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リアプノフ関数
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'''リアプノフ関数''' ('''{{lang-en-short|Lyapunov function}}''')は、ロシアの数学者である[[アレクサンドル・リアプノフ]]にちなんで命名された関数であり、数学において、[[力学系]]や[[自励系]]を成す[[常微分方程式]]系 (以下、単に自励系と呼ぶ) における[[不動点]]の安定性を証明するために用いられる。[[:en:Stability theory|安定性理論]]や[[制御理論]]において非常に重要な数学的ツールとなっている。なお、リアプノフ関数は前もって一般的な定義が定められているわけではなく、対象となる常微分方程式系と平衡点が与えられた場合に、後述するようなある性質を満たす関数をその系および平衡点のリアプノフ関数と呼ぶのである。これと同様の概念が[[マルコフ連鎖]]における一般状態空間でも現れ、この場合は通常'''リアプノフ-フォスター関数'''と呼ばれる。 == リアプノフ関数の意味 == ある平衡点の安定性を証明できる可能性のある関数を'''リアプノフ候補関数'''と呼ぶ。リアプノフ候補関数を構成する、あるいは見出す一般的な方法は存在しない。また、リアプノフ(候補)関数を見つけることができないという事実が安定性の欠如を確定するものでもない。つまり、リアプノフ関数を見つけることができないということは、そのシステムが不安定ということを意味しない。力学系においては、[[保存則]]がリアプノフ候補関数を構成する上で多用される。 リアプノフ(候補)関数に直接関係している、自励系に関するリアプノフの基礎定理は、自励系の平衡点の安定性を証明する上で有用なツールである。 ただし、自励系に関するリアプノフの基礎定理は平衡点の安定性を証明するための十分条件を与えるツールであるが、必要条件を与えるものではないことに十分注意する必要がある。ある平衡点に対してリアプノフ関数を見出すことは運によると言える。ある平衡点に対するリアプノフ候補関数のテストは、試行錯誤によることになる。同程度に安定な領域は、たいてい2次元平面上で曲線をたどるので、コンピューターによって描かれる[[リアプノフ指数]]のイメージは視覚的に魅力的で非常にポピュラーである。 == 自励系の平衡点の定義 == :<math>g : \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n</math> :<math>\dot{y} = g(y) \,</math> を任意の[[自励系]]とする。 :<math>0 = g(y^*) \,</math> となる点 <math>y^* \,</math>を[[平衡点]] (equilibrium) と呼ぶ。 なお、ここで座標変換 <math>x = y - y^* \,</math> を行えば、 :<math>\dot{x} = g(x + y^*) = f(x) \,</math> :<math> f(0) = 0 \,</math> となり、新しい座標系では <math>f(x)\ </math> は原点に平衡点を持つとできるので、以降論議を簡単にするために、平衡点は原点にあるものとする。 == リアプノフ(候補)関数の定義 == :<math>V:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}</math> を[[連続微分可能]]な実数値関数とする。<br> <math>V</math> が、原点 <math>0</math> において局所的に[[:en:Positive-definite function|正値関数]]である場合、リアプノフ候補関数と呼ぶ。ここで、<math>V\ </math> が原点において局所的に正値関数であるとは、 <math>0</math> のある[[近傍]] <math>\mathcal{B}</math> において、 :<math>V(0) = 0\,</math> :<math>V(x) > 0 \quad \forall x \in \mathcal{B}\setminus\{0\}</math> が成り立つこととする。<math>V</math> が正値関数であるという条件は、 :<math>\lim_{x\to 0} \frac{V(x)}{| x |} \ge 0</math> ということを保証する。なぜならば、この値が負になるためには、<math>\mathcal{B}</math> 内に <math>V(x) < 0 \ </math> となる点 <math>x\ </math> が存在しなければ不可能だからである。一方、 <math>V(x) = |x |^2 \ </math> とおけば確かに <math>V\ (x)</math> は原点において局所的に正値関数であるが、<math>\textstyle \lim_{x\to 0} \frac{V(x)}{| x |} = 0 </math> となるので、上式の値が <math>0</math> の場合もあり得ることが分かる。 また、 :<math>\dot{x} = f(x) \,</math> を原点に平衡点を持つ自励系とし、<math>V\ </math> をその自励系の原点についてのリアプノフ候補関数とすると、自励系の任意の解 <math>x(t)\ </math> に沿って(以降、パラメーター <math>t\ </math> を時刻と見なすこととする) <math>V(x(t))\ </math> の時間微分は次のようになる。 :<math>\dot{V}(x(t)) = \frac{\partial V}{\partial x}\cdot \frac{dx(t)}{dt} = \nabla V \cdot \dot{x}(t) = \nabla V\cdot f(x(t))</math> 自励系であれば <math> \dot{V} </math> の値は <math> t\ </math> に無関係に <math> x\ </math> だけで決まるので、 <math> \dot{V} </math> を <math> x\ </math> の関数と見なして良いことを注意しておく。 リアプノフ候補関数がさらに下記に述べるような諸条件を満たす場合、リアプノフ関数と呼ぶ。 == 自励系に関するリアプノフの基礎定理 == リアプノフ安定な平衡点、漸近的に安定な平衡点についての定義は[[リアプノフ安定]]の項を参照のこと。 :<math>\dot{x} = f(x) \,</math> を原点に平衡点を持つ自励系とし、<math>V\ </math> を原点についてのリアプノフ候補関数とする。 ===リアプノフ安定な平衡点=== もし、<math>0</math> のある近傍 <math>\mathcal{B}</math> で <math>V\ </math> が 局所的に正値関数であり、さらに <math>\dot{V}</math> が局所的に準負値関数であれば、つまり :<math>\dot{V}(0) = 0 </math> :<math>\dot{V}(x) \le 0 \quad \forall x \in \mathcal{B}\setminus\{0\}</math> であれば、その平衡点はリアプノフ安定である。 ===漸近安定な平衡点 === もし、<math>0</math> のある近傍 <math>\mathcal{B}</math> で <math>V\ </math> が 局所的に正値関数であり、さらに <math>\dot{V}</math> が局所的に負値関数であれば、つまり :<math>\dot{V}(0) = 0 </math> :<math>\dot{V}(x) < 0 \quad \forall x \in \mathcal{B}\setminus\{0\}</math> であれば、その平衡点は漸近安定である。 ===大域的に漸近的に安定な平衡点 === もし、<math>V\ </math> が (定義域に渡って) 大域的に正値関数であり、動径方向に極限値を持たず、さらに <math>\dot{V}</math> が大域的に負値関数であれば、つまり :<math>\dot{V}(0) = 0 </math> :<math>\dot{V}(x) < 0 \quad \forall x \in \mathbb{R}^n\setminus\{0\}</math> であれば、その平衡点は大域的に漸近安定である。 ここで、正値関数 <math>V\ </math> が[[動径]]方向に極限値を持たない ([[:en:radially unbounded function|radially unbounded]]) とは、 :<math>| x | \to \infty \Rightarrow V(x) \to \infty </math> が成り立つことを言う (これは norm-coercivity とも呼ばれる)。この対偶を取ると、 :<math>V(x) < \infty \Rightarrow | x | < \infty </math> となるので、自励系の任意の解 <math>x(t)\ </math> に沿って <math>V(x(t))\ </math> が任意の時刻 <math>t\ </math> で有限値を取ることが言えれば、<math> | x(t) |\ </math> も有限値を取ることが言える。 また、平衡点が大域的に漸近安定であるとは、自励系の任意の解 <math>x(t)\ </math> が平衡点に収束することを言う。 == 例 == <math>\mathbb{R}</math> における次のような常微分方程式を考える。 :<math>\dot x = -x</math> この場合、速度ベクトルは常に原点の方向を向く。従って原点からの距離は、時刻と共に減少することになるので、これはリアプノフ関数の自然な候補となる。<math>\mathbb{R}\setminus\{0\}</math> 上で <math>V (x)=|x|</math> と置けば{{疑問点|date=2020-04-25|title=そもそも連続微分可能ではないが……}}、 :<math>\dot V(x) = V'(x) f(x) = \mathrm{sign}(x)\cdot (-x) = -|x|<0</math> これは確かに原点が漸近的に安定でことを示している。 == 関連項目 == * [[常微分方程式]] * [[リアプノフ安定]] * [[制御理論]] * [[不動点]] ==参考文献== * {{mathworld|urlname=LyapunovFunction|title= Lyapunov Function}} * {{citation | author = Khalil, H.K. | year = 1996 | title = Nonlinear systems | publisher = Prentice Hall Upper Saddle River, NJ | isbn = }} * {{PlanetMath attribution|id=34386|title=Lyapunov function}} ==外部リンク== * [http://www.exampleproblems.com/wiki/index.php/ODELF1 Example] of determining the stability of the equilibrium solution of a system of ODEs with a Lyapunov function * [http://www.efg2.com/Lab/FractalsAndChaos/Lyapunov.htm Some Lyapunov diagrams] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:りあふのふかんすう}} [[Category:力学系]] [[Category:制御理論]] [[Category:アレクサンドル・リャプノフ]] [[Category:数学に関する記事]]
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