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光化学反応
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{{Otheruses|光合成に関する化学反応|一般の光による化学反応|光反応}} {{出典の明記|date=2016年5月}} '''光化学反応'''(こうかがくはんのう、{{lang-en|photochemical reaction, light‐dependent reaction}})は、物質が[[光]]を吸収して[[化学反応]]を起こす現象であり、一般には、[[色素]][[分子]]が[[光エネルギー]]を吸収し、[[励起電子|励起]]された[[電子]]が飛び出し、物質の[[酸化還元]]を引き起こすものであるが、特に[[生物学]]で[[光合成]]の過程に含まれるこのような化学反応を指す。光合成における光化学反応では、特定の[[クロロフィル]]分子がこの反応を起こし、還元物質[[NADPH]]や[[アデノシン三リン酸|ATP]]の合成の源となる。酸素発生型光合成では光化学反応により[[水]]を電子供与体として用い、[[酸素]]を発生し(=水の光分解)、[[二酸化炭素|炭酸ガス]]を還元する。光合成系に含まれる多数のクロロフィル分子のうち光化学反応を起こすのは特定の分子([[二量体]])だけなので、クロロフィルの特別ペア (special pair) という。これ以外のクロロフィルは、集光色素または電子受容体などとしてはたらく。 なお、光化学反応は広義には「光化学反応に関わる[[電子伝達系]]全て」を指すが、狭義には「光エネルギーの関与する[[光化学系]]複合体I、IIの反応」を指す。本記事では広義の光化学反応を解説する。'''明反応'''(めいはんのう)などとも呼ばれている。 == 光化学反応の種類 == 光化学反応は、その電子伝達過程によっていくつかの種類がある。また酸素発生型と酸素非発生型の光合成も光化学反応を担う複合体の数や種類などが異なっている。 *酸素発生型 **非循環的電子伝達系 **循環的電子伝達系 *酸素非発生型 **[[緑色硫黄細菌]]型(循環型光リン酸化) **[[紅色非硫黄細菌]]型(非循環的光リン酸化) この中でも、[[緑色植物]]の担う酸素発生型光合成の非循環型電子伝達系が「水の光分解」、すなわち酸素の発生に関与する光化学系反応であり、もっとも研究が進んでいる。循環的電子伝達系は緑色植物の中ではATP合成の補助的な役割を担っていると考えられている。なお、酸素発生型の光化学系複合体 (I, III) はそれぞれ、酸素非発生型の光化学系複合体と相同性があると言われている。詳細は以下に述べる。 ==非循環的電子伝達系== 光化学反応の非循環的電子伝達系は水の光分解を行い、[[植物]]のみならず地球科学的にも非常に重要な反応を担っている。しかしながら、いくつかの[[タンパク質複合体]]が関与する複雑な反応系の一つでもあり、その詳細が今でも明らかになっているとは言いがたい。しかしながら、光化学反応の最初の研究でもある[[ヒル反応]]が観察された[[1939年]]以降、光化学系複合体の[[反応中心]]粒子の[[立体構造]]が明らかになり、その電子伝達過程が極めて短い時間内におきていることも明らかになっている。以下に、光化学反応を担当するタンパク質複合体および個々の電子伝達反応について述べる。 光化学反応は以下のタンパク質複合体により行なわれる。 *光化学系複合体II(光化学系II) *[[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体]] *光化学系複合体I(光化学系I) *CF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素 上記のタンパク質複合体は全て[[葉緑体]]のチラコイド膜に配置しており、構造解析は困難を極める。 非循環的電子伝達系を単純化すると、以下の段階に分けられる。 #光化学系IIにて光エネルギーを吸収し、色素分子が励起されて複合体全体で[[酸化還元]]反応が起き、[[水]]が分解されて[[電子]]が引き出される。この時に、発生する[[水素イオン|プロトン]]はそのままプロトン濃度勾配となる。 #光化学系IIで供与された電子は[[キノン|プラストキノン]]を通じて[[シトクロムb6/f複合体|シトクロムb<sub>6</sub>/f複合体]]に伝達され、プロトンポンプおよびスカラー反応が起き、プロトン濃度勾配が形成される。 #電子は[[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体]]から[[電子伝達体|プラストシアニン]]を通じて光エネルギーを受けて励起した光化学系Iに伝達される。 #光化学系Iで再び電子は光エネルギーを受けて励起され、酸化還元電位の低い[[フェレドキシン]]に伝達される。 #還元型フェレドキシンは、光化学系Iに含まれる[[フェレドキシン-NADP+レダクターゼ|フェレドキシン-NADP<sup>+</sup>レダクターゼ]] (FNR) で触媒され、光化学系の最終的な還元物質[[NADPH]]が生産される。 #1.および2.で発生したチラコイド内腔側に発生するプロトン濃度勾配を利用してCF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素で[[アデノシン三リン酸|ATP]]のリン酸化が行なわれる(光リン酸化)。 5.および6.で合成されたNADPHおよびATPは、[[カルビン - ベンソン回路]]にて[[炭酸固定]]に用いられる。なお、非循環的電子伝達系の収支式は以下の通りである。 *12[[水|H<sub>2</sub>O]] + 12[[NADPH|NADP<sup>+</sup>]] → 6[[酸素|O<sub>2</sub>]] + 12[[NADPH]] + 12[[水素イオン|H<sup>+</sup>]]in *72H<sup>+</sup>in + 24[[アデノシン二リン酸|ADP]] + 24Pi([[リン酸]]) → 72H<sup>+</sup>out + 24[[アデノシン三リン酸|ATP]] ===光化学系II(PSII)における反応=== [[光化学系II]](PSII)では水の光分解を行い[[酸素]]を発生し、得られた[[電子]]を[[プラストキノン]](plastoquinone)に伝達する反応が行なわれる。同時に[[水素イオン|プロトン]]濃度勾配の形成も行なっている。PSII pigment-protein complexは[[ヨハン・ダイゼンホーファー]]、[[ロベルト・フーバー]]、[[ハルトムート・ミヒェル]]らが三次元構造を決定し、2002年には日本の[[沈建仁]](岡山大学)、[[神谷信夫]](大阪市立大学)らのグループ、2004年ロンドンのBarberらのグループそして2005年ベルリンのZouniおよびSaengerらのグループによる[[X線結晶構造解析]]によって、その構成が明らかになりつつあるが、全構成要素の帰属、特に [[マンガン]]クラスターと呼ばれる活性中心の詳細な構造は明らかになっておらず、光エネルギーの産業的利用の面からもさらなる高分解能の構造解明が待たれるところである。 *反応中心(反応中心P680、4つの[[クロロフィル]]=[[マルチマーモデル]]) *アンテナ[[色素]]タンパク質 *酸素発生に寄与すると考えられる3種類の[[サブユニット]] *他、機能不明の数種のサブユニット *水の光分解活性中心として[[マンガン]]、他[[カルシウム]]、[[塩素]]といった無機イオン PSIIは紅色光合成細菌の反応中心(bacterial photosynthetic reaction center、bRC)と配列類似性が高いと言われている。以下に、反応ステップの詳細を述べる。 #アンテナ色素タンパク質によって集光された680 nmの[[波長]]の光で[[クロロフィル]]の反応中心の[[クロロフィル]]が励起される。 #クロロフィルマルチマーから電子が放出され[[フェオフィチン]]PheoD1へ電子が移動する。 #[[電子]]はプラスト[[キノン]]QAさらにプラスト[[キノン]]QBへと移動する。QBは2回還元されてQBH<sub>2</sub>を形成した後、タンパク質内の結合サイトから離脱、キノンプールへ移動する。 #2.の反応と共役してマンガン・カルシウムクラスター (Mn-cluster) が酸化される。マンガンクラスターの酸化状態は最も酸化度の低いS<sub>0</sub>状態からS<sub>1</sub>、S<sub>2</sub>、S<sub>3</sub>とさらに酸化された状態をとることができる。最終的に遷移状態のS<sub>4</sub>を経てS<sub>0</sub>状態に戻る際に、水分子がマンガンクラスター上で酸素分子に酸化される。 S<sub>0</sub>状態が最も酸化度は低いが、通常マンガンクラスターは通常S<sub>1</sub>状態での存在がもっとも多く見受けられる。これは、YZと対の関係にある[[YD]] (D2-Tyr160, TyrD) がS<sub>0</sub>状態をS<sub>1</sub>状態に[[酸化]]するためであるといわれている。 P680近傍の[[チロシン]]D1-Tyr161あるいはTyrZ、[[YZ]]に電子伝達され、マンガンクラスターはS<sub>4</sub>状態で水を分解して[[還元]]型S<sub>0</sub>状態に戻る。 光化学系IIにおける収支式は以下の通りである。 *12H<sub>2</sub>O + 12プラストキノン (PQ<sub>ox</sub>) → 24H<sup>+</sup>in + 6O<sub>2</sub> + 12プラストキノール(PQ<sub>red</sub>、還元型プラストキノン) ===シトクロムb<sub>6</sub>/f複合体における反応=== [[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体]]ではプラストキノールから電子を受け取り、電子伝達過程でプロトンポンプおよびスカラー反応を起こしプロトン濃度勾配を発生させる。そして、最終的に酸化型プラストシアニンに電子を伝達する。シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体は[[呼吸鎖複合体]]IIIと極めてサブユニット構成および諸反応が似ている。なおサブユニット構成は以下のようになっている。 *シトクロム''b''<sub>6</sub> *シトクロムf *プラストキノン2個 *リスケ型Fe-Sタンパク質 *他、3種類のタンパク質 シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体の電子伝達過程は、呼吸鎖複合体と同様に2種類存在し、以下のような電子伝達過程を経る。 *PQ<sub>red</sub> → リスケFe-Sタンパク質 → 酸化型プラストシアニン (PCy<sub>ox</sub>) *PQ<sub>red</sub> → ヘム''b''<sub>L</sub> → ヘム''b''<sub>H</sub> → リスケFe-Sタンパク質 → PCy<sub>ox</sub> シトクロムb<sub>6</sub>/f複合体の収支式は以下の通りである。 *12[[キノン|PQ<sub>red</sub>]] + 24H<sup>+</sup>out + 24[[電子伝達体|PCy<sub>ox</sub>]] (Cu<sup>2+</sup>) → 12PQ<sub>ox</sub> + 48H<sup>+</sup>in + 24PCy<sub>red</sub> (Cu<sup>+</sup>) ===光化学系I (PSI) における反応=== [[光化学系I]] (PSI) は還元型プラストシアニンから受け取った電子を[[フェレドキシン]]に伝達し、還元型フェレドキシンから[[NADPH|NADP<sup>+</sup>]]に電子伝達を行い、最終還元物質である[[NADPH]]を生産する。PSIの構造は以下の通りである。 *反応中心(P700、電子受容体クロロフィルA<sub>-1</sub>、A<sub>0</sub>、[[フィロキノン]]A<sub>1</sub>、鉄 - 硫黄クラスターFX、FA、FB) PSI反応中心は[[緑色硫黄細菌]]の光化学系反応中心と配列類似性が高いと言われている。以下に、反応段階の詳細を述べる。 #アンテナ色素タンパク質によって集光された700 nmの波長の光でクロロフィルスペシャルペアP700が励起される。 #P700から電子が放出され近傍に存在するクロロフィルA<sub>-1</sub>、A<sub>0</sub>、フィロキノンA<sub>1</sub>、鉄 - 硫黄クラスターFX、FA、FBを通じて電子が伝達される。 #還元型フェレドキシン (Fd<sub>red</sub>) は[[フェレドキシン-NADP+レダクターゼ|FNR]]によって触媒され、NADPHを生産する。 光化学系Iにおける収支式は以下の通りである。 : <chem>24PCyred\ + 12Fd_{ox} (2Fe^{3+}) -> 24PCy_{ox}\ + 12Fd_{red}(2Fe^{2+})</chem> : <chem>12Fd_{red}\ + 12NADP^+ -> 12Fd_{ox}\ + 12NADPH</chem>(→[[カルビン-ベンソン回路]]へ) ===CF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素における反応=== CF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素では、[[ミトコンドリア]]のF<sub>o</sub>-F<sub>1</sub>ATP合成酵素と同様、プロトン濃度勾配を利用して[[アデノシン三リン酸|ATP]]の合成を行なっている。ただし、プロトン濃度勾配形成法よりCF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素で行なわれるリン酸化反応は光リン酸化と呼ばれている。収支式は以下の通りである。 : <chem>72H^+ in\ + 24ADP\ + 24Pi -> 72H^+out\ + 24ATP -></chem> [[カルビン-ベンソン回路]]へ {{main|ATP合成酵素}} なお、CF<sub>o</sub>-CF<sub>1</sub>ATP合成酵素は[[ATPアーゼ]]の特徴である[[スルフヒドリル基]]が昼夜によって変化し、昼間は活性が高く、夜間はその活性が低い。 *昼間:チオレドキシンによって還元されスルフヒドリル基となる。 *夜間:スルフヒドリル基が酸化されて[[ジスルフィド結合|S-S結合]]して、活性が低下する。 この調節機構は、光合成のできない夜間にCF<sub>1</sub>部位での無駄なATPの分解を防ぐ役割がある。 == 循環的電子伝達系 == 酸素発生型光合成の循環的電子伝達系は光化学系Iの反応を通じて、より光リン酸化を効率的に行なう反応系である。膜を介した物質輸送([[能動輸送]])などに多量のATPが必要であり、[[葉緑体]]もその例外ではない。しかしながら非循環的電子伝達系のみで生産されるプロトン濃度勾配のみではATPの合成が追いつかず、循環的電子伝達系が存在していると考えられる。循環的電子伝達系の経路は以下の通りである。 #光化学系Iが光エネルギーを受けて、初発[[電子受容体]]に電子伝達を行う。 #初発電子受容体からFe-Sクラスターを経て、[[フェレドキシン]]に伝達される。 #フェレドキシンからプラストキノンへ伝達される。 #プラストキノールは[[シトクロムb6/f複合体|シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体]]で還元される。 #1.に戻る。 シトクロム''b''<sub>6</sub>/f複合体を電子が通過するたびに4プロトンがチラコイド内腔へ輸送され、プロトン濃度勾配を形成する。 == 酸素非発生型光合成の電子伝達系 == 酸素非発生型光合成は光合成細菌の行なう光合成反応である。[[紅色非硫黄細菌]]の行うものは、[[最終電子受容体]]として[[酸素]]を用いる非循環的電子伝達系に対し、[[緑色硫黄細菌]]では循環的電子伝達系が見られる。[[緑色植物]]との違いは酸素を発生しないこともあるが、なにより光化学反応系の所在にあり、[[真正細菌]]では反応中心粒子が[[細胞膜]]に存在するために[[呼吸鎖複合体]]との共同的な働きが行なわれる。 ===[[紅色光合成細菌]]の光化学反応=== 紅色非硫黄細菌の光化学系は非循環的であり、酸素を最終電子受容体とするが、その電子の一部は[エネルギー依存性電子の逆行]という反応から[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド|NAD<sup>+</sup>]]に伝達されるものも存在する。[[紅色光合成細菌]](紅色非硫黄細菌)の光化学系構成 は以下の通りである。 *光化学反応複合体 (''Rhodobactor sphaeroides''の場合) **反応中心P870、バクテリオ[[フェオフィチン]]、Q<sub>A</sub>([[ユビキノン]])、Q<sub>B</sub>([[ユビキノン]]) *ユビ[[キノン]] *シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体([[呼吸鎖複合体|呼吸鎖複合体III]]) *シトクロム''c''<sub>2</sub> *シトクロムオキシダーゼ([[呼吸鎖複合体|呼吸鎖複合体IV]]) 反応中心P870はバクテリオ[[クロロフィル]]の2量体、すなわちスペシャルペアである。電子供与体としては[[有機物]]異化代謝系由来の[[ユビキノン]]が光化学反応に使用されている。その電子伝達経路は以下の通りである。 #反応中心粒子P870が光エネルギーを吸収し、電子が励起される。 #励起された電子はバクテリオ[[フェオフィチン]]([[酸化還元電位]]、E<sub>0</sub>'= -0.4 - 0.6 V)に伝達される。 #電子はQ<sub>A</sub>およびQ<sub>B</sub>の順に電子伝達を受ける #電子は光化学系複合体に含まれない[[ユビキノン]](''E''<sub>0</sub>'= -0.1V)に伝達され、ここで2通りの電子伝達経路を経る ##シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体 (''E''<sub>0</sub>'= 0.2V) に電子伝達される。 ##エネルギー依存性電子の逆行反応(プロトン濃度勾配のエネルギーを用いる)によりNAD<sup>+</sup> (''E''<sub>0</sub>'= -0.4V) に電子伝達される。 #シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体はシトクロム''c''<sub>2</sub> (''E''<sub>0</sub>'= 0.4V) に電子伝達を行う。この時にプロトンキノンサイクル機構によりプロトン濃度勾配が生じる(→プロトンキノンサイクル機構については[[ユビキノン]]を参照)。 #シトクロム''c''<sub>2</sub>複合体に伝達された電子も、以下の2通りの電子伝達経路を経る。 ##シトクロムオキシダーゼに電子伝達され、最終電子受容体の[[酸素]]に受け渡される。 ##光化学反応複合体に再び戻り、反応中心粒子P870の電子を補完する(1. に戻る)。 紅色非硫黄細菌の光化学反応は還元物質[[NADH]]の生産を直接行なうことは無く、むしろ[[アデノシン三リン酸|ATP]]合成を主たる目的としていると考えられる。 ===緑色硫黄光合成細菌の光化学反応=== [[緑色硫黄細菌]]の光化学反応複合体は、[[緑色植物]]の光化学系複合体Ⅰに似ていると言われている。その違いはバクテリオクロロフィルおよび還元物質として[[NADH]]を生産することである。緑色硫黄細菌の光化学反応は緑色植物の電子循環的電子伝達系(光化学系複合体Iを参照)にも良く似る。緑色硫黄細菌の光化学系構成は以下の通りである。 *光化学反応複合体 **反応中心P840、バクテリオクロロフィル、[[メナキノン]]([[ビタミンK|ビタミンK<sub>2</sub>]])、[[鉄・硫黄クラスター]] (F<sub>X</sub>, F<sub>A</sub>, F<sub>B</sub>) *[[フェレドキシン]] *[[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド|NAD<sup>+</sup>]] *[[メナキノン]] *シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体([[呼吸鎖複合体|呼吸鎖複合体III]]) *[[シトクロム|シトクロム''c'']] 反応中心粒子は紅色非硫黄細菌と同様、バクテリオクロロフィルのスペシャルペアである。電子は循環的に上記の電子伝達系を回転し、光エネルギーで励起されてプロトン濃度勾配形成のエネルギーを得る。電子伝達過程は以下の通りである。 #反応中心P840が光エネルギーを吸収し、電子が励起される。 #酸化還元電位の極めて低いバクテリオクロロフィルを初発電子受容体 (A<sub>0</sub>, ''E''<sub>0</sub>'= -1.2V) として電子伝達を行う。 #次にA<sub>1</sub>(バクテリオクロロフィル、''E''<sub>0</sub>'= -0.8V)、鉄・硫黄クラスター (F<sub>X</sub>, <sub>A</sub>, <sub>B</sub>, ''E''<sub>0</sub>'= -0.45V) を経てフェレドキシン (''E''<sub>0</sub>'= -0.4V) に電子伝達される。 #フェレドキシンからNAD<sup>+</sup>へ電子伝達が行われ、還元物質NADHが生成され、[[呼吸鎖複合体|呼吸鎖複合体I]]で酸化を受ける。その際、プロトン濃度勾配が形成される。 #複合体Iからメナキノン (''E''<sub>0</sub>'= 0.1V)、シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体 (''E''<sub>0</sub>'= 0.15V) へ電子伝達される。その際。再びプロトン濃度勾配が発生する。 #シトクロム''bc''<sub>1</sub>複合体はシトクロム''c'' (''E''<sub>0</sub>'= 0.2V) に電子伝達を行い、電子は再びP840に戻る(1. に戻る)。 緑色硫黄細菌の光化学反応系も[[呼吸鎖]]の駆動に使用されており、[[アデノシン三リン酸|ATP]]合成がその主たる目的であると考えられる。緑色硫黄細菌については経路が不明な箇所も存在し(例えばA<sub>0</sub>、A<sub>1</sub>がバクテリオクロロフィルであると言う確証は得られていない)、今後の研究が待たれる。 == バクテリオロドプシン == [[バクテリオロドプシン]]は[[古細菌]]の[[高度好塩菌]](ハロアーキア)の紫膜にみられる[[分子量]]27,000の[[膜タンパク質]]であり、[[レチナール]]分子で光を吸収してプロトン濃度勾配を形成する[[プロトンポンプ]]である。高度好塩菌には光合成経路([[炭素固定]]経路)は一切存在しないが、光化学反応という観点より、バクテリオロドプシンの反応もその範疇に入れられることが多い。反応素過程はバクテリオロドプシンが単体で行なうものであり、電子伝達経路の一切が存在しない。 形成されたプロトン濃度勾配はATP合成に用いられ、光リン酸化反応が見られる。高度好塩菌は、有機物を酸化し酸素を最終電子受容体としてATP合成を行う通常の[[好気呼吸]]をおこなうが、飽和塩濃度では酸素溶解度が低下することからこのような光化学反応を獲得したと考えられている。 したがって、バクテリオロドプシンの誘導条件は *光の存在 *低酸素濃度 の2点である。こうした条件では高度好塩菌はまさに[[栄養的分類|光合成従属栄養]]的に生育する。 21世紀に入り、バクテリオロドプシンが古細菌だけでなく、[[細菌]]にも広く分布していることが明らかとなった<ref>{{Cite journal|last=Béjà|first=Oded|last2=Aravind|first2=L.|last3=Koonin|first3=Eugene V.|last4=Suzuki|first4=Marcelino T.|last5=Hadd|first5=Andrew|last6=Nguyen|first6=Linh P.|last7=Jovanovich|first7=Stevan B.|last8=Gates|first8=Christian M.|last9=Feldman|first9=Robert A.|date=2000-09-15|title=Bacterial Rhodopsin: Evidence for a New Type of Phototrophy in the Sea|url=https://www.science.org/doi/10.1126/science.289.5486.1902|journal=Science|volume=289|issue=5486|pages=1902–1906|doi=10.1126/science.289.5486.1902}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Giovannoni|first=Stephen J.|last2=Bibbs|first2=Lisa|last3=Cho|first3=Jang-Cheon|last4=Stapels|first4=Martha D.|last5=Desiderio|first5=Russell|last6=Vergin|first6=Kevin L.|last7=Rappé|first7=Michael S.|last8=Laney|first8=Samuel|last9=Wilhelm|first9=Lawrence J.|date=2005-11|title=Proteorhodopsin in the ubiquitous marine bacterium SAR11|url=https://www.nature.com/articles/nature04032|journal=Nature|volume=438|issue=7064|pages=82–85|language=en|doi=10.1038/nature04032|issn=1476-4687}}</ref>。ただし、バクテリオロドプシンをもつ[[原核生物]]のうちで光合成経路をもつものはいまだに見つかっていない。 == 出典 == {{reflist}} == 関連項目 == *[[光合成]] *[[電子伝達系]] *[[光反応]] *[[光合成細菌]] *[[独立栄養生物]] {{DEFAULTSORT:こうかかくはんのう}} [[Category:光学]] [[Category:光化学]] [[Category:生化学]] [[Category:光合成]] [[category:化学反応|*]]
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