円周率のソースを表示

{{Redirect|3.14|日付|3月14日}}
{{円周率}}
'''円周率'''（えんしゅうりつ、{{lang-en-short|Pi}}、{{lang-de-short|Kreiszahl}}、{{Lang-zh-short|圓周率}}）とは、[[円 (数学)|円]]の[[直径]]に対する[[円周]]の長さの[[比率]]のことをいい{{Sfn
|板倉聖宣|2009|p=94}}、[[数学定数]]の一つである。通常、円周率は[[ギリシア文字]]である {{math|[[π]]}}{{refnest
|group="注"
|古代ギリシア語読み：{{mvar|[[:wikt:en:πεῖ|πεῖ]]}} {{IPA-el|pêː, pi|}}、中世ギリシア語読み：{{mvar|πῖ}} {{IPA-el|piː, pi|}}、現代ギリシア語読み：[[:wikt:en:πι|{{mvar|πι}}]] {{IPA-el|pi|}}。日本語読み：パイ<ref>{{Cite Kotobank |word=π |accessdate=2021-02-14}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://kotobank.jp/word/Π%2C%20π-2073440 |title=Π, π |publisher=[[コトバンク]] |accessdate=2021-02-15}}</ref>、ピー<ref>{{Cite web|和書 |title=放射線の読み方/マイ・データ（物理用語読み方辞典・付表） |url=https://hiramatu-hifuka.com/onyak/but-0.html |publisher=平松陽子 |accessdate=2021-02-15}}</ref><br />[[ラテン文字]]表記：{{Lang|en|[[:wikt:en:pi|pi]], [[:wikt:en:Pi|Pi]]}} {{IPA-en|pai}}, {{IPA-de|piː}}, {{IPA-fr|pi}}, {{IPA-nl|pi}}}}で表される。円の直径から円周の長さや[[円の面積]]を求めるときに用いる{{Sfn|板倉聖宣|2009|p=94}}。また、[[数学]]をはじめ、[[物理学]]、[[工学]]といった[[科学]]の様々な理論の計算式にも出現し、最も重要な数学定数とも言われる<ref>{{Cite web|和書 |title=協会の理念とビジョン・行動指針 |url=https://www.su-gaku.net/association/idea/ |publisher=公益財団法人 日本数学検定協会 |date= |accessdate=2023-05-19}}</ref>。

円周率は[[無理数]]であり、[[超越数]]でもある。

円周率の計算において功績のあった[[ルドルフ・ファン・コーレン|ルドルフ・ファン・クーレン]]に因み、'''ルドルフ数'''とも呼ばれる。ルドルフは小数点以下35桁まで計算した<ref>{{Cite book|和書 |author1={{仮リンク|Alfred S.Posamentier|en|Alfred S. Posamentier}} |author2=Ingmar Lehmann |translator=松浦俊輔 |title=不思議な数πの伝記 |publisher=日経BP |date=2005-11 |pages=62-63}}</ref>。小数点以下35桁までの値は次の通りである。<!-- 35桁くらいまでが実用的で、ルドルフによる計算の結果という歴史的な意味もある桁数です。大した意味もなくこの桁数を伸ばさないようにしてください。 -->
:<math>\pi = 3.14159 \, 26535 \, 89793 \, 23846 \, 26433 \, 83279 \, 50288 \ldots</math>

[[画像:Pi (made by LaTeX).svg|thumb|ギリシャ文字の {{π}} は円周率に代表される。]]

== 基礎 ==
=== 表記と呼び方 ===
円周率を表す[[ギリシア文字]] {{mvar|[[π]]}} は、[[ギリシア語]]でいずれも周辺・[[円周]]・周を意味する {{Lang|el|'''π'''ερίμετρος}}{{sfn|日本数学会|2007|pp=94-95}}<ref name="perimetros">{{Cite Kotobank |word=円周率 |encyclopedia=[[世界大百科事典]] 第２版 |accessdate=2021-02-26}}</ref>（ペリメトロス）あるいは {{Lang|el|'''π'''εριφέρεια}}<ref>{{Cite book|和書 |author=[[サイモン・シン]] |translator=[[青木薫]] |title=数学者たちの楽園―「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち― |publisher=[[新潮社]] |date=2016-05-27 |isbn=978-4105393069}}</ref>（ペリペレイア）の[[イニシャル|頭文字]]から取られた{{refnest|group="注"|ただし、これは明らかな根拠がない話であり、適切に表現すれば定まらないというのが正しい、という主張も見られる<ref name="πの文字使用について">[https://円周率.jp/define/pi.html 円周率.jp - π の文字使用について]</ref>。}}。文字 {{π}} を[[ウィリアム・オートレッド]]は[[1631年]]に著した著書において半円周の長さを表す文字として用い、[[アイザック・バロー]]は論文において半径 {{mvar|R}} の円周の長さとして用いた<ref name="πの文字使用について" />。[[ウィリアム・ジョーンズ (数学者)|ウィリアム・ジョーンズ]] (1706) や[[レオンハルト・オイラー]]らにより（現代と同じく）円周の直径に対する比率を表す記号として用いられ、それが広まった{{sfn|日本数学会|2007|pp=94-95}}<ref name="πの文字使用について" />。[[日本]]では「パイ」と発音する<ref name="perimetros" />。

数 {{π}} を指す言葉には、日本・中国・韓国における「円周率（圓周率）」、ドイツの「Kreiszahl」（Kreis は円（周）、Zahl は数の意）の他、それを計算した人物の名前を取った「[[アルキメデス]]数」（{{Lang-en-short|Archimedes' constant}}）、「[[ルドルフ・ファン・コーレン|ルドルフ]]数」（{{Lang-en-short|Ludolph's constant}}、{{Lang-de-short|Ludolphsche Zahl}}）などがある。一般にドイツ語を除くヨーロッパの諸言語には「円周率」に対応する単語はない<ref name="perimetros" /><ref>{{Cite book|和書 |author=[[杉浦光夫]] |title=解析入門I |publisher=東京大学出版会 |date=1980-03-31 |page=185 |isbn=4130620053}}</ref>。

なお、「{{π}}」の字体は、表示環境によっては[[キリル文字]]の [[П|{{lang|ru|п}}]] に近い {{Lang|el|π}} などと表示されることがある。また、ギリシャ文字「{{π}}」は、円周率とは無関係に、[[素数計数関数]]や、[[基本群]]・[[ホモトピー群]]、ある種の[[写像]]（射影など）を表すのに用いられることもある。

=== 定義 ===
[[画像:Pi eq C over d.svg|thumb|[[ユークリッド平面]]上において、全ての円は[[図形の相似|相似]]なので、円周 {{mvar|C}} と直径 {{mvar|d}} の比率 {{math|{{sfrac|''C''|''d''}}}} は一定 ({{π}}) である。]]
[[画像:Pi-unrolled-720.gif|thumb|直径 {{math|1}} の円の周長は {{π}}]]
[[ユークリッド幾何学|平面幾何学]]において、円周率 {{π}} は、[[円 (数学)|円]]の[[周長]]の直径に対する比率として定義される。すなわち、円の周長を {{mvar|C}}, 直径を {{mvar|d}} としたとき、
:<math>\pi = \frac{C}{d}</math>
である。全ての円は互いに[[図形の相似|相似]]なので、この比率は円の大きさに依らず一定である。

ところが、この定義は円の周長を用いているため、[[弧長|曲線の長さ]]を最初に定義していない[[解析学]]などの分野では、{{π}} が現れる際に問題となることがある。この場合、円の周長に言及せず、解析学などにおける性質の一つを {{π}} の定義とすることが多い{{sfn|Rudin|1976|p=183}}。この際の {{π}} の定義の一般なものとして、[[三角関数]] {{math|cos ''x''}} が {{math|0}} を取るような {{math2|''x'' > 0}} の最小値の2倍とするもの、[[級数]]による定義、[[積分|定積分]]による定義などがある。後述の[[#円周率に関する式]]も参照。

== 歴史 ==
{{See also|円周率の歴史}}
{{multiple image
|direction = vertical
|image1 = Cutcircle2.svg
|caption1 = 円に内接する正多角形による {{π}} の近似
|image2 = Archimedes pi.svg
|caption2 = 円に内接・外接する正多角形による {{π}} の近似。アルキメデスによる計算。
}}

=== 古代 ===
円周の直径に対する比率は円の大きさに依らず一定であり、それは [[3]] より少し大きい<ref group="注">これは、円周はそれに内接する正[[六角形]]の周より大きいことと[[同値]]である。</ref>ことは[[古代エジプト]]や[[バビロニア]]、[[古代インド|インド]]、[[古代ギリシア|ギリシア]]の[[幾何学]]者たちにはすでに知られていた。また、古代インドやギリシアの数学者たちの間では半径 {{mvar|r}} の円板の面積が {{math|''πr''{{sup|2}}}} であることも知られていた。さらに、[[アルキメデス]]は正{{math|96}}角形<!-- サイエンス・クエスト 科学の冒険 宇宙の生命、死の意味、数の世界 著者：アイリックニュートン -->を用いて半径 {{mvar|r}} の[[球体|球]]の体積が {{math|{{sfrac|4|3}}''πr''{{sup|3}}}} であることや、この球の[[表面積]]が {{math|4''πr''{{sup|2}}}}（その球の大円による切り口の面積の4倍）であることを導き出した。

円周率を[[小数]]で最初に記述したのは小数を発明した中国である。263年に魏の劉徽が3072角形を使用し3.14159と計算し、5世紀に[[祖沖之]]が十尺もの直径の円を使用して3.1415926<{{π}}<3.1415927 と求め、以後1000年間、全世界でこれ以上正確な計算はなされなかった。祖の計算が正確であったことは、1300年頃に趙友欽が16384辺の内接多角形により確かめた<ref>{{Cite book |editor-first=Joseph |editor-last=Needham |editor2-first=Tsuen-hsuin |editor2-last=Tsien |year=2001 |title=Science and civilisation in China. Pt. 1: Vol. 5. Chemistry and chemical technology Paper and printing / by Tsien Tsuen-Hsuin |volume=5 |edition=Repr |location=Cambridge |publisher=[[ケンブリッジ大学出版局|Cambridge Univ. Pr]] |isbn=978-0-521-08690-5}}</ref>。

=== 近代まで === 
{{出典の明記|section=1|date=2022-01}}
[[14世紀]][[インド]]の[[数学者]]・[[天文学者]]であるサンガマグラーマの[[マーダヴァ]]は次の {{π}} の[[級数]]表示を見いだしている（[[ライプニッツの公式]]）：
:<math>\frac{\pi}{4} =1-\frac{1}{3} +\frac{1}{5} -\frac{1}{7} +\cdots =\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{2n+1}</math>
これは[[逆正接関数]] {{math|Arctan ''x''}} の[[テイラー展開]]の {{math2|''x'' {{=}} 1}} での表式になっている。マーダヴァはまた、
:<math>\pi =\sqrt{12} \left( 1-\frac{1}{3\cdot 3} +\frac{1}{5\cdot 3^2} -\frac{1}{7\cdot 3^3} +\cdots \right)</math>
を用いて {{π}} の値を小数点以下11桁まで求めている。

17世紀、ドイツの[[ルドルフ・ファン・コーレン]]が正{{math|325}}億角形を使い、小数点以下第35位まで計算。1699年（または1706年）に[[エイブラハム・シャープ]]が小数点以下第72～127位まで求めた。

[[18世紀]][[フランス]]の数学者[[アブラーム・ド・モアブル]]は、ある定数 {{mvar|C}} を取ると、コインを {{math|2''n''}}回投げて表が {{mvar|x}}回だけ出る[[確率]]は、{{mvar|n}} が十分大きいとき
:<math>\frac{C}{\sqrt{n}} \exp \left\{ -\frac{(x-n)^2}{n} \right\}</math>
で近似できることを、{{math2|''n'' {{=}} 900}} における数値計算により見いだした。この[[正規分布]]の概念は[[1738年]]に出版されたド・モアブルの『巡り合わせの理論』に現れている。ド・モアブルの友人のジェイムズ・スターリングは後に、<math>C=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}</math> であることを示した。<!--モンテ・カルロ法は？-->

[[1751年]]に[[ヨハン・ハインリヒ・ランベルト]]は、{{mvar|x}} が {{math|0}} でない[[有理数]]ならば[[正接関数]] {{math|tan ''x''}} の値は[[無理数]]であることを示し、その系（の対偶）として {{π}} は無理数であることを導いた。さらに[[1882年]]に[[フェルディナント・フォン・リンデマン]]は {{π}} が[[超越数]]であることを示し、[[円積問題]]（与えられた長さを半径とする円と等積の[[正方形]]を[[定規とコンパスによる作図|作図]]する問題）は解くことができないことを導いた。

1873年、[[ウィリアム・シャンクス]]は彼自身の手で小数点以下第707位までを計算した（ただしその結果は途中で生じた誤りにより小数点以下第527位までしか正しくなかった）。

=== 和算における円周率の取り扱い ===
==== 江戸時代の初期の和算家の3.16 ====
江戸時代初期の数学書である[[毛利重能]]の『割算書』では円周率を3.16としている。その弟子の[[吉田光由]]の『[[塵劫記]]』でも3.16となっている{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=260}}。しかし、当時の先進国中国の文献にはこの3.16という数値は見られず、中国の文献の数値を引き写したとは考えにくいという{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=260}}。そのため、なぜ初期の[[和算]]家が円周率を3.16としたかの理由はよく分かっていない{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=260}}。おそらく、[[毛利重能]]とその弟子の吉田光由などの先駆者らは、円周率を実際に測定して3.14ないし3.16ほどの値を得たが、最後の桁の数字に確信が持てなかったため、「円のような美しい形を求める数値は、もっと美しい数値になっていいはずだ」と考え、「美しい理論」を求めた。その結果 {{math2|{{sqrt|10}} {{=}} 3.16}} が美しい数値として採用されたと推測されている{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=261}}。その考えは日本で2番目に3.14の値を計算で求めた野沢定長の『算九回』（[[延宝]]五年:1677年）の中にも見られ、その著書の中で「忽然として円算の妙を悟った」として「円周率の値は形＝経験によって求めれば3.14であるが、理＝思弁によって求めれば3.16である」として「両方とも捨てるべきでない」とした{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=261}}。

==== 和算家が計算した3.14 ====
江戸初期、1600年代前半頃から、円を対象とした和算的研究である「[[円理]]」が始まる。その最初のテーマの一つが円周率を数学的に計算する努力であり{{Sfn|中村邦光|2016|p=42}}、1663年に日本で初めて[[村松茂清]]が『算爼（さんそ）』において「円の内接多角形の周の長さを計算する方法」で3.14…という値を算出した{{Sfn|中村邦光|2016|p=42}}。『算爼』では円に内接する正8角形から角数を順次2倍していき、内接{{math|2{{sup|15}} {{=}} 32768}}角形の周の長さで、
:3.1415 9264 8777 6988 6924 8
と小数点以下21桁まで算出している。これは実際の値と小数第7位まで一致している{{Sfn|中村邦光|2016|p=42}}。その後1680年代に入ると、円周率の値を3.16とする数学書はなくなり、3.14に統一された{{Sfn|中村邦光|2016|p=42}}。1681年頃には[[関孝和]]が内接{{math|2{{sup|17}}}}角形（13万1072角形）の計算を工夫し、小数第16位まで現代の値と同じ数値を算出した。この計算値は関の死後1712年に刊行された『括要算法』に記されている{{Sfn|中村邦光|2016|p=42}}。

日本の[[和算]]家に特徴的なのは、1663年に3.14が初めて導き出されても、その後1673年までの10年間に円周率の値を3.14とした算数書のいずれもが、先行者の円周率をそのまま引き継ぐことをせず、それぞれ独自の値を提出していたことである{{Sfn|中村・板倉|1990a|p=228}}。この背景には当時の遺題継承{{refnest|group="注"|「遺題」は和算書の著者が「後の人のために残した問題」で、「遺題継承」とは「新しく和算書を著す人は前に出された和算書の遺題を解いた上で新しい問題を遺す」という習わし{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=262}}。}}運動に「他人の算法をうけつぐ」と共に「自己の算法を誇る」という性格があったためだという{{Sfn|中村・板倉|1990a|p=228}}。そのため古い3.16の値が疑われてから、遺題継承の際に必ずといってよいほど円周率の値が変えられている{{Sfn|中村・板倉|1990a|p=228}}。しかしながら江戸時代の3大和算書『塵劫記』『改算記』『算法闕疑抄』の増補改訂版では[[1680年代]]には3.14に統一された{{Sfn|中村・板倉|1990a|p=231-232}}。

==== 3.14から3.16への逆行 ====
しかし、遺題継承運動は1641年に始まって1699年頃には終わってしまい{{Sfn|板倉聖宣|1993|p=264}}、いったん3.14に統一された円周率の値は江戸時代後半になると揺らぎ始め、古い3.16に逆行するという現象が生じた{{Sfn|板倉・中村|1990a|p=189}}。[[文政]]年間（1818～30年）に出版された算数書とソロバン書を悉皆調査した結果では、円周率の値を3.14とするものと、3.16とするものの2系統があることが明らかにされた{{Sfn|板倉・中村|1990a|pp=209-211}}。いくらか専門的な数学書では3.14とされているのに、大衆向けの小冊子の中では3.16の方が普通に用いられていた{{Sfn|中村・板倉|1990a|p=213}}。

当時の識者である[[橘南谿]]（1754-1806年）は「いまに至り3.16あるいは3.14色々に論ずれども、なおきわめがたきところあり」と述べ、3.14はまだ確定していないとしている{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=246}}。[[儒学]]者の[[荻生徂徠]]も和算家の算出した3.14の根拠に納得しなかった{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=248}}。当時の和算家のほとんどは、円に内接する多角形の周を計算することで円周率を計算した。内接多角形の角数を増やすほど求まる円周率の桁は増えていくので、素人目にはその値が増大する一方に見える。「それがいくら増えても3.1416を超えない」ということを和算家たちはついに納得させることができなかったのである{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=248}}。

そのような和算家以外の素人たちを納得させるには、どうしても万人に納得させる「理」に基づいて計算してみせる他はない{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=248}}。それを行うには西洋で行われたように、「円を内接多角形と外接多角形ではさんで、円周率の上限と下限を示すこと」が必要であったが、（次の鎌田による成果を例外として）和算家はついにその方法を取ることがなかった{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=248}}。

==== 宅間流和算の円周率 ====
日本で唯一「円周を内接・外接多角形で挟み込んで円周率の上限と下限を示す」ことに成功したのは鎌田俊清（1678-1747年）が[[享保]]七年（1722年）に著した『宅間流{{refnest|group="注"|「宅間流」は関西地方の和算の一会派で、鎌田俊清だけは、他の和算家とは違う道を追求していた。宅間流は和算家の中では小会派であったが、一門の中から[[高橋至時]] (1764-1804)、[[間重富]] (1756-1816) などの暦学関係の主要な人物を輩出し、[[寛政]]暦の編纂に従事した{{Sfn|中村邦光|2016|p=46}}。}}円理』である。その値は以下の通りである{{Sfn|中村邦光|2016|p=45}}。
:内周：3.1415 9265 3589 7932 3846 2643 3665 8
:外周：3.1415 9265 3589 7932 3846 2643 4166 7
鎌田は円周率の小数点以下24桁まで正しいと確信しうる円周率の値を算出することに成功していた{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=249}}。しかし、鎌田の方法は後継者を持たず、当時の識者に知られることがなかった{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=249}}。

==== 級数展開による算出 ====
日本の数学史では[[級数]]による値の算出は広く一般的であった。円周率の級数による公式は多くの学者に研究されており、[[蜂谷定章]]、[[松永良弼]]、[[坂部広畔]]、[[川井久徳]]、[[長谷川寛]]らによるものがある<ref>{{Cite journal|和書 |author=小川束 |title=松永良弼の綴術について (数学史の研究) |url=https://hdl.handle.net/2433/64833 |journal=数理解析研究所講究録 |issue=1195 |publisher=京都大学数理解析研究所 |date=2001-04 |pages=154-164 |issn=1880-2818 |naid=110000165190 |accessdate=2022-01-20}}</ref>。また、[[建部賢弘]]は円周率の二乗を求める日本初の公式を考案した<ref>{{Cite web|和書 |title=第2章 関孝和 コラム 円周率 |url=https://www.ndl.go.jp/math/s1/c4.html |website=国立国会図書館 |accessdate=2022-01-20}}</ref>。

==== 和算の限界 ====
日本の和算の弱点は単に理論面の弱さにとどまらず、万人が納得できる正しい円周率の教育・啓蒙への関心も失ったことであった{{Sfn|中村邦光|2016|p=47}}。そのため和算家たちがいくら円周率は3.14…と書いたところで、『塵劫記』の古い円周率3.16の値がそのまま残存する結果となった{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=249}}。『塵劫記』の重版（1694年）などは古い円周率3.16のまま出版され続け、18世紀に大衆的な通俗算数書が大量に出版される際に、必ずというほど3.16という値を引き継ぐようになってしまった{{Sfn|中村・板倉|1990b|p=253}}。

18世紀半ば以降の和算は数学的証明の概念の追求は無視され、せっかく宅間流の鎌田俊清がその独創的方法で正しい円周率を算出しても、全く継承されなかった{{Sfn|中村邦光|2016|p=47}}。江戸時代後半の和算家は家元制度的な秘密主義と保守主義と、権威主義が在野の独創性を無視し、結果として学問の進歩を妨げることとなった{{Sfn|中村邦光|2016|p=47}}。

=== コンピュータの利用 ===
[[画像:Record pi approximations.svg|450px|thumb|円周率の小数部分の判明した桁数と時期の関係。このグラフの縦目盛りは[[対数スケール]]である。新たなアルゴリズムが開発され、コンピュータが利用できるようになると、判明した桁数は劇的に増加した。]]
[[20世紀]]以降、計算機の発達により、計算された円周率の桁数は飛躍的に増大した。[[1949年]]に、電子計算機[[ENIAC]]を使い72時間かけて、円周率は2037桁まで計算された<ref>"An {ENIAC} Determination of pi and e to more than 2000 Decimal Places", Mathematical Tables and Other Aids to Computation, 4 (29), pp.11-15.（1950年1月）</ref>。その後の数十年間、様々な[[計算機科学]]者や[[計算科学]]者など、あるいはコンピュータの[[アマチュア]]によって計算は進められ、[[1973年]]には100万桁を超えた。この進歩は、[[スーパーコンピュータ]]の開発だけによるものではなく、効率の良い[[アルゴリズム]]が考案されたためである。そのうちの最も重要な発見の一つとして、[[1960年代]]の[[高速フーリエ変換]]がある。これにより、[[任意精度演算|多倍長]]の演算が高速に実行できるようになった。

2022年6月9日に、[[Google]]の技術者、[[岩尾エマはるか]]が[[Google Cloud Platform|Google Cloud]]で、チュドノフスキー級数を使い、157日23時間かけて100兆桁を計算したと発表<ref name=":1">{{Cite web |title=Even more pi in the sky: Calculating 100 trillion digits of pi on Google Cloud |url=https://cloud.google.com/blog/products/compute/calculating-100-trillion-digits-of-pi-on-google-cloud?hl=en |accessdate=2022-10-17}}</ref>。

== 性質 ==
=== 無理性 ===
[[画像:PI constant.svg|thumb|{{π}} は無理数であるため、循環しない無限[[小数]]である。]]
{{For2|円周率は無理数であることの証明|円周率の無理性の証明}}
{{π}} は[[無理数]]である。つまり、2つの整数の商で表すことはできず、小数展開は循環しない。このことは[[1761年]]に[[ヨハン・ハインリヒ・ランベルト]]が証明したが、厳密性に欠けた部分があった。その部分は[[1806年]]に[[アドリアン＝マリ・ルジャンドル|ルジャンドル]]によって補われた。

したがって、円周率の[[コンピュータ]]による計算や[[暗唱]]、[[十進法]]表示での小数部分の各数字 (0, 1, …, 9) の出現頻度は、人々の興味の対象となる。

[[画像:Squaring the circle caimi.svg|thumb|{{π}} は超越数であるため、[[定規とコンパスによる作図#定規とコンパスでできる作業|コンパスと目盛の無い定規]]を有限回用いて[[円積問題|円と等面積の正方形を作図すること]]は不可能である。]]

=== 超越性 ===
{{For2|円周率は超越数であることの証明|リンデマンの定理}}
さらに、{{π}} は[[超越数]]である。つまり、[[有理数]]係数の[[代数方程式]]の解にはならない。これは[[1882年]]に[[フェルディナント・フォン・リンデマン]]によって証明された（[[リンデマンの定理]]）。これより、[[整数]]から[[四則演算]]と[[冪根]]をとる操作だけを有限回組み合わせてもけっして {{π}} の値は得られないことが分かる。

{{π}} が超越数であることから直ちに、[[古代ギリシア]]の三大作図問題の内の一つである「[[円積問題]]」（与えられた長さを半径とする円と等積の正方形を[[定規とコンパスによる作図|目盛の無い定規とコンパスを「有限回」用いて作図]]すること）は不可能なことが結論される。

=== ランダム性 ===
2022年10月の時点で、{{π}} は小数点以下100兆桁<!--を超える桁-->まで計算されている<ref name=":1" />。そして、分かっている限りでは 0 から 9 までの数字が[[ランダム]]に現れているようには見えるが、それが[[乱数列]]といえるかどうかははっきりとは分かっていない。たとえば {{π}} が[[正規数]]であるかどうかも分かっていない。正規数であれば {{π}} の[[十進法|10進表示]]において、各桁を順に取り出して得られる[[数列]]<ref>{{OEIS|A796}}</ref>：
:3, 1, 4, 1, 5, 9, 2, 6, 5, 3, 5, …
には、0 から 9 が均等に現れるはずだが分かっておらず、それどころか、0 から 9 がそれぞれ無数に現れるのかどうかすら分かっていない。もし仮に正規数でないとすれば、乱数列でもないということになる。<!--

ベイリーとクランドールの[[2000年]]の発表によると、[[ベイリー＝ボールウィン＝プラウフ]]の式を用いて[[二進法|2進表示]]で様々な桁の計算をした結果では、各数字の出現率は[[カオス理論]]に基づいていると推測できるようである。--><!--「カオス理論に基づいている」ならば、「円周率自体を求める計算をしなくても、どんどんその先の桁の数が得られる決定論的法則が存在する」というものすごい画期的な話になってしまうと思うので、（この説明は）どこかがおかしいのでは？-->

5兆桁までの数字の出現回数は以下の通りである。全てほぼ等しく（約0.0005%の違いに収まる）、最も多いのは '''8''' で、最も少ないのは '''6''' である。
: '''0'''：4999億9897万6328回
: '''1'''：4999億9996万6055回
: '''2'''：5000億0070万5108回
: '''3'''：5000億0015万1332回
: '''4'''：5000億0026万8680回
: '''5'''：4999億9949万4448回
: '''6'''：4999億9893万6471回
: '''7'''：5000億0000万4756回
: '''8'''：5000億0121万8003回
: '''9'''：5000億0027万8819回

=== 連分数 ===
{{See also|連分数}}
分母を整数と分数の和で表すことを続けていった表示を[[連分数]]という。「整数」を最大にしていくと、分子を全て 1 にできる：
:<math>a_0 + \cfrac{1}{a_1 + \cfrac{1}{a_2 + \cfrac{1}{ \ddots + \cfrac{1}{a_n}}}}</math>
{{pi}} は[[無理数]]であるから、円周率 {{pi}} の連分数展開は有限項では終わらず無限項の連分数となる：
:<math>\pi=3+ \cfrac{1}{7+ \cfrac{1}{15+ \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{292+ \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{1+ \cfrac{1}{1+\ddots}}}}}}}</math>
上記の正則連分数展開（すべての分子が 1 である連分数）を途中で打ち切ると、{{pi}} の良い有理数近似が得られる。その最初の4つは {{math2|3, {{sfrac|22|7}}, {{sfrac|333|106}}, {{sfrac|355|113}}}} である。これらは古くからよく知られ使用されてきた近似値である。これらはそれぞれ分母が大きくないどの分数よりも {{pi}} に近く<ref>{{harvnb|Eymard|Lafon|1999|p=78}}</ref>、{{pi}} の最良有理数近似である。

さらに、{{pi}} は[[超越数]]である（つまり[[代数的数]]でない）ことが知られている。一般に、正則連分数の分母に現れる整数部が循環するのは{{ill2|二次無理数|en|Quadratic irrational number}}（有理係数の二次方程式の解となるような代数的数）に限られ、{{pi}} は二次無理数でないため{{ill2|循環連分数|en|periodic continued fraction}}として表せない。加えて {{pi}} の正則連分数は規則性を示さないが<ref>{{Cite OEIS |sequencenumber=A001203 |name=Continued fraction for Pi |accessdate=2022-07-01}}</ref>、{{pi}} の{{ill2|一般化連分数|en|Generalized continued fraction}}では以下の規則をもつものが知られている<ref>{{Cite journal |first=L.J. |last=Lange |date=1999-05 |title=An Elegant Continued Fraction for {{pi}} |journal=[[The American Mathematical Monthly]] |volume=106 |issue=5 |pages=456-458 |doi=10.2307/2589152 |issn=0002-9890 |jstor=2589152}}</ref>：
:<math>\begin{align}
\pi &= \cfrac{4}{1+ \cfrac{1^2}{2+ \cfrac{3^2}{2+ \cfrac{5^2}{2+ \cfrac{7^2}{2+ \cfrac{9^2}{2+\ddots}}}}}}
=3+ \cfrac{1^2}{6+ \cfrac{3^2}{6+ \cfrac{5^2}{6+ \cfrac{7^2}{6+ \cfrac{9^2}{6+\ddots}}}}} \\[8pt]
& = \cfrac{4}{1+ \cfrac{1^2}{3+ \cfrac{2^2}{5+ \cfrac{3^2}{7+ \cfrac{4^2}{9+\ddots}}}}}
\end{align}</math>

== 未解決問題 ==
{{main|数学上の未解決問題}}
* 次の数は[[超越数]]か？
:<math>\pi \pm e, \, \pi e, \, \frac{\pi}{e}, \, \pi^{\pi}, \, \pi^e, \, \pi^{\sqrt{2}}, \, e^{\pi^2}</math>
:* ただし、<math>\pi\pm e</math>と<math>\pi e,\frac{\pi}{e}</math>は両者少なくとも一方は[[超越数]]であることは分かっている{{要出典|date=2024年1月}}。
* {{π}} は[[正規数]]か？

== 円周率に関する式 ==
{{π}} についての式は非常に多い。ここではその一部を紹介する。数式によってはそれ自体が {{π}} の定義になり得るし、{{π}} の[[近似値]]の計算などにも使われてきた。

=== 幾何 ===
[[画像:Circle Area.svg|thumb|円の面積は、1辺が半径の正方形（灰色）の面積の {{π}}倍である。]]
[[画像:Ellipse axis.svg|thumb|長半径 {{mvar|a}}, 短半径 {{mvar|b}} の楕円の面積は {{mvar|πab}} に等しい。]]
* 半径 {{mvar|r}} の[[円 (数学)|円]]の[[周長]]：<math>2 \pi r</math>
* 半径 {{mvar|r}} の[[円の面積]]：<math>\pi r^2</math>
* 半径 {{mvar|r}} の[[球体|球]]の[[体積]]：<math>{4 \over 3} \pi r^3</math>
* 半径 {{mvar|r}} の球の[[表面積]]：<math>4 \pi r^2</math>
* [[軌道長半径|長半径]] {{mvar|a}}, [[軌道短半径|短半径]] {{mvar|b}} の[[楕円]]の面積：<math>\pi ab</math>
* <math>180^\circ=\pi</math> [[ラジアン|rad]]

=== 解析（特殊関数と虚数を除く） ===
* [[ライプニッツの公式]]、[[#2千年紀]]、[[逆三角関数|逆正接関数]]も参照
:<math>\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{2n+1} = 1-\frac{1}{3} +\frac{1}{5} -\frac{1}{7} +\cdots = \frac{\pi}{4}</math>
* マーダヴァの公式、[[逆三角関数|逆正接関数]]も参照
:<math>\sqrt{12}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{3^n (2n+1)}=\sqrt{12} \left( 1-\frac{1}{3\cdot 3} +\frac{1}{5\cdot 3^2} -\frac{1}{7\cdot 3^3} +\cdots \right) = \pi</math>
* [[ジョン・ウォリス|ウォリス]]の公式
:<math>\prod_{n=1}^{\infty} \frac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)} = \frac{2^2}{1 \cdot 3} \cdot \frac{4^2}{3 \cdot 5} \cdot \frac{6^2}{5 \cdot 7} \cdot \frac{8^2}{7 \cdot 9} \cdots =\frac\pi2</math>
* <math>\prod_{n=1}^{\infin} \frac{n^2+n}{n^2+n+\frac{1}{4}} = \frac{8}{9} \cdot \frac{24}{25} \cdot \frac{48}{49} \cdot \frac{80}{81} \cdot \frac{120}{121} \cdot \frac{168}{169} \cdot \frac{224}{225} \cdot \frac{288}{289} \cdots = \frac{\pi}{4}</math>
*[[フランソワ・ビエト|ビエト]]の公式
:<math>\prod_{n=1}^{\infty} \cos \frac{90^\circ}{2^n} = \sqrt{\frac{1}{2}} \sqrt{\frac{1}{2} +\frac{1}{2} \sqrt{\frac{1}{2}}} \sqrt{\frac{1}{2} +\frac{1}{2} \sqrt{\frac{1}{2} +\frac{1}{2} \sqrt{\frac{1}{2}}}} \cdots =\frac{2}{\pi}</math>
* <math>\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2 2^{n-1}} +(\log 2)^2 = \frac{\pi^2}{6}</math>（[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]）
[[画像:Gauss integral caimi.svg|thumb|関数 {{math2|''y'' {{=}} exp(&minus;''x''{{sup|2}})}} のグラフと {{mvar|x}}軸で囲まれた部分の面積は {{math|{{sqrt|{{π}}}}}} である。（[[ガウス積分]]）]]
* <math>\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2} \, dx=\sqrt{\pi}</math>（[[ガウス積分]]）
* <math>\pi =2\int_0^1 \frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}</math>{{Sfn|黒田|2002|p=176}}
* <math>\pi =\int_{-1}^1 \frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}</math>
* <math>\pi =2\int_{-1}^1 \sqrt{1-t^2} \, dt</math>
* <math>\pi =4\int_0^1 \frac{dt}{1+t^2}</math>
* <math>\pi =\int_{-\infty}^\infty \frac{dt}{1+t^2}</math>
* [[逆三角関数]]は[[主値]]を取るものとすると
: <math>\begin{align}
\pi &=2\arccos 0 \\
    &=2\arcsin 1 \\
    &=4\arctan 1
\end{align}</math>
* 逆三角関数（逆正弦関数）の公式より
: <math>\pi =2\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n+1)(2n)!!}</math>
* 逆三角関数（逆正接関数）の公式より
** 逆正接関数のテイラー展開による：<math display="block">\begin{align}
\pi &=4\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{2n+1}
\end{align}</math>
** オイラーによる<ref>{{Cite journal |last=Chien-Lih |first=Hwang |year=2005 |title=89.67 An Elementary Derivation of Euler's Series for the Arctangent Function |url=https://www.jstor.org/stable/3621947 |journal=The Mathematical Gazette |volume=89 |issue=516 |pages=469-470 |issn=0025-5572}}</ref>：<math display="block">\begin{align}
\pi &=2\sum_{n=0}^{\infty} \cfrac{n!}{(2n+1)!!} \\
    &=\sum_{n=0}^{\infty} \cfrac{2^{n+1} (n!)^2}{(2n+1)!}
\end{align}</math>
* [[双曲線関数]]（双曲線余接関数）の公式より
:<math>\frac{1}{e^2-1}= \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{(n\pi)^2+1}</math>
* [[アイザック・ニュートン|ニュートン]]の無平方根公式<ref>{{Cite web|和書 |title=ニュートンの無平方根公式 |url=https://newton314jp.crayonsite.net |accessdate=2021-02-28}}</ref>
:<math>\begin{align}
\pi &= 3\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(2n)!}{(2n+1)16^n (n!)^2} \\
    &= 3\sum^{\infin}_{n=0} \frac{(n+1)C_n}{(2n+1)16^n}
\end{align}</math>
:（{{mvar|C{{sub|n}}}} は[[カタラン数]]）この式は、
:<math>\pi=6\arcsin\frac{1}{2}</math> のマクローリン級数となっている<ref name="piqt">{{Cite web|和書 |title=円周率の公式集 暫定版 Ver.3.141 |url=http://www.pluto.ai.kyutech.ac.jp/~matumoto/dvi/pi.pdf |format=pdf |publisher=松元隆二 |date=2000-12-26 |accessdate=2021-02-23}}</ref>。
* [[マチンの公式]]（[[ジョン・マチン|マチン]]、1706年<ref name="piqt"/><ref>{{Cite web |title=The world of Pi - Machin |url=http://www.pi314.net/eng/machin.php |publisher=Boris Gourévitch |accessdate=2021-02-23}}</ref>（1709年とも））
:<math>4\arctan \frac{1}{5} -\arctan \frac{1}{239} =\frac{\pi}{4}</math>
:<math>4\arccot 5-\arccot 239=\frac{\pi}{4}</math> と書かれることもある。
:{{math|4}} と {{math|{{sfrac|1|4}}}} が[[二進法]]と相性が良く、収束も早いため、コンピュータでの円周率計算によく使われる公式の一つである。
* {{math|{{sfrac|4|{{π}}}}}} の[[連分数]]表示
:<math>\frac{4}{\pi} =1+
 \cfrac{1}{3+
  \cfrac{4}{5+
   \cfrac{9}{7+
    \cfrac{16}{9+
     \cfrac{25}{\ddots}}}}}
</math>
* [[ガウス＝ルジャンドルのアルゴリズム]]
::初期値の設定：
:::<math>a_0 =1,\quad b_0 =\frac{1}{\sqrt{2}} ,\quad t_0 =\frac{1}{4} ,\quad p_0 =1.</math>
::反復式：{{math2|''a{{sub|n}}'', ''b{{sub|n}}''}} が希望する桁数になるまで以下の計算を繰り返す。小数第{{mvar|n}}位まで求めるとき {{math|log{{sub|2}} ''n''}}回程度の反復でよい。
:::<math>\begin{align}
a_{n+1} &=\frac{a_n + b_n}{2}, \\
b_{n+1} &=\sqrt{a_n b_n}, \\
t_{n+1} &=t_n -p_n (a_n -a_{n+1})^2, \\
p_{n+1} &=2p_n.
\end{align}</math>
::{{π}} の算出：円周率 {{π}} は、{{math2|''a{{sub|n}}'', ''b{{sub|n}}'', ''t{{sub|n}}''}} を用いて以下のように近似される。
:::<math>\pi \approx \frac{1}{4t_n}(a_n + b_n)^2</math>
:非常に収束が早く<ref group="注">3回の反復で小数18位まで求めることができる</ref>、[[金田康正]]が1995年に42億桁、2002年に1.24兆桁を計算した[[スーパーπ|スーパー {{π}}]] に使われていた。
* <math>n!\sim \sqrt{2\pi n} \left( \frac{n}{e} \right)^n</math>（[[スターリングの近似]]。{{math|''f''&thinsp;(''n'') ∼ ''g''(''n'')}} は <math>\lim_{n\to\infty} \frac{f(n)}{g(n)} =1</math> を表す）
* <math>\frac{1}{\pi} =\frac{2\sqrt{2}}{99^2} \sum_{n=0}^\infty \frac{(26390n+1103) \cdot (4n)!}{(4^n 99^n \cdot n!)^4}</math>（[[シュリニヴァーサ・ラマヌジャン|ラマヌジャン]]）
* <math>\frac{4}{\pi} =\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n (21460n+1123) \cdot (4n)!}{882^{2n+1} (4^n n!)^4}</math>（ラマヌジャン）
* <math>\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n}{e^{2\pi n}-1}=\frac{1}{24}-\frac{1}{8\pi}</math>（ラマヌジャン）
* <math>\frac{1}{\pi} =\frac{12}{C_0 \sqrt{C_0}} \sum_{n=0}^\infty \frac{(C_2 n + C_1) \cdot (6n)!}{(-C_0)^{3n} \cdot (3n)! \cdot (n!)^3}</math>（{{仮リンク|チュドノフスキー兄弟|en|Chudnovsky brothers}}）<ref name=":0">{{Cite web|和書 |title=円周率πを速く正確に計算する公式集 - ライブドアニュース |url=https://news.livedoor.com/article/detail/12834228/ |accessdate=2022-01-09}}</ref>
: （各定数と、その素因数分解：
:: {{math|1={{mvar|C}}{{sub|0}} = 640320 = 2{{sup|6}} × 3 × 5 × 23 × 29,}}
:: {{math|1={{mvar|C}}{{sub|1}} = 13591409 = 13 × 1045493,}}
:: {{math|1={{mvar|C}}{{sub|2}} = 545140134 = 2 × 3{{sup|2}} × 7 × 11 × 19 × 127 × 163.}}）
* <math>\frac{1}{\pi} =
\frac{12}{C_2\sqrt{C_2}} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}(6n)!(C_0 + C_1 n)}{(3n)!(n!)^3 C_2 ^n}</math> ({{仮リンク|Peter Borwein|en|Peter Borwein}}, {{仮リンク|Jonathan Borwein|en|Jonathan Borwein}})<ref name=":0"/>
:（各定数の値：
::{{math|''C''{{sub|0}} {{=}} 1657145277365+212175710912{{sqrt|61}},}}
::{{math|''C''{{sub|1}} {{=}} 107578229802750+3773980892672{{sqrt|61}},}}
::{{math|''C''{{sub|2}} {{=}} 1249638720+159999840{{sqrt|61}}.}}）
* David Bailey, Peter Borwein, および[[サイモン・プラウフ]]によるもの（[[ベイリー＝ボールウェイン＝プラウフの公式]]・俗称 "BBP"）、Adamchik と Wagon によるもの、Fabrice Bellard によるもの<ref>{{PDFlink|[https://bellard.org/pi/pi_bin.pdf A new formula to compute the n'th binary digit of pi - Fabrice Bellard]}}</ref><ref name="piqt" />等については、あまりに高度なため割愛する。

=== 複素解析 ===
[[画像:Euler's formula caimi.svg|thumb|[[オイラーの公式]]の図形的表現。複素数平面において、複素数 {{mvar|e{{sup|iφ}}}} は、単位円周上の偏角 {{mvar|φ}} の点を表す。この公式より[[オイラーの等式]]が導かれる。]]
* <math>e^{i\pi} +1 = 0</math>（[[オイラーの等式]]）
* <math>\sum\limits_{k=0}^{n-1} e^{i\cdot \frac{2\pi k}{n}} = 0</math>（{{mvar|n}} は {{math|2}} 以上の整数）
: 後者はオイラーの等式の一般化であり、[[1の冪根|{{math|1}} の {{mvar|n}}乗根]]の総和は {{math|0}} になることを示している。{{math2|''n'' {{=}} 2}} とするとオイラーの等式になる。

* <math>\pi = 4 + \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n!} \left( \frac{1}{n+\lambda} - \frac{4}{2n+1} \right) \left( \frac{(2n+1)^2}{4(n+\lambda)} - n \right)_{n-1}</math>（{{仮リンク|Aninda Sinha|en|Aninda Sinha}}、{{仮リンク|Arnab Saha|en|Arnab Saha}}）<ref>{{Cite web |title=Field Theory Expansions of String Theory Amplitudes |url=https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.221601 |publisher=[[アメリカ物理学会|APS]] |date=2024-05-28 |accessdate=2025-02-20}}</ref><ref>{{Cite web |title=IISc physicists find a new way to represent ‘pi’|url=https://iisc.ac.in/events/iisc-physicists-find-a-new-way-to-represent-pi/ |publisher={{仮リンク|Indian Institue of Science|en|Indian Institute of Science}} |date=2024-06-18 |accessdate=2025-02-20}}</ref>
: {{mvar|λ}} は特定の条件を満たす適当な[[複素数]]であり、{{mvar|λ}} の値を変えることで収束スピードを調整できる。
: [[超弦理論]]の研究に必要な計算を簡略化する[[最適化問題]]を解く過程で偶然に発見されたものだが、少ない計算量で真値に収束する数学的に優れた式でもある。
: この式の背景となったモデルには[[ベータ関数]]と[[ファインマン・ダイアグラム]]が用いられており、[[量子]]の[[相互作用]]について記述することが可能である。

=== 特殊関数 ===
* <math>\zeta (2)=\frac{1}{1^2} +\frac{1}{2^2} +\frac{1}{3^2} +\frac{1}{4^2} +\cdots =\frac{\pi^2}{6}</math>（[[1735年]]：[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]、[[バーゼル問題]]、[[リーマンゼータ函数|ゼータ関数]]）
* <math>\zeta (4)=\frac{1}{1^4} +\frac{1}{2^4} +\frac{1}{3^4} +\frac{1}{4^4} +\cdots =\frac{\pi^4}{90}</math>
* <math>\zeta (2n)=\frac{(-1)^{n-1} 2^{2n-1} B_{2n}}{(2n)!} \pi^{2n} \ (n\in \mathbb{N})</math>（{{mvar|B{{sub|n}}}} は[[ベルヌーイ数]]）
* <math>\Gamma \biggl( \frac{1}{2} \biggr) = \biggl( -\frac{1}{2} \biggr)! = \sqrt{\pi}</math>（[[ガンマ関数]]）

=== 数論 ===
* [[整数]]全体から無作為に2つ取り出すとき、その2つが[[互いに素 (整数論)|互いに素]]である確率は {{math|{{sfrac|6|{{π}}{{sup|2}}}}}} である（[[互いに素_(整数論)#互いに素である確率]]を参照）。

=== 力学系・エルゴード理論 ===
[[ロジスティック写像]] {{math2|1=''x''{{sub|''i''+1}} = 4''x{{sub|i}}''(1 &minus; ''x{{sub|i}}'')}} により帰納的に定まる[[数列]] {{math|{{mset|''x{{sub|i}}''}}}} を考える。初期値 {{math|''x''{{sub|0}}}} を {{math|0}} 以上 {{math|1}} 以下に取るとき、その[[ほとんど (数学)|ほとんど全て]]で、次が成り立つ。
* <math>\lim_{n\to \infty} \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \sqrt{x_i} =\frac{2}{\pi}</math>

=== 統計 ===
* <math>f(x)=\frac{1}{\sigma\sqrt{2\pi}} \, \exp \biggl[ -\frac{(x-\mu )^2}{2\sigma^2} \biggr]</math>（[[正規分布]]の[[確率密度関数]]）
* 幅 {{math|1}} の無数の[[平行]]線の上から長さ {{math|{{sfrac|1|2}}}} の針を落とすとき、その針が直線と共有点を持つ確率は {{math|{{sfrac|1|{{π}}}}}} である（[[ビュフォンの針]]）。

=== その他 ===
* [[川|河川]]の長さの[[水源]]・[[河口]]間の直線距離に対する比率は、平均すると円周率に近い<ref>{{Cite book|和書 |author=[[サイモン・シン]] |translator=[[青木薫]] |title=フェルマーの最終定理 |publisher=[[新潮社]] |year=2000 |isbn=4-10-539301-4 |page=42}}</ref>。

== 暗唱 ==
=== 語呂合わせ ===
{{main|{{仮リンク|Piphilology|en|Piphilology}}}}
{{π}} の桁を[[記憶術]]に頼らずに[[暗記]]する方法が各種存在している。

日本語では、[[語呂合わせ]]により、長い桁を暗記するのも比較的簡単である。有名なものとして、以下がある。
{{quote|産医師異国ニ向コー、産後厄無ク産婦御社ニ虫サンザン闇ニ鳴ク<ref>{{Cite book|和書 |author=[[マーティン・ガードナー]] |translator=金沢養 |title=現代の娯楽数学 新しいパズル・マジック・ゲーム |publisher=白揚社 |date=1960-11 |page=144}}</ref>}}
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=0 style="text-align:center"
|（||産||医||師||異||国||ニ||向||コー、||産||後||厄||無||ク||産||婦||御||社||ニ||虫||サン||ザン||闇||ニ||鳴||ク||）|）
|-
| ||3.||1||4||1||59||2||6||5||3||5||89||7||9||3||2||3||846||2||64||3||3||83||2||7||9||（30桁）|（小数以下30桁）
|}
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=0 style="text-align:center"
|産||医||師||異||国||に||向||かう。||産||後||厄||な||く、||産||に||産||婆、||四||郎||二||郎||死||産、||産||婆||産||に||泣||く。||困る||に||母||よ||行||く||な。||一||郎||苦||産で||苦が続き、||美||奈||子||一人||を||小||屋||に||置||く。||
|-
|3.||1||4||1||59||2||6||5||3||5||89||7||9||3||2||3||8||4||6||2||6||4||3||3||8||3||2||7||9||50||2||88||4||1||9||7||1||6||9||3||99||3||7||5||1||0||5||8||2||0||9||（小数以下55桁）<ref>{{Cite book|和書 |author=[[小泉袈裟勝]] |title=単位もの知り帳 |publisher=[[彰国社]] |series=彰国社サイエンス |date=1986-12-10 |page=119 |isbn=4395002161}} 小泉が見聞した一番長いものとしている。</ref>
|}
全く傾向が異なるものとして、
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=0 style="text-align:center"
|身||一つ、||宵、||獄||に||向||こう。||惨たるかな||医||薬||な||く||
|-
|3.||1||41||59||2||6||5||3||5||89||7||9||||（小数以下14桁）<ref>{{Cite book|和書 |author=[[小泉袈裟勝]] |title=単位もの知り帳 |publisher=[[彰国社]] |series=彰国社サイエンス |date=1986-12-10 |page=119 |isbn=4395002161}} 小泉は「どれも陰惨な文章なのは妙だが、･･･」と書いている。</ref>
|}

{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=0 style="text-align:center"
|身||ひとつ||よ||人の、||いづこに||婿見、||いつ、||厄なく||見つ、||文や||読むらん
|-
|3.||1||4||1||592||653||5||8979||3||238||46||（小数以下20桁）<ref>[https://aucfree.com/items/k468122620 難かしい公式も樂に覺えられる算術うた繪本（わかもと物識繪本第2輯）] 3ページ写真 円周率、1937年4月</ref>
|}

[[英語圏]]では語呂合わせがうまくいかないため、[[語|単語]]の文字数で覚える方法がある。
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=5 style="text-align:center"
|-style="font-style:italic"
|Yes,||I||have||a||number.||
|-
|3.||1||4||1||6||（小数以下4桁までで四捨五入）
|}
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=5 style="text-align:center"
|-style="font-style:italic"
|Can||I||find||a||trick||recalling||Pi||easily?||
|-
|3.||1||4||1||5||9||2||6||（7桁、また「{{π}} を簡単に思い出せるトリックってある？」という文章自体がその質問の答えにもなっている）
|}
{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=5 style="text-align:center"
|-style="font-style:italic"
|How||I||like||a||drink,||alcoholic||of||course,||after||the||heavy||lectures||involving||quantum||mechanics!||<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/translation/IUPAC/iupac/iupac_green_book_jp.pdf IUPAC 物理化学で用いられる量・単位・記号 第3版] p.137、5 基礎物理定数、よく使われる数学定数の値、ISBN 978-4-06-154359-1、講談社サイエンティフィク、2009年4月20日第1刷</ref>
|-
|3.||1||4||1||5||9||2||6||5||3||5||8||9||7||9||（小数以下14桁）
|}

3桁目の like を want としたものもある（出典は不明）。 

{|border=0 cellpadding=0 cellspacing=5 style="text-align:center"
|-style="font-style:italic"
|And||if||the||lectures||were||boring||or||tiring,||then||any||odd||thinking||was||on||quartic||equations||again.||
|-
|3||2||3||8||4||6||2||6||4||3||3||8||3||2||7||9||5||（上に続けて、31桁）S. ボトムリー
|}
これらのような覚え方は多くあり、日本語では上記のものの改編で90桁までのものや、歌に合わせたもの、数値を文字に置き換えて1,000桁近く覚える方法などがある。

=== 暗唱記録 ===
[[2004年]][[9月25日]]、[[原口證]]が8時間45分かけて円周率5万4000桁の暗唱に成功し、従来の世界記録を更新した。しかしながら、実際はより多くの桁を覚えていたため、[[2005年]][[7月1日]] - [[7月2日]]に再挑戦し、8万3431桁までの暗唱に成功した。[[2006年]][[10月3日]]午前9時 - [[10月4日]]午前1時30分（16時間30分）の挑戦で円周率10万桁の暗唱に成功した{{要出典|date=2022年3月}}。

2022年2月現在で『ギネス世界記録』に認定されている円周率暗唱の世界記録は、[[2015年]][[3月21日]]にRajveer Meenaが10時間近くかけて暗唱した7万桁である<ref>{{Cite web |title=Most Pi places memorised |url=https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/most-pi-places-memorised |publisher=Guinness World Records |accessdate=2021-03-03}}</ref>。

== 文化的影響 ==
{{節スタブ}}
[[画像:Matheon2.jpg|thumb|[[ベルリン工科大学]]数学科の近くにあるタイル]]
[[画像:Pi pie2.jpg|thumb|alt=Pi Pie at Delft University|{{π}}のパイ。[[パイ]]は円形かつ"パイ"と{{π}}は[[同音異義語]]であるため、駄洒落の対象にされる。]]
[[円 (数学)|円]]という日常でもよく知られた図形についての単純な定義でありながら、小数部分が循環せずに無限に続くという不可思議さから、数学における概念の中で最もよく知られたものの一つである。
* [[3月14日]]は[[円周率の日]]および数学の日<ref group="注">3月14日は[[アルベルト・アインシュタイン]]の誕生日でもあり、[[実用数学技能検定|日本数学技能検定協会]]によって数学の日に指定されている。{{詳細記事|3月14日}}</ref>である。小数点以下が「永遠に続く」という意味にあやかり、3月14日に結婚するカップルもいる<ref>[http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140316-00000083-spnannex-ent 安田美沙子3・14結婚は『円周率＝永遠』の意味だった] {{webarchive |url=https://web.archive.org/web/20140316135518/http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140316-00000083-spnannex-ent |date=2014年3月16日}} スポニチアネックス 2014年3月16日（日）12時17分配信</ref>。また、{{pi}} ({{en|pi}}) と[[パイ]] ({{en|pie}}) は[[同音異義語]]であること<ref>{{Cite web |title=Pi Day: or the world of homonyms, homographs, and homophones {{!}} OxfordWords blog |url=https://blog.oxforddictionaries.com/2012/03/14/homonyms-homographs-and-homophones/ |accessdate=2019-05-12}}</ref>、パイが円形であることから、アメリカ合衆国など複数の国で「[[円周率の日|パイの日]]」として祝われ<ref>{{Cite web |author=Elizabeth Landau |title=How America celebrates Pi Day |url=https://edition.cnn.com/2014/03/14/tech/innovation/pi-day-math-celebrations/index.html |date=2014-03-14 |accessdate=2019-05-12}}</ref>、パイ焼きやパイ食のほか、数学に関係した活動が行われる<ref>{{Cite news |author=Elizabeth Landau |title=On Pi Day, one number 'reeks of mystery' |url=https://edition.cnn.com/2010/TECH/03/12/pi.day.math/index.html |date=2010-03-12 |accessdate=2019-05-12}}</ref>。
* [[7月22日]]は円周率近似値の日とされている（[[22/7|{{math|{{sfrac|22|7}}}}]] は円周率の近似値）。
* [[1999年]]の[[学習指導要領]]の改訂により「[[小学校]]の[[算数]]で[[円周率は3]]で計算することになる」との噂が世間に広まった<ref>{{Cite news|和書 |title=円周率「３」の波紋 |newspaper=朝日新聞 |date=2012-09-06 |page=33}}</ref>が、実際には必要に応じて3で計算することも可能にするための措置であった<ref>{{Cite news|和書 |title=「パイの日」に考える数学 |newspaper=朝日新聞 |date=2019-03-14 |page=35}}</ref>。
* [[2012年]][[8月14日]]、米国勢調査局が、米国の人口が円周率と同じ並びの3億1415万9265人に達したと発表した。アメリカには円周率の曲を作る人もいる<ref>[https://www.cnn.co.jp/usa/35020467.html 米国の人口が円周率と「同じ」に 3億1415万9265人] CNN 2012.08.15 Wed posted at 12:42 JST</ref>。
* 組版処理ソフトウェア [[TeX|{{TeX}}]] のバージョン番号は、{{math2|3.14, 3.141, 3.1415, …}} というように、更新の度に円周率に近づいていくように一桁ずつ増やされる。

== 実務上の近似値 ==
円弧の長さの計算など、実務上の数値計算では、その用途に応じて必要な桁数の円周率が計算に用いられる。例として、
* {{要出典範囲|[[指輪]]などの小さなものでは、3.14で設計している。|date=2022年10月}}
* 公認[[陸上競技場]]の[[陸上競技場#トラック|曲走路]]の計算では、3.1416を用いている<ref>[https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/2022/chap4_p402-427.pdf 陸上競技場公認に関する細則、競技場に関する規程、細則] 第3条（距離計測）第1項（5）「曲走路の計算法は、前号の方法によって算出した実長の平均（実測半径という）に300㎜を加えて（計算半径という）円周率（3.1416）を掛けて計算する。」p.403, ルール・ハンドブック、陸上競技ルールブック2022、JAAF [[日本陸上競技連盟]]公式サイト</ref>。
* [[アメリカ航空宇宙局|NASA]]の[[ジェット推進研究所|JPL]]の惑星間航行システムにおける最高精度の計算では、小数点以下15桁までの{{Val|3.141592653589793}}を用いている{{sfn|Gigazine『NASAでは円周率を何桁まで使っているのか？』|2020}}。
* [[観測可能な宇宙]]が球体だとして、その円周の誤差が[[水素]][[原子]]程度になるためには、小数点以下40桁程度を使えば足りる<ref>{{Cite web |title=NASAでは円周率を何桁まで使っているのか？ |url=https://gigazine.net/news/20201004-nasa-pi-calculation/ |website=gigazine.net |date=2020-10-04 |accessdate=2022-10-24 |ref={{sfnref|Gigazine『NASAでは円周率を何桁まで使っているのか？』|2020}}}}</ref>。

== 値 ==
小数点以下1000桁までの値
{{π}} = 3.<br />1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899 8628034825 3421170679 8214808651 3282306647 0938446095 5058223172 5359408128 4811174502 8410270193 8521105559 6446229489 5493038196 4428810975 6659334461 2847564823 3786783165 2712019091 4564856692 3460348610 4543266482 1339360726 0249141273 7245870066 0631558817 4881520920 9628292540 9171536436 7892590360 0113305305 4882046652 1384146951 9415116094 3305727036 5759591953 0921861173 8193261179 3105118548 0744623799 6274956735 1885752724 8912279381 8301194912 9833673362 4406566430 8602139494 6395224737 1907021798 6094370277 0539217176 2931767523 8467481846 7669405132 0005681271 4526356082 7785771342 7577896091 7363717872 1468440901 2249534301 4654958537 1050792279 6892589235 4201995611 2129021960 8640344181 5981362977 4771309960 5187072113 4999999837 2978049951 0597317328 1609631859 5024459455 3469083026 4252230825 3344685035 2619311881 7101000313 7838752886 5875332083 8142061717 7669147303 5982534904 2875546873 1159562863 8823537875 9375195778 1857780532 1712268066 1300192787 6611195909 2164201989 …
（{{OEIS|A000796}}）<ref>[https://oeis.org/A000796/b000796.txt Decimal expansion of Pi (or digits of Pi). Table of n, a(n) for n = 1..20000]</ref>

;十進記数法以外の表記法による表現
* [[二進法#記数法|二進記数法]]（{{仮リンク|基数 (数の表現)|label=基数|en|Radix}}2）による最初の48桁（48[[ビット]]とも呼ばれる）は {{gaps|11.0010|0100|0011|1111|0110|1010|1000|1000|1000|0101|1010|0011...}}（{{OEIS|A004601}}）
* [[三進記数法]]（基数3）による最初の38桁は {{gaps|10.010|211|0122|220|102|110|021|111|102|212|222|201...}}（{{OEIS|A004602}}）
* [[十六進記数法]]（基数16）による最初の20桁は{{gaps|3.243F|6A88|85A3|08D3|1319...}}{{sfn|Arndt|Haenel|2006|p=242}}（{{OEIS|A062964}}）
* [[六十進記数法]]（基数60）による最初の5桁は 3;8,29,44,0,47<ref>{{Citation|title=Abu-r-Raihan al-Biruni, 973–1048|last=Kennedy|first=E.S.|year=1978|journal=Journal for the History of Astronomy|volume=9|page=65|doi=10.1177/002182867800900106|bibcode=1978JHA.....9...65K|s2cid=126383231}}. [[Ptolemy]] used a three-sexagesimal-digit approximation, and [[Jamshīd al-Kāshī]] expanded this to nine digits; see {{Citation|title=Episodes from the Early History of Mathematics|last=Aaboe|first=Asger|authorlink=Asger Aaboe|year=1964|url=https://books.google.com/books?id=5wGzF0wPFYgC&pg=PA125|archiveurl=https://web.archive.org/web/20161129205051/https://books.google.com/books?id=5wGzF0wPFYgC&pg=PA125|archivedate=2016-11-29|publisher=Random House|series=New Mathematical Library|volume=13|page=125|location=New York|isbn=978-0-88385-613-0|url-status=live|df=dmy-all}}</ref>（{{OEIS|A060707}}）

== 注釈 ==
{{Notelist2}}

== 出典 ==
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
{{参照方法|section=1|date=2016-01}}
* {{Cite book|和書 |author=[[上野健爾]] |title=円周率{{π}}をめぐって |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002769358 |publisher=[[日本評論社]] |series=はじめよう数学 1 / 上野健爾浪川幸彦高橋陽一郎編集 |date=1999-03 |ncid=BA41156434 |isbn=4535608407 |id={{JP番号|99079085}} |ref=harv}}
* {{Cite book|和書 |author=黒田成俊 |title=微分積分 |publisher=共立出版 |series=共立講座21世紀の数学 第1巻 |date=2002-09 |isbn=978-4320015531 |ref={{Sfnref|黒田|2002}}}}
* {{Cite book|和書 |editor=[[日本数学会]] |title=数学辞典 |edition=第4版 |publisher=[[岩波書店]] |date=2007-03 |isbn=978-4-00-080309-0 |ref=harv}}
* {{Cite book |last=Berggren |first=Lennart |coauthors=[[:en:Jonathan Borwein|Jonathan Borwein]], [[:en:Peter Borwein|Peter Borwein]] |year=1991 |title=Pi: A Source Book |publisher=[[シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア|シュプリンガー・フェアラーク]] |isbn=0-387-94924-0}}
* {{Cite book |author=[[ウォルター・ルーディン]] |year=1976 |origyear=1953 |title=Principles of Mathematical Analysis
|edition=3e |publisher=[[マグロウヒル・エデュケーション|マグロウヒル]] |isbn=0-07-054235-X |ref=harv}}
* {{Cite book|和書 |author1=[[板倉聖宣]] |author2=中村邦光 |author3=板倉玲子 |chapter=江戸時代の円周率の値 |title=日本における科学研究の萌芽と挫折 : 近世日本科学史の謎解き |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002191996 |publisher=[[仮説社]] |date=1990-05 |origyear=1982 |pages=188-212 |ncid=BN04953821 |id={{JP番号|92054782}} |ref={{Sfnref|板倉・中村|1990a}}}}
* {{Cite book|和書 |author=中村邦光 |author2=板倉聖宣 |title=円周率3.14の受け継ぎと定着の過程 |publisher=仮説社 |journal=日本における科学研究の萌芽と挫折 |pages=213-240 |year=1990 |origyear=1983 |ref={{Sfnref|中村・板倉|1990a}}}}
* {{Cite book|和書 |author=中村邦光 |author2=板倉聖宣 |title=円周率3.14の動揺と3.16の復活の謎 |publisher=仮説社 |journal=日本における科学研究の萌芽と挫折 |pages=241-255 |year=1990 |origyear=1984 |ref={{Sfnref|中村・板倉|1990b}}}}
* {{Cite journal|和書 |author=中村邦光 |title=江戸時代の日本における円周率の値の逆行現象 |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000040-I000544548-00 |publisher=日本計量史学会 |journal=計量史研究 |volume=38 |issue=1 |pages=42-48 |year=2016 |naid=110010040017 |id={{NDLJP|10632319}} |issn=0286-7214 |ref={{Sfnref|中村邦光|2016}}}}
* {{Cite book|和書 |author=板倉聖宣 |chapter=円周率の変化に見る日本の数学＝和算の発展 |title=日本史再発見 : 理系の視点から |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002255858 |publisher=[[朝日新聞社]] |series=朝日選書 477 |year=1993 |pages=258-268 |isbn=4-02-259577-9 |ncid=BN09217299 |ref={{Sfnref|板倉聖宣|1993}}}}
* {{Cite book|和書 |author=板倉聖宣 |title=新総合読本 2種類あった江戸時代の円周率－〈3.16〉と〈3.14〉のなぞ |publisher=仮説社 |series=たのしい授業 |volume=356 |issue=9 |pages=92-115 |year=2009 |ref={{Sfnref|板倉聖宣|2009}}}}

== 関連書籍 ==
* 『円周率πの不思議―アルキメデスからコンピュータまで』堀場芳数、[[講談社]]〈[[ブルーバックス]]〉、1989年10月17日。ISBN 978-4061327979。
* 『π（パイ）のはなし』[[金田康正]]、[[東京図書]]、1991年4月1日。ISBN 978-4489003387。
* 『πの公式をデザインする』猪口和則、[[新風舎]]、1998年1月9日。ISBN 4-7974-0493-0。
* 『円周率πをめぐって』[[上野健爾]]、[[日本評論社]]、1999年3月。ISBN 978-4535608405。
* 『π-魅惑の数』{{仮リンク|ジャン＝ポール・ドゥラエ|en|Jean-Paul Delahaye}}、畑政義訳、[[朝倉書店]]、2001年10月1日。ISBN 978-4254110869。
* 『πの歴史』{{仮リンク|ペートル・ベックマン|en|Petr Beckmann}}、田尾陽一訳、[[筑摩書房]]〈[[ちくま学芸文庫]]〉、2006年4月。ISBN 978-4480089854。
* 『π ― πの計算アルキメデスから現代まで』竹之内脩、[[伊藤隆 (数学者)|伊藤隆]]、[[共立出版]]、2007年3月22日。ISBN 978-4320018341。
* 『円周率が歩んだ道』上野健爾、[[岩波書店]]〈[[岩波現代全書]]〉、2013年6月19日。ISBN 978-4000291040。
* 『円周率 ―歴史と数理―』[[中村滋 (数学者)|中村滋]]、共立出版、2013年11月23日。ISBN 978-4320110625。
* Pi: A Source Book (3rd ed.). Lennart Berggren; Jonathan Borwein; Peter Borwein (2004-8-9). [[シュプリンガー]]. ISBN 978-0387205717
* Pi: The Next Generation: A Sourcebook on the Recent History of Pi and Its Computation (1st ed.). David H. Bailey; Jonathan M. Borwein (2016-8-5). シュプリンガー. ISBN 978-3319323756

== 関連項目 ==
{{ウィキプロジェクトリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics blue-p.svg|34px|Project:数学]]}}
{{ウィキポータルリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics-p.svg|34px|Portal:数学]]}}
* 数学に関するもの
** [[円周率の歴史]]
** [[円周率の近似]]
** [[円周率の無理性の証明]]
** [[τ (数学定数)]] - 円の半径に対する周長の比
** [[リンデマンの定理]]
** [[ファインマン・ポイント]]
** [[数学定数]]
* 教育に関するもの
** [[円周率は3]]
* 社会に関するもの
** [[円周率の日]]
** [[インディアナ州円周率法案]]

== 外部リンク ==
{{commonscat|Pi}}
{{Wiktionary|円周率}}
* [https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_27.html 算数用語集「円周率」] - 新興出版社啓林館
* [https://円周率.jp 円周率.jp]
* [https://www.ndl.go.jp/math/s1/c4.html 江戸の数学「コラム 円周率」] - 国立国会図書館
* [https://www.ensyuritsu.com 円周率ナビ]
* [https://keisan.casio.jp/exec/system/1259062282 円周率計算｜ラマヌジャン型公式]
* [https://www.tstcl.jp/ja/randd/pi.php 円周率100万桁表]
* [http://www.oishi.info.waseda.ac.jp/~samukawa/GaussLeg2.pdf 寒川光：「完全楕円積分とガウス・ルジャンドル法によるπの計算」、平成29年（西暦2017年）4月14日]
* {{YouTube time|4qDO7Tse47U|高校生のための コンピュータサイエンス オンラインセッション2020 情報処理学会 第3回 2020/08/07 10:00-11:00 井上 創造、岩尾 エマ はるか|38m37s}}
** ※ 円周率30兆桁をGoogleCloudを使って計算。
* [https://www.jstor.org/stable/40391165 Nayandeep Deka Baruah, Bruce C. Berndt and Heng Huat Chan: "Ramanujan's Series for 1/π: A Survey", The American Mathematical Monthly, v116(7) (Aug-Sep.,2009),pp.567-587.]

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:えんしゆうりつ}}
[[Category:円周率|*]]
[[Category:数学に関する記事]]