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{{more footnotes|date=January 2013}} [[非可換環論]]における'''交代環'''(こうたいかん、{{lang-en-short|''alternative ring''}})あるいは'''交代多元環'''(こうたいたげんかん、{{lang-en-short|''alternative algebra''}}; '''交代代数''')は、必ずしも[[結合法則|結合的]]でない乗法を持つ[[体上の多元環]]([[分配多元環]])であって、特に任意の元 {{math|''x'', ''y''}} に対し * 左交代性: <math>x(xy) = (xx)y</math> * 右交代性: <math>(yx)x = y(xx)</math> を満たすという意味で'''交代性'''を持つものをいう。 任意の[[結合多元環]]は明らかに交代的だが、[[八元数]]環のように厳密に[[非結合多元環|非結合的]]な交代代数もたくさんある。他方、[[十六元数]]環のように交代的ですらないものもある。 == 結合子の交代性 == 交代多元環の名称における「交代的」というのは、実際にはその任意の{{仮リンク|結合子|en|associator}}が[[多重線型形式]]として[[重線型交代形式|交代的]] (alternating form) であることを示唆してのものである。ここで、結合子とは :<math>[x,y,z] = (xy)z - x(yz)</math> として与えられる[[重線型形式|三重線型形式]]をいう。また、重線型形式が'''交代的'''とは、その引数の任意の二つが一致するときは必ず {{math|0}} になることをいう<ref group="*">引数の任意の二つを入れ替えると符号が変わる ((−1)-倍される) という性質のことを「交代性」と呼んでいる文献もあるが、一般にそれは「歪対称性」(skew-symmetric) あるいは「[[反対称性]]」(anti-symmetric) と呼ばれる性質である。多くの文脈では同じ概念を指すことになるため混同しても影響のないこともあるが、特に[[標数]] {{math|2}} の体も含めて考える場合には注意すべきである</ref>。実際、冒頭に挙げた乗法の左および右交代性を示す等式は、結合子を用いて : 結合子の左交代性: <math>[x,x,y] = 0,</math> : 結合子の右交代性: <math>[y,x,x] = 0</math> と書きなおすことができる<ref name=Sch27>Schafer (1995) p.27</ref>。またこの二つの式から結合子が{{仮リンク|歪対称形式|label=完全歪対称|en|Skew-symmetric form}} (totally skew-symmetric)、即ち任意の[[置換 (数学)|置換]] {{math|σ}} に対して : <math>[x_{\sigma(1)}, x_{\sigma(2)}, x_{\sigma(3)}] = \sgn(\sigma)[x_1,x_2,x_3]</math> を満たすことが示せる。またこれより任意の {{math|''x'', ''y''}} に対して :<math>[x,y,x] = 0,</math> 即ち、{{仮リンク|柔軟恒等式|en|flexible identity}} :<math>(xy)x = x(yx)</math> を満たすことが分かる<ref name=Sch28>Schafer (1995) p.28</ref>。 さて以上により、交代代数の結合子は交代的であり、逆に結合子が交代的な任意の多元環は交代代数であることがわかる。また条件の対称性を考えれば、以下の三条件 * 左交代性: <math>x(xy) = (xx)y,</math> * 右交代性: <math>(yx)x = y(xx),</math> * 柔軟性: <math>(xy)x = x(yx)</math> のうちの任意の二つを満足する多元環は、従って残りの一つも同時に満足して、交代代数であることが確認できる。 交代的結合子は常に完全歪対称であるが、逆は係数体の[[標数]]が {{math|2}} でない限りにおいて正しい。 == 例 == * 任意の[[結合多元環]]は交代的である。 * [[八元数]]の全体は非結合的交代代数である。実は[[実数|実]] {{math|8}}-[[次元 (線型代数学)|次元]]の[[ノルム多元体]]になる<ref>{{cite book | authorlink=John Horton Conway | last1=Conway | first1=John Horton | last2=Smith | first2=Derek A. | year=2003 | title=On Quaternions and Octonions: Their Geometry, Arithmetic, and Symmetry | publisher=A. K. Peters | isbn=1-56881-134-9 | zbl=1098.17001 }}</ref>。 * より一般に、任意の[[八元数環|一般八元数環]]は交代的である。 == 性質 == '''アルティンの定理'''の述べるとおり「交代多元環の任意の二元が生成する[[部分多元環]]は結合的である」<ref name=Sch29>Schafer (1995) p.29</ref>。逆に、任意の二元が生成する部分多元環が結合的となるような任意の多元環は明らかに交代的である。これにより、交代多元環において、変数を二つしか持たないような関係式は、積の結合順序を示すための括弧を省略しても意味を損なわない。アルティンの定理を「交代代数において結合的な三元 {{math|''x'', ''y'', ''z''}} (即ち {{math|[''x'', ''y'', ''z''] {{=}} 0}}) の生成する部分多元環は結合的である」と一般化することができる。 アルティンの定理の系として「交代多元環は{{仮リンク|冪結合法則|label=冪結合的|en|power-associative}}である」、即ち「その任意の単項生成部分多元環は結合的である」<ref name=Sch30>Schafer (1995) p.30</ref>が、逆は正しくない。例えば[[十六元数]]の全体は冪結合的だが交代的でないような多元環になる。 任意の交代代数において{{仮リンク|ムーファング恒等式|en|Moufang identities}} * <math>a(x(ay)) = (axa)y,</math> * <math>((xa)y)a = x(aya),</math> * <math>(ax)(ya) = a(xy)a</math> が成り立つ<ref name=Sch28/>。 単位的交代代数において、乗法逆元は存在すれば一意である。さらに任意の可逆元 {{mvar|x}} と任意の元 {{mvar|y}} に対し :<math>y = x^{-1}(xy),</math> 即ち、結合子 {{math|[''x''{{sup|−1}}, ''x'', ''y'']}} は消える。また、{{math|''x'', ''y''}} ともに可逆ならば、その積 {{mvar|xy}} もまた可逆で : <math>(xy)^{-1} = y^{-1}x^{-1}</math> が成り立つ。従って、可逆元全体の成す集合は積について閉じており、{{仮リンク|ムーファング・ループ|en|Moufang loop}}を成す。交代環におけるこの'''単元ループ'''(単元準群)は結合環における[[単元群]]に対応する概念である<ref group="*">ので({{仮リンク|ループ (代数学)|label=ループ|en|loop (algebra)}}(単位的[[準群]])は必ずしも群ではないけれども)[[用語の濫用]]で単元ループのことを単元群と呼ぶことも稀にある。</ref>。 ツォルンの定理によれば、任意の有限次元非結合的交代代数は一般八元数代数である<ref name=Sch56>Schafer (1995) p.56</ref>。 == 応用 == 任意の交代的可除多元環上の射影平面は{{仮リンク|ムーファング平面|en|Moufang plane}}である。 {{harvtxt|Guy Roos|2008|p=162}} は交代代数と[[合成代数]]の近しい関係性を述べる。多元環 {{mvar|A}} が単元 {{mvar|e}} と[[対合]]的{{仮リンク|逆転同型|en|anti-automorphism}} : <math>*\colon A\to A; a \mapsto a^*</math> を持ち、任意の {{math|''a'' ∈ ''A''}} に対して {{math|''a'' + ''a''{{sup|∗}}}} および {{math|''n''(''a'') :{{=}} ''aa''{{sup|∗}}}} がともに {{mvar|e}} の[[線型包|張る]]直線上にあると仮定する。このとき、写像 {{mvar|n}} が {{mvar|A}} の係数体への写像として非特異かつ {{mvar|A}} は交代的ならば、組 {{math|(''A'', ''n'')}} は合成代数になる。 == 注 == {{reflist|group="*"}} == 出典 == {{reflist}} == 参考文献 == * 山﨑圭次郎「環と加群」 [[岩波書店]]、[[岩波基礎数学選書]]、1990年12月、ISBN 4-00-007805-4 * Guy Roos (2008) "Exceptional symmetric domains", §1: Cayley algebras, in ''Symmetries in Complex Analysis'' by Bruce Gilligan & Guy Roos, volume 468 of ''Contemporary Mathematics'', [[American Mathematical Society]]. *{{Cite book | first = Richard D. | last = Schafer | title = An Introduction to Nonassociative Algebras | publisher = Dover Publications | location = New York | year = 1995 | isbn = 0-486-68813-5}} == 関連項目 == * [[ツォルン環]] * {{仮リンク|マルツェフ代数|en|Maltsev algebra}} == 外部リンク== * {{SpringerEOM|id=Alternative_rings_and_algebras|first=K.A.|last= Zhevlakov|title=Alternative rings and algebras}} * {{MathWorld|urlname=AlternativeAlgebra|title=Alternative Algebra}} * {{Planetmath reference|id=6349|title=alternative algebra}} {{DEFAULTSORT:こうたいたいすう}} [[Category:非可換環論]] [[Category:分配多元環]] [[Category:数学に関する記事]]
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