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{{redirect|冪零|群の種類|冪零群|イデアルの種類|冪零イデアル}} [[数学]]において、[[環 (数学)|環]] ''R'' の元 ''x'' はある正の[[整数]] ''n'' が存在して ''x''<sup>''n''</sup> = 0 となるときに'''冪零元'''(べきれいげん、{{lang-en-short|nilpotent element}})という。 '''冪零''' (nilpotent) という言葉は、[[ベンジャミン・パース]]によって、多元環の元のある冪が 0 になるという文脈で1870年頃に導入された<ref>Polcino & Sehgal (2002). "§3.1 A Brief History". ''An Introduction to Group Rings''. [https://books.google.co.jp/books?id=7m9P9hM4pCQC&lpg=PA125&hl=ja&pg=PA127#v=onepage&q&f=false p. 127].</ref>。 == 例 == * この定義は特に[[正方行列]]に対して適用することができる。行列 :: <math>A = \begin{pmatrix} 0&1&0\\ 0&0&1\\ 0&0&0\end{pmatrix} </math> :は ''A''<sup>3</sup> = 0 なのでベキ零である。より多くの情報は[[冪零行列]]を見よ。 * [[剰余類環|剰余環]] '''Z'''/9'''Z''' において、3 の同値類は冪零である、なぜならば 3<sup>2</sup> は 9 を法として 0 と合同だからである。 * (非可換)環 ''R'' の二元 ''a'', ''b'' が ''ab'' = 0 を満たすとする。このとき元 ''c'' = ''ba'' は ''c''<sup>2</sup> = (''ba'')<sup>2</sup> = ''b''(''ab'')''a'' = 0 なので冪零である。行列での例は(''a'', ''b'' に対して) :: <math>A = \begin{pmatrix} 0&1\\ 0&1 \end{pmatrix}, \;\; B =\begin{pmatrix} 0&1\\ 0&0 \end{pmatrix}. </math> : このとき ''AB'' = 0, ''BA'' = ''B'' である。 * {{仮リンク|分解型四元数|en|coquaternion}} の環は冪零元の [[錐 (線型代数学)|錐]] を含む。 == 性質 == (唯一の元 0 = 1 をもつ[[零環]] {0} を除いて)冪零元は決して[[可逆元|単元]]ではない。すべての 0 でない冪零元は[[零因子]]である。 [[可換体|体]]係数の ''n'' 次正方行列 ''A'' が冪零であることとその[[固有多項式]]が ''t''<sup>''n''</sup> であることは同値である。 ''x'' が冪零であれば、1 − ''x'' は[[可逆元|単元]]である、なぜならば ''x''<sup>''n''</sup> = 0 によって :<math>(1 - x) (1 + x + x^2 + \cdots + x^{n-1}) = 1 - x^n = 1.\ </math> であるからだ。より一般に、単元 ''u'' とベキ零元 ''x'' の和 ''u'' + ''x'' はそれらが交換する(すなわち ''ux'' = ''xu'' である)ときには冪零である。 == 可換環 == [[可換環]] <math>R</math> のベキ零元全体は[[イデアル]] <math>\mathfrak{N}</math> をなす。これは[[二項定理]]の結果である。このイデアルは環の[[冪零根基]]である。可換環のすべての冪零元 <math>x</math> はその環のすべての[[素イデアル]] <math>\mathfrak{p}</math> に含まれる、なぜならば <math>x^n=0\in \mathfrak{p}</math> だからだ。したがって <math>\mathfrak{N}</math> はすべての素イデアルの共通部分に含まれる。 <math>x</math> が冪零でなければ、<math>x</math> の冪によって[[環の局所化|局所化]]することができる。つまり、<math>S=\{1,x,x^2,...\}</math> によって局所化して零でない環 <math>S^{-1}R</math> を得る。この局所化環の素イデアルはちょうど <math>\mathfrak{p}\cap S=\empty</math> であるような素イデアル <math>\mathfrak{p}</math> と対応する <ref>{{cite book |last=Matsumura |first=Hideyuki |title=Commutative Algebra |publisher=W. A. Benjamin |year=1970 |pages=6 |chapter=Chapter 1: Elementary Results |isbn=978-0-805-37025-6}}</ref>。すべての零でない可換環は極大イデアルをもちそれは素イデアルでもあるので、どの冪零でない <math>x</math> もある素イデアルに含まれない。したがって <math>\mathfrak{N}</math> はちょうどすべての素イデアルの共通部分である<ref>{{cite book |last1=Atiyah |first1=M. F. | last2=MacDonald |first2=I. G. | title=Introduction to Commutative Algebra |publisher=Westview Press |date=February 21, 1994 |pages=5 |chapter=Chapter 1: Rings and Ideals |isbn=978-0-201-40751-8}}</ref>。 [[ジャコブソン根基]]と単純加群の零化 (annihilation) の特徴づけに似た特徴づけが冪零根基に対してもできる。環 ''R'' の冪零元はちょうど環 ''R'' に internal なすべての整域(すなわち素イデアル ''I'' に対して ''R''/''I'' の形のもの)を零化する元である。このことは冪零根基はすべての素イデアルの共通部分であるという事実から従う。 == リー環の冪零元 == <math>\mathfrak{g}</math> をリー環とする。このとき <math>\mathfrak{g}</math> の元は <math>[\mathfrak{g}, \mathfrak{g}]</math> に入っていて <math>\operatorname{ad} x</math> が冪零変換であるときに冪零であるという。{{仮リンク|リー環におけるジョルダン分解|en|Jordan decomposition in a Lie algebra}} も参照せよ。 == 物理学における冪零性 == ''Q''<sup>2</sup> = 0 を満たす[[被演算子|オペランド]] ''Q'' は冪零である。フェルミオンの場の[[経路積分]]表現を許す[[グラスマン数]]は、その平方が消えるので、冪零である。{{仮リンク|BRST 電荷|en|BRST charge}} は[[物理学]]における重要な例である。 線型演算子は結合多元環従って環をなすので、これは初めの定義の特別な場合である<ref>Peirce, B. ''Linear Associative Algebra''. 1870.</ref><ref>Milies, César Polcino; Sehgal, Sudarshan K. ''An introduction to group rings''. Algebras and applications, Volume 1. Springer, 2002. ISBN 978-1-4020-0238-0</ref>。より一般に、上記の定義の観点から、演算子 ''Q'' は ''n''∈'''N''' が存在して ''Q''<sup>''n''</sup> = 0 ([[零写像]])であるときに冪零である。したがって、[[線型写像]]が冪零であることとそれがある基底で冪零行列をもつことは[[同値]]である。これの別の例は[[外微分]]である(再び ''n'' = 2 である)。[[エドワード・ウィッテン]]によって有名な論文で示されているように<ref>E. Witten, ''Supersymmetry and Morse theory''. J.Diff.Geom.17:661–692,1982.</ref>、[[超対称性]]と[[モース理論]]も通して<ref>A. Rogers, ''The topological particle and Morse theory'', Class. Quantum Grav. 17:3703–3714,2000 {{doi|10.1088/0264-9381/17/18/309}}.</ref>、両者は繋がっている。 ソースのない平面波の[[電磁場]]は、{{仮リンク|物理的空間の代数学|en|algebra of physical space}}の言葉で表現されるとき、冪零である<ref>Rowlands, P. ''Zero to Infinity: The Foundations of Physics'', London, World Scientific 2007, ISBN 978-981-270-914-1</ref>。 == 代数的冪零元 == 2次元の[[二重数]]は冪零空間を含む。冪零空間を含む多元環や数としては他に {{仮リンク|分解型四元数|en|split-quaternion}} (coquaternions)、[[分解型八元数]]、{{仮リンク|双四元数|en|biquaternion}} <math>\mathbb C\otimes\mathbb H</math>、そして複素[[八元数]] <math>\mathbb C\otimes\mathbb O</math> がある。 == 関連項目 == * [[冪等元]] * {{仮リンク|冪単|en|Unipotent}} * [[被約環]] * {{仮リンク|冪零元イデアル|en|Nil ideal}} == 参考文献 == {{Reflist}} {{DEFAULTSORT:へきれいけん}} [[Category:環論]] [[Category:0]] [[Category:数学に関する記事]]
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