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三塩化リン
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{{Chembox |出典= |画像ファイル=Phosphorus trichloride.PNG |画像サイズ= |IUPAC名=Phosphorus trichloride |別称= |Section1= {{Chembox Identifiers |CAS番号=7719-12-2 |PubChem= |SMILES= }} |Section2={{Chembox Properties |化学式=PCl<sub>3</sub> |モル質量=137.33 g/mol |外観=無色液体 |密度=1.574 g/cm<sup>3</sup> |融点=−112 °C |沸点=74–78 °C |溶解度= }} |Section3={{Chembox Hazards |主な危険性= |NFPA-H=4 |NFPA-F=0 |NFPA-R=2 |NFPA-O=W |HPhrases={{H-phrases|300|330|314|373}} |引火点=不燃性 |発火点= }} }} '''三塩化リン'''(さんえんかリン)は[[リン]]の[[塩化物]]のひとつの[[無機化合物]]である<ref>''Handbook of Chemistry and Physics''; CRC Press: Ann Arbor, Michigan, 1990; 71st ed.</ref><ref>March, J. ''Advanced Organic Chemistry''; Wiley: New York, 1992; 4th ed., p. 723. ISBN 0471581488</ref><ref>''The Merck Index''; Merck & Co: Rahway, New Jersey, 1960; 7th ed.</ref>。毒性、腐食性を持ち、常温・常圧において液体である。[[水]]と激しく反応する。工業的に重要な化合物であり、[[除草剤]]、[[殺虫剤]]、[[可塑剤]]、油への添加剤、[[難燃剤]]の製造に使われている。[[還元剤]]であり、[[五塩化リン]]や[[塩化ホスホリル]]へと酸化される。毒物及び劇物取締法で毒物に指定されている<ref>[http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe2.cgi?MODE=hourei&DMODE=SEARCH&SMODE=NORMAL&KEYWORD=%93%c5%95%a8&EFSNO=741&FILE=FIRST&POS=0&HITSU=87 毒物及び劇物指定令 昭和四十年一月四日 政令第二号 第一条 六の十]</ref>。 ==物理的性質== [[四塩化炭素]]中で 0.8 D の[[電気双極子モーメント|双極子モーメント]]を持ち、Cl−P−Cl [[結合角]]は 100.27° である。液体状態での[[標準生成エンタルピー]]は −319.7 kJ/mol である。{{chem|31|P}} [[核磁気共鳴|NMR]] での化学シフト値は {{chem|H|3|PO|4}} を基準として 220 ppm である。 ==化学的性質== 三塩化リン中のリン原子は+3価、塩素原子は−1価の酸化状態をとっている。水と急速に、発熱的に反応して[[亜リン酸]] (ホスホン酸) と[[塩化水素]]を生成する。これと類似した反応は数多く知られており、最も重要なものは[[亜リン酸エステル]]が生成する[[アルコール]]や[[フェノール類]]との反応である。例えばフェノールとの反応では亜リン酸トリフェニルが生成する。 : <chem>3PhOH + PCl3 -> P(OPh)3 + 3HCl</chem> 上の式で Ph は[[フェニル基]]を示す。[[エタノール]]も[[トリエチルアミン]]のような[[塩基]]の存在下で同様に反応し、亜リン酸トリエチルを与える。 : <chem>3C2H5OH + PCl3 -> P(OC2H5)3 + 3HCl</chem> ただし塩基が存在しない場合はホスホン酸ジエチルと[[クロロエタン]]が生成する。 : <chem>3C2H5OH + PCl3 -> {(C2H5O)2P(=O)H} + C2H5Cl + 2HCl</chem> 他のアルコールとも同様に反応する。反応条件によっては[[ハロゲン化アルキル|塩化アルキル]]と[[亜リン酸]]のみが生成する。2級[[アミン]] <chem>R2NH</chem> との反応では亜リン酸トリアミド <chem>P(NR2)3</chem> が、[[チオール]]との反応ではトリチオ亜リン酸トリアルキル <chem>P(SR)3</chem> が得られる。三塩化リンと2級アミンの反応で工業的に関連するのはホスホノメチル化であり、三塩化リン、2級アミンと[[ホルムアルデヒド]]またはパラホルムアルデヒドを用いてアミノホスホン酸 {{chem|(HO)|2|P({{=}}O)CH|2|NR|2}} を合成する。アミノホスホン酸は[[金属封鎖剤]]や[[水垢防止剤]]として水質改善に広く用いられる。[[除草剤]][[ラウンドアップ|グリホサート]] (Glyphosate) もこの方法で大規模に製造されている。[[グリニャール試薬]]や[[有機リチウム]]試薬による置換反応で、[[トリフェニルホスフィン]]などの有機ホスフィン化合物を合成できる。 : <chem>3PhMgBr + PCl3 -> Ph3P + 3MgBrCl</chem> また、[[芳香環]]に直接置換反応を起こす。例えば[[ベンゼン]]と反応して <chem>PhPCl2</chem> を与える。 三塩化リンは非共有電子対を持っているため[[ルイス塩基]]として働く。例えば、ルイス酸 BBr<sub>3</sub> と 1:1 付加物 <chem>{Br3B^-} - PCl3+</chem> を形成する<ref>Holmes, R. R. ''J. Inorg. Nucl. Chem.'' '''1960''', ''12'', 266-275.</ref>。Ni(PCl<sub>3</sub>)<sub>4</sub> のような金属錯体も知られている。このルイス塩基性は有機リン化合物を合成するのに利用されている。 : <chem>PCl3 + RCl + AlCl3 -> (RPCl3)+ AlCl4^-</chem> 上記の生成物 {{chem|(RPCl|3|)|+}} を加水分解するとアルキルホスホン酸二塩化物 {{chem|RP({{=}}O)Cl|2}} が得られる。 == 合成法 == 工業的には、塩素と白リンの三塩化リン溶液を加熱還流しながら、生成する三塩化リンを集める方法で合成される。実験室ではより毒性の低い赤リンを使う<ref>Forbes, M. C.; Roswell, C. A.; Maxson, R. N. ''Inorg. Synth.'' '''1946''', ''2'', 145-147.</ref>。 : <chem>P4 + 6Cl2 -> 4PCl3</chem> 三塩化リンは[[化学兵器禁止条約]]の第2種指定物質であり、工業生産はこれによって規制されている。過去には[[オウム真理教]]が数十トンを購入していたことが発覚している<ref>[https://www.npa.go.jp/hakusyo/h08/h080102.html 警察白書]</ref>。 == 用途 == 全世界での生産量は30万トンを超える<ref>Earnshaw, A.; Greenwood, N. ''Chemistry of the Elements''; Butterworth-Heinemann: Oxford, 1997; 2nd ed. ISBN 0750633654</ref>。最も安価で多用途に用いることができる3価リン源であるため、リンを含む製品の重要な出発物質である。 三塩化リンは五塩化リン {{chem|PCl|5}}、塩化ホスホリル {{chem|POCl|3}}、ホスホロチオ酸トリクロリド {{chem|PSCl|3}} の前駆体であり、これらは[[除草剤]]、[[殺虫剤]]、[[可塑剤]]、オイルへの添加剤、[[難燃剤]]など多岐にわたる用途を持つ。 三塩化リンを酸化すると塩化ホスホリルが得られる。これは[[リン酸エステル]]、例えば[[リン酸トリフェニル]]や[[リン酸トリクレジル]]などのを製造するのに用いられ、難燃剤や[[ポリ塩化ビニル]]の可塑剤として利用される。リン酸エステルは、他にも[[ジアジノン]]などの殺虫剤や[[グリフォゼート]]などの除草剤として使われる。 [[ウィッティヒ反応]]用のトリフェニルホスフィン、および他のリン化合物の中間体や[[ホーナー・ワーズワース・エモンズ反応]]の試薬として使われる[[ホスフィン酸エステル]]などの工業的規模での合成に用いられる。ウィッティヒ反応とホーナー・ワズワース・エモンズ反応は共に[[アルケン]]の合成法として重要である。抽出剤[[トリオクチルホスフィンオキシド]] (TOPO) の合成にも用いられるが、通常 TOPO はホスフィンから作られている。 三塩化リンは有機合成における試薬としても使用される。1級および2級のアルコールを塩化アルキルに、[[カルボン酸]]を[[カルボン酸ハロゲン化物|塩化アシル]]に変換できるが、一般的に[[塩化チオニル]]を用いた方が良い結果が得られる<ref>Wade, L. G., Jr. ''Organic Chemistry''; Prentice Hall: Upper Saddle River, New Jersey, 2005; 6th ed., p. 477. ISBN 0131699571</ref>。 ==取り扱い上の注意== 毒性・危険性が高く、600 ppm の濃度では数分で死に至る<ref>Toy, A. D. F. ''The Chemistry of Phosphorus''; Pergamon Press: Oxford, UK, 1973.</ref>。激しく水と反応し、強い腐食性がある。手袋と保護眼鏡を着用し、局所排気装置([[ドラフトチャンバー]])の中で取り扱うよう訓示されることが多い。大量に扱う場合は未使用のエプロンと顔面シールドも併用する。還元剤であるから強い[[酸化剤]]とは一定以上の距離をおいて保存する。 ==参考文献== {{Reflist}} {{リンの化合物}} {{デフォルトソート:さんえんかりん}} [[Category:無機化合物]] [[Category:リンの化合物]] [[Category:塩素の化合物]] [[Category:毒物]]
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