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体上の多元環
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{{refimprove|date=March 2010}} [[数学]]において[[可換体|体]]上の'''代数'''あるいは'''多元環'''(たげんかん、{{lang-en-short|''algebra''}})とは、[[双線型写像|双線型な乗法]]を備えた[[ベクトル空間|線型空間]]である(ゆえに「線型環」ともいう)。すなわちベクトル空間とその上の乗法と呼ばれる[[二項演算]]——つまり二つのベクトルから第三のベクトルを作り出す操作——とからなり、乗法がベクトル空間の構造と([[分配法則|分配律]]などの)適当な意味で両立するような[[代数的構造]]である。したがって、体上の多元環は、加法と乗法および体の元による[[スカラー倍]]とを演算として備えた[[集合]]である。 定義における係数の体を[[可換環]]に取り換えることにより、体上の多元環の一般化として[[環上の多元環]]の概念を得ることもできる。 文献によっては、単に「多元環」(あるいは「代数」)と言えば[[単位的環|単位的]][[結合多元環]]を指すこともあるが{{sfn|Hazewinkel et al.|2004|pp={{Google books quote|id=AibpdVNkFDYC|page=2|2}}–3}}、本項ではそのような制約は課さない。 == 定義と動機付け == === 簡単な例 === 任意の[[複素数]]は、[[実数]] {{mvar|a, b}} と[[虚数単位]] {{mvar|i}} を用いて {{math|''a'' + ''bi''}} の形に一意的に書くことができる。言い換えれば、複素数は実数体上の[[幾何ベクトル|ベクトル]] {{math|(''a'', ''b'')}} として表現できる。したがって複素数の全体は二次元の実ベクトル空間をなし、加法とスカラー乗法は {{mvar|a, b, c, d}} を実数として、{{math|1=(''a'', ''b'') + (''c'', ''d'') = (''a'' + ''c'', ''b'' + ''d'')}} および {{math|1=''c''(''a'', ''b'') = (''ca'', ''cb'')}} で与えられる。ここで、二つのベクトルの積を記号 "⋅" で表すことにすれば、複素数の積は {{math|1=(''a'', ''b'')⋅(''c'', ''d'') = (''ac'' − ''bd'', ''ad'' + ''bc'')}} によって定義される。 以下の主張は複素数の基本性質である。ここで {{math|''z''{{sub|1}}, ''z''{{sub|2}}, ''z''{{sub|3}}}} は複素数、{{mvar|α}} は実数を表すものとする。 * 複素数の乗法は複素数の加法に対して[[分配法則|分配的]]である: {{math|1=(''z''{{sub|1}} + ''z''{{sub|2}})''z''{{sub|3}} = ''z''{{sub|1}}''z''{{sub|3}} + ''z''{{sub|2}}''z''{{sub|3}}}}. * 複素数の乗法は実数によるスカラー乗法と可換である: {{math|1=(''αz''{{sub|1}})''z''{{sub|2}} = ''α''(''z''{{sub|1}}''z''{{sub|2}}) = ''z''{{sub|1}}(''αz''{{sub|2}})}}. この例は、次節における体 {{mvar|K}} として実数全体の成す体 {{math|'''R'''}} をとり、ベクトル空間 {{mvar|A}} として複素数の全体を考えたときに適合する。 === 定義 === {{mvar|K}} は[[可換体|体]]、{{mvar|A}} を {{mvar|K}} 上の[[ベクトル空間]]で付加的な[[二項演算]] {{math|"⋅": ''A'' × ''A'' → ''A'', (''x'', ''y'') ↦ ''xy''}} を持つものとする({{mvar|x, y}} を {{mvar|A}} の任意の元とするとき、{{mvar|xy}} をそれらの'''積'''と呼ぶ)。このとき、{{mvar|A}} が {{mvar|K}} 上の'''多元環'''であるとは、{{mvar|A}} の任意の元 {{mvar|x, y, z}} と {{mvar|K}} の任意の元([[スカラー (数学)|スカラー]]){{mvar|α}} について、以下の条件 * 左[[分配法則|分配律]]: {{math|1=(''x'' + ''y'') ''z'' = ''xz'' + ''yz''}} * 右分配律: {{math|1=''x''(''y'' + ''z'') = ''xy'' + ''xz''}} * スカラー律: {{math|1=(''αx'')''y'' = ''α''(''xy'') = ''x''(''αy'')}} を満足するときに言う{{sfn|Schafer|1966|p=1}}。このときの二項演算 "{{math|⋅}}" は、ふつう {{mvar|A}} 上の'''乗法'''と言い、これらの三公理はまとめて、乗法の[[双線型写像|双線型性]]と呼ばれる。{{mvar|K}} 上の多元環は、短く {{mvar|K}}-多元環とも呼び、また {{mvar|K}} は多元環 {{mvar|A}} の'''係数体''' (''scalar field'') または'''基礎体''' (''base field'', ''ground field'') という。 本項においては、規約として多元環の元の乗法が[[結合法則|結合的]]であることは仮定しないが、文献によっては[[結合多元環|結合的なもの]]を単に「多元環」と呼んでいる場合があるので注意を要する。 また、(先の複素数の例などのように)ベクトル空間の上の乗法が[[交換法則|可換]]であるときには、左分配性と右分配性とはまったく一致する条件であるが、一般に非可換である場合には(後述する四元数の例のように)両条件は同値ではない。したがって、これらは別々に要請されるべき公理であることに注意を要する。 === 動機付けとなる例 === {{main|四元数}} [[実数]]全体 {{math|'''R'''}} を一次元ベクトル空間と見ると、乗法と両立するから、自分自身の上の一次元多元環になる。先ほどは複素数の全体が実数体 {{math|'''R'''}} 上の二次元ベクトル空間で、さらに {{math|'''R'''}} 上の二次元多元環となることを見た。これらはともに、任意の非[[零ベクトル]]が[[乗法逆元|逆元]]を持つ。同様にして三次元の実ベクトル空間で、任意の非零元が逆元を持つようなもの([[多元体]])はあるかと問うのは自然なことであるが、答えは否定的である([[ノルム多元体]]を参照)。 実三次元の(多元体)は存在しないが、1843年に[[ウィリアム・ローワン・ハミルトン|ハミルトン]]により定義された[[四元数]]の全体には乗法だけでなく除法も定義できる。これは今日では実四次元の多元体の例として有名である。任意の四元数を {{math|1=(''a'', ''b'', ''c'', ''d'') = ''a'' + ''bi'' + ''cj'' + ''dk''}} のように書くことができる。複素数の場合と異なり、四元数の全体は[[非可換環|非可換多元環]]の例を与える(例えば {{math|1=''ij'' = ''k''}} だが {{math|1=''ji'' = −''k''}} である)。{{要出典範囲|date=2021-07-09|する(注:近年は体の定義として加法と乗法について可換であることを課すのが普通となり、四元数のような非可換の乗法を持つ環の場合には除法が定義できても「体(field)」であるとは云わずに「斜体(skew field)」と称して体には含めなくなってきている。)}} 四元数のほかにも、体上の多元環の簡単な例として[[多元数|超複素数系]]がいくつか得られる。 == 基本概念 == === 多元環の準同型 === {{main|{{仮リンク|多元環準同型|en|algebra homomorphism}}}} {{mvar|K}}-多元環 {{mvar|A, B}} に対して、{{mvar|K}}-多元環の[[準同型]] (''algebra homomorphism'') とは、{{mvar|K}}-[[線型写像]] {{math|''f'': ''A'' → ''B''}} であって、{{mvar|A}} の任意の元 {{mvar|x, y}} について {{math|1=''f''(''xy'') = ''f''(''x'')''f''(''y'')}} を満たすものを言う。{{mvar|K}}-多元環全体の成す空間はしばしば :<math>\operatorname{Hom}_{K\text{-alg}}(A,B)</math> のように書かれる。{{mvar|K}}-多元環の[[同型]]とは[[全単射]]な {{mvar|K}}-多元環の準同型を言う。互いに同型な多元環は実際上は表し方が違うだけの同じものであると考えられる。 === 部分多元環とイデアル === {{main|{{仮リンク|部分構造|en|Substructure}}}} 体 {{mvar|K}} 上の多元環の'''部分多元環''' (''subalgebra'') とは、[[部分線型空間]]であって、さらにその空間の任意の二元の積がふたたびその空間に属するようなものを言う。言い換えれば、部分多元環は加法と乗法及びスカラー乗法に関して閉じているような部分集合である。記号で書けば、{{mvar|K}}-多元環 {{mvar|A}} の部分集合 {{mvar|L}} が部分多元環であるとは、任意の {{math|''x'', ''y'' ∈ ''L''}} と {{math|''c'' ∈ ''K''}} に対して {{math|''xy'', ''x'' + ''y'', ''cx'' ∈ ''L''}} が成り立つことである。 先の複素数の例を実数体上二次元の多元環と見做せば、実数直線は一次元の部分多元環になる。 {{mvar|K}}-多元環の'''左イデアル''' (''left ideal'') は、部分線型空間であって、その空間の各元に多元環の任意の元を左から掛けて得られる元が常にその空間に属するという性質を持つものを言う。記号で書けば、{{mvar|K}}-多元環 ''A'' の部分集合 {{mvar|L}} が左イデアルであるとは、{{mvar|L}} の任意の元 {{mvar|x, y}} と {{mvar|A}} の任意の元 {{mvar|z}} および {{mvar|K}} の任意の元について、以下の条件 # 加法の[[閉性]]: {{math|''x'' + ''y'' ∈ ''L''}} # スカラー乗法の閉性: {{math|''cx'' ∈ ''L''}} # 任意左乗法の閉性: {{math|''zx'' ∈ ''L''}} をすべて満足することをいう。最後の条件を「任意右乗法の閉性 {{math|''xz'' ∈ ''L''}}」に取り換えれば'''右イデアル''' (''right ideal'') の定義を得る。'''両側イデアル''' (''two-sided ideal'') は左イデアルでも右イデアルでもあるような部分集合を言う。単に「イデアル」と言った時には、両側イデアルの意味であるのが普通である。もちろん、多元環が可換であるときには、これらのイデアルの概念はいずれも一致してしまうので、この場合は単にイデアルと呼ぶ。上二つの条件は {{mvar|L}} が {{mvar|A}} の部分線型空間であることを言うものであることを指摘しておく。また最後の条件からは、任意の左および右イデアルが部分多元環となることがわかる。 いま定義したイデアルの概念が、[[イデアル (環論)|環のイデアル]]とは異なる概念であることに留意することは重要である(スカラー倍に関する条件が加わっている)。もちろん、考える多元環が[[単位的多元環|単型]]であるときには、スカラー倍に関する条件は最後の条件に含まれる。 === 係数拡大 === {{main|係数拡大}} 係数体 {{mvar|K}} を含むより大きな体 {{mvar|F}}, すなわち[[体の拡大]] {{math|''F''/''K''}} が与えられたとき、自然な仕方で {{mvar|K}} 上の多元環から {{mvar|F}} 上の多元環が構成できる。これはベクトル空間の係数体をより大きな体に取り換えるのと同じ構成法、つまり[[ベクトル空間のテンソル積|テンソル積]] {{math|1=''V''<sub>''F''</sub> = ''V'' ⊗<sub>''K''</sub> ''F''}} を作ることで与えられる。つまり、{{mvar|A}} が {{mvar|K}} 上の多元環ならば[[多元環のテンソル積|テンソル積]] {{math|1=''A''<sub>''F''</sub> = ''A'' ⊗<sub>''K''</sub> ''F''}} は {{mvar|F}} 上の多元環である。 == 多元環の種類と例 == 体上の多元環にはいくつか種類がある。以下に挙げる多元環の種類はある種の公理、例えば一般の多元環の定義には含まれていない乗法の[[交換法則|可換性]]や[[結合法則|結合性]]など、を追加で要求することで特定される。これらの多元環についての理論は、それぞれの多元環の種類によって、大きく趣を異にするものとなる。 === 単位的多元環 === {{main|単位的多元環}} 多元環が'''単位的'''または'''単型''' (''unital'', ''unitary'') であるとは、それが[[単位元]]または[[単元 (代数学)|単元]]を持つことを言う。すなわち、多元環の元 {{mvar|I}} が存在して、全ての元 {{mvar|x}} に対して {{math|1=''Ix'' = ''x'' = ''xI''}} を満たす。単位元を持たない多元環はある標準的な方法で構成される単位的な多元環に余次元1のイデアルとして含まれる{{sfn|Schafer|1966|p=11}}。 === 零多元環 === {{main|零環}} <!-- 環論以外でも "zero algebra" が用語として用いられることがある --> 多元環が'''零多元環''' (''zero algebra'') とは、任意の元 {{mvar|u, v}} に対して {{math|1=''uv'' = 0}} となることを言う{{sfn|Schafer|1966|p=2}}。ただ一つの元からなる多元環([[自明環|自明な多元環]])を零(多元)環と呼ぶこともある(それはいま言う意味での零環でもある)が、混同してはならない。零環は本質的に(自明環でなければ)単位的でなく、しかし結合的かつ可換である。 '''単型零環''' (''unital zero algebra'') は、体(あるいはより一般の環){{mvar|k}} と {{mvar|k}}-線型空間(加群){{mvar|V}} との[[加群の直和|直和]]をとり、{{mvar|V}} の二元の積が常に零ベクトルであるものと定めて得られる。即ち、{{math|''λ'', ''μ'' ∈ ''k''}} および {{math|''u'', ''v'' ∈ ''V''}} ならば {{math|1=(''λ'' + ''u'')(''μ'' + ''v'') = ''λμ'' + (''λv'' + ''μu'')}} となる。{{math|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''d''</sub>}} が {{mvar|V}} の基底であるとすれば、単型零環は[[多項式環]] {{math|''k''[''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>]}} の全ての対 {{math|(''i'', ''j'')}} に対する {{mvar|e{{ind|i}}e{{ind|j}}}} の全体が生成する[[イデアル (環論)|イデアル]]による剰余環である。 単型零環の一例として、[[二重数|二元数]] {{math|{{big|∧}}'''R'''}} は {{math|'''R'''}} とその上の一次元ベクトル空間から得られる単型 {{math|'''R'''}}-零環である。 これら単型零環は、多元環の任意の一般性質を[[線型空間]]や[[環上の加群|加群]]の性質に読み替えることができる点でより一般に有効な概念である。例えば、{{仮リンク|ブルーノ・ブッフバーガー|en|Bruno Buchberger}}が導入した[[グレブナ基底]]は、体上の多項式環 {{math|1=''R'' = ''k''[''x''<sub>1</sub>, …, ''x''<sub>''n''</sub>]}} のイデアルに対する生成系の理論であるが、自由 {{mvar|R}}-加群上の単型零環の構成を考えることによって、自由加群の部分加群に対するグレブナ基底の理論を直接的な拡張として持ち込むことができる。この拡張は、部分加群のグレブナ基底の計算に関して、何らの修正を経ることなく、イデアルのグレブナ基底計算のアルゴリズムやソフトウェアをそのまま使うことを許す。 === 結合多元環 === {{main|結合多元環}} * 体(または可換環){{mvar|K}} 上の {{mvar|n}}-次[[全行列環]]。ここで乗法は通常の[[行列の積]]を考える。 * [[群多元環]]は[[群 (数学)|群]]を基底とするベクトル空間で、多元環としての乗法は群の乗法の線型な拡張である。 * 体 {{mvar|K}} 上の多項式全体 {{math|''K''[''x'']}} は可換多元環になる。 * [[函数環]]: 例えば[[区間 (数学)|区間]] {{math|[0, 1]}} 上で定義された実数値[[連続函数]]全体の成す {{math|'''R'''}}-多元環や、[[複素数平面]]内のある開集合上定義された[[正則函数]]全体の成す {{math|'''C'''}}-多元環など。いま挙げた例はともに可換多元環である。 * [[接合環]]はある種の[[半順序集合]]から構築される。 * (例えば[[ヒルベルト空間]]上の)[[線型作用素]]環: ここでは多元環の積として[[写像の合成|作用素の合成]]をとる。今の例では[[位相空間|位相]]も入っていて(そのほとんどは台となる[[バナッハ空間]]の上で定義されるものだが)[[バナッハ環]]になる。さらに[[対合]]も与えられているなら、[[B*-環]]や[[C*-環]]の概念も導かれる。これらは[[函数解析学]]に属する主題である。 === 非結合多元環 === {{main|非結合多元環}} 体 {{mvar|K}} 上の'''非結合代数'''{{sfn|Schafer|1966}}あるいは'''分配多元環'''とは、{{mvar|K}}-線型空間 {{mvar|A}} とその上の {{mvar|K}}-[[双線型写像]] {{math|''A'' × ''A'' → ''A''}} の組を言う。ここで「非結合的」というのは、結合性を仮定しないという意味であって、結合的であることを排除しない。即ち、「非可換」が「必ずしも可換でない」の意味であるのと同様に、ここでの非結合的」は「必ずしも結合的でない」の意味である。 以下、個別の項目において詳述する: * [[八元数]]環 * [[リー代数]] * {{仮リンク|ジョルダン代数|en|Jordan algebra}} * [[交代代数]] * {{仮リンク|柔軟代数|en|flexible algebra}} * {{仮リンク|冪結合性|en|Power associativity|label=冪結合多元環}} == 環と多元環 == 単位元を持つ結合的 {{mvar|K}}-多元環の定義は、しばしば別なやり方で与えられる。この場合の体 {{mvar|K}} 上の多元環とは、[[環 (数学)|環]] {{mvar|A}} であって、その像が[[環の中心|中心]]に含まれている[[環準同型]] :<math>\eta_A\colon K\to A</math> を備えるものを言う。{{mvar|η{{sub|A}}}} が体上定義された環準同型であるということは、{{mvar|A}} は自明環かさもなくば {{mvar|η{{sub|A}}}} は[[単射]]である。この定義は、スカラー乗法を :<math>K\times A \to A;\quad (k,a) \mapsto ka:=\eta_A(k)a</math> で定めて、定義節で与えた定義と同値になることが確かめられる。このようにして二つの単位的 {{mvar|K}}-結合多元環が与えられたとき、単位的 {{mvar|K}}-多元環準同型 {{math|''f'': ''A'' → ''B''}} とは、環準同型であってさらにスカラー乗法と可換、すなわち {{mvar|K}} の各元 {{mvar|k}} と {{mvar|A}} の各元に対して :<math>f(ka)=kf(a)</math> を満たすものを言う。言い換えれば、図式 :<math>\begin{matrix} K \\ {}^{\eta_A}\!\!\swarrow \quad \searrow\!\!^{\eta_B} \\ A\quad \stackrel{f}{\longrightarrow}\quad B \end{matrix}</math> を可換にする環準同型 {{mvar|f}} を多元環の準同型と呼ぶのである。 == 構造係数 == {{main|構造定数 (数学)|l1=構造定数}} 体上の多元環 {{mvar|A}} に対し、その双線型な乗法 {{math|''A'' × ''A'' → ''A''}} は {{mvar|A}} の[[基底 (線型代数学)|基底]]元の間の積を求めれば完全に決まる。逆に、{{mvar|A}} の基底を選んでおいて、その間の積を任意に定めるならば、それを延長して {{mvar|A}} 上の双線型な演算が一意的に定まり、それは多元環の積の条件を満足する。 従って、与えられた体 {{mvar|K}} に対する任意の多元環は、[[同型を除いて]]、その次元 {{mvar|n}} と {{math|''n''{{exp|3}}}}-個の'''構造係数''' {{mvar|c{{ind|i,j,k}}}} と呼ばれる特定の[[スカラー (数学)|スカラー]]を与えることによって決定される。ここで、構造係数というのは、{{mvar|A}} 上の乗法を : <math>e_i e_j = \sum_{k=1}^n c_{i,j,k}\,e_k</math> なる規則によって完全に決定するものである。ただし、{{math|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}} は {{mvar|A}} の基底とする。構造係数に課される条件は、次元 {{mvar|n}} が[[無限|無限大]]であるときには、この和が(状況に応じて適当な意味で)常に[[数列の極限|収斂]]することだけである。 構造係数のいくつか異なる組に対して、同型な多元環が生じ得ることは留意すべきである。 多元環が[[計量テンソル|計量]]を備えているときには、構造係数の添字は上付きと下付きに書いて、座標変換に対するそれらの変換規則を区別する。具体的には、[[数理物理]]において、下付き添字は[[ベクトルの共変性と反変性|共変添字]]で、{{仮リンク|引き戻し (微分幾何学)|label=引き戻し|en|Pullback (differential geometry)}}を通じて変換し、他方上付き添字は[[ベクトルの共変性と反変性|反変添字]]で、[[押し出し (微分幾何学)|押し出し]]のもとで変換するので、このとき構造係数は {{mvar|c{{msub|i,j}}{{msup|k}}}} と書かれ、また[[アインシュタインの縮約記法]]を用いるなら定義式は : {{math|1=''e''<sub>''i''</sub>''e''<sub>''j''</sub> = ''c''<sub>''i'',''j''</sub><sup>''k''</sup> ''e''<sub>''k''</sub>}} と書くことができる。ベクトルの成分に関する[[添字記法]]を用いるならば、これは : {{math|1=('''xy''')<sup>''k''</sup> = ''c''<sub>''i'',''j''</sub><sup>''k''</sup>''x''<sup>''i''</sup>''y''<sup>''j''</sup>}} と書くこともできる。 {{mvar|K}} が単に可換環であって体を成さない場合、同様の過程は {{mvar|A}} が[[自由加群]]であるときに限れば通用する。そうでなくとも、{{mvar|A}} の乗法は {{mvar|A}} を生成する集合上の作用が決まるならばやはり完全に決めることができるが、しかしこの場合には構造係数を任意に決めるということはできず、構造係数から同型を除いて多元環を決定するということも可能にはならない。 == 低次元多元環の分類 == 複素数体上の二次元、三次元、および四次元の単型結合多元環(線型環)は{{仮リンク|エドゥアルト・シュトゥーディ|en|Eduard Study}}によって、[[違いを除いて|同型を除く]]完全な分類が知られている<ref>{{ citation | last=Study | first=E. | year=1890 | title=Über Systeme complexer Zahlen und ihre Anwendungen in der Theorie der Transformationsgruppen | journal=Monatshefte für Mathematik und Physik | volume=1 |issue=1 | pages=283–354 | doi=10.1007/BF01692479 | jfm=22.0387.02 }}</ref>。 二次元の多元環は二種類で、何れの多元環も単位元 {{math|1}} ともう一つの元 {{mvar|a}} の二つの基底元の複素係数線型結合からなる。単位元の定義から :<math>1 \cdot 1 = 1 ,\quad 1 \cdot a = a,\quad a \cdot 1 = a</math> は確定しているから、残るは {{math|''a''<sup>2</sup>}} を特定すれば決まり、 # <math>a^2 = 1 </math> # <math>a^2 = 0 </math> の二種である。 三次元の多元環は五種類で、各多元環は単位元 {{math|1}} とほかに {{mvar|a, b}} 二つの基底元の複素係数線型結合からなる。単位元の定義を勘案すれば、各々の多元環は以下のように特定できる。 # <math>a^2 = a,\quad b^2 = b,\quad ab = ba = 0</math> # <math>a^2 = a,\quad b^2 = 0,\quad ab = ba = 0</math> # <math>a^2 = b,\quad b^2 = 0,\quad ab = ba = 0</math> # <math>a^2 = 1,\quad b^2 = 0,\quad ab = -ba = b</math> # <math>a^2 = 0,\quad b^2 = 0,\quad ab = ba = 0</math> これらのうち四番目は非可換だが、他はみな可換である。 == 注記 == {{reflist|2}} == 参考文献 == * {{citation |first1=Michiel |last1=Hazewinkel |first2=Nadiya |last2=Gubareni |first3=Vladimir V. |last3=Kirichenko |title=Algebras, Rings and Modules |volume=1 |publisher=Kluwer Academic Publishers |year=2004 |isbn=1-4020-2690-0 |ref={{sfnref|Hazewinkel et al.|2004}} |mr=2106764 |zbl=1086.16001 }} * {{citation |first=Richard D. |last=Schafer |title=An Introduction to Nonassociative Algebras |publisher=Academic Press |year=1966 |series=Pure and Applied Mathematics |volume=22 |ref=harv |mr=210757 |zbl=0145.25601 }} ([http://www.gutenberg.org/ebooks/25156 Project Gutenberg]) == 関連項目 == * [[クリフォード代数]] * [[微分環]] * {{仮リンク|幾何代数|en|Geometric algebra}} * {{仮リンク|マックス・プラス代数|en|Max-plus algebra}} {{DEFAULTSORT:たいしようのたけんかん}} [[Category:多元環|*]] [[Category:数学に関する記事]]
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