ルート系のソースを表示

{{about|数学におけるルート系|[[植物]]の根系|根}}

{{Lie groups |Semi-simple}}

[[数学]]において，'''ルート系'''（{{lang-en-short|root system}}，{{lang-fr-short|système de racines}}）とはある幾何学的な性質を満たす[[ユークリッド空間]]の[[ベクトル空間|ベクトル]]の配置である．これは[[リー群]]や[[リー環]]の理論において基本的な概念である．リー群（や[[代数群]]のような類似物）やリー環は20世紀の間に数学の多くの部分で重要になってきたから，ルート系の一見すると特別な性質に反してそれらは多くの分野に応用される．さらに，[[ディンキン図形]]によるルート系の分類体系は（{{仮リンク|特異点論|en|Singularity theory}}のような）リー理論とあからさまなつながりの全くない数学の分野において現れる．最後に，ルート系は[[スペクトルグラフ理論]]におけるように，それ自身重要である<ref>{{cite journal | url = http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0024379502003774 | doi=10.1016/S0024-3795(02)00377-4 | volume=356 | title=Graphs with least eigenvalue −2; a historical survey and recent developments in maximal exceptional graphs | journal=Linear Algebra and its Applications | pages=189–210}}</ref>．

==定義と基本的な例==
[[File:Root system A2 with labels.png|class=skin-invert-image|right|thumb|250px|ルート系 {{math|A<sub>2</sub>}} の6つのベクトル．]]
最初の例として，図に示されているような，2次元[[ユークリッド空間]] {{math|'''R'''{{sup|2}}}} における6つのベクトルを考える．これらのベクトルは空間全体を[[線型包|張る]]．任意のルート {{mvar|&beta;}} に[[垂直]]な直線を考えると，その直線による {{math|'''R'''<sup>2</sup>}} の鏡映は任意の他のルート {{mvar|&alpha;}} を別のルートに写す．さらに，写り先は {{math|''α'' + ''nβ''}} に等しい，ただし {{mvar|n}} は整数である（この場合 {{mvar|n}} は {{math|1}} である）．これら6つのベクトルは以下の定義を満たし，したがってルート系をなす；このルート系は {{math|A<sub>2</sub>}} と呼ばれる．

===定義===
{{mvar|V}} を有限次元[[ユークリッド空間|ユークリッド]][[ベクトル空間]]とし，{{math|(・, ・)}} を標準[[ドット積|ユークリッド内積]]とする．{{mvar|V}} の'''ルート系''' (root system) とは，非零ベクトルの有限集合 {{math|Φ}} であって，以下の条件を満たすもののことである{{sfn|Bourbaki|2002|loc=Ch. VI, {{google books quote|id=2CSYFcgAlRMC|page=155|Section 1}}}}{{sfn|Humphreys|1972|p={{google books quote|id=mSD4DvUFa6QC|page=42|42}}}}：
{{ordered list|start=1
| 集合 {{math|Φ}} はベクトル空間 {{mvar|V}} を[[線型包|張る]]．
| 任意の {{math|''x'' ∈ Φ}} に対して，その実数倍で {{math|Φ}} に属するものは {{math|&plusmn;''x''}} のみ．
| 任意の {{math|''x'' ∈ Φ}} に対して，集合 {{math|Φ}} は {{mvar|x}} に垂直な[[超平面]]を通る[[鏡映]]で閉じている．
| （'''整数性'''）任意の {{math|''x'', ''y'' &isin; Φ}} に対して，{{mvar|x}} を通る直線への {{mvar|y}} の射影は {{mvar|x}} の半整数倍である．
}}
条件3と4を書く同値な方法は以下である：

{{ordered list|start=3
| 任意の {{math|''x'', ''y'' &isin; Φ}} に対して，集合 {{math|Φ}} は元 <math>\sigma_x(y) =y-2\tfrac{(x,y)}{(x,x)}x </math> を含む．
| 任意の {{math|''x'', ''y'' &isin; Φ}} に対して，数 <math> \langle y, x \rangle := 2 \tfrac{(x,y)}{(x,x)}</math> は[[整数]]である．
}}

ルート系 {{math|Φ}} に含まれるベクトルは'''ルート'''（root）と呼ばれる．著者によってはルート系の定義に条件2と3のみを課す{{sfn|Humphreys|1992|p={{google books quote|id=ODfjmOeNLMUC|page=6|6}}}}．この文脈では，整数性（条件4）も満たすルート系は'''結晶的'''（crystallographic）と呼ばれる{{sfn|Humphreys|1992|p={{google books quote|id=ODfjmOeNLMUC|page=39|39}}}}．別の著者は条件 2 を省く；このとき条件 2 を満たすルート系は'''被約'''（reduced）と呼ばれる{{sfn|Humphreys|1972|p={{google books quote|id=mSD4DvUFa6QC|page=43|43}}}}．この記事では，すべてのルート系は被約かつ結晶的と仮定する．

性質3より，整数性条件は次のように述べても同値である：{{mvar|&beta;}} とその鏡映 {{math|''σ''<sub>''α''</sub>(''β'')}} との差は {{mvar|&alpha;}} の整数倍である．性質4によって定義される演算

:<math> \langle \cdot, \cdot \rangle \colon \Phi \times \Phi \to \mathbb{Z}</math>

は内積ではないことに注意．対称であるとは限らず，第一変数についてのみ線型である．
{| class="wikitable" align="right" width=300
|+'''階数 2 のルート系'''
|- align=center
| [[Image:Root system A1xA1.svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 A<sub>1</sub> + A<sub>1</sub>]]
| [[Image:Root system D2.svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 D<sub>2</sub>]]
|- align=center BGCOLOR="#ddd"
| ルート系 A{{sub|1}} &times; A{{sub|1}}<BR>{{Dynkin|node_n1|2|node_n2}}
| ルート系 D{{sub|2}}<BR>{{Dynkin|nodes}}
|- align=center
| [[Image:Root system A2.svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 A<sub>2</sub>]]
| [[Image:Root system G2.svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 G<sub>2</sub>]]
|- align=center BGCOLOR="#ddd"
| ルート系 A<sub>2</sub><BR>{{Dynkin|node_n1|3|node_n2}}
| ルート系 G<sub>2</sub><BR>{{Dynkin|node_n1|6a|node_n2}}
|- align=center
| [[Image:Root system B2.svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 B<sub>2</sub>]]
| [[Image:Root system C2 (fixed).svg|class=skin-invert-image|150px|ルート系 C<sub>2</sub>]]
|- align=center BGCOLOR="#ddd"
| ルート系 B<sub>2</sub><BR>{{Dynkin|node_n1|4a|node_n2}}
| ルート系 C<sub>2</sub><BR>{{Dynkin|node_n1|4b|node_n2}}
|}
ルート系 {{math|&Phi;}} の'''階数''' (rank) は {{mvar|V}} の次元である．

2つのルート系は，それらの張るユークリッド空間を共通のユークリッド空間の互いに直交する部分空間と見ることで，つなげることができる．そのような結合から生じないルート系は'''既約''' (irreducible) といわれる．例えば右に描かれているルート系 A<sub>2</sub>, B<sub>2</sub>, G<sub>2</sub> は既約である．

2つのルート系 {{math|(''E''<sub>1</sub>, Φ<sub>1</sub>)}} と {{math|(''E''<sub>2</sub>, Φ<sub>2</sub>)}} が'''同型''' (isomorphic) であるとは，可逆な線型変換 {{math|''E''{{sub|1}} &rarr; ''E''{{sub|2}}}} であって，{{math|&Phi;{{sub|1}}}} と {{math|&Phi;{{sub|2}}}} に送り，ルートの各対に対して，数 {{math|&lang;''x'', ''y''&rang;}} が保たれるものが存在することをいう{{sfn|Humphreys|1972|p={{google books quote|id=mSD4DvUFa6QC|page=43|43}}}}．

ルート系 {{math|&Phi;}} のルートに直交する超平面による鏡映によって生成される {{mvar|V}} の[[等長変換]]の[[群 (数学)|群]]
:<math> W = \langle\, \sigma_\alpha \mid \alpha \in \Phi \,\rangle </math>
を {{math|&Phi;}} の'''[[ワイル群]]'''と呼ぶ．ワイル群は有限集合 {{math|&Phi;}} に[[群作用|忠実に作用する]]から，必ず有限群である．

ルート系 {{math|&Phi;}} の'''{{Anchors|ルート格子}}ルート格子''' (root lattice) とは，{{math|&Phi;}} で生成される {{mvar|V}} の部分 {{math|'''Z'''}} 加群である．それは {{mvar|V}} の[[格子 (離散部分群)|格子]]である．

===階数 2 の例===

階数 1 のルート系は1つしかない，すなわち2つの非零ベクトルからなる {{math|{{mset|''&alpha;'', &minus;''&alpha;''}}}} である．このルート系は {{math|A{{sub|1}}}} と呼ばれる．

階数 2 では，{{math|1=''&sigma;''{{sub|''&alpha;''}}(''&beta;'') = ''&beta;'' + ''n&alpha;''}}, {{math|1=''n'' = 0, 1, 2, 3}} に応じて，4つの可能性がある{{sfn|Hall|2015|loc=Proposition 8.8}}．ルート系はそれが生成する格子によっては決定されないことに注意：{{math|A{{sub|1}} &times; A{{sub|1}}}} と {{math|B{{sub|2}}}} はともに[[正方格子]]を生成するし，{{math|A{{sub|2}}}} と {{math|G{{sub|2}}}} はともに{{仮リンク|六角格子|en|hexagonal lattice}}を生成する．5種類ある[[格子 (群)#2次元格子：詳細な議論|2次元格子]]のうち2つだけである．

{{math|Φ}} が {{mvar|V}} のルート系で，{{mvar|U}} が {{math|1=Ψ = Φ ∩ ''U''}} で張られる {{mvar|V}} の[[部分線型空間|部分空間]]であるときにはいつでも，{{math|Ψ}} は {{mvar|U}} のルート系である．したがって，階数 2 の4つのルート系の完全なリストは，任意の階数のルート系から選ばれた任意の2つのルートの幾何学的可能性を示している．特に，2つのそのようなルートの角度は，必ず 0, 30, 45, 60, 90, 120, 135, 150, 180 度のいずれかである．

==歴史==
ルート系の概念は最初1889年頃[[ヴィルヘルム・キリング]] (Wilhelm Killing) によって導入された（ドイツ語，''Wurzelsystem''{{sfn|Killing|1889}}）{{sfn|Bourbaki|1998|p=270}}．彼は[[複素数]][[可換体|体]]上のすべての[[単純リー環]]を分類しようとしたときにそれらを用いた．キリングはもともと分類で間違いを犯していて，例外型の階数 4 のルート系を2つ挙げていたが，実際には1つしかなく，今では {{math|F<sub>4</sub>}} と呼ばれるものである．カルタンが後にこの誤りを，キリングの2つのルート系が同型であることを示すことで，訂正した{{sfn|Coleman|1989|p=34}}．

キリングは[[カルタン部分環]]（と今では呼ばれているもの）{{mvar|H}} を考えることによって，リー環 {{mvar|L}} の構造を研究した．そして彼は[[特性多項式]] {{math|det(ad{{sub|''L''}}''x'' &minus; ''t'')}}, ただし {{math|''x'' &isin; ''H''}}, の根を研究した．ここでここで「根」(root) は {{mvar|H}} の関数として考える，あるいは実際[[双対ベクトル空間]] {{math|''H''{{sup|&lowast;}}}} の元として考える．根のこの集合は上で定義されたように {{math|''H''{{sup|&lowast;}}}} のルート系をなす，ただし内積は[[キリング形式]]である{{sfn|Bourbaki|1998|p=270}}．

==ルート系の公理の初等的な結果==
[[Image:Integrality of root systems.svg|class=skin-invert-image|thumb|500px|right|{{math|&lang;''&beta;'', ''&alpha;''&rang;}} に対する整数性条件は垂直線の1つの上の {{mvar|&beta;}} に対してしか満たされず，{{math|&lang;''&alpha;'', ''&beta;''&rang;}} に対する整数性条件は赤い円の1つの上の {{mvar|&beta;}} に対してしか満たされない．（{{mvar|Y}}&nbsp;軸上の）{{mvar|&alpha;}} に直交する任意の {{mvar|&beta;}} は自明に両方を {{math|0}} で満たすが，既約ルート系を定義しない．<br>鏡映を法として，与えられた {{mvar|&alpha;}} に対し，{{mvar|&beta;}} の非自明な可能性は5つしかなく，単純ルートの集合において {{mvar|&alpha;}} と {{mvar|&beta;}} の間の可能な角度は3つしかない．サブスクリプトの文字は，与えられた {{mvar|&beta;}} が最初のルートとして，{{mvar|&alpha;}} が二番目のルートとして（あるいは {{math|F{{sub|4}}}} における中2つのルートとして）仕えることができるようなルート系の列に対応する．]]
<!--
The integrality condition also means that the ratio of the lengths (magnitudes) of any two non-perpendicular roots cannot be 2 or greater, since otherwise either the projection of the shorter root onto the longer root will be less than half as long as the longer root, or the shorter root will be exactly half the longer root or its negative.
-->

2つのルートの間の角度の余弦は整数の平方根の[[半整数]]倍に制限される．なぜならば，{{math|&lang;''&beta;'', ''&alpha;''&rang;}} と {{math|&lang;''&alpha;'', ''&beta;''&rang;}} はともに仮定により整数で，

:<math>\begin{align}
\langle \beta, \alpha \rangle \langle \alpha, \beta \rangle
&= 2 \frac{(\alpha,\beta)}{(\alpha,\alpha)} \cdot 2 \frac{(\alpha,\beta)}{(\beta,\beta)}
= 4 \frac{(\alpha,\beta)^2}{\vert \alpha \vert^2 \vert \beta \vert^2} \\
&= 4 \cos^2(\theta) = (2\cos(\theta))^2 \in \mathbb{Z}
\end{align}</math>

であるからである．

{{math|2cos''&theta;'' &isin; [−2, 2]}} であるから，{{math|cos''&theta;''}} として可能な値は {{math2|1=0, ±1/2, ±{{sqrt|3}}/2, ±{{sqrt|4}}/2 = ±1}} のみであり，対応する角度は {{math|90°}}, {{math|60°}} あるいは {{math|120°}}, {{math|45°}} あるいは {{math|135°}}, {{math|30°}} あるいは {{math|150°}}, {{math|0°}} あるいは {{math|180°}}, である．条件2により {{mvar|&alpha;}} のスカラー倍でルートになるのは {{math|1}} 倍と {{math|−1}} 倍だけであり，{{math|0°}} あるいは {{math|180°}} で，これらの角度は {{math|2''α''}} や {{math|−2''α''}} には対応しない．

==正ルートと単純ルート==
ルート系 {{math|Φ}} が与えられると，必ず，'''正ルート'''（positive root）の集合を（何通りも）取ることができる．これは {{math|&Phi;}} の部分集合 {{math|&Phi;{{sup|+}}}} であって，以下を満たすものである：
* 各ルート {{math|''&alpha;'' &isin; &Phi;}} に対して，ルート {{math|''&alpha;''}} と {{math|&minus;''&alpha;''}} のうちちょうど1つが {{math|&Phi;{{sup|+}}}} に含まれる．
* 任意の2つの相異なる {{math|''&alpha;'', ''&beta;'' &isin; &Phi;{{sup|+}}}} であって {{math|''&alpha;'' + ''&beta;''}} がルートであるものに対して，{{math|''&alpha;'' + ''&beta;'' &isin; &Phi;{{sup|+}}}} である．

正ルートの集合 {{math|&Phi;{{sup|+}}}} が選ばれると， {{math|&minus;&Phi;{{sup|+}}}} の元は'''負ルート'''（negative root）と呼ばれる．

{{math|&Phi;{{sup|+}}}} の元が'''単純ルート'''（simple root）であるとは，{{math|&Phi;{{sup|+}}}} の2つの元の和で書けないことをいう．単純ルート全体の集合 {{math|&Delta;}} は {{mvar|V}} の基底であって，{{math|&Phi;}} の任意のベクトルが係数がすべて非負かすべて非正の {{math|&Delta;}} の元の線型結合であるという性質を持つ{{sfn|Hall|2015|loc=Theorem 8.16}}．正ルートの各選択に対して，対応する単純ルートの集合は次のような一意的なルートの集合 {{math|&Delta;}} である：正ルート全体はちょうど，非負係数の {{math|&Delta;}} の元の線型結合として表せるもの全体であり，これらの線型結合は一意である．

===ルートの半順序===
[[File:E6HassePoset.svg|class=skin-invert-image|thumb|300px|{{math|E{{sub|6}}}} ルート半順序集合の[[ハッセ図]]．辺のラベルは足された単純ルートの位置．]]
正ルート全体の集合は {{math|''&alpha;'' &le; ''&beta;''}} を {{math|''&beta;'' &minus; ''&alpha;''}} が単純ルートの非負線型結合であることとして自然に順序付けられる．この[[半順序集合]]は
:<math>\operatorname{deg}\biggl(\sum_{\alpha \in \Delta} \lambda_\alpha \alpha\biggr)
= \sum_{\alpha \in \Delta}\lambda_\alpha</math>
によって{{仮リンク|次数付き半順序|en|Graded poset|label=次数付けられ}}，多くの注目すべき組合せ論的性質を持つ．その1つはこの半順序集合から対応する[[ワイル群]]の基本不変式の次数を決定できることである{{sfn|Humphreys|1992|loc=Theorem 3.20}}．ハッセグラフはルート半順序集合の順序の可視化である．

==双対ルート系とコルート==
{{see also|{{仮リンク|ラングランズ双対群|en|Langlands dual group}}}}
{{math|Φ}} が {{mvar|V}} のルート系であるとき，ルート {{mvar|&alpha;}} の'''コルート''' {{math|''α''<sup>∨</sup>}} は

:<math>\alpha^\vee= {2\over (\alpha,\alpha)}\, \alpha</math>

によって定義される．コルートの集合も {{mvar|V}} のルート系 {{math|Φ<sup>∨</sup>}} をなし，'''双対ルート系'''（あるいはときどき''逆ルート系''）と呼ばれる．定義により {{math|1=(''α''{{sup|∨}}){{sup|∨}} = ''α''}} であるから，{{math|Φ}} は {{math|Φ<sup>∨</sup>}} の双対ルート系である．{{math|Φ<sup>∨</sup>}} で張られる {{mvar|V}} の格子は''コルート格子''と呼ばれる．{{math|Φ}} と {{math|Φ<sup>∨</sup>}} は同じ[[ワイル群]] {{mvar|W}} を持ち，{{math|''s'' &isin; ''W''}} に対して，

:<math> (s\alpha)^\vee= s(\alpha^\vee)</math>

である．{{math|Δ}} が {{math|Φ}} の単純ルートの集合であれば，{{math|Δ<sup>∨</sup>}} は {{math|Φ<sup>∨</sup>}} の単純ルートの集合である{{sfn|Hall|2015|loc=Proposition 8.18}}．

==ディンキン図形によるルート系の分類==
[[File:Finite Dynkin diagrams.svg|480px|thumb|すべての既約ディンキン図形の絵]]

ルート系が既約であるとは，2つの真の部分集合の和集合 {{math|1=&Phi; = &Phi;{{sub|1}} &cup; &Phi;{{sub|2}}}} であって，すべての {{math|''&alpha;'' &isin; &Phi;{{sub|1}}}} と {{math|''&beta;'' &isin; &Phi;{{sub|2}}}} に対して {{math|1=(''&alpha;'', ''&beta;'') = 0}} となるようなものに分割できないことをいう．

既約ルート系は{{仮リンク|イェヴゲニ・ディンキン|en|Eugene Dynkin}}にちなんで名づけられている'''[[ディンキン図形]]'''という[[グラフ (離散数学)|グラフ]]と[[全単射|対応する]]．これらのグラフの分類は単純な[[組合せ論]]であり，既約ルート系の分類をもたらす．

ルート系が与えられたとき，前の節にあるように単純ルートの集合 {{math|Δ}} を選ぶ．付随するディンキン図形の頂点は {{math|Δ}} のベクトルに対応する．ベクトルの直交しない各対の間に辺が描かれる．なす角度が {{math|2''&pi;''/3}} ラジアンのときは，無向の一重辺であり，{{math|3''&pi;''/4}} のときは有向二重辺であり，{{math|5''&pi;''/6}} のときは有向三重辺である．「有向辺」という用語は二重・三重辺は短い方のベクトルを指す記号が付けられることを意味する．

与えられたルート系の単純ルートの集合の可能性は1つではないが，[[ワイル群]]はそのような選び方に推移的に作用する<ref>これは {{harvnb|Hall|2015}} Proposition 8.23 から従う．</ref>．したがって，ディンキン図形は単純ルートたちの選び方には依らず，ルート系自身によって決定される．逆に，同じディンキン図形をもつ2つのルート系が与えられると，基底のルートから合わせ始めて，2つが実は同じであることを示すことができる．

したがってルート系の分類の問題は可能なディンキン図形の分類の問題に帰着する．ルート系が既約であることとそのディンキン図形が連結であることは同値である．ディンキン図形は基底 {{math|Δ}} のことばで {{mvar|E}} の内積の情報を持っており，この内積が[[正定値双線型形式|正定値]]でなければならないという条件は所望の分類を得るのに必要なすべてであることが判明する．

実際の連結図形は以下のとおりである．サブスクリプトは図形の頂点の個数（したがって対応する既約ルート系の階数）を指し示す．

==既約ルート系の性質==
{|border=1 cellpadding=4  align="right" style="margin: 1em; text-align: center; border-collapse: collapse;"
!{{math|&Phi;}} || {{math|{{mabs|&Phi;}}}} || {{math|{{mabs|&Phi;{{sup|<}}}}}} || {{mvar|I}} || {{mvar|D}} || {{math|{{mabs|''W''}}}}
|-
|A<sub>''n''</sub> (''n''&nbsp;≥&nbsp;1) || ''n''(''n''&nbsp;+&nbsp;1) || &nbsp; ||&nbsp; || ''n''&nbsp;+&nbsp;1 || (''n''&nbsp;+&nbsp;1)!
|-
|B<sub>''n''</sub> (''n''&nbsp;≥&nbsp;2) || 2''n''<sup>2</sup> || 2''n''||  2  || 2 || 2<sup>''n''</sup> ''n''!
|-
|C<sub>''n''</sub> (''n''&nbsp;≥&nbsp;3) || 2''n''<sup>2</sup> || 2''n''(''n''&nbsp;&minus;&nbsp;1)||  2<sup>''n''&minus;1</sup>  || 2 || 2<sup>''n''</sup> ''n''!
|-
|D<sub>''n''</sub> (''n''&nbsp;≥&nbsp;4) || 2''n''(''n''&nbsp;&minus;&nbsp;1) || &nbsp;||&nbsp; || 4 || 2<sup>''n''&nbsp;&minus;&nbsp;1</sup> ''n''!
|-
|{{仮リンク|E6 (数学)|en|E6 (mathematics)|label=E<sub>6</sub>}} || 72 || &nbsp; ||&nbsp;|| 3 || 51840	
|-
|{{仮リンク|E7 (数学)|en|E7 (mathematics)|label=E<sub>7</sub>}} || 126 || &nbsp; ||&nbsp;|| 2 || 2903040	
|-
|{{仮リンク|E8 (数学)|en|E8 (mathematics)|label=E<sub>8</sub>|preserve=1}} || 240 || &nbsp;||&nbsp; || 1 || 696729600
|-
|{{仮リンク|F4 (数学)|en|F4 (mathematics)|label=F<sub>4</sub>}} || 48 || 24||  4  || 1 || 1152
|-
|{{仮リンク|G2 (数学)|en|G2 (mathematics)|label=G<sub>2</sub>}} || 12 || 6 ||  3  || 1 || 12
|}

既約ルート系は対応する連結ディンキン図形にしたがって名づけられる．4つの無限族（A<sub>''n''</sub>, B<sub>''n''</sub>, C<sub>''n''</sub>, D<sub>''n''</sub> で，'''古典型ルート系'''と呼ばれる）と5つの例外的な場合（'''例外型ルート系'''）が存在する<ref>{{citation|first=Brian C.|last=Hall|title=Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction |publisher=Springer|year=2003|isbn=0-387-40122-9}}.</ref>．サブスクリプトはルート系の階数を意味する．

既約ルート系において長さ {{math|(''α'', ''α'')<sup>1/2</sup>}} の値は高々2種類であり，'''短い'''ルートと'''長い'''ルートである．すべてのルートが同じ長さを持っているときは長いと定義し，ルート系は '''simply laced''' といわれる．これは A, D, E の場合におこる．同じ長さの任意の2つのルートはワイル群の同じ軌道に入る．Simply laced でない場合 B, C, G, F では，ルート格子は短いルートによって張られ，長いルートは部分格子を張り，これはワイル群で不変で，コルート格子の {{math|''r''<sup>2</sup>/2}} 倍に等しい，ただし {{mvar|r}} は長いルートの長さである．

添付の表において，{{math|{{mabs|Φ<sup>&lt;</sup>}}}} は短いルートの個数を表し，{{mvar|I}} は長いルートによって生成される部分格子のルート格子における指数を表し，{{mvar|D}} は[[カルタン行列]]の行列式を表し，{{math|{{mabs|''W''}}}} はワイル群の位数を表す．

==既約ルート系の明示的な構成==

===A<sub>''n''</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ '''A'''<sub>'''3'''</sub>
|-
! ||e<sub>1</sub>||e<sub>2</sub>||e<sub>3</sub>||e<sub>4</sub>
|- align=right
! α<sub>1</sub>
|1||&minus;1||0||0
|- align=right
! α<sub>2</sub>
|0||1||&minus;1||0 
|- align=right
! α<sub>3</sub>
||0||0||1||&minus;1 
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=5 align=center|{{Dynkin2|node_n1|3|node_n2|3|node_n3}}
|}
{{mvar|V}} を座標の和が {{math|0}} になる {{math|'''R'''<sup>''n''+1</sup>}} の部分空間とし，{{math|Φ}} を {{mvar|V}} の長さ {{math|{{sqrt|2}}}} の''整数ベクトル''すなわち {{math|'''R'''<sup>''n''+1</sup>}} において整数座標を持つベクトル全体の集合とする．そのようなベクトルは2つを除くすべての座標が {{math|0}} で，1つの座標は {{math|1}} で，1つは {{math|−1}} でなければならず，したがって全部で {{math|''n''<sup>2</sup> + ''n''}} 個のルートがある．単純ルートの取り方の1つを[[標準基底]]で表すと：{{math|1 &le; ''i'' &le; ''n''}} に対して {{math|1='''α'''<sub>''i''</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}}.

{{math|'''α'''<sub>''i''</sub>}} に垂直な[[超平面]]を通る[[鏡映]] {{mvar|σ<sub>i</sub>}} は隣り合う {{mvar|i}} 番目と {{math|(''i'' + 1)}} 番目の[[置換 (数学)|置換]]と同じである．そのような[[互換 (数学)|互換]]は全[[置換群]]を生成する．隣り合う単純ルートに対して，
:{{math|1=''σ''<sub>''i''</sub>('''α'''<sub>''i''+1</sub>) = '''α'''<sub>''i''+1</sub> + '''α'''<sub>i</sub>}}
:{{math|1== ''σ''<sub>''i''+1</sub>('''α'''<sub>''i''</sub>) = '''α'''<sub>''i''</sub> + '''α'''<sub>''i''+1</sub>}}
である，つまり，鏡映は1倍を足すことに等しい．しかし，隣り合わない単純ルートに垂直な単純ルートの鏡映はそれを変えず，0倍を引くことである．

{{math|A<sub>''n''</sub>}} ルート格子，つまり {{math|A{{sub|''n''}}}} ルートによって生成される格子は，成分の和が {{math|0}} である {{math|'''R'''<sup>''n''+1</sup>}} の整数ベクトルの集合として最も容易に記述される．

{{math|A<sub>3</sub>}} ルート格子は結晶学者に'''面心立方''' ('''fcc''')（あるいは'''[[立方晶系|立方]]最密'''）格子と呼ばれている<ref>[[John Horton Conway|Conway, John Horton]]; [[Neil Sloane|Sloane, Neil James Alexander]]; & Bannai, Eiichi. ''Sphere packings, lattices, and groups''.  Springer, 1999, Section 6.3.</ref>．
[[File:A3vzome.jpg|class=skin-invert-image|thumb|[[ゾム]]ツール・システムにおける {{math|A{{sub|3}}}} ルート系の模型．]]
{{math|A<sub>3</sub>}} ルート系は（他の階数 3 のルート系も）ゾムツール・[[ゾム|コンストラクション・セット]]で模型を作れる{{sfn|Hall|2015|loc=Section 8.9}}．

===B<sub>''n''</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ '''B'''<sub>'''4'''</sub>
|-
| &nbsp;1||−1||0||0
|-
|0|| &nbsp;&nbsp;1||−1||0 
|-
|0||0|| &nbsp;&nbsp;1||−1 
|-
|0||0|| 0||&nbsp;&nbsp;1
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=4 align=center|{{Dynkin2|node_n1|3|node_n2|3|node_n3|4b|node_n4}}
|}
{{math|1=''V'' = '''R'''<sup>''n''</sup>}} とし，{{math|Φ}} を {{mvar|V}} の長さ {{math|1}} か {{math|{{sqrt|2}}}} のすべての整数ベクトルからなるとする．ルートの総数は {{math|2''n''<sup>2</sup>}} である．単純ルートたちの1つの選び方は：{{math|1 ≤ ''i'' ≤ ''n'' &minus; 1}} に対して {{math|1='''α'''<sub>i</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> &minus; '''e'''<sub>''i''+1</sub>}} と（{{math|'''A'''{{sub|''n'' − 1}}}} に対する上の単純ルートの取り方），短ルート {{math|1='''α'''<sub>''n''</sub> = '''e'''<sub>''n''</sub>}} である．

短ルート {{math|'''α'''{{sub|''n''}}}} に垂直な超平面に関する鏡映 {{mvar|σ<sub>n</sub>}} はもちろん単に {{mvar|n}} 番目の座標の {{math|−1}} 倍である．長単純ルート {{math|'''α'''<sub>''n'' − 1</sub>}} に対し，{{math|1=''σ''<sub>''n''−1</sub>('''α'''<sub>''n''</sub>) = '''α'''<sub>''n''</sub> + '''α'''<sub>''n''−1</sub>}} であるが，短ルートに垂直な鏡映に対しては，{{math|1=''σ<sub>n</sub>''('''α'''<sub>''n''−1</sub>) = '''α'''<sub>''n''−1</sub> + 2'''α'''<sub>''n''</sub>}} であり，1倍ではなく2倍である．

{{math|B<sub>''n''</sub>}} ルート格子，つまり，{{math|B<sub>''n''</sub>}} ルートによって生成される格子は，すべての整数ベクトルからなる．

{{math|B<sub>1</sub>}} は {{math|{{sqrt|2}}}} によるスケーリングによって，{{math|A<sub>1</sub>}} に同型であり，したがって異なるルート系ではない．

===C<sub>''n''</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ '''C'''<sub>'''4'''</sub>
|-
| &nbsp;1||−1||0||0
|-
|0|| &nbsp;&nbsp;1||−1||0 
|-
|0||0|| &nbsp;&nbsp;1||−1 
|-
|0||0|| 0||&nbsp;&nbsp;2
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=4 align=center|{{Dynkin2|node_n1|3|node_n2|3|node_n3|4a|node_n4}}
|}
{{math|1=''V'' = '''R'''<sup>''n''</sup>}} とし，{{math|Φ}} を長さ {{math|{{sqrt|2}}}} の {{mvar|V}} のすべての整数ベクトルと，{{mvar|λ}} を長さ {{math|1}} の整数ベクトルとして {{math|2''λ''}} の形のすべてのベクトルからなるとする．ルートの総数は {{math|2''n''<sup>2</sup>}} である．単純ルートの1つの選び方は：{{math|1 ≤ ''i'' ≤ ''n'' &minus; 1}} に対して {{math|1='''α'''<sub>''i''</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}} と（'''A'''{{sub|''n'' − 1}} に対する単純ルートの上の選び方），長い方のルート {{math|1='''α'''<sub>''n''</sub> = 2'''e'''<sub>''n''</sub>}} である．

鏡映 {{math|1=''σ<sub>n</sub>''('''α'''<sub>''n''−1</sub>) = '''α'''<sub>''n''−1</sub> + '''α'''<sub>''n''</sub>}} であるが，{{math|1=''σ''<sub>''n''−1</sub>('''α'''<sub>''n''</sub>) = '''α'''<sub>''n''</sub> + 2'''α'''<sub>''n''−1</sub>}} である．

{{math|C<sub>''n''</sub>}} ルート格子，つまり {{math|C<sub>''n''</sub>}} ルートによって生成される格子は，成分の和が偶数な整数ベクトル全てからなる．

{{math|C<sub>2</sub>}} は {{math|{{sqrt|2}}}} によるスケーリングと 45 度の回転によって {{math|B<sub>2</sub>}} と同型であり，したがって相異なるルート系ではない．

[[File:Root vectors b3 c3-d3.png|class=skin-invert-image|400px]]<BR>ルート系 {{math|1=B<sub>3</sub>, C<sub>3</sub>, A<sub>3</sub> = D<sub>3</sub>}} を[[立方体]]と[[正八面体]]の中の点として描いたもの

===D<sub>''n''</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ '''D'''<sub>'''4'''</sub>
|- valign=top
| &nbsp;1||−1||0||0
|-
|0|| &nbsp;1||−1||0 
|-
|0||0|| &nbsp;1||−1 
|-
|0||0|| &nbsp;1||&nbsp;&nbsp;1
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=4 align=center|[[File:DynkinD4 labeled.png|80px]]<!--{{Dynkin2|node_n1|3|branch|3|node_n3}}-->
|}
{{math|1=''V'' = '''R'''<sup>''n''</sup>}} とし，{{math|Φ}} を長さ {{math|{{sqrt|2}}}} の {{mvar|V}} のすべての整数ベクトルからなるとする．ルートの総数は {{math|2''n''(''n'' − 1)}} である．単純ルートたちの1つの選び方は：{{math|1 ≤ ''i'' &lt; ''n'' − 1}} に対して {{math|1='''α'''<sub>i</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}} と（A{{sub|''n'' − 1}} に対する単純ルートの上の選び方），{{math|1='''α'''<sub>''n''</sub> = '''e'''<sub>''n''</sub> + '''e'''<sub>''n''−1</sub>}} である．

{{math|'''α'''{{sub|''n''}}}} に垂直な超平面を通る鏡映は隣り合う {{mvar|n}} 番目と {{math|''n'' − 1}} 番目の座標を{{仮リンク|互換 (数学)|label=入れ替え|en|Transposition (mathematics)}} {{math|−1}} 倍するのと同じである．任意の単純ルートと別の単純ルートに垂直なその鏡映との差は二番目のルートの0倍か1倍であり，それより大きくはない．

{{math|D<sub>''n''</sub>}} ルート格子，つまり，{{math|D<sub>''n''</sub>}} ルートによって生成される格子は，成分の和が偶数であるような整数ベクトル全部からなる．これは {{math|C<sub>''n''</sub>}} ルート格子と同じである．

{{math|D<sub>3</sub>}} は {{math|A<sub>3</sub>}} と一致し，したがって相異なるルート系ではない．

{{math|D<sub>4</sub>}} は {{仮リンク|triality|en|triality}} と呼ばれる追加の対称性を持つ．

===E<sub>6</sub>, E<sub>7</sub>, E<sub>8</sub>===

{| class=wikitable width=675 center
|[[File:E6Coxeter.svg|200px]]<BR>{{仮リンク|1 22 polytope|en|1 22 polytope|label=1<sub>22</sub>}} の 72 個の頂点は {{仮リンク|E6 (数学)|en|E6 (mathematics)|label=E<sub>6</sub>}} のルートベクトルを表す<BR>（緑の頂点はこの E{{sub|6}} コクセター平面射影では倍増にされている）
|[[File:E7Petrie.svg|225px]]<BR>{{仮リンク|2 31 polytope|en|2 31 polytope|label=2<sub>31</sub>}} の 126 個の頂点は {{仮リンク|E7 (数学)|en|E7 (mathematics)|label=E<sub>7</sub>}} のルートベクトルを表す
|[[File:E8 graph.svg|250px]]<BR>{{仮リンク|4 21 polytope|en|4 21 polytope|label=4<sub>21</sub>}} の 240 個の頂点は {{仮リンク|E8 (数学)|en|E8 (mathematics)|label=E<sub>8</sub>|preserve=1}} のルートベクトルを表す
|- align=center
|[[File:DynkinE6AltOrder.svg|200px]]
|[[File:DynkinE7AltOrder.svg|225px]]
|[[File:DynkinE8AltOrder.svg|250px]]
|}
*{{math|E<sub>8</sub>}} ルート系は次の集合に[[合同 (幾何学)|合同]]な {{math|'''R'''<sup>8</sup>}} のベクトルの任意の集合である：
: <math>\mathrm{D}_8 \cup \left\{\frac12\sum_{i=1}^8 \varepsilon_i \mathbf{e}_i :
\varepsilon_i = \pm 1, \varepsilon_1 \dotsm \varepsilon_8 = +1 \right\}.</math>
このルート系は240個のルートを持つ．いま挙げた集合は，{{math|E<sub>8</sub>}} ルート格子の長さ {{math|{{sqrt|2}}}} のベクトル全部の集合である．この格子は単に {{仮リンク|E8格子|label={{math|E<sub>8</sub>}} 格子|en|E8 lattice}}や {{math|Γ<sub>8</sub>}} とも呼ばれる．これは {{math|'''R'''<sup>8</sup>}} の次のような点全体の集合である：
#すべての座標が[[整数]]であるか，あるいは，すべての座標が整数でない[[半整数]]であり，
#8つの座標の和は[[偶数]]である．
したがって，
:<math>\mathrm{E}_8 = \left\{ \mathbf{\alpha} \in \mathbf{Z}^8 \cup \left(\mathbf{Z} + \frac12\right)^8 :
| \mathbf{\alpha} |^2 = \sum \mathbf{\alpha}_i^2 = 2,
\sum \mathbf{\alpha}_i \in 2 \mathbf{Z} \right\}.</math>
* ルート系 {{math|E<sub>7</sub>}} は，{{math|E<sub>8</sub>}} の固定された1つのルートに垂直な {{math|E<sub>8</sub>}} のベクトル全部の集合である．ルート系 {{math|E<sub>7</sub>}} は126個のルートを持つ．
* ルート系 {{math|E<sub>6</sub>}} は，{{math|E<sub>7</sub>}} の固定された1つのルートに垂直な {{math|E<sub>7</sub>}} のベクトル全部の集合ではない，実際，そのようにして {{math|D<sub>6</sub>}} を得る．しかしながら，{{math|E<sub>6</sub>}} は {{math|E<sub>8</sub>}} の適切に選ばれた2つのルートに垂直な {{math|E<sub>8</sub>}} の部分系である．ルート系 {{math|E{{sub|6}}}} は72個のルートを持つ．

{| align=right style="text-align: right; border: 1px gray solid" cellspacing=0
|+ E<sub>8</sub> の単純ルート: 偶座標
|-
| 1||−1||0||0||0||0||0||0
|-
|0|| 1||−1||0||0||0||0||0 
|-
|0||0|| 1||−1||0||0||0||0 
|-
|0||0||0|| 1||−1||0||0||0 
|-
| 0||0||0||0|| 1||−1||0||0 
|-
|0||0||0||0||0|| 1||−1||0 
|-
|0||0||0||0||0||1|| 1||0 
|- 
| −½||−½||−½||−½||−½||−½||−½||−½
|}
特に便利な {{math|E<sub>8</sub>}} 格子の別の記述は，{{math|'''R'''<sup>8</sup>}} のつぎのような全ての点の集合 {{math|Γ'<sub>8</sub>}} である：
*すべての座標は整数であり，座標の和は偶数である，あるいは，
*すべての座標は整数でない半整数であり，座標の和は奇数である．
格子 {{math|Γ<sub>8</sub>}} と {{math|Γ'<sub>8</sub>}} は[[同型]]である；一方から他方へ，任意の奇数個の座標の符号を変えることによって行ける．格子 {{math|Γ<sub>8</sub>}} は {{math|E<sub>8</sub>}} の''偶座標系''と呼ばれることがあり，格子 {{math|Γ'<sub>8</sub>}} は''奇座標系''と呼ばれることがある．

{{math|E{{sub|8}}}} に対する単純ルートの1つの選び方は，上のディンキン図形での頂点の順序によって行を順序づけた偶座標系において：
:{{math|1 ≤ ''i'' ≤ 6}} に対して {{math|1='''α'''<sub>''i''</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}} と
:{{math|1='''α'''<sub>7</sub> = '''e'''<sub>7</sub> + '''e'''<sub>6</sub>}}
（ {{math|D{{sub|7}}}} に対する単純ルートの上の選び方）と
:{{math|1='''α'''<sub>8</sub> = '''β'''<sub>0</sub> = −{{sfrac|1|2}}&sum;{{subsup||''i''{{=}}1|8}}'''e'''{{sub|''i''}} = (−1/2, −1/2, −1/2, −1/2, −1/2, −1/2, −1/2, −1/2)}}.
{| align=right style="text-align: right; border: 1px gray solid" cellspacing=0
|+ E<sub>8</sub> の単純ルート: 奇座標
|-
| 1||−1||0||0||0||0||0||0
|-
|0|| 1||−1||0||0||0||0||0 
|-
|0||0|| 1||−1||0||0||0||0 
|-
|0||0||0|| 1||−1||0||0||0 
|-
| 0||0||0||0|| 1||−1||0||0 
|-
|0||0||0||0||0|| 1||−1||0 
|-
|0||0||0||0||0||0|| 1||−1 
|- 
| −½||−½||−½||−½||−½||&nbsp;½||&nbsp;½||&nbsp;½
|}
{{math|E{{sub|8}}}} に対する単純ルートの1つの選び方は，上のディンキン図形での頂点の順序によって行を順序づけた奇座標系において：
:{{math|1 ≤ ''i'' ≤ 7}} に対して {{math|1='''α'''<sub>''i''</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}}
（{{math|A{{sub|7}}}} に対する単純ルートの上の選び方）と
:{{math|1='''α'''<sub>8</sub> = '''β'''<sub>5</sub>}}, ただし
:{{math|1='''β'''<sub>''j''</sub> = {{sfrac|1|2}}(−&sum;{{subsup||''i''{{=}}1|''j''}}'''e'''{{sub|''i''}} + &sum;{{subsup||''i''{{=}}''j''+1|8}}'''e'''{{sub|''i''}})}}.
（{{math|'''β'''<sub>3</sub>}} を使っても同型な結果を与える．{{math|'''β'''<sub>1,7</sub>}} あるいは {{math|'''β'''<sub>2,6</sub>}} を使うと単に {{math|A<sub>8</sub>}} あるいは {{math|D{{sub|8}}}} を与える．{{math|'''β'''<sub>4</sub>}} については，その座標の和は {{math|0}} であり，同じことは {{math|'''α'''<sub>1...7</sub>}} に対しても正しく，したがってそれらは座標の和が {{math|0}} になる 7 次元部分空間しか張らない；実は {{math|−2'''β'''<sub>4</sub>}} は基底 {{math|('''α'''<sub>''i''</sub>)}} において座標 {{math|(1, 2, 3, 4, 3, 2, 1)}} を持つ．）

{{math|'''α'''<sub>1</sub>}} との直交性は最初の2つの座標が等しいことを意味するから，{{math|E<sub>7</sub>}} は最初の2つの座標が等しい {{math|E<sub>8</sub>}} の部分集合であり，同様に {{math|E<sub>6</sub>}} は最初の3つの座標が等しい {{math|E<sub>8</sub>}} の部分集合である．これは {{math|E<sub>7</sub>}} と {{math|E<sub>6</sub>}} の明示的な定義を容易にする：

:E<sub>''7''</sub> = {'''α''' ∈  '''Z'''<sup>7</sup> ∪ ('''Z'''+½)<sup>7</sup>''' : ''' ∑'''α'''<sub>i</sub><sup>2</sup> + '''α'''<sub>1</sub><sup>2</sup> = 2, ∑'''α'''<sub>i</sub> + '''α'''<sub>1</sub> ∈ 2'''Z'''},
:E<sub>''6''</sub> = {'''α''' ∈  '''Z'''<sup>6</sup> ∪ ('''Z'''+½)<sup>6</sup>''' : ''' ∑'''α'''<sub>i</sub><sup>2</sup> + 2'''α'''<sub>1</sub><sup>2</sup> = 2, ∑'''α'''<sub>i</sub> + 2'''α'''<sub>1</sub> ∈ 2'''Z'''}.

{{math|'''α'''<sub>1</sub>}} を消して {{math|'''α'''<sub>2</sub>}} を消すと，{{math|E<sub>7</sub>}} と {{math|E<sub>6</sub>}} の単純ルートの集合を与えることに注意．しかしながら，単純ルートのこれらの集合は上に書いたのとは異なる {{math|E<sub>8</sub>}} の {{math|E<sub>7</sub>}} および {{math|E<sub>6</sub>}} 部分空間に属する，なぜならばそれらは {{math|'''α'''<sub>1</sub>}} あるいは {{math|'''α'''<sub>2</sub>}} に直交しないからである．

===F<sub>4</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ F<sub>4</sub> の単純ルート
|-
| 1||−1||0||0
|-
|0|| 1||−1||0 
|-
|0||0|| 1||0 
|-
| −½||−½||−½||−½
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=4 align=center|{{Dynkin2|node_n1|3|node_n2|4b|node_n3|3|node_n4}}
|}
[[File:F4 roots by 24-cell duals.svg|100px|left|thumb|{{仮リンク|コクセター平面|en|Coxeter plane}}で見た，{{仮リンク|正二十四胞体|en|24-cell|preserve=1}}とその双対の頂点によって定義された，F{{sub|4}} の 48 個のルートベクトル]]
{{math|F<sub>4</sub>}} に対して，{{math|1=''V'' = '''R'''<sup>4</sup>}} とし，{{math|Φ}} を長さが {{math|1}} か {{math|{{sqrt|2}}}} のベクトル {{mvar|α}} であって {{math|2''α''}} の座標がすべて整数ですべて偶数かすべて奇数なもの全体の集合とする．この系には48個のルートがある．単純ルートの1つの選び方は：{{math|B{{sub|3}}}} に対して上で与えられた単純ルートの選び方と，{{math|1='''α'''<sub>4</sub> = −(1/2)&sum;{{subsup||''i''{{=}}1|4}} ''e{{sub|i}}''}}.
<!--
\left (
\begin{smallmatrix}
  +1&-1&0&0 \\ 0&+1&-1&0 \\ 0&0&+1&0 \\ -\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}
\end{smallmatrix}
\right )
-->

{{math|F<sub>4</sub>}} ルート格子，つまり {{math|F<sub>4</sub>}} ルート系によって生成される格子は，{{math|'''R'''{{sub|4}}}} の点であってすべての座標が整数であるかまたはすべての座標が整数でない半整数であるようなもの全体の集合である．この格子は{{仮リンク|フルヴィッツ四元数|en|Hurwitz quaternions}}の格子に同型である．

===G<sub>2</sub>===
{| align=right class=wikitable
|+ G<sub>2</sub> の単純ルート
|-
| 1||&nbsp;−1||&nbsp;&nbsp;0
|-
| −1||2||−1
|- BGCOLOR ="#ddd"
|colspan=3 align=center|{{Dynkin2|node_n1|6a|node_n2}}
|}
ルート系 {{math|G<sub>2</sub>}} は12個のルートを持ち，[[六芒星]]の頂点をなす．[[#階数2の例|上]]の絵を参照．

単純ルートの1つの選び方は：{{math|1=('''α'''<sub>1</sub>, '''β''' = '''α'''<sub>2</sub> − '''α'''<sub>1</sub>)}}, ただし {{math|1=''i'' = 1, 2}} に対して {{math|1='''α'''<sub>''i''</sub> = '''e'''<sub>''i''</sub> − '''e'''<sub>''i''+1</sub>}} は {{math|A{{sub|2}}}} に対する単純ルートの上の選び方である．

{{math|G<sub>2</sub>}} ルート格子，つまり，{{math|G<sub>2</sub>}} ルートによって生成される格子は，{{math|A{{sub|2}}}} ルート格子と同じである．

==ルート系とリー理論==
既約ルート系はリー理論におけるいくつかの関連した対象を分類する，特に
*以下を含む単純[[リー群]]（{{仮リンク|単純リー群一覧|en|list of simple Lie groups}}を参照）：
**複素[[単純リー群]]；
**付随する複素[[単純リー環]]；
**中心で割って単純な[[単連結]]複素リー群．
各場合において，ルートは[[リー環の随伴表現|随伴表現]]の非零[[ウェイト (表現論)|ウェイト]]である．

[[極大トーラス]] {{mvar|T}} をもつ単連結単純コンパクトリー群 {{mvar|G}} の場合には，ルート格子は自然に {{math|Hom(''T'', '''T''')}} と同一視でき，コルート格子は {{math|Hom('''T''', ''T'')}} とできる，ただし {{math|'''T'''}} は[[円周群]]である；{{harvtxt|Adams|1983}} を参照．

例外型ルート系とそれらのリー群とリー環との関係は，{{仮リンク|E8 (数学)|en|E8 (mathematics)|label=E<sub>8</sub>|preserve=1}}, {{仮リンク|E7 (数学)|en|E7 (mathematics)|label=E<sub>7</sub>}}, {{仮リンク|E6 (数学)|en|E6 (mathematics)|label=E<sub>6</sub>}}, {{仮リンク|F4 (数学)|en|F4 (mathematics)|label=F<sub>4</sub>}}, {{仮リンク|G2 (数学)|en|G2 (mathematics)|label=G<sub>2</sub>}} を参照．

{{Exceptional Lie groups}}

==関連項目==
*{{仮リンク|ADE分類|en|ADE classification}}
*[[アファインルート系]]
*{{仮リンク|コクセター・ディンキン図形|en|Coxeter–Dynkin diagram}}
*[[コクセター群]]
*[[コクセター行列]]
*[[ディンキン図形]]
*{{仮リンク|ルートデータ|en|root datum}}
*[[半単純リー環のルート系]]
*[[ワイル群]]

==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|30em}}

==参考文献==
*{{citation|first=J.F.|last=Adams|authorlink=Frank Adams|title=Lectures on Lie groups|publisher= University of Chicago Press|year= 1983|isbn=0-226-00530-5}}
*{{citation|first=Nicolas|last= Bourbaki|authorlink=Nicolas Bourbaki| title=Lie groups and Lie algebras, Chapters 4&ndash;6 (translated from the 1968 French original by Andrew Pressley)|series= Elements of Mathematics|publisher= Springer-Verlag|year= 2002|isbn=3-540-42650-7}}. The classic reference for root systems.
*{{cite book |title=Elements of the History of Mathematics |last1=Bourbaki |first1=Nicolas |authorlink1=Nicolas Bourbaki |year= 1998 |publisher=Springer |isbn=3540647678 |ref=harv }}
*{{citation|first=A.J.|last=Coleman|title=The greatest mathematical paper of all time|journal=The Mathematical Intelligencer|volume=11|date=Summer 1989|year=1989|issue=3|pages=29–38|doi=10.1007/bf03025189}}
*{{Citation| last=Hall|first=Brian C.|title=Lie groups, Lie algebras, and representations: An elementary introduction|edition=2nd|series=Graduate Texts in Mathematics|volume=222|publisher=Springer|year=2015|isbn=978-3-319-13466-6}}
*{{cite book |title=Reflection Groups and Coxeter Groups |last1=Humphreys |first1=James |year=1992 |publisher=Cambridge University Press |isbn=0521436133 |ref=harv }}
*{{cite book |title=Introduction to Lie algebras and Representation Theory |last1=Humphreys |first1=James |authorlink1=James E. Humphreys |year=1972 |publisher=Springer |isbn=0387900535 |ref=harv }}
*Killing, ''Die Zusammensetzung der stetigen endlichen Transformationsgruppen'' [[Mathematische Annalen]], [http://gdz.sub.uni-goettingen.de/index.php?id=11&PPN=PPN235181684_0031&DMDID=DMDLOG_0026&L=1 Part 1]: Volume 31, Number 2  June 1888, Pages 252-290 {{DOI|10.1007/BF01211904}}; [http://gdz.sub.uni-goettingen.de/index.php?id=11&PPN=PPN235181684_0033&DMDID=DMDLOG_0007&L=1 Part 2]: Volume 33, Number 1 March 1888, Pages 1–48 {{DOI|10.1007/BF01444109}}; [http://gdz.sub.uni-goettingen.de/index.php?id=11&PPN=PPN235181684_0034&DMDID=DMDLOG_0009&L=1 Part3]: Volume 34, Number 1  March 1889, Pages 57–122 {{DOI|10.1007/BF01446792}}; [http://gdz.sub.uni-goettingen.de/index.php?id=11&PPN=PPN235181684_0036&DMDID=DMDLOG_0019&L=1 Part 4]: Volume 36, Number 2  June 1890,Pages 161-189 {{DOI|10.1007/BF01207837}}
* {{citation|first=Victor G. |last= Kac |authorlink= Victor Kac |title= Infinite dimensional Lie algebras |year= 1994}}.
*{{cite book |title=Linear Algebraic Groups, Second Edition |last1=Springer |first1=T.A. |year=1998 |publisher=Birkhäuser |isbn=0817640215 }}

==関連文献==
* Dynkin, E. B.  ''The structure of semi-simple algebras.'' {{ru icon}} Uspehi Matem. Nauk (N.S.) 2, (1947). no. 4(20), 59&ndash;127.

==外部リンク==
&ensp;{{commonscat-inline|Root systems}}

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:るうとけい}}
[[Category:ユークリッド幾何学]]
[[Category:リー群論]]
[[Category:リー環論]]
[[Category:数学に関する記事]]