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'''ルイス構造'''(ルイスこうぞう、{{lang-en-short|Lewis structure}})は、[[元素記号]]の周りに[[電子配置#内殻電子|内殻電子]]を無視して[[最外殻電子]]のみを点('''・''')で表した[[化学式|化学構造式]]の一種で、[[分子]]中に存在する[[原子]]間の結合と[[孤立電子対]]を示す図である。ルイス構造は、どの原子同士が互いに結合を形成しているか、どの原子が孤立電子対を持っているか、どの原子が[[形式電荷]]を持っているかが分かるため有用である。 ルイス構造では、[[単結合]]は一対の点(''':''')で表記し、[[二重結合]]、[[三重結合]]はそれぞれ[[電子対]]の数を増やして表記する<ref name="VS">{{Cite book|和書|author=K.P.C.Vollhardt, N.E.Schore|title=ボルハルト・ショアー現代有機化学 (上)|edition=第3版|date=|year=2001|publisher=[[化学同人]]|pages=16-20|isbn=4-7598-0836-1}}</ref>。ルイス構造式は任意の[[共有結合]]分子や[[配位化合物]]を描くことができる。ルイス構造式の着想は[[1916年]]にアメリカの化学者[[ギルバート・ルイス|ギルバート・N・ルイス]]が''The Atom and the Molecule''と題した論文で提唱した<ref>{{cite |title=The Atom and the Molecule |author= Gilbert N. Lewis |journal= J. Am. Chem. Soc. |year= 1916|volume =38 |issue =4 |pages= 762–785 |DOI=10.1021/ja02261a002 }}</ref><ref>{{cite web|url=http://authors.library.caltech.edu/25050/12/Chapter_11.pdf|title=Chemical principles, Chapter 11 Lewis Structures and the VSEPR Method|accessdate=2016-05-07|author=Dickerson, Richard E; Gray, Harry B; Haight, Gilbert P.|year=1979|format=PDF|publisher=The Benjamin/Cummings|location=カリフォルニア州メンロー・パーク|pages=400|edition=3rd|ISBN=9780805323986}}</ref>。その他にも電子式 (electronic formula)、点電子構造式、点電子表記法といった呼称がある<ref name="VS" />。 {{Right|<gallery> Acqua Lewis.png|H-O-H([[水]])のルイス構造 Carbon-dioxide-octet-Lewis-2D.png|O=C=O([[二酸化炭素]])のルイス構造。二重結合は4つの電子を表す点で表現される。 Electron-formula N2.svg|N≡N([[窒素]])のルイス構造。三重結合は6つの電子を表す点で表現される。 </gallery>}} == 表記規則 == 次のような流れで描く。 # 価電子の総数を求める。 # 原子を配置する。 # 原子間に電子対を配置する。 # 周辺原子のオクテットを完成させる。 以下に詳細を述べる。 ; [[価電子]]の総数 : 構成原子各々が持つ[[価電子]]をすべて足し合わせる。価電子数は[[元素の族|族番号]]の1の位の数に等しく<ref>{{Cite book|和書|author=Robert J. Ouellette|title=ウーレット有機化学|edition=第1版第3刷|date=2009-04-10|publisher=[[化学同人]]|page=4|isbn=978-4759809145}}</ref>、たいていの場合[[最外殻電子]]に等しい。[[分子]]が[[電荷]]をもった構造([[アニオン]]や[[カチオン]])をとる場合には、[[電荷]]に対応した[[電子]]の数を加えたり、引いたりという特別の注意が必要である。 ; [[オクテット則]](八隅説) : [[原子]]のまわりに8つの[[電子]]を配置しつつ、できるだけ多くの共有電子を描く(例外あり、後述)。このようにして描いた[[構造式]]の電子の総数が上記で数えた価電子数に一致することを確認する([[周期表]]の右側に位置する[[元素]]には、[[孤立電子対]]と呼ばれる[[結合]]に関与しない[[価電子]]対をもつものもある)。単結合だけで[[オクテット則]]を満たすのは難しいことがよくある。このような場合には、[[オクテット則]]を満足させるために[[二重結合]](二組の共有電子対)や[[三重結合]](三組の共有電子対)が必要となる。[[窒素]][[分子]]で、両方の[[窒素]][[原子]]が[[オクテット則]]を満たすには、2つの[[窒素]][[原子]]間に[[三重結合]]を形成することが必要である<ref name="VS" />。{{main|[[オクテット則]]}} ; 各原子の電荷の決定 : [[孤立電子対]]は2電子、結合形成のために共有されている電子対は1電子として数える。このようにして数えた原子の[[価電子]]総数が、結合を作る前の遊離の電子の[[電子殻|外殻電子数]]と異なっている場合には、その[[電子]]は分子生成によって[[電荷]]を得たことになり、+もしくは−の記号を付け電荷を表す<ref name="VS" />。 ===規則の例外事項=== ; [[原子番号]]の小さい元素 : [[K殻]]しか持たないため、2電子一対で安定化する[[水素|水素(H)]]、[[ベリリウム]] (Be)、[[ホウ素]] (B)、[[アルミニウム]] (Al) といった[[第2周期元素|第2周期]]前半の元素はオクテット則に従わない<ref name="VS" />。Beは4電子、BとAlは6電子で安定化する<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.b.dendai.ac.jp/~bio-organic/nyuumon1.pdf|title=ルイス構造式|accessdate=2016-05-14|author=[[東京電機大学]]理工学部生命理工学系生命化学コース生命有機化学研究室|format=PDF|publisher=}}</ref>(例:[[三フッ化ホウ素]]、[[塩化ベリリウム]])。 :[[ファイル:Beryllium Chloride.png|なし|サムネイル|[[塩化ベリリウム]]:[[ベリリウム]]原子が4電子となっている例。]] ; [[ラジカル (化学)|ラジカル]] :{{see also|ラジカル (化学)}} : 総電子数が奇数個であるとき、構成原子のうち[[電気陰性度]]の小さい原子が奇数電子状態となる、すなわち[[不対電子]]を持つラジカルとなる<ref name="VS" />。 :[[ファイル:Nitric oxide Lewis.png|なし|サムネイル|[[一酸化窒素]](・N=O)の窒素原子は[[不対電子]]を持つ。]] ; [[超原子価]] :{{see also|超原子価}} : [[第3周期元素]]以降の[[元素]]([[原子番号]]11より大きい[[元素]])は、オクテット以外の[[電子配置]]をとる可能性がある<ref name="VS" />。[[リン]]や[[硫黄]]は、それぞれ3価あるいは2価をとり、[[リン酸]]や[[硫酸]]といったありふれた化合物にもオクテット則に従わないものが見られる。[[六フッ化硫黄]]のような物質は'''[[超原子価|超配位]]'''という。 <gallery> Triiodide Lewis.png|[[三ヨウ化物]]イオンの中心にある[[ヨウ素]]原子は、共有電子対2つと[[孤立電子対|非共有電子対]]3つを持ち、合計10電子持っている。 Phosphoric acid Lewis.png|[[リン酸]]の[[リン]]原子は10電子持っている。 Sulfuric acid Lewis.png|[[硫酸]]の[[硫黄]]原子は12電子持っている。 </gallery> == 形式電荷 == [[Image:Formal charge Principle V.1.svg|thumb|350px|right|[[オゾン]]と[[硝酸]]アニオンの形式電荷]] いずれの化学結合も理想的な共有結合(非極性結合)を仮定することで、個々の原子の見かけの電荷を決定することができる。この見かけの電荷のことを'''形式電荷'''と呼ぶ。形式電荷と実際の原子の[[部分電荷]]を結びつけるには各原子の[[電気陰性度]]を考慮しなければならないが、しばしば実際の電荷を考える上でも参考になる。実際、[[位相幾何学|位相]]構造と[[共鳴理論|共鳴構造]]の記述、比較、検証に用いられる<ref name="miessler_1">Miessler, G. L. and Tarr, D. A., ''Inorganic Chemistry'' (2nd ed., Prentice Hall 1998) ISBN 0-13-841891-8, p.49-53 – Explanation of formal charge usage.</ref>。 一般に、原子の形式電荷は以下の式を用いて計算することができる<ref name=":0">Robert J. Ouellette (2009), p.10</ref>。 <math display="block">C_f = N_v - U_e - \frac {B_n}{2}</math> * <math>C_f</math>:形式電荷 * <math>N_v</math>:結合していない中性原子の価電子数 * <math>U_e</math>:非共有電子数 * <math>B_n</math>:結合電子数 化合物中のある原子の形式電荷は、中性原子が持っている価電子の数とルイス構造式中においてその原子がもっている電子数との差として計算される<ref name=":0" />。共有結合中の電子は結合に関与する原子間で等しく分割される。イオンの総形式電荷はイオンの実際の電荷と等しくなければならず、中性分子の総形式電荷はゼロでなければならない。 == ルイス構造の適用の限界 == ルイス構造は基本的に[[共有結合性]]をもつ[[化合物]]に対して適用できるので、[[分子性]]の化合物に対してのみならず[[共有結合結晶]]や[[高分子]]のように半無限に共有結合が続いている状態にも適用できる。 ただし[[イオン結合]]性が強い化合物について適用することはしばしば難しい。 たとえば[[塩化ナトリウム]]NaClではNa{{sup|+}}とCl{{sup|-}}はそれぞれ8つの価電子を有しているので、4つの単結合を作れると考えられる。しかしNaClの実際の構造は[[二原子分子]]ではなく、[[面心立方格子]]構造を見れば分かるように各原子は6つの原子とイオン結合によって結ばれており、これはルイス構造では説明および表記することができない。 また結合に[[d電子]]または[[d軌道]]が強く関与するケースではルイス構造を適用および表記するのは難しい。 == 脚注 == <references /> {{DEFAULTSORT:るいすこうそうしき}} [[Category:化学結合]] [[Category:化学式]] [[Category:表記]] [[Category:化学のエポニム]]
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