]|accessdate=2022-04-14}}</ref>。

{{chem|C|O|2}}を回収し再利用することから、[[カーボンニュートラル]]の一種ととらえることができる。合成メタン製造の好適地として、安価で豊富な再生可能エネルギーが入手でき、[[液化天然ガス]]の輸出インフラが整った[[アメリカ合衆国]]や[[オーストラリア]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[インド]]、[[中東]]諸国などが想定される。日本では[[パリ協定 (気候変動)|パリ協定]]6条2項に基づき、温室効果ガス排出量削減の成果を相手国と分け合う「二国間クレジット制度」を17か国との間で整備しているが、多くが発展途上国であり、合成メタン製造適地と一致しない問題がある。日本国内の制度上では、{{chem|C|O|2}}の原排出者と合成メタンの使用者のどちらに排出量削減をカウントするかが検討課題となる{{r|next}}。

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist}}

=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 関連項目 ==
* [[サバティエ反応]]
* [[固体酸化物形電解セル#SOECメタネーション]]
{{Normdaten}}
{{Tech-stub}}

{{DEFAULTSORT:めたねえしよん}}
[[Category:メタン]]
[[Category:温室効果ガス削減]]
[[Category:都市ガス]]
[[Category:ガス技術]]
[[Category:化学プロセス]]
[[Category:有機酸化還元反応]]
[[Category:触媒反応]]