中国の剰余定理のソースを表示

[[ファイル:Disqvisitiones-800.jpg|thumb|[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]は『[[Disquisitiones Arithmeticae|整数論]]』（1801年）において中国の剰余定理を明確に記述して証明した<ref name="Gauss1801.loc=32-36">いくつかの与えられた法に関していくつかの与えられた剰余と合同な数の探索について{{Harv|ガウス|高瀬|1995|loc=第32条-第36条}}。</ref>。]]
'''中国の剰余定理'''（ちゅうごくのじょうよていり、{{lang-en-short|Chinese remainder theorem}}）は、[[中国]]の算術書『[[孫子算経]]』に由来する[[整数]]の[[剰余]]に関する[[定理]]である。あるいは、それを一般化した[[可換環論]]における定理でもある。'''中国人の剰余定理'''（ちゅうごくじんのじょうよていり）、'''孫子の定理'''（そんしのていり、{{lang-en-short|Sunzi's theorem}}）とも呼ばれる。

『孫子算経』には、「3で割ると2余り、5で割ると3余り、7で割ると2余る数は何か」という問題とその解法が書かれている。中国の剰余定理は、この問題を他の整数についても適用できるように一般化したものである。

== 背景 ==
3 - 5世紀頃成立したといわれている中国の算術書『[[孫子算経]]』には、以下のような問題とその解答が書かれている<ref>著者不詳『孫子算経』第26巻下</ref>。
<blockquote>
今有物、不知其数。三・三数之、剰二。五・五数之、剰三。七・七数之、剰二。問物幾何？

答曰：二十三。

術曰：『三・三数之、剰二』、置一百四十。『五・五数之、剰三』、置六十三。『七・七数之、剰二』、置三十。并之、得二百三十三。以二百一十減之、即得。凡、三・三数之、剰一、則置七十。五・五数之、剰一、則置二十一。七・七数之、剰一、則置十五。一百六以上、以一百五減之、即得。
</blockquote>
日本語では、以下のようになる。
<blockquote>
今物が有るが、その数はわからない。三つずつにして物を数えると<ref>「三で割ると」の意。以下そのように訳す。</ref>、二余る。五で割ると、三余る。七で割ると、二余る。物はいくつあるか？

答え：二十三。

解法：三で割ると、二余る数として、百四十と置く。五で割ると、三余る数として、六十三と置く。七で割ると、二余る数として、三十と置く。これらを足し合わせて、二百三十三を得る。これから二百十を引いて、答えを得る。一般に、三つずつにして物を数え、一余ると、その度に七十と置く<ref>「三で割った余りに七十をかける」の意。以下そのように訳す。</ref>。五で割った余りに二十一をかける。七で割った余りに十五をかける。百六以上ならば、百五を引くことで、答えを得る。
</blockquote>
この問題がいつ頃から知られていたかについては定かではない。この問題は、『孫子算経』とともに日本にも伝わり、後に[[和算]]の隆盛した江戸時代には、「[[百五減算]]」として知られた。

{{要出典範囲|13世紀、[[南宋]]末の数学家[[秦九韶]]は、一次合同式を[[ユークリッドの互除法]]と同等の方法で解くことで、中国の剰余定理と同等の結果を得ていた。このことは、宣教師によって19世紀のヨーロッパにも伝えられ、[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]の方法と同等のものであることが確かめられた。|date=2014年12月}}

"{{lang|en|Chinese remainder theorem}}"という名前の使用は、少なくともアメリカの数学者[[レオナード・E・ディクソン]]による著書 ''Introduction to the Theory of Numbers'' (1929) の中に見られる<ref>{{cite web
|title = Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics (C)
|url = http://jeff560.tripod.com/c.html
|accessdate = 2017-09-02
}}</ref>。

== 定理 ==
中国の剰余定理の最も基本的な形は次のような形式で述べることができる。
=== 補助定理 ===
<blockquote>
与えられた二つの整数 ''m'', ''n'' が[[互いに素 (整数論)|互いに素]]ならば、任意に与えられる整数 ''a'', ''b'' に対し、連立[[合同式]]

<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a'' (mod ''m''),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''b'' (mod ''n'')</div>

を満たす整数 ''x'' が ''mn'' を[[除法#整数の除法|法]]として一意的に存在する<ref>ここで、『''mn'' を法として一意的に存在する』とは次のような意味である。つまり、ある整数 ''y'' があって、この ''y'' も上の連立合同式の解であるならば、すなわち、

<div style="margin-left:1.5em">''y'' ≡ ''a'' (mod ''m''),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''y'' ≡ ''b'' (mod ''n'')</div>

となるならば、必ず

<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''y'' (mod ''mn'')</div>

が成立する。</ref>。
</blockquote>

=== 補助定理の証明 ===
（解の存在） 二つの整数 ''m'', ''n'' が[[互いに素 (整数論)|互いに素]]ならば、[[ユークリッドの互除法]]により適当な整数 ''u'', ''v'' が存在して、

<div style="margin-left:1.5em">''mu'' + ''nv'' = 1</div>

となるようにできる。このとき、

<div style="margin-left:1.5em">''mu'' ≡ 1 (mod ''n''),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''nv'' ≡ 1 (mod ''m'')</div>

が成り立つので、

<div style="margin-left:1.5em">''x'' = ''anv'' + ''bmu''</div>

とおくと、

<div style="margin-left:1.5em">''x'' ''= a''(1 − ''mu'') ''+ bmu = a +'' (''b &#x2212; a'') ''mu  ≡ a'' (mod ''m'')</div>

また、

<div style="margin-left:1.5em">''x'' = ''anv'' + ''b''(1 &#x2212; ''nv'') ''= b'' + (''a'' &#x2212; ''b'') ''nv  ≡ b'' (mod ''n'')</div>

''x'' は与えられた連立合同式の解となる。

（解の一意性） ''y'' を任意の解とすると、''x'' &#x2212; ''y'' は

<div style="margin-left:1.5em">''x'' &#x2212; ''y'' ≡ 0 (mod ''m''),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' &#x2212; ''y'' ≡ 0 (mod ''n'')</div>

を満たす。よって、''x'' &#x2212; ''y'' は ''m'' と ''n'' との[[最小公倍数|公倍数]]であるが、''m'' と ''n'' とは互いに素なので、それらの[[最小公倍数]] ''mn'' の倍数となり、

<div style="margin-left:1.5em">''x'' &#x2212; ''y'' ≡ 0 (mod ''mn'')</div>

すなわち、''x'' と ''y'' とは法 ''mn'' に関して合同になる。 [[Q.E.D.]]

=== 一般的な定理 ===
これは明らかに次のように拡張できる。すなわち：

<blockquote>
与えられた ''k'' 個の整数 ''m''<sub>1</sub>, ''m''<sub>2</sub>, ..., ''m<sub>k</sub>'' がどの二つも互いに素ならば、任意に与えられる整数 ''a''<sub>1</sub>, ''a''<sub>2</sub>, ..., ''a<sub>k</sub>'' に対し

<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a''<sub>1</sub> (mod ''m''<sub>1</sub>),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a''<sub>2</sub> (mod ''m''<sub>2</sub>),</div>
<div style="margin-left:4.5em">…</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a<sub>k</sub>'' (mod ''m<sub>k</sub>'')</div>

を満たす整数 ''x'' が ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>&hellip;''m<sub>k</sub>'' を法として一意的に存在する。
</blockquote>

=== 一般的な定理の証明 ===
[[数学的帰納法]]で証明する<ref>{{Harv|前原|2006|pp=186f}}</ref>。
''k'' = 1 のとき、
<div style="margin-left:1.5em">''x'' = ''a''<sub>1</sub></div>
が解となる。''k'' のとき、数学的帰納法の仮定が成立つとすると、

<div style="margin-left:1.5em">''b'' ≡ ''a''<sub>1</sub> (mod ''m''<sub>1</sub>),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''b'' ≡ ''a''<sub>2</sub> (mod ''m''<sub>2</sub>),</div>
<div style="margin-left:4.5em">…</div>
<div style="margin-left:1.5em">''b'' ≡ ''a<sub>k</sub>'' (mod ''m<sub>k</sub>'')</div>

を満たす整数 ''b'' が法 ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>…''m<sub>k</sub>'' に関して一意的に存在する。このとき、積 ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>…''m<sub>k</sub>'' と ''m''<sub>''k''+1</sub> とが互いに素とすると、[[#補助定理|補助定理]]より、
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''b'' (mod ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>…''m<sub>k</sub>''),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a''<sub>''k''+1</sub> (mod ''m''<sub>''k''+1</sub>)</div>
を満たす整数 ''x'' が法 ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>…''m''<sub>''k''+1</sub> に関して一意的に存在する。
よって ''k'' + 1 のときも命題が成り立つことが示された。[[Q.E.D.]]

=== ガウスの証明 ===
ガウスは『[[Disquisitiones Arithmeticae|整数論]]』（1801年）において、法 ''m''<sub>1</sub>, ''m''<sub>2</sub>, …, ''m<sub>k</sub>'' に関して対称な解法を示した<ref>{{Harv|ガウス|高瀬|1995|loc=第36条}}</ref><ref>{{Harv|高木|1971|pp=31&ndash;33}}</ref>。

（解の存在）
整数 ''m''<sub>1</sub>, ''m''<sub>2</sub>, ..., ''m<sub>k</sub>'' がどの二つも互いに素ならば、
<div style="margin-left:1.5em">''M'' = ''m''<sub>1</sub>''m''<sub>2</sub>...''m<sub>k</sub>'' ,</div>
<div style="margin-left:1.5em">''M'' = ''m''<sub>1</sub>''M''<sub>1</sub> = ''m''<sub>2</sub>''M''<sub>2</sub> = …  = ''m<sub>k</sub>M<sub>k</sub>''</div>
と置くと、各 ''m<sub>i</sub>'' と ''M<sub>i</sub>'' とは互いに素なので、[[#補助定理|補助定理]]により、''i'' = 1, 2, …, ''k'' に対して、
<div style="margin-left:1.5em">''M<sub>i</sub>t<sub>i</sub>'' ≡ 1 (mod ''m<sub>i</sub>''),</div>
となる ''t<sub>i</sub>'' が存在する。このとき、
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a''<sub>1</sub>''M''<sub>1</sub>''t''<sub>1</sub> + ''a''<sub>2</sub>''M''<sub>2</sub>''t''<sub>2</sub> + … + ''a<sub>k</sub>M<sub>k</sub>t<sub>k</sub>'' (mod ''M'')</div>
は与えられた連立合同式の解になる。
例えば、''x'' の第1項の法 ''m''<sub>1</sub> に関する剰余は ''a''<sub>1</sub> に合同であり、第2項から第 ''k'' 項は ''M''<sub>2</sub> から ''M<sub>k</sub>'' が ''m''<sub>1</sub> の倍数となるので、''x'' は法 ''m''<sub>1</sub> に関して ''a''<sub>1</sub> と合同になる。
''i'' = 2, 3, …, ''k'' に関しても同様にして、
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ ''a<sub>i</sub>'' (mod ''m<sub>i</sub>'')</div>
を満たすことがわかる。

（解の一意性）
''y'' を任意の解とすると、''x'' &minus; ''y'' は
<div style="margin-left:1.5em">''x'' &minus; ''y'' ≡ 0 (mod ''m''<sub>1</sub>),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' &minus; ''y'' ≡ 0 (mod ''m''<sub>2</sub>)</div>
<div style="margin-left:4.5em">…</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' &minus; ''y'' ≡ 0 (mod ''m<sub>k</sub>'')</div>
を満たす。よって、''x'' &minus; ''y'' は法 ''m''<sub>1</sub>, ''m''<sub>2</sub>, …, ''m<sub>k</sub>'' で割り切れる。''m''<sub>1</sub>, ''m''<sub>2</sub>, …, ''m<sub>k</sub>'' は互いに素なので、''x'' &minus; ''y'' は法の最小公倍数 ''M'' で割り切れる。
<div style="margin-left:1.5em">''x'' &minus; ''y'' ≡ 0 (mod ''M'')</div>
すなわち、''x'' と ''y'' とは法 ''M'' に関して合同になる。[[Q.E.D.]]

== 計算法 ==
定理により解が存在することは保証されているが、実際に解を計算できるかどうかとは別問題である。ただし、中国の剰余定理の場合は解を計算することも容易であり、その方法も幾つかある。

=== 直接計算による方法 ===
前述の『孫子算経』の問題を考える。すなわち、連立合同式

<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ 2 (mod 3),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ 3 (mod 5),</div>
<div style="margin-left:1.5em">''x'' ≡ 2 (mod 7)</div>

を同時に満たす整数 ''x'' を求める。まず、1番目の式より ''x'' = 3''m''<sub>1</sub> + 2 (''m''<sub>1</sub> &isin; '''Z''') と表せる。これを2番目の式に代入し、両辺から 2 を引くと、

<div style="margin-left:1.5em">3''m''<sub>1</sub> &equiv; 1 (mod 5).</div>

を得る。この式の両辺に 2 をかけると、（左辺）= 6''m''<sub>1</sub> = 5''m''<sub>1</sub> + ''m''<sub>1</sub> &equiv; ''m''<sub>1</sub> (mod 5) である（これは、 '''Z'''/5'''Z''' において 2 が 3 の乗法に関する逆元であることに他ならない。）ので、

<div style="margin-left:1.5em">''m''<sub>1</sub> &equiv; 2 (mod 5)</div>

を得る。したがって、''m''<sub>1</sub> = 5''m''<sub>2</sub> + 2 (''m''<sub>2</sub> &isin; '''Z''') と表せ、これにより ''x'' = 15''m''<sub>2</sub> + 8 を得る。更にこれを連立合同式の3番目の式に代入すると、

<div style="margin-left:1.5em">15''m''<sub>2</sub> + 8 &equiv; 2 (mod 7)</div>

を得る。この式の両辺から 8 を引き、また 15''m''<sub>2</sub> = 14''m''<sub>2</sub> + ''m''<sub>2</sub> &equiv; ''m''<sub>2</sub> (mod 7) であることに注意すると、

<div style="margin-left:1.5em">''m''<sub>2</sub> &equiv; &minus;6 (mod 7).</div>

更にこれは、&minus;6 &equiv; 1 (mod 7) より

<div style="margin-left:1.5em">''m''<sub>2</sub> &equiv; 1 (mod 7)</div>

と書き直せるので、''m''<sub>2</sub> = 7''m<sub>3</sub>'' + 1 (''m<sub>3</sub>'' &isin; '''Z''') と表せ、これにより ''x'' = 105''m<sub>3</sub>'' + 23 を得る。すなわち、

<div style="margin-left:1.5em">''x'' &equiv; 23 (mod 105)</div>

が求める解である。この方法は、計算が煩雑なものになるという欠点がある一方、連立合同式の法が互いに素とならない状況、すなわち中国の剰余定理が適用できない場合においても利用できる。

=== ユークリッドの互除法 ===
引き続き『孫子算経』の問題を考える。3 と 5 × 7 = 35, 5 と 3 × 7 = 21, 7 と 3 × 5 = 15 はそれぞれ互いに素であるから、[[ユークリッドの互除法#拡張された互除法|拡張されたユークリッドの互除法]]により、 (''m'', ''n'') = (3, 35), (5, 21), (7, 15) それぞれについて、不定方程式

<div style="margin-left:1.5em">''mx'' + ''ny'' = 1</div>

の整数解（特殊解）が計算できる。具体的には、

<div style="margin-left:1.5em">3 × 12 + 35 × (&minus;1) = 1,</div>
<div style="margin-left:1.5em">5 × (&minus;4) + 21 × 1 = 1,</div>
<div style="margin-left:1.5em">7 × (&minus;2) + 15 × 1 = 1</div>

となる。したがって、以下の合同式が成立する：

<div style="margin-left:1.5em"> －35 ≡ 1 (mod 3),</div>
<div style="margin-left:1.5em"> 21 ≡ 1 (mod 5),</div>
<div style="margin-left:1.5em"> 15 ≡ 1 (mod 7).</div>

すると、連立合同式

<div style="margin-left:1.5em"> ''x'' ≡ ''a''<sub>1</sub> (mod 3),</div>
<div style="margin-left:1.5em"> ''x'' ≡ ''a''<sub>2</sub> (mod 5),</div>
<div style="margin-left:1.5em"> ''x'' ≡ ''a''<sub>3</sub> (mod 7)</div>

の一つの解が

<div style="margin-left:1.5em"> ''x'' = &minus;35''a''<sub>1</sub> + 21''a''<sub>2</sub> + 15''a''<sub>3</sub></div>

であることが容易に確かめられる。しかも定理により解は 3 × 5 × 7 = 105 を法として一意的であったから、すべての解は ''k'' を任意の整数として、
<div style="margin-left:1.5em">&minus;35''a''<sub>1</sub> + 21''a''<sub>2</sub> + 15''a''<sub>3</sub> + 105''k''</div>
と表されることもわかる。つまり、これがこの問題の一般解である。

== 定理の一般化 ==
上記の定理は[[整数]]とその剰余に関するものであるが、これを一般の[[環 (数学)|単位元を持つ環]]とその[[イデアル]]に対するものに拡張することができる。すなわち：

''R'' を単位元を持つ環とし、''R'' の両側イデアル ''I''<sub>1</sub>, ''I''<sub>2</sub>, ..., ''I<sub>k</sub>'' がどの二つも互いに素である（すなわち、''i'' &ne; ''j'' ならば ''I<sub>i</sub>'' + ''I<sub>j</sub>'' = ''R'' が成立する）と仮定する。このとき、任意に与えられた ''a''<sub>1</sub>, ''a''<sub>2</sub>, ..., ''a<sub>k</sub>'' &isin; ''R'' に対して、

<math display="block">\begin{align}
 x &\equiv a_1 \pmod{I_1}, \\
 x &\equiv a_2 \pmod{I_2}, \\
   & \vdots \\
 x &\equiv a_k \pmod{I_k}
\end{align}</math>

を満たす ''x'' &isin; ''R'' が、イデアル <math>\textstyle I = \bigcap_{i=1}^k I_i </math> を法として一意的に存在する。言い換えると、自然な環準同型
<math display="block">R \to \prod_{i=1}^k R/I_i, \; x \mapsto (x + I_1, x + I_2, \dotsc , x + I_k)</math>
は全射であり、[[準同型定理]]より環同型
<math display="block">R/I \cong \prod_{i=1}^k R/I_i</math>
が得られる。これも中国の剰余定理と呼ばれる。さらに ''R'' が可換環であるとき、
<math display="block">I_1 I_2 \dotsm I_k \supset \bigcap_{i=1}^k I_i </math> 
が二つの異なるイデアルが互いに素であることから従う。逆向きの包含は一般に成立するので、
<math display="block">I_1 I_2 \dotsm I_k = \bigcap_{i=1}^k I_i </math> 
が成立する。（''R'' が可換でないときは、「互いに素」という条件を仮定しても上記の等号は一般には成立しない。）

=== 系 ===
* 整数 ''m'', ''n'' を（通常の意味で）互いに素であるとする。[[ユークリッドの互除法|拡張されたユークリッドの互除法]]から ''m'''''Z''' + ''n'''''Z''' = '''Z''', すなわちイデアルの意味で互いに素であることがわかり、また逆も成立する。従って、 '''Z'''/''mn'''''Z''' は '''Z'''/''m'''''Z''' &times; '''Z'''/''n'''''Z''' に同型である。
* ''R'' を[[単項イデアル整域]]とする。''u''<sub>1</sub>, ''u''<sub>2</sub>, ..., ''u<sub>k</sub>'' &isin; ''R'' がどの二つも互いに素であるとき、''u'' = ''u''<sub>1</sub>''u''<sub>2</sub>&hellip;''u<sub>k</sub>'' とすると、''R''/''uR'' は ''R''/''u''<sub>1</sub>''R'' &times; ''R''/''u''<sub>2</sub>''R'' &times; &hellip; &times; ''R''/''u<sub>k</sub>R'' に同型である。
* ''k'' を[[代数的閉体]]とする。多項式 ''f''(''x'') &isin; ''k''[''x''] の相異なる ''l'' 個の根を ''a<sub>i</sub>'', 重複度を ''n<sub>i</sub>'' とすると、
<math display="block">k[x]/(f(x)) \cong \prod_{i=1}^l k[x]/\big((x-a_i)^{n_i}\big)</math>
が成り立つ。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

== 関連文献 ==
*{{Cite book|和書|author=ガウス|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|others=[[高瀬正仁]] 訳|origyear=1801|date=1995-06-20|title=ガウス整数論|series=数学史叢書|publisher=[[朝倉書店]]|isbn=4-254-11457-5|url=http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11457-7/|ref={{Harvid|ガウス|高瀬|1995}}}} - ラテン語原典からの日本語訳。
*{{Cite book|和書|author=高木貞治|authorlink=高木貞治|date=1971-10-15|title=初等整数論講義|edition=第2版|publisher=共立出版|isbn=4-320-01001-9|url=http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320010017|ref={{Harvid|高木|1971}}}}
*{{Citation |last1=Hardy |first1=G. H. |author1-link=ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ |last2=Wright |first2=E. M. |author2-link=エドワード・メイトランド・ライト |editor1-last=Heath-Brown |editor1-first=Roger |editor1-link=ロジャー・ヒース＝ブラウン |editor2-last=Silverman |editor2-first=Joseph |editor2-link=ジョセフ・シルヴァーマン |editor3-last=Wiles |editor3-first=Andrew |editor3-link=アンドリュー・ワイルズ |year=2008 |date=31 July 2008 |title=An Introduction to the Theory of Numbers |edition=sixth |place=USA |publisher=Oxford University Press |isbn=978-0-19-921986-5 |url=http://ukcatalogue.oup.com/product/9780199219865.do#.UdgOFeaCjIU }}
**{{Cite book|和書|author=G・H・ハーディ|authorlink=ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ|coauthors={{仮リンク|エドワード・メイトランド・ライト|label=E.M.ライト|en|E. M. Wright}}|others=[[示野信一]]・[[矢神毅]] 訳|year=2001|month=7|title=数論入門I|publisher=シュプリンガー・フェアラーク東京|series=シュプリンガー数学クラシックス8|isbn=978-4-431-70848-3|url=http://homepage1.nifty.com/shimeno/hr/|ref={{Harvid|ハーディ|ライト|2001}}}} - 原書第5版（1979年）の邦訳。
**{{Cite book|和書|author=G・H・ハーディ|coauthors=E・M・ライト|others=示野信一・矢神毅 訳|year=2012|month=7|title=数論入門I|publisher=丸善出版|series=シュプリンガー数学クラシックス8
|url=http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621062265.html|isbn=978-4-621-06226-5|ref={{Harvid|ハーディ|ライト|2012}}}} - {{Harvtxt|ハーディ|ライト|2001}}の再出版。
*{{Cite book|和書|author=前原昭二|authorlink=前原昭二|origdate=1977-06-01|date=2006-03-20|title=数学基礎論入門|series=復刊基礎数学シリーズ23|publisher=[[朝倉書店]]|isbn=978-4-254-11723-3|url=http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11723-3/|ref={{Harvid|前原|2006}}}}

== 関連項目 ==<!--項目の50音順-->
{{Div col}}
*[[百五減算]]
*[[プリューファー整域]]
*[[ベズーの等式]]
*[[Disquisitiones Arithmeticae]] - 『[[ガウス整数論]]』
*[[RSA暗号]]
{{Div col end}}

== 外部リンク ==
* [https://ctext.org/sunzi-suan-jing/zh 孫子算経（原文）] ([[UTF-8]])
* [https://www.tsuyama-ct.ac.jp/ippan/H22_hokoku/yoshida2.pdf 鬼谷算]（きこくさん）
* {{Kotobank|孫子の定理|2=法則の辞典}}
* {{Kotobank|百五減算|2=世界大百科事典}}
* {{高校数学の美しい物語|837|中国剰余定理の証明と例題（二元の場合）}}
* {{高校数学の美しい物語|838|中国剰余定理と法が互いに素でない場合への拡張}}
* {{MathWorld|title=Chinese Remainder Theorem|urlname=ChineseRemainderTheorem}}

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:ちゆうこくのしようよていり}}<!--カテゴリの50音順-->
[[Category:可換環論]]
[[Category:合同算術]]
[[Category:初等整数論]]
[[Category:数論の定理]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:中国の数学]]