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[[数学]]の分野における'''作用素ノルム'''(さようそノルム、{{lang-en|''Operator norm''}})とは、[[線形作用素]]の大きさを測る際に用いられるある種の指標のことを言う。より正式には、与えられた二つの[[ノルム線形空間]]の間の[[有界線形作用素]]からなる空間上に定義される[[ノルム]]のことを言う。 == 導入と定義 == 与えられた二つのノルム線形空間 {{mvar|V}} および {{mvar|W}} ([[実数|実数体]] {{mathbf|ℝ}} あるいは[[複素数|複素数体]] {{mathbf|ℂ}} のいずれかを共通のものとする)に対して、線形作用素 {{math|''A'': ''V'' → ''W''}} が[[連続 (数学)|連続]]であるための[[必要十分条件]]は : <math>\|Av\| \le c \|v\| \quad (\forall v\in V)</math> を満たすような実数 {{mvar|c}} が存在することである(左辺のノルムは空間 {{mvar|W}} におけるもので、右辺のノルムは空間 {{mvar|V}} におけるもの)。直観的に言えば、連続作用素 {{mvar|A}} はどのようなベクトル {{math|''v'' ∈ V}} に対してもそれを {{mvar|c}} 倍よりも「引き延ばす」ようなことはしない。このことから、連続作用素による[[有界集合]]の像はふたたび有界集合となることが分かる。この性質より、連続線形作用素は[[有界作用素]]としても知られている。 上の不等式を満たすような実数 {{mvar|c}} のうち最小のものを、作用素 {{mvar|A}} の「大きさ」として定義することは自然であるように思われる。したがって作用素 {{mvar|A}} の作用素ノルムは : <math>\|A\|_\text{op} := \min\{c\ge 0 : \|Av\| \le c\, \|v\| \text{ for all } v\in V\}</math> により定義される(そのような {{mvar|c}} からなる集合は[[閉集合|閉]]かつ[[有界集合|下に有界]]であり、[[空集合|空]]でないため、上式の右辺は必ず存在する){{sfn|loc= e.g. Lemma 6.2 |Aliprantis|Border|2007|ps=, 簡単な演習問題として最小の存在性の証明を扱っている}}。 ==例== すべての実 {{math|''m'' × ''n''}} [[行列]]は、空間 {{math|'''ℝ'''{{sup|''n''}}}} から空間 {{math|'''ℝ'''{{sup|''m''}}}} への線形作用素である。記事「[[ノルム]]」に記載されているように、それらの空間上ではさまざまなノルムの定め方が存在する。それらの定め方に応じて、作用素ノルムは定義され、したがってすべての実 {{math|''m'' × ''n''}} 行列からなる空間上にノルムが入る。例については[[行列ノルム]]の項を参照。 特に {{math|'''ℝ'''{{sup|''n''}}}} および {{math|'''ℝ'''{{sup|''m''}}}} のノルムとしてともに[[ユークリッドノルム]]を採用した場合の作用素ノルムとして、行列 {{mvar|A*⋅A}}({{mvar|A*}} は行列 {{mvar|A}} の[[共役転置行列]]を表す)の最大[[固有値]]の[[平方根]]を割り当てる(あるいは同じことだが、行列 {{mvar|A}} の最大[[特異値]]を割り当てる)[[行列ノルム]]が得られる。 続いて、典型的な無限次元の例として、自乗総和可能[[数列空間]] :<math>\ell^2 = \{ (a_n)_{n \geq 1}: a_n \in \mathbb{C}, \sum |a_n|^2 < \infty\}</math> について考える。この空間は、ユークリッド空間 {{math|'''ℂ'''{{sup|''n''}}}} の無限次元版とみなすことができる。有界数列 {{math|''s'' {{=}} (''s''<sub>''n''</sub>)}} をとれば、{{mvar|s}} は {{mvar|''l''<sup>∞</sup>}} の元であり :<math>\| s \|_{\infty} := \sup _n |s_n| </math> で定められるノルムを持つ。作用素 {{mvar|T{{sub|s}}}} を成分ごとの掛け算 :<math>(a_n) \stackrel{T_s}{{}\mapsto{}} (s_n \cdot a_n) </math> で定めたとき、そのような作用素 {{mvar|T{{sub|s}}}} は、作用素ノルムが :<math>\| T_s\|_\text{op} = \| s \|_{\infty} </math> で与えられるような有界作用素である。この議論は空間 {{math|''l''{{sup|2}}}} をより一般の {{mvar|L{{sup|p}}}}-空間 ({{math|''p'' > 1}}) に、空間 {{mvar|l{{sup|∞}}}} を空間 {{mvar|L{{sup|∞}}}} にそれぞれ置き換えたものに直接的に拡張できる。 == 同値な定義 == 作用素ノルムの定義として、次のようないくつかの同値な定義が存在する: :<math> \begin{align} \|A\|_\text{op} &= \inf\{c : \|Av\| \le c\,\|v\|,\,\forall v\in V\} \\ &= \sup_{\|v\| \le 1}\|Av\| \\ &= \sup_{\|v\| = 1}\|Av\| \\ &= \sup_{v\ne 0}\frac{\|Av\|}{\|v\|}. \end{align} </math> == 性質 == 作用素ノルムは実際に、{{mvar|V}} から {{mvar|W}} への有界作用素全体の成す空間上のノルムとなる。すなわち、{{mvar|A, B}} は有界、{{mvar|α}} は任意のスカラーとして :<math>\|A\|_\text{op} \ge 0,\quad [\|A\|_\text{op} = 0 \iff A = 0],</math> :<math>\|aA\|_\text{op} = |a| \|A\|_\text{op},</math> :<math>\|A + B\|_\text{op} \le \|A\|_\text{op} + \|B\|_\text{op} </math> が成立する。 作用素ノルムの定義より、次の不等式がただちに得られる: :<math>\|Av\| \le \|A\|_\text{op} \|v\| \quad (\forall v\in V).</math> 作用素の合成あるいは積について、{{mvar|V, W, X}} を、同じ係数体上の三つのノルム線形空間とし、{{math|''A'': ''V'' → ''W'', ''B'': ''W'' → ''X''}} を二つの有界作用素としたとき :<math>\|BA\|_\text{op} \le \|B\|_\text{op} \|A\|_\text{op} </math> が成り立つ。これにより、空間 {{mvar|V}} 上の有界作用素に対して、作用素の積を取る演算が二変数の連続写像 (jointly continuous) であることが導かれる。 定義より、作用素の列が作用素ノルムに関して収束することは、それらが有界集合上で一様収束することを意味する。 == ヒルベルト空間上の作用素 == 空間 {{mvar|H}} を実あるいは複素[[ヒルベルト空間]]であるとする。もし作用素 {{math|''A'': ''H'' → ''H''}} が有界線形作用素であるなら :<math>\|A\|_\text{op} = \|A^*\|_\text{op}</math> および :<math>\|A^*A\|_\text{op} = \|A\|_{\text{op}}^2</math> が成立する。ここで {{mvar|A*}} は作用素 {{mvar|A}} の[[共役作用素]]を表す(それは標準内積を持つユークリッドヒルベルト空間における、行列 {{mvar|A}} の共役転置行列に対応する)。 一般に、作用素 {{mvar|A}} の[[スペクトル半径]] {{math|''ρ''(''A'')}} は、作用素ノルム {{math|{{norm|''A''}}{{sub|op}}}} により上から抑えられる。すなわち :<math>\rho(A) \le \|A\|_\text{op}</math> が成り立つ。ここで常に等号が成立するわけではないことを見るには、有限次元の場合で行列の[[ジョルダン標準形]]について考えればよい。優対角線(主対角線の一つ上)に非零な成分を持つものが存在するから、等号は成立しない可能性がある。また、等号が成立しない例からなるクラスとして[[準冪零作用素]]が挙げられる。ゼロでない準冪零作用素 {{mvar|A}} のスペクトルは {{math|{{mset|0}}}} であるため、スペクトル半径は {{math|1=''ρ''(''A'') = 0}} となるが、このとき作用素ノルムに対しては {{math|{{norm|''A''}}{{sub|op}} > 0}} が成立する。 しかし、行列 {{mvar|A}} が[[正規行列|正規]]のとき、そのジョルダン標準形は(ユニタリ同値の[[違いを除いて]])対角行列である([[スペクトル定理]])。このとき :<math>\rho(A) = \|A\|_\text{op}</math> が成立することを見るのは容易。 そのようなスペクトル定理は、より一般の[[正規作用素]]の場合へと拡張され、上の等式は任意の有界正規作用素{{mvar|A}} に対しても同様に成立する。以上の議論および関係式は、有界作用素 {{mvar|A}} が与えられたときにその作用素ノルムを計算する際に、しばしば利用される。すなわち、[[エルミート作用素]] {{math|''H'' {{coloneqq}} ''A*⋅A''}} を定義し、そのスペクトル半径を計算し、その[[行列の平方根|平方根]]を計算することで、そのような作用素ノルムを得る、という方法が利用可能となる場合がある。 空間 {{mvar|H}} 上の有界作用素全体の成す空間に作用素ノルムの誘導する位相を入れたものは、[[可分空間|可分]]でない。例えば、ヒルベルト空間 {{math|''L''{{sup|2}}{{closed-closed|0, 1}}}} を考え、{{math|0 < ''t'' ≤ 1}} に対して {{math|Ω{{sub|''t''}}}} を閉区間 {{closed-closed|0, ''t''}} の[[指示函数|特性関数]]とし、{{mvar|P{{sub|t}}}} を {{math|Ω{{sub|''t''}}}} により与えられる[[乗算作用素]]、すなわち :<math>P_t (f) := f \cdot \Omega_t </math> とする。このとき、各 {{mvar|P{{sub|t}}}}は有界で、その作用素ノルムは {{math|1}} であり :<math>\| P_t - P_s \|_\text{op} = 1 \quad(t \neq s)</math> が成立する。しかし集合 {{math|{{mset|''P{{sub|t}}''}}}} は非可算であるため、空間 {{math|''L''{{sup|2}}{{closed-closed|0, 1}}}} 上の有界作用素からなる空間は作用素ノルムに対して可分でないことが分かる。この結果は同様に数列空間 {{mvar|l{{sup|∞}}}} が可分でないという事実にも対応される。 ヒルベルト空間上の有界作用素全体の成す集合は、作用素ノルムおよび共役演算を伴い、[[C*-代数]]をなす。 == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 == *{{citation|title=Infinite Dimensional Analysis: A Hitchhiker's Guide|first1=Charalambos D.|last1=Aliprantis|first2=Kim C.|last2=Border|publisher=Springer|year=2007|isbn=9783540326960|page=229|url=https://books.google.co.jp/books?id=4hIq6ExH7NoC&pg=PA229&redir_esc=y&hl=ja}}. * {{Citation | last = Conway | first = John B. | year = 1990 | contribution = III.2 Linear Operators on Normed Spaces | title = A Course in Functional Analysis | pages = 67–69 | isbn = 0-387-97245-5 | publisher = Springer-Verlag | location = New York | url = https://books.google.co.jp/books?id=ix4P1e6AkeIC&pg=PA67&redir_esc=y&hl=ja }} == 関連項目 == *[[ノルム]] - [[行列ノルム]] *[[作用素環論]] {{Mathanalysis-stub}} {{デフォルトソート:さようそのるむ}} [[Category:関数解析学]] [[Category:作用素環論]] [[Category:ノルム]] [[Category:数学に関する記事]]
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