ヤング図形のソースを表示

[[数学]]において、'''ヤング盤'''（ヤングばん、{{lang-en-short|Young tableau}}） および '''ヤング図形'''（ヤングずけい、{{lang-en-short|Young diagram}}）とは、[[表現論]]で使われる[[組合せ論]]的図式である。これは、[[対称群]]の[[線型表現|群表現]]を記述しその性質を調べるのに便利である。

ヤング盤は、ケンブリッジ大学の英国人牧師・数学者アルフレッド・ヤング ([[w:Alfred Young|Alfred Young]], 1873-1940) により 1900年に導入された。その理論は、アルフレッド・ヤング自身およびアラン・ラスクー (Alain Lascoux)、パーシー・マクマホン ([[w:Percy Alexander MacMahon|Percy Alexander MacMahon]])、ギルバート・ロビンソン ([[w:Gilbert de Beauregard Robinson|Gilbert de Beauregard Robinson]])、ジァン・カルロ・ロータ ([[w:Gian-Carlo Rota|Gian-Carlo Rota]])、マルセル・ポール・シュッツェンベルジェ（[[w:Marcel-Paul Schützenberger|Marcel-Paul Schützenberger]]）、リチャード・スタンレー（[[w:Richard P. Stanley|Richard P. Stanley]]）その他の数学者により、さらに発展した。

== 定義 ==
=== ヤング図形 ===
[[画像:Young diagram for 541 partition.svg|thumb|分割 10 = 5 + 4 + 1 のヤング図形]]
ヤング図形あるいはフェラーズ図形（フェラーズずけい、{{lang-en-short|Ferrers diagram}}）とは、数 {{mvar|n}} の[[整数分割|分割]]を表現する方法である。{{mvar|n}} を正整数とする。'''分割'''とは、{{mvar|n}} をいくつかの正整数の和として
:{{math2|1=''n'' = ''k''{{sub|1}} + ''k''{{sub|2}} + … + ''k{{sub|m}}''}}
:{{math2|''k''{{sub|1}} ≧ ''k''{{sub|2}} ≧ … ≧ ''k{{sub|m}}''}}
と表すことである。この分割は {{mvar|i}} 行目は {{mvar|k{{sub|i}}}} 個の箱をもつ {{mvar|m}} 行からなる合計 {{mvar|n}} 個の箱により表現できる。これを'''ヤング図形'''という。ここで、各行は左寄せにする。

この分割を {{math2|1=''k'' = (''k''{{sub|1}}, ''k''{{sub|2}}, …, ''k{{sub|m}}'')}} とする。このとき、'''{{mvar|k}} に共役な分割'''（{{lang-en-short|partition conjugate to {{mvar|k}}}}）とは、各列の箱の数からなる {{mvar|n}} の分割のことをいう。つまり、各ヤング図形に対し、対角線に沿って縦横を反転した共役ヤング図形が存在する。

右上図は、分割 10 = 5 + 4 + 1 に対応するヤング図形である。この共役分割は、 10 = 3 + 2 + 2 + 2 + 1 である。

=== ヤング盤 ===
[[画像:Young tableaux for 541 partition.svg|thumb|分割 10=5+4+1 のヤング盤のひとつ。1から10までが1度ずつ出現しているため、標準盤である。]]
ヤング盤は、ヤング図形を1つ取り、同図形の ''n'' 個の箱に 1, 2, …, ''n'' の数を、以下の制約に基づいて埋めることによって得られる。
* 各行で、数は左から右に増加する。
* 各列で、数は上から下に増加する。
各数が1つの箱に必ず1回きり現れるとき、その盤を'''標準盤'''（{{lang-en-short|standard tableau}}）という。右上図は、分割 10 = 5 + 4 + 1 に対応する標準盤の一つである。

'''半標準盤'''（{{lang-en-short|semi-standard tableaux}}）は、この変種で、全ての数が盤に現れる必要はない代わりに、ある数が複数個の箱に現れうるものである。半標準盤では、上の最初の制約が、以下のように弱められる。
* 各行で、数は左から右に非減少である。
半標準盤は、1, 2, …, ''t'' のどの数も持ちうる。ここで一般に、''t'' は特定されている。この集合 1, 2, …, ''t'' から全ての数が半標準盤に現れる必要はなく、またある数は複数回現れても良い。数は列の中では増加しなければならないので、半標準盤が存在するためには、''t'' ≧ ''m'' が必要である。

== 表現論における応用 ==
ヤング図形は、[[対称群]]の[[複素数]]体上の[[既約表現]]と一対一対応をもつ{{sfn|Sagan|2001|loc=Theorem 2.4.6}}。これは、既約表現を構成するヤング対称子（{{lang-en-short|Young symmetriser}}）を特定するのに便利である。対応するヤング図形から、表現に関する多くの事実を推論することができる。以下に、表現の次元を決定する例と、表現の制限の例の2つを記述する。両方の例において、そのヤング図形を使うだけで、表現のある性質を決定できることを見る。

=== 表現の次元 ===
[[画像:Hook length for 541 partition.svg|thumb|分割 10=5+4+1 に対応する各箱のフック長]]
[[整数分割|分割]] {{mvar|λ}} に対応する[[既約表現]] {{mvar|π{{sub|λ}}}} の[[ハメル次元|次元]]は、その表現のヤング図形から得られる異なるヤング盤の数に等しい。この数は、'''[[フック長の公式]]'''から計算できる。

ヤング図形 {{mvar|λ}} の中のある箱  {{mvar|x}} のフック長（{{lang-en-short|hook length}}） {{math|hook(''x'')}} とは、同一行の右にある箱の数と同一列の下にある箱の数の和に 1 （その箱自身）を加えた数である。フック長の公式によると、既約表現 {{mvar|π{{sub|λ}}}} の次元は、{{math|''n''!}} を、同表現のヤング図形の全箱のフック長の積で割った数に等しい。
:<math>\dim \pi_\lambda = \frac{n!}{\prod\limits_{x \in \lambda} \operatorname{hook}(x)}</math>
右上図では、分割 10 = 5 + 4 + 1 に対応するヤング図形の全箱のフック長を、各箱内に記している。
これにより、
:<math>\dim \pi_\lambda = \frac{10!}{1\cdot1\cdot 1 \cdot 2\cdot 3\cdot 3\cdot 4\cdot 5\cdot 5\cdot7} = 288</math>
である。

=== 表現の制限 ===
{{math2|''n'' &minus; 1}} 個の要素の対称群 {{math|''S''{{sub|''n''&minus;1}}}} は自然に {{mvar|n}} 個の要素の対称群 {{mvar|S{{sub|n}}}} の部分群と見なすことができる。このことから、任意の {{mvar|n}} 次対称群 {{mvar|S{{sub|n}}}} の[[線型表現|表現]] {{mvar|V}} は、 {{math2|''n'' &minus; 1}} 次対称群 {{math|''S''{{sub|''n''&minus;1}}}} の表現と見なせる。これを表現 {{mvar|V}}の'''制限'''（{{lang-en-short|restriction}}）という。一般に既約表現の制限は既約になるとは限らない。そこで対称群 {{mvar|S{{sub|n}}}} の既約表現に対応するヤング図形が与えられたとき、その制限の直和成分として現れる既約表現に対応するヤング図形を決定することが問題となる。

その答えは、対称群 {{mvar|S{{sub|n}}}} の表現のヤング図形から一つ箱を取り除き、その結果が依然として正しいヤング図形になる場合のヤング図形に対応するものに一致する。

=== 表現の誘導 ===
他方、対称群 {{mvar|S{{sub|n}}}} の部分群 {{math|''S''{{sub|''n''&minus;1}}}} の表現 {{mvar|W}} を {{mvar|S{{sub|n}}}} の表現に“持ち上げる”ことができる。これを'''[[群の表現#誘導表現|誘導表現]]'''（{{lang-en-short|induced representation}}）と呼ぶ。一般に既約表現の誘導表現は既約とは限らないため、部分群 {{math|''S''{{sub|''n''&minus;1}}}} の既約表現に対応するヤング図形が与えられたとき、その誘導表現の直和成分として現れる既約表現に対応するヤング図形を決定することが問題となる。

その答えは、{{math|''S''{{sub|''n''&minus;1}}}} の表現のヤング図形に一つ箱を追加しても、その結果が依然として正しいヤング図形になる場合のヤング図形に対応するものに一致する。

=== 表現の構成 ===
{{節スタブ|1=Specht moduleの構成|date=2015-10}}
ヤング盤は、対称群の任意の[[可換体|体]]の上の表現を構成し、その構造を研究することもできる。
正[[標数]]の場合には、これらの表現は既約とは限らない<ref>{{harv|Sagan|2001}}のTheorem 2.4.6の後にある注意を見よ。</ref>。

== 脚注 ==
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book |last1=Fulton |first1=W. |year=1997 |title=Young tableaux |series=London Mathematical Society Student Texts |volume=35 |url={{google books|U9vZal2HCcoC|plainurl=yes}} |publisher=Cambridge University Press |isbn=0-521-56144-2 |mr=1464693 |zbl=0878.14034 |ref=harv}}
* {{Cite book |last1=Sagan |first1=B. E. |year=2001 |title=The symmetric group : representations, combinatorial algorithms, and symmetric functions |edition=Second |url={{google books|Jm-HBaMdt8sC|page=66|plainurl=yes}} |publisher=Springer |isbn=0-387-95067-2 |zbl=0964.05070 |ref=harv}}

== 関連項目 ==
* {{仮リンク|ロビンソン・シェンステッド・クヌース対応|en|Robinson–Schensted–Knuth correspondence}}
** {{仮リンク|ロビンソン・シェンステッド対応|en|Robinson–Schensted correspondence}}
* {{仮リンク|シューア・ワイル双対|en|Schur–Weyl duality}}
* [[ヤング束]]
* [[分割数]]

== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|888|分割数の意味と性質・ヤング図形の活躍}}

{{combin-stub}}
{{DEFAULTSORT:やんくすけい}}
[[Category:代数学]]
[[Category:表現論]]
[[Category:組合せ論]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]]