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[[数学]]の一分野、[[函数解析学]]における'''ユニタリ作用素'''(ユニタリさようそ、{{lang-en-short|''unitary operator''}})は、[[ヒルベルト空間]]上の[[自己同型|自己同型写像]]、すなわち構造(今の場合は、作用する対象となる空間の線型空間の構造、内積構造およびそこから定まる[[位相空間|位相構造]])を保つ[[全単射]]である。与えられたヒルベルト空間 {{mvar|H}} からそれ自身へのユニタリ作用素全体の成す集合は[[群 (数学)|群]]を成し、{{mvar|H}} の'''ヒルベルト群''' {{math|Hilb(''H'')}} と呼ばれることもある。 == 定義と注意 == [[ヒルベルト空間]] {{mvar|H}} 上の[[有界線型作用素]] {{math|''U'': ''H'' → ''H''}} が'''ユニタリ作用素'''であるとは、それが {{math|''U''{{sup|∗}} ''U'' {{=}} ''UU''{{sup|∗}} {{=}} Id}} を満足するときに言う。ただし、{{math|''U''{{sup|∗}}}} は {{mvar|U}} の[[随伴作用素|エルミート共軛]]で {{math|Id: ''H'' → ''H''}} は[[恒等写像|恒等作用素]]である。 上記よりも弱く、条件 {{math|''U''{{sup|∗}} ''U'' {{=}} Id}} のみを満たすものは'''等距作用素''' {{en|(''isometry'')}} と呼ばれ、条件 {{math|''UU''{{sup|∗}} {{=}} Id}} を満たすものは'''余等距作用素''' {{en|(''coisometry'')}} と呼ばれる。即ち、ユニタリ作用素は等距かつ余等距なる有界作用素である<ref>{{harv|Halmos|1982|loc=Sect. 127, page 69}}</ref>。 内積を用いれば、この定義は以下のように書き直すことができる。 ヒルベルト空間 {{mvar|H}} 上の有界線型作用素 {{math|''U'': ''H'' → ''H''}} がユニタリであるとは、 * {{mvar|U}} は[[全射]]であり、かつ * {{mvar|U}} はヒルベルト空間 {{mvar|H}} の[[内積]]を保つ。即ち、{{mvar|H}} の任意のベクトル {{mvar|x}}, {{mvar|y}} に対して<div style="margin:1ex 2em;"><math> \langle Ux, Uy \rangle_H = \langle x, y \rangle_H </math></div>を満足する ときにいう。 === 注意 === 実は上記定義における条件を、以下のように一見緩いものに取り換えても、同値な定義が得られる。 : ヒルベルト空間 {{mvar|H}} 上の有界線型作用素 {{math|''U'': ''H'' → ''H''}} がユニタリであるとは、{{mvar|U}} の値域が {{mvar|H}} において稠密、かつ {{mvar|U}} がヒルベルト空間 {{mvar|H}} の内積を保つときにいう。 同値であることを見るには、{{mvar|U}} が内積を保つことから {{mvar|U}} が等距(したがって[[有界線型作用素]])となることに注意すればよい。実は {{mvar|U}} の値域が稠密であることよりそれが有界な逆作用素 {{math|''U''<sup>−1</sup>}} を持つことが保証されるが、それは明らかに {{math|''U''<sup>−1</sup> {{=}} ''U''{{sup|∗}}}} を満たす。 またユニタリ作用素の定義において、作用素の線型性は内積の線型性および正定値性から従うので、定義の意味を変えることなく作用素が線型であるという仮定は落とすことができる。実際、 :<math>\begin{align} \| \lambda U(x) -U(\lambda x) \|^2 &= \langle \lambda U(x) -U(\lambda x), \lambda U(x)-U(\lambda x) \rangle \\ &= \| \lambda U(x) \|^2 + \| U(\lambda x) \|^2 - \langle U(\lambda x), \lambda U(x) \rangle - \langle \lambda U(x), U(\lambda x) \rangle \\ &= |\lambda|^2 \| U(x)\|^2 + \| U(\lambda x) \|^2 - \overline{\lambda} \langle U(\lambda x), U(x) \rangle - \lambda \langle U(x), U(\lambda x) \rangle \\ &= |\lambda|^2 \| x \|^2 + \| \lambda x \|^2 - \overline{\lambda} \langle \lambda x, x \rangle - \lambda \langle x, \lambda x \rangle \\ &= 0 \end{align}</math> という計算が成り立つから、斉次性が従う。 : <math>\| U(x+y)-(Ux+Uy)\| = 0</math> も同様に示せるから、加法性も成り立つ。 == 例 == * [[恒等写像]]がユニタリ作用素であることは自明である。 * 非自明なユニタリ作用素の例として最も簡単なものは {{math|'''R'''<sup>2</sup>}} における[[回転変換|回転]]である。実際、回転はベクトルの長さも二ベクトル間の角度も変えない。{{math|'''R'''<sup>3</sup>}} の回転についても同様。 * [[複素数]]全体の成す[[ベクトル空間]] {{math|'''C'''}} 上で、[[絶対値]] 1 の複素数(つまり、適当な {{math|θ ∈ '''R'''}} に対して {{math|''e''<sup>''i''θ</sup>}} の形に書ける数)を掛ける操作はユニタリ作用素である。注意すべきは {{mvar|θ}} の値は {{math|2''π''}} の[[違いを除いて]]この乗法の結果には影響しないこと、またそれゆえに {{math|'''C'''}} の独立なユニタリ作用素の全体は単位円で径数付けることができるということである。ゆえにこの場合のユニタリ作用素全体の成す群({{math|U(1)}}と呼ばれる)は、集合としては単位円と見做すことができる。 * より一般に、[[ユニタリ行列]]はちょうど有限次元ヒルベルト空間上のユニタリ作用素となっているから、ユニタリ作用素の概念はユニタリ行列の概念の一般化である。また、[[直交行列]]は、成分が全て実数という特別の場合のユニタリ行列であるから、{{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上のユニタリ作用素である。 * [[整数]]全体で添字付けられた[[数列空間]] {{math|ℓ<sup>2</sup>}} 上の{{仮リンク|両側ずらし作用素|en|bilateral shift}}はユニタリである。一般に、ヒルベルト空間上で[[正規直交基底]]を並べ替えることによって作用する任意の作用素はユニタリになる。有限次元の場合、それらの作用素は[[置換行列]]である。一方、{{仮リンク|片側ずらし作用素|en|unilateral shift}}は等距、その共軛は余等距である。 * {{仮リンク|フーリエ作用素|en|Fourier operator}}、すなわち[[フーリエ変換]](に適当な正規化を施したもの)を作用させる操作は、ユニタリ作用素である。これは[[パーシヴァルの定理]]から従う。 == 性質 == * ユニタリ作用素 {{mvar|U}} の[[スペクトル (函数解析学)|スペクトル]]は単位円上に載っている。つまり、スペクトルに入る任意の複素数 {{mvar|λ}} に対して {{math|{{!}}''λ''{{!}} {{=}} 1}} が成り立つ。これは[[正規作用素]]に対する[[スペクトル定理]]からの帰結である。実際、定理によれば {{mvar|U}} は適当な有限測度空間 {{math|(''X'', ''μ'')}} に対する {{math|''L''<sup>2</sup>(''μ'')}} 上のボレル可測函数 {{mvar|f}} による乗算作用素とユニタリ同値であり、いま {{math|''UU''{{sup|∗}} {{=}} Id}} から {{math|{{!}}''f''(''x''){{!}}<sup>2</sup> {{=}} 1}} ({{mvar|μ}}-a.e) が従うから、{{mvar|f}} の本質的値域、従って {{mvar|U}} のスペクトルが単位円上にあることがわかる。 == 一般化 == ユニタリ作用素を一般化するものとして、'''ユニタリ元''' {{en|(''unitary element'')}} がある。[[単位的多元環|単位的]][[対合環|*-環]]において、その元 {{mvar|U}} がユニタリ元であるとは、{{math|''U''{{sup|∗}} ''U'' {{=}} ''UU''{{sup|∗}} {{=}} ''I''}} を満たすときに言う<ref> {{cite book | last = Doran | first = Robert S. |author2=Victor A. Belfi | title = Characterizations of C*-Algebras: The Gelfand-Naimark Theorems | publisher = Marcel Dekker | location = New York | year = 1986 | isbn = 0-8247-7569-4 }}</ref>{{Rp|55}}。ただし、{{mvar|I}} は[[単位元]]である。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} == 参考文献 == * {{cite book | authorlink=Serge Lang | last = Lang | first = Serge | title = Differential manifolds | publisher = Addison-Wesley Publishing Co., Inc. | location = Reading, Mass.–London–Don Mills, Ont. | year = 1972 }} * {{cite book | authorlink=Paul Halmos | last = Halmos | first = Paul | title = A Hilbert space problem book | publisher = Springer | year = 1982 }} == 関連項目 == * [[ユニタリ行列]] * [[ユニタリ変換]] * {{仮リンク|反ユニタリ|en|Antiunitary}} {{DEFAULTSORT:ゆにたりさようそ}} [[Category:作用素論]] [[Category:ユニタリ作用素|*]] [[Category:数学に関する記事]]
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