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[[抽象代数学]]における'''ワイル代数'''(ワイルだいすう、{{lang-en|''Weyl algebra''}})は[[多項式]]係数の[[微分作用素]]がなす非可換[[環 (数学)|環]]である。[[量子力学]]における[[ハイゼンベルクの不確定性原理]]の研究においてこの環を導入した[[ヘルマン・ワイル]]にちなみ、この名前が付けられている。ワイル代数は[[ハイゼンベルク群]]の[[リー環]]の[[リー環#リー環 (Lie ring)|普遍包絡環]]から、リー環の中心の生成元と普遍包絡環の単位元とを同一視して得られる商になっており、このことから'''ハイゼンベルク代数'''とも呼ばれる。 == 定義 == 以下 ''F'' を[[可換体|体]]とし、 ''F'' に係数を持ち ''X'' を変数とする一変数多項式環 ''F''[''X''] の元やその上の微分作用素を考える。多項式を係数とする微分作用素は一般に : <math>f_n(X) \partial_X^n + \cdots + f_1(X) \partial_X + f_0(X)</math> の形に書ける。これは変数 ''X'' に関する微分を ∂<sub>''X''</sub> とするとき、''X'' と ∂<sub>''X''</sub> とが ''F'' 上生成する多元環 ''W''(''X'') := ''F''[''X''; ∂<sub>''X''</sub>] の元である。[[微分法#一般公式|積の微分法則]](ライプニッツ則)により ∂<sub>''X''</sub>(''X''φ) = (1 + ''X''∂<sub>''X''</sub>)φ となるから、作用素として ''X'' と ∂<sub>''X''</sub> との間には : <math>\partial_X X = X\partial_X + 1 \iff [\partial_X, X]=1</math> という関係がある。この ''W''(''X'') はワイル代数と総称される多元環の無限系列の最初のものになっている。より一般に、''n''-次のワイル代数 ''A''<sub>''n''</sub> は ''n''-変数多項式係数の微分作用素が成す環 : <math>A_n := F[x_1,\ldots,x_n;\,\partial_1,\ldots,\partial_n]</math> であり、''A''<sub>''n''</sub> における基本関係式は : <math>[x_j,x_k] = 0, \quad[\partial_j,\partial_k] = 0, \quad[x_j,\partial_k] = -\delta_{jk}</math> で与えられる(δ<sub>''ij''</sub> は[[クロネッカーのデルタ]])。これは、多項式の各変数に関する微分に対して順次{{仮リンク|オア拡大|en|Ore extension}}を適用することによってワイル代数が構成されることをしめしている。 [[量子力学]]ではしばしば、生成元が物理量に対応する[[自己共役作用素]]となるように、複素数を係数として ∂ の代わりに <!--''i''ℎ∂--><math>\scriptstyle i\hbar\partial</math> を生成元としてワイル代数を定義する。 == 生成元と基本関係による構成 == 上で導入された代数''W''(''X'') は二つの生成元 ''X'', ''Y'' とそれらの間の関係 {{Indent|''YX'' − ''XY'' − 1}} によって自由に生成された線形環と見なせる。同様にして代数 ''A''<sub>''n''</sub> を生成元と基本関係によって抽象的に与えることもできる。''V'' を[[シンプレクティック形式]] ω を備えた 2''n''-次元ベクトル空間のとき、''V'' のワイル代数 ''W''(''V'') は、''V'' の[[テンソル代数]] ''T''(''V'') の、 ''v'' ⊗ ''w'' − ''w'' ⊗ ''v'' − ω(''v'', ''w'') の形の元によって生成される両側イデアル ''I''による商 {{Indent|<math>W(V) := T(V) / I</math>}} として定められる。言い換えれば ''W''(''V'') は ''V'' によって生成され、[''v'', ''w''] (:= ''vw'' − ''wv'') = ω(''v'', ''w'') のみを関係式とする多元環である。このとき、''W''(''V'') は、シンプレクティックベクトル空間に対して自然に定まるため、非退化なシンプレクティック形式 ω の取り方によらず''A''<sub>''n''</sub> に同型である。 ωが0だとすれば上の関係式はVの[[多重線型代数|対称代数]] ''S''(''V'') = Sym(''V'') を定めているので、ワイル代数 ''W''(''V'') は''S''(''V'') の量子化(非可換環への変形)と見なすことができる。 ''F''の標数が 0 だとすると、ワイル代数 ''W''(''V'') は、対称代数 Sym(''V'') の[[モイヤル積|モイヤル変形]]に自然同型である(ここではモイヤル積公式における定数 <math>\scriptstyle i\hbar</math> を 1 に取り替え、また ''V'' を張るベクトルを変数と見て対称代数を ''V''<sup>*</sup> 上の多項式函数と見なす)。この同型は Sym(''V'') から ''W''(''V'') への対称化作用素 {{Indent|<math>a_1 \cdots a_n \mapsto \frac{1}{n!} \sum_{\sigma \in S_n} a_{\sigma(1)} \otimes \cdots \otimes a_{\sigma(n)}</math>}} によって与えられる。 == 性質 == ワイル代数は[[単純環]]かつ[[整域]]になっている。 対称代数のワイル代数への量子化の類似物として、[[外積代数]]の量子化になっている[[クリフォード代数]]があげられる。 この量子化の ''n'' = 1 の場合(および、その[[フーリエ変換]]を用いた多項式函数を含む「ほとんどの」可積分函数への拡張)の詳細は[[ワイル量子化]]<sup>[[:en:Weyl quantization|en]]</sup>を見よ。 == 脚注 == <references/> == 参考文献 == * M. Rausch de Traubenberg, M. J. Slupinski, A. Tanasa, ''[https://arxiv.org/abs/math/0504224 Finite-dimensional Lie subalgebras of the Weyl algebra]'', (2005) ''(1次元ワイル代数の部分環を分類し、[[SL(2,C)]]との関係を示している。)'' * {{PlanetMath|urlname=WeylAlgebra|title=Weyl algebra}} {{DEFAULTSORT:わいるたいすう}} [[Category:多元環論]] [[Category:作用素環論]] [[Category:数学に関する記事]]
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