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[[微分幾何学]]において、[[滑らかな多様体|滑らかな(あるいは可微分)多様体]]の各点 {{mvar|x}} に、{{mvar|x}} における'''余接空間'''(よせつくうかん、{{lang-en-short|cotangent space}})と呼ばれる[[ベクトル空間]]を取り付けることができる。余接空間は、より直接的な定義があるが(下記参照)、典型的には、{{mvar|x}} における[[接空間]]の[[双対空間]]として定義される。余接空間の元は'''余接ベクトル'''({{lang-en-short|cotangent vector}})あるいは'''接余ベクトル'''({{lang-en-short|tangent covector}})と呼ばれる。 ==性質== 連結多様体上のすべての余接空間は多様体の次元に等しい同じ[[ベクトル空間の次元|次元]]をもつ。多様体のすべての余接空間は「貼り合わせて」(すなわち和集合をとり位相を与えて)次元が2倍の新しい微分可能多様体、多様体の[[余接束]]を作ることができる。 点における接空間と余接空間はどちらも同じ次元の実ベクトル空間でありそれゆえ多くの可能な同型写像を経由して互いに[[同型]]である。[[リーマン計量]]や[[シンプレクティック形式]]の導入は点における接空間と余接空間の間の[[自然同型]]を任意の余接ベクトルに自然な接ベクトルを割り当てて生じる。 ==正式な定義== ===線型汎関数としての定義=== {{mvar|M}} を滑らかな多様体とし {{mvar|x}} を {{mvar|M}} の点とする。{{mvar|T<sub>x</sub>M}} を {{mvar|x}} における[[接空間]]とする。このとき {{mvar|x}} における余接空間は {{mvar|T<sub>x</sub>M}} の双対空間として定義される: :{{math|''T''<sub>''x''</sub><sup>*</sup>''M'' {{=}} (''T''<sub>''x''</sub>''M'')<sup>*</sup>}} 具体的には、余接空間の元は {{mvar|T<sub>x</sub>M}} 上の[[線型汎関数]]である。つまり、すべての元 {{math|''α'' ∈ ''T''<sub>''x''</sub><sup>*</sup>''M''}} は[[線型写像]] :{{math|''α'': ''T<sub>x</sub>M'' → '''F'''}} である、ただし {{mathbf|F}} は考えているベクトル空間の基礎[[可換体|体]]である。例えば、[[実数]]体。{{math|''T''<sub>''x''</sub><sup>*</sup>''M''}} の元は余接ベクトルと呼ばれる。 ===別の同値な定義=== いくつかのケースでは、接空間に言及することなしに余接空間の直接の定義をしたいかもしれない。そのような定義は {{mvar|M}} 上の滑らかな関数の[[同値類]]の言葉で定式化することができる。インフォーマルには、{{mvar|x}} の近くで同じ一次の振る舞いをするときに2つの滑らかな関数 {{mvar|f}} と {{mvar|g}} は点 {{mvar|x}} で同値であるという。余接空間はすると {{mvar|x}} の近くの関数のありとあらゆる一次の振る舞いからなる。 {{mvar|M}} を滑らかな多様体とし {{mvar|x}} を {{mvar|M}} の点とする。{{mvar|I<sub>x</sub>}} を {{mvar|x}} で消える {{math|C<sup>∞</sup>(''M'')}} のすべての関数からなる[[イデアル]]とし、{{math|''I<sub>x</sub>''<sup>2</sup>}} を <math display="inline">\sum_i f_i \, g_i</math> の形の関数の集合とする、ただし {{math|''f<sub>i</sub>'', ''g<sub>i</sub>'' ∈ ''I<sub>x</sub>''}}とする。このとき {{mvar|I<sub>x</sub>}} と {{math|''I<sub>x</sub>''<sup>2</sup>}} は実ベクトル空間であり余接空間は[[商線型空間|商空間]] {{math|''T''<sub>''x''</sub><sup>*</sup>''M'' {{=}} ''I<sub>x</sub>'' / ''I<sub>x</sub>''<sup>2</sup>}} として定義される。 この定式化は代数幾何学における[[ザリスキ接空間]]を定義する余接空間の構成に類似である。この構成はまた{{仮リンク|局所環付き空間|en|locally ringed space|preserve=1}}にも一般化される。 ==関数の微分== {{mvar|M}} を滑らかな多様体とし {{math|''f'' ∈ C<sup>∞</sup>(''M'')}} を[[滑らかな関数]]とする。点 {{mvar|x}} における {{mvar|f}} の微分は写像 :{{math|d''f''<sub>''x''</sub>(''X<sub>x</sub>'') {{=}} ''X<sub>x</sub>''(''f'')}} ただし {{mvar|X<sub>x</sub>}} は導分 {{lang|en|(derivation)}} と考えられる {{mvar|x}} における{{仮リンク|曲線の微分幾何学|label=接ベクトル|en|Differential geometry of curves}}である。つまり <math display="inline">X(f)=\mathcal{L}_{X}f</math> は方向 {{mvar|X}} の {{mvar|f}} の[[リー微分]]であり、{{math|d''f''(''X'') {{=}} ''X''(''f'')}} が成り立つ。同じことだが、接ベクトルを曲線の接線と考えることができ、 :<math> \mathrm{d}f_{x} \bigl( \gamma ' (0) \bigr) = (f \circ \gamma)' (0) </math> と書く。どちらの場合にも、{{math|d''f''<sub>''x''</sub>}} は {{mvar|T<sub>x</sub>M}} 上の線型写像でありしたがってそれは {{mvar|x}} における余接ベクトルである。 すると点 {{mvar|x}} における微分写像 {{lang|en|(differential map)}} {{math|d: C<sup>∞</sup>(''M'') → ''T''<sub>''x''</sub><sup>*</sup>''M''}} を {{mvar|f}} を {{math|d''f''<sub>''x''</sub>}} に送る写像として定義できる。微分写像の性質は次を含む: # {{math|d}} は線型写像である: 定数 {{math|''a'', ''b''}} に対して {{math|d(''af'' + ''bg'') {{=}} ''a'' d''f'' + ''b'' d''g''}} # {{math|d(''fg'')<sub>''x''</sub> {{=}} ''f''(''x'') d''g''<sub>''x''</sub> + ''g''(''x'') d''f''<sub>''x''</sub>}} 微分写像は上で与えられた余接空間の2つの {{lang|en|alternate}} 定義の間のつながりを提供する。関数 {{math|''f'' ∈ ''I<sub>x</sub>''}} ({{mvar|x}} において消える滑らかな関数)が与えられると上記のように線型汎関数 {{math|d''f''<sub>''x''</sub>}} を構成することができる。写像 {{math|d}} が {{math|''I<sub>x</sub>''<sup>2</sup>}} 上 {{math|0}} に制限する(読者はこれを確かめよ)から {{math|d}} は {{math|''I<sub>x</sub>'' / ''I<sub>x</sub>''<sup>2</sup>}} から接空間の双対 ({{math|''T<sub>x</sub>M'')<sup>*</sup>}} への写像を誘導する。この写像は同型写像であり2つの定義の同値性を確立することを示すことができる。 ==滑らかな関数の引き戻し== 多様体間のすべての微分可能な写像 {{math|''f'': ''M'' → ''N''}} が(''微分写像''あるいは''微分''と呼ばれる)線型写像 :<math>f_{*}\colon T_x M \to T_{f(x)} N</math> を誘導するのとちょうど同じように、すべてのそのような写像は余接空間の間の({{仮リンク|引き戻し (微分幾何学)|label=''引き戻し''|en|pullback (differential geometry)}}と呼ばれる)線型写像を誘導する。このとき向きは逆である: :<math>f^{*}\colon T_{f(x)}^{*} N \to T_{x}^{*} M</math> 引き戻しは[[微分写像]]の双対(あるいは転置)として自然に定義される。定義を紐解くと、これは次を意味する: :<math>(f^{*}\theta)(X_x) = \theta(f_{*}^{}X_x)</math> ただし {{math|''θ'' ∈ ''T''<sub>''f''(''x'')</sub><sup>*</sup>''N''}} および {{math|''X<sub>x</sub>'' ∈ ''T<sub>x</sub>M''}}である。それぞれがどこの元であるかを注意深く注意せよ。 点で消える滑らかな関数の同値類の言葉で余接ベクトルを定義すれば、引き戻しの定義はさらにもっと直接的である。{{mvar|g}} を {{math|''f''(''x'')}} で消える {{mvar|N}} 上の滑らかな関数とする。すると {{mvar|g}} によって決定される余ベクトルの引き戻し({{math|d''g''}} と表記される)は :<math>f^{*} \,\mathrm{d}g = \mathrm{d}(g \circ f)</math> で与えられる。つまり、それは {{math|''g'' ∘ ''f''}} で決定される {{mvar|x}} で消える {{mvar|M}} 上の関数の同値類である。 ==外冪== 余接空間の {{mvar|k}} 次[[外冪]]、<math display="inline">\bigwedge^{k}(T_{x}^{*}M)</math> は微分幾何学の別の重要な対象である。{{mvar|k}} 次外冪のベクトル、あるいはより正確には[[余接束]]の {{mvar|k}} 次外冪の断面は[[微分形式|微分 {{mvar|k}} 形式]]と呼ばれる。それらは {{mvar|k}} 個の接ベクトル上の交代[[多重線型写像]]と考えることができる。この理由のため、余接ベクトルはしばしば ''[[1 形式]]'' と呼ばれる。 == 参考文献 == {{参照方法|date=2016年3月}} * {{Citation | last1=Abraham | first1=Ralph H. | author1-link=Ralph Abraham | last2=Marsden | first2=Jerrold E. | author2-link=Jerrold E. Marsden | title=Foundations of mechanics | publisher=Benjamin-Cummings | location=London | isbn=978-0-8053-0102-1 | year=1978}} * {{Citation | last1=Jost | first1=Jürgen | title=Riemannian Geometry and Geometric Analysis | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | edition=4th | isbn=978-3-540-25907-7 | year=2005}} * {{Citation | last1=Lee | first1=John M. | title=Introduction to smooth manifolds | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Springer Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-0-387-95448-6 | year=2003 | volume=218}} * {{Citation | last1=Misner | first1=Charles W. | author1-link=Charles W. Misner | last2=Thorne | first2=Kip | author2-link=Kip Thorne | last3=Wheeler | first3=John Archibald | author3-link=John Archibald Wheeler | title=[[Gravitation (book)|Gravitation]] | publisher=W. H. Freeman | isbn=978-0-7167-0344-0 | year=1973}} {{DEFAULTSORT:よせつくうかん}} [[Category:微分幾何学]] [[Category:数学に関する記事]]
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