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'''ワッサースタイン計量'''(ワッサースタインけいりょう、{{Lang-en-short|Wasserstein metric}})とは、与えられた[[距離空間]] ''M''上の[[確率分布]]の間に定義される[[距離函数]]である。 直感的な説明としては、各分布を''M''上に堆積した土の単位量と見なすとき、ワッサースタイン計量とは一つの堆積を別の物へと移すときにかかる最小のコストである。そのようなコストは、移されるべき土の量に移す距離を掛けた値であるとされる。このアナロジーに従い、この計量は[[計算機科学]]の分野において{{仮リンク|Earth mover's distance|label=EMD|en|earth mover's distance}}(earth mover's distance)として知られている。 「ワッサースタイン計量」という名前は、この概念を1969年に導入した[[ロシア]]の[[数学者]]{{仮リンク|レオニード・ワッサースタイン|en|Leonid Nasonovich Vasershtein}}の名にちなみ、1970年に{{仮リンク|ローランド・ドブルシン|en|Roland Dobrushin}}によって付けられた。多くの[[英語]]の出版物においては[[ドイツ語]]のスペル "Wasserstein" が用いられている(これは、"Vasershtein" という名が[[ドイツ]]に起源を持つことに起因している)。 == 定義 == (''M'', ''d'') を、''M''上のすべての確率測度が[[ラドン測度]]であるような距離空間(いわゆる[[ラドン空間]])とする。''p'' ≥ 1 に対し、[[モーメント (数学)|有限''p''次モーメント]]を備える''M''上のすべての確率測度''μ''の系を '''''P'''''<sub>''p''</sub>(''M'') で表す。すなわち、そのような''μ''は''M''内のある''x''<sub>0</sub> に対して :<math>\int_{M} d(x, x_{0})^{p} \, \mathrm{d} \mu (x) < +\infty </math> を満たすようなものである。このとき、'''''P'''''<sub>''p''</sub>(''M'') に含まれる二つの確率測度''μ''と''ν''の間のワッサースタイン計量(ワッサースタイン距離)は、 :<math>W_{p} (\mu, \nu):=\left( \inf_{\gamma \in \Gamma (\mu, \nu)} \int_{M \times M} d(x, y)^{p} \, \mathrm{d} \gamma (x, y) \right)^{1/p} </math> で定義される。ここで Γ(''μ'', ''ν'') は第一変数と第二変数にそれぞれ[[周辺分布]]''μ''と''ν''を備える''M'' × ''M''上のすべての測度の系を表す。集合 Γ(''μ'', ''ν'') は''μ''と''ν''のすべての'''カップリング'''からなる集合とも呼ばれる。 上述の距離は通常 ''W''<sub>''p''</sub>(''μ'', ''ν'') ("Wasserstein"という綴りより)、あるいは ℓ<sub>''p''</sub>(''μ'', ''ν'') ("Vasershtein"という綴りより)の記号によって表される。この記事の残りの部分では''W''<sub>''p''</sub>を使用する。 ワッサースタイン計量には、次のような同値な定義も存在する。 :<math>W_{p} (\mu, \nu)^{p} = \inf \mathbf{E} \big[ d( X , Y )^{p} \big].</math> ここで '''E'''[''Z''] は[[確率変数]]''Z''の[[期待値]]を表し、[[下限]]はそれぞれ周辺分布''μ'' と''ν''を備える確率変数''X''と''Y''のすべての結合分布に対して取られる。 == 応用 == ワッサースタイン計量は、一つの変数がもう一方の(確率論的あるいは決定論的に)非一様な小さい摂動によって得られるような、二つの変数 ''X'' と ''Y'' の確率分布を比較する際に自然に用いられる。 例えば計算機科学の分野においては、二つの[[デジタル画像]]の{{仮リンク|色ヒストグラム|en|color histogram}}といった離散分布を比較する際に、ワッサースタイン計量 ''W''<sub>1</sub> が広く用いられている。詳細については{{仮リンク|Earth mover's distance|label=EMD|en|earth mover's distance}}を参照されたい。 == 性質 == === 距離構造 === ''W''<sub>''p''</sub> は、'''''P'''''<sub>''p''</sub>(''M'') 上の[[距離函数|距離]]の[[公理]]をすべて満たすことが示される。さらに、''W''<sub>''p''</sub> についての収束は、通常の{{仮リンク|測度の弱収束|en|weak convergence of measures}}に初めの ''p'' 次モーメント収束を加えたものと同値である。 === ''W''<sub>1</sub> の双対表現 === 次に挙げる ''W''<sub>1</sub> の双対表現は、[[レオニート・カントロヴィチ|カントロヴィチ]]とルビンスタインの双対定理(1958年)の特別な場合である:''μ'' と ''ν'' が[[有界集合|有界]]な[[台 (測度論)|台]]を持つとき、 :<math>W_{1} (\mu, \nu) = \sup \left\{ \left. \int_{M} f(x) \, \mathrm{d} (\mu - \nu) (x) \right| \mbox{continuous } f : M \to \mathbb{R}, \mathrm{Lip} (f) \leq 1 \right\} </math> が成立する。ここで Lip(''f'') は ''f'' に関する最小の[[リプシッツ連続|リプシッツ定数]]を表す。 これを、[[ラドン測度|ラドン計量]]の定義と比較する: :<math>\rho (\mu, \nu) := \sup \left\{ \left. \int_{M} f(x) \, \mathrm{d} (\mu - \nu) (x) \right| \mbox{continuous } f : M \to [-1, 1] \right\}.</math> もし計量 ''d'' がある定数 ''C'' によって抑えられているなら、 :<math>2 W_{1} (\mu, \nu) \leq C \rho (\mu, \nu) </math> が得られる。したがって、ラドン計量における収束(''M'' が[[ポーランド空間]]であるときの'''全変動収束'''に等しい)は、ワッサースタイン計量における収束を意味する。しかしその逆は一般には成り立たない。 === 可分性と完備性 === 任意の ''p'' ≥ 1 に対し、計量空間 ('''''P'''''<sub>''p''</sub>(''M''), ''W''<sub>''p''</sub>) が[[可分空間|可分]]および[[完備]]であるための十分条件は、(''M'', ''d'') が可分および完備であることである。 == 関連項目 == * [[レヴィ計量]] * [[レヴィ-プロホロフ計量]] * {{仮リンク|輸送理論|en|Transportation theory (mathematics)}} == 参考文献 == * {{cite book | author=Ambrosio, L., Gigli, N. & Savaré, G. | title=Gradient Flows in Metric Spaces and in the Space of Probability Measures | publisher=ETH Zürich, Birkhäuser Verlag | location=Basel | year=2005 | isbn=3-7643-2428-7 }} * {{cite journal | last = Jordan | first = Richard | coauthors = Kinderlehrer, David and [[:en:Felix Otto|Otto, Felix]] | title = The variational formulation of the Fokker-Planck equation | journal = SIAM J. Math. Anal. | volume = 29 | year = 1998 | pages = 1–17 (electronic) | issn = 0036-1410 | doi = 10.1137/S0036141096303359 |id = {{MathSciNet|id=1617171}} | issue = 1 }} * {{SpringerEOM|title=Wasserstein metric|author=Rüschendorf, L. |urlname=Wasserstein_metric}} {{DEFAULTSORT:わつさあすたいんけいりよう}} [[Category:統計的距離]] [[Category:測度論]] [[Category:確率論]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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