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'''ルジャンドル変換'''（ルジャンドルへんかん、{{lang-en-short|Legendre transformation}}）とは、[[凸解析]]において、[[関数 (数学)|関数]]の[[変数 (数学)|変数]]をその微分に変えるために用いられる[[変換 (数学)|変換]]である。このとき実数関数 {{math|1=''f''(''x'')}} は微分可能でなくてもよいが連続関数だとする<ref>{{Cite web|和書|format=pdf|url=http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/class/H28-tanimura-mechanics-6.pdf|title=ルジャンドル変換、物質情報学 1（解析力学）講義ノート 6|author=谷村省吾，|accessdate=2022-08-27}}</ref>。

名前は[[フランス]]の[[数学者]]、[[アドリアン＝マリ・ルジャンドル]]に因む。ルジャンドル変換は[[点 (数学)|点]]と[[曲線|線]]の[[双対|双対性]]、つまり[[凸関数|凸な関数]] {{math2|1=''y'' = ''f'' (''x'')}} は {{math2|1=(''x'', ''y'')}} の点の[[集合]]によって表現できるが、それらの[[傾き (数学)|傾き]]と[[切片 (数学)|切片]]の値で指定される[[接線]]の集合によっても等しく充分に表現できることに基いている。

凸関数をルジャンドル変換する際、変換前の関数が保持している[[情報]]は、変換後の関数においても完全に保たれる{{Sfn|田崎|2000|p=152}}。[[解析力学]]においてはこの性質を利用して、<!-- ルジャンドルは、 -->[[ラグランジアン]]からルジャンドル変換によって[[ハミルトニアン]]が得られる（⇒[[#解析力学]]）。[[物理学]]等において他にも広く応用されており、[[熱力学]]における[[熱力学ポテンシャル|熱力学関数]]間の変換などにも用いられる（⇒[[#熱力学]]）。

ルジャンドル変換をより一般化したものは[[凸共役性|ルジャンドル＝フェンシェル変換]]と呼ばれる。

なお、与えられた関数をルジャンドル多項式やルジャンドル陪多項式を展開の基底関数に用いて、それら展開係数を求める変換のことも、ルジャンドル変換 (Legendre Transform) と呼ばれる。

== 定義 ==

{{math theorem|定義|<math>f~:~\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}\cup\{\pm\infty\} </math>を関数とする。このとき、{{mvar|f}}の'''ルジャンドル変換'''
: <math>f^*~:~\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}\cup\{\pm\infty\}</math>
は
: <math>
f^*(p) := \sup_{x\in\mathbb{R}^n}\{\langle p,x\rangle - f(x)\}
</math>
により定義される{{sfn|田崎|2000|p=271|loc=脚注}}{{sfn|清水|2007|p=248}}{{Sfn|Borwein|Lewis|2006|p=49}}。
|note=ルジャンドル変換}}
ここで <math>\langle\cdot,\cdot\rangle</math>は[[内積]]であり、{{math|{{underset|''x''|sup}}}}は[[変数 (数学)|変数]] {{mvar|x}} を動かしたときの[[順序集合#上界、最大、極大、上限、上方集合|上限]]を表す{{efn2|ルジャンドル変換を
: <math display="block">
f^*(p) = \max_x(px - f(x))
</math>
または
: <math display="block">
f^*(p) = -\min_x(f(x) - px)
</math>
としている文献もあるが{{sfn|田崎|2000|p=270}}、この場合[[最大と最小|最大値や最小値]]の存在を暗に仮定している。
しかし例えば<math>f(x)=e^{-x}</math>は<math>f^*(0)=0</math>を達成する<math>x\in\mathbb{R}</math>は存在しない。}}。
同じことだが下限を用いて
: <math>
f^*(p) := -\inf_{x\in\mathbb{R}^n}\{f(x)-\langle p,x\rangle\}
</math>
とも表記できる。

ルジャンドル変換の直観的な意味は[[凸共役]]の項目を参照されたい。直観的な意味から、次が成立する事を示せる：
{{math theorem|定理|{{mvar|f}}が[[凸関数|凸]]でしかも[[滑らかな関数|滑らか]]であるとする。このとき、
<math>x\in \mathbb{R}^n</math>を
: <math>p=\nabla f(x)</math>
が成立する点とすると、以下が成立する<ref name="week10-11">{{Cite web |url=https://maxim.ece.illinois.edu/teaching/fall21/lectures.html |title=week 10 notes. The Legendre-Fenchel dual functional and its geometric interpretation |access-date=2025/01/30 |page=11 |publisher=[[イリノイ大学]] |author=Maxim Raginsky}}</ref>：
: <math>
f^*(p) := \langle p,x\rangle - f(x)
</math> 
|note=凸で滑らかな関数に対するルジャンドル変換の特徴づけ}}なお、<math>p=\nabla f(x)</math>を満たす{{Mvar|x}}が存在しない事もあり得ることに注意されたい{{Efn2|例えば、<math>f(x)=\mathrm{e}^{-x}</math>
や<math>
g(x)=
\begin{cases}
 {1 \over x} & \text{if } x >0\\
 \infty & \text{otherwise}
\end{cases}
</math>
は凸でしかも滑らかであるが、<math>p\ge 0</math>に対しては<math>p=f'(x)</math>、<math>p=g'(x)</math>となる<math>x\in\mathbb{R}</math>は存在しない。}}。その場合、元の定義から<math>f^*(x)</math>を求める必要がある。逆に<math>p=\nabla f(x)</math> を満たす{{Mvar|x}}が一意に定まらず、複数存在することもあり得るが、その場合どの{{Mvar|x}}を選んでも同じ<math>f^*(p)</math>になる事が{{Mvar|f}}の凸性から示せる。[[画像:LegendreTransform1.png|256px|thumb|関数 <math>\scriptstyle f(x)</math> のルジャンドル変換 <math>\scriptstyle f^*(p) = \sup_x\{px-f(x)\} </math>（ただし <math>\scriptstyle p=\dot{f}(x)</math>）は、<math>\scriptstyle x</math> における <math>\scriptstyle f(x)</math> の接線の切片に対応している。]]

右図は上記の特徴づけを一次元の場合に直観的に説明したものである。<math>p \in \mathbb{R}</math>に対し、

: <math>p=f'(x_0) </math>

となる<math>x_0\in\mathbb{R}</math>を取り、点{{Mvar|x{{sub|0}}}}における<math>y=f(x)</math>の接線

: <math>y=f'(x_0)x - f^*  </math>

を考えると、この接線が接点<math>(x_0,f(x_0))</math>を通る事から、

: <math>f^* = f(x_0) - f'(x_0)x_0  </math><math>= f(x_0) - px_0</math><math> = f^*(p)</math>

が従う。したがってルジャンドル変換は接線<math>y=f'(x_0)x - f^*  </math>の{{Mvar|y}}切片<math>-f^*</math>にマイナスをつけたものである。

次に{{Mvar|f}}が滑らかとは限らない場合のルジャンドル変換の振る舞いを見る。有限の値しか取らない凸関数{{Mvar|f}}に対し、{{Mvar|f}}は全点で連続であり{{Efn2|より一般に（∞も取りうる）凸関数{{Mvar|f}}に対し<math>\mathrm{dom}f=\{x \in\mathbb{R}^n\mid f(x) \neq \pm \infty\}</math>とすると、<math>\mathrm{dom}f</math>の[[内部 (位相空間論)|内点]]{{Mvar|x}}で{{Mvar|f}}は連続である{{Sfn|Borwein|Lewis|2006|p=66}}。<br/>なお、「<math>\mathrm{dom}f</math>の内点」という条件は必須である。例えば
<math>
f(x)=
\begin{cases}
x^2 & \text{if } x \ge 0\\
\infty & \text{otherwise}
\end{cases}
</math>
は原点<math>x=0</math>において連続ではないし、左側方向微分も存在しない。}}、しかも任意の<math>d\in\mathbb{R}^n</math>に対し{{Mvar|x}}における{{Mvar|d}}方向の（片側）[[方向微分]]
: <math>\lim_{t\to +0}{f(x+td)-f(x) \over t} </math>

が存在し、有現値である事が知られている{{Efn2|より一般に、<math>x\in\mathrm{core}(\mathrm{dom}f)</math>における任意の方向の片側方向微分が存在する{{Sfn|Borwein|Lewis|2006|p=34}}。<math>\mathrm{core}</math>の定義は[[凸共役]]の項目を参照されたい。}}（上式で{{Mvar|t}}が正の方向から{{Mvar|0}}に近づけていることに注意。負の方向から{{Mvar|0}}に近づけたものとは値が異なることもあり得る{{Efn2|例えば<math>y=|x|</math>の<math>x=0</math>における方向微分。}}）。

特に、（有限値しか取らない）凸関数{{Mvar|f}}の定義域が１次元の場合は、左側方向微分<math>f'(x-0)</math>と右側方向微分<math>f'(x+0)</math>はいずれも存在して有限値である。これらを使って1次元のルジャンドル変換は以下のようにも特徴づけられる：
{{math theorem|定理|<math>f~:~ \mathbb{R}\to\mathbb{R}</math>を（有限の値しか取らない）凸関数し、<math>p\in \mathbb{R}</math>とする。このとき、<math>x\in\mathbb{R}^n</math>を
: <math>f'(x - 0) \leq p \leq f'(x + 0)</math>
を満たす値とすると、以下が成立する{{sfn|清水|2007|p=223}}：
: <math>f^*(x) = px - f(x)</math>
|note=1次元の滑らかとは限らない凸関数に対するルジャンドル変換の特徴づけ}}
前の定理と同様、そのような{{mvar|x}}がそもそも存在しない場合もあるし、複数存在する場合にはどの{{mvar|x}}であっても<math>f^*(x) = px - f(x)</math>は同じ値になる。

== 性質 ==
{{節スタブ|1=多変数関数のルジャンドル変換の性質|date=2019-01}}

=== 二重共役 ===
{{math|±∞}}を取らない凸関数は２回ルジャンドル変換を取るともとに戻る：{{math theorem|定理|（{{math|±∞}}を取らない）凸関数<math>f~:~\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}</math>は<math>f^{**}=f</math>を満たす{{Sfn|Borwein|Luke|2013|p=23}}。}}なお<math>f</math>が{{math|±∞}}を取る場合であっても、<math>f</math>が恒等的に{{math|∞}}ではない場合、<math>x \in X</math>において<math>f^{**}(x)=f(x)</math>を満たす必要十分条件は、<math>f</math>が<math>x</math>において[[半連続|下半連続]]な事であることが示せる{{Sfn|Borwein|Luke|2013|p=23}}。凸関数は<math>\{x\in\mathbb{R}^n\mid f(x) \neq \pm \infty\}</math>の[[内部 (位相空間論)|内点]]で連続であることが知られているので、下半連続性が問われるのは[[境界 (位相空間論)|境界点]]だけである{{Sfn|Borwein|Lewis|2006|p=66}}。

条件を満たさない場合、<math>f^{**}</math>は<math>f</math>に一致するとは限らない{{sfn|田崎|2000|p=272}}。条件を満たさない場合の詳細は[[凸共役]]の項目を参照されたい。

=== 滑らかな関数に対する変換 ===
また、{{mvar|f}} もそのルジャンドル変換 {{math|''f'' {{sup|*}}}} も2階微分可能なら、両者は逆数の関係にある{{sfn|清水|2007|p=225}}。すなわち
:<math display="block">
f''(x)f^*{''}(p) = 1 \,.
</math>
ただし {{mvar|x}} と {{mvar|p}} は {{math2|1=''p'' = ''f''&prime;(''x'')}} を満たすとする。
:

=== ヤングの不等式 ===
以下の不等式が成り立つ。この種の不等式は[[ヤングの不等式]]と呼ばれる。
:<math display="block">
f^*(p) + f(x) \geq px \,.
</math>
[[#定義|ルジャンドル変換の定義]]より、
:<math display="block">
f^*(p) = \sup_x(px - f(x)) \geq px - f(x)
</math>
であるから、{{math|''f''(''x'')}} を両辺に足せば上述の不等式が成り立つ。

=== その他 ===
* {{math|''f'' (''x'')}} が下(上)に凸なら {{math|''f'' {{sup|*}}(''p'')}} も下(上)に凸。すなわちルジャンドル変換は凸性を保持する{{sfn|清水|2007|p=225}}。
* {{math|''f'' (''x'')}} の[[半微分可能性|左微分]]と右微分が異なる（ {{math|''f'' (''x'')}} が折れ線となる）点は、{{math|''f'' {{sup|*}}(''p'')}} が {{math|''p''}} に関して1次関数（直線）となる領域に対応する。逆に {{math|''f'' (''x'')}} が {{math|''x''}} に関して直線となる領域は {{math|''f'' {{sup|*}}(''p'')}} が折れ線となる点に対応する{{sfn|清水|2007|p=240}}。これは感覚的には、<math>f''(x)\to\infty</math> と <math>f^*{''}(p)\to 0</math> が対応するとも解釈できる。
*象徴的に書けば、以下のように {{math|''x''}} と {{math|''p''}} について対称な関係がある。
*:<math>p=\frac{\mathrm{d}f}{\mathrm{d}x},\qquad x=\frac{\mathrm{d}f^*}{\mathrm{d}p}</math>
* {{math|''f'' (''x'')}} の逆関数 {{math|''f'' {{sup|-1}} (''x'')}} のルジャンドル変換は以下である（後述の[[ヘルムホルツエネルギー]]と{{仮リンク|label=マシュー関数|マシュー関数 (熱力学)|en|Massieu function}}の関係などに応用がある）。
*: <math>(f^{-1})^*(p) = -pf^*(1/p).</math>

=== 多変数関数 ===
多変数関数に対しては、その一部の変数に関してだけのルジャンドル変換を考えることができる。

2変数関数 {{math|''f''(''x'', ''y'')}} を {{mvar|x}} についてルジャンドル変換した関数を {{math|''f''{{sup|*}}(''p'', ''y'')}} とする。このとき、変換されない変数 {{mvar|y}} はスペクテータと呼ばれる{{sfn|二間瀬|綿村|2010|p={{要ページ数|date=2023-10-03}}}}。スペクテータ {{math|''y''}} による偏微分はルジャンドル変換の影響を受けない。すなわち次式が成り立つ{{sfn|二間瀬|綿村|2010|p={{要ページ数|date=2023-10-03}}}}：
:<math display="block">
\left(\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\right)_x
= -\left(\frac{\partial f^*(p,y)}{\partial y}\right)_p \,.
</math>

== 応用例 ==
=== 熱力学 ===
[[画像:Guggenheim square.svg|thumb|ルジャンドル変換で繋がっている[[熱力学関数]]とその変数のまとめ。]]
{{See also|熱力学ポテンシャル}}
[[熱力学]]では、熱力学関数間の変換、すなわち[[内部エネルギー]] {{math|''U''(''S'', ''V'')}} を[[エンタルピー]] {{math|''H''(''S'', ''p'')}}、[[自由エネルギー|ヘルムホルツの自由エネルギー]] {{math|''F''(''T'', ''V'')}} に、またそれらから[[自由エネルギー|ギブスの自由エネルギー]] {{math|''G''(''T'', ''p'')}} に変換する際にルジャンドル変換が用いられる。
: <math display="block">
\begin{align}
H(S,p) &= U(S,V) + pV, \\
F(T,V) &= U(S,V) - TS, \\
G(T,p) &= H(S,p) - TS  \\
       &= F(T,V) + pV  \\
       &= U(S,V) + pV - TS \,.
\end{align}
</math>
ここで、{{mvar|V}}：[[体積]]、{{mvar|p}}：[[圧力]]、{{mvar|S}}：[[エントロピー]]、{{mvar|T}}：[[温度]]である。{{math|''U''}} が {{math|''S'', ''V''}} について下に凸である{{sfn|清水|2007|p=99}}ため、{{math|''U''(''S'', ''V'')}}, {{math|''H''(''S'', ''p'')}}, {{math|''F''(''T'', ''V'')}}, {{math|''G''(''T'', ''p'')}} はルジャンドル変換を介して互いに等価である（同じ情報を持つ）。

ただしここではルジャンドル変換は
: <math display="block">
f^\dagger(p) = f(x) - xp
  \quad \text{ at } x
  \text{ such that } f'(x - 0) \leq p \leq f'(x + 0)
</math>
という定義が用いられる{{sfn|清水|2007|p=227}}。この定義でも上に述べた性質はほぼ同様に成り立つが、符号や凸性の変化などがある。たとえば逆変換は
: <math display="block">
f(x) = f^\dagger(p) + xp
</math>
に変わるという不便さがある。しかし多変数関数をこの定義で変換した場合、凸性の上下については、変換した変数についてのみ逆転し残りの変数についてはもとのまま保持されるという簡便さがある。

熱力学では導関数の不連続性は[[相転移]]として現れる。

=== 解析力学 ===
{{See also|シンプレクティック幾何学}}
[[画像:Lagrangian and Equation of motion.jpg|thumb|解析力学におけるルジャンドル変換に{{仮リンク|Thermodynamic square|en|Thermodynamic square}}を適用したときのオイラー＝ラグランジュ方程式。]]
[[画像:Hamiltonian and Equation of motion.jpg|thumb|{{仮リンク|Thermodynamic square|en|Thermodynamic square}}を適用したときの正準方程式。]]

[[解析力学]]では、[[ラグランジアン]] {{mvar|L}} を[[ハミルトニアン]] {{mvar|H}} に変換する際に、ルジャンドル変換が用いられる。座標を {{mvar|q}} としたときに[[運動量#解析力学における運動量|正準運動量]]を {{math|1=''p'' = &part;''L''/&part;{{dot|''q''}}}} として、ハミルトニアンは
: <math display="block">
H = \dot{q}p - L
</math>
と[[定義]]される{{sfn|須藤|2010|p=42}}。これによって、{{math|''L''(''q'', {{dot|''q''}})}} から {{math|''H''(''q'', ''p'')}} になる。
実際これは以下の関係を満たす。
:<math display="block">
\frac{\partial H}{\partial \dot{q}}
= p - \frac{\partial L}{\partial \dot{q}}
= 0 \,.
</math>

このハミルトニアンと[[オイラー＝ラグランジュ方程式]]あるいは[[最小作用の原理]]を組み合わせることで[[正準方程式]]が導かれる{{sfn|須藤|2010|p=43}}。
ハミルトニアンの全微分は、
: <math display="block">
\mathrm{d}H = \frac{\partial H}{\partial p}\mathrm{d}p 
  + \frac{\partial H}{\partial q}\mathrm{d}q 
  + \frac{\partial H}{\partial t}\mathrm{d}t
</math>
と書けるが、一方でハミルトニアンの定義より、
: <math display="block">
\begin{align}
\mathrm{d}H 
&= p\mathrm{d}\dot{q}
   + \dot{q}\mathrm{d}p
   - \frac{\partial L}{\partial q}\mathrm{d}q
   - \frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\mathrm{d}\dot{q}
   - \frac{\partial L}{\partial t}\mathrm{d}t \\
&= p\mathrm{d}\dot{q}
   + \dot{q}\mathrm{d}p 
   - \dot{p}\mathrm{d}q
   - p\mathrm{d}\dot{q}
   - \frac{\partial L}{\partial t}\mathrm{d}t \\
&= \dot{q}\mathrm{d}p 
   - \dot{p}\mathrm{d}q
   - \frac{\partial L}{\partial t}\mathrm{d}t
\end{align}
</math>
となるので、ハミルトニアンの[[偏微分]]は以下の関係を満たす。この内、正準変数 {{mvar|p}}, {{mvar|q}} の偏微分に関する式をまとめて'''正準方程式''' ({{en|canonical equations}}) と呼ぶ。
: <math display="block">
\begin{cases}
& \dfrac{\partial H}{\partial p} = \dot{q} \\
& \dfrac{\partial H}{\partial q} = -\dot{p} \\
& \dfrac{\mathrm{d} H}{\mathrm{d} t} = -\dfrac{\partial L}{\partial t}
\end{cases}
</math>

逆にハミルトニアンからラグランジアンを得る場合には、関数 {{mvar|L}} を以下のように定義し、
: <math display="block">
L = \dot{q}p - H
</math>
変数 {{mvar|p}} に対する偏微分が 0 になるようにする。すなわち、
: <math display="block">
\frac{\partial L}{\partial p}
= \dot{q} - \frac{\partial H}{\partial p}
= 0 \,.
</math>
結局このとき変数 {{math|{{dot|''q''}}}} はハミルトニアンの運動量微分に等しくなる。

多変数の場合には、ラグランジアンのすべての[[一般化座標|一般化速度]]についてルジャンドル変換を施したものがハミルトニアンと呼ばれる。また部分的にルジャンドル変換をしたものは{{仮リンク|ラウシアン|en|Routhian}} ({{en|Routhian}}) と呼ばれる{{sfn|須藤|2010|p=47}}。

=== 正準変換 ===
{{See|正準変換#母関数による構成}}

== 具体例 ==
{{See also|凸共役性#代表的な凸共役の表}}

=== 滑らかな関数の例 ===
最も簡単な例として特異性のない関数を挙げる{{sfn|田崎|2000|p=275}}。定数 {{math2|1=''s'' &gt; 1}} に対して
: <math display="block">
f(x)   = \frac{\;x^s}{s} \,, \quad x > 0
</math>
とする。この関数 {{mvar|f}} は下に凸かつ十分滑らかである。関数 {{mvar|f}} のルジャンドル変換 {{math|''f''{{sup|*}}}} は
: <math display="block">
f^*(p) = \frac{\;p^t}{t} \,, \quad p > 0
</math>
となる。ただし {{mvar|t}} は {{math2|1={{sfrac|1|''s''}} + {{sfrac|1|''t''}} = 1}} を満たす定数である。この例では {{math|''f''(''x'')}} と {{math|''f'' {{sup|*}}(''p'')}} は対称な形となる。特に {{math2|1=''s'' = ''t'' = 2}} の場合、{{math2|1=''f''(''x'') = {{sfrac|''x''{{sup|2}}|2}}}} はルジャンドル変換で形を変えない。

=== 導関数に定数となる領域がある例 ===
{{math|''f'' (''x'')}} がある区間で1次関数（直線）となる例を挙げる{{sfn|清水|2007|p=234}}。
: <math display="block">
f(x) = \begin{cases}
  \frac{x^3 + x}{4}
    & (0 <    x < 1), \\
  x - \frac{1}{2}
    & (1 \leq x < 2), \\
  \frac{x^2}{2} - x + \frac{3}{2}
    & (2 \leq x).
\end{cases}
</math>
導関数 {{math|''f''{{'}}(''x'')}} が全領域で連続、かつ {{math2|1 &lt; ''x'' &lt; 2}} で定数 {{math2|1=''f''{{'}}(''x'') = 1}} であることに注意する。この関数のルジャンドル変換は {{math2|1=''p'' = 1}} で折れ線となり、
: <math display="block">
f^*(p) = \begin{cases}
  \frac{1}{2}\left(\frac{4p - 1}{3}\right)^{3/2}
    & (\frac{1}{4} <    p < 1), \\
  \frac{1}{2}(p^2 + 2p - 2)
    & (1           \leq p)
\end{cases}
</math>
となる。

=== 斉次関数 ===
{{math|''f''(''x'')}} が {{mvar|k}} 次の[[斉次関数]]であるなら、そのルジャンドル変換は
:<math display="block">
\frac{\partial f}{\partial x}x - f = (k-1)f
</math>
である{{sfn|菅野|1996|p=152}}。特に {{math2|1=''k'' = 1}} のとき、{{math|''f''(''x'')}} のルジャンドル変換は 0 となる。

== 注釈 ==
{{Notelist2}}

== 出典 ==
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
<!-- 表示の調整のために cite-* テンプレートの引数 first/last を引数 author に置き換えないでください。sfn テンプレートによるページ内参照が機能しなくなります。-->
* {{Cite book|和書|last=田崎|first=晴明|authorlink=田崎晴明|title=熱力学 現代的な視点から|series=新物理学シリーズ 32|publisher=培風館|edition=初版|date=2000-4-12|page=302|isbn=9784563024321|ref=harv}} 付録 H. Legendre 変換、pp.270-278.
* {{Cite book|和書|last=須藤|first=靖|authorlink=須藤靖|title=解析力学・量子論|publisher=[[東京大学出版会]]|date=2010-8-20|edition=第 2 版|page=274|isbn=9784130626101|ref=harv}} 5.2 ルジャンドル変換、pp.45-47.
* {{Cite book|和書|last=清水|first=明|title=熱力学の基礎|publisher=東京大学出版会|year=2007|isbn=978-4-13-062609-5|ref=harv |pages=221-254}}
* {{Cite book|和書|last=菅野 |first=礼司 |title=微分形式による特殊相対論 |publisher=丸善 |year=1996 |isbn=4-621-04262-9 |ref=harv |page=152}}
* {{Cite book|和書|last=二間瀬 |first=敏史 |last2=綿村 |first2=哲 |title=解析力学と相対論 |publisher=朝倉書店 |year=2010 |isbn=978-4-254-13772-9 |ref=harv |page=}}
* {{cite book |last1=Borwein |first1=Jonathan |authorlink1=:en:Jonathan Borwein |last2=Lewis |first2=Adrian |title=Convex Analysis and Nonlinear Optimization: Theory and Examples |edition=2 |year=2006 |publisher=Springer |isbn=978-0-387-29570-1 |ref=Borwein}}
* {{Cite web |url=https://num.math.uni-goettingen.de/~r.luke/publications/Duality.pdf |title=Duality and Convex Programming |access-date=2025/01/30 |publisher=[[ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン|ゲッティンゲン大学]] |author=Jonathan M. Borwein and D. Russell Luke |year=2013}}

== 関連項目 ==
* [[劣微分]]

== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|1179|ルジャンドル変換の意味と具体例}}

{{Physics-stub}}

{{DEFAULTSORT:るしやんとるへんかん}}
[[Category:熱力学]]
[[Category:ハミルトン力学]]
[[Category:物理数学]]
[[Category:変換 (数学)]]
[[Category:シンプレクティック幾何学]]
[[Category:凸解析]]
[[Category:アドリアン＝マリ・ルジャンドル]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]]