リアプノフ指数のソースを表示

[[File:Orbital instability (Lyapunov exponent).png|thumb|300px|離れていく2つの軌道とリアプノフ指数の関係]]
'''リアプノフ指数'''（リアプノフしすう、{{lang-en-short|Lyapunov exponent}}）とは、[[力学系]]においてごく接近した[[力学系#解軌道|軌道]]が離れていく度合いを表す量である。'''リャプノフ指数'''とも表記される{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=1}}。ロシア人科学者 {{ru|Алекса́ндр Ляпуно́в}}（[[アレクサンドル・リャプノフ|アレクサンドル・リプノーフ]]、{{en|Aleksandr Lyapunov}}）にその名をちなむ<ref>{{Cite book ja-jp |title=カオス的世界像 ―非定形の理論から複雑系の科学へ |author=イアン・スチュアート |translator=須田不二夫・三村和男 |publisher=白揚社 |year=1998 |edition=第一版 |isbn= 4-8269-0085-6}}. p. 377</ref>。

系の[[相空間]]上の2つの軌道について考える。2つの軌道上の時刻 ''t'' における点の距離を[[ベクトル]] '''''δ'''''(''t'') として、初期状態 ''t'' = 0 には、これらの軌道は距離 '''''δ'''''(0) だけ離れているとする。'''''δ'''''(''t'') を近似的に次のように表す{{Sfn|Strogatz|2015|pp=349–350}}{{Sfn|合原|2011|p=158}}{{Sfn|下條|1992|p=86}}。

:<math> \| \boldsymbol{\delta}(t) \| \approx \|  \boldsymbol{\delta}(0) \| e^{\lambda t}</math>

ここで<math>\| \cdot \|</math> は[[ユークリッドノルム]]を意味する。上式で ''λ'' > 0 の場合は軌道は離れていき、 ''λ'' < 0 の場合は軌道は近づいていく。よって、軌道が離れていく度合いは ''λ'' の値により決定される。この  ''λ'' がリアプノフ指数である{{Sfn|合原|2011|p=158}}{{Sfn|下條|1992|p=86}}。軌道が[[カオス理論|カオス的]]であるとき、上式のように軌道は指数関数的に離れていく{{Sfn|高安|2001|p=82}}{{Sfn|Strogatz|2015|p=400}}。すなわち、リアプノフ指数が正であることが軌道がカオス的であることの1つの定義とされる{{Sfn|アリグッドほか|2012b|pp=3–4}}。

より詳細には、系の状態変数が ''k'' 個（''k'' > 1）の場合、すなわち相空間が ''k'' 次元である場合は各次元ごとに固有のリアプノフ指数を持つ{{Sfn|下條|1992|p=91}}。これらのリアプノフ指数の組をリアプノフスペクトラムと呼び{{Sfn|高安|2001|p=83}}、そのうちの最大のリアプノフ指数を最大リアプノフ指数と呼ぶ{{Sfn|船越|2008|p=146}}。各々のリアプノフ指数を見れば正であったり負であったりするが、最大リアプノフ指数が正であれば、その系はカオスの特徴の1つである初期値鋭敏性を持つといえる{{Sfn|金子、津田|1997|p=47}}{{Sfn|船越|2008|p=146}}。

==1次元離散時間力学系のリアプノフ指数==
まず、単純な1次元離散力学系の場合のリアプノフ指数について説明する。<math>x \in \R</math>を系の状態変数、<math>n \in \N</math>を離散時間としたとき（ここでは<math>\N</math>は0を含む）、 写像 ''x''<sub>''n''+1</sub> = ''f''(''x<sub>n</sub>'') のリアプノフ指数 ''λ'' は次のように定義される{{Sfn|Strogatz|2015|p=401}}{{Sfn|高安|2001|p=82}}{{Sfn|合原|2011|p=161}}{{Sfn|下條|1992|p=87}}。
:<math> \lambda = \lim_{n \to \infty}  \frac{1}{n} \sum_{i=0}^{n-1}  \ln | f'(x_i)| </math>
ここで、ln は[[自然対数]]を意味する。上式は次のように導入される。

初期位置を ''x''<sub>0</sub> とする。さらに、''x''<sub>0</sub> からの微小量 ''λ''<sub>0</sub> ずれた点 ''x''<sub>0</sub> + ''λ''<sub>0</sub> を考える。リアプノフ指数では ''x''<sub>0</sub> から出発する軌道と ''x''<sub>0</sub> + ''λ''<sub>0</sub> から出発する軌道がどれだけ離れていくかを定義したい。ずれは時間発展とともに変化していくと考えられるので、時刻 ''n'' におけるずれを ''λ<sub>n</sub>'' で表す。''n'' = 1 でのずれは<math>\delta_1=f(x_0+\delta_0) - f(x_0)</math>となり、''n'' = ''n'' でのずれも同様に、<math>\delta_n=f^n(x_0+\delta_0) - f^n(x_0)</math>と得られる。ここで、''f<sup>n</sup>''(''x'')は ''f''(''x'')の ''n'' 回[[反復写像]]を表す。

本記事の冒頭で定義したように、''λ<sub>n</sub>'' が ''n'' に指数関数的に比例するとして、

:<math> | \delta_n | = | \delta_0 | e^{\lambda n}</math>

と表す{{Sfn|Strogatz|2015|p=400}}。両辺の自然対数をとると、

:<math> \lambda =\frac{1}{n} \ln \left | \frac{\delta_n}{\delta_0} \right \vert</math>

が得られる。ただし、初期のずれ量 ''λ''<sub>0</sub> は微小量としたが、実際にはリアプノフ指数は初期のずれ量を無限小とした ''λ''<sub>0</sub> → 0 の極限値で定義される{{Sfn|船越|2008|p=157}}。よって、上式は

:<math> \lambda =\frac{1}{n} \ln \left | \lim_{\delta_0 \to 0} \frac{\delta_n}{\delta_0} \right \vert</math>

となる。上式の絶対値の中身に注目すると、

:<math>\lim_{\delta_0 \to 0} \frac{\delta_n}{\delta_0}=\lim_{\delta_0 \to 0} \frac{f^n(x_0+\delta_0) - f^n(x_0)}{\delta_0}=(f^n)'(x_0)=\prod_{i=0}^{n-1} f'(x_i)</math>

とできる。ここで (''f<sup> n</sup>'')'(''x'') は、''f<sup>n</sup>''(''x'') の[[微分]]を意味する。<math>\prod</math>は[[総乗]]を意味し、最右辺は合成関数の微分の[[連鎖律]]により得ることができる{{Sfn|下條|1992|p=87}}。よって、

:<math> \lambda =\frac{1}{n} \ln \left | \prod_{i=0}^{n-1} f'(x_i) \right \vert =\frac{1}{n} 
\sum_{i=0}^{n-1} \ln \left | f'(x_i) \right \vert </math>

となる。さらに上式において ''n'' → ∞ とした極限値が存在するとき、その極限値を初期値 ''x''<sub>0</sub> から出発する軌道のリアプノフ指数と呼ぶ{{Sfn|アリグッドほか|2012a|pp=117–118}}{{Sfn|Strogatz|2015|p=401}}。

:<math> \lambda = \lim_{n \to \infty}  \frac{1}{n} \sum_{i=0}^{n-1}  \ln | f'(x_i)| </math>

1968年に発表されたValery Oseledecの多重エルゴード定理により、''n'' → ∞ の極限値が存在すること、ほとんどすべての初期値 ''x''<sub>0</sub> で ''λ'' は同じ値に収束することが証明されている{{Sfn|合原|2011|p=165}}。対象とする力学系の[[アトラクター]]の吸引域内の初期値であれば、全ての初期値で同じ ''λ'' の値に収束する{{Sfn|船越|2008|p=171}}{{Sfn|Strogatz|2015|p=401}}。

==高次元力学系のリアプノフ指数==
力学系が ''k'' 次元の[[相空間]]を持つ高次元力学系の場合、各方向に別々のリアプノフ指数が存在する。すなわち高次元力学系であれば、軌道のずれは、ある方向には離れていくが、別の方向では縮まっていく状況がありえる{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=1}}。よって ''k'' 個のリアプノフ指数を得ることができる。このような ''k'' 個のリアプノフ指数の組を、'''リアプノフスペクトラム'''（{{lang-en-short|Lyapunov spectrum}}）と呼ぶ{{Sfn|船越|2008|p=181}}{{Sfn|合原|2011|p=163}}{{efn|リアプノフ<ins>スペクトル</ins>と表記する場合もある{{Sfn|金子、津田|1997|p=115}}。}}。

: <math> \lambda_i = \{ \lambda_1, \lambda_2, \cdots , \lambda_k \}</math>

リアプノフスペクトラムでは一般に ''λ''<sub>1</sub> から値が大きい順に並べる{{Sfn|金子、津田|1997|p=115}}{{Sfn|高安|2001|p=83}}。最大値である ''λ''<sub>1</sub> を、特に'''最大リアプノフ指数'''（{{lang-en-short|maximal Lyapunov exponent, maximum Lyapunov exponent}}）と呼ぶ{{Sfn|船越|2008|p=168}}。記事冒頭で述べたように、[[相空間]]上の2つの軌道上の時刻 ''t'' における点の間の距離、すなわちずれを '''''δ'''''(''t'') とする。リアプノフスペクトラム ''λ<sub>i</sub>'' は以下のように定義される{{Sfn|合原|2011|p=165}}{{Sfn|高安|2001|p=84}}{{Sfn|ベルジュほか|1992|p=265}}。

:<math>\lambda_i=\lim_{t \to \infty}\frac{1}{t}\ln \alpha_i \quad (i=1,2,\cdots,k)</math>

一般に ''λ<sub>i</sub>'' は初期値 '''''x'''''(0) に依存する{{Sfn|合原|2011|p=165}}。しかし1次元離散力学系の場合と同様に、[[ほとんど (数学)|ほとんどすべて]]の初期位置 '''''x'''''<sub>0</sub> から同一の ''λ<sub>i</sub>'' を得ることができる{{Sfn|合原|2011|p=165}}{{Sfn|高安|2001|p=84}}。''λ<sub>i</sub>'' の定義式にある ''α<sub>i</sub>'' は、次式で定義される ''k'' × ''k'' [[正定値行列]] '''''Λ''''' の[[固有値]]である{{Sfn|合原|2011|p=165}}{{Sfn|高安|2001|p=84}}。

:<math>\boldsymbol{\Lambda}=(\boldsymbol{M}^T\boldsymbol{M})^{\frac{1}{2t}}</math>

さらに '''''M''''' は、'''''δ'''''(''t'') の解を次の形式で表したときの '''''δ'''''(0) に対する乗数として得られる{{Sfn|合原|2011|pp=164–165}}{{Sfn|高安|2001|p=84}}{{Sfn|ベルジュほか|1992|p=265}}。

:<math>\boldsymbol{\delta}(t)=\boldsymbol{M}\boldsymbol{\delta}(0)</math>

系が連続力学系の場合、 ''k'' 個の状態変数 {''x''<sub>1</sub>, ''x''<sub>2</sub>, ..., ''x<sub>k</sub>''}、常微分方程式 {''f''<sub>1</sub>, ''f''<sub>2</sub>, ..., ''f<sub>k</sub>''} から成る常微分方程式系<math>\frac{d\boldsymbol{x}}{dt}=\boldsymbol{f}(t, \boldsymbol{x})</math>が与えられる{{Sfn|小室|2005|p=17}}。'''''f''''' が線形近似可能な場合、'''''f''''' の[[ヤコビ行列]]を用いて、

:<math>\frac{d\boldsymbol{\delta}(t)}{dt}=\boldsymbol{J} \boldsymbol{\delta}(t)</math>

と表すことができる{{Sfn|合原|2011|p=167}}{{Sfn|高安|2001|p=83}}。また、系が離散力学系の場合、 ''k'' 個の状態変数、常差分方程式から成る差分方程式系 '''''x'''''(''t'' + 1) = '''''f'''''('''''x'''''(''t''))が与えられる{{Sfn|小室|2005|p=22}}。同じく、差分方程式系 '''''f''''' が[[線形近似]]可能な場合、'''''f''''' の[[ヤコビ行列]]を用いて、

:<math>\boldsymbol{\delta}(t+1)=\boldsymbol{J}\boldsymbol{\delta}(t)</math>

と表すことができる{{Sfn|合原|2011|p=164}}{{Sfn|下條|1992|p=91}}。ここに、'''''J''''' は以下に示すような[[ヤコビ行列]]による[[線形写像]]で、軌道 '''''x'''''(''t'') に依存し、すなわち初期値 '''''x'''''(0)、時間 ''t'' に依存して変化する{{Sfn|合原|2011|p=163}}{{Sfn|高安|2001|pp=83–84}}。

:<math>\boldsymbol{J}= \begin{pmatrix}
 \cfrac{\partial f_1}{\partial x_1} & \cdots & \cfrac{\partial f_1}{\partial x_k} \\
 \vdots & \ddots & \vdots \\
 \cfrac{\partial f_k}{\partial x_1} & \cdots & \cfrac{\partial f_k}{\partial x_k} 
\end{pmatrix}</math>

常微分方程式系の場合は、<math>\frac{d\boldsymbol{\delta}}{dt}=\boldsymbol{J}(t) \boldsymbol{\delta}</math>を解いて<math>\boldsymbol{\delta}(t)=\boldsymbol{M}\boldsymbol{\delta}(0)</math>を得ることで、上記の定義で出てきた[[正方行列]] '''''M''''' を得ることができる{{Sfn|高安|2001|p=84}}{{Sfn|ベルジュほか|1992|pp=261–262}}。差分方程式系の場合は、'''''J''''' を ''t'' 回繰り返し適用することで次のような '''''δ'''''(''t'') と '''''δ'''''(0) の関係式で書き表すことできるので、'''''M''''' は '''''J'''<sub>n</sub>'' の 0 から ''t'' &minus; 1 までの[[総乗]]として得ることができる{{Sfn|合原|2011|p=164}}{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=8}}。
:<math>\boldsymbol{\delta}(t) =\boldsymbol{J}(t-1)\boldsymbol{J}(t-2)\cdots\boldsymbol{J}(0)\boldsymbol{\delta}(0) =\boldsymbol{M}\boldsymbol{\delta}(0) </math>

==単位==
[[対数]]の底に 2 を使用して計算した場合には、[[ビット]]/時間を単位として使用することがある。
これは、λ > 0 の場合、単位時間あたりλビットの情報が失われ、λ < 0 の場合λビットの情報が生成することに相当する<ref>[https://books.google.co.jp/books?id=nxQxtKn_LugC&printsec=frontcover&source=gbs_ge_summary_r&redir_esc=y&hl=ja Chaotic oscillators: theory and applications], Tomasz Kapitaniak,pp287
</ref>。

==基本特性==
[[保存系]]の場合、相空間の全エネルギーは保存される。従って全リアプノフ指数の総和はゼロになる。[[散逸系]]ではリアプノフ指数の総和は負になる。

力学系が何らかの流れである場合、1つのリアプノフ指数は常にゼロとなる。つまり、流れの方向の[[固有ベクトル]]に対応する[[固有値]]から得られるリアプノフ指数がゼロになる。

Pesin's theorem によれば、正のリアプノフ指数の総和はコルモゴロフ・シナイ・エントロピー（Kolmogorov-Sinai entropy）の近似値を与える。

最大リアプノフ指数の逆数を「リアプノフ時間; Lyapunov time」と呼ぶことがあり、''e''-folding time の特性を定義する。カオス的軌道ではリアプノフ時間は有限であり、正規の軌道では無限大となる。

==リアプノフ次元==
軌道がカオス的振る舞いをみせる[[ストレンジアトラクター]]は、[[フラクタル]]構造を持つことが多い{{Sfn|高安|2001|p=93}}。このようなアトラクターの[[フラクタル次元]]とリアプノフスペクトラムの間には関係が存在する{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=11}}。アトラクターのリアプノフスペクトラムが得られたとして、その各リアプノフ指数 ''λ<sub>i</sub>'' がそれらの値の大きさで降順に並べられているとしたとき、次のようなフラクタル次元の一種 ''D<sub>L</sub>'' が定義される{{Sfn|合原|2011|p=169}}。
:<math> D_{L}= j + \frac{\xi_j}{|\lambda_{j+1}|} \quad (j<k)</math>
ここで、 ''ξ<sub>j</sub>'' は、
:<math>\xi_j=\sum_{i=1}^j \lambda_i</math>
であり、''j'' は '' ξ<sub>j</sub>'' が負にならない最大値、すなわち、リアプノフ指数を ''λ''<sub>1</sub> + ''λ''<sub>2</sub> + ''λ''<sub>3</sub> ...と順に足していったときに、その総和が負となる直前における、足し合わせたリアプノフ指数の個数である。''ξ<sub>j</sub>'' ≥ 0 を満たす ''j'' が存在しないときは、''D<sub>L</sub>'' = 0、系の次元数 ''k'' と ''j'' が一致する場合は、''D<sub>L</sub>'' = ''k'' とする{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=12}}。

このように定義されたフラクタル次元 ''D<sub>L</sub>'' は、'''リアプノフ次元''' （{{lang-en-short|Lyapunov dimension}}）と呼ばれる。リアプノフ次元は、James L. KaplanとJames A. Yorkeにより1979年に提案された<ref name="Chlouverakis2005"/>。そのため'''カプラン・ヨーク次元'''（{{lang-en-short|Kaplan–Yorke dimension}}）とも呼ばれ、記号 ''D<sub>KY</sub>'' とも記される<ref name="Chlouverakis2005">{{Cite journal |first1=Konstantinos E. |last1=Chlouverakis |first2=J.C. |last2=Sprott |title=A comparison of correlation and Lyapunov dimensions |journal=Physica D: Nonlinear Phenomena |volume=200 |issue=1–2 |year=2005 |month=January  |publisher=Elsevier |pages=156–164 |doi = 10.1016/j.physd.2004.10.006}}</ref>。

上式で定義されるリアプノフ次元は、フラクタル次元の1つである容量次元の考え方をもとにして、次のように導入される。リアプノフ指数の総和は相空間内の ''k'' 次元の体積要素の体積変化率を与えるので、同様に部分和である  ''ξ<sub>j</sub>'' から、''j'' 次元までの体積要素は拡大するが、''j'' + 1 次元以上の体積要素は縮小することになる<ref name="合原1990_97">{{cite book|和書 |title=カオス―カオス理論の基礎と応用 |editor=合原一幸 |author=合原一幸ほか |publisher=サイエンス社 |year=1990 |edition=初版 |isbn= 4-7819-0592-7 |page= 97}}</ref>。そのため、アトラクタを収めるためには少なくとも ''j'' 次元は必要で、考えられるフラクタル次元の下限を与えている<ref name="Chlouverakis2005"/>。一方で、''j'' + 1 次元は考えられるフラクタル次元の上限といえる<ref name="Chlouverakis2005"/>。''k'' 次元相空間上の一辺が ''d'' の立方体は、時間発展により各辺 exp(''λ''<sub>1</sub>''t''), exp(''λ''<sub>2</sub>''t''), exp(''λ''<sub>3</sub>''t''),... の直方体に写像される{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=15}}。ここで、１辺の長さ ''ε'' が、

:<math>\epsilon=d \exp(\lambda_{j+1}t)</math>

である ''j'' + 1 次元立方体の箱を考え、容量次元と同じように、ストレンジアトラクタの不変集合をこの箱を何個も当てながら全体を覆うことを考える{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=16}}。このとき、覆うのに必要な箱の数 ''N'' は、

:<math>N=\exp \left [(\lambda_1 - \lambda_{j+1})t\right ] \times \exp \left [ (\lambda_2 - \lambda_{j+1})t \right ] \times \cdots \times \exp \left [(\lambda_j - \lambda_{j+1})t\right ]</math>

と推論できる{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=16}}。よって、容量次元と同様の定義から、

:<math>\lim_{\epsilon \to 0}\frac{\ln N}{\ln (1/\epsilon)}
\approx \lim_{d \to 0} \frac{(- j \lambda_{j+1} + \lambda_1+\lambda_2+\lambda_3+\cdots+\lambda_j)t}{-\lambda_{j+1}t - \ln d} = j + \frac{\lambda_1+\lambda_2+\lambda_3+\cdots+\lambda_j}{-\lambda_{j+1}}</math>

となり、''j'' の定義より −''λ''<sub>''j'' + 1</sub> = |''λ''<sub>''j'' + 1</sub>| なので、リアプノフ次元の定義

:<math>D_L = j + \frac{\lambda_1+\lambda_2+\lambda_3+\cdots+\lambda_j}{|\lambda_{j+1}|}</math>

を得ることができる{{Sfn|アリグッドほか|2012b|p=16}}。

他のフラクタル次元と比較したリアプノフ次元の利点は、リアプノフスペクトラムさえ得ることができれば簡単に計算可能なことである{{Sfn|アリグッドほか|2012b|pp=11–12}}。また、リアプノフ次元は系の[[フラクタル次元|情報量次元]]の上限を表している<ref name=ky>J. Kaplan and J. Yorke Chaotic behavior of multidimensional difference equations  In Peitgen, H. O. & Walther, H. O., editors, ''Functional Differential Equations and Approximation of Fixed Points'' Springer, New York (1987)</ref>。

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{notelist}}
===出典===
{{Reflist|2}}

==参考文献==
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 |year         = 1997
 |title        = Computing Lyapunov spectra with continuous Gram-Schmidt orthonormalization
 |journal      = Nonlinearity
 |volume       = 10
 |pages        = 1063&ndash;1072
 |url          = http://www.mpipks-dresden.mpg.de/eprint/freddy/9702017/9702017.ps
 |archiveurl   = https://web.archive.org/web/20060425194442/http://www.mpipks-dresden.mpg.de/eprint/freddy/9702017/9702017.ps
 |archivedate  = 2006年4月25日
 |deadlinkdate = 2017年9月
}}
* {{cite journal
 | author = Govindan Rangarajan, Salman Habib, and Robert D. Ryne
 | year = 1998
 | title = Lyapunov Exponents without Rescaling and Reorthogonalization
 | journal = Physical Review Letters
 | volume = 80
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* {{cite journal
 | author = X. Zeng, R. Eykholt, and R. A. Pielke
 | year = 1991
 | title = Estimating the Lyapunov-exponent spectrum from short time series of low precision
 | journal = Physical Review Letters
 | volume = 66
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 | url = http://link.aps.org/abstract/PRL/v66/p3229
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*{{cite book ja-jp 
|author=K.T.アリグッド・T.D.サウアー・J.A.ヨーク
|translator =星野高志・阿部巨仁・黒田拓・松本和宏
|others=津田一郎（監訳）
|editor=シュプリンガー・ジャパン
|title=カオス　第1巻　力学系入門
|publisher=丸善出版
|year=2012
|isbn=978-4-621-06223-4
|ref={{Sfnref|アリグッドほか|2012a}}
}}
*{{cite book ja-jp 
|author=K.T.アリグッド・T.D.サウアー・J.A.ヨーク
|translator =星野高志・阿部巨仁・黒田拓・松本和宏
|others=津田一郎（監訳）
|editor=シュプリンガー・ジャパン
|title=カオス　第2巻　力学系入門
|publisher=丸善出版
|year=2012
|isbn=978-4-621-06279-1
|ref={{Sfnref|アリグッドほか|2012b}}
}}
*{{cite book ja-jp 
|title=カオス時系列解析の基礎と応用
|editor=合原一幸
|author=池口徹・山田泰司・小室元政
|publisher=産業図書
|year=2011
|edition=初版第4刷 
|isbn= 978-4-7828-1010-1
|ref= {{Sfnref|合原|2011}}
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*{{cite book ja-jp 
|author=Steven H. Strogatz
|translator=田中久陽・中尾裕也・千葉逸人
|title=ストロガッツ　非線形ダイナミクスとカオス―数学的基礎から物理・生物・化学・工学への応用まで
|publisher=丸善出版
|year=2015
|isbn=978-4-621-08580-6
|ref={{Sfnref|Strogatz|2015}}
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*{{cite book ja-jp 
|author=下條隆嗣 
|title=カオス力学入門―古典力学からカオス力学へ
|series=シミュレーション物理学6
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|isbn=4-7649-2005-0
|ref={{Sfnref|下條|1992}}
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*{{cite book ja-jp 
|author=高安秀樹・本田勝也・佐野雅己・田崎睛明・村山和郎・伊藤敬祐
|title=フラクタル科学
|publisher=朝倉書店
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|isbn=4-254-10063-9
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|author=船越満明
|title=カオス
|series=シリーズ 非線形科学入門3
|publisher=朝倉書店
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|author=金子邦彦・津田一郎
|title=複雑系のカオス的シナリオ
|series=複雑系双書1
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*{{cite book ja-jp 
|author=ピエール・ベルジュ、イヴェ・ポモウ、クリスチャン・ビダル
|translator=相澤洋二
|title=カオスの中の秩序―乱流の理解に向けて
|edition=初版
|publisher=産業図書
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|year=2005 
|edition=新版
|isbn= 4-7819-1118-8 
|ref= {{Sfnref|小室|2005}}
}}

==関連項目==
*[[エルゴード理論]]
*[[リウヴィルの定理 (物理学)]]
*[[フロケ理論]]

==外部リンク==
*{{Wayback|url=http://www.scholarpedia.org/article/Lyapunov_exponent |title=Lyapunov exponent |date=20070107113152}} - [[スカラーペディア]]百科事典「リアプノフ指数」の項目。
*{{MathWorld|title=Lyapunov Characteristic Exponent|urlname=LyapunovCharacteristicExponent}}

{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:りあふのふしすう}}
[[Category:力学系]]
[[Category:カオス理論]]
[[Category:アレクサンドル・リャプノフ]]
[[Category:数学のエポニム]]
[[Category:数学に関する記事]]