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{{Infobox medical intervention|Name=中心静脈カテーテル|Image=Blausen 0181 Catheter CentralVenousAccessDevice NonTunneled.png|Caption=右鎖骨下静脈に挿入された中心静脈カテーテル。皮下トンネルのないタイプ。|ICD10=Z45.2|ICD9=|MeshID=D002405|OtherCodes=|Synonyms=中心静脈ルート、中心静脈ライン、中心静脈アクセス}}
'''中心静脈カテーテル'''（ちゅうしんじょうみゃくカテーテル、{{Lang-en-short|'''Central venous catheter'''}}、CVC）は、鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈などの太い静脈に挿入するカテーテルである{{Efn|かつてはIVHと呼ばれることも多かったが、これが中心静脈栄養 (Intravenous hyperalimentation)の略であり、厳密にはカテーテルそのものを指さないことが広く知られるようになり、この呼称はあまり用いられなくなってきている。なお、「中心静脈」という解剖学用語は存在しない。}}。

{{仮リンク|静脈アクセス|en|venous access|label=|redirect=1}}の一種である。

== 概要 ==
重症患者や長時間の点滴治療を必要とする患者には、より信頼性の高い{{Efn|具体的には、いわゆる点滴漏れが起こりにくいことをいう。点滴漏れの原因は、カテーテルの抜けか、血管の炎症による薬液の血管外への漏出のどちらかである。中心静脈カテーテルは通常、数センチの長さしか無い[[末梢静脈カテーテル]]に比べて長く、抜けにくい。また、後述するように血管の炎症が生じにくい。}}[[静脈路確保]]のために、手足よりも心臓に近い位置にある静脈に大きなカテーテルを留置することがしばしば必要となる。これらのカテーテルは、一般に、首の静脈（[[内頸静脈]]）、{{仮リンク|胸部|en|chest|label=|redirect=1}}の静脈（[[鎖骨下静脈]]または{{仮リンク|腋窩静脈|en|axillary vein|label=|redirect=1}}）、[[鼠径部]]（[[大腿静脈]]）、または上腕の静脈に挿入される。これは、{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|label=|redirect=1}}または略称でPICCラインと呼ばれる。

中心静脈ラインは、口から飲めない、ないしは血管障害性の薬剤・輸液の投与、血液検査、高速での輸液や血液製剤の投与、[[中心静脈圧]]の測定に用いられる<ref name="McKean">{{Cite book |last1=McKean |first1=Sylvia |last2=Ross |first2=John |last3=Dressler |first3=Daniel |last4=Brotman |first4=Daniel |last5=Ginsburg |first5=Jeffrey |name-list-style=vanc |title=Principles and practice of hospital medicine |date=2012 |publisher=McGraw-Hill |location=New York |isbn=978-0071603898}}</ref><ref name="Ge_2012">{{Cite journal|date=March 2012|title=Central venous access sites for the prevention of venous thrombosis, stenosis and infection|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2012|issue=3|pages=CD004084|doi=10.1002/14651858.CD004084.pub3|pmid=22419292|pmc=6516884|vauthors=Ge X, Cavallazzi R, Li C, Pan SM, Wang YW, Wang FL}}</ref>。用いられるカテーテルの長さは通常15～30 cm、[[ケイ素|シリコン]]や[[ポリウレタン]]製で、輸液注入用の[[ルーメン (解剖学)|ルーメン]]が複数あるものもある<ref name=":1">{{Cite book|和書 |title=ICUブック |url=https://www.worldcat.org/oclc/931498024 |publisher=メディカルサイエンス・インターナショナル |date=2015 |location=東京 |isbn=978-4-89592-831-1 |oclc=931498024 |first=Paul L. |last=Marino |edition=第4版 |translator=稲田英一}}</ref>{{Rp|page=8|pages=000–000}}。

中心静脈カテーテルの管理には、カテーテル内腔を注射器に充填した生理食塩水で洗浄することがよく行われるが、この行為は'''フラッシュ'''({{Lang-en-short|flush}})とよばれる。

[[合併症]]には、[[気胸]]、[[動脈]]穿刺、[[感染]]、カテーテル[[閉塞]]、カテーテルの位置異常、[[空気塞栓]]、[[血栓症]]などがある。

中心静脈カテーテルの留置にはガイドワイヤーを用いる[[セルディンガー法]]が用いられることが多く、近年はカテーテル留置時に[[超音波診断装置]]を併用することによって合併症の発生率は低下しつつある。

== 歴史 ==
最初の中心静脈カテーテル留置は、1929年、[[ドイツ]]の[[外科学|外科]][[研修医]][[ヴェルナー・フォルスマン]]によって成し遂げられた。彼は、プラスチック製の[[尿道カテーテル]]を自分の左腕の{{仮リンク|尺側皮静脈|en|Basilic vein|redirect=1}}に挿入し、[[右心房]]まで到達させた<ref name=":7">{{Cite journal|last=Mueller|first=Richard L.|last2=Sanborn|first2=Timothy A.|date=1995-01-01|title=The history of interventional cardiology: Cardiac catheterization, angioplasty, and related interventions|url=https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0002870395900551|journal=American Heart Journal|volume=129|issue=1|pages=146–172|language=en|doi=10.1016/0002-8703(95)90055-1|issn=0002-8703}}</ref>。しかし、上司に無許可であったために叱責され、彼は病院を解雇されてしまった<ref name=":7" />。だが、この手技の医学上の貢献が後に評価され、1956年に[[ノーベル医学賞]]を授与されるに至った<ref>{{Cite web|和書|title=耳寄りな心臓の話（第５話）『わが身にカテーテルを通す』 ｜はあと文庫｜心日本心臓財団刊行物｜公益財団法人 日本心臓財団 |url=https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/05.html |website=www.jhf.or.jp |access-date=2023-04-13}}</ref><ref name=":1" />{{Rp|page=3|pages=000–000}}。

== 適応 ==
[[ファイル:Central venous catheter set.jpg|サムネイル|セルディンガー法による中心静脈カテーテルの穿刺セット。①[[局所麻酔薬]]を充填した[[注射器]]と[[注射針]]　②[[メス (刃物)|メス]]　③超音波診断装置のプローベ先端に塗布する滅菌済ゼリー　④ヘパリン加生理食塩水を充填した注射器に接続された[[留置針]]　⑤ガイドワイヤー　⑥ダイレーター　⑦カテーテル　⑧カテーテルの皮膚への固定具（糸で縫合固定する）　⑨[[創傷被覆材]]]]
[[ファイル:Hickman_line_catheter_with_2_lumens.jpg|サムネイル|A [[人工透析|dialysis]] two-lumen catheter inserted on the person's left side. Scars at the base of the neck indicate the insertion point into the left {{仮リンク|jugular vein|en|jugular vein|label=jugular vein}}.]]
中心静脈カテーテルの主な適応は次のとおりである<ref name=":6">{{Cite journal|last=Taylor|first=Robert W.|last2=Palagiri|first2=Ashok V.|date=2007-05|title=Central venous catheterization|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17414086/|journal=Critical Care Medicine|volume=35|issue=5|pages=1390–1396|doi=10.1097/01.CCM.0000260241.80346.1B|issn=0090-3493|pmid=17414086}}</ref>。

# '''末梢静脈へのカテーテル留置困難''' – [[末梢静脈カテーテル]]を確保または維持することが困難な場合、中心静脈カテーテルが留置されることがある（例：肥満、過去の{{仮リンク|カニュレーション|en|cannulation|label=|redirect=1}}による静脈の傷跡、興奮した患者）
# '''特殊な薬剤ないしは輸液の投与''' – 血管収縮薬（[[ノルアドレナリン|ノルエピネフリン]]、[[バソプレッシン|バソプレシン]]、[[フェニレフリン]]など）、[[化学療法 (悪性腫瘍)|化学療法剤]]、{{仮リンク|高張|en|hypertonic|label=|redirect=1}}液などの薬剤は末梢静脈にダメージを与えるため、しばしば中心静脈ラインを必要とする。さらに、複数の[[ルーメン (解剖学)|ルーメン]]を持つカテーテルからは、複数の静注薬を容易に同時投与できる。
# '''長期間の点滴治療''' - 長期間の[[高カロリー輸液]]や[[抗生物質]]の静脈内投与など、長期間（数日以上）投与する必要がある注射薬は、中心静脈ラインを通して投与される。
# '''特殊な治療''' - [[人工透析|血液透析]]、[[アフェレーシス|血漿交換]]、経静脈的[[心臓ペースメーカー|心臓ペーシング]]、侵襲的{{仮リンク|血行動態|en|hemodynamic|redirect=1}}[[モニタリング (医学)|モニタリング]]（例：[[肺動脈カテーテル]]）等の医学的介入には中心静脈アクセスが必要である。

中心静脈カテーテルの使用に絶対的な禁忌はない<ref name=":6" />。相対的な禁忌は、[[血液凝固障害]]、留置部位の外傷または局所感染、留置部位よりも心臓に近い側の血管損傷が疑われる場合など。ただし、中心静脈留置に伴うリスクと合併症があるので、以下に述べる<ref>{{Citation|title=Central Line Placement|last1=Tse|first1=Audrey|last2=Schick|first2=Michael A.|date=2020|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470286/|work=StatPearls|publisher=StatPearls Publishing|pmid=29262231|access-date=2020-03-11|name-list-style=vanc}}</ref>。

== 合併症 ==
中心静脈ライン挿入は、いくつかの[[合併症]]を引き起こす可能性がある。用いることで期待される利益は、これらの合併症のリスクを上回るものでなければならない。

=== 気胸 ===
[[気胸]]の発生率は、解剖学的に肺尖に近い鎖骨下静脈のカテーテル留置で最も高くなる。経験豊富な医師でも、気胸の{{仮リンク|発生率|en|Incidence (epidemiology)|redirect=1}}は1.5～3.1％程度にもなるとされる。内頸静脈のカテーテル治療の場合、気胸のリスクは[[超音波]]画像で可視化しながら留置することで最小化される。[[英国国立医療技術評価機構]]やその他の医療機関では、合併症を最小限に抑えるために[[超音波検査|超音波診断装置]]の[[ルーチン]]使用を推奨している<ref>{{Cite web |author=National Institute for Health and Clinical Excellence |title=Technology appraisal: the clinical effectiveness and cost effectiveness of ultrasonic locating devices for the placement of central venous lines |url=http://www.nice.nhs.uk/guidance/index.jsp?action=byID&o=11474 |archive-url=https://web.archive.org/web/20141020081830/http://www.nice.nhs.uk/guidance/index.jsp?action=byID&o=11474 |url-status=dead |archive-date=2014-10-20 |date=September 2002 |access-date=2008-06-01}}</ref>。

気胸が疑われる場合は、'''立位'''で{{仮リンク|胸部X線撮影|en|Chest radiograph|redirect=1}}を行う必要がある。肺外に漏れた空気は肺尖に移動し、そこで容易に可視化されるため、立位胸部X線撮影が望ましい。もちろん、特に[[集中治療室]]に入院している重症の患者では、常にこれが可能とは限らない。仰臥位で撮影した[[X線撮影]]は、気胸の25～50％を検出できない<ref>{{Cite journal|date=September 2005|title=A prospective comparison of supine chest radiography and bedside ultrasound for the diagnosis of traumatic pneumothorax|journal=Academic Emergency Medicine|volume=12|issue=9|pages=844–9|doi=10.1197/j.aem.2005.05.005|pmid=16141018|vauthors=Blaivas M, Lyon M, Duggal S|doi-access=free}}</ref>。代替手段として、ベッドサイドの超音波検査は、重症で立位撮影ができない患者の気胸検出手段として優れていることが示されている<ref>{{Cite journal|last=Ball|first=Chad G.|last2=Kirkpatrick|first2=Andrew W.|last3=Laupland|first3=Kevin B.|last4=Fox|first4=Dan L.|last5=Litvinchuk|first5=Stacey|last6=Dyer|first6=Dianne M. M.|last7=Anderson|first7=Ian B.|last8=Hameed|first8=S. Morad|last9=Kortbeek|first9=John B.|date=2005-05|title=Factors related to the failure of radiographic recognition of occult posttraumatic pneumothoraces|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15862493/|journal=American Journal of Surgery|volume=189|issue=5|pages=541–546; discussion 546|doi=10.1016/j.amjsurg.2005.01.018|issn=0002-9610|pmid=15862493}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Vezzani|first=Antonella|last2=Brusasco|first2=Claudia|last3=Palermo|first3=Salvatore|last4=Launo|first4=Claudio|last5=Mergoni|first5=Mario|last6=Corradi|first6=Francesco|date=2010-02|title=Ultrasound localization of central vein catheter and detection of postprocedural pneumothorax: an alternative to chest radiography|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19829102/|journal=Critical Care Medicine|volume=38|issue=2|pages=533–538|doi=10.1097/CCM.0b013e3181c0328f|issn=1530-0293|pmid=19829102}}</ref>。

=== 動脈穿刺<!-- 英語版ではvascular perforationという節だったが、本節は血管穿孔というよりも動脈穿刺の節であるので改題 --> ===
動脈穿刺は、中心静脈穿刺の合併症として恐れられており、生命を脅かす可能性がある。幸いなことに、これらの事象の発生率は、特にカテーテルを超音波ガイドで留置した場合、非常にまれである。{{仮リンク|頚動脈|en|carotid artery|label=|redirect=1}}への偶発的なカテーテル留置は、[[内頸静脈]]にカテーテルを留置する際に起こりうる合併症である。これは、超音波ガイドを用いた場合、約1％の割合で発生するとされる{{Efn|近年は超音波診断装置の進歩と穿刺手技の進歩により、さらに低下しているものと思われる。}}。しかし、解剖学的ランドマークに依拠したアプローチを用いた場合には、0.5～11％の発生率が報告されている<ref>{{Cite journal|date=October 2002|title=Does ultrasound imaging before puncture facilitate internal jugular vein cannulation? Prospective randomized comparison with landmark-guided puncture in ventilated patients|journal=Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia|volume=16|issue=5|pages=572–5|doi=10.1053/jcan.2002.126950|pmid=12407608|vauthors=Hayashi H, Amano M}}</ref>{{Efn|2002年の報告で超音波診断装置による優位性を報告したものだが、2023年現在では、機器と穿刺手技共に進歩しており、おそらく動脈穿刺の発生率はさらに低下しているものと思われる。かつては、動脈穿刺のリスクが高いために細径の[[注射針]]を用いた「試験穿刺」が行われており、日本でもまだ数多く行われているものと推測されるが、本稿では試験穿刺の記載そのものが無く、超音波診断装置の使用を前提とした記載となっている。}}。頸動脈に誤ってカテーテルを挿入した場合、カテーテルを抜くと致命的になるため、カテーテルをそのままにして血管外科医に連絡すべきである<ref>{{Cite journal|last=Shah|first=Pravin M.|last2=Babu|first2=Sateesh C.|last3=Goyal|first3=Arun|last4=Mateo|first4=Romeo B.|last5=Madden|first5=Robert E.|date=2004-06|title=Arterial misplacement of large-caliber cannulas during jugular vein catheterization: case for surgical management|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15194076/|journal=Journal of the American College of Surgeons|volume=198|issue=6|pages=939–944|doi=10.1016/j.jamcollsurg.2004.02.015|issn=1072-7515|pmid=15194076}}</ref>。

=== カテーテル関連血流感染症 (Catheter-related bloodstream infections: CRBSI) ===
すべてのカテーテルは、血流に[[細菌]]を混入させる可能性がある。その結果、重篤な感染症を引き起こし、最大で25％の確率で命に関わることもある<ref>{{Cite journal|date=May 2011|title=Guidelines for the prevention of intravascular catheter-related infections|journal=Clinical Infectious Diseases|volume=52|issue=9|pages=e162-93|doi=10.1086/344188|pmid=21460264|pmc=3106269|vauthors=O'Grady NP, Alexander M, Burns LA, Dellinger EP, Garland J, Heard SO, Lipsett PA, Masur H, Mermel LA, Pearson ML, Raad II, Randolph AG, Rupp ME, Saint S|display-authors=6|doi-access=free}}</ref>。'''中心静脈ライン関連血流感染症'''（'''C'''atheter-'''r'''elated '''b'''lood'''s'''tream '''i'''nfections: '''CRBSI'''）の問題は、近年ますます注目されている<ref name="pmid24939191">{{Cite journal|date=December 2014|title=Taurolidine-citrate-heparin catheter lock solution reduces staphylococcal bacteraemia rates in haemodialysis patients|journal=QJM: Monthly Journal of the Association of Physicians|volume=107|issue=12|pages=995–1000|doi=10.1093/qjmed/hcu128|pmid=24939191|vauthors=Murray EC, Deighan C, Geddes C, Thomson PC|doi-access=free}}</ref>。 合併症や死亡の原因となり、医療費も増加する。

微生物は、様々な方法でCVCを介して血流に到達しうる。まれに、汚染された輸液によって侵入することがある。また、ハブ（カテーテルの固定具）などによる破損箇所からカテーテル[[ルーメン (解剖学)|内腔]]に侵入することもある。しかし、ほとんどの微生物は、皮下組織内を血管まで走行するカテーテルに沿って、カテーテルの静脈刺入部分に到達するまで移動することにより、感染が成立する。さらに、血液中に存在する細菌がカテーテルの表面に付着し、[[レゼルボア|感染巣]]となることがある<ref name=":1" />{{Rp|page=40|pages=000–000}}。

CVCの感染が疑われる場合、CVCと体内の別の場所の静脈の両方から{{仮リンク|血液培養|en|blood culture|redirect=1}}を行う。CVCからの培養で、他の静脈部位よりもずっと早く（2時間以上）細菌増殖を確認できた場合、CVCは感染している可能性が高い。定量的な血液培養はさらに正確だが、この方法はあまり普及していない<ref name="pmid15767623">{{Cite journal|date=March 2005|title=Meta-analysis: methods for diagnosing intravascular device-related bloodstream infection|journal=Annals of Internal Medicine|volume=142|issue=6|pages=451–66|doi=10.7326/0003-4819-142-6-200503150-00011|pmid=15767623|vauthors=Safdar N, Fine JP, Maki DG|s2cid=36668132}}</ref>。

カテーテル関連血流感染症が疑われる患者には、ほぼ必ず、すぐに抗生物質を投与する。しかし、これは血液培養が行われた後でなければならず、そうでなければ原因菌が特定できない可能性がある。これらの感染症の原因菌として最も一般的なのは、''{{仮リンク|表皮ブドウ球菌|en|staphylococcus epidermidis|redirect=1}}''などのコアグラーゼ陰性[[ブドウ球菌]]である<ref>{{Cite journal|last=Richards|first=M. J.|last2=Edwards|first2=J. R.|last3=Culver|first3=D. H.|last4=Gaynes|first4=R. P.|date=1999-05|title=Nosocomial infections in medical intensive care units in the United States. National Nosocomial Infections Surveillance System|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10362409/|journal=Critical Care Medicine|volume=27|issue=5|pages=887–892|doi=10.1097/00003246-199905000-00020|issn=0090-3493|pmid=10362409}}</ref>。[[黄色ブドウ球菌]]による[[菌血症]]に起因する[[感染症]]では、カテーテルの抜去と抗生物質の投与が必要である。抗生物質を投与せずにカテーテルを抜去した場合、38％もの患者が[[心内膜炎]]を発症する可能性がある<ref name="pmid888847">{{Cite journal|date=August 1977|title=Staphylococcus aureus bacteremia and endocarditis associated with a removable infected intravenous device|journal=The American Journal of Medicine|volume=63|issue=2|pages=253–6|doi=10.1016/0002-9343(77)90239-X|pmid=888847|vauthors=Watanakunakorn C, Baird IM}}</ref>。がん患者において、中心静脈カテーテルの長期留置前に抗生物質を投与することに利益はなく、この方法はグラム陽性カテーテル関連感染を予防しない可能性があるという[[根拠に基づく医療|エビデンス]]が示唆されている<ref name=":4">{{Cite journal|last1=van den Bosch|first1=Ceder|last2=van Woensel|first2=Job|last3=van de Wetering|first3=Marianne D.|date=2021-10-07|title=Prophylactic antibiotics for preventing gram-positive infections associated with long-term central venous catheters in adults and children receiving treatment for cancer|url=|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=10|issue=11|pages=CD003295|doi=10.1002/14651858.CD003295.pub4|issn=1469-493X|pmid=34617602|pmc=8495768}}</ref>。しかし、感染リスクが高い、長期CVC留置を必要とする患者、例えば、[[化学療法 (悪性腫瘍)|化学療法]]や原疾患による[[好中球減少症|好中球減少]]のリスクがあるがん患者に対しては、[[抗生物質]]と[[ヘパリン]]を含む溶液でカテーテル内腔をフラッシュすることにより、カテーテル関連感染症を減らすことができるかもしれない<ref name=":4" />。

'''[[アメリカ疾病予防管理センター]]'''（'''CDC'''）は、[[診療ガイドライン|臨床ガイドライン]]において、中心静脈ラインの抜去時にルーチンで[[培養]]することを推奨している<ref name="pmid12233868">{{Cite journal|date=August 2002|title=Guidelines for the prevention of intravascular catheter-related infections. Centers for Disease Control and Prevention|url=https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5110a1.htm|journal=MMWR. Recommendations and Reports|volume=51|issue=RR-10|pages=1–29|pmid=12233868|vauthors=O'Grady NP, Alexander M, Dellinger EP, Gerberding JL, Heard SO, Maki DG, Masur H, McCormick RD, Mermel LA, Pearson ML, Raad II, Randolph A, Weinstein RA|display-authors=6}}</ref>。 同ガイドラインでは、ライン感染を防ぐために、他にもいくつかの推奨事項がある<ref name="pmid12233868" />。

感染を予防するためには、カテーテル挿入部位の厳格な消毒が推奨される。このような消毒には[[ポビドンヨード]]液を用いることが多いが、[[クロルヘキシジン]]はヨードの2倍の効果が示唆されている<ref name="Mimoz">{{Cite journal|date=October 2007|title=Chlorhexidine-based antiseptic solution vs alcohol-based povidone-iodine for central venous catheter care|journal=Archives of Internal Medicine|volume=167|issue=19|pages=2066–72|doi=10.1001/archinte.167.19.2066|pmid=17954800|vauthors=Mimoz O, Villeminey S, Ragot S, Dahyot-Fizelier C, Laksiri L, Petitpas F, Debaene B|doi-access=free}}</ref>。 CVCや[[肺動脈カテーテル]]は、3日毎に定期的に入れ換えても、感染率に違いはなかった<ref name="pmid1522842">{{Cite journal|date=October 1992|title=A controlled trial of scheduled replacement of central venous and pulmonary-artery catheters|journal=The New England Journal of Medicine|volume=327|issue=15|pages=1062–8|doi=10.1056/NEJM199210083271505|pmid=1522842|vauthors=Cobb DK, High KP, Sawyer RG, Sable CA, Adams RB, Lindley DA, Pruett TL, Schwenzer KJ, Farr BM|display-authors=6}}</ref>。 CDCは、CVCの感染リスク低減に関して、以下を含む多数の推奨事項を示している<ref>{{Cite book |edition=Seventh edition |title=Handbook of clinical anesthesia |url=https://www.worldcat.org/oclc/857067299 |date=2013 |location=Philadelphia, PA |isbn=978-1-4698-3003-2 |oclc=857067299 |others=Paul G. Barash, Bruce F. Cullen, Robert K. Stoelting, Michael K. Cahalan, M. Christine Stock, Rafael A. Ortega |publisher=WOLTERS KLUWER |pages=1602-1603}}</ref>。
* 感染予防の観点から好ましい挿入部位（非トンネル型カテーテル留置を含む）は鎖骨下静脈であり、可能であれば大腿静脈を避けることが一般的である。
* ガイドラインではトンネル型カテーテルの部位について明確な推奨はない。
* カテーテルは、臨床目標を達成するための最小限のポートを持つものを選択するべきである。
* CVCの使用には滅菌手袋が必要である。
* CVCの留置には全身無菌ドレープ、キャップ、マスク、手袋が必要である。
* カテーテル部位は、感染の有無を評価するため、定期的に目視および[[触診]]（[[創傷被覆材|ドレッシング]]を通して）により観察する必要がある。
* ただし、血管内留置カテーテルの[[創傷被覆材]]（ドレッシング）を交換する際に、非滅菌の清潔手袋を用いることは差し支えない。
* 皮膚洗浄剤は[[クロルヘキシジン]]と[[ポビドンヨード]]の両方が使えるが、クロルヘキシジンが好ましい。
* 短期間のCVC留置では、ドレッシングは透明ドレッシングの場合は少なくとも7日ごと、ガーゼドレッシングの場合は2日ごとに交換する必要がある。
* 長期留置カテーテルまたはトンネル型カテーテルでは、汚れたり緩んだりしない限り、ドレッシングの交換は週1回までとする。
* 中心静脈カテーテルの定期的な抜去・交換は推奨されない。中心静脈カテーテルは不要になったらすぐに抜去すべきであるが、ガイドワイヤーを用いた同じ穿刺部位からの交換であれ、新しい穿刺部位からの再留置であれ、定期的な抜去・交換が感染予防に有益であることは示されていない<ref name=":5">{{Cite journal|date=September 2015|title=Dressings and securement devices for central venous catheters (CVC)|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2019|issue=9|pages=CD010367|doi=10.1002/14651858.CD010367.pub2|pmid=26358142|pmc=6457749|vauthors=Ullman AJ, Cooke ML, Mitchell M, Lin F, New K, Long DA, Mihala G, Rickard CM|display-authors=6|collaboration=Cochrane Wounds Group}}</ref>。
* 薬剤を含浸させたドレッシング製品は、カテーテル関連の血流感染リスクを低減することができる<ref name=":5" />。
* 中心静脈カテーテルのドレッシングの交換間隔が長いことが、感染の多寡に関連するかどうかについては、結論が出ていない<ref>{{Cite journal|last1=Gavin|first1=Nicole C|last2=Webster|first2=Joan|last3=Chan|first3=Raymond J|last4=Rickard|first4=Claire M|editor-last=Cochrane Wounds Group|date=2016-02-01|title=Frequency of dressing changes for central venous access devices on catheter-related infections|journal=Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2016|issue=2|pages=CD009213|language=en|doi=10.1002/14651858.CD009213.pub2|pmid=26827714|pmc=8765739|hdl=10072/339116|hdl-access=free}}</ref>。
* CVC留置中、皮膚を定期的に消毒することでカテーテル関連の血流感染率が低下するかは不明である<ref>{{Cite journal|last1=Lai|first1=Nai Ming|last2=Lai|first2=Nai An|last3=O'Riordan|first3=Elizabeth|last4=Chaiyakunapruk|first4=Nathorn|last5=Taylor|first5=Jacqueline E|last6=Tan|first6=Kenneth|editor-last=Cochrane Wounds Group|date=2016-07-13|title=Skin antisepsis for reducing central venous catheter-related infections|journal=Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2016|issue=7|pages=CD010140|language=en|doi=10.1002/14651858.CD010140.pub2|pmid=27410189|pmc=6457952}}</ref>。

=== カテーテル閉塞 ===
[[ファイル:Central_venous_catheter_with_a_fibrin_sheath.jpg|サムネイル|血栓症の一形態として、カテーテルの周囲に[[フィブリン]]の「鞘」が形成される。カテーテル閉塞の最も一般的な原因の1つである<ref name="BaskinPui2009">{{Cite journal|date=July 2009|title=Management of occlusion and thrombosis associated with long-term indwelling central venous catheters|journal=Lancet|volume=374|issue=9684|pages=159–69|doi=10.1016/S0140-6736(09)60220-8|pmid=19595350|pmc=2814365|vauthors=Baskin JL, Pui CH, Reiss U, Wilimas JA, Metzger ML, Ribeiro RC, Howard SC}}</ref>。{{仮リンク|放射線造影剤|en|radiocontrast|label=|redirect=1}}注入の前後で、造影剤がカテーテルの周囲に集まる様子が間接的に確認できる。]]
静脈カテーテルは、カテーテルのねじれ、カテーテル内への血液の逆流による血栓症、または沈殿物を形成する不溶性物質の注入によって閉塞する場合がある。このうち血栓症は中心静脈ラインの閉塞の最も一般的な原因であり、カテーテルの最大25%に発生する<ref>{{Cite journal|last=Jacobs|first=Brian R.|date=2003-07|title=Central venous catheter occlusion and thrombosis|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12848317/|journal=Critical Care Clinics|volume=19|issue=3|pages=489–514, ix|doi=10.1016/s0749-0704(03)00002-2|issn=0749-0704|pmid=12848317}}</ref>。

CVCは、上肢[[深部静脈血栓症]]などの血栓（[[静脈血栓塞栓症]]）を形成する危険因子である<ref>{{Cite journal|date=July 2009|title=Genetics of venous thrombosis|journal=Journal of Thrombosis and Haemostasis|volume=7 Suppl 1|pages=301–4|doi=10.1111/j.1538-7836.2009.03394.x|pmid=19630821|vauthors=Rosendaal FR, Reitsma PH|doi-access=free}}</ref><ref name="Lee">{{Cite journal|date=February 2012|title=The risk factors and clinical outcomes of upper extremity deep vein thrombosis|url=http://www.escholarship.org/uc/item/227607nc|journal=Vascular and Endovascular Surgery|volume=46|issue=2|pages=139–44|doi=10.1177/1538574411432145|pmid=22328450|vauthors=Lee JA, Zierler BK, Zierler RE|s2cid=206755611}}</ref>。このリスクは、留置時の静脈損傷によって血液中の凝固物質が活性化することによると考えられている<ref name=":0">{{Cite journal|date=January 2002|title=Central venous catheter use. Part 1: mechanical complications|journal=Intensive Care Medicine|volume=28|issue=1|pages=1–17|doi=10.1007/s00134-001-1154-9|pmid=11818994|vauthors=Polderman KH, Girbes AJ|s2cid=38480332}}</ref>。がんも血栓の危険因子であるため、がんを患っている人の方が血栓のリスクは高くなる。中心静脈ラインを有する[[悪性腫瘍|がん]]患者の3分の2がカテーテル関連血栓症の所見を有している<ref>{{Cite journal|last=Verso|first=Melina|last2=Agnelli|first2=Giancarlo|date=2003-10-01|title=Venous thromboembolism associated with long-term use of central venous catheters in cancer patients|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14512399/|journal=Journal of Clinical Oncology: Official Journal of the American Society of Clinical Oncology|volume=21|issue=19|pages=3665–3675|doi=10.1200/JCO.2003.08.008|issn=0732-183X|pmid=14512399}}</ref>。しかし、カテーテル関連血栓症のほとんどの症例（95％以上）は発見されないままである。症候性の症例の多くは、[[大腿静脈]]カテーテル（3.4％）<ref>{{Cite journal|last=Joynt|first=Gavin M.|last2=Kew|first2=Jacqueline|last3=Gomersall|first3=Charles D.|last4=Leung|first4=Vivian Y. F.|last5=Liu|first5=Eric K. H.|date=2000-01-01|title=Deep Venous Thrombosis Caused by Femoral Venous Catheters in Critically Ill Adult Patients|url=https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(15)30947-8/abstract|journal=CHEST|volume=117|issue=1|pages=178–183|language=English|doi=10.1378/chest.117.1.178|issn=0012-3692}}</ref>または{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|label=|redirect=1}}（3％）<ref>{{Cite journal|last=Evans|first=R. Scott|last2=Sharp|first2=Jamie H.|last3=Linford|first3=Lorraine H.|last4=Lloyd|first4=James F.|last5=Tripp|first5=Jacob S.|last6=Jones|first6=Jason P.|last7=Woller|first7=Scott C.|last8=Stevens|first8=Scott M.|last9=Elliott|first9=C. Gregory|date=2010-10|title=Risk of symptomatic DVT associated with peripherally inserted central catheters|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20923799/|journal=Chest|volume=138|issue=4|pages=803–810|doi=10.1378/chest.10-0154|issn=1931-3543|pmid=20923799}}</ref>の留置で見られる。[[ヘパリン]]や[[フォンダパリヌクス]]などの抗凝固薬は、CVCを有するがん患者における血栓、特に[[深部静脈血栓症]]の発生率を低下させることが示されている<ref>{{Cite journal|date=June 2018|title=Anticoagulation for people with cancer and central venous catheters|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=6|issue=2|pages=CD006468|doi=10.1002/14651858.CD006468.pub6|pmid=29856471|pmc=6389340|vauthors=Kahale LA, Tsolakian IG, Hakoum MB, Matar CF, Barba M, Yosuico VE, Terrenato I, Sperati F, Schünemann H, Akl EA|display-authors=6}}</ref>。さらに、非がん患者において、鎖骨下静脈にCVCを短期間留置することは、大腿静脈に留置したCVCよりも血栓ができにくいことが[[コクラン (組織)|コクラン]][[メタ解析]]で示唆されている<ref name="Ge_2012" />。

非血栓性閉塞（沈殿物の形成など）の場合、低濃度の酸を用いてカテーテルの開通性を回復させることができる。0.1N[[塩酸]]溶液を用いるのが一般的である<ref>{{Cite journal|last=Shulman|first=R. J.|last2=Reed|first2=T.|last3=Pitre|first3=D.|last4=Laine|first4=L.|date=1988|title=Use of hydrochloric acid to clear obstructed central venous catheters|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3184423/|journal=JPEN. Journal of parenteral and enteral nutrition|volume=12|issue=5|pages=509–510|doi=10.1177/0148607188012005509|issn=0148-6071|pmid=3184423}}</ref>。[[高カロリー輸液]]（TPN）や[[プロポフォール]]などの脂質を多く含む輸液も、時間の経過とともに閉塞しやすくなる傾向がある。このような場合、少量の70％エタノールを注入することで再開通することが多い<ref name=":1" />{{Rp|page=37|pages=000–000}}{{Efn|英語版からの初訳者注。塩酸もエタノールも、2023年現在の日本においては血管内注入を適応として認可されている製剤は無い。}}。

=== カテーテル位置異常 ===
CVCの誤留置は、怪我や過去の手術によって解剖学的構造が異なっていたり、困難な場合に多くみられる<ref name=":0" />。

CVCは誤って動脈に挿入されることもある（例えば、頸部に挿入する場合は{{仮リンク|頚動脈|en|carotid artery|redirect=1}}や[[椎骨動脈]]、鼠径部に挿入する場合は[[大腿動脈|総大腿動脈]]など）。このエラーは、カテーテルにチューブを接続して、液面を計測することにより、すぐに特定することができる（[[動脈]]は[[静脈]]よりも圧力が高い）。さらに、カテーテルから採血した血液サンプルを検査室に送って[[水素イオン指数|pH]]、[[酸素分圧]] (pO2)、[[二酸化炭素分圧]] (pCO2)を測定すれば、動脈血（pH/pO2が高く、pCO2が低い）または静脈（pH/pO2が低く、pCO2が高い）の特性が判明する<ref name="McKean" />。

鎖骨下静脈へのCVC留置では、カテーテルが誤って[[上大静脈]]ではなく同じ側の[[内頸静脈]]に押し込まれることがある。この可能性を排除するために、挿入後に[[胸部X線]]検査を行う<ref>{{Cite journal|date=March 1984|title=Aberrant locations and complications in initial placement of subclavian vein catheters|journal=Archives of Surgery|volume=119|issue=3|pages=293–5|doi=10.1001/archsurg.1984.01390150035009|pmid=6696623|vauthors=Conces DJ, Holden RW}}</ref>。また、カテーテルの先端が上大静脈ではなく、頸部の対側（反対側）の鎖骨下静脈に誤挿入されることもある。

=== 空気塞栓 ===
静脈循環に空気が混入すると、[[空気塞栓|静脈空気塞栓症]]を引き起こす可能性がある。これはCVC留置のまれな合併症であるが、致死的な場合もある。空気塞栓が患者に与える影響は、空気の流入量と流入速度で決まる。このプロセスは、数秒間に少なくとも200～300 mlの空気が混入すると致命的となる可能性がある<ref name=":2">{{Cite journal|last=Mirski|first=Marek A.|last2=Lele|first2=Abhijit Vijay|last3=Fitzsimmons|first3=Lunei|last4=Toung|first4=Thomas J. K.|date=2007-01|title=Diagnosis and treatment of vascular air embolism|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17197859/|journal=Anesthesiology|volume=106|issue=1|pages=164–177|doi=10.1097/00000542-200701000-00026|issn=0003-3022|pmid=17197859}}</ref>。この結果、[[脳梗塞]]（[[卵円孔]]を通過した空気による）、[[肺水腫]]、急性右心不全（{{仮リンク|心室|en|Ventricle (heart)|label=右心室|redirect=1}}内に閉じ込められた空気による）などが起こり、[[ショック|心原性ショック]]に至ることがある<ref name=":2" />。

静脈性空気塞栓症の臨床症状は、無症状であることがある。有症状者の場合、最も一般的な症状は突然の息切れと咳である。症状が重い場合、患者は急速に[[低血圧|血圧が低下]]し、心原性ショックにより{{仮リンク|意識レベル低下|en|altered level of consciousness|redirect=1}}を生じることがある。また、脳梗塞の急性期症状が見られることもある<ref name=":2" />。[[心臓超音波検査]]により、心臓内に閉じ込められた空気を可視化することができる<ref name=":2" />。重症の空気塞栓症が疑われる場合、CVCの末端に注射器を取り付け、空気を血液循環から除去することを試みても良い。また、患者を左側臥位にするのもよい。この体位は、右心室に滞留した空気を取り除くのに役立つと考えられてきたが、疑問視されてもいる<ref name=":2" />。

=== カテーテル関連血栓症(Catheter-related thrombosis: CRT) ===
カテーテル関連血栓症（Catheter-related thrombosis:'''CRT'''）とは、CVCの長期留置に関連した血栓の発生を指す。主にカテーテル留置が好まれる上肢に発生し、[[肺血栓塞栓症|肺塞栓症]]、血栓後症候群、血管障害などの合併症を引き起こすことがある。症状としては、疼痛、触診による圧痛、腫脹、浮腫、熱感、[[紅斑]]、周囲への[[側副血行路|側副血管]]の発生などが挙げられる。しかし、ほとんどのCRTは無症状であり、過去のカテーテル感染によりCRT発症のリスクは高まる。定期的なフラッシュがカテーテル血栓症の予防に役立つことがある<ref name=":3">{{Cite book |last=Glynda Rees Doyle and Jodie Anita McCutcheon |url=https://opentextbc.ca/clinicalskills/ |title=Clinical Procedures for Safer Patient Care |chapter=8.2 Intravenous Fluid Therapy |chapter-url=https://opentextbc.ca/clinicalskills/chapter/intravenous-therapy-peripheral-and-central-venous-catheters/}}</ref>。カテーテル閉塞がある場合、閉塞の原因が[[血栓]]または[[フィブリン]]塊であれば、血栓溶解剤を用いてもよい。閉塞の原因が血栓形成である場合は、抗凝固剤による治療が適応となる<ref name="pmid19595350">{{Cite journal|date=July 2009|title=Management of occlusion and thrombosis associated with long-term indwelling central venous catheters|url=|journal=Lancet|volume=374|issue=9684|pages=159–69|doi=10.1016/S0140-6736(09)60220-8|pmid=19595350|pmc=2814365|vauthors=Baskin JL, Pui CH, Reiss U, Wilimas JA, Metzger ML, Ribeiro RC, Howard SC}}</ref>。中心静脈カテーテルの開存性を維持し閉塞を防ぐために、ヘパリン生理食塩水によるフラッシュが通常の生理食塩水によるフラッシュよりも優れているかどうかは十分な[[エビデンスに基づく医療|エビデンス]]がない<ref name="pmid31681643">{{Cite journal|date=September 2019|title=Heparin flush vs. normal saline flush to maintain the patency of central venous catheter among adult patients: A systematic review and meta-analysis|url=|journal=Journal of Family Medicine and Primary Care|volume=8|issue=9|pages=2779–2792|doi=10.4103/jfmpc.jfmpc_669_19|pmid=31681643|pmc=6820433|vauthors=Sharma SK, Mudgal SK, Gaur R, Sharma R, Sharma M, Thakur K}}</ref><ref name="pmid32352563">{{Cite journal|date=April 2020|title=Normal saline (0.9% sodium chloride) versus heparin intermittent flushing for the prevention of occlusion in long-term central venous catheters in infants and children|url=|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2020|issue=4|pages=CD010996|doi=10.1002/14651858.CD010996.pub3|pmid=32352563|pmc=7192095|vauthors=Bradford NK, Edwards RM, Chan RJ}}</ref>。

== カテーテル挿入 ==
[[ファイル:Internal_jugular_vein_puncture_with_the_aid_of_ultrasound.ogv|サムネイル|[[超音波検査|超音波]]ガイドによる内頸静脈からのCVC挿入の動画{{Efn|この動画では、穿刺針の針先が描出されておらず、この手法では超音波画像で見えている数mmの断面の奥で他の組織、例えば動脈を損傷していても分からない。近年は超音波検査機器の解像度向上により、穿刺針の針先を描出し続ける手法が主流である。}}]]
手技のリスクや合併症を最小限に抑えるため、挿入前にまず、関連する検査項目やCVC留置の適応を確認し、患者を評価する。次に、挿入予定部位の皮膚を[[消毒]]する。必要であれば、[[局所麻酔薬]]を塗布する。静脈の位置を目印に、または小型の[[超音波検査|超音波装置]]を用いて確認する。中空針を皮膚に刺し、血液を吸引する。血液の色と流速によって、[[動脈血]]（誤って動脈を穿刺した可能性がある）と区別することができる。北米およびヨーロッパでは、超音波の使用が中心静脈へのアクセスおよび手技のゴールドスタンダードとなっており、{{仮リンク|ランドマーク (解剖学)|en|Anatomical landmark|label=ランドマーク|redirect=1}}手技は減少している<ref>{{Cite journal|date=May 2011|title=Future directions for ultrasound-guided central venous access|journal=European Journal of Anaesthesiology|volume=28|issue=5|pages=327–8|doi=10.1097/EJA.0b013e328343b148|pmid=21487264|vauthors=O'Leary R, Bodenham A|s2cid=2076717|doi-access=free}}</ref><ref>{{Cite journal|date=January 2011|title=Reducing major procedural complications from central venous catheterisation|journal=Anaesthesia|volume=66|issue=1|pages=6–9|doi=10.1111/j.1365-2044.2010.06583.x|pmid=21198502|vauthors=Bodenham A|s2cid=29971839}}</ref>。日本においても超音波診断装置の使用が推奨されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://anesth.or.jp/files/pdf/JSA_CV_practical_guide_2017.pdf |title=安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のためのプラクティカルガイド 2017 |access-date=2023-04-08 |publisher=公益社団法人 日本麻酔科学会 安全委員会}}</ref>。最近のエビデンスでは、鎖骨下静脈カテーテルの超音波ガイドが有害事象を減少させることが示されている<ref>{{Cite journal|date=July 2015|title=Ultrasound-Guided Subclavian Vein Catheterization: A Systematic Review and Meta-Analysis|journal=Critical Care Medicine|volume=43|issue=7|pages=1498–507|doi=10.1097/CCM.0000000000000973|pmid=25803646|vauthors=Lalu MM, Fayad A, Ahmed O, Bryson GL, Fergusson DA, Barron CC, Sullivan P, Thompson C|display-authors=6|author9=Canadian Perioperative Anesthesia Clinical Trials Group|s2cid=25350709}}</ref><ref>{{Cite journal|date=December 2017|title=Subclavian oblique-axis catheterization technique|journal=Critical Care|volume=21|issue=1|pages=323|doi=10.1186/s13054-017-1915-7|pmid=29282100|pmc=5745903|vauthors=De Cassai A, Galligioni H}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.edm-us.com/2018/06/15/using-ultrasound-vascular-access/ |title=Why Using Ultrasound for Vascular Access ? - EDM Medical Solutions |access-date=2018-06-15}}</ref>。

先端鈍なガイドワイヤーを針に通し、針を抜くという[[セルディンガー法]]を用いて、カテーテルを挿入する。ガイドワイヤーに拡張器具（[[ダイレーター]]）を通し、カテーテル挿入経路を拡張する。最後に、中心静脈ラインそのものをガイドワイヤーに通し、ガイドワイヤーを抜去する。ラインの内腔はすべて血液を吸引し（静脈内に位置していることを確認するため）、[[生理食塩水]]またはヘパリンでフラッシュする<ref name="McKean" />。その後、ラインが[[上大静脈]]内に位置していること、不慮の気胸が発生していないことを確認するために[[胸部X線]]検査を実施する。前後方向のX線では、カテーテルの先端が{{仮リンク|気管分岐部|en|Carina of trachea|redirect=1}}の高さより55～29 mm下にあることが許容範囲とされる<ref name="VenugopalKoshy2013">{{Cite journal|date=July 2013|title=Role of chest X-ray in citing central venous catheter tip: A few case reports with a brief review of the literature|journal=Journal of Anaesthesiology Clinical Pharmacology|volume=29|issue=3|pages=397–400|doi=10.4103/0970-9185.117114|pmid=24106371|pmc=3788245|vauthors=Venugopal AN, Koshy RC, Koshy SM}}</ref>。電磁追跡法({{Lang-en-short|Electromagnetic tracking}})を用いれば、先端位置の確認と挿入時の誘導を行うことができ、その後のX線の必要性は無くなる{{要出典|date=2023年4月}}。<gallery>
ファイル:A technique for the fixation of central venous catheters.png|皮膚に縫合固定されたCVC。
ファイル:Subclavian central veinous catheter xray.png|右鎖骨下静脈に留置されたCVCを示す胸部X線写真。
ファイル:Mediastinal structures on chest X-ray, annotated.jpg|胸部X線写真における上大静脈の輪郭は左側に青く示されている。
</gallery>

== カテーテル流量 ==
=== ハーゲン・ポアズイユ式 ===
[[ハーゲン・ポアズイユ流れ|ハーゲン・ポアズイユ式]]は、管径が一定の円管を通る流体の特性を記述するものである<ref>{{Citation|title=Chapter 1 – Fluid Mechanics and Biofluids Principles|last=Ostadfar|first=Ali|date=2016-01-01|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780128024089000016|work=Biofluid Mechanics|publisher=Academic Press|editor-last=Ostadfar|editor-first=Ali|pages=1–60|isbn=978-0-12-802408-9|language=en|doi=10.1016/B978-0-12-802408-9.00001-6|access-date=2020-03-18|name-list-style=vanc}}</ref>。式は下記の通り:

<math>Q = \Delta P * (\pi r^4/8\mu L)</math>

この式は、管径が一定の円管を流れる流量（Q）が、内半径（r）、チューブの長さ（L）、流体の粘度（μ）の関数であることを示している。流量は、チューブの内半径の4乗に直接関係し、チューブの長さと流体の粘性に反比例する。この式からは、静脈カテーテルに関する次の重要な見解が理解できる。すなわち、カテーテルの内径は、カテーテルの長さや流体の粘度よりも流量にはるかに大きな影響を与えること、急速注入{{Efn|急速注入が必要となる状況とは、外傷や手術などで大量の出血が生じたために、大量の輸液や輸血を行わねばならない、など。}}には、短くて大きな内径のカテーテルが最大の流量を提供するので最適であること、である<ref name=":1" />{{Rp|page=7|pages=000–000}}。

== 分類 ==
[[ファイル:Percutaneous_central_venous_catheters.png|サムネイル|経皮的CVCは、皮膚から直接挿入する。鎖骨下静脈（左図）、内頸静脈（右図）、外頸静脈、又は大腿静脈に留置される。]]
CVCにはいくつかの種類があり、部位（カテーテルを体内に挿入する場所）や用いるカテーテルの種類によってさらに細かく分類することができる<ref>[http://www.webmd.com/a-to-z-guides/central-venous-catheters-topic-overview Central Venous Catheters] – Topic Overview from WebMD</ref>。

=== 挿入部位による分類 ===
==== 経皮的中心静脈カテーテル (Percutaneous central venous catheter: CVC) ====
経皮的中心静脈カテーテル（CVC）は、皮膚から直接挿入される、最も一般的なCVCである。内{{仮リンク|頚静脈|en|Jugular vein|redirect=1}}、外頚静脈、[[鎖骨下静脈]]、{{仮リンク|大腿静脈|en|Femoral vein|redirect=1}}のいずれかを用いる。重症の患者に最もよく用いられる。CVCは数日から数週間用いることができ、患者は入院する必要がある。通常、縫合糸またはセット化されている固定具で固定される<ref name=":3" />。

==== 末梢挿入型中心静脈カテーテル　(Peripherally inserted central catheters: PICC) ====
[[ファイル:Peripherally_inserted_central_catheter_(PICC).png|サムネイル|上腕に留置されているPICCライン（尺側皮静脈経由）]]
{{Main|{{仮リンク|末梢挿入型中心静脈カテーテル|en|Peripherally inserted central catheter|redirect=1}}}}末梢挿入型中心静脈カテーテル、またはPICCライン（「ピック」と発音）は、CVCを首や胸の静脈ではなく、腕の静脈（{{仮リンク|尺側皮静脈|en|Basilic vein|redirect=1}}または{{仮リンク|橈側皮静脈|en|Cephalic vein|redirect=1}}経由）に挿入するものである。尺側皮静脈は太く、腕の中をまっすぐ通っているため、通常、橈側皮静脈よりもカテーテル留置の対象として適している。カテーテルの先端は上大静脈に位置する<ref name="McKean" />。PICCラインは細い末梢静脈に挿入されるため、中心静脈ラインよりも直径が小さく、中心静脈カテーテルよりもはるかに長い（50～70 cm対15～30 cm）。したがって、PICCラインを流れる輸液速度は他のCVCよりもかなり遅く、急速大量輸液による蘇生には不向きである。PICCラインは容易に閉塞する可能性があり、析出しやすい薬剤である[[フェニトイン]]を用いてはならない<ref name=":3" />。また、PICCラインは静脈血栓症や狭窄を引き起こす可能性があるので、[[慢性腎不全]]の患者では、[[人工透析|血液透析]]のために[[動静脈瘻|シャント]]を作る必要がある場合に備えて慎重に使用すべきである<ref>{{Cite web |url=https://www.choosingwisely.org/clinician-lists/american-society-nephrology-peripherally-inserted-central-catheters-in-stage-iii-iv-ckd-patients/ |title=American Society of Nephrology: Don't place peripherally inserted central catheters (PICC) in stage III-V CKD patients without consulting nephrology |date=April 4, 2012 |accessdate=October 20, 2022 |publisher={{仮リンク|Choosing Wisely|en|Choosing Wisely|label=Choosing Wisely}}}}</ref><ref>{{Cite journal|date=October 2012|title=Critical and honest conversations: the evidence behind the "Choosing Wisely" campaign recommendations by the American Society of Nephrology|url=|journal=Clin J Am Soc Nephrol|volume=7|issue=10|pages=1664–72|doi=10.2215/CJN.04970512|pmid=22977214|vauthors=Williams AW, Dwyer AC, Eddy AA, Fink JC, Jaber BL, Linas SL, Michael B, O'Hare AM, Schaefer HM, Shaffer RN, Trachtman H, Weiner DE, Falk AR|s2cid=16852049|doi-access=free}}</ref>。

しかし、PICCラインはいくつかの理由から望ましいものである。最長で1年間、静脈アクセスとして使用できる。患者はPICCを装着したまま帰宅することができる。PICCラインは、中心静脈ライン留置の合併症（[[気胸]]、偶発的な動脈カニュレーションなど）を回避でき、超音波ガイド下で比較的容易に留置でき、CVCよりも不快感が少ない<ref name=":1" />。PICCラインはベッドサイド、在宅、放射線科で挿入できる。PICCは縫合糸またはセット化された固定具で固定される<ref name=":3" />。
==== 皮下トンネル型CVC ====
[[ファイル:Tunneled_venous_access_device.png|サムネイル|皮下トンネル型CVC]]
トンネル型カテーテルは、挿入部位から別の出口部位まで皮下に埋め込まれる。カテーテルとその付属物は皮膚の下から出てくる。出口は通常胸部にあり、首から直接突き出たカテーテルよりもアクセスポートが目立たない。カテーテルを皮下に通すことで、感染を防ぎ、固定性も良好である。挿入は外科的手技により、カテーテルは上大静脈に入る前に胸部の皮膚の下にトンネル状に挿入される。一般的に用いられるトンネル型カテーテルには、{{仮リンク|ヒックマンカテーテル|en|Hickman line|redirect=1}}、{{仮リンク|グローソンカテーテル|en|Groshong line|redirect=1}}、ブロビアック(Broviac)カテーテルなどがあり、これらの名称でも呼ばれることがある。

トンネル型カテーテルは、数ヶ月から数年間挿入されたままになることがある。これらのCVCは、ダクロンカフという、挿入部付近のカテーテルを囲む抗菌カフが抗菌液でコーティングされており、挿入後2～3週間でカテーテルが固定されるため感染率が低い<ref name=":3" />。

==== CVポート ====
{{Main|ポート (医療)}}
[[ファイル:Venous_Access_Port_Catheter.png|サムネイル|[[ポート (医療)|CVポート]]]]
[[ファイル:Port-catheter.jpg|サムネイル|皮下に埋め込まれた[[ポート (医療)|ポート]]]]
[[ファイル:Gripper_needle.jpg|サムネイル|ポートに留置されたグリッパー針]]
CVポート({{Lang-en-short|central venous port}})は、単に「[[ポート (医療)|ポート]]」とも呼ばれ、皮下トンネル型カテーテルに似ているが、カテーテルとその付属物全体が完全に皮膚の下に埋め込まれる。薬剤は皮膚経由でカテーテルに注入される。すなわち、埋め込まれたポートの中には、小さなリザーバーがあり、薬剤を充填することができる。充填された後、リザーバーから薬がゆっくりと血流に放出される。外科的に植え込まれた輸液ポートは、鎖骨の下（鎖骨下窩）に留置され、カテーテルは上大静脈を通って心臓（{{仮リンク|心房|en|Atrium (heart)|label=右心房|redirect=1}}）に通される。埋込後は、グリッパー(gripper)と呼ばれる、ヒューバーチップ針を皮膚から直接挿入する。PowerLocは商標の1つで、一般名はヒューバーチップ針である。一般的なサイズは長さ0.75および1[[インチ]]（19および25 mm、19および20[[ゲージ (医学)|ゲージ]]）を使ってポートにアクセスする。この針は[[ツーイ針]]同様の鈍針であり、コアリング防止形状となっている。コアリングとは、中空針によってくり抜かれた組織や器材の断片が針によって、体内に持ち込まれてしまうことを指す。針のセットには、短い長さのチューブとカテーテルが含まれる。ポートに穿刺する前に局所麻酔薬を皮膚に塗ってもよい。ポートは、投薬、化学療法、採血に用いることができる。ポートは完全に皮下にあるため、CVCやPICCカテーテルよりもメンテナンスが容易で、感染リスクも低い<ref name="McKean" />。埋め込まれたポートは、トンネル型カテーテルやPICCラインよりも目立ちにくく、日常のケアもほとんど必要なく、患者の日常生活への影響も少ない。ポートへのアクセスには、専用の機器と取扱者の訓練が必要である。

ポートは通常、長期にわたる治療で定期的な静脈アクセスを必要とする患者に用いられ、その後、外科的に除去されるまで定期的にフラッシュされる。短期間に頻繁に静脈にアクセスする必要がある場合は、外部アクセスを有するカテーテルがより一般的に用いられる<ref name="McKean" />。

=== カテーテルによる分類 ===
==== トリプルルーメンカテーテル ====
CVCとして最も一般的に用いられるのは、トリプルルーメンカテーテルである<ref name=":1" />{{Rp|page=8|pages=000–000}}。 [[レンコン]]のように3つの内腔（[[ルーメン (解剖学)|ルーメン]]）を持ち、複数の薬液を同時に投与できることから、（特に[[集中治療室|ICU]]で）好まれている。カテーテルのサイズは[[フレンチスケール]]と[[ゲージ (医学)|ゲージ規格]]を用いて決められ、成人では7フレンチサイズが一般的である。フレンチスケールとは逆に、ゲージ数は大きくなるほどカテーテルの直径は小さくなる<ref name=":1" />{{Rp|page=4|pages=000–000}}。これらのカテーテルには16ゲージのルーメンが1つあるが、中心静脈カテーテルは比較的長いため、流量は16ゲージの[[末梢静脈カテーテル]]に比べかなり遅い（上記の「カテーテルの流量」の項を参照）。複数のルーメンを用いても、カテーテル関連血流感染症のリスクは増加しないことに留意することが重要である<ref>{{Cite journal|date=March 2003|title=Preventing complications of central venous catheterization|journal=The New England Journal of Medicine|volume=348|issue=12|pages=1123–33|doi=10.1056/NEJMra011883|pmid=12646670|vauthors=McGee DC, Gould MK|doi-access=free}}</ref>{{Efn|ポートのルーメンを最小にすべきという、上述のCDCガイドラインとは相違がある。}}。ルーメンが1つのものはシングルルーメンカテーテル、ルーメンが2つのものはダブルルーメンカテーテルと呼ばれる。

==== 血液透析用カテーテル ====
血液透析カテーテルは、[[人工透析|血液透析]]の大流量を維持するために必要な200～300 ml/minの流量が可能な大口径カテーテル（最大16フレンチすなわち5.3 mm）である。2つのルーメンがあり、1つは患者の血液を透析装置に運ぶために用い、もう1つは患者に血液を戻すために用いる。これらのカテーテルは、通常、内頸静脈に留置される<ref name=":1" />。

==== シースイントロデューサー ====
シースイントロデューサー（又はイントロデューサーシース）は、[[肺動脈カテーテル]]や{{仮リンク|経静脈ペーシング|en|Transvenous pacing|redirect=1}}などを一時的に血管内に留置するために、留置される太径のカテーテル（8～9フレンチ）である。イントロデューサーシースを先に留置し、デバイスをシースから血管内に通す。このカテーテルは、直径が大きく、長さが短いため、急速輸液を行うことも可能である。加圧注入装置と組み合わせると、850 ml/minもの流量が達成できる<ref>{{Cite journal|last=Barcelona|first=Sandra L.|last2=Vilich|first2=Fatima|last3=Coté|first3=Charles J.|date=2003-08|title=A comparison of flow rates and warming capabilities of the Level 1 and Rapid Infusion System with various-size intravenous catheters|url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12873917/|journal=Anesthesia and Analgesia|volume=97|issue=2|pages=358–363|doi=10.1213/01.ANE.0000070235.67887.5C|issn=0003-2999|pmid=12873917}}</ref>。

== カテーテルの定期的な管理 ==
[[ファイル:N785480617_1901249_9701.jpg|サムネイル|トリプルルーメンカテーテル]]
カテーテルは、粘着性ドレッシング、縫合糸、または[[ステープラー|医療用ホチキス]]で固定し、閉鎖型[[創傷被覆材|ドレッシング]]で覆う。生理食塩水またはヘパリン含有輸液で定期的にフラッシュすることで、カテーテルの開通を維持し、[[血栓]]を防止する。ヘパリンが生理食塩水よりも血栓予防に優れているという[[エビデンス (医学)|エビデンス]]はない<ref>{{Cite journal|last1=López-Briz|first1=Eduardo|last2=Ruiz Garcia|first2=Vicente|last3=Cabello|first3=Juan B.|last4=Bort-Martí|first4=Sylvia|last5=Carbonell Sanchis|first5=Rafael|date=2022-07-18|title=Heparin versus 0.9% sodium chloride locking for prevention of occlusion in central venous catheters in adults|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2022|issue=7|pages=CD008462|doi=10.1002/14651858.CD008462.pub4|issn=1469-493X|pmid=35849083|pmc=9291254|pmc-embargo-date=July 18, 2023}}</ref>。特定のカテーテルには、感染リスクを減らすために、抗生物質、銀含有物質（特に[[スルファジアジン銀]]）、[[クロルヘキシジン]]を含浸させたものがある<ref>{{Cite journal|date=April 2013|title=Central venous catheter care for the patient with cancer: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline|journal=Journal of Clinical Oncology|volume=31|issue=10|pages=1357–70|doi=10.1200/JCO.2012.45.5733|pmid=23460705|vauthors=Schiffer CA, Mangu PB, Wade JC, Camp-Sorrell D, Cope DG, El-Rayes BF, Gorman M, Ligibel J, Mansfield P, Levine M|display-authors=6}}</ref>。

長期留置用CVCの一種、{{仮リンク|ヒックマンカテーテル|en|Hickman line|redirect=1}}は、バルブが閉じていることを確認するためにクランプを必要とし、{{仮リンク|グローソンカテーテル|en|Groshong line|redirect=1}}は、液体を引き出したり注入したりするときにバルブが開き、用いないときは閉じたままになっているものである。また、ヒックマンカテーテルは、細菌のカテーテル沿いの移動を阻止するために、皮膚の下に「カフ」を備えている<ref>{{Cite web|和書|title=ヒックマンカテーテルキット |url=https://www.info.pmda.go.jp/ygo/pack/780045/16300BZY01082000_A_06_13/ |website=www.info.pmda.go.jp |access-date=2023-04-09}}</ref>。カフは、長期的に固定するために、デバイスに組織を生着させるためのものでもある<ref>{{Cite web|和書|title=9-2 : Broviacカテーテル，Hickmanカテーテル {{!}} ニュートリー株式会社 |url=https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch9-2/keyword2/ |website=www.nutri.co.jp |access-date=2023-04-09 |language=ja}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Notelist}}

=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 関連項目 ==
* {{仮リンク|ピーター・プロノヴォスト|en|Peter Pronovost|redirect=1}}
* {{仮リンク|クイントンカテーテル|en|Quinton catheter|redirect=1}}
{{Clear}}

== 外部リンク ==
{{Commonscat|Central venous catheter}}
* [https://lavascular.com/central-line/ 中心静脈カテーテルのケア、比較、適応、合併症、使用法]{{En icon}}
{{Intravenous therapy}}
{{集中治療医学}}
<!--[[:en:Template:Intensive care medicine]]{{Intensive care medicine}}
[[:en:Category:Catheters]][[Category:Catheters]]Wikipedia 翻訳支援ツール Ver1.32、[[:en:Central venous catheter]]（2023年3月19日 5:55:16(UTC)）より -->
{{DEFAULTSORT:ちゆうしんしようみやくかてえてる}}
[[Category:麻酔科学]]
[[Category:集中治療医学]]
[[Category:救急医学]]
[[Category:カテーテル]]