リン酸のソースを表示

{{Chembox
|   Name = リン酸
|   ImageFile1 = Phosphoric-acid-montage.png
|   ImageSize1 = 270px
|   ImageFile2 = Phosphoric-acid-2D-dimensions.png
|   ImageSize2 = 200px
|   IUPACName = リン酸
|   OtherNames = オルトリン酸
| Section1 = {{Chembox Identifiers
|   CASNo = 7664-38-2
| UNNumber = 1805 <ref name="kourou-msds">[https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7664-38-2.html 厚生労働省モデルSDS]</ref>
| SMILES = OP(=O)(O)O
| StdInChI = 1S/H3O4P/c1-5(2,3)4/h(H3,1,2,3,4)
| StdInChIKey = NBIIXXVUZAFLBC-UHFFFAOYSA-N
  }}
| Section2 = {{Chembox Properties
|   Formula = H<sub>3</sub>PO<sub>4</sub>
|   MolarMass = 98.00 g/mol
|   Appearance = 液体
|   Density = 	1.892 (25℃)  <ref name="kourou-msds" />
|   Solubility = 水：可溶<br/>アルコール：可溶 <ref name="kourou-msds" />
|   MeltingPtC = 42.35
| Melting_notes = <ref name="kourou-msds" />
|   BoilingPtC = 407
| Boiling_notes = <ref name="kourou-msds" />
  }}
| Section3 = {{Chembox Structure
| MolShape = 
| Dipole = 
  }}<!--
| Section4 = {{Chembox Thermochemistry
| DeltaHf = −1271.7 kJ/mol
| DeltaHc = 
| Entropy = 150.8 J/mol&sdot;K
| HeatCapacity = 145.0 J/mol&sdot;K
  }}-->
| Section7 = {{Chembox Hazards
| GHSPictograms = {{GHS corrosion}}{{GHS06}}{{GHS08}} <ref name="kourou-msds" />
| GHSSignalWord = 危険 <ref name="kourou-msds" />
| HPhrases = <br/>
* 飲み込むと有害
* 重篤な皮膚の薬傷及び眼の損傷
* 重篤な眼の損傷
* 吸入すると有毒
* 呼吸器の障害 <ref name="kourou-msds" />
<!-- 間違えました| PPhrases = <br/>
* 粉じん／煙／ガス／ミスト／蒸気／スプレーを吸入しないこと。
* 粉じん／煙／ガス／ミスト／蒸気／スプレーの吸入を避けること。
* 取扱後はよく手を洗うこと。
* この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
* 屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること。
* 保護手袋／保護衣／保護眼鏡／保護面を着用すること。 <ref name="kourou-msds" />-->
| ExternalSDS = [https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7664-38-2.html 厚生労働省モデルSDS]
  }}
| Section8 = {{Chembox Related
|   OtherAnions = [[ヒ酸]]
|   Function = 
|   OtherFunctn = 
  }}
}}<!--
{{ Infobox 化合物
| name=リン酸
| 画像=[[Image:Phosphoric-acid-montage.png|270px|構造式、3Dスティックモデル、電気ポテンシャルモデル]][[Image:Phosphoric-acid-2D-dimensions.png|200px]]
| IUPAC名=リン酸
| 別名=オルトリン酸
| 分子式= H<sub>3</sub>PO<sub>4</sub>
| 分子量= 98.00
| 組成式=
| 式量=
| 形状=斜方晶系に属す不安定な結晶、またはシロップ状の無色の液体
| CAS登録番号= [7664-38-2]
| SMILES=OP(O)(O)=O
| 密度=1.834 | 相=（固体）
| 水への溶解度= 
| 溶媒2=  | 溶解度2=
| 溶媒3=  | 溶解度3=
| 融点=42.35 | 融点注=
| 沸点=213 | 沸点注=（分解）
| pKa=2.12, 7.21, 12.67
| pKb=
| 旋光度=
| 粘度=
| 屈折率=
| 出典=[https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=1008&p_version=2 ICSC]
}}-->

'''リン酸'''（リンさん、燐酸、{{lang-en-short|phosphoric acid}}）は、[[リン]]の[[オキソ酸]]の一種で、化学式 H<sub>3</sub>PO<sub>4</sub> の[[無機酸]]である。'''オルトリン酸'''（おるとりんさん、{{lang-en-short|orthophosphoric acid}}）とも呼ばれる。

広義では、オルトリン酸・[[二リン酸]]（ピロリン酸）H<sub>4</sub>P<sub>2</sub>O<sub>7</sub>・メタリン酸HPO<sub>3</sub>など、[[五酸化二リン]]P<sub>2</sub>O<sub>5</sub>が[[水和]]してできる酸を総称してリン酸ということがある<ref>{{Cite web|和書|author= |date=|url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%28%E7%87%90%E9%85%B8%29-1216364 |title=りんさん【リン酸(燐酸) phosphoric acid】|work=[[日本大百科全書]]|publisher=[[小学館]]|format= |accessdate=2018-10-29}}</ref>。リン酸骨格をもつ他の類似化合物群（[[ピロリン酸]]など）は'''リン酸類'''（リンさんるい、{{lang-en-short|phosphoric acids}}）と呼ばれている。リン酸類に属する化合物を「リン酸」と略することがある。[[リン酸化物]]に[[水]]を反応させることで生成する。[[生化学]]の領域では、リン酸イオン溶液は'''無機リン酸''' (Pi) と呼ばれ、[[アデノシン三リン酸|ATP]] や [[デオキシリボ核酸|DNA]] あるいは [[リボ核酸|RNA]] の[[官能基]]として結合しているものを指す。

== 概要 ==
純粋なリン酸は[[直方晶系|斜方晶系]]に属す不安定な[[結晶]]、またはシロップ状の無色の液体。[[融点]]42.35 ℃。水・[[アルコール]]・[[エーテル (化学)|エーテル]]に可溶。

[[生化学]]において最も重要な無機オキソ酸といっても過言ではなく、[[デオキシリボ核酸|DNA]]や[[アデノシン三リン酸|ATP]]を構成するため非常に重要。[[生化学]][[化学反応|反応]]では、低分子化合物の[[代謝]]においてリン酸が付加した[[化合物]]（[[リン酸エステル]]など）が中間体として用いられることが多い。また[[蛋白質|タンパク質]]の機能調節（またそれによる[[シグナル伝達]]）においてもリン酸化は重要である。これらのリン酸化は多くの場合に ATP が用いられ、特定のリン酸化[[酵素]]（[[キナーゼ]]）によって行われる。

このほか、[[肥料]]・[[洗剤]]の製造、[[エチレン]]製造の[[触媒]]、清涼剤（[[コーラ (飲料)|コーラ]]の酸味料など）、歯科用セメント、金属表面処理剤、ゴム乳液の凝結剤、医薬、微生物による廃水浄化など用途は幅広い。

== 性質 ==
[[Image:Phosphoric-acid-3D-vdW.png|thumb|right|120px|オルトリン酸分子の[[空間充填モデル]]]]
純粋な[[無水]]リン酸は[[常圧]]で[[融点]] 42.35 [[セルシウス度|℃]] の[[白色固体]]であり、[[融解]]後は無色透明な液体となる。液体無水リン酸は高い[[電気伝導性]]を示し、またかなり強い酸性媒体であり、[[ルイス・ハメット|ハメット]]の[[酸度関数]]では ''H'' <sub>0</sub> = - 5 を示す。

オルトリン酸という別名があるが、この別名が用いられる場合は[[ポリリン酸]]類と区別するという意味で用いられる。オルトリン酸は無機物であり、3 価のやや弱い[[酸]]である。極性の高い化合物であるため、水に溶けやすい。オルトリン酸を含むリン酸類の[[リン|リン原子]]の[[酸化数]]は +5 であり、[[酸素]]の酸化数は -2 、[[水素]]の酸化数は +1 である。

75 &ndash; 85 % の純粋な水溶液は、無色透明で無臭、揮発性のない粘性液体である。この高い粘度は[[ヒドロキシ基]]による[[水素結合]]によるものである。

一般的には 85% (d = 1.685 g/cm<sup>3</sup>）、[[モル濃度]]は 14.6 mol/dm<sup>3</sup>、[[規定度]]は 43.8 N の水溶液として用いられることが多い。高濃度では[[腐食性]]を持つが、希薄溶液にすると腐食性は下がる。高濃度の溶液では温度によりオルトリン酸とポリリン酸の間で[[化学平衡|平衡]]が存在するが、表記の簡略化のため市販の濃リン酸は成分の全てがオルトリン酸であると表記されている。
: <chem>2H3PO4 \rightrightarrows H4P2O7 + H2O</chem>

=== 水溶液中の電離平衡 ===
3 価の酸であるため、水と反応すると電離して 3 つの[[水素イオン]] H<sup>+</sup> を放出する。

: <chem>H3PO4 <=> H^+ + H2PO4^-</chem>
 <math chem>K_{a1}=\frac{\ce{[H^+][H2PO4^-]}}{\ce{[H3PO4]}} \simeq 7.5\times10^{-3}</math> ({{pKa}}<math>{}_1\ 2.12)</math>

: <chem>H2PO4^- <=> H^+ + HPO4^2-</chem>
 <math chem>K_{a2}=\frac{\ce{[H^+][HPO4^{2-}]}}{\ce{[H2PO4^-]}}\simeq 6.2\times10^{-8}</math> ({{pKa}}<math>_{2}\ 7.21)</math>

: <chem>HPO4^2- <=> H^+ + PO4^3-</chem>
 <math chem>K_{a3}=\frac{\ce{[H^+][PO4^{3-}]}}{\ce{[HPO4^{2-}]}} \simeq 2.14 \times 10^{-13}\ </math> ({{pKa}}<math>_3\ 12.67)</math>

1 段階目の[[電離]]により発生するアニオン（陰イオン）は {{chem|H|2|PO|4|-}} である。以下同様に 2 段階目の電離により HPO<sub>4</sub><sup>2–</sup> が、3 段階目の電離により PO<sub>4</sub><sup>3–</sup> が発生する。25 ℃ における[[平衡反応式]]と[[酸解離定数]] ''K'' <sub>a1</sub>, ''K'' <sub>a2</sub>, ''K'' <sub>a3</sub> の値は上に示す通りであり、pKa の値もそれぞれp''K'' <sub>a1</sub> = 2.12, p''K'' <sub>a2</sub> = 7.21, p''K'' <sub>a3</sub> = 12.67（各 25 ℃）となる。1 段目はやや強く解離し 0.1 [[濃度#物質量/体積（モル濃度）|mol/dm<sup>3</sup>]] の水溶液では[[電離度]]は約 0.27 であり、3 段目の解離はきわめて弱く、[[中和滴定曲線]]でも第三当量点は現れない。

p''K'' <sub>a</sub> の値からも分かるように、オルトリン酸の[[共役塩基]]は幅広い[[水素イオン指数]]（pH）に渡って存在することができる。この性質を利用し、[[リン酸塩]]としたものが緩衝溶液に用いられている。リン酸塩類は生物学の分野においても多々登場しており、特に [[デオキシリボ核酸|DNA]] や [[リボ核酸|RNA]]、[[アデノシン三リン酸]]などのリン酸化された糖がよく知られている。詳細については記事[[リン酸塩]]を参照のこと。

[[画像:Titration-H3PO4-NaOH.jpg|thumb|right|280px|[[水酸化ナトリウム]]水溶液による中和滴定曲線]]
酸解離に関する標準[[エンタルピー]]変化、[[ギブス自由エネルギー]]変化、[[エントロピー]]変化の値が報告されており<ref name=Parker>D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)</ref>、解離に伴いエントロピーの減少がおこるのは、[[電荷]]の増加に伴ってイオンの[[水和]]の程度が増加し、電縮が起こり[[水]]分子の[[水素結合]]による秩序化の度合いが増加するからである<ref name=tanaka>田中元治　『基礎化学選書8　酸と塩基』　[[裳華房]]、1971年</ref>。

{| class="wikitable" style="text-align: center; white-space:nowrap;"
|-
! 　
!! style="white-space:nowrap"| <math>\Delta H^\circ</math>
!! style="white-space:nowrap"| <math>\Delta G^\circ</math>
!! style="white-space:nowrap"| <math>\Delta S^\circ</math>
!! style="white-space:nowrap"| <math>\Delta C_p^\circ</math>
|-
! style="white-space:nowrap"| 第一解離
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;7.95 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| 12.26 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;67.8 J/mol K
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;155 J/mol K
|-
! style="white-space:nowrap"| 第二解離
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| 4.15 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| 41.13 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;123.9 J/mol K
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;226 J/mol K
|-
! style="white-space:nowrap"| 第三解離
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| 14.74 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| 70.45 kJ/mol
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;188.7 J/mol K
| style="white-space:nowrap; background-color:#ffffff"| &minus;　 J/mol K
|-
|}

=== 縮合リン酸 ===
[[File:Various Phosphoric Acids.PNG|200px|thumb|left|各種リン酸構造式。左側上から、オルトリン酸・ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸。右側上から、トリメタリン酸、十酸化四リン。]]
オルトリン酸を加熱すると[[脱水反応]]が起こる。150 ℃ で[[無水物]]となり、200 ℃ で 2 つのオルトリン酸が反応し徐々に[[ピロリン酸]]（二リン酸）{{chem|H|4|P|2|O|7}} が生成する。さらに高次の縮合リン酸 {{chem|H|n+2|P|n|O|3n+1}} も生成し、300 ℃ 以上では 1 つのリン酸ユニットにつき 1 つの水分子が脱離してメタリン酸（[[ポリリン酸]]）(HPO<sub>3</sub>)<sub>n</sub> が生成する<ref>[http://www.bartleby.com/65/ph/phsphracid.html phosphoric acid. The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. 2001-05]</ref>。メタリン酸はオルトリン酸が[[脱水縮合]]した化合物とみなすことが可能である。

<div style="float:right">[[Image:Tripolyphosphoric-acid-3D-vdW.png|140px|thumb|トリポリリン酸の空間充填モデル]]</div><div style="float:right">[[Image:Trimetaphosphoric-acid-3D-vdW.png|100px|thumb|トリメタリン酸の空間充填モデル]]</div>
いずれも複数の PO<sub>4</sub> 四面体を酸素原子を架橋として連結した構造であり、ポリリン酸は一般的に PO<sub>4</sub> 四面体が環状に連結した'''シクロリン酸'''（しくろりんさん、cyclophosphoric acid）である。

このような加熱により生成するポリリン酸の混合物は、高温において金属などに対する作用も激しくなり、[[ガラス]]でさえ侵すようになり、'''強リン酸'''（きょうりんさん）と呼ばれることもある。

それ以上の脱水は非常に難しいが、脱水したら[[五酸化二リン]]（十酸化四リン）が生成する。五酸化二リンは水と激しく反応する固体であり、[[乾燥剤]]としても用いられる。

== 利用 ==
=== ハロゲン化水素の調製 ===
リン酸と[[無機ハロゲン化物]]を反応させると、対応する[[ハロゲン化水素]]ガスが発生する。これは研究室レベルでハロゲン化水素を入手する簡単な方法である。
: <chem>NaCl(s) + H3PO4(l) -> NaH2PO4(s) + HCl(g)</chem>
: <chem>NaBr(s) + H3PO4(l) -> NaH2PO4(s) + HBr(g)</chem>
: <chem>NaI(s) + H3PO4(l) -> NaH2PO4(s) + HI (g)</chem>

=== 皮膜処理 ===
{{Main|リン酸塩皮膜処理}}
リン酸は錆びた鉄の表面に存在する[[酸化鉄]]を不溶性のリン酸塩へと変換し、皮膜を生成することができる。この廃液処理は環境に配慮する必要がある。

=== 食品添加物 ===
リン酸塩としたものが[[食品添加物]]として用いられている。リン酸塩が身体に与える影響について、様々な議論が交わされている。

=== 肥料 ===
リン酸は[[窒素]]、[[カリウム]]と伴に[[肥料の三要素]]であり（植物との関係については後述）、量的には[[肥料]]としての消費量が圧倒的に多い。[[リン鉱石]]を[[硫酸]]で処理してリン酸を可溶性とした[[過リン酸石灰]]が最も多く生産されているが、[[硫酸イオン]]を含まず、リン酸の含量の多い[[重過リン酸石灰]]も普及している。
: <math>\rm Ca_5OH(PO_4)_3 + 7 H_3PO_4 \longrightarrow 5 Ca(H_2PO_4)_2 + H_2O</math>

=== 赤外線吸収剤 ===
[[赤外線]]を吸収する性質を利用して赤外線吸収リン酸塩ガラス、赤外線吸収フィルム用樹脂、[[紫外線|UV]] カット化粧品などに用いられている。また、この性質を利用した軍事用途としては[[水和]]蒸気を[[煙幕]]として発生させる[[白リン弾]]や[[赤リン発煙弾]]がある。

== 合成 ==
;熱合成法
:[[リン]]単体を燃焼させ[[五酸化二リン]]を生成させ、これを希薄なリン酸水溶液に溶解させることで純粋なリン酸が得られる。最も環境にやさしい合成法であるが、鉱山から採掘されたリン単体に含まれる不純物を取り除く必要がある。
::
;湿式合成法
:約35％の[[硫酸]]を[[リン鉱石]]（[[リン酸カルシウム]]）と反応させることで得られる。
: <chem>3H2SO4 (aq) + Ca3(PO4)2 (aq) + 6H2O(l) <-> 2H3PO4 (aq) + 3CaSO4 (aq) + 6H2O (l)</chem>
: <chem>10H2SO4 (aq) + 3Ca3(PO4)2 . CaF2 + 20H2O (l) <-> 6H3PO4 (aq) + 10(CaSO4 . 2H2O) + 2HF (g)</chem>

:ろ過により精製可能であるが、[[フッ化水素酸]]などの不純物が混入することがあるため、熱合成法と比較すると純度が落ちる。

2008年度の日本国内生産量は 152,976 トン、消費量は 37,625 トンである<ref>[http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/02_kagaku.html 経済産業省生産動態統計・生産・出荷・在庫統計] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20110522211442/http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/02_kagaku.html |date=2011年5月22日 }}平成20年年計による</ref>。

== リン酸イオン ==
<div style="float:right">[[Image:Phosphate anion.svg|thumb|100px|リン酸イオンの構造式]]</div><div style="float:right">[[Image:Hydrogen phosphate.svg|thumb|100px|リン酸一水素イオンの構造式]]</div><div style="float:right">[[Image:Dihydrogen phosphate.svg|thumb|100px|リン酸二水素イオンの構造式]]</div>

[[Image:Phosphate-3D-vdW.png|thumb|left|100px|リン酸イオンの空間充填モデル]]
リン酸の第一段階電離により、'''リン酸二水素イオン'''（りんさんにすいそいおん、''dihydrogenphosphate(1-)'', {{chem|H₂PO₄⁻}}）、第二段階解離により'''リン酸水素イオン'''（りんさんすいそいおん、''hydrogenphosphate(2-)'', {{chem|HPO₄²⁻}}）、第三段階解離により'''リン酸イオン'''（りんさんいおん、''phosphate'', {{chem|PO₄³⁻}}）を生成し、それぞれリン酸二水素塩、リン酸水素塩、[[リン酸塩]]の結晶中に存在する。

リン酸イオンは[[正四面体]]型構造であり、P&mdash;O 結合距離はリン酸アルミニウム結晶中で152 pmである。

== リン酸塩 ==
{{main|リン酸塩}}
'''リン酸塩'''（りんさんえん、phosphate）には正塩、および水素塩/[[酸性塩]]（リン酸水素塩、hydrogenphosphate / リン酸二水素塩、dihydrogenphosphate）が存在し、リン酸ナトリウム Na<sub>3</sub>PO<sub>4</sub> 水溶液は塩基性（pH～12）、リン酸水素ナトリウム Na<sub>2</sub>HPO<sub>4</sub> 水溶液は弱塩基性（pH～9.5）、リン酸二水素ナトリウム NaH<sub>2</sub>PO<sub>4</sub> 水溶液は弱酸性（pH～4.5）を示す。

[[アルカリ金属]]塩、[[アンモニウム]]塩は水に可溶であるが、[[アルカリ土類金属]]塩をはじめとしてその他のものは極めて難溶性であることが多い。

=== リン酸塩鉱物 ===
[[Image:Fluorapatite 2.jpg|thumb|right|200px|燐灰石]]
生物の作用によるもの、[[ペグマタイト]]などに含まれるものなどがあり、[[希土類]]元素、[[ウラン]]、[[トリウム]]などを含むものが多い。
* [[カコクセナイト]], ''Cacoxenite'' <chem>(AlFe24O6(OH)12(PO4)17\cdot 75H2O)</chem>
* [[トルコ石]], ''Turquoise'' <chem>(CuAl6(PO4)4(OH)8\cdot 4H2O)</chem> 
* [[モナズ石]], ''Monazite'' <chem>((Ce,La,Nd,Th)PO4)</chem>
* [[燐灰ウラン石]], ''Autunite'' <chem>(Ca(UO2)2(PO4)2\cdot 10-12H2O)</chem>
* [[燐灰石]], ''Apatite'' <chem>(Ca5(OH,F)(PO4)3)</chem>

== リン酸と健康 ==
=== 人体への影響 ===
飲料や食品に酸味を与えるための廉価な添加物として、[[クエン酸]]に代わって用いられるが、これらによるリン酸の摂取と骨の密度の低下とが結びつけられている<ref>{{cite journal |author=Katherine L Tucker, Kyoko Morita, Ning Qiao, Marian T Hannan, L Adrienne Cupples and Douglas P Kiel |journal=Am. J Clin. Nut.|year=2006 |pmid=17023723 |volume=84 |issue=4 |pages=936–42 |title=Colas, but not other carbonated beverages, are associated with low bone mineral density in older women: The Framingham osteoporosis study}}</ref>。

逆にリンの摂取が少ないと骨密度が下がるという研究<ref>Elmståhl S, Gullberg B et al. :Increased incidence of fractures in middle-aged and elderly men with low intakes of phosphorus and zinc" Osteoporos Int 8(4), 1998, pp333-40. {{PMID|10024903}}</ref>もあるが、この研究は腸内でのリン酸とマグネシウム、カルシウムの結合の影響は考慮せず、体内に吸収されたリンの量での研究である。またリン酸を含む飲料が、尿によるカルシウム排出量に影響しないという研究<ref>Heaney RP, Rafferty K. "Carbonated beverages and urinary calcium excretion" American Journal of Clinical Nutrition 74(3), September 2001, pp343-347. {{PMID|11522558}}</ref><ref>Barger-Lux MJ, Heaney RP, Stegman MR. [http://www.ajcn.org/cgi/reprint/52/4/722?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=&author1=Barger-Lux+&andorexactfulltext=and&searchid=1&FIRSTINDEX=0&sortspec=relevance&resourcetype=HWCIT "Effects of moderate caffeine intake on the calcium economy of premenopausal women"] American Journal of Clinical Nutrition, Vol. 52:722–725</ref>がある。

[[リン]]自体は人体に必須のミネラルであり、厚生労働省が定めた摂取基準によれば 18 &ndash; 49 歳の成人の 1 日あたり目安量は、男性で 1,050 mg、女性で 900 mg、上限量は男女とも 3,500 mg とされている<ref>[https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/11/h1122-2b.html 日本人の食事摂取基準（2005年版）]（厚生労働省）</ref>。野菜や肉などの生物に由来する食物に普通に含まれる元素である。

=== 寿命との関係 ===
[[哺乳類]]は血中リン酸濃度が低くくなるほど寿命が長くなる<ref>{{cite journal
|title=A potential link between phosphate and aging – lessons from Klotho-deficient mice
|journal=Mechanisms of ageing and development
|volume=131|issue=4|page=Figure 2|year=2010
|pmid=20197072|pmc=2862786|doi=10.1016/j.mad.2010.02.008
}}</ref>。[[ハムスター]]は血中リン酸濃度がヒトの2倍あり、[[ヒト]]が75年生きるのに対しハムスターは3年しか生きない。100歳まで生きるヒトの血中リン酸濃度も低いとされている。

ヒトを含む多くの生物は、自己が利用するエネルギーの運用体（アデノシン三リン酸(ATP)）としてリンを使用しているため、代謝が速く寿命の短い哺乳類において血中濃度が高いことは不自然ではない。

また、リン酸はゲノム構造の基礎材料の一つであるため、食品中のゲノム総量の多い細胞数の多い食品はリン摂取元としての比重も大きくなる（動物細胞においてはゲノムのリン酸以外に細胞膜のリン脂質が重要な供給源になる）。

== リン酸と植物 ==
植物にとってリン酸は、生理作用をよくする効果があり、花芽分化や実の促進に不可欠な要素である<ref name="gifu">[https://www.gifu.crcr.or.jp/media/chousakenkyu/kenkyu/environment_01.pdf 岐阜県街路樹等整備･管理の手引き] 岐阜県建設研究センター、岐阜県造園緑化協会、2022年4月23日閲覧。</ref>。窒素を葉肥というのに対し、リン酸は実肥という<ref name="gifu" />。

リン酸不足になると花の色や質が悪くなったり、葉の暗緑色となり周縁部が黒くなることがある<ref name="gifu" />。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references/>

== 関連項目 ==
{{Commonscat|Phosphoric acid|リン酸}}
{{Commonscat|Phosphorus oxoacids|縮合リン酸}}
*[[高エネルギーリン酸結合]]
*[[リン酸塩]]
*[[亜リン酸]]
*[[リン酸基]]

== 外部リンク ==
* [https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=1008&p_version=2 International Chemical Safety Card 1008]
* [http://www.npi.gov.au/database/substance-info/profiles/71.html National Pollutant Inventory - Phosphoric acid fact sheet]
* [http://www.cdc.gov/niosh/npg/npgd0506.html NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards]
* [http://www2.iq.usp.br/docente/gutz/Curtipot_.html Excel spreadsheet containing phosphoric acid titration curve, distribution diagram and buffer pH calculation]
* [http://genhydro.com/genhydro_US/msds/pH_Down_Wet.pdf General Hydroponics Liquid pH Down MSDS fact sheet]

{{Normdaten}}
{{官能基}}
{{水素の化合物}}
{{リンの化合物}}

{{DEFAULTSORT:りんさん}}
[[Category:無機化合物]]
[[Category:リンの化合物]]
[[Category:生化学]]
[[Category:オキソ酸]]