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作用素 (関数解析学)
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{{出典の明記|date=2015年10月}} [[数学]]における'''作用素'''(さようそ、{{lang-en-short|operator}})は、しばしば[[写像]]、[[函数]]、[[変換 (数学)|変換]]などの一般化として用いられる<ref>{{harv|ケリー|1968|p=10}}, {{harv|Halmos|1970|p=30}}</ref>。[[函数解析学]]においては主に[[ヒルベルト空間]]や[[バナッハ空間]]上の(必ずしも[[写像]]でない[[部分写像]]の意味での)[[線型変換]]を単に作用素と呼ぶ。そのような空間として特に[[函数空間]]と呼ばれる函数の成す無限次元[[線型空間]]は典型的であり(同じものを[[物理学]]の分野、特に[[量子力学]]などでは'''[[演算子 (物理学)|演算子]]'''(えんざんし)と呼ぶ)、このとき、作用素を[[関数 (数学)|関数]]を別の関数にうつす[[写像]]として理解することができる。定義されているベクトル空間の係数体に値をとる作用素は[[汎函数]](はんかんすう、functional)と呼ばれる。 また、[[群 (数学)|群]]や[[環 (数学)|環]]が空間に作用しているとき、群や環の各元が定める空間上の変換、あるいはその変換が引き起こす関数空間上の変換のことを'''作用素'''ということがある。 == 定義 == {{mvar|U}}, {{mvar|V}} を共通の係数体 {{mvar|K}} をもつ[[線型空間]]とする。このとき {{mvar|U}} から {{mvar|V}} への[[部分写像]]、すなわち部分集合 {{math|''D'' ⊆ ''U''}} 上で定義された {{mvar|V}} への[[写像]] {{mvar|T}} を {{mvar|D}} 上の'''作用素'''という{{sfn|Hazewinkel|2001}}。単に {{mvar|U}} から {{mvar|V}} への作用素とも呼ぶ。部分集合 {{mvar|D}} は'''定義域'''、部分集合 <math>R = \{\, Tx \mid x \in D \,\}</math> は'''値域'''と呼ばれ、それぞれ {{math|''D''(''T'') {{=}} ''D''}}, {{math|''R''(''T'') {{=}} ''R''}} と表す。 作用素 {{mvar|T}} が定義域 {{math|''D''(''T'')}} 上で[[単射]]ならば[[逆写像]] {{math|''T''<sup>−1</sup>}} は {{math|''R''(''T'')}} 上の作用素であり、'''逆作用素'''と呼ばれる。 {{mvar|U}} から {{mvar|V}} への作用素 {{mvar|S}}, {{mvar|T}} は定義域が等しく、定義域上で写像として等しいときに等しいといい、{{math|''S'' {{=}} ''T''}} と表す。 {{mvar|U}} から {{mvar|V}} への作用素 {{mvar|S}}, {{mvar|T}} の {{math|''α'' ∈ ''K''}} によるスカラー倍、和、積は以下のように定義される。 * <math> (\alpha T)x := \alpha (Tx) \qquad x \in D(\alpha T) := D(T) </math> * <math> (S + T)x := Sx + Tx \qquad x \in D(S + T) := D(S) \cap D(T) </math> * <math> (ST)x := S(Tx) \qquad x \in D(ST) := \{\, y \in D(T) \mid Ty \in D(S) \,\} </math> == 作用素のクラス == === 汎函数 === {{Main|汎函数}} 汎函数はベクトル空間からその係数[[可換体|体]]への作用素である。汎函数は[[超函数]]論や[[変分法]]に重要な応用を持ち、これらの分野は理論物理学において重要である。 === 線型作用素 === もっともありふれた作用素の種類は線型作用素である。体 {{mvar|K}} 上の線型空間 {{math|''U'', ''V''}} に対し、作用素 {{math|''T'': ''U'' → ''V''}} が'''線型'''であるとは、定義域 {{math|''D''(''T'')}} が {{mvar|U}} の線型[[部分空間]]であり、任意の {{math|''x'', ''y'' ∈ ''D''(''T'')}} および任意の {{math|''α'', ''β'' ∈ ''K''}} に対して : <math>T(\alpha x + \beta y) = \alpha T x + \beta T y</math> が満たされることを言う{{sfn|Yosida|1980|p=21}}。 線型作用素の重要性として、それがベクトル空間の間の[[射 (圏論)|射]]となることを挙げよう。 有限次元の場合には線型作用素は以下のように[[行列]]として表現することができる。体 {{mvar|K}} 上のベクトル空間 {{mvar|U}} および {{mvar|V}} について、それぞれの基底 {{math|''u''{{sub|1}}, …, ''u''{{sub|''n''}} ∈ ''U''}} および {{math|''v''{{sub|1}}, …, ''v''{{sub|''m''}} ∈ ''V''}} を選んで固定する。([[アインシュタインの和の規約]]によって)任意のベクトル {{math|''x'' {{=}} ''x''{{sup|''i''}}''u''{{sub|''i''}} ∈ ''U''}} を取るとき、線型作用素 {{math|''T'': ''U'' → ''V''}} に対して : <math>Tx = x^i Tu_i = x^i (Tu_i)^j v_j </math> が成り立ち、このとき {{math|''a''{{su|b=''i''|p=''j''}} :{{=}} (''Tu''{{sub|''i''}}){{sup|''j''}} ∈ ''K''}} によって作用素 {{mvar|T}} の固定した基底に関する行列が得られる。ここで {{math|(''a''{{su|b=''i''|p=''j''}})}} は {{mvar|x}} の取り方に依らない。また {{math|''Tx'' {{=}} ''y'' ⇔ ''a''{{su|b=''i''|p=''j''}}''x''{{sup|''i''}} {{=}} ''y''{{sup|''j''}}}} である。故に、固定した基底に関する {{math|''n'' × ''m''}}-行列と線型作用素 {{math|''U'' → ''V''}} の間に一対一対応が成立する。 有限次元ベクトル空間の間の作用素に直接関係のある重要概念として、[[行列の階数|階数]]、[[行列式]]、[[逆作用素]]、[[固有空間]]などがある。 無限次元の場合においても線型作用素は重要である。階数や行列式の概念を無限次元行列に対してまで拡張することはできず、それは無限次元の場合において線型作用素(あるいは一般の作用素)に対して有限次元の場合とは非常に異なる手法が展開されることの理由でもある。無限次元の場合の線型作用素の研究は[[函数解析学]]と呼ばれる(このように呼ばれるのは、さまざまな[[函数空間|函数のクラス]]が無限次元ベクトル空間の興味深い例をあたえるからである)。 実[[数列]]の全体や、任意のベクトル空間内のベクトル列の全体の成す空間はそれ自身が無限次元のベクトル空間になる。最も重要なのが実数列あるいは[[複素数]]列の場合で、それら全体の成す空間及びその部分空間は[[数列空間]]と呼ばれる。またこれらの空間上の作用素は{{仮リンク|列変換|en|sequence transformation}}という。 === 有界作用素と作用素ノルム === {{Main|有界作用素|バナッハ代数}} ベクトル空間 {{math|''U'', ''V''}} はともに同じ[[順序体]](例えば[[実数]]体 {{math|'''R'''}})上のベクトル空間で、[[ノルム]]を備えるものとする。線型作用素 {{math|''T'': ''U'' → ''V''}} が[[有界作用素|'''有界''']]とは、適当な定数 {{math|''C'' > 0}} が存在して、任意の {{math|''x'' ∈ ''D''(''T'')}} に対して : <math>\|Tx\|_V \leq C\|x\|_U</math> が成立することをいう。これは線型作用素が[[連続]]であることと同値である{{sfn|Yosida|1980|p=43}}。 全空間で定義されている有界線型作用素の全体はベクトル空間を成し、その上に[[作用素ノルム]]と呼ばれる {{math|''U'', ''V''}} のノルムと両立するノルム : <math>\|T\| = \inf \{\, C > 0 : \|Tx\|_V \leq C\|x\|_U\}</math> を入れることができる。{{math|''U'' {{=}} ''V''}} の場合には : <math>\|ST\| \leq \|S\|\cdot\|T\|</math> が成り立つことが示せる。この性質を持つ任意の単位的[[ノルム代数]] は[[バナッハ代数]]と呼ばれる。このような代数の上にも[[スペクトル論]]は一般化することが可能である。バナッハ代数にさらに追加の構造を入れた[[C*-環|{{math|''C''{{sup|∗}}}}-環]]は[[量子力学]]において重要な役割を果たす。 [[バナッハ空間]]空間上の有界線型作用素の全体は標準作用素ノルムに関して[[バナッハ代数]]を成す。バナッハ代数の理論は、固有空間論をエレガントに一般化する非常に一般な[[スペクトル (函数解析学)|スペクトル]]の概念を発達させた。 == 例 == === 幾何学 === {{Main|一般線型群|{{仮リンク|等距変換群|en|isometry group}}}} [[幾何学]]において、[[ベクトル空間]]に更なる構造を入れたものがしばしば調べられる。そのような空間からそれ自身への[[全単射]]な写像となる作用素は、[[写像の合成|合成]]に関して自然に[[群 (数学)|群]]を成し、その空間を調べるのに非常に有効である。 例えば、ベクトル空間の構造を保つ全単射な作用素は[[可逆]][[線型作用素]]であり、その全体は合成に関して[[一般線型群]]となる。この群は作用素の(点ごとの)和に関してベクトル空間とは{{em|ならない}}(例えば {{math|id}} および {{math|−id}} はともに可逆な作用素だがそれらの和 {{math|0}} はそうではない)。 また例えば、ユークリッド距離を保つ作用素の全体は{{仮リンク|等距変換群|en|isometry group}}を成し、その原点を保つ作用素全体の成す部分群は[[直交群]]として知られる。直交群に属する作用素でベクトルの組の向きを保つものは[[特殊直交群]](または回転群)と呼ばれる群を成す。 === 確率論 === {{Main|確率論}} 確率論で用いられる[[期待値]]、[[分散 (確率論)|分散]]、[[共分散]]、{{仮リンク|階乗モーメント|en|Factorial moment}}などを取る操作は作用素の例になっている。 === 初等解析学 === {{Main|微分作用素|積分作用素}} [[函数解析学]]の観点から見れば、[[微分積分学]]は二つの作用素:[[導函数|微分]] {{mvar|{{fraction|d|dt}}}} と[[ヴォルテラ作用素|積分]] {{mvar|∫{{su|b=0|p=''t''}}}} の研究である。 [[フーリエ変換]]は応用数学、特に物理学や符号理論において有用な積分作用素である。その有用性は、これを(時間領域上の)函数を別の(周波数領域上の)函数へ変換するものとみるとき[[可逆元|可逆変換]]となることが大きい(逆変換があることによって重要な情報が落ちてしまうことがない)。単純な[[周期函数]]の場合には、この結果は任意の周期函数が[[正弦波]]と余弦波の級数として :<math>f(t) = {a_0 \over 2} + \sum_{n=1}^{\infty}{ a_n \cos ( \omega n t ) + b_n \sin ( \omega n t ) } </math> と表すことができるという定理に基づく。このときの係数列 {{math|(''a''<sub>0</sub>, ''a''<sub>1</sub>, ''b''<sub>1</sub>, ''a''<sub>2</sub>, ''b''<sub>2</sub>, …)}} は実は[[自乗総和可能数列]]の成す無限次元ベクトル[[数列空間|空間 {{math|ℓ<sup>2</sup>}}]] のベクトルであり、フーリエ級数を線型作用素と見做すことができる。一般の函数 {{math|'''R''' → '''C'''}} の場合には、変換は[[積分]] : <math>f(t) = {1 \over \sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{+\infty}{g(\omega )e^{i\omega t} \,d\omega }</math> の形を取る。同様の積分作用素として、微分方程式の解法に良く用いられる[[ラプラス変換]]は {{math|''f'' {{=}} ''f''(''s'')}} に対して :<math>F(s) = (\mathcal{L}f)(s) =\int_0^\infty e^{-st} f(t)\,dt</math> を割り当てる。 === ベクトル解析 === {{Main|ベクトル解析}} ベクトル解析においてしばしば用いられる三つの作用素を挙げておこう: * [[勾配 (ベクトル解析)|勾配]] {{math|grad}}(あるいは記号的に [[ナブラ|{{math|'''∇'''}}]])はスカラー場の各点に対して、その点における変化率が最大の方向を向きとしその最大変化率の絶対値を大きさとするベクトルを割り当てる。 * [[発散 (ベクトル解析)|発散]] {{math|div}}(あるいは記号的に {{math|'''∇·'''}})はベクトル場の各点における場の発散または収斂の度合いを測るベクトル作用素である。 * [[回転 (ベクトル解析)|回転]] {{math|curl, rot}}(あるいは記号的に {{math|'''∇'''×}})はベクトル場の各点においてその点の周りでの場の回転の度合いを測るベクトル作用素である。 物理学や工学への応用においては、ベクトル解析のテンソル空間への拡張として作用素 {{math|grad, div, curl}} は[[テンソル解析]]においてもベクトル解析同様に用いられる<ref name="Vector and Tensor Operators">{{cite book |isbn= 0-393-92516-1 |url= http://www.amazon.com/Div-Grad-Curl-All-That/dp/0393925161/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1388768941&sr=1-1&keywords=div+grad+curl |title=Div Grad Cural and All that |author=h.m. schey |location=New York|publisher=W W Norton|year=2005}}</ref>。 == 注 == {{reflist|2}} == 参考文献 == * {{cite book |last1 = Yosida |first1 = Kôsaku |year = 1980 |title = Functional analysis |edition = Sixth |series = Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften |volume = 123 |url = {{google books|QqNpbTQwKXMC|Functional analysis|plainurl=yes|page=21}} |publisher = Springer-Verlag |isbn = 3-540-10210-8 |mr = 0617913 |zbl = 0830.46001 |ref = harv }} == 関連項目 == * [[算法]] * [[写像]] * [[双対空間]] * [[作用素環]] * [[微分環]] * [[ワイル代数]] == 外部リンク == * {{SpringerEOM|title=Operator|id=Operator&oldid=29264}} * {{MathWorld|urlname=Operator|title=Operator}} {{DEFAULTSORT:さようそ}} [[Category:作用素論]] [[Category:数学に関する記事]]
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