劣加法性のソースを表示

[[数学]]の分野における'''劣加法性'''（れつかほうせい、{{Lang-en-short|subadditivity}}）とは、大まかに言うと、[[定義域]]に含まれる二つの[[元 (数学)|元]]の和についての関数の値が、それら各元についての関数の値の和よりも常に小さいか等しい、という性質のことを言う。数学の様々な研究領域、特に[[ノルム]]や[[平方根]]などに関する領域において、数多くの劣加法的関数の例が知られている。[[加法的写像|加法的関数]]は、劣加法的関数の特別な場合である。

==定義==
'''劣加法的関数'''とは、加法について[[閉じている]][[定義域]] {{mvar|A}} と[[順序集合|順序付き]][[余域]] {{mvar|B}} を備え、次の性質
: <math>f(x+y)\leq f(x)+f(y) \quad(\forall x, y \in A)</math>
を満たすような[[写像]] {{math|''f'': ''A'' → ''B''}} を言う。加法および順序を備えた代数系として {{math|1=''A'' = ''B'' = '''R'''}} を[[実数直線]]とした、劣加法的[[実函数]]は典型的である。

また、{{mvar|A}} が離散的、特に[[自然数]]の集合 {{mathbf|N}} であるとき、劣加法的実数値函数は劣加法的[[数列]]と呼ばれる。一般に、{{mvar|B}} 内の[[列 (数学)|点列]] {{math|{{mset|''a{{sub|n}}''}}{{sub|''n''&ge;1}}}} は、[[不等式]]
{{NumBlk|::|<math>a_{n+m}\leq a_n+a_m\quad (\forall m,n\in\mathbb{N})</math>|{{EquationRef|1}}}}
を満たすとき、'''劣加法列'''であると言われる。

== 例 ==
主[[平方根]]関数 {{math|{{sqrt|&bull;}}: '''R'''{{sub|+}} → '''R'''{{sub|+}}}} は
:<math>\sqrt{x+y}\leq \sqrt{x}+\sqrt{y} \quad(\forall x,y\in \mathbb{R}_+)</math>
が成立するから、正値劣加法的実函数である。

[[絶対値]]や[[ノルム]]に関する劣加法性:
: <math>|x+y|\le |x| + |y|,\quad \|x+y\|\le\|x\|+\|y\|</math>
は[[三角不等式]]と呼ばれる。

==性質==
劣加法的な列に関する一つの有用な結果として、{{仮リンク|フェケテ・ミハーイ|en|Michael Fekete}}による次の[[補題]]が挙げられる<ref>Fekete, M. "Uber die Verteilung der Wurzeln bei gewissen algebraischen Gleichungen mit. ganzzahligen Koeffizienten." ''Mathematische Zeitschrift'' '''17''' (1923), pp. 228–249.</ref>。

: '''フェケテの劣加法補題''':  すべての劣加法的な列 <math>{\left \{ a_n \right \}}_{n=1}^\infty</math> には、[[極限]] <math>\lim_{n \to \infty} \frac{a_n}{n}</math> が存在し、その値は <math>\inf \frac{a_n}{n}</math> と等しい（極限の値は <math>-\infty</math> となることもある）。

優加法的な列、すなわち <math>a_{n+m}\geq a_n + a_m </math> であるような列に対しても、フェケテの補題と同様の結果が得られる（極限の値は <math>\infty</math> となることもある: 例えば、<math>a_n = \log n!</math> の場合など）。

不等式 ({{EquationNote|1}}) がすべての ''m'' および ''n'' について成立するとは限らない場合にも、フェケテの補題の拡張版が存在する。ある種の[[優加法性]]と劣加法性が共に存在するとき、フェケテの補題によって存在の認められている極限へと収束する割合を導くような結果も知られている<ref>Michael J. Steele. "Probability theory and combinatorial optimization". SIAM, Philadelphia (1997). ISBN 0-89871-380-3.</ref><ref>{{cite video|author=Michael J. Steele|title=CBMS Lectures on Probability Theory and Combinatorial Optimization|publisher=University of Cambridge|year=2011|url=http://sms.cam.ac.uk/collection/1189351}}</ref>。

''f'' が劣加法的関数で、0 がその定義域に含まれているなら、''f''(0) ≥ 0 が成立する。実際、<math>f(x) \ge f(x+y) - f(y)</math> であるために <math>f(0) \ge f(0+y) - f(y) = 0</math> が得られる。

''f''(0) = 0 であるような[[凹関数]] <math>f: [0,\infty) \to [0,\infty)</math> も劣加法的である。実際、<math>f(x) \ge \textstyle{\frac{y}{x+y}} f(0) + \textstyle{\frac{x}{x+y}} f(x+y)</math> であることと、逆の結果を足し合わせることで、''f'' が劣加法的であるということが分かる<ref>{{cite book | last = Schechter | first=Eric | authorlink=Eric Schechter| title=Handbook of Analysis and its Foundations | publisher=Academic Press | location = San Diego | year=1997 | id=ISBN 0126227608 }}, p.314,12.25</ref>。

劣加法的関数にマイナスをかけたものは[[優加法性|優加法的]]となる。

== 関連項目 ==
* [[三角不等式]]
* [[劣モジュラ関数]]
* [[劣加法的集合函数]]: 集合の合併を加法と見たときの加法的函数
* [[劣乗法的函数]]

==注釈==
<references />

==参考文献==
* {{citebook|author1-link=ポーヤ・ジェルジ|first1=György |last1=Pólya | author2-link=セゲー・ガーボル|first2=Gábor |last2=Szegő |title= Problems and theorems in analysis | volume= 1 |publisher= Springer-Verlag |location= New York | year=1976 |isbn=0-387-05672-6}}

== 外部リンク ==
* {{PlanetMath|urlname=subadditivity|title=subadditivity}}
* {{SpringerEOM|urlname=Subadditive_function|title=Subadditive function}}

{{DEFAULTSORT:れつかほうせい}}
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[[Category:解析学]]
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