分解型複素数のソースを表示

'''分解型複素数'''（ぶんかいがたふくそすう、{{lang-en|''split-complex number''}}; 分裂複素数）とは、[[数学]]において、2つの[[実数]] {{math2|''x'', ''y''}} と {{math|1=''j''{{sup|2}} = +1}} を満たす実数でない量を用いて {{math|1=''z'' = ''x'' + ''yj''}} と表せる[[数]]のことである。

分解型複素数と通常の[[複素数]]の最も大きな幾何学的な違いは、通常の複素数の乗法が {{math|'''ℝ'''{{sup|2}}}} における通常の[[定符号二次形式|自乗ユークリッドノルム]] {{math|''x''{{sup|2}} + ''y''{{sup|2}}}} に従う一方、分解型複素数の乗法が[[等方二次形式|自乗ミンコフスキーノルム]] {{math|''x''{{sup|2}} &minus; ''y''{{sup|2}}}} に従うことである。

代数的には、分解型複素数は（通常の複素数には無い）非自明な（つまり、{{math|0}} でも {{math|1}} でもない）[[冪等元]]を含むという興味深い性質を持つ。また、全ての分解型複素数が成す集合は[[可換体|体]]にはならないが、その代わりに[[環 (数学)|環]]を成す。

分解型複素数には他の呼び名がたくさんある（[[#別称]]を参照）。「分解型」{{lang|en|(split)}} というのは、{{math|(''p'', ''p'')}}-型の（計量二次形式の）[[符号数]]が「分解型符号数」(split signature) と呼ばれることからきている。つまり、分解型複素数は分解型符号数 {{math|(1, 1)}} を持つ複素数の類似である。

== 定義 ==
{{See also|二元数}}
'''分解型複素数'''は {{math|''z'' {{=}} ''x'' + ''jy''}} なる形をしている。ここで {{math2|''x'', ''y''}} は[[実数]]で、量 {{mvar|j}} は {{math|1=''j''{{sup|2}} = +1}} を満たす、実数（つまり {{math|±1}}）でない量（「虚数単位」）である。

通常の[[複素数]]と異なるのは、虚数単位が {{math|1=''i''{{sup|2}} = &minus;1}} でなく {{math|1=''j''{{sup|2}} = +1}} であることである。

分解型複素数 {{mvar|z}} 全体からなる集合は'''分解型複素平面''' {{lang|en|(''split-complex plane'')}} と呼ばれる。分解型複素数の[[加法]]と[[乗法]]は
: {{math|1=(''x'' + ''jy'') + (''u'' + ''jv'') = (''x'' + ''u'') + ''j''(''y'' + ''v'')}},
: {{math|1=(''x'' + ''jy'')(''u'' + ''jv'') = (''xu'' + ''yv'') + ''j''(''xv'' + ''yu'')}}
で定義される。この乗法は[[交換法則|可換]][[結合法則|結合的]]であり、[[加法]]に対して[[分配法則|分配的]]である。

=== 共軛、ノルムおよび内積 ===
[[複素数]]における[[複素共役]]と同様に、'''分解型複素共軛''' {{lang|en|(''split-complex conjugate'')}} の概念を定義することができる。分解型複素数 {{math|1=''z'' = ''x'' + ''jy''}} に対して、その共軛は
: {{math|''z*'' {{coloneqq}} ''x'' &minus; ''jy''}}
で与えられる。この共軛は、複素共役と同様に、
* {{math|1=(''z'' + ''w'')* = ''z*'' + ''w*''}}
* {{math|1=(''z&sdot;w'')* = ''z*&sdot;w*''}}
* {{math|1=(''z*'')* = ''z''}}
などの性質を満たす。この3条件は分解型複素数の環が、分解型複素共軛を[[対合]]（位数 2 の[[自己同型]]）に持つ[[対合付き環]]であることを示している。分解型複素数 {{math|1=''z'' = ''x'' + ''jy''}} の'''絶対値'''（平方ノルム）は[[二次形式]]
: {{math|1={{norm|''z''}} {{coloneqq}} ''z&sdot;z*'' = ''z*&sdot;z'' = ''x''{{sup|2}} &minus; ''y''{{sup|2}}}}
で与えられる。重要な性質として、絶対値は
: {{math|1={{norm|''z&sdot;w''}} = {{norm|''z''}}&sdot;{{norm|''w''}}}}
が成立するという意味で分解型複素数の[[合成代数|乗法と両立する]]。ただし、この二次形式は[[正定値]]ではなく[[符号数]] {{math|(1, 1)}} を持つ不定値二次形式であるので、この絶対値は平方根をとるわけにはいかないし取れたとしても（解析学的な意味での）[[ノルム]]にはならない。分解型複素数に付随する {{math|(1, 1)}}-型双曲的（不定値）'''内積'''が
: {{math|1={{angbr|''z'', ''w''}} {{coloneqq}} ''ℜe''(''z&sdot;w*'') = ''ℜe''(''z*&sdot;w'') = ''xu'' &minus; ''yv''}}
によって与えられる。ただし、{{math|1=''z'' = ''x'' + ''jy'', ''w'' = ''u'' + ''jv''}} である。これを用いると、絶対値の別の表示として
: {{math|1={{norm|''z''}} = {{angbr|''z'', ''z''}}}}
と書くことができる。分解型複素数が可逆であることとその絶対値が非零であることとは[[同値]]であり、そのとき[[逆元]]は
: {{math|''z''{{sup|&minus;1}} {{coloneqq}} {{fraction|''z*''|{{norm|''z''}}}}}}
で与えられる。可逆でない分解型複素数は'''[[ヌルベクトル|ヌル元]]''' {{lang|en|(''null element'')}} と呼ばれ、ヌル元の全体は適当な実数 {{mvar|a}} をとって {{math|''a'' &plusmn; ''ja''}} の形に書ける元の全体と一致する。

=== 対角基底 ===
分解型複素数には非自明な[[冪等元]]が2つ存在して、それは {{math|1=''e'' {{coloneqq}} (1 &minus; ''j'')/2, ''e*'' = (1 + ''j'')/2}} で与えられる{{efn|これらが冪等とは {{math|1=''e&sdot;e'' = ''e''}} および {{math|1=''e*&sdot;e*'' = ''e*''}} が満たされることであった}}。これらはともに
: <math>\lVert e \rVert = \lVert e^* \rVert = e^* e = 0</math>
ゆえ、ヌル元である。分解型複素平面におけるもう一つの基底として {{math|{{mset|''e'', ''e*''}}}} をとるとしばしば便利である。この基底は'''対角基底'''あるいは'''ヌル基底'''と呼ばれる。分解型複素数 {{mvar|z}} は対角基底を用いて
: {{math|1=''z'' = ''x'' + ''jy'' = (''x'' &minus; ''y'')''e'' + (''x'' + ''y'')''e*''}}
と表せる。実数 {{mvar|a, b}} の[[順序対]] {{math|(''a'', ''b'')}} で分解型複素数 {{math|''ae'' + ''be*''}} を表すとき、分解型複素数の乗法は
: {{math|1=(''a''{{sub|1}}, ''b''{{sub|1}})(''a''{{sub|2}}, ''b''{{sub|2}}) {{coloneqq}} (''a''{{sub|1}}''a''{{sub|2}}, ''b''{{sub|1}}''b''{{sub|2}})}}
で与えられる。この基底を用いれば、分解型複素数の全体が[[環の直和]] {{math|'''ℝ''' &oplus; '''ℝ'''}}{{efn|加法と乗法は成分ごとのそれで定義する。}}に同型であることがはっきり判る。

対角基底に関して分解型複素共軛は {{math|1=(''a'', ''b'')* = (''b'', ''a'')}} であり、絶対値は {{math|1={{norm|(''a'', ''b'')}} = ''ab''}} を満たす。

== 分解型複素数の幾何 ==<!-- 本節は[[ローレンツ変換]]と関係がある -->
[[画像:Drini-conjugatehyperbolas.png|thumb|青：単位直交双曲線 {{math|1={{norm|''z''}} = 1}}, 緑：共軛双曲線 {{math|1={{norm|''z''}} = &minus;1}}, 赤：漸近線 {{math|1={{norm|''z''}} = 0}}]]

ミンコフスキー内積を備えた実二次元[[線型空間]]は {{math|(1 + 1)}}-次元[[ミンコフスキー空間]]と呼ばれ、しばしば {{math|'''ℝ'''{{sup|1,1}}}} と表される。ユークリッド平面 {{math|'''ℝ'''{{sup|2}}}} における幾何学が複素数を用いて記述できるのと同様に、ミンコフスキー平面 {{math|'''ℝ'''{{sup|1,1}}}} における幾何学は分解型複素数を用いて記述できる。

{{math|0}} でない任意の実数 {{mvar|a}} に対し、点集合
:<math>\{ z : \lVert z \rVert = a^2 \}</math>
は[[双曲線]]を成す。この双曲線は左右に {{math|(''a'', 0)}} を通るものと {{math|(&minus;''a'', 0)}} を通るものの2つの枝を持つ。{{math|1=''a'' = 1}} の場合を'''単位双曲線''' と呼ぶ。各 {{mvar|a}} に対しその共軛双曲線は
:<math>\{ z : \lVert z \rVert = -a^2 \}</math>
で与えられる。これは上下に {{math|(0, ''a'')}} を通るものと {{math|(0, &minus;''a'')}} を通るものの2つの枝を持つ。この双曲面とその共軛双曲面とは、ヌル元全体の集合
:<math>\{ z : \lVert z \rVert = 0 \}</math>
の成す、対角線上にある2つの[[漸近線]]によって隔てられている。しばしば'''ヌル錐''' {{lang|en|(''null cone'')}} とも呼ばれるこの2本の直線は傾き {{math|±1}} を持ち、{{math|'''ℝ'''{{sup|2}}}} において[[直交]]する。

分解型複素数 {{math2|''z'', ''w''}} が {{math|1={{angbr|''z, w''}} = 0}} を満たすとき、{{ill2|双曲的直交性|label=双曲的に直交する|en|Hyperbolic orthogonality}}という。これは特に通常の複素数の算術として知られている通常の意味での直交性の類似であるけれども、この条件はそれよりは判りにくいものである。これは時空における同時超平面 (simultaneous hyperplane) の概念の根幹を成す。

複素数における[[オイラーの公式]]の分解型複素数に該当する類似物として
:<math>\exp(j\theta) = \cosh(\theta) + j\sinh(\theta)</math>
が成立する。このことは、[[双曲線関数|双曲線余弦関数]] {{math|cosh(''θ'')}} の冪級数展開が偶数次の項のみからなり、[[双曲線関数|双曲線正弦関数]] {{math|sinh(''θ'')}} が奇数次の項のみからなることを用いて導出することができる。任意の実数値を取る{{ill2|双曲角|en|Hyperbolic angle}} {{mvar|θ}} に対し、分解型複素数 {{math|''λ'' {{coloneqq}} exp(''jθ'')}} はノルムが {{math|1}} で単位双曲線の右側の枝上にある。このような数 {{mvar|λ}} は'''双曲ベルソル'''と呼ばれる。

{{mvar|λ}} は絶対値が {{math|1}} であるから、任意の分解型複素数 {{mvar|z}} への {{mvar|λ}} を掛ける操作は {{mvar|z}} の絶対値を保ち、'''双曲的回転'''（狭義ローレンツ変換、縮小写像とも）を表現する（「回転」というのは{{nowrap|絶対値 {{math|1}}}} の通常の複素数を掛ける操作が {{math|'''ℝ'''{{sup|2}}}} の回転を引き起こすことからの示唆）。{{mvar|λ}} を掛ける操作は、双曲線をそれ自身に写し、ヌル錐をそれ自身に写すという意味で、幾何学的な構造を保つ。

分解型複素平面上の絶対値を保存する（同じことだが内積を保存する）変換全体の成す集合は{{ill2|不定値直交群|en|Indefinite orthogonal group}} {{math|''O''(1, 1)}} と呼ばれる[[群 (数学)|群]]を成す。この群は双曲的回転と {{math|''z'' {{mapsto}} &plusmn;''z''}} および {{math|''z'' {{mapsto}} &plusmn;''z*''}} で与えられる4つの[[離散的]][[鏡映|鏡映変換]]の組み合わせからなる（双曲的回転の全体は {{math|''SO''{{sup|+}}(1, 1)}} で表される {{math|''O''(1, 1)}} の部分群を成す）。

双曲角 {{mvar|θ}} を双曲回転 {{math|exp(''jθ'')}} へ写す指数写像 <math display="inline">\exp\colon(\mathbb R, +) \to \mathit{SO}^{+}(1,1)</math> は、通常の指数法則を用いれば <math display="inline">e^{j(\theta+\phi)} = e^{j\theta}e^{j\phi}</math> が成立するから、[[群同型]]である。

== 代数的性質 ==
[[抽象代数学]]の言葉では、分解型複素数の全体は[[多項式環]] {{math|'''ℝ'''[''x'']}} の {{math|''x''{{sup|2}} &minus; 1}} が生成する[[イデアル]]による[[商環]]
:<math>\mathbb{R}[x]/(x^2 - 1)</math>
として記述できる。この商における {{mvar|x}} の像 {{math|''x'' mod (''x''{{sup|2}} &minus; 1)}} が「虚数単位」{{mvar|j}} である。この方法だと、分解型複素数の全体が{{nowrap|[[標数]] {{math|0}}}} の[[可換環]]を成すことは明らかである。さらに自明な仕方でスカラー倍を定義して、分解型複素数の全体は実 2-次元の可換な[[多元環]]となる。この多元環は可逆元ではないヌル元をもつから[[斜体]]でも[[可換体]]でもない。事実として、非零ヌル元はすべて[[零因子]]である。加法と乗法は平面の通常の位相に関して連続であるから、分解型複素数の全体は[[位相環]]を成す。

分解型複素数の全体は「ノルム」が正定値ではないから、術語を通常の意味に解する限りは[[ノルム代数]]を成さない。しかし、定義を拡張して一般の符号数を持つノルムというものを考えれば、その意味での「[[合成代数|ノルム代数]]」と考えることができる。これは以下の事実
:<math>\lVert zw \rVert = \lVert z \rVert \lVert w \rVert</math>
から従う。一般符号数を持つノルム代数の詳細は {{harv|Harvey|1990}} を参照。

定義により、分解型複素数の環は{{nowrap|位数 {{math|2}}}} の[[巡回群]] {{math|''C''{{sub|2}}}} に対する実数体 {{mathbf|ℝ}} 上の[[群環]] {{math|'''ℝ'''[''C''{{sub|2}}]}} に同型であることが従う。

分解型複素数全体の環は[[クリフォード代数]]の特別の場合で、'''[[正定値二次形式]]'''を備えた一次元ベクトル空間上のクリフォード代数になっている。対して通常の複素数は負定値二次形式を備えた一次元ベクトル空間上のクリフォード代数である{{efn|'''注意'''：著者によってはクリフォード代数における符号を逆にしているものがあるので、その場合は正定値と負定値を入れ替えて読む必要がある}}。この枠組みにおける'''分解型複素数'''は[[クリフォード代数]] {{math|1={{subsup|Cℓ|1,0|}}('''ℝ''') = {{subsup|Cℓ|1,1|0}}('''ℝ''')}} の元のことである。[[実数]]を同様に拡張して[[複素数]]を {{math|1='''ℂ''' {{coloneqq}} {{subsup|Cℓ|0,1|}}('''ℝ''') = {{subsup|Cℓ|2,0|0}}('''ℝ''')}} と定義することができる。

== 行列表現 ==
分解型複素数は[[行列]]を用いて簡単に表示できる。分解型複素数 {{math2|1=''z'' = ''x'' + ''jy''}} は、対応
:<math>z \mapsto \begin{pmatrix}
x &y \\
y &x
\end{pmatrix}</math>
により行列で表示できる。分解型複素数の加法と乗法は行列の加法と乗法によって与えられる。{{mvar|z}} の絶対値は対応する行列の[[行列式]]の値として得られる。分解型複素共軛は両側から次の行列
:<math>C = \begin{pmatrix}
1 &0 \\
0 &-1
\end{pmatrix}</math>
を掛けることに対応する。任意の実数 {{mvar|a}} に対し、双曲角 {{mvar|a}} の双曲的回転は行列
:<math>\begin{pmatrix}
\cosh a &\sinh a \\
\sinh a &\cosh a
\end{pmatrix}</math>
を掛けることに対応する。分解型複素平面の対角基底は、{{math|1=''z'' = ''x'' + ''jy''}} を順序対 {{math|(''x'', ''y'')}} で表し、写像
:<math>(u,v)=(x,y)\begin{pmatrix}
1 &1 \\
1 &-1
\end{pmatrix}</math>
を作ることによって想起される。すると二次形式は {{math|1=''uv'' = (''x'' + ''y'')(''x'' &minus; ''y'') = ''x''{{sup|2}} &minus; ''y''{{sup|2}}}} で得られる。さらに
:<math>(\cosh a, \sinh a)\begin{pmatrix}
1 &1 \\
1 &-1
\end{pmatrix} = (e^a, e^{-a})</math>
だから、2つの{{ill2|一径数群|label=パラメータ付けられた|en|one-parameter group}}双曲線は互いに他方へ写される。ベルソル {{mvar|e{{sup|bj}}}} の[[群作用|作用]]は従って線型変換
:<math>(u,v) \mapsto (r u, v/r)\qquad (r = e^b)</math>
のもとで[[縮小写像]]に対応する。

この対応は {{math|1=''A'' = ''B'' = '''ℝ'''{{sup|1,1}}}} および {{math|1=''C'' = ''D'' = '''ℝ'''{{sup|2}}}} とし、{{mvar|f}} を双曲ベルソルの作用、{{mvar|g, h}} を行列による線型変換、{{mvar|k}} を縮小写像とするとき[[可換図式]] [[file:Commutative square.svg|150px|center]]を満足する。

== 歴史 ==
分解型複素数の使用は、[[1848年]]に{{ill2|ジェームズ・クックル|en|James Cockle}}が[[双複素数]]の概念を発明したときにまで遡れる<ref>{{Citation |year=1849 |url=https://www.biodiversitylibrary.org/item/20121#page/51/mode/1up |chapter=Mr. J. Cockle on a New Imaginary in Algebra |volume=34 |pages=37-47 |journal=London-Edinburgh-Dublin Philosophical Magazine and Journal of Science}}</ref>。[[ウィリアム・キングドン・クリフォード|ウィリアム・クリフォード]]はスピンの和を表すために分解型複素数を用いている。クリフォードは、分解型複素数を今日[[分解型双四元数]]と呼ばれる四元数代数の係数としての使用法を導入した。彼はその元を "motor" と呼んで分解型複素数の研究で幾度か用いている。

[[20世紀]]に入ると、分解型複素数は双曲的回転によって基準系間の速度変化をよく表していたため、時空平面における[[ローレンツ変換]]や[[空間の相対性]]を記述するものとして表舞台に現れる。

1935年に J. C. Vignaux, A. Durañona, Vedia らは雑誌 ''Contribución a las Ciencias Físicas y Matemáticas''における4つの論文で分解型複素幾何代数や函数論を展開した{{sfn|Vignaux|1935}}。詳細は{{ill2|分解型複素変数函数|en|motor variable}}の項を参照。

[[1941年]] E.F. Allen は分解型複素幾何の算術を用いて {{math|1=''zz*'' = 1}} に内接する三角形の{{ill2|9点双曲線|en|Nine-point hyperbola}}を構成した<ref>{{Citation |last=Allen |first=E. F. |year=1941 |title=On a Triangle Inscribed in a Rectangular Hyperbola [[American Mathematical Monthly]] |volume=48 |issue=10 |pages=675-681}}</ref>。

== 別称 ==
分解型複素数の名称は著者によってかなりバラつきがある。いくつか挙げれば
* 実テッサリン：(''real'') ''tessarine'', {{harvs|txt |first=James |last=Cockle |year=1848}}
* 代数的運動子：(''algebraic'') ''motor'', {{harvs|txt |author=[[William Kingdon Clifford]] |year=1882 |p=392}}{{rp|392 |at="Further Notes on [[Clifford biquaternion|Biquaternion]]s"}}
* 双曲（型）複素数：''hyperbolic complex number'', J.C. Vignaux (1935) および {{harvs|txt |first=G. |last=Sobczyk |year=1995}}
* 反複素数、双曲数：''countercomplex'' or ''hyperbolic'' number（ハイパー数の一部として）
* 二重数：''double number'', {{harvs|txt |author=[[Isaak Yaglom]] |year=1968 |pages=18-20}} および [[Encyclopedia of Mathematics]] の "Double and dual numbers" の項
* 異常複素数：''anormal-complex number'', {{harvs|txt |first=W. |last=Benz |year=1973}}
* 双数：''dual number'', {{harvs|txt |author=[[Louis Kauffman]] |year=1985}} および {{harvs|txt |first=J. |last=Hucks |year=1993}}
* 当惑数、複雑数：''perplex number'', {{harvs|txt |first=P. |last=Fjelstad |year= 1986}}{{rp|416}} [同定は {{harvs|txt |last=De Boer |year=1987}}{{rp|296}} を見よ]
* ローレンツ数：''Lorentz number'', {{harvs|txt |first=F. R. |last=Harvey |year=1990}}
* 分裂複素数、分解型複素数：''split-complex number'', {{harvs|txt |first=B. |last=Rosenfeld |year=1997}}{{rp|30}}

分解型複素数やその高次元版（[[分解型四元数]]や[[分解型八元数]]）は{{ill2|シャルル・ミュゼ|en|Charles Musès}}が考案した{{ill2|ミュゼのハイパー数|label=ハイパー数|en|Musean hypernumber}}計画の部分集合であるため、「ミュゼ数」としてたびたび言及される。

== 関連項目 ==
*[[ローレンツ群]]
*[[ミンコフスキー空間]]
分解型複素数の高次元版は、[[ケーリー＝ディクソンの構成法|ケーリー＝ディクソン構成]]を修正することによって得られる。
*[[分解型四元数]]（双対四元数 coquaternion）
*[[分解型八元数]]
包絡環と数の目録に関して
*[[クリフォード代数]]
*[[多元数]]
*[[リー代数]]

== 注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Citation |last=Benz |first=W. |year=1973 |title=uber Geometrie der Algebren |publisher=Springer |ref=harv}}
* {{Citation |author=[[William Kingdon Clifford]] |title= Mathematical Works |year=1882 |others=edited by A.W.Tucker |ref=harv}}
* {{Citation |last=Cockle |first=J. |year=1848 |title=A New Imaginary in Algebra |journal=London-Edinburgh-Dublin Philosophical Magazine |issue=3 |volume=33 |pages=345-349 |ref=harv}}
* {{Citation |last=De Boer |first=R. |year=1987 |title=An also known as list for perplex numbers |journal=American Journal of Physics |volume=55 |issue=4 |page=296 |ref=harv}}
* {{Citation |last=Fjelstadt |first=P. |year=1986 |title=Extending Special Relativity with Perplex Numbers |journal=American Journal of Physics |volume=54 |page=416 |ref=harv}}
* {{Citation |last=Hucks |first=J. |year=1993 |title=Hyperbolic Complex Structures in Physics |journal=Journal of Mathematical Physics |volume=34 |page=5986 |ref=harv}}
* {{Citation |author=[[F. Reese Harvey]] |title=Spinors and calibrations |publisher=Academic Press |location=San Diego |year=1990 |isbn=0-12-329650-1 |ref=harv}}：不定符号数のノルム代数およびローレンツ数に関する記述を含む。
* {{Citation |author=[[Louis Kauffman]] |year=1985 |title=Transformations in Special Relativity |journal=[[International Journal of Theoretical Physics]] |volume=24 |pages=223-236 |ref=harv}}
* {{Citation |last=Rosenfeld |first=B. |year=1997 |title=Geometry of Lie Groups |publisher=[[Kluwer Academic Publishers]] |isbn=0-7923-4390-5 |ref=harv}}
* {{Citation |last=Sobczyk |first=G. |year=1995 |url=http://www.garretstar.com/HYP2.PDF |title=Hyperbolic Number Plane |format=PDF |ref=harv}}
* {{Citation |last=Vignaux |first=J. |year=1935 |title=Sobre el numero complejo hiperbolico y su relacion con la geometria de Borel |journal=Contribucion al Estudio de las Ciencias Fisicas y Matematicas |publisher=[[ラプラタ国立大学|Universidad Nacional de la Plata]], [[アルゼンチン|Republica Argentina]] |language=Spanish |ref=harv}}
* {{Citation |author=[[Isaak Yaglom]] |year=1968 |title=Complex Numbers in Geometry |others=translated by E. Primrose from 1963 Russian original |publisher=Academic Press |location=N.Y. |ref=harv}}

== 関連文献 ==
{{参照方法|section=1|date=2017-12}}
* C. Musès, Applied hypernumbers: Computational concepts, Appl. Math. Comput. 3 (1977) 211–226.
* C. Musès, Hypernumbers II—Further concepts and computational applications, Appl. Math. Comput. 4 (1978) 45–66.
* K. Carmody, Circular and hyperbolic quaternions, octonions, and sedenions, Appl. Math. Comput. 28:47–72 (1988)
* K. Carmody, Circular and hyperbolic quaternions, octonions, and sedenions— further results, Appl. Math. Comput. 84:27–48 (1997)

== 外部リンク ==
* [http://ca.geocities.com/cocklebio/algmotor.html Introduction to Algebraic Motors]
* {{nlab|urlname=perplex+number |title=perplex number}} "(also known as a split-complex number or …)"
* {{SpringerEOM |urlname=Double_and_dual_numbers |title=Double and dual numbers |first=I.V. |last=Dolgachev}}


{{数の体系}}
{{DEFAULTSORT:ふんかいかたふくそすう}}
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:超複素数系]]