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{{for|圏論における像|像 (圏論)}} [[file:Codomain2.SVG|right|thumb|250px|'''f''' は始域 '''X''' から終域 '''Y''' への写像。'''Y''' の内側にある小さな楕円形が '''f''' の像である。]] [[数学]]において、何らかの写像の'''像'''(ぞう、{{lang-en-short|''image''}})は、写像の[[始域]](域、[[定義域]])の部分集合上での写像の出力となるもの全てからなる、写像の[[終域]](余域)の部分集合である。すなわち、始域の部分集合 ''X'' の各元において写像の値を評価することによって得られる集合を ''f'' による(または ''f'' に関する、''f'' のもとでの、''f'' を通じた)''X'' の像という。また、写像の終域の何らかの部分集合 ''S'' の'''逆像'''(ぎゃくぞう、{{lang-en-short|''inverse image''}})あるいは'''原像'''(げんぞう、{{lang-en-short|''preimage''}})は、''S'' の元に写ってくるような始域の元全体からなる集合である。 像および逆像は、写像のみならず一般の[[二項関係]]に対しても定義することができる。 == 定義 == 「像」という語は、その対象とするものによって互いに関連のある三種類の意味で用いられる。[[集合]] ''X'' から集合 ''Y'' への[[写像]] ''f'': ''X'' → ''Y'' に対して、以下のように定義する。 ; 元の像 : ''x'' が ''X'' の元ならば、''f''(''x'') = ''y'' を元 ''x'' の写像 ''f'' による'''像'''という。 : これは ''x'' に写像 ''f'' を施した'''[[値 (数学)|値]]'''や、引数 ''x'' に対する ''f'' の'''出力'''などとも呼ばれる。 ; 部分集合の像 : 部分集合 ''A'' ⊆ ''X'' の ''f'' による像 ''f''[''A''] ⊆ ''Y'' は、(集合の内包的記法で) : <math>f[A] := \{f(x) \in Y \mid x \in A\} = \{y \in Y \mid \exists x \in A : y=f(x)\}</math> : と定義される。後者の方が厳密な表現である。 : 紛れる恐れが無い場合、''f''[''A''] は簡単に ''f''(''A'') とも書かれる。これは一般によく用いられる記法だが、その意味は文脈から推察する必要がある。しかしこの記法は写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' の始域 ''X'' を ''X'' の[[冪集合]]に取り替え、終域 ''Y'' を ''Y'' の冪集合へ取り替えて得られる部分集合間の写像(''f'' が誘導する写像)とみる見方を与えるものになっている。 ; 写像の像 : 写像 ''f'' の始域 ''X'' 全体に関する部分集合としての像 ''f''[''X''] を単に写像 ''f'' の像と呼び、im ''f'' などで表す。 == 逆像 == ''f'' が ''X'' から ''Y'' への写像とするとき、部分集合 ''B'' ⊆ ''Y'' の ''f'' による'''原像'''あるいは'''逆像'''とは :<math>f^{-1}[ B ] := \{x \in X \mid f(x) \in B\}</math> で定義される ''X'' の部分集合である。''f'' による'''引戻し''' {{lang|en|(''pull-back'')}} とも呼ばれる。 この集合は ''f'' が[[全単射]]でなくとも定義されるが、全単射のときには <math>f^{-1}[B]</math> は <math>f^{-1}</math> による ''B'' の像を表す記号とも解釈できるため、文脈によってどちらの意味なのか判断せねばならない。 [[一元集合]]の逆像 ''f''<sup>−1</sup>[{''y''}] あるいは ''f''<sup>−1</sup>[''y''] は ''y'' 上の[[ファイバー (数学)|ファイバー]]あるいは ''y'' の[[レベル集合]]などとも呼ばれる。''y'' の各元の上のファイバー全体からなる集合は ''Y'' で添字付けられた[[族 (数学)|集合族]]になっている。同様にして[[ファイバー付けられた圏]]の概念を考えることもできる。 やはり、''f''<sup>−1</sup>[''B''] を ''f''<sup>−1</sup>(''B'') と書くことに紛れの恐れはなく、''f''<sup>−1</sup> を ''Y'' の冪集合から ''X'' の冪集合への写像として考えることができる。ただし、記号 ''f''<sup>−1</sup> を[[逆写像]]と混同すべきではない(両者が一致するのは ''f'' が全単射のときに限る)。 == 像および逆像の記号について == 既に用いた部分集合の像や逆像に関する慣習的な記法はしばしば混乱を生ずる可能性を持つ。これを明示的に代替する表記として、冪集合間の写像としての像や原像に対しては、以下のような表記が提案されている<ref>Blyth 2005, p. 5</ref>。 ; 矢印記法 :<math>f^\to\colon \mathfrak{P}(X)\to\mathfrak{P}(Y);\; A\mapsto f^\to(A) = \{ f(a)\mid a \in A\}.</math> :<math>f^\gets\colon \mathfrak{P}(Y)\to\mathfrak{P}(X);\; B\mapsto f^\gets(B) = \{ a \in X \mid f(a) \in B\}.</math> ; スター記法 :<math>f_\star\colon \mathfrak{P}(X)\to\mathfrak{P}(Y)\quad (=f^\to).</math> :<math>f^\star\colon \mathfrak{P}(Y)\to\mathfrak{P}(X)\quad (=f^\gets).</math> ; その他の用語法 : [[数理論理学]]や[[集合論]] で用いられる ''f''[''A''] の別記法として ''f'' "''A'' がある<ref>{{Citation| title=Set Theory for the Mathematician | author=Jean E. Rubin |page=xix | year=1967 |publisher=Holden-Day |asin=B0006BQH7S}}</ref>。 : 写像 ''f'' の像のことを ''f'' の値域 {{lang|en|(range)}} と呼ぶ文献もある。''f'' の終域 {{lang|en|(codomain)}} との区別はつけておくべきである。 == 例 == [[File:Jung200.png|right|thumb|[[単位円]]の[[external ray|Ψ<sub>''M''</sub>]]による像としての[[マンデルブロ集合]]の境界。]] [[File:Circle2cardioid.png|right|thumb|単位円の像としての[[カージオイド|心臓形(カージオイド)]]。]] [[File:Circle2heart.png|right|thumb|単位円の像としてのハート型曲線。]] # 写像 ''f'': {1, 2, 3} → {''a'', ''b'', ''c'', ''d''} を <math>f(1)=f(2)=a,\ f(3)=c</math> で定義されるものとする。<div style="margin:8px 0px;">部分集合 {2, 3} の ''f'' による像は ''f''({2, 3}) = {''a'', ''c''} となる。また、元 ''a'' の逆像は ''f''<sup>−1</sup>({''a''}) = {1, 2} であり、{''a'', ''b''} の逆像も同じく {1, 2} となる。{''b'', ''d''} の逆像は[[空集合]] {} になる。</div> # 写像 ''f'': '''R''' → '''R''' を ''f''(''x'') = ''x''<sup>2</sup> で定義されるものとする。<div style="margin:8px 0px;">部分集合 {-2, 3} の ''f'' による像は ''f''({-2, 3}) = {4, 9} であり、写像 ''f'' の像は非負実数全体 '''R'''<sub>+</sub> である。一方 {4, 9} の ''f'' による逆像は ''f''<sup>−1</sup>({4, 9}) = {-3, -2, 2, 3} であり、また負の実数の平方根は実数の範囲には存在しないから、''N'' = {''n'' ∈ '''R''' | ''n'' < 0} の ''f'' による逆像は空集合である。</div> # 写像 ''f'': '''R'''<sup>2</sup> → '''R''' を ''f''(''x'', ''y'') = ''x''<sup>2</sup> + ''y''<sup>2</sup> で定義されるものとする。<div style="margin:8px 0px;">ファイバー ''f''<sup>−1</sup>({''a''}) は(''a'' > 0, ''a'' = 0, ''a'' < 0 に従ってそれぞれ)[[原点 (数学)|原点]]を中心とする[[同心円]]、原点、[[空集合]]になる。</div> # ''M'' が[[可微分多様体]]で π: ''TM'' → ''M'' が[[接束]] ''TM'' から ''M'' への標準射影ならば、点 ''x'' ∈ ''M'' 上の π に関するファイバーは ''x'' における[[接空間]] ''T''<sub>''x''</sub>(''M'') である。これは[[ファイバー束]]の例にもなっている。 == 基本的な結果 == 写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' と ''X'' の任意の部分集合 ''A'', ''A''<sub>1</sub>, ''A''<sub>2</sub> および ''Y'' の任意の部分集合 ''B'', ''B''<sub>1</sub>, ''B''<sub>2</sub> に関して *''f''(''A''<sub>1</sub> ∪ ''A''<sub>2</sub>) = ''f''(''A''<sub>1</sub>) ∪ ''f''(''A''<sub>2</sub>)<ref name="kelley-1985">Kelley (1985), {{Google books quote|id=-goleb9Ov3oC|page=85|text=The image of the union of a family of subsets of X is the union of the images, but, in general, the image of the intersection is not the intersection of the images|p. 85}}</ref> *''f''(''A''<sub>1</sub> ∩ ''A''<sub>2</sub>) ⊆ ''f''(''A''<sub>1</sub>) ∩ ''f''(''A''<sub>2</sub>)<ref name="kelley-1985"/> *''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>1</sub> ∪ ''B''<sub>2</sub>) = ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>1</sub>) ∪ ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>2</sub>) *''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>1</sub> ∩ ''B''<sub>2</sub>) = ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>1</sub>) ∩ ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>2</sub>) *''f''(A) ⊆ ''B'' ⇔ ''A'' ⊆ ''f''<sup> −1</sup>(''B'') *''f''(''f''<sup> −1</sup>(''B'')) ⊆ ''B''<ref>Equality holds if ''B'' is a subset of Im(''f'') or, in particular, if ''f'' is surjective. See Munkres, J.. Topology (2000), p. 19.</ref> *''f''<sup> −1</sup>(''f''(''A'')) ⊇ ''A''<ref>Equality holds if ''f'' is injective. See Munkres, J.. Topology (2000), p. 19.</ref> *''A''<sub>1</sub> ⊆ ''A''<sub>2</sub> ⇒ ''f''(''A''<sub>1</sub>) ⊆ ''f''(''A''<sub>2</sub>) *''B''<sub>1</sub> ⊆ ''B''<sub>2</sub> ⇒ ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>1</sub>) ⊆ ''f''<sup> −1</sup>(''B''<sub>2</sub>) *''f''<sup> −1</sup>(''B''<sup>C</sup>) = (''f''<sup> −1</sup>(''B''))<sup>C</sup> *(''f'' |<sub>''A''</sub>)<sup>−1</sup>(''B'') = ''A'' ∩ ''f''<sup> −1</sup>(''B''). などが成立する。像や逆像に関するこの結果は、任意の部分集合族に対して[[共通部分 (数学)|交わり]]と[[合併 (集合論)|結び]]に関する[[ブール代数]]をうまく考えることができることを意味しており、部分集合の対だけでなくもっと一般に *<math>f\!\left(\bigcup_{s\in S}A_s\right) = \bigcup_{s\in S} f(A_s)</math> *<math>f\!\left(\bigcap_{s\in S}A_s\right) \subseteq \bigcap_{s\in S} f(A_s)</math> *<math>f^{-1}\!\left(\bigcup_{s\in S}A_s\right) = \bigcup_{s\in S} f^{-1}(A_s)</math> *<math>f^{-1}\!\left(\bigcap_{s\in S}A_s\right) = \bigcap_{s\in S} f^{-1}(A_s)</math> なども成立する。ここで ''S'' は無限集合でも(もちろん[[非可算集合|非可算無限]]でも)よい。 これらのことから、部分集合のブール代数に関して、逆像は[[束準同型]]となるが像のほうは[[半束準同型]]にしかならない(像は交わりを保つとは限らない)ことがわかる。 == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 == *{{Citation |authorlink=:en:Michael Artin | last= Artin | first= Michael | title= Algebra | edition=| year=1991 | publisher=Prentice Hall| isbn= 81-203-0871-9}} * T.S. Blyth, ''Lattices and Ordered Algebraic Structures'', Springer, 2005, ISBN 1-85233-905-5. * {{Citation |last1=Munkres |first1=James R. |authorlink1= |last2= |first2= |authorlink2= |title=Topology |url= |edition=2 |series= |volume= |year=2000 |publisher=Prentice Hall |location= |isbn=9780131816299 |id= }} * {{Citation |last1=Kelley |first1=John L. |authorlink1= |last2= |first2= |authorlink2= |title=General Topology |url= |edition=2 |series=Graduate texts in mathematics |volume=27 |year=1985 |publisher=Birkhäuser |location= |isbn=9780387901251 |id= }} {{PlanetMath attribution|id=33276|title=Fibre}} == 関連項目 == * [[値域]] * [[始域]] * [[全単射]]・[[単射]]・[[全射]] * [[核 (代数学)]] * [[像 (圏論)]] {{DEFAULTSORT:そう}} [[Category:集合の基本概念]] [[Category:数学に関する記事]]
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