交代式のソースを表示

{{Dablink|ここでは、[[代数学]]用語を説明しています。[[バッキンガム宮殿]]などで[[衛兵]]が[[wikt:交代|交代]]する[[儀式]]「{{仮リンク|衛兵交代式|en|Guard mounting}}」とは異なります。}}
[[代数学]]における'''交代多項式'''（こうたいたこうしき、{{lang-en-short|''alternating polynomial''}}）は、その変数のうち任意のふたつを入れ替えるとき、[[符号 (数学)|符号]]が反転するような[[多項式]]を言う。式で書けば、{{mvar|i, j}} は任意として <math display="block">f(x_1,\dots,x_j,\dots,x_i,\dots,x_n) = -f(x_1,\dots,x_i,\dots,x_j,\dots,x_n)</math> が成り立つ多項式 {{mvar|f}} を交代多項式という。[[置換 (数学)|置換]]の言葉で言えば、多項式の変数に関する任意の置換 {{mvar|σ}} が引き起こす交代多項式 {{mvar|f}} への作用は[[置換の符号]] {{math|sgn(''σ'')}} を掛けること: <math display="block">f(x_{\sigma(1)},\dots,x_{\sigma(n)})= \sgn(\sigma) f(x_1,\dots,x_n)</math> として実現される。

より一般に、多項式 <math display="inline">f(x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_t)</math> が「{{math|''x''{{sub|1}}, …, ''x{{sub|n}}''}} に関して交代的」とは、{{mvar|y{{sub|j}}}} は何れも固定するものとして、{{mvar|x{{sub|i}}}} たちのうちどの二つを入れ替えても符号が変わるときにいう<ref>''Polynomial Identities and Asymptotic Methods,'' [https://books.google.com/books?id=ZLW_Kz_zOP8C&pg=PA12&lpg=PA12&dq=%22alternating+polynomial%22 p. 12]</ref>

交代多項式を短く'''交代式'''とも呼ぶ。また「交代式」は、必ずしも多項式とは限らない[[有理式]]や[[代数式]]（あるいはより一般の数式）で、変数の入れ替えで符号が反転するものを指すこともある<ref>{{kotobank|交代式}}</ref>。より一般に、変数の入れ替えで符号の反転する任意の函数を、交代函数（あるいは交代写像）という。

== 対称多項式との関係 ==
以下、多項式は同じ変数 {{math|''x''{{sub|1}}, …, ''x{{sub|n}}''}} に関するものとして、[[対称多項式]]や交代多項式について
* 対称多項式同士の積は対称式である。
* 対称多項式と交代多項式との積は交代式である。
* 交代多項式同士の積は対称式である。
などが成り立つ。これらの関係は、対称式を「偶」・交代式を「奇」と対応させたときの[[偶奇性]]の加法表と一致している。したがって、対称多項式全体の成すベクトル空間と交代多項式全体の成すベクトル空間との[[ベクトル空間の直和|直和]]は{{ill2|超代数|en|superalgebra}}（すなわち {{math|'''Z'''{{sub|2}}}}-[[次数付き代数]]）を成し、その偶成分が対称多項式の空間・奇成分が交代多項式の空間になる。{{efn|この {{math|'''Z'''{{sub|2}}}}-次数付けの「次数」は通常の意味の[[多項式の次数|次数]]と無関係であることに注意する。}}

特に、交代多項式の全体は対称多項式環上の[[環上の加群|加群]]になる{{efn|一般に、超代数の奇成分は偶成分上の加群となるのであった}}。実はこの加群は{{nowrap|自由階数 {{math|1}}}} の[[自由加群]]で、生成元として {{mvar|n}}-変数の[[差積]]がとれる。

係数環の[[標数]]が {{math|2}} の場合は、交代多項式と対称多項式という二つの概念は一致する。

== 差積 ==
{{main|差積}}

もっとも単純な交代多項式は[[差積]] <math display="block">v_n := \prod_{1\le i<j\le n} (x_j-x_i)</math> である。差積が交代的であることは、ふたつの変数を入れ替えるとただ一つの因子だけ符号が変わり、それ以外の因子はそのままであることから明らか{{efn|符号が変わらない因子については並べ替えが起きていると理解できる。たとえば {{math|1=''n'' = 3}} のとき、{{math|''x''{{sub|1}}}} と {{math|''x''{{sub|2}}}} を入れ替えるとすると、{{math|''x''{{sub|2}} &minus; ''x''{{sub|1}}}} は <math display="inline">(x_1-x_2) = -(x_2-x_1)</math> と符号が変わり、それ以外の <math>x_3-x_1</math> と <math>x_3-x_2</math> は互いに入れ替わるけれども符号は変化しない。}}

任意の交代多項式 {{mvar|a}} はちょうど、差積と適当な対称多項式 {{mvar|s}} との積 <math display="inline">a = v_n \cdot s</math> になっている。これは
* {{mvar|v{{sub|n}}}} は任意の交代多項式を割り切る: 実際、任意の交代多項式 {{mvar|f}} において、{{mvar|1=x{{sub|i}} = x{{sub|j}}}} とすれば、交代性 <math display="block">f(x_1,\dots,x_i,\dots,x_j,\dots,x_n) = f(x_1,\dots,x_j,\dots,x_i,\dots,x_n) = -f(x_1,\dots,x_i,\dots,x_j,\dots,x_n)</math> によって交代式の値は零となるから、[[因数定理]]により {{mvar|x{{sub|i}} &minus; x{{sub|j}}}} は {{mvar|f}} を割り切る。したがって、{{mvar|v{{sub|n}}}} は {{mvar|f}} を割り切る。
* 交代多項式と対称多項式との積は交代多項式である。したがって差積と任意の対称多項式との積は交代多項式である。
* 逆に、ふたつの交代多項式の商は対称式（一般には多項式とは限らない対称有理式）であり、交代多項式は差積で割り切れる（つまり商は多項式）。
といったようなことからの帰結である。[[シューア多項式]]は、いま見たような交代多項式を差積で割った多項式として定義される対称函数である。
; {{vanc|環構造}}
: 対称多項式全体の成す環を {{math|Λ{{sub|''n''}}}} とすれば、対称多項式および交代多項式全体の成す環は {{math|Λ{{sub|''n''}}}} に差積 {{mvar|v{{sub|n}}}} を添加した環 <math display="inline">\Lambda_n[v_n]</math> となる。より具体的に、{{math|Λ{{sub|''n''}}}} に係数を持つ {{mvar|v{{sub|n}}}} を変数とする多項式環の剰余環 <math display="inline">\Lambda_n[v_n]/\langle v_n^2-\Delta\rangle</math> と書いてもよい（ただし、<math display="inline">\Delta:=v_n^2</math> は[[判別式]]と呼ばれる対称式である）。
: つまり、対称および交代多項式環は、対称多項式環に判別式の平方根を添加する{{ill2|二次拡大|en|quadratic extension}}環である。
: あるいはまた <math display="inline">R[e_1,\dots,e_n,v_n]/\langle v_n^2-\Delta\rangle</math> とも書ける。
; 注: {{math|2}} が[[可逆元]]でない（{{nowrap|[[標数]] {{math|2}}}} の）場合、状況がやや異なり、差積とは異なる多項式 {{mvar|W{{sub|n}}}} を用いた異なる関係式として書ける {{harv|Romagny|2005}}。

== 表現論 ==
{{details|{{ill2|対称群の表現論|en|Representation theory of the symmetric group}}}}
[[表現論]]の観点からは、対称式環も交代式環も {{mvar|n}}-変数多項式環の {{mvar|n}} 個の変数に対する{{ill2|対称群の表現論|en|Representation theory of the symmetric group|label=対称群の作用}}の部分表現と見ることができる（{{mvar|n}} 個の文字に対する置換が、それら文字からなる{{ill2|自由対象|en|free object|label=文字列}}への作用を誘導することに注意せよ）。

対称群は、自明表現と符号表現のふたつの一次元表現を持つ。自明表現に対応するのが対称多項式で、符号表現に対応するのが交代多項式である。きちんと述べれば、任意の対称多項式からなるスカラー係数線型結合の全体が対称群の自明表現・任意の交代多項式からなるスカラー係数線型結合の全体が対称群の符号表現であり、これらは多項式全体の成す空間とそれら各々の表現とのテンソル積をとったものとして得られる。

* 標数 2 ではこれら二つの表現は区別されないから、状況はより複雑である。
* 三変数以上の多項式環への対称群の作用では、これら二つ以外の部分表現も出てくる。

== 非安定性 ==
交代多項式の全体は（{{ill2|安定ホモトピー論|en|stable homotopy theory}}の意味で）非安定な現象を示す。つまり、{{mvar|n}}-変数対称式環の場合であれば、任意個の変数を持つ対称多項式環から、必要な変数以外の変数を零に等しいと置くことで得られる（このことを指して、対称多項式は「安定である」とか「互換的に定義された」(''compatibly defined'') などという）のであったが、交代多項式（とくに[[差積]]）にはこれが当てはまらない。

== 関連項目 ==
* [[対称式]]
* [[オイラー類]]

== 注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
<references/>

== 参考文献 ==
* A. Giambruno, Mikhail Zaicev, ''Polynomial Identities and Asymptotic Methods,'' AMS Bookstore, 2005 {{ISBN2|978-0-8218-3829-7}}, pp. 352
* [http://perso.univ-rennes1.fr/matthieu.romagny/notes/FTAF.pdf The fundamental theorem of alternating functions], by Matthieu Romagny, September 15, 2005

{{DEFAULTSORT:こうたいしき}}
[[Category:多項式]]
[[Category:対称函数]]
[[Category:数学に関する記事]]