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[[Image:Compfun.svg|250px|right|thumb| {{math|''f''}} と {{math|''g''}} との合成写像 {{math|''g'' ∘ ''f''}} を模式的に表したもの。例えば {{math|(''g'' ∘ ''f'')(c) {{=}} #}} となっているのが確認できる。]] [[数学]]において[[写像]]あるいは[[函数]]の'''合成'''(ごうせい、{{lang-en-short|composition}})とは、ある写像を施した結果に再び別の写像を施すことである。 たとえば、時刻 {{math|''t''}} における飛行機の高度を {{math|''h''(''t'')}} とし、高度 {{math|''x''}} における酸素濃度を {{math|''c''(''x'')}} で表せば、この二つの函数の合成函数 {{math|(''c'' ∘ ''h'')(''t'') {{=}} ''c''(''h''(''t''))}} が時刻 {{math|''t''}} における飛行機周辺の酸素濃度を記述するものとなる。 == 導入 == 例えば、二つの写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' および ''g'': ''Y'' → ''Z'' について、''g'' の引数を ''x'' の代わりに ''f''(''x'') とすることにより、''f'' と ''g'' を「合成」{{lang|en|(''compose'')}} することができる。直観的には、''z'' が写像 ''g'' で対応する ''y'' の函数で、''y'' が写像 ''f'' で対応付けられる ''x'' の函数ならば、''z'' は ''x'' の函数であるということを述べている。 これにより、写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' と写像 ''g'': ''Y'' → ''Z'' との'''合成写像''' {{lang|en|(''composite'' function/mapping)}} : <math>g\circ f\colon X\to Z,\quad \underbrace{X \stackrel{f}{{}\to{}} Y \stackrel{g}{{}\to{}} Z}_{\qquad f;g (= g\circ f)} </math> が ''X'' の各元 ''x'' に対して : <math>(g\circ f)(x) := g(f(x))</math> とおくことによって定まる。"''g'' ∘ ''f''" は図式的に写像 ''f'', ''g'' を施す順番とは逆順となるため、しばしば正順に "''fg''", "''f'' ; ''g''" などと記す流儀もみられる([[#合成の記法について|後述]])。これらに「読み」を与えるならば、「''f'' と ''g'' との合成」「''f'' に ''g'' を合成」「''f'' に引き続いて ''g'' を施す」「''f'' と ''g'' との積」、「''g'' の前に ''f'' を施す」「''g'' を ''f'' の後で施す」「''g'' の ''f''(の ''x'')」「''g'' まる ''f''」などとなる。 写像の合成は、それが定義される限りにおいて常に[[結合法則|結合的]]である。すなわち、''f'', ''g'', ''h'' がそれぞれ(合成が定義できるように)適当に選ばれた[[始域]]および[[終域]]を備えた写像であるとするならば、 : <math>h\circ(g\circ f) = (h\circ g)\circ f, \quad(f\,;\,g);\,h = f\,;(g\,;\,h)</math> が成り立つ。ここで、[[パーレン|括弧]]はそれが付いているところから先に合成を計算することを指し示すためのものである。これは括弧をつける位置の選び方は写像の合成の結果に影響を及ぼさないということを意味しているから、括弧を取り除いても意味を損なうことは無く、しばしば括弧を省略して : <math>h\circ g\circ f, \quad f\,;\,g\,;\,h</math> と書かれる。写像の数がさらに増えても同様である。 二つの写像 ''f'' と ''g'' が互いに[[交換法則|可換]]であるとは、 : <math>g\circ f = f\circ g \quad(\iff (g\circ f)(x) = (f\circ g)(x)\text{ for any } x)</math> を満たすことをいう。一般には写像の合成は可換ではなく(少なくとも ''f'': ''X'' → ''Y'' かつ ''g'': ''Y'' → ''X'' といったような形の写像になっておらず ''f'' ; ''g'' か ''g'' ; ''f'' の何れかが定義できないとか、''X'' = ''Y'' といったような条件がないとこれらふたつの合成写像の値を等しいかどうか考えることすらできないといったような可能性があるのは明らかである)、合成の可換性は特定の写像の間でのみ、特殊な事情の下でしか成立しない特別な性質である。たとえば、''f''(''x'') = |''x''| を実数の[[絶対値]]をとる函数、''g''(''x'') = ''x'' + 3 とすれば、実数からなる半開区間 ''X'' = [0, ∞) := {''x'' ∈ '''R''' : ''x'' ≥ 0} 上の函数として、 : <math>(g\circ f)(x) = |x| + 3 = |x + 3| = (f\circ g)(x) \text{ for any } x\ge 0</math> が成り立つが、これは負の実数も含めた実数全体では成り立たない。集合 ''X'' 上の変換写像 φ: ''X'' → ''X'' が[[逆写像]] φ<sup>−1</sup>: ''X'' → ''X'' を持つならば、これらは常に可換であり : <math>\varphi\circ\varphi^{-1} = \varphi^{-1}\circ\varphi = \mathrm{id}_X</math> が成り立つ。ここに、id<sub>''X''</sub> は集合 ''X'' 上の[[恒等写像]]である。 写像を[[二項関係|関係]]の特別な場合(つまり[[一意対応]]あるいは[[函数関係]])と考える場合にも、[[関係の合成]] <math>g \circ f \subset X \times Z</math> が、<math>f\subset X \times Y </math>と<math>g\subset Y \times Z </math> を用いた式として、同様に定義される。 可微分写像同士の合成写像の[[微分]]は[[連鎖律]]を用いることによって求められる。またその[[高階微分]]は{{仮リンク|ファア・ディ・ブルーノの公式|en|Faà di Bruno's formula}}で与えられる。 写像の合成によって与えられる構造は公理化され、[[圏論]]において一般化される。 == 写像の冪 == 集合 ''X'' とその[[部分集合]] ''Y'' ⊂ ''X'' に対し、写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' はそれ自身と合成することができる。この合成写像をしばしば ''f''<sup>2</sup> で表す。同様に自分自身との合成を繰り返して :<math>\begin{align} & (f\circ f)(x) = f(f(x)) = f^2(x);\\ & (f\circ f\circ f)(x) = f(f(f(x))) = f^3(x);\\ & (\underbrace{f\circ f \circ \cdots \circ f}_{n\text{ times}})(x) = \underbrace{f(f(\cdots(f(}_{n\text{ times}}x\underbrace{)\cdots)))}_{n\text{ times}} = f^n(x) \end{align}</math> という合成写像の列が得られる。このようにある写像を自身と繰り返し合成することで得られる合成写像を'''[[反復合成写像]]'''などと呼ぶ。 自然数 ''n'' に対し帰納的に定まる写像の'''反復合成[[冪乗|冪]]''' {{lang|en|(''functional powers'')}} ''f'' ∘ ''f''<sup>''n''</sup> = ''f''<sup>''n''</sup> ∘ ''f'' = ''f''<sup>''n''+1</sup> は以下のように拡張すると便利である。 * 規約として、''f''<sup>0</sup> := id<sub>''D''(''f'')</sub> とする(右辺は ''f'' の始域 ''D''(''f'') 上の恒等写像である)。 * ''f'': ''X'' → ''X'' が[[逆写像]] ''f''<sup>−1</sup> を持つならば、写像''f'' の[[負の整数]]を指数とする合成冪を、逆写像の自然数冪 <div style="margin: 1ex auto 1ex 2em"><math>f^{-k} := (f^{-1})^k = f^{-1}\circ \cdots \circ f^{-1} \quad (k > 0)</math></div>と定める。 ; 注意: ''f'' が[[環 (数学)|環]]に値をとる写像(特に ''f'' が実数値や複素数値函数)のときは冪の記法に誤解の余地が生じる。すなわち、''f''<sup>2</sup>(''x'') = ''f''(''x'') • ''f''(''x'') のように、''f'' の ''n'' 個の元ごとの積に対して ''f''<sup>''n''</sup> という記法を用いている可能性があることに注意すべきである。 : 三角函数の慣習的な記法は、少なくとも(正の)自然数冪については後者(元ごとの冪)の意味で用いられている。たとえば、sin<sup>2</sup>(''x'') = {sin(''x'')}<sup>2</sup> の意味である([[三角函数]]の項などを参照)。ただし、負の整数冪については事情が異なり、特に (−1)-乗は、例えば tan<sup>−1</sup>(''x'') = arctan(''x'') (≠ 1/tan(''x'')) のように、逆函数の意味(合成冪)として用いるのが普通である。 ある場合には、''f'' についての式 ''g''(''x'') = ''f'' <sup>''r''</sup>(''x'') が適当な ''g'' の満たす性質から整数ではない ''r'' について成立することが導かれることがありうる。これを'''[[分数回反復]]''' {{lang|en|(''fractional iteration'')}} と呼ぶ。たとえば、写像 ''f'' の[[写像の平方根|1/2回反復]] {{lang|en|(half iterate)}} とは ''g''(''g''(''x'')) = ''f''(''x'') を満たす写像 ''g'' のことである。別な例として、''f'' を[[ペアノの公理|後継函数]] {{lang|en|(''successor'')}} として ''f'' <sup>''r''</sup>(''x'') = ''x'' + ''r'' とすることが考えられる。この考え方を一般化して、反復回数を表す添字を連続パラメータに取り替えることを考えることもできるが、このような系は'''[[流れ (数学)|流れ]]''' {{lang|en|(''flow'')}} と呼ばれる。 反復合成写像および流れは[[フラクタル]]や[[力学系]]の研究に自然に現れる。 == 合成に関するモノイド == {{main|変換モノイド}} ふたつ(あるいはそれ以上の数の)写像 ''f'': ''X'' → ''X'', ''g'': ''X'' → ''X'' が同一の集合を始域および終域に持つものとすれば、(重複を許した)長い合成の鎖を ''f'' ∘ ''f'' ∘ ''g'' ∘ ''f'' のようにして作ることができる。このような鎖の全体は[[変換モノイド]]または[[合成モノイド]]と呼ばれる[[モノイド]]の[[代数的構造]]を持つ。一般に、変換モノイドは極めて複雑な構造を持つ。特筆すべき例のひとつは{{仮リンク|ド・ラーム曲線|en|de Rham curve}}である。''X'' 上の変換 ''f'': ''X'' → ''X'' の全体が成す集合は、''X'' 上の[[全変換半群]] {{lang|en|(''full transformation semigroup'')}} と呼ばれる。 ''X'' 上の変換の集合 ''S'' の各元 ''f'': ''X'' → ''X'' が[[全単射]]であるとき、''S'' に属する変換から可能な限りの組合せをとって得られる合成の鎖の全体は[[変換群]]を成す。このとき、個の変換群は ''S'' で生成されるという。''X'' 上の全単射な変換 ''f'': ''X'' → ''X'' の全体は、写像の合成に関して群を成す。これを[[対称群]]と呼び、また'''合成群''' {{lang|en|(''composition group'')}} と呼ばれることもある。 == 合成の記法について == * ''g'' ∘ ''f'' の合成の記号を落として、単に ''gf'' と書かれることも多い。 * 20世紀のなかごろ、(左から右へ読む文章中で)"''g'' ∘ ''f''" と書いたものが "最初に ''f'' を施してから ''g'' を施す" という意味になるのは非常にややこしいため、記号を改めて "''f''(''x'')" の代わりに "''xf''" と書き、"''g''(''f''(''x''))" の代わりに "(''xf'')''g''" と書いた者もあった。このような記法は[[後置記法]]と呼ばれる。分野によってはこのようにしたほうが、[[前置記法|写像を左から作用させる]]よりも自然で単純であるようにも思われる(例えば[[線型代数学]]では ''x'' を[[行ベクトル]]として、[[行列]] ''f'' および ''g'' と右からの[[行列の積]]によって合成を行うことができる。行列の積は可換ではないから、順番は重要である)。連続して変換することと合成とが、合成の列を左から右に読むことによってちょうど一致する。 * 後置記法を採用している文脈では、"''fg''" と書くことで、初めに ''f'' を適用してから ''g'' を適用するという意味となるが、後置記法では記号の現れる順番を保たなければならないので、"''fg''" と書くのは(どこまでが一つの記号なのかわかりにくいため)曖昧さを含んでしまう。計算機科学者はこれを "''f;g''" と書き、これによって合成の順番に関する曖昧さを除くことができる。左合成演算子と地の文における約物として[[セミコロン]]とを区別するために、[[Z記法]]では「太いセミコロン」⨟ (U+2A1F) で左{{仮リンク|関係合成|en|relation composition}}を表すが、写像は[[二項関係]]であるから、写像の合成に太いセミコロンを用いるのは意味的にも正しい(この記号法についての議論は[[関係の合成]]の項を参照)。 == 合成作用素 == {{main|合成作用素}} 写像 ''g'' が与えられたとき、''g'' の定める'''合成作用素''' {{lang|en|(''composition operator'')}} ''C''<sub>''g''</sub> とは :<math>g^{*}(f) := f \circ g,\quad g_{*}(f) := g\circ f</math> によって定義される、写像を別の写像に写す[[作用素]]のことである。<math>g^*(f)</math> は写像 ''f'' の ''g'' による{{仮リンク|引き戻し|label=引き戻し (pullback)|en|Pullback|preserve=1}}、<math>g_*(f)</math> は写像 ''f'' の ''g'' による{{仮リンク|押し出し|label=押し出し (pushforward, pushout)|en|Pushforward|preserve=1}}と呼ばれる。合成作用素は[[作用素論]]の分野で研究される。 <!-- 合成作用素によって、写像の引き戻しや誘導などが函手的に定義できる。 : <math>\begin{matrix} \text{Map}(X,Y) \ni & f\colon & X & \to & Y\\[8pt] \downarrow {}_{g^*} & & \ \downarrow {}^{=} & \circlearrowright & \ \downarrow {}^{g}\\[8pt] \text{Map}(X,Z) \ni & g^*f\colon & X & \to &Z \end{matrix}</math> : <math>\begin{matrix} \text{Map}(X,Y) \ni & f\colon & X & \to & Y\\[8pt] \downarrow {}_{g_*} & & \ \uparrow {}^{g} & \circlearrowright & \ \downarrow {}^{=}\\[8pt] \text{Map}(Z,Y) \ni & g_*f\colon & Z & \to & Y \end{matrix}</math> 空間 ''X'' 上の ''K''-値写像からなる[[バナッハ空間]] ''B''(''X'', ''K'') の台空間 ''X'' や係数体 ''K'' を別なものに取り替えて別のバナッハ空間に還元することもできる。 --> == 関連項目 == * [[組合せ論理]] * [[関係の合成]]: 写像の合成の[[関係 (数学)|関係]]への一般化 * {{仮リンク|函数の合成 (計算機科学)|en|Function composition (computer science)}} * {{仮リンク|函数分解|en|Functional decomposition}}: 合成の逆の操作 * [[高階函数]] * {{仮リンク|ジョーンズ図式|en|Jones diagram}}: 写像の合成をプロットする方法 * [[ラムダ計算]] == 外部リンク == *"[http://demonstrations.wolfram.com/CompositionOfFunctions/ Composition of Functions]" by Bruce Atwood, the [[Wolfram Demonstrations Project]], 2007. {{DEFAULTSORT:しやそうのこうせい}} [[Category:写像]] [[Category:集合論]] [[Category:二項演算]] [[Category:数学に関する記事]]
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