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{{Otheruses|力学における二重振り子|野球における打法|W-スピン}} [[ファイル:Double-compound-pendulum.gif|thumb|二重振り子のアニメーション<br>[[ルンゲ=クッタ法]]による[[数値計算]]より]] '''二重振り子'''(にじゅうふりこ、{{lang-en-short|double pendulum}})は[[振り子]]の先にもうひとつの振り子を連結したもの<ref>{{cite book|和書|editor=日本機械学会|title=機械工学辞典|publisher=丸善|date=2007-01-20|edition=第2版|isbn=978-4-88898-083-8|page=966}}</ref>。振り子を一旦揺らすと、[[カオス理論|カオス]]と呼ばれる極めて複雑で非周期的な運動が発生することで知られている{{Sfn|井上|1997|p=86}}。実物を比較的手軽に製作可能なことから、カオス現象の紹介や入門としての演示実験によく使用される{{Sfn|鈴木・増田|2000|p=1}}。 == 運動方程式 == [[ファイル:Pendule double.gif|thumb|振子の腕の先端に質点がある場合の二重振り子形式図]] 二重振り子の[[運動方程式]]は[[ラグランジュ関数]]を用いて導出される場合が多い<ref name="入江・山田2003_229-231"/><ref name="小室2005_35-36">{{cite book|和書|title=基礎からの力学系 ―分岐解析からカオス的遍歴へ|author=小室元政|publisher=サイエンス社 |year=2005 |edition=新版 |isbn= 4-7819-1118-8 |pages=35-36}}</ref>。各振り子の腕は[[剛体]]、連結部での[[摩擦]]や[[空気抵抗]]のような[[減衰]]は無い、外力は働かない[[自由振動]]とすれば、以下のような運動方程式が得られる。 それぞれの振子の腕の先端に質点が存在するモデル([[単振り子]]を連結したモデル)の運動方程式を示す<ref name="入江・山田2003_229-231">{{Cite book|和書|author=入江敏博・山田元|title=機械工学基礎講座 工業力学|date=2003-01-25|edition=第1版|publisher=理工学社|isbn =4-8445-2137-3|pages=229-231}}</ref>。 :<math> (m_1+m_2)l_1 \ddot \theta_1 + m_2 l_2 \ddot \theta_2 \cos(\theta_1-\theta_2) + m_2 l_2 \dot \theta_2^2 \sin(\theta_1-\theta_2) + (m_1+m_2)g \sin \theta_1 = 0 </math> :<math> l_1 l_2 \ddot \theta_1 \cos(\theta_1-\theta_2) + l_2^2 \ddot \theta_2 - l_1 l_2 \dot \theta_1^2 \sin(\theta_1-\theta_2) + g l_2 \sin \theta_2 = 0 </math> ここで、''θ''<sub>1</sub>、''θ''<sub>2</sub>:各振り子角、''m''<sub>1</sub>、''m''<sub>2</sub>:各質量、''l''<sub>1</sub>、''l''<sub>2</sub>:各振り子長さ、''g'':[[重力加速度]]で、˙は[[時間]]''t''による1階[[微分]]、¨は''t''による2階微分を表す。 一方、それぞれの振子の腕の中間に質点が存在するモデル([[振り子#物理振子|物理振り子]]を連結したモデル)の運動方程式を示す<ref name="小室2005_35-36"/>。 :<math> (m_1+4m_2)l_1 \ddot \theta_1 + 2m_2 l_2 \ddot \theta_2 \cos(\theta_1-\theta_2) + 2m_2 l_2 \dot \theta_2^2 \sin(\theta_1-\theta_2) + (m_1+2m_2)g \sin \theta_1 = 0 </math> :<math> l_2 \ddot \theta_2 +2 l_1 \ddot \theta_1 \cos(\theta_1-\theta_2) - 2 l_1 \dot \theta_1^2 \sin(\theta_1-\theta_2) + g \sin \theta_2 = 0 </math> ここで、2''l''<sub>1</sub>、2''l''<sub>2</sub>:各振り子長さで、他は上記の単振り子連結モデルと同じである。どちらのモデルも力学系の解析ではよく扱われる<ref name="小室2005_35-36"/>。 これらの系の運動状態は、<math>\theta_1</math>、<math>\theta_2</math>、<math>\dot \theta_1</math>、<math>\dot \theta_2</math>の4つの変数で一意に決定される{{Sfn|井上|1997|p=99}}。しかし、これらの運動方程式の理論解析は困難なため、運動状態を得るにはコンピュータによる数値解析が行われる{{Sfn|井上|1997|p=98}}。変数の時間発展を得るために[[ルンゲ=クッタ法]]などが使用される{{Sfn|鈴木・増田|2000|p=4}}。 簡単のために状態を限定すれば厳密解を得ることもでき、振り子の振り幅が小さい範囲として、なおかつ''m''<sub>1</sub> = ''m''<sub>2</sub> = ''m''、''l''<sub>1</sub> = ''l''<sub>2</sub> = ''l''とすれば、運動は2つの[[固有振動]]の足し合わせで表され、それぞれの[[固有振動数]]''ω''<sub>1</sub>、''ω''<sub>2</sub>は以下のように得られる<ref name="入江・山田2003_229-231"/>。 :<math> \omega_1 = \sqrt{2-\sqrt{2}} \sqrt{\frac{g}{l}} = 0.765 \sqrt{\frac{g}{l}}</math> :<math> \omega_2 = \sqrt{2+\sqrt{2}} \sqrt{\frac{g}{l}} = 1.848 \sqrt{\frac{g}{l}}</math> <!-- 同じ腕長さの単振り子の固有振動数は<math>\sqrt{g/l}</math>なので、上記のようにモデルを簡単にしても、二重振り子では、単振り子と比べて上側の振子は[[周期]]が大きく、下側の振子は周期が小さくなる。--> == 実物による教材 == [[ファイル:DPLE.jpg|thumb|二重振り子先端に付けた[[LEDランプ]]軌道の長時間露光写真]] カオス運動を行う二重振り子の実物を比較的簡単に製作できることから、[[カオス理論]]入門のための講義用教材として二重振り子が採り上げられることが多い{{Sfn|鈴木・増田|2000|p=1}}。カオスの命名の一人である数学者のジェームズ・ヨーク([[:en:James A. Yorke|James A. Yorke]])も、初心者向け講義で実物の二重振り子を教材に使用していた{{Sfn|井上|1997|p=86}}。よく運動する実物の製作にあたっては、二重振り子の運動エネルギーをできるだけ減衰させない工夫が必要となる{{Sfn|井上|1997|p=88}}。例えば、連結部分で大きな[[摩擦]]が発生しないよう[[ベアリング]]を入れたり、滑りの良い[[プラスティック]]素材を使用するなど工夫が採られる{{Sfn|井上|1997|pp=86–87}}。[[ビデオカメラ]]による撮影を行うときは、振り子先端にLEDライトなどを取り付けて振り子の軌道をより分かり易くする工夫も採られる{{Sfn|鈴木・増田|2000|p=1}}。 その運動の視覚的面白さから、小中高校生向けに[[理科]]への興味を与える演示実験教材としても二重振り子がよく採り上げられる<ref name="米村ほか2004">{{Cite journal |和書|author = 米村和幸, 宮川英典, 鮫島朋子 ほか|year = 2004|title = 簡易二重振り子による教材研究|journal = 日本物理学会講演概要集|publisher=日本物理学会|volume = 59|issue = セッションID: 30pWQ-1|page = 417|naid = 110002190799|url = https://doi.org/10.11316/jpsgaiyo.59.1.2.0_417_4 |doi=10.11316/jpsgaiyo.59.1.2.0_417_4}}</ref><ref name="増田1998"/>。公益法人や大学主催のテクノフェスタ、サイエンスフェスタで、実物の二重振り子を使用した演示実験が行われている<ref name="増田1998">{{Cite journal |和書|author = 増田健二|year = 1998|title = 二重振り子におけるカオス|journal = 技術報告|publisher=静岡大学技術部|volume = 4|pages = 25-28|naid = 110007501155|url = https://doi.org/10.14945/00003136|doi=10.14945/00003136 |issn=13462814}}</ref>。小学生を対象に簡易な二重振り子の製作・実演までを行う教材研究も行われており、これによるとほとんどの生徒が二重振り子の運動に興味を持ったなどの結果を得ている<ref name="米村ほか2004"/>。 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == *{{Cite journal|和書|author= 鈴木三男, 増田健二 |year= 2000 |title= 二重振り子におけるカオス的振舞 |journal= 物理教育 |publisher=日本物理教育学会 |volume= 48 |issue= 1 |pages= 1-5 |naid= 110007490840 |url= https://doi.org/10.20653/pesj.48.1_1 |doi= 10.20653/pesj.48.1_1 |ref={{Sfnref|鈴木・増田|2000}} }} *{{Cite book ja-jp |author=井上政義 |title=やさしくわかるカオスと複雑系の科学 |year=1997 |edition=初版 |publisher=日本実業出版社 |isbn =4-53402492-4 |ref ={{Sfnref|井上|1997}} }} == 関連項目 == * [[ジャクソン・ポロック]] - 二重振り子のように手を動かし、作品を制作した画家。 == 外部リンク == *{{Commonscat-inline}} *{{Kotobank}} *{{JGLOBAL ID|200906018834439380}} * {{Cite journal|和書|author=山口巖 |title=二重振り子の周期的な振る舞い |url=http://id.nii.ac.jp/1452/00001937/ |journal=神戸親和女子大学研究論叢 |issn=13413104 |publisher=神戸親和女子大学 |year=2002 |month=mar |issue=35 |pages=63-90 |naid=110006606940}} * {{Cite journal|和書|author=鹿野洋, 堀洋一 |title=再構成アトラクタを用いた二重振り子の安定化制御 |url=https://doi.org/10.1541/ieejias.120.142 |journal=電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌 |issn=09136339 |publisher=電気学会 |year=2000 |month=jan |volume=120 |issue=1 |pages=142-147 |naid=10004296803 |doi=10.1541/ieejias.120.142}} * {{Cite journal|和書|author=増田健二, 鈴木三男 |title=B-1 ビデオ画像位置解析法による二重振り子の運動の測定(分科B:「実験開発」) |url=https://doi.org/10.20653/pesjtaikai.19.0_36 |journal=物理教育学会年会物理教育研究大会予稿集 |publisher=日本物理教育学会 |year=2002 |volume=19 |issue=セッションID: B-1 |pages=36-37 |naid=110007466063 |doi=10.20653/pesjtaikai.19.0_36}} {{デフォルトソート:にしゆうふりこ}} [[Category:振り子]] [[Category:動力学]] [[Category:カオス力学系]] [[Category:科学教材]]
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