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優収束定理
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[[数学]]の[[測度論]]の分野における'''[[アンリ・ルベーグ|ルベーグ]]の優収束定理'''(ゆうしゅうそくていり、{{Lang-en-short|dominated convergence theorem}})あるいは単に'''ルベーグの収束定理'''とは、ある[[列 (数学)|関数列]]に対して、その[[ルベーグ積分]]と、[[ほとんど (数学)|ほとんど至る所での]][[収束]]という二つの[[極限|極限操作]]が可換となるための十分条件について述べた定理である。また後述するこの定理のある特別な場合はしばしば'''(ルベーグの)有界収束定理'''と呼ばれる。 [[リーマン積分]]に対しては、優収束定理は成立しない。なぜならば、リーマン可積分関数の列の極限は多くの場合、リーマン可積分とはならないからである。優収束定理の持つ威力と有用性は、リーマン積分よりもルベーグ積分が理論的に優れているということを示すものである。ただもちろん有界収束定理の方はリーマン積分においても類似が成り立ち、これはしばしばアルツェラの有界収束定理と呼ばれる。 この定理は、[[確率変数]]の[[期待値]]の収束のための十分条件を与えるため、[[確率論]]の分野において広く利用されている。 ==定理の内容== {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} を[[測度空間]] {{math|(''S'', Σ, ''μ'')}} 上の実数値[[可測関数]]の列とする。この列はある関数 {{mvar|f}} に[[各点収束]]し、次に述べる意味である可積分関数 {{mvar|g}} によって支配されるものとする:{{math|{{!}}''f{{sub|n}}''(''x''){{!}} ≤ ''g''(''x'')}} が、すべての添え字 {{mvar|n}} および {{mvar|S}} 内のすべての点 {{mvar|x}} に対して成り立つ。このとき {{mvar|f{{sub|n}}, f}} は可積分であり、 : <math> \lim_{n\to\infty} \int_S |f_n-f|\,d\mu = 0 </math> が成り立つ。これはまた : <math>\lim_{n\to\infty} \int_S f_n\,d\mu = \int_S \lim_{n\to\infty} f_n \,d\mu = \int_S f\,d\mu</math> であることも意味する。 '''注意:''' # 「{{mvar|g}} が可積分である」というステートメントはルベーグ積分の意味においてである。すなわち、<div style="margin-top:1ex; margin-left:2em; margin-bottom:1ex;"><math>\int_S|g|\,d\mu < \infty </math></div>となることである。 # 関数列の収束と {{mvar|g}} による支配という条件は、次の仮定の下で、({{mvar|μ}} に関して)[[ほとんど至る所]]成立すれば良いという様に緩められる:測度空間 {{math|(''S'', Σ, ''μ'')}} は[[測度の完備性|完備]]であるか、あるいは、{{mvar|f}} はほとんど至る所で存在する各点極限とほとんど至る所一致する可測関数である。(これらの条件が必要である理由は、そうでないと零集合 {{math|''N'' ∈ Σ}} の{{仮リンク|非可測集合|label=非可測部分集合|en|non-measurable set}}が存在して {{mvar|f}} が非可測となりうるからである)。 # {{math|''μ''(''S'') < ∞}} のとき、支配的な可積分関数 {{mvar|g}} が存在するという条件は、関数列 {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} が[[一様可積分性|一様可積分]]であるという条件に緩めることが出来る([[ヴィタリの収束定理]]を参照)。 ==定理の証明== ルベーグの優収束定理は{{仮リンク|ファトウ–ルベーグの定理|en|Fatou–Lebesgue theorem}}の特別な場合である。しかし、以下では、[[ファトゥの補題]]を本質的な道具として用いた、直接的な証明を行う。 ''ƒ'' は、''g'' によって支配される可測関数の列 ''(f<sub>n</sub>)'' の各点収束極限であるため、それ自身もまた ''g'' によって支配される可測関数であり、したがって、可積分である。さらに、すべての ''n'' に対して : <math> |f-f_n| \le |f| + |f_n| \leq 2g </math> が成立し(この不等式は後で必要となる)、また : <math> \limsup_{n\to\infty} |f-f_n| = 0. </math> が成立する。この二つ目の等式は、''f'' の定義により自明に分かる。[[ルベーグ積分|ルベーグ積分の線型性および単調性]]により、 : <math> \biggl| \int_S{f\,d\mu} - \int_S{f_n\,d\mu} \biggr| = \biggl| \int_S{(f-f_n)\,d\mu} \biggr| \le \int_S{|f-f_n|\,d\mu} </math> が得られる。[[ファトゥの補題|逆ファトゥの補題]]により(ここで上述の、''|f-f<sub>n</sub>|'' が可積分関数 ''2g'' により支配されるという不等式が必要となる)、 : <math> \limsup_{n\to\infty} \int_S |f-f_n|\,d\mu \le \int_S \limsup_{n\to\infty} |f-f_n|\,d\mu = 0, </math> が得られるが、これはその極限が存在し、消失すること、すなわち : <math> \lim_{n\to\infty} \int_S |f-f_n|\,d\mu= 0 </math> を意味し、したがって定理の主張は示される。 もし定理の仮定が ''μ'' に関してほとんど至る所でのみ成立するものであれば、ある ''μ'' に関する空集合 ''N'' ∈ Σ が存在し、関数 ''ƒ<sub>n</sub>'''''1'''<sub>''N''</sub> は ''S'' 上の至る所でそれらの仮定を満たす。すると、 ''ƒ''(''x'') は ''x'' ∈ ''S''−''N'' に対して ''ƒ<sub>n</sub>''(''x'') の各点収束極限であり、また ''x'' ∈ ''N'' に対して ''ƒ''(''x'') {{=}} 0 であるため、''ƒ'' は可測である。その積分の値は、''μ'' に関する空集合 ''N'' には影響されない。 ==仮定についての考察== 関数列がある可積分関数 {{mvar|g}} によって支配されるという仮定を外すことは出来ない。このことは次の例によって分かる。[[区間 (数学)|区間]] {{math|[0, 1]}} 上の関数列 {{math|{{mset|f{{sub|n}}}}}} を次で定義する。{{math|(0, 1/''n'']}} 内の {{mvar|x}} に対しては {{math|''f<sub>n</sub>''(''x'') {{=}} ''n''}} であり、それ以外の {{mvar|x}} に対しては {{math|''f''<sub>''n''</sub>(''x'') {{=}} 0}} である。この列を支配するような {{mvar|g}} が存在するとしたら、それは各点[[上限 (数学)|上限]] {{math|''h'' {{=}} sup<sub>''n''</sub> ''f<sub>n</sub>''}} も支配しなければならない。今、 :<math> \int_0^1 h(x)\,dx \ge \int_{1/m}^1{h(x)\,dx} \ge \sum_{n=1}^{m-1} \int_{(1/(n+1),1/n]}{n\,dx} = \sum_{n=1}^{m-1} \frac{1}{n+1} \to \infty \quad \text{as }m\to\infty </math> であることが、[[調和級数]]の発散性により分かる。したがって、ルベーグ積分の単調性により、そのような関数列を {{math|[0, 1]}} 上で支配するような可積分関数は存在しないことが分かる。次のような直接的な計算により、この場合の関数列の積分と各点収束極限の順序は交換できないことが分かる: : <math> \int_0^1 \lim_{n\to\infty} f_n(x)\,dx = 0 \neq 1 = \lim_{n\to\infty}\int_0^1 f_n(x)\,dx </math> (この関数列の各点収束の極限はゼロ関数であるから左辺は {{math|0}} である)。関数列 {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} は[[一様可積分性|一様可積分]]ですらないため、[[ヴィタリの収束定理]]を適用することも出来ない。 ==有界収束定理== 優収束定理の一つの系として、次に述べる'''有界収束定理'''がある: {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} が[[実数|実数値]][[可測関数]]からなる[[一様有界性|一様有界]]な関数列で、有界な[[測度空間]] {{math|(''S'', Σ, ''μ'')}} (すなわち、{{math|''μ''(''S'')}} が有限)上である関数 {{mvar|f}} に各点収束するならば、この極限 {{mvar|f}} は可積分関数であり、 : <math> \lim_{n\to\infty} \int_S{f_n\,d\mu} = \int_S{f\,d\mu} </math> が成り立つ。 '''注意:''' この関数列の各点収束性と一様有界性は、次の仮定の下で、({{mvar|μ}} に関して)[[ほとんど至る所]]成立すれば良いという様に緩められる:測度空間 {{math|(''S'', Σ, ''μ'')}} は[[測度の完備性|完備]]であるか、あるいは、{{mvar|f}} はほとんど至る所で存在する各点極限とほとんど至る所一致する可測関数である。 {{math proof| 考えている関数列が一様有界であるため、ある実数 {{mvar|M}} が存在して、すべての {{math|''x'' ∈ ''S''}} とすべての {{mvar|n}} に対して {{math|{{!}}''f<sub>n</sub>''(''x''){{!}} ≤ ''M''}} が成立する。すべての {{math|''x'' ∈ ''S''}} に対して {{math|''g''(''x'') {{=}} ''M''}} と定義する。すると、考えている関数列は {{mvar|g}} によって支配され、また {{mvar|g}} は測度有限の集合上の定数関数であることから可積分である。したがって、優収束定理を適用することによって定理は証明される。 もしも定理の仮定が {{mvar|μ}} に関してほとんど至る所でのみ成立するのであれば、{{mvar|μ}} に関する零集合 {{math|''N'' ∈ Σ}} が存在して、関数 {{math|''f<sub>n</sub>'''''1'''<sub>''S-N''</sub>}} は {{mvar|S}} 上の至る所でその定理の仮定を満たす。 }} =={{math|''L<sup>p</sup>''}} 空間における優収束(系)== <math>(\Omega,\mathcal{A},\mu)</math> を[[測度空間]]とし、{{mvar|p}} を {{math|1}} 以上の実数とし、{{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} を <math>\mathcal{A}</math>-可測関数 <math>f_n\colon\Omega\to\R\cup\{\infty\}</math> からなる関数列とする。 関数列 {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} は、{{mvar|μ}} に関してほとんど至る所である <math>\mathcal{A}</math>-可測関数 {{mvar|f}} に収束し、ある {{math|''g'' ∈ ''L{{sup|p}}''}} によって支配される、すなわち、すべての自然数 {{mvar|n}} に対して {{math|{{!}}''f''{{sub|''n''}} ≤ ''g''}} が {{mvar|μ}} に関してほとんど至る所で成立する、ということを仮定する。 このとき、すべての {{mvar|f{{sub|n}}}} および {{mvar|f}} は {{mvar|L{{sup|p}}}} に属し、関数列 {{math|{{mset|''f<sub>n</sub>''}}}} は [[Lp空間|{{mvar|L<sup>p</sup>}}]] の意味において {{mvar|f}} へと収束する。すなわち : <math>\lim_{n \rightarrow \infty}\|f_n-f\|_p =\lim_{n \rightarrow \infty}\left(\int_\Omega |f_n-f|^p \,d\mu\right)^{1/p} = 0</math> が成立する。 証明のアイデア: 関数列 <math>h_n = |f_n-f|^p</math> と、それを支配する関数 <math>(2g)^p</math> に対して、元の定理を適用すれば良い。 ==拡張== 優収束定理は、[[バナッハ空間]]に値を取る可測関数と上述のような非負かつ可積分である支配関数に対しても、適用可能である。 == 関連項目 == * [[確率変数の収束]] * [[単調収束定理]](可測関数による上からの支配が必要とされない代わりに、列の単調性が仮定される定理) * [[シェッフェの補題]] * [[一様可積分性]] * [[ヴィタリの収束定理]](ルベーグの優収束定理の一般化) * [[Arzelàの収束定理]]([[閉区間|有界閉区間]]上の[[一様有界]]な[[リーマン可積分]]関数列 {{mvar|f{{sub|n}}}} がリーマン可積分関数に[[各点収束]]するならば {{math|lim ∫ ''f{{sub|n}}''(''x'') ''dx'' {{=}} ∫ lim ''f{{sub|n}}''(''x'') ''dx''}} が成り立つ<ref>{{Citation |title=Arzelà's dominated convergence theorem for the Riemann integral |author=W. A. J. Luxemburg |year=1971 |journal=Amer. Math. Monthly |volume=78 |pages=970-979 |doi=10.2307/2317801}}</ref><ref>{{Citation |title=A concise, elementary proof of Arzelà's bounded convergence theorem |author=Nadish de Silva |year=2010 |journal=Amer. Math. Monthly |volume=117 |pages=918-920 |doi=10.4169/000298910x523407}}</ref>。) ==注== {{reflist}} ==参考文献== {{refbegin}} * {{cite book | last = Bartle | first = R.G. | title = The elements of integration and Lebesgue measure | year = 1995 | publisher = Wiley Interscience | ref = harv }} * {{cite book | last = Royden | first = H.L. | title = Real analysis | year = 1988 | publisher = Prentice Hall | ref = harv }} * {{cite book | last = Williams | first = D. | authorlink = :en:David Williams (mathematician) | title = Probability with martingales | year = 1991 | publisher = [[ケンブリッジ大学出版局|Cambridge University Press]] | isbn = 0-521-40605-6 | ref = harv }} {{refend}} {{DEFAULTSORT:ゆうしゆうそくていり}} [[Category:証明を含む記事]] [[Category:確率論の定理]] [[Category:測度論の定理]] [[Category:実解析の定理]] [[Category:収束]] [[Category:アンリ・ルベーグ]] [[Category:数学に関する記事]]
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