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'''二次方程式'''(にじほうていしき、{{lang-en-short|''quadratic equation''}}{{efn|「方形」あるいは「平方」を意味する{{lang-la|"quadratus"}} に由来}})とは、[[数学]]において、[[多項式の次数|二次]]の[[多項式関数]]の{{仮リンク|零点集合|en|Zero set}}を表す[[論理包含|条件]]のことである。 その零点集合については、特に[[実数]]係数であるものについて、[[幾何学]]的考察が歴史的に行われ、よく知られている(二元二次方程式については[[円錐曲線]]を、一般の多変数二次方程式については[[二次曲面]]を参照するとよい)。 以下では、[[変数 (数学)|未知数]]が1個の場合を中心に取り扱う。二次方程式は[[多項式の次数|次数]]が 2 の[[代数方程式]]のことであり、一般に未知数を {{mvar|x}} として :<math>ax^2+bx+c=0 \quad (a\ne 0)</math> の形で表される。二次方程式を解くには、'''[[二次方程式の解の公式]]'''が知られている他、[[平方完成]]を利用する方法、[[因数分解]]を利用する方法などがよく知られている。 一元二次方程式を解くことと[[同値]]である問題に対する解法は、[[紀元前20世紀]]ごろには既に知られていた。 == 定義 == '''二次方程式'''とは、[[多項式の次数|次数]] 2 の[[代数方程式]]のことである。一般には :<math>ax^2 + bx + c = 0</math> (*) ({{math|''a'' ≠ 0}}, {{math2|''b'', ''c''}} は定数)と表される。これを二次方程式の'''一般形''' (generalized form) という。二次方程式の一般形は、方程式としての変形や変数変換により、いくつかの特徴をもつ特殊な形にできる。本項では便宜的に以下の用語を用いる。 一般形の方程式 (*) の両辺を 2 次の係数(最高次係数){{math|''a'' ≠ 0}} で割って {{math|1}} にすることができる。これを二次の'''整方程式'''あるいは二次方程式の'''正規形''' (normal form) と呼ぶ: :<math>x^2 + px + q = 0</math> (**) ({{math2|''p'', ''q''}} は定数) :<math>p = \frac{b}{a},\ q = \frac{c}{a}</math> (***) また、左辺が[[完全平方式]]と定数の和のみになっている方程式を、二次方程式の'''標準形''' (standard form) と呼ぶ: :<math>a(x + p)^2 + q = 0</math> :({{math|''a'' ≠ 0}}, {{math2|''p'', ''q''}} は定数) これは、変数を {{math|''t'' {{=}} ''x'' + ''p''}} と変換すれば未知数 {{mvar|t}} に関する 1 次の項が無い方程式である: :{{math|1=''at''{{sup|2}} + ''q'' = 0}} == 歴史 == [[アッバース朝]]時代に活躍した中世イスラムの数学者[[フワーリズミー]]は二次方程式に2つの解があることを発見した。フワーリズミーの著作『インドの数に関して、アル=フワーリズミー』(ラテン語訳『アルゴリトミ・デ・ヌーメロ・インドルム (Algoritmi de numero Indorum)』)はラテン語に翻訳され、ヨーロッパに伝わった。フワーリズミーは二次方程式における未知数を「shay'」(シャイ=とあるもの)という言葉で表現したが、フワーリズミーの著作がヨーロッパに伝えられる段階で、「x」を「sh(シ)」と読むポルトガル語を通過する際に、shay'の「sh」が「x」に置き換えられたといわれる。未知なるものを「x」と呼ぶことには、このような背景があるとされる<ref>http://www.aii-t.org/j/maqha/thaqafa/arqam.htm</ref>。 == 平方完成 == {{main|平方完成}} 変数 {{mvar|x}} に関する二次式 <math>ax^2 +bx+c</math> について、変数変換 :{{math|1=''x'' + ''α'' = ''y''}} して、1 次の項を消去することを'''[[平方完成]]'''(基本変形)という。これにより、二次式の正規形 (**) は標準形にすることができる。 係数[[体 (数学)|体]]の[[標数]]が 2 でなければ、平方完成できる。 二次式の正規形 (**) を標準形にする: :<math>x^2 + px + q = (x+ \alpha )^2 + \beta</math> 1次の係数を比較すると、<math>( x + \alpha )^2 = x^2 +2 \alpha x+ \alpha^2</math> より、 :<math>\alpha = \frac{p}{2}</math> が導かれる。 :<math>x^2 + px = \left( x+ \frac{p}{2} \right)^2 - \left( \frac{p}{2} \right)^2</math> より、 :<math>x^2 + px + q = \left(x + \frac{p}{2}\right)^2 - \left(\frac{p^2}{4} - q \right)</math> <math>y = x + \frac{p}{2}, m= \frac{p^2}{4} - q</math> と置いてやると :<math>x^2+px+q = 0 \iff y^2 - m = 0</math> となり、変数 {{mvar|y}} に関する標準形の方程式が得られる。 平方完成の技法は、この他にも、[[円錐曲線]]の標準化などに用いられる。 == 二次方程式の解 == 正規化された標準形二次方程式 :{{math|1=''x''{{sup|2}} − ''m'' = 0}} は :{{math|1=''x''{{sup|2}} = ''m''}} と[[同値]]であるから、解は {{mvar|m}} の'''[[平方根]]'''に等しい。平方根は {{math|0}} 以外は複数あり、[[実数]]なら正の方を {{math|{{sqrt|''m''}}}} で表す。このとき解は :<math>x= \pm \sqrt{m}</math> になる。 {{mvar|m}} が負ならば、解 {{math|±{{sqrt|''m''}}}} は[[虚数]]である。これらを統一的に表すために、{{math|{{sqrt|−1}}}} を {{mvar|i}} と表し、'''[[虚数単位]]'''という。虚数単位 {{mvar|i}} は {{math|''x''{{sup|2}} + 1}} の根である。 * {{math|''a'' > 0}} のとき、{{math|{{sqrt|−a}} {{=}} {{sqrt|''a''}} ''i''}} === 解の公式 === {{main|二次方程式の解の公式}} [[平方完成]]により、'''二次方程式の解の公式'''を導出することができる。これは、[[標数]] 2 でない[[可換体|体]]で一般に通用する。 二次方程式 {{math|''ax''{{sup|2}} + ''bx'' + ''c'' {{=}} 0}} に対し、 :<math>\begin{align} a \left( x+\frac{b}{2a} \right)^{\!2} +c-\frac{b^2}{4a}=0 &\iff \left( x+\frac{b}{2a} \right)^2 = \frac{b^2-4ac}{4a^2} \\ &\iff x+\frac{b}{2a} = \pm \frac{\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \\ &\iff x = \cfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \end{align}</math> 特に、{{mvar|b}} が 2 を因数に持つ場合、{{math|''b'' {{=}} 2''b'''}} とおくと :<math>x= \frac{-b' \pm \sqrt{(b')^2-ac}}{a}</math> と簡明になる。 === 特別な二次方程式の解 === [[数学定数]]の中で、定義が特別な二次方程式であるものがある。 * '''[[1の冪根|1の虚立方根]]''' {{mvar|[[ω]]}}({{math|''x''{{sup|2}} + ''x'' + 1 {{=}} 0}} の解<math>x =\frac{-1\pm \sqrt{3}\,i}{2}</math>(2つのどちらでもよい)) ** [[三次方程式]]の解、[[アイゼンシュタイン整数]] など * [[貴金属比|貴金属数]] ** '''[[黄金比|黄金数]]''' {{mvar|[[φ]]}}({{math|''x''{{sup|2}} − ''x'' − 1 {{=}} 0}} の正の解<math>x = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} \,</math>) *** [[フィボナッチ数]] など == 実数係数の二次方程式 == 二次方程式 :<math>ax^2+bx+c=0</math> の係数 {{math2|''a'', ''b'', ''c''}} は実数とする。 === 虚数の導入 === 二次方程式の解の公式 <math>x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}</math> における <math>b^2 -4ac</math> が負の場合は、解が[[虚数]]になる。2つの解は、[[複素共役|共役]]な虚数である。 虚数も数に含めると、'''[[代数学の基本定理]]'''(全ての[[複素数]]係数の[[代数方程式]]は複素数の範囲で必ず解を持つ)が成り立つ。 === 判別式と実数解の個数 === 実数係数の二次方程式においては、解の公式に見られるように、<math>b^2 -4ac</math> の[[符号]]が実数解の個数を決める。 二次方程式 <math>ax^2+bx+c=0</math> の重複を込めた解を {{math|''α'', ''β''}} とするとき、 :<math>\Delta := a^2 ( \alpha - \beta )^2</math> を二次方程式の'''[[判別式]]'''という。これは、解の公式に現れる <math>b^2 -4ac</math> に等しい。 [[代数方程式]]で[[多項式の次数|次数]]が 2 の場合は、判別式のみで実数解の個数が決定できる: * {{math|''⊿'' > 0}} のとき:異なる 2 実数解 * {{math|''⊿'' {{=}} 0}} のとき:実数の重解 * {{math|''⊿'' < 0}} のとき:1組の[[複素共役|共役]]虚数解 == 根と係数の関係 == {{main|根と係数の関係}} 二次方程式 <math>ax^2+bx+c=0</math> の解を {{math2|''α'', ''β''}} とおくと、 :<math>\alpha + \beta = -\frac{b}{a},\, \alpha\beta = \frac{c}{a}</math> 解が先に分かっている場合に、係数を合理的に計算できる。 == 係数の拡張 == 有理数係数の二次方程式の解である[[無理数]]を'''二次の無理数'''と呼ぶ。有理数体に二次の無理数を添加した体を[[二次体]]という。 係数が体や[[整域]]でない一般の環においては、二次方程式の解は2個とは限らない。 === 一般係数の二次方程式 === 解の公式およびその導出は、係数 {{mvar|a, b, c}} が[[複素数]]やより一般に[[標数]]が {{math|2}} でない任意の[[体 (数学)|体]]においても有効である(標数が {{math|2}} のときは {{math|2''a''}} が零元に等しく、したがってそれで割ることはできない)。ただし、公式に現れる記号 <math>\pm \sqrt {b^2-4ac}</math> は「その平方が {{math|''b''{{sup|2}} − 4''ac''}} に等しくなるような元が存在する場合には、そのような二元のうちの何れか一方」を意味するものと理解しなければならない。体によっては、平方根を全く持たない元と二つ持つ元とが存在する(標数 {{math|2}} でない限りただ一つの平方根を持つのは零元のみである)。ある元の平方根を持たない体を考えている場合でも、そのような平方根を含む二次[[体の拡大|拡大体]]は常に存在するから、そのような拡大体における式と見なせば解の公式は常に有効ということになる。 ==== 標数 2 の体 ==== 解の公式は {{math|2}} が[[単元|可逆]]であることが利いていたから、標数 {{math|2}} の体では公式は成り立たない。標数 {{math|2}} の体上の[[モニック多項式|モニック]]な二次多項式 <math>x^{2} + bx + c</math> を考えるとき、{{math|''b'' {{=}} 0}} ならば方程式は平方根を開くことに帰着されるから、<math>x = \sqrt{c}</math> は解であり、<math>-\sqrt{c} = -\sqrt{c} + 2\sqrt{c} = \sqrt{c}</math> であるから、これが唯一の解であることが分かる。すなわち、<math>\displaystyle x^{2} + c = (x + \sqrt{c})^{2}</math> 。有限体における開平についての更なる情報は[[平方剰余]]の項を参照。 他方、{{math|''b'' ≠ 0}} の場合には相異なる二つの根が存在するのだが、多項式が[[既約多項式|既約]]ならば、係数体に属する数の平方根を用いて根を記述するのは不可能である。そこで多項式 {{math|''x''{{sup|2}} + ''x'' + ''c''}} の(この多項式の[[分解体]]に属する元としての)根の一つを {{mvar|c}} の '''2-根''' (2-root) {{math|''R''(''c'')}} と定義する。このとき {{math|''R''(''c'') + 1}} がもう一つの根となることが確かめられる(こちらも 2-根と呼ぶ<ref>{{Cite book ja-jp |author=デイヴィッド・A.コックス |translator=梶原健 |year=2008-2010 |title=ガロワ理論 |volume=下 |publisher=日本評論社 |isbn=978-4-535-78455-0}}, 2.4節</ref>)。この 2-根を用いれば、モニックとは限らない二次式 {{math|''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''}} の二つの根は <math>\frac{b}{a} R\left(\frac{ac}{b^2}\right),~ \frac{b}{a} \left(R\left(\frac{ac}{b^2}\right)+1\right)</math> と表せる。 例えば、位数 4 の[[有限体]] {{math|'''F'''{{sub|4}}}} において、その[[乗法群]]の生成元を {{mvar|a}} とするとき(すなわち、{{mvar|a}} および {{math|''a'' + 1}} は {{math|'''F'''{{sub|4}}}} 上の多項式 {{math|''x''{{exp|2}} + ''x'' + 1}} の根)、{{math|(''a'' + 1){{exp|2}} {{=}} ''a''}} ゆえ、{{math|''a'' + 1}} は二次方程式 {{math|''x''{{exp|2}} + ''a'' {{=}} 0}} の唯一の解である。他方、多項式 {{math|''x''{{exp|2}} + ''ax'' + 1}} は {{math|'''F'''{{sub|4}}}} 上既約だが、{{math|'''F'''{{sub|16}}}} 上分解して、二つの根 {{math|''ab''}} および {{math|''ab'' + ''a''}} を持つ。ここで {{math|''b''}} は {{math|'''F'''{{sub|16}}}} における {{math|''x''{{exp|2}} + ''x'' + ''a''}} の根である。 これは[[アルティン・シュライアー理論]]の特別の場合である。 == 注 == === 注釈 === {{Reflist|group="注釈"}} === 出典 === {{Reflist}} == 関連項目 == * [[連分数]] * [[黄金比]] * [[定規とコンパスによる作図]] == 外部リンク == *[https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228770 二次方程式の解 - 高精度計算サイト] *{{Kotobank}} {{多項式}} {{DEFAULTSORT:にしほうていしき}} [[カテゴリ:方程式]] [[Category:代数方程式]] [[Category:初等数学]] [[カテゴリ:初等代数学]] [[Category:数学に関する記事]]
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