中国の科学技術史のソースを表示

{{ウィキポータルリンク|歴史学/東洋史}}
{{科学史}}
[[File:YiXiangKaoCheng 02.JPG|thumb|right|天体観測器械の製作法、清]]
'''中国の科学技術史'''（ちゅうごくのかがくぎじゅつし）は、長い歴史をもち[[科学技術]]の発展に大きく寄与してきた中国における科学と技術の発達を対象とする。古代には[[古代ギリシア|ギリシア]]の哲学者と他の[[文明]]圏、および[[中国]]の哲学者がそれぞれ独自に[[科学]]・[[技術]]・[[数学]]・[[天文学]]を発達させた。[[彗星]]や[[超新星]]の世界で最も古い観測記録が残っているのは中国である<ref name="OtherAstronomy">[http://home.cwru.edu/~sjr16/advanced/pre20th_ancients_others.html Ancient Chinese Astronomy] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20060222181543/http://home.cwru.edu/~sjr16/advanced/pre20th_ancients_others.html |date=2006年2月22日 }}</ref>。[[伝統中国医学|伝統医学]]・[[鍼灸術]]・[[漢方薬]]も実践された。

初期の発明には[[算盤]]・[[時計の歴史|影時計]]・[[凧]]・[[天灯]]といった世界初の人工飛行体などがある<ref name="Inventions">''Inventions'' (Pocket Guides).</ref>。[[古代中国の4大発明]]といわれる[[羅針盤]]・[[火薬]]・[[紙]]・[[印刷]]は最も重要な[[イノベーション|技術革新]]であるが、[[ヨーロッパ]]に伝わったのは[[中世]]の終わりごろである。[[唐|唐代]]（618年-906年）はことに発明が続いた時代である<ref name="Inventions"/>。ヨーロッパと中国の間で知見の交換が始まったのは[[清|清代]]以前のことである。

[[イエズス会]]中国使節は16世紀-17世紀に西洋科学と天文学を中国に持ち込み社会改造に利用する一方、中国技術の知識をヨーロッパに持ち帰った<ref name="Woods"/><ref name="Udias">Agustín Udías, p.53</ref>。欧米における中国科学史研究の初期の業績の多くは[[ジョゼフ・ニーダム]]に帰することができる。近代以後の日本では[[薮内清]]らがこの分野を手がけてきた<ref>{{Cite journal|last=道家|author=|first=達将|author-link=道家達将|year=|date=1997|title=第7回 1954年頃の東と西の科学史|url=http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.Journalarchive/tits1996/2.2_46?from=CrossRef|journal=学術の動向|volume=2|issue=2|page=|pages=46–51|language=ja|doi=10.5363/tits.2.2_46|issn=1884-7080}}</ref>。

== 古代技術 ==
[[File:ChineseCrossbow.JPG|thumb|220px|right|出土した[[前漢]]の[[弩]]、[[紀元前2世紀]]]]
[[ファイル:Fangmatan paper map.jpg|サムネイル|[[放馬灘紙|放馬灘で発掘された初期の紙の断片]]、[[紀元前2世紀]]]]
{{Main|en:List of Chinese inventions}}
古代中国に始まり長く実用に供されているもののひとつに、[[道教]]に由来する[[鍼灸術]]や[[漢方薬]]などの[[伝統中国医学]]がある。鍼灸術の実践は紀元前1世紀に遡ることができる。鍼灸術に類似した医術は[[青銅器時代]]の[[ユーラシア]]ですでにみられたとする科学者もいる<ref>[http://www.ogka.at/aerzte/artikel/oetziLancet.htm], [http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673698122420/fulltext]</ref>。

古代中国は数学や天文学に使う計数・計時装置も発明した。[[日時計]]の前身である影時計が中国で出現したのは4000年前のことであるが<ref name="Inventions">''Inventions'' (Pocket Guides).</ref>、[[算盤]]の発明は紀元前1000年-500年の間ごろである<ref>[http://concise.britannica.com/ebc/art-83564 Video: Computers: The Abacus]. [[Encyclopædia Britannica]].</ref><ref>[http://www.maxmon.com/1000bc.htm The Invention of the Abacus]. Maxfield & Montrose Interactive Inc.</ref>。これらを使った中国人は、紀元前500年に[[惑星]]の記録を作成した<ref name="OtherAstronomy"/>。『{{仮リンク|天文気象雑占|en|Divination by Astrological and Meteorological Phenomena}}』は紀元前400年頃に著された史上初の[[彗星]]図解である。約300年間に出現した29彗星を掲載し、彗星の出現を地上の出来事と関連づけて解釈した<ref name="OtherAstronomy"/>。

[[File:EastHanSeismograph.JPG|thumbnail|left|想像によって再現された[[地動儀|候風地動儀]]]]
建築では中国技術の頂点に立つのが、[[紀元前220年]]-[[紀元前200年]]頃に在位した[[秦]]の[[始皇帝]]の時代に建設された[[万里の長城]]である。秦に続く[[漢]]の時代から19世紀まで中国の一般建築に大きな変化はなかった<ref name="Buildings">''Buildings'' (Pocket Guides).</ref>。秦の時代に弩が改良されたが、これはのちにヨーロッパに渡り武器の主流になった。始皇帝の墓から出土した[[兵馬俑]]墓から数点の[[弩]]が見つかった<ref>[https://webcitation.org/query?id=1256463595284493&url=www.geocities.com/Athens/Academy/7547/weapon.html Weapons of the terracotta army]</ref>。

[[後漢]]の学者で天文家の[[張衡 (科学者)|張衡]]（[[78年]]-[[139年]]）は[[渾天儀]]（[[天球儀 (恒星)|天球儀]]）を発明したが、これは2,500の[[恒星]]と100以上の[[星座]]を収めている。[[132年]]に張衡は世界初の[[地震計|感震計]]を発明し、「[[候風地動儀]]」と名づけた<ref name="Zhang">[http://english.people.com.cn/200506/13/eng20050613_189957.html People's Daily Online]</ref>。

後漢（[[25年]]-[[220年]]）の歴史によれば、この感震計は壺のような形の装置で、8個の球のうち1個を落下させて、いつ、どの方向に大地が揺れたか（震源）を知らせるという<ref name="Zhang"/>。2005年6月13日、中国の[[地震学者]]がこの複製を作成したと発表した<ref name="Zhang"/>。

機械技術者の[[馬鈞]]（[[200年]]-[[265年]]ころ）も古代中国で際立つ人物である。馬鈞は絹の機織機を改良し<ref name="needham volume 4 part 2 39">Needham, Volume 4, Part 2, 39.</ref>、機械式チェーンポンプを設計して庭園に[[灌漑|給水]]し<ref name="needham volume 4 part 2 39"/>、水転百戯（目隠しをした大きな水車を動力に動く大きく複雑な人形芝居）を創作、[[魏 (三国)|魏]]の[[曹叡|明帝]]に献上した<ref name="needham volume 4 part 2 158">Needham, Volume 4, Part 2, 158.</ref>。しかし馬鈞最大の発明は[[指南車]]であろう。これは複雑な構造の機械式[[羅針盤]]車である。これは各々異なる速度で回転する車輪に同じ[[トルク]]を配分する[[差動歯車]]を組み込んでいるが、これは現代の[[自動車]]がすべて装備している機構である<ref name="needham volume 4 part 2 40">Needham, Volume 4, Part 2, 40.</ref>。

[[ノギス]]は中国で2,000年以上前に発明された<ref name="Inventions"/>。また中国文明は[[航空]]の領域に世界で初めて踏み込んだ。[[凧]]と[[天灯]]（[[熱気球]]の原型）は人類初の『[[飛行機]]』といえる。

後漢時代に成立したとみられる著者不明の『[[九章算術]]』と言う算術書には[[開平法]]や[[連立一次方程式]]など様々な数学の問題が載っており（[[籌算]]参照）、後には数学教育のテキストに採用されている。魏の[[劉徽]]は『九章算術』の注釈のなかで、[[円周率]]を計算して、3.1416という近似値を得ている（「[[円周率の歴史]]」参照）。

[[南北朝時代 (中国)|南北朝時代]]の数学者の[[祖沖之]]は円周率を3.1415926と3.1415927 の間であると推算し、その密率を 355/113 と決めている。これは当時の世界で最も正確な値であったようである。また彼の子の[[祖コウ|祖暅]]は半径 r の球の体積が<math>\frac{4}{3}\pi r^{3}</math>で求められることを考え出した。

== 古代中国の4大発明 ==
[[File:Jingangjing.png|thumb|220px|right|[[金剛経]]の複雑な口絵 [[唐]] 868年（[[大英博物館]]収蔵）]]
{{Main|古代中国の4大発明}}
[[羅針盤]]・[[火薬]]・[[紙]]・[[印刷]]の4つは[[古代中国の4大発明]]と呼ばれている。紙と印刷の発明がこの中で早かった。印刷は[[唐]]の時代の中国の記録があるが、布地のプリント[[染色]]は220年以前のものが残存している<ref name="cave">Shelagh Vainker</ref>。羅針盤の発達を正確に追跡するのは困難だが、針と[[磁石]]の引き合いは20年-100年頃に編纂された『[[論衡]]』で検証されている<ref>"A lodestone attracts a needle." Li Shu-hua, p.176</ref>、[[中国文学]]に磁針が初めて登場するのは1086年である<ref>Li Shu-hua, p.182f.</ref>。

[[晋 (王朝)|晋代]]（[[265年]]-[[420年]]）の[[建武 (東晋)|建武]]元年（[[317年]]）には[[錬金術]]師の[[葛洪]]が[[硝石]]・[[松脂]]・[[木炭]]を一緒に加熱したときに生じる化学反応を自著『[[抱朴子]]』に記録している<ref>Liang, pp. Appendix C VII</ref>。その他の火薬の記録では、850年頃の中国のある書籍には<!--"Classified Essentials of the Mysterious Tao of the True Origin of Things"-->、[[道教]]徒が[[不老不死]]の[[霊薬]]を作ろうとしてできた副産物が火薬であるという記述がある<ref>Kelly, p. 3</ref>。
{{Quotation|[[硫黄]]・[[鶏冠石]]・[[硝石]]・[[蜂蜜]]を混ぜて加熱すると煙と炎が上がり、作業者の顔と腕は焼け、家屋は全焼した。|<ref>Kelly, p. 4</ref>}}

[[File:Mōko Shūrai Ekotoba.jpg|thumb|left|[[1274年]]の[[文永の役]]における「てつはう」の使用を描いた『[[蒙古襲来絵詞]]』（永仁元年（1293年）2月9日和暦は改元前のため実際は正応6年か。）の写本の図。なお佐藤鉄太郎 『蒙古襲来絵詞と竹崎季長の研究』（2005年）によればこの「てつはう」（とモンゴル兵）は江戸時代の加筆であるとする。]]
この4大発明は[[中国文明]]の発展にのみならず、地球規模で巨大な衝撃を与えた。たとえば火薬は13世紀に[[イスラム世界|アラブ世界]]に広がり、その後ヨーロッパへ伝わった<ref>Kelly, p. 22. "1240年頃アラブ人は東方、恐らくインドから硝石<!--（Chinese snow）-->の知識を入手した。アラブ人は程なく火薬を知った。また花火やロケットも知った</ref>。[[イギリス]]人[[哲学者]][[フランシス・ベーコン (哲学者)|フランシス・ベーコン]]は『[[ノヴム・オルガヌム]]』 （新機関）のなかで次のように記している：

{{Quotation|印刷術・火薬・羅針盤：これら3点は全世界のすべての表層と深層とを変えてしまった。印刷術は[[文学]]を、火薬は[[戦争]]を、羅針盤は[[航海術|航法]]を、である。大きな変化が起こってしまうと、それはかつていかなる帝国も、いかなる社会勢力も、いかなる星も発揮したことがない強い影響力を人間社会に及ぼしたことがわかった。|[[フランシス・ベーコン (哲学者)|フランシス・ベーコン]]|<ref>[[:s:la:Novum Organum - Liber Primus|Novum Organum, Liber I, CXXIX]] - Adapted from the [[wikisource:Novum Organum|1863 translation]]（ノヴム・オルガヌム：1863年翻訳版より）</ref>}}

[[14世紀]]に[[焦玉]]が記した『火龍経』は中国の重要な戦術論のひとつである。[[火薬]]を使った兵器として記載されたものには、火箭（焼夷矢）・[[火鎗]]・[[火器]]・[[地雷]]・[[水雷]]・[[射石砲]]・[[大砲]]、および火薬のほか[[毒ガス]]や[[煙幕]]などの処方も収めてある。

[[11世紀]]には、[[畢昇]]（[[972年]]-[[1051年]]）が[[膠泥活字]]印刷を発明、[[1298年]]には[[王禎]]が[[木活字]]を実用化、[[1490年]]には[[華燧]]が金属活字を実用化した。

== 中世 ==
[[File:WorldShips1460.jpg|thumb|right|[[1460年]]の世界の船舶（[[フラ・マウロの世界図]]）中国の[[ジャンク船]]を3－4本マストの大型船と記述]]
{{Main|{{仮リンク|宋の技術|en|Technology of the Song Dynasty}}}}
この時代の科学的成果には、[[マッチ]]、[[乾ドック]]、2動作ピストン式ポンプ、[[鋳鉄]]、[[鉄]][[プラウ|犂]]、[[馬具]]の[[頭絡]]、[[播種器]]、[[手押し車]]、[[吊り橋]]、[[パラシュート]]、[[天然ガス]]の燃料利用、[[立体地形図]]、[[プロペラ]]、[[水門]]<!--、[[閘門]]-->がある。[[唐]]（[[618年]]-[[906年]]）の時代はことに発明が相次いだ<ref name="Inventions"/>。

7世紀には、手彫りの[[木版印刷|木版]]で1ページごとに印刷する書籍印刷が中国と[[日本]]で発達した<ref name="Inventions"/>。最も古い印刷物として名が知られるのは[[9世紀]]の[[金剛経]]である{{efn|[[百万塔陀羅尼]]は770年であるが、最古の印刷物として認めるかどうかは諸説がある。}}<ref name="Inventions"/>。その頃活版も出現したが多数の[[活字]]が必要になるため顧みられなくなった。[[ヨハネス・グーテンベルク|グーテンベルク]]の時代まで[[活版印刷]]技術を改良する環境は整わなかったらしい<ref name="Inventions"/>。

[[File:Jiao zi.jpg|thumb|left|世界初の紙幣（[[交子]]）導入は[[宋 (王朝)|宋]]の時代、その後[[元 (王朝)|元]]の時代に普及]]
火薬に加え、中国人は[[東ローマ帝国]]の武器『[[ギリシアの火]]』の[[火炎放射器|火炎放射装置]]の一枚上を行った。[[猛火油]]と[[猛火油櫃]]（ポンプ式火炎放射器）は900年ごろ中国ではじめて使われた<ref name="Turnbull">Turnbull, p. 43</ref>。中国のイラストは東ローマの文書の挿絵よりも具体的であり<ref name="Turnbull"/>、[[1044年]]には[[攻城戦|攻城攻撃]]にこの使用を奨励する記録が残っているが、そこにはポンプを水平に装着した真鍮の容器と小口径の[[ノズル]]がみられる<ref name="Turnbull"/>。[[975年]][[南京市|南京]]近郊の[[揚子江]]の戦いの記録から武器の威力がわかるが、風向きが変わると火は宋軍側に吹き戻される<ref name="Turnbull"/>。

[[宋 (王朝)|宋]]（[[960年]]-[[1279年]]）は長い内戦後の中国に安定をもたらし、[[科挙]]と[[能力主義]]で新時代の社会を切り開いた。初代皇帝[[趙匡胤|太祖]]が打ち立てた政体は言論と思想の自由を大幅に認めたため、科学の進歩、経済改革、芸術・文学が開花する土壌ができた<ref name="Money">''Money of the World'' Special Christmas Edition, Orbis Publishing Ltd, 1998.</ref>。交易は国内・対外とも盛んになり、[[開封府|開封]]や[[杭州]]の貨幣鋳造所では技術改良が進み次第に[[宋銭]]の生産量が増加した<ref name="Money"/>。1080年に[[神宗 (宋)|神宗]]の貨幣鋳造所は500,000,000個の硬貨（中国人ひとりあたり約50個）を鋳造し、1023年には初の[[紙幣]]を生産した<ref name="Money"/>。この硬貨は長く市場に出回り700年後の18世紀まで使われた<ref name="Money"/>。

[[File:Clock Tower from Su Song's Book.JPG|thumb|right|200px|蘇頌の天文時計塔の内部動作機構、1092年出版の自著より]]
宋の時代には著名な発明家や科学者が数多く輩出した。官吏の[[沈括]]、著作『[[夢渓筆談]]』<ref>邦訳『夢渓筆談』は、[[梅原郁]]訳注、[[平凡社東洋文庫]] 全3巻</ref>（1088年）でよく知られる。沈括は本書で、船舶修繕用[[乾ドック]]、航行用磁気[[羅針盤]]の使用のほか、『[[真北]]』という概念（および[[北極]]への[[磁気偏角]]）の発見について触れている。また沈括は、土地形成の地質学的理論（[[地形学]]）を創案したり、きわめて長い時間で地質学的地域に[[気候変動]]が起こることを理論化した。同じような才能に恵まれた官吏の[[蘇頌]]は、1088年頃に完成した開封の[[天文時計]]台を技術監督したことで知られる。時計台は水車を動力に[[脱進機]]で駆動した。この脱進機がヨーロッパに出現するのは2世紀後のことである。時計台の頂上に冠するのは機械仕掛けで動く大きな青銅製の[[渾天儀]]である。蘇頌は『[[本草図経]]』（図解[[薬局方]]、原典は1058年-1061年）を学者グループで編纂し1070年に出版した。この[[薬学]]論文は関連分野が[[植物学]]・[[動物学]]・[[鉱物学]]・[[冶金学]]にまたがる[[博物学]]的なものであった。

中国の天文学者は1054年に世界で初めて[[超新星]]観測記録を残したが、この超新星はその後[[かに星雲]]となり、超新星爆発に関係することが確認された最初の天体となった<ref name="Mayall">Mayall N.U. (1939), ''[http://adsabs.harvard.edu/cgi-bin/nph-data_query?bibcode=1939ASPL....3..145M&link_type=ARTICLE&db_key=AST The Crab Nebula, a Probable Supernova]'', Astronomical Society of the Pacific Leaflets, v. 3, p.145</ref>。[[アラビア天文学]]と[[中国天文学]]はモンゴル人支配による[[元 (王朝)|元代]]に交流があった。[[クビライ]]が設立した中国天文局で[[イスラム教徒]]の天文学者が働き、[[イランの歴史|ペルシア]]の[[マラガ天文台]]で中国人天文学者が観測に従事した<ref>[http://abstractairanica.revues.org/document4985.html Abstracta Iranica]</ref>。（これ以前に、古代[[インド天文学|インドの天文学]]者は中国の宮廷に専門知識を伝授している[http://www.nybooks.com/articles/article-preview?article_id=17608]。）

== 元代の技術伝播 ==
元代の[[13世紀]]にも経済的観点による技術革新があったが、これはクビライの時代の初の[[紙幣]]の大量生産である<ref name="Inventions"/>。13世紀になるとヨーロッパとモンゴルの間では度々接触があったが、その代表は不安定な[[フランクとモンゴルの同盟]]である。西方で展開した戦線では、攻城包囲戦専門の中国人部隊が編成され、モンゴル軍の一翼を担った。[[1259年]]-[[1260年]]に[[アンティオキア公国|アンタキヤ公]]{{仮リンク|ボエモン6世|en|Bohemond VI}}とその義父[[アルメニア]]王{{仮リンク|ヘトゥム1世|en|Hetoum I}}率いるフランス騎士団と[[フレグ]]のモンゴル軍は軍事同盟を結び、共同で[[イスラム教]][[シリア]]の征服に乗り出し、まず[[アレッポ]]、次に[[ダマスカス]]を攻略した<ref>"Histoire des Croisades", René Grousset, p581, ISBN 226202569X</ref>。[[ロジャー・ベーコン]]の個人的知己で[[1254年]]-[[1255年]]に[[フランス]]国王[[ルイ9世 (フランス王)|ルイ9世]]の命を受けモンゴル帝国を訪れた[[ウィリアム・ルブルック]]は、東西間で火薬のノウハウ移転を仲介した人物らしいといわれる<ref>"The Eastern Origins of Western Civilization", John M.Hobson, p186, ISBN 0521547245</ref>。羅針盤は[[1219年]]-[[1223年]]にかけて[[ペルシア]]のモンゴル人を訪れた[[テンプル騎士団]]総長ペドロ・デ・モンタギューがヨーロッパに持ち帰ったといわれる<ref>[http://templis.free.fr/maitre.htm#16 Source]</ref>。

== 中国におけるイエズス会の活動 ==
[[File:Jesuites en chine.jpg|thumb|right|中国のイエズス会]]
[[イエズス会]]中国使節は[[16世紀]]-[[17世紀]]にヨーロッパの科学と天文学を中国に持ち込み、中国の社会改造を実行した。アメリカの歴史家{{仮リンク|トーマス・ウッズ|en|Thomas Woods}}によれば、イエズス会は『惑星の動きが理解できる[[ユークリッド幾何学]]など、物理的宇宙を理解するための大量の科学知識と、諸々の心理的小道具をこの地に持ち込んだ』<ref name="Woods"/>。またウッズが引用した別の専門家によれば、イエズス会が[[科学革命]]を持ち込んだとき、偶然にも中国では科学が低調だったという。
{{Quotation|彼らは[[天体観測]]を精力的に行い、中国初の近代的地図を作成した。また中国の科学的業績を調べ上げヨーロッパに報告した。これによりヨーロッパ人科学者は初めて中国の科学と文化を知ることになった。|<ref name="Udias">Agustín Udías, p.53</ref>}}

[[File:LifeAndWorksOfConfucius1687.jpg|thumb|left|イントルチェッタの著作、1687年]]
イエズス会は西洋の数学と天文学の業績を中国語に翻訳し、中国人学者の関心を喚起した。[[マテオ・リッチ]]は、[[儒教]]の教義を本部に報告し、イントルチェッタ神父は儒教の日常と業績を[[1687年]]に[[ラテン語]]で出版した<ref>"Windows into China", John Parker, p.25</ref>。この仕事はこの時代のヨーロッパの知識人にとり大変重要であったとみられる。ことに[[理神論]]者や[[啓蒙主義]]者は儒教の倫理体系とキリスト教倫理の統合に関心を払った<ref>"Windows into China", John Parker, p.25, ISBN 0890730504</ref><ref>"The Eastern origins of Western civilization", John Hobson, p194-195, ISBN 0521547245</ref>。

[[アダム・スミス]]の先達で[[近代経済学]]を確立した[[フランス]]の[[重農主義]]者[[フランソワ・ケネー]]は『ヨーロッパの儒家』とよばれた<ref>FORERUNNERS OF HENRY GEORGE
by Samuel Milliken, [http://www.grundskyld.dk/8-forerunners.html Online source]</ref>。その思想と[[自由放任]] ''Laissez-faire'' という主義の名称も、中国の『[[無為]]』に想を得たものとみられる<ref>[http://www.lse.ac.uk/collections/economicHistory/GEHN/GEHNPDF/WorkingPaper12CG.pdf 1 Source]</ref><ref>"The Eastern Origins of Western Civilization", John M. Hobson, p.196</ref>。[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]は『[[ワイマール]]の儒家』とよばれた<ref>Quarterly Review of Comparatice Education [http://www.ibe.unesco.org/publications/ThinkersPdf/confucie.PDF Online source]</ref>。
{{Clearleft}}
== 科学技術の停滞 ==
[[File:Chinese fining.png|thumb|200px|right|鉄鉱石を精錬する撹錬工程。[[錬鉄]][[銑鉄]]をつくる。イラスト右側で（隠れて見えない）人物が[[溶鉱炉]]で作業中。[[宋應星]]（[[1587年]]-[[1666年]]）著、[[百科事典]]『[[天工開物]]』（[[1637年]]）より]]

歴史研究者の間で交わされる議論の主題となるのが、中国で[[科学革命]]が進展しなかった理由は何か、また中国の技術がヨーロッパの後塵を拝した理由は何かである。文化から政治経済まで各種の仮説が提唱されている。[[ネイサン・セビン]]の論点は、「中国にも科学革命は[[17世紀]]に存在したが、我々は西洋と中国の科学革命を政治・経済・社会の視点に細分化して理解するにはまだ程遠い」というものだ<ref>[http://ccat.sas.upenn.edu/~nsivin/curr.html Nathan Sivin's Curriculum Vitae]</ref>。[[ジョン・キング・フェアバンク]]の主張は、中国の政治制度が科学発展の障害であったとする。

文化的要因が『科学』と呼びうるものの発達を妨げたという[[ジョゼフ・ニーダム|ニーダム]]の仮説には賛同者が多い<ref name="Woods">Woods</ref>。中国の知識人が自然界の法則性を信じる障害になっているのが、宗教・哲学の枠組であるというものだ。
{{Quotation|中国人は自然界の法則性を否定しないが、それは合理的人格的存在（[[天帝]]）が命じた規律ではなく、合理的人格的存在がかつて布告した天与の法則のコードを、地球的な小さな言語体系で解読しようなどとは思いもしなかったのだろう。[[道教]]徒も洞察対象である宇宙の複雑さと神秘性を前にしてそのような仮定をするのはあまりに素朴すぎると軽蔑しただろう。|[[ジョゼフ・ニーダム]]|<ref name="Needham">[[ジョゼフ・ニーダム]], p. 581.</ref>}}

同様な土壌が伝統医療の背景となる哲学全般にもみられる。その哲学は古来の中国の信仰を反映した[[道教]]思想に由来する。そこでは各個人の経験は環境に対してあらゆる影響を発揮する主因的原理となる。これは[[科学的方法]]以前の論理であり、科学的思考によりさまざまな批判を受けてきた。そのため[[解剖学]]や[[組織学]]の観点から[[経穴]]や[[経絡]]の存在を物理的に検証しうる、たとえば皮膚の伝導性がしかるべき点で増大するとしても<ref>see _The Body Electric_ by Robert O. Becker, M.D., pgs 233-236</ref>、[[懐疑主義|懐疑派]]の哲学者[[ロバート・キャロル]]などは、『メタフィジカルな主張と経験的主張を混同する』という理由で[[鍼灸術]]を[[疑似科学]]とみなす<ref>{{Cite web |url=http://skepdic.com/pseudosc.html |title=From Abracadabra to Zombies |access-date=2024-01-11}}</ref>。
{{Quotation|鍼灸術やその他の手段による気の解放が病気治療に効果があることを、科学研究により立証することはいかなる手段を使っても不可能である。その理由は気が[[経験科学]]の方法では検知不能と定義されているからだ。|[http://skepdic.com/acupunc.html]}}

近年の歴史家は政治や文化の側面からの説明に疑問を呈してきた。また、経済的原因により焦点を当ててきた。{{仮リンク|マーク・エルヴィン|en|Mark Elvin}}が提唱する「{{仮リンク|高水準均衡の罠|en|high-level equilibrium trap}}」は、この考え方に沿った例であり、[[ケネス・ポメランツ]]の論議と同様、[[新世界|新大陸]]から得られた資源がヨーロッパと中国の発展に決定的な差をつけたというものだ。そのほかに[[海禁]]や[[文化大革命]]などの出来事が重要な時機に中国を孤立させてきたとする。

== 近代化 ==
{{Main|{{仮リンク|中華人民共和国の科学技術史|en|History of science and technology in the People's Republic of China}}}}
{{See also|中華人民共和国の科学技術|中国の宇宙開発}}
[[1949年]]の[[中華人民共和国]]建設から、[[毛沢東]]時代は[[ソビエト連邦]]の路線に沿って[[巨大科学]]研究の体制を再編し、[[核兵器]]の開発や[[人工衛星]]の打ち上げに成功した。この時代は[[屠呦呦]]による[[アルテミシニン]]の発見、[[袁隆平]]による[[ハイブリッド米]]の開発など[[農業]]・[[医薬]]面では一定の成果があった。[[1975年]]以来、科学技術は[[4つの近代化]]の柱の一つであり、[[鄧小平]]が掲げる[[改革開放]]路線でも[[民生用]]技術の急速な発達も重視した。政府は科学の産業への応用と外国からの[[技術移転]]に重点を置く政策形成をしてきた。

21世紀になると、中華人民共和国の科学技術は急速に発展した。政府は世界経済に一層歩調をあわせ、かつ科学技術に一層重点を置くようになった。この結果資金供給が加速し、科学研究の体制は改善され、研究費は増大した。これらの要因は、[[スーパーコンピュータ]]・[[遺伝子工学]]などの研究分野で研究の進展に結びついている。また、政府は[[高速鉄道]]、[[電子商取引]]、[[電子決済]]、[[共有経済]]を中国の「新四大発明」と位置づけてる<ref>{{citation|url=https://www.recordchina.co.jp/b578047-s0-c70-d0000.html|title=「新4大発明」が中国のシンボルに、全人代の政府活動報告でも重要性指摘―中国メディア |date=2018-03-07|publisher=[[Record China]]|accessdate=2018-03-08}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|20em}}

== 参考文献 ==
*''Inventions'' (Pocket Guides). Publisher: DK CHILDREN; Pocket edition (March 15, 1995). ISBN 1564588890. ISBN 978-1564588890
*''Buildings'' (Pocket Guides). Publisher: DK CHILDREN; Pocket edition (March 15, 1995). ISBN 1564588858. ISBN 978-1564588852
* Mark Elvin, "The high-level equilibrium trap: the causes of the decline of invention in the traditional Chinese textile industries" in W. E. Willmott, ''Economic Organization in Chinese Society'', (Stanford, Calif., Stanford University Press, 1972) pp. 137-172.
** {{PDFlink|[http://www-personal.umd.umich.edu/~delittle/elvin.pdf The High-level Equilibrium Trap]|64.3&nbsp;[[Kibibyte|KiB]]<!-- application/pdf, 65907 bytes -->}}
*{{cite book | author= Kelly, Jack | title=Gunpowder: Alchemy, Bombards, & Pyrotechnics: The History of the Explosive that Changed the World | publisher=Basic Books | year=2004 | id=ISBN 0-465-03718-6}}
* {{cite book | author= Liang, Jieming | title=Chinese Siege Warfare: Mechanical Artillery & Siege Weapons of Antiquity | publisher= | year=2006 | id=ISBN 981-05-5380-3}}
*Joseph Needham, ''Science and Civilization in China'', volume 1. (Cambridge University Press, 1954) 
:邦訳（[[ジョゼフ・ニーダム]]、[[薮内清]]監訳 『中国の科学と文明』思索社）
:※薮内清は（1906 - 2000）は多数の関係著書を刊行。詳しくはリンク先参照。　
*Joseph Needham (1986). ''Science and Civilization in China, Volume 4, Part 2''. Taipei: Caves Books Pty. Ltd.
*Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” ''Isis'', Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954)
*Stephen Turnbull, ''The Walls of Constantinople, AD 324–1453'', Osprey Publishing, ISBN 1-84176-759-X
*Agustín Udías, ''Searching the Heavens and the Earth: The History of Jesuit Observatories'' (Dordrecht, The Netherlands: Kluwer Academic Publishers, 2003)
*Shelagh Vainker in Anne Farrer (ed), "Caves of the Thousand Buddhas" , 1990, British Museum publications, ISBN 0-7141-1447-2
*Thomas Woods, ''How the Catholic Church Built Western Civilization'', (Washington, DC: Regenery, 2005), ISBN 0-89526-038-7
*杜石然ほか編、[[川原秀城]]他訳 『中国科学技術史』 [[東京大学出版会]]（上下）, 1997

== 関連項目 ==
{{ウィキポータルリンク|中国|[[File:China.svg|40px|Portal:中国]]}}
* [[中国文明]]
* {{仮リンク|中国の発明一覧|en|List of Chinese inventions}}
* [[中国の数学]]
* [[数学史#中国での数学の発展]]
** [[中国の剰余定理]]
* {{仮リンク|中国天文学|en|Chinese astronomy}}
* [[伝統中国医学]]
* [[永楽大典]]
* [[錬丹術]]
* [[中国の軍事史]]（兵器と軍事技術の歴史）
* [[中国暦]]
* [[農書#中国]]
* [[中国学]]
* [[中国哲学]]
* [[術数学]]
* [[本草学]]

== 外部リンク ==
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* [http://www.ihns.ac.cn/ 中国科学院自然科学史研究所] {{Zh icon}}
* [https://web.archive.org/web/20090912192814/http://www.cshst.org.cn/ 中国科学技術史学会] {{Zh icon}}
* [http://www.cast.org.cn/ 中国科学技術協会] {{Zh icon}}

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