内部自己同型のソースを表示

{{no footnotes|date=June 2020}}

[[抽象代数学]]において、'''内部自己同型写像''' (ないぶじこどうけいしゃぞう、{{Lang-en-short|inner automorphism}}) は、ある操作をして、次に別の操作をして、次に最初の操作の逆をするような[[写像]]である。

記号では、<math>f^{-1} \circ g \circ f (X)</math> のように書ける。
==解説==
最初の行動と後に続くその逆の行動は、全体として得る結果を変えることもあれば（「傘をさして、雨の中を歩いて、傘をとじる」というのは単に「雨の中を歩く」のとは異なる結果になる）、変えないこともある（「左手の手袋を外し、右手の手袋を外し、左手の手袋をつける」のは「右手の手袋のみを外す」のと同じ結果になる）。

より正確には、[[群 (数学)|群]] {{mvar|G}} の内部自己同型写像

{{Indent|{{math|ƒ: ''G'' &rarr; ''G''}}}}

は、{{mvar|G}} の任意の元 {{mvar|x}} に対し

{{Indent|{{math|ƒ(''x'') {{=}} ''a''<sup>−1</sup>''xa''}}}}

によって定義される[[写像]]である。

ここで ''a'' は ''G'' の与えられた固定された[[元_(数学)|元]]であり、群の元の作用は右に起こると考える（なのでこれを読むとすれば「''a'' かける ''x'' かける ''a''<sup>&minus;1</sup>」ということになる）。

元 {{mvar|x}} を一つ固定して考えるとき、元 {{math|''a''{{sup|&minus;1}}''xa''}} を {{mvar|x}} の {{mvar|a}} による'''共軛''' (conjugate) （あるいは {{math|''a''{{sup|&minus;1}}''xa''}} は {{mvar|a}} によって {{mvar|x}} と共軛である）と言い、{{mvar|x}} から {{math|''a''{{sup|&minus;1}}''xa''}} を得る操作 {{math|''x'' &#x21a6; ''a''<sup>−1</sup>''xa''}} を {{mvar|x}} の {{mvar|a}} による'''共役変換''' (conjugation) または'''相似変換''' (similarity transformation) と呼ぶ。{{main|[[共役類]]}}

また適当な {{mvar|a}} によって {{math|''a''{{sup|&minus;1}}''xa''}} の形に書けるような元を総称して {{mvar|x}} の'''共軛元''' (conjugate element) と呼ぶ。<ref>{{MathWorld|title=Conjugate Element|urlname=ConjugateElement}}</ref>

1 つの元による共役が別の 1 つの元を変えない場合（上の「手袋」の場合）と共役によって新しい元が得られる場合（「傘」の場合）を区別することはしばしば興味の対象となる。

事実、

 {{math|''a''<sup>−1</sup>''xa'' {{=}} ''x''}} (“{{math|''a''}}による共役は{{math|''x''}}を変えない”)

ということと

 {{math|''ax'' {{=}} ''xa''}} (“{{math|''a''}}と{{math|''x''}}は可換である”)

ということは[[同値]]である。

したがって、[[恒等写像]]でない内部自己同型の存在と個数は、群における[[交換法則]]の成り立たなさを測るようなものである。

== 表記 ==
''a''<sup>−1</sup>''xa'' をしばしば指数的に ''x<sup>a</sup>'' と書く。(''x<sup>a</sup>'')''<sup>b</sup>''&nbsp;=&nbsp;''x<sup>ab</sup>'' が成り立つのでその表記が使われる。（''G'' の自身への右[[群作用|作用]]を与える。）このような表記に基づいて、群 {{mvar|G}} の元 {{mvar|x}} の共軛元全体の成す集合（{{mvar|x}} の属する共軛類、{{mvar|x}} の軌道）は {{mvar|x{{sup|G}}}} とも書かれる。

== 性質 ==
すべての内部自己同型は実際に群 ''G'' の[[群自己同型|自己同型]]である、すなわち ''G'' から ''G'' への[[全単射]]な[[群準同型|準同型]]（すなわち (''xy'')<sup>''a''</sup>&nbsp;=&nbsp;''x<sup>a</sup>y<sup>a</sup>''）である。

== 内部自己同型群と外部自己同型群 ==
2つの内部自己同型の[[関数の合成|合成]]は再び内部自己同型である（上に述べたように (''x<sup>a</sup>'')<sup>''b''</sup>&nbsp;=&nbsp;''x<sup>ab</sup>'' である）。この演算によって ''G'' のすべての内部自己同型からなる集合 Inn(''G'') はそれ自身群であり、''G'' の内部自己同型群と言う。

Inn(''G'') は ''G'' の自己同型全体からなる[[自己同型群]] Aut(''G'') の[[正規部分群]]である。[[商群]]

{{Indent|Aut(''G'')/Inn(''G'')}}

を[[外部自己同型群]]といい、Out(''G'') と書く。外部自己同型群はある意味で ''G'' の自己同型のうちどのくらいが内部自己同型でないかを測る。すべての非内部自己同型は Out(''G'') の非自明な元と対応するが、異なる非内部自己同型が Out(''G'') の同じ元に対応することもある。

''G'' の元 ''a'' と Inn(''G'') の元 ƒ(''x'')&nbsp;=&nbsp;''x<sup>a</sup>'' を対応させることによって、商群 ''G''/Z(''G'') と内部自己同型群の間の[[群同型|同型]]が得られる（Z(''G'') は ''G'' の[[群の中心|中心]]）

{{Indent|{{math|G/\operatorname{Z}(G) \cong \operatorname{Inn}(G).}}}}

これは[[第一同型定理]]の帰結である。なぜならば、Z(''G'') はちょうど、対応する内部自己同型として恒等写像を与える ''G'' の元全体からなる部分群だからである。

=== 有限 ''p''-群の非内部自己同型 ===
Wolfgang {{harvtxt|Gaschütz|1966}} の結果によると、''G'' が有限非可換 [[p-群|''p''-群]]であれば、''G'' は内部自己同型でない位数 ''p'' ベキの自己同型を持つ。

すべての非可換 ''p''-群 ''G'' が位数 ''p'' の自己同型を持つかどうかは未解決問題である。''G'' が以下の条件の 1 つを満たすときには答えは肯定的である。

# ''G'' は冪零度 (nilpotent of class) ''2''
# ''G'' は{{仮リンク|正則p群|en|Regular p-group|label=正則 ''p''-群}}
# ''G'' の[[フラッティーニ部分群]] <math>\Phi(G)</math> の中心の ''G'' における中心化群 <math>\mathrm{C}_G(\mathrm{Z}(\Phi(G)))</math> は <math>\Phi(G)</math> と等しくない
# ''G''/Z(''G'') は{{訳語疑問点範囲|{{仮リンク|多冪p-群|label=多冪 {{mvar|p}}-群|en|Powerful p-group}}|date=2020-02-18}}

===群のタイプ===
内部自己同型群 Inn(''G'') が自明である（すなわち[[単位元]]のみからなる）ことと ''G'' が[[可換群]]であることが[[同値]]であることが従う。

Inn(''G'') は群の中心についての基本的な結果によって自明なときにしか[[巡回群]]にならない。

その対極として、内部自己同型によってすべての自己同型が尽くされることもある。自己同型が内部自己同型しかなく中心が自明な群を {{仮リンク|complete group|en|complete group|label=complete}} と呼ぶ。''n'' が 2 でも 6 でもないとき ''n'' 次対称群は complete である。''n'' = 6 のときは対称群は 1 つだけ非自明な外部自己同型の類を持つ。''n'' = 2 のときは対称群は可換ゆえ中心は自明でなく、外部自己同型を持たないにもかかわらず complete ではない。

{{仮リンク|完全群|en|perfect group}} ''G'' の内部自己同型群が単純群であるとき、''G'' を {{仮リンク|準単純群|en|quasisimple group|label=準単純}} という。

==環の場合==
[[環 (数学)|環]] ''R'' と[[単元 (環論)|単元]] ''u'' &isin; ''R'' が与えられると、写像 ƒ(''x'') = ''u''<sup>−1</sup>''xu'' は ''R'' の[[環自己同型]]である。この形の環自己同型を ''R'' の''内部自己同型'' (inner automorphism) と呼ぶ。''R'' の内部自己同型全体は ''R'' の自己同型群の正規部分群をなす。

==リー代数の場合==
[[リー代数]] <math>\mathfrak{g}</math> の自己同型は、{{math|Ad}} を{{仮リンク|リー群の随伴表現|en|adjoint representation of a Lie group|label=随伴写像}}、''g'' をリー代数が <math>\mathfrak{g}</math> であるような[[リー群]]の元として、{{math|Ad<sub>''g''</sub>}} の形のとき、内部自己同型と呼ばれる。リー代数の内部自己同型の概念は次のような意味で群の内部自己同型の概念と整合性のとれたものとなっている。すなわち、リー群の内部自己同型は対応するリー代数の一意的な内部自己同型を誘導する。

==拡張==
''G'' が[[環論|環]] ''A'' の[[単元群]]として生じるとき、''G'' 上の内部自己同型を[[行列環]] M<sub>2</sub>(''A'') の単元群によって [[環上の射影直線|''A'' 上の射影直線]]上の写像に拡張できる。とくに、[[古典群]]の内部自己同型をそのように拡張することができる。

== 注 ==
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{citation | mr=2574864  | last1=Abdollahi | first1=A. | title=Powerful ''p''-groups have non-inner automorphisms of order ''p'' and some cohomology | journal=J. Algebra | volume=323  | year=2010 | pages=779&ndash;789 | doi=10.1016/j.jalgebra.2009.10.013}}
* {{citation | mr=2333188  | last1=Abdollahi | first1=A. | title=Finite ''p''-groups of class ''2'' have noninner automorphisms of order ''p'' | journal=J. Algebra | volume=312  | year=2007 | pages=876&ndash;879 | doi=10.1016/j.jalgebra.2006.08.036}}
* {{citation | mr=1898386  | last1=Deaconescu | first1=M. | last2=Silberberg | first2=G. | title=Noninner automorphisms of order ''p'' of finite ''p''-groups | journal=J. Algebra | volume=250  | year=2002 | pages=283&ndash;287 | doi=10.1006/jabr.2001.9093}}
* {{citation | mr=0193144  | last1=Gaschütz | first1=W. | title=Nichtabelsche ''p''-Gruppen besitzen äussere ''p''-Automorphismen| journal=J. Algebra | volume=4  | year=1966 | pages=1&ndash;2 | doi=10.1016/0021-8693(66)90045-7}}
* {{citation | mr=0173708  | last1=Liebeck | first1=H. | title=Outer automorphisms in nilpotent ''p''-groups of class ''2'' | journal=J. London Math. Soc. | volume=40  | year=1965 | pages=268&ndash;275 }}
*{{SpringerEOM|title=Inner automorphism|last=Remeslennikov|first=V.N.|urlname=Inner_automorphism}}
*{{MathWorld|title=Inner Automorphism|urlname=InnerAutomorphism}}

{{DEFAULTSORT:ないふしことうけい}}
[[Category:群論]]
[[Category:群自己同型]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[de:Automorphismus#Innere Automorphismen]]