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'''光イオン化'''(ひかりイオンか、{{lang-en|photoionization}})あるいは'''光電離'''(ひかりでんり)とは、入射[[光子]]によって[[原子]]・[[イオン (化学)|イオン]]・[[分子]]から一個ないしは複数個の[[電子]]が放出される[[物理過程]]である。これは、本質的には[[金属]]における[[光電効果]]に伴う過程と同一のものであるが、[[気体]]においてはこの「光イオン化」という用語がより一般的に用いられている<ref name="EB" />。 放出された電子は[[光電子]]と呼ばれ、イオン化前の電子[[状態]]に関する情報を運ぶ。一例を挙げると、一個のみ放出された電子は、入射光子のエネルギー ''E'' <sub>photon</sub> から、放出されたときの状態における[[イオン化エネルギー|電子束縛エネルギー]] ''E'' <sub>bind</sub> を引いた値に等しい[[運動エネルギー]] ''E'' <sub>kin</sub> を持っている(''E'' <sub>kin</sub> = ''E'' <sub>photon</sub> - ''E'' <sub>bind</sub>)。光子のエネルギーが電子束縛エネルギーに満たないときは、光子は[[吸光]]あるいは[[散乱]]され、原子やイオンを光イオン化することはない<ref name="EB"/>。 具体例として、[[水素]]のイオン化を考えてみよう。水素のイオン化エネルギー(電子束縛エネルギーに相当)は 13.6 [[電子ボルト|eV]] であり、入射光子はこれより大きなエネルギーを有していなければならない。これは入射[[光]]の[[波長]]が 91.2 [[ナノメートル|nm]] より短くなければならない、という条件に相当する<ref name="Carroll2007" />。光子のエネルギーがこの条件を満たしている場合、放出された光電子のエネルギーは次の式で与えられる。 : <math> { mv^2 \over 2 } = h \nu - 13.6 \mathrm{eV}</math> ここで ''m'' は[[電子の静止質量]]、''v'' はイオン化直後の電子の[[速度]]、''h'' は[[プランク定数]]、<math>{\nu}</math> は入射光子の[[振動数]]である。また一般に ''E'' <sub>kin</sub> = ''mv''<sup>2</sup>/2 , ''E'' <sub>photon</sub> = <math>{h \nu}</math>と表されることを用いた。 原子・イオンと衝突した光子の全てが光イオン化に寄与するわけではない。光イオン化の[[確率]]には{{仮リンク|光イオン化断面積|en|Photoionisation cross section}}が関係しており、これは光子のエネルギーと光イオン化の対象に依存する。光子エネルギーがイオン化の[[閾値]]を下回っていた場合、光イオン化断面積はほぼゼロである。しかし、[[レーザー|パルスレーザー]]の発展に伴い、極めて強く(高光{{仮リンク|強度 (物理学)|en|Intensity (physics)|label=強度}}または高[[光子流束密度]])、波の揃った([[コヒーレント]])光を作ることができるようになってきており、そこでは'''[[光イオン化#多光子イオン化|多光子イオン化]]'''(または'''多光子電離'''、{{lang-en|multi-photon ionization}}; MPI)と呼ばれる現象が起きている。さらに高光強度な領域([[赤外光]]または[[可視光]]において概ね ''I'' ∼ 10<sup>15</sup> - 10<sup>16</sup> W/cm<sup>2</sup> 前後)では、'''障壁抑制イオン化'''({{lang-en|barrier suppression ionization}}; BSI)<ref name="Delone1998" />や'''再散乱イオン化'''({{lang-en|rescattering ionization}})<ref name="Dichiara2005" />のような{{仮リンク|非摂動|en|Non-perturbative}}現象(摂動論で説明できない現象)さえも観測されている。 == 多光子イオン化 == [[File:REMPI Scheme.jpg|thumb|right|多光子イオン化の一種である{{仮リンク|共鳴多光子イオン化|en|Resonance enhanced multiphoton ionization}}(REMPI) の[[エネルギー準位]]図。図の例ではエネルギー ''hν'' の光子を3個吸光することでイオン化準位 M<sup>+</sup> を上回るエネルギーを得ている。共鳴多光子イオン化では[[共鳴準位]] M<sup>*</sup>(基底準位とイオン化準位の間にあるいずれかの[[励起状態|励起準位]]など)を経由するため、そうでない場合に比べイオン化の確率が上昇する。]] {{See2|「{{仮リンク|蛍光分光|en|Fluorescence spectroscopy}}」、「[[蛍光]]」、および「{{仮リンク|光イオン化モード|en|Photoionization mode}}」も}} 個別にはイオン化閾値を下回るエネルギーしか持っていない複数個の光子が、実際には、原子をイオン化するためにエネルギーを持ち寄ることがある。その確率は、必要な光子の数が増えるに従い急激に減少する。しかし、上述したように、近年は高光強度パルスレーザーの発展によって実現可能となってきた。摂動領域({{lang-en|perturbative regime}}. 光学的な各振動数において概ね 10<sup>14</sup> W/cm<sup>2</sup> 以下)において、''N'' 個の光子を吸光する確率 ''P'' は、レーザー光強度を ''I'' としたとき、''I'' の ''N'' 乗に比例する(''P'' ∝ ''I'' <sup>''N''</sup>)<ref name="DengEberly1985" />。 '''{{仮リンク|超閾イオン化|en|Above threshold ionization}}'''(または'''超閾電離'''、{{lang-en|above-threshold ionization}}; ATI)<ref name="Agostini1979" />は、多光子イオン化の拡張であり、原子のイオン化に実際に必要な数よりも多くの光子を吸光するという現象である。その超過エネルギーによって放出電子は、閾値直上のエネルギーによるイオン化のような通常の場合よりも高い運動エネルギーを有するようになる。より正確に言えば、[[光電子分光|光電子スペクトル]](光電子の、運動エネルギーに対する個数・頻度の分布)に、光子のエネルギーに相当する間隔を置いて複数のピークが見られる。これは、放出電子が通常の(可能な最小個の光子による)イオン化の場合よりも大きな運動エネルギーを持っていることを示唆している。 == 出典 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist |refs= <ref name="EB"> {{Cite web | title=Radiation | work=[[:en:Encyclopædia Britannica Online]] | url=http://www.britannica.com/EBchecked/topic/488507/radiation | accessdate =2009-11-09 }}</ref> <ref name="Carroll2007">{{Cite book |last=Carroll |first=B. W. |last2=Ostlie |first2=D. A. |year=2007 |title=An Introduction to Modern Astrophysics |page=121 |publisher=[[:en:Addison-Wesley]] |isbn=0321442849 }}</ref> <ref name="Delone1998">{{cite journal | last1=Delone | first1=N. B. | last2=Krainov | first2=V. P. | year=1998 | title=Tunneling and barrier-suppression ionization of atoms and ions in a laser radiation field | journal=[[:en:Physics-Uspekhi]] | volume=41 | issue=5 | pages=469-485 | doi=10.1070/PU1998v041n05ABEH000393 |bibcode = 1998PhyU...41..469D }}</ref> <ref name="Dichiara2005">{{cite conference |last1=Dichiara |first1=A. |display-authors=etal |year=2005 |title=Cross-shell multielectron ionization of xenon by an ultrastrong laser field |book-title=Proceedings of the Quantum Electronics and Laser Science Conference |volume=3 |pages=1974-1976 |publisher=[[:en:Optical Society of America]] |doi=10.1109/QELS.2005.1549346 |isbn=1-55752-796-2 }}</ref> <ref name="DengEberly1985">{{Cite journal |last1=Deng|first1=Z. |last2=Eberly|first2=J. H. |year=1985 |title=Multiphoton absorption above ionization threshold by atoms in strong laser fields |journal=[[:en:Journal of the Optical Society of America B]] |volume=2 |issue=3 |pages=491 |doi=10.1364/JOSAB.2.000486 |bibcode = 1985JOSAB...2..486D }}</ref> <ref name="Agostini1979">{{Cite journal |last1=Agostini |first1=P. |coauthors=''et al.'' |year=1979 |title=Free-Free Transitions Following Six-Photon Ionization of Xenon Atoms |journal=[[Physical Review Letters]] |volume=42 |issue=17 |pages=1127?1130 |doi=10.1103/PhysRevLett.42.1127 |bibcode=1979PhRvL..42.1127A }}</ref> }} == 関連項目 == * [[光電効果]] * [[イオン化エネルギー]] * [[光電子分光]] * {{仮リンク|光イオン化検出器|en|Photoionization detector}}(PID) - [[ガスクロマトグラフィー]] * {{仮リンク|共鳴多光子イオン化|en|Resonance enhanced multiphoton ionization}}(REMPI) {{デフォルトソート:ひかりいおんか}} [[Category:光学]] [[Category:物理化学の現象]] [[Category:光化学]] [[Category:原子物理学]] [[de:Photoelektrischer Effekt#Photoionisation]] [[en:Photoelectrochemical processes#Photoionization]]
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