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[[Image:105mm_tank_gun_Rifling.jpg|thumb|300px|[[ロイヤル・オードナンス L7]] 105mm[[戦車砲]]のカットモデル。ライフリングが観察できる]] '''ライフリング''' (rifling) は、[[銃]][[大砲|砲]]の[[銃砲身]]内に施された[[螺旋]]状の溝を意味し、日本語では'''施条'''(しじょう)、あるいは'''腔綫'''('''腔線''')(こうせん、綫は線の[[異体字]]。常用漢字でないため、「線」と書くこともある)、もしくは'''腔旋'''と呼ぶ<ref name="KanoYosinori 2012 P18">『'''銃の科学'''』(かのよしのり著 サイエンス・アイ新書 2012年)'''18頁'''「1-05 ライフルとはなにか」</ref>。この螺旋状の浅い溝により、銃身内で加速される[[弾丸]]に旋回運動を与え、[[ジャイロ効果]]によって弾軸の安定を図り、直進性を高める目的で用いられる。<!--ここから派生して、ライフリングを持つ[[小銃]](ライフル銃)を意味することもある。--> ライフリングのない[[滑腔砲|滑腔銃砲身]]から[[椎の実弾]]を発射すると、旋転されない弾丸は空気抵抗を受けて横弾となったり、でんぐり返りながら飛ぶので命中精度はまったく期待できない(こうしたタイプの銃に、[[FP-45]]などの超至近距離用の簡易拳銃が存在する)。なお、同じく滑腔銃身の[[散弾銃]]用[[散弾銃#用途による種類|スラッグ弾]]は、さまざまな方法(設けた翼により、空気抵抗を受けて回転するなど)でジャイロ効果を発揮させている。 == 概要 == {{出典の明記|date=2017-08|section=1}}{{独自研究|date=2018年1月11日 (木) 08:45 (UTC)|section=1}} ライフリングの転度([[周期]])をライフリング・ツイストまたはライフリング・[[ピッチ]]{{要曖昧さ回避|date=2024年8月}}と呼び、[[銃砲身|銃身]]の能力を表す。「1/12」や「1-12」などと表記され、この場合は[[弾頭]]が銃身腔内を12[[インチ]]移動して1回転することを示す。基本的には、安定した弾道を確保するために、より重い弾頭の使用を想定したライフリングの方が転度が大きい(周期が短い)。ただし、同じ弾頭の場合には転度が大きい方が若干初速が劣る。 起線部から銃口までの腔線の傾角が一定であることを等斉転度(uniform twist ないし constant twist)、傾角が増加することを漸増転度(gain twist ないし progressive twist)と称する<ref>{{Cite web |url=https://www.mod.go.jp/atla/nds/Y/Y0002B.pdf |title=防衛省規格 火器用語(小火器) |access-date=2025-02-25 |publisher=[[防衛省]]}}</ref>。薬室で静止状態にある被甲弾丸を急激に加速させると、弾丸本体と被甲の間に大きなストレスがかかり、最悪の場合には両者が剥離して弾道が不安定になる。また銃身内腔の薬室直前部分も、発射の度に高い腔圧を受けるため消耗しやすい。漸増転度のライフリングは主にこうした問題を防ぐためのもので、弾丸をまず緩やかな転度でスタートさせ、銃口から発射するまでに転度を徐々に上げることができる。 銃身の内径は銃弾の外径よりも狭いため、発射された銃弾にはライフリングによって跡が刻み込まれる。これがライフルマークで、[[日本語]]では施条痕、線条痕と呼ぶ(なお、「旋」の字を使った表記は誤り)。複数の銃身に同じ工作機械でライフリングを刻む場合、これを[[切削]]で行うと削る工具の刃が少しずつ摩耗するので、ライフリングの形状は銃1挺ごとに微妙に異なってくる。そのため[[指紋]]と同様に銃弾から発射した銃器の種類だけでなく個々の銃まで特定することができ、[[犯罪]][[捜査]]に利用できる。 ただ、現代では銃身を[[芯金]]([[マンドレル]])に打ち付けてライフリングを刻む工法になっているため、工場出荷時点でライフリングの形状が同一の銃身が{{要出典範囲|date=2018-1|理論上、確率的に考えて少なくとも数十本は存在することになるが}}、この場合でも銃ごとに発砲のたびにライフリングが僅かずつ摩耗し、独自性を持つことから、個体判別は可能とされている。 riflingとは、古フランス語のriflerからきており、riflerとは「かすめる、削る」というような意味である。 == 歴史 == [[Image:Minie ball design harpers ferry burton.jpg|thumb|200px|ミニエー弾の構造]] [[Image:Minie Balls.jpg|thumb|200px|ミニエー弾各種]] ライフリングの発明は、[[1498年]]に[[ウィーン]]のガスパール・ゾラー(英:Gaspard Zoller)によって発明された。ライフリングの溝は、銃身内の汚れを減少させる目的で、最初は銃身に真っ直ぐ彫られた。しかし、弾丸が銃身内で真っ直ぐに向けられているため、銃の射撃精度が向上する傾向にあった。[[ライプツィヒ]]の市民は、この時期のターゲット練習にてこの真っ直ぐな'''ライフリング'''が施された銃を使用した<ref>Great Britain. War Office,『Text Book on the Theory of the Motion of Projectiles, the History, Manufacture, and Explosive Force of Gunpowder, the History of Small Arms, the Method of Conducting Experiments; and on Ranges: For the Use of Officers Sent to the Schools of Musketry』,112ページ</ref>。 その後、[[1520年]]に[[ニュルンベルク]]のアウグストゥス・コッター(Augustus Kotter)が螺旋状の溝を、導入したと言われている。しかし、施条を刻み込む工程のための製作費の高さや、[[弾丸]]が施条に食い込んで回転するという仕組み上、やや大きめの弾丸を押し込まねばならず、この弾込めの手間による発射速度の遅さなど多くの問題からすぐには普及することはなかった。 結局、[[小銃|ライフル]]は最初は娯楽に使用され、17世紀なかばまで戦争に使用されることはなかった。 状況が変化したのは、[[1836年]]に[[ロンドン]]のガンスミスであったウィリアム・グリーナーが考案したアイディアを、[[1849年]]に[[フランス陸軍]][[大尉]]のクロード・エティエンヌ・ミニエーが採用したある形状の弾丸であった。この弾丸は当時一般的であった[[球体|球]]形ではなく、先端の尖った円錐形の[[椎の実弾|プリチェット弾]]であり、球形の弾丸と同じように[[銃口]]から込められ、内径より小さめで押し込めやすく作られていた。底部には穴があり、ここに木栓([[コルク]])が詰められている。発射時には[[火薬]]の[[爆発]]で生じた圧力により木栓が前進、木栓により押し広げられた弾丸の裾が広がり、それによって弾丸が施条に押し付けられ回転するのである。これをミニエー弾と呼ぶ。後には底部に鉄のキャップを押しつけて裾を広げ、木栓が必要ないエンフィールド弾に発展する。 [[フランス]]では[[ミニエー銃]]は直ちに試験され、いくつかの実戦を経た後、[[1857年]]にはフランス陸軍の制式装備となった。 他国もこれに追従し、[[イギリス陸軍]]は[[1851年]]にミニエー弾丸の特許を購入、プロイセン陸軍は[[1840年代]]から独自規格のライフル銃を製作していたが、[[1854年]]-[[1856年]]にかけてミニエー銃を導入、[[アメリカ陸軍]]は[[1855年]]にライフル銃に切り替えた<ref>マクニール (2002) p.313-315</ref>。 == ねじれ率 == エマニュエル・カレッジ、ケンブリッジの[[数学者]][[アルフレッド・ジョージ・グリーンヒル|ジョージ・グリーンヒル]]が開発したライフリングのねじれ率を計算するための公式は以下の通り。 <math>Twist = \frac{C D^2}{L} \times \sqrt{\frac{SG}{10.9}}</math> *C=150(砲口速度が2,800フィート/秒(=853.44メートル/秒)より高速であれば180を用いる) *D=[[弾丸]]の直径(インチ) *L=弾丸の長さ(インチ) *SG=弾丸の比重([[鉛]]芯の弾丸であれば10.9を代入し、方程式の後半を約分する) == 方式 == [[Image:Polygonal vs normal rifling.svg|thumb|right|普通のライフリング(左)とポリゴナルライフリング(右)]] 角張った溝を切る通常のライフリングのほか、次のような方式もある。 ;ポリゴナルライフリング {{main|ポリゴナルライフリング}} :[[銃砲身|銃身]]内部の形状をねじれた多角柱にする方式。一般的な溝形状のライフリングに対して、[[弾頭]]と銃身(ライフリング)が線ではなく面で接触する。冷間鍛造による大量生産に向く、装薬の燃焼ガスが逃げにくいため初速が上がる、摩耗しにくく銃身の命数が上がる、応力が集中する鋭角部が無いため異常な腔圧を受けても破損しにくい、清掃が簡単などのメリットがある。反面、[[弾頭]]と銃身との接触面が増え、接圧が下がるため、弾頭に旋回運動を与える力に限度がある。そのため[[口径|大口径]]の[[火砲]]には用いられていない。 ;メトフォード・ライフリング :ポリゴナルライフリングの一種。[[リー・メトフォード]][[小銃]]で採用されたことからこの名で呼ばれる。溝を切る代わりに波状の曲線を用いる方式。通常のライフリングに比して弾道精度に優れるが、磨耗が激しいという欠点から開発国であるイギリスを含め普及しなかった。[[大日本帝国陸軍]]は[[村田銃|二十二年式村田連発銃]]以後の主力小銃に採用した。 == 施条砲と滑腔砲 == {{multiple image| align = right | direction = horizontal | header = | header_align = left/right/center | footer = '''左''':砲腔内の施条溝を追従するよう、周囲にリベットを設けたライット・システムの砲弾図解<br> '''右''':[[戊辰戦争]]で使用された[[四斤山砲]]の砲弾。ライット・システムである| footer_align = left | image1 =Shell La Hitte.jpg| width1 = 190 | caption1 = | image2 =Shell Japan.jpg| width2 = 200 | caption2 = }} 施条砲に対してライフリングの施されていない[[銃]][[大砲|砲]]を[[滑腔砲|滑腔銃(砲)]]と呼び、[[火縄銃]]・[[散弾銃]]・[[迫撃砲]](ただし、全てが滑腔砲ではない)などがその例である。つまり、現代では[[拳銃]]やほとんどの[[重火器]]はすべてライフリングの施された「ライフル」ガンであり、その中で[[小銃]]のみを「ライフル」と呼ぶのは本来奇妙なことと言える。これは、ライフリングが普及した[[19世紀]]後半に、施条銃をライフルと呼んでそれ以前の、滑腔銃である[[マスケット銃]]から区別したことに由来する。 [[前装式]]の[[大砲]]は、ミニエー弾の様なプリチェット式の[[砲弾]]をそのまま使う訳にも行かず、ライフリング開発後も長らく[[球体|球]]形弾を飛ばす滑腔砲であったが、長弾の[[弾頭]]に[[リベット]]を付け、施条と噛み合わせて旋転する[[ライット・システム]]が[[19世紀]]に開発された。リベットの頭とポリゴナルライフリングの溝のあいだに大きな隙間があったため、現代の施条砲に比較すればガスが漏れやすく、発射の際のエネルギーロスは大きかったが、施条によって射距離を伸張し、長距離をより正確に砲撃することが可能になった。だが、砲口からの砲弾装填の面倒さもあって滑腔砲を駆逐するには至らず、完全に施条砲が普及するのは、[[アームストロング砲]]を初めとした後装砲が実用化された19世紀末頃になる。 [[20世紀]]になると砲の大半は施条砲となったが、[[冷戦]]期にこの流れが変わった。それまでは[[戦車]]の[[主砲]]([[戦車砲]])にも施条砲が用いられていたが、ライフリング回転の不要な(むしろライフリングが威力を落とすことになる)[[成形炸薬弾|HEAT弾]]や[[APFSDS]]弾が主流となった[[1970年代]]以降に開発された戦車においては主砲に滑腔砲が採用されるようになった。例外的に、2016年現在において[[イギリス軍]]最新の[[主力戦車]]・[[チャレンジャー2]]は120mm [[ライフル砲]]を装備している。同砲専用砲弾の生産停止や他国との互換性の問題から滑腔砲への換装が検討されていたが予算不足により中止された。 APFSDSを施条砲で発射するため、回転を軽減するスリッピング・バンドが利用される。 == 火薬 == [[弾丸]]が[[銃砲身|銃身]]の中を進む速度よりも[[火薬]]のガスが膨張する速度のほうが速く、弾丸がライフリングに食い込むようになると火薬の力が無駄なく伝わる反面、銃身内部の圧力が高くなりすぎるようになった。従来の[[黒色火薬]]では燃焼速度が高すぎることが問題になったので、燃焼速度の遅い[[褐色火薬]]が発明された。 後に[[コルダイト]]などの[[無煙火薬]]が使用されるようになっても火薬の燃焼速度は重要な問題であり、燃焼速度を調節するために火薬は[[粒子]]状や[[棒]]状などに加工されている<ref>国際出版『別冊Gun 素晴らしいGUNの世界』(1981年)P77。</ref>。 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == *{{Cite book|和書 |authorlink= |title=ピストルと銃の図鑑 |publisher=[[池田書店]] |year=1972 |author=[[小橋良夫]]、[[関野邦夫]] |url=https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/12660632}} *{{Cite book|和書 |title=腔綫銃の歴史 |year=1965 |publisher=[[大月書店]] |pages=183-213 |series=マルクス・エンゲルス全集 第15巻 |author=[[フリードリッヒ・エンゲルス]] |url=https://dl.ndl.go.jp/pid/3016055}} *{{Cite book|和書 |last=マクニール |first=ウィリアム |authorlink=ウィリアム・ハーディー・マクニール |translator=高橋均 |title=戦争の世界史 |accessdate=2010-04-25 |edition=初版 |publisher=刀水書房 |language=日本語 |isbn=978-4887082717 }} **{{Cite book|和書 |last=マクニール |first=ウィリアム |translator=高橋均 |title=戦争の世界史 : 技術と軍隊と社会 上 |publisher=中央公論新社 |language=日本語 |isbn=978-4-12-205897-2 |year=2014|series=中公文庫 マ10-5}} **{{Cite book|和書 |last=マクニール |first=ウィリアム |translator=高橋均 |title=戦争の世界史 : 技術と軍隊と社会 下 |publisher=中央公論新社 |isbn=978-4-12-205898-9 |year=2014|series=中公文庫 マ10-6}} == 関連項目 == * [[銃砲身]] * [[銃口]] * [[マスケット銃]] * [[小銃]] * [[狙撃銃]] * [[大砲]] <!--* [[マグヌス効果]] 回転軸が流れと平行のときに関係あるのかどうか--> {{weapon-stub}} {{DEFAULTSORT:らいふりんく}} [[Category:銃の構造・部品]] [[Category:大砲]]
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