化学式のソースを表示

{{Infobox
| title            = <chem>Al_2(SO_4)_3</chem>
| data2            = [[硫酸アルミニウム]]の''化学式''
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{{Infobox
| title            = <chem>H-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-H</chem>
| data2            = [[ブタン]]の[[構造式]]
}}

[[化学]]において、'''化学式'''（かがくしき、chemical formula）は、特定の[[化合物]]や[[分子]]を構成する[[原子]]の化学的比率に関する情報を表す方法で、[[化学元素]]記号や数字に加え、丸括弧、ダッシュ、角括弧、コンマ、プラス (+) やマイナス (−) 記号などの他の記号も併用される。これらは、印刷上の1行に収まるよう制限されているが、{{Ill2|下付きと上付き|en|Subscript and superscript|label=下付き文字や上付き文字}}を含むこともできる。ただし化学式は、単語を含まないため、{{Ill2|化学命名法|en|Chemical nomenclature|label=化学名}}ではない。また、化学式が単純な[[化学構造]]を示唆することもあるが、完全な[[化学構造式]]とは異なる。化学式は、最も単純な分子や[[化学物質]]の構造のみを完全に特定できるが、一般的に化学名や構造式よりも表現力は制限されている。

最も単純な化学式は[[実験式]]（empirical formulae）と呼ばれるもので、文字と数字を使用して、原子の種類ごとの数値比率を表す。[[分子式]]（molecular formulae）は、分子を構成する原子の種類ごとの単純な数を示すもので、構造に関する情報はない。たとえば、[[グルコース]]の実験式は {{chem2|CH2O}} （[[水素]]原子は[[炭素]]や[[酸素]]の2倍）だが、分子式は {{chem2|C6H12O6}} （水素原子12個、炭素と酸素原子6個）である。

化学式が[[示性式]]（condensed formula）{{Efn|示性分子式（condensed molecular formula）や半構造式（semi-structural formula）とも呼ばれることもある}}として記述される場合、原子が[[化学結合|化学的に結合]]する固有の方法（[[共有結合]]、[[イオン結合]]、またはその組み合わせ）に関する情報の追加によって複雑になることがある。これは、関連する結合が一次元で簡単に表現できるものであれば選択可能である。たとえば、[[エタノール]]の示性式は、{{chem2|CH3\sCH2\sOH}}、または {{chem2|CH3CH2OH}} である。しかし示性式でも、原子間の複雑な結合関係、特に4つ以上の異なる[[置換基]]との結合を持つ原子を表現するにはどうしても限界がある。

化学式は[[元素記号]]の一行で表現しなければならないため、化合物中の原子どうしの空間的関係をグラフィックで表現した完全な構造式ほど多くの情報量を伝えられないことが多い（たとえば、右下のブタンの構造式、化学式の図を参照）。分子の構造の複雑さのため、ある示性式が、[[異性体]]と呼ばれる互いに異なる分子に対応することがある。たとえば、グルコースの[[分子式]]は {{chem2|C6H12O6}} であるが、[[フルクトース]]、[[ガラクトース]]、[[マンノース]]などの異なる多くの[[砂糖|糖類]]と共通している。複雑な構造を一意に特定できる線形等価化学名{{訳語疑問点|date=2023年6月|原文では「Linear equivalent chemical names」}}も存在するが（{{Ill2|化学命名法|en|Chemical nomenclature}}を参照）、このような名前には、化学式を定義する単純な元素記号、数字、単純な[[活版印刷]]用記号<!--typographical symbol-->だけではなく、多くの用語を使用しなくてはならない。

化学式は、[[イオン性化合物]]{{Enlink|Ionic compound|英語版|en}}の溶液への溶解など、[[化学反応]]やその他の化学転換を記述するために、[[化学方程式]]（chemical equations、[[化学反応式]]とも）に使用されることがある。上述のように化学式は、構造式のように原子間での化学的結びつきを示すことはできないが、化学反応における原子の数や[[電荷]]の数を把握するには十分であり、化学方程式の[[化学反応式#化学量論的反応式|収支]]をとることで原子や電荷の保存を含む化学問題で利用することができる。

== 概要 ==
化学式は、化合物を構成する各[[元素]]を[[元素記号|化学記号]]で識別し、各元素の原子数の比率を示すものである。実験式の場合、これらの比率は、化合物中の主要な元素から始まって、その元素に対する比率で他の元素の原子数を割り当てる。分子化合物の場合、これらの比率の値はすべて整数で表すことができる。たとえば、[[エタノール]]の実験式は {{chem2|C2H6O}} と表記されることがあるが、これはエタノールの分子はすべて2個の炭素原子、6個の水素原子、1個の酸素原子を含んでいるからである。しかし、イオン性化合物の中には、実験式をすべて整数で表現できないものもある。たとえば[[炭化ホウ素]]の場合、その式 {{chem2|CB_{''n''} }} は、''n'' が 4-6.5 の間で可変の非正数比である。

化合物が単純な[[分子]]で構成されている場合、化学式は分子の構造を示唆する記述法をとることが多い。このような式は、分子式あるいは示性式として広く知られている。分子式は、分子内の原子の数を反映させるために原子数を列挙する。そのため、[[グルコース]]の分子式は {{chem2|C6H12O6}} となり、実験式の {{chem2|CH2O}} とは異なる。しかし、非常に単純な物質を除いて、分子の化学式は必要な構造情報を欠いていて、曖昧となる。

単純な分子の場合、示性式（または半構造式）は、正しい構造を完全に示唆する可能性のある化学式の一つである。たとえば、エタノールは {{chem2|CH3CH2OH}} という示性式で、[[ジメチルエーテル]]は {{chem2|CH3OCH3}} という示性式で表すことができる。この2つの分子は同じ実験式と分子式（{{chem2|C2H6O}}）を持っているが、単純な[[有機化合物]]の完全な構造を表すのに十分な示性式が示されることで、分子を区別することができる。

また、示性式は[[イオン性化合物]]も表現することができる。イオン性化合物は個別の分子としては存在せず、その内部に共有結合したクラスターを含んでいる。これらの[[多原子イオン]]は、たとえば[[硫酸イオン]] {{chem2|[SO4]^{2-} }} のように、全体としてイオン電荷を持つ、共有結合した原子のグループである。化合物中の各多原子イオンは、グループ分けを説明するために個別に表記される。たとえば、{{Ill2|六酸化二塩素|en|Dichlorine hexoxide}}という化合物は、実験式は {{chem2|ClO3}} 、分子式は {{chem2|Cl2O6}} で表されるが、液体や固体ではイオン示性式<!-- ionic condensed formula --> {{chem2|[ClO2]+[ClO4]-}} で表す方がより正確であり、この化合物が {{chem2|[ClO2]+}}イオンと {{chem2|[ClO4]-}}イオンから構成されることを示している。このような場合、示性式は各イオン種の少なくとも1つを示すのに十分な複雑さであればよい。

本記事で説明する化学式は、{{Ill2|化学命名法|en|Chemical nomenclature}}のさまざまな体系で使用されている非常に複雑な化学系統名とは異なるものである。たとえば、グルコースの系統名の一つに、(2''R'',3''S'',4''R'',5''R'')-2,3,4,5,6-pentahydroxyhexanal がある。この名前はその背景にある規則によって解釈され、グルコースの構造を完全に特定しているが、通常の意味での化学式ではなく、化学式では用いられない用語や単語を使っている。このような名前は、基本式とは違って、グラフィックを使わなくても完全な構造を表すことができる可能性がある。

== 種類 ==
=== {{Anchors|組成式}}実験式 ===
{{main|実験式}}
[[化学]]では、化学物質の'''[[実験式]]'''（empirical formula）とは、化合物質に含まれる原子の種類ごとの相対的な数、または元素の比率を簡単に表したものである。化学物質の元素組成を示すことから、'''元素組成式'''（compositional formula, nominal composition）、あるいは単に'''組成式'''と呼ぶこともある。{{chem2|CaCl2}} のような[[イオン性化合物]]や、{{chem2|SiO2}} のような高分子化合物では、実験式が標準となる。実験式では、[[異性体|異性]]、構造、原子の絶対数には言及しない。実験（empirical）という用語は、[[元素分析]]のプロセスを意味しており、これは純粋な化学物質の元素ごとの相対的な組成を決定するのに使われる[[分析化学]]の技術である。

たとえば、[[ヘキサン]]は分子式は {{chem2|C6H14}} で、''n''-ヘキサン（異性体の一つ）の構造式は {{chem2|CH3CH2CH2CH2CH2CH3}} であり、6個の[[炭素]]原子と14個の[[水素]]原子からなる直鎖構造を持っていることを意味する。しかし、ヘキサンの実験式は {{chem2|C3H7}} となる。同様に、過酸化水素 {{chem2|H2O2}} の実験式は単純に {{chem2|HO}} で、構成元素が 1:1 の比率であることを表している。[[ホルムアルデヒド]]と[[酢酸]]の実験式は同じ {{chem2|CH2O}} である。これは、ホルムアルデヒドの実際の化学式でもあるが、酢酸はこの2倍の原子数を持っている。

=== 分子式 ===
[[File:Isobutane_numbered_2D.svg|thumb|180px|[[イソブタン]]の構造式<br />分子式: {{chem2|C4H10}}<br />示性式: {{chem2|(CH3)3CH}}]]

{{Image frame
|content=<chem>H-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-\overset{\displaystyle H \atop |}{\underset{| \atop \displaystyle H}{C}}-H</chem>
|align=right|width=180
|caption=[[ブタン|''n''-ブタン]]の構造式<br />分子式: {{chem2|C4H10}}<br />示性式: {{chem2|CH3CH2CH2CH3}}
}}

'''分子式'''（molecular formula）は、分子性物質<!-- molecular substance -->の1分子に含まれる原子の種類ごとの数を簡単に示したものである。これは、特定の種類の原子を1つだけ持ち、それ以外はより大きな数を持つ分子の実験式と同じである。たとえば、グルコースの場合、実験式は {{chem2|CH2O}} （比率 1:2:1）であるが、これに対し、分子式は {{chem2|C6H12O6}} （原子数 6:12:6）で相違している。水の場合はどちらの式も {{chem2|H2O}} となる。分子式は実験式よりも分子に関する情報をより多く提供しているが、確証にはより困難さを伴う。

分子式は分子に含まれる元素の数を示し、それが[[二元化合物]]（異なる2種類の元素を含む）か、[[三元化合物]]か、[[四元化合物]]か、さらに多くの元素を持つかどうかを決定する。

=== 構造式 ===
{{Main|構造式}}
'''構造式'''（こうぞうしき、structural formula）は、各分子の原子数を示すだけでなく、原子が分子をどのように構成しているか表現するとともに、原子間の[[化学結合]]を示す（または暗示する）ものである。構造式は通常、平面上に構造の[[トポロジー]]的な関係だけを表現し、実際の構造を反映するものではない。構造式には、分子構造のさまざまな側面に着目した、いくつかの種類がある。右に掲載したブタンの2つの図は、同じ分子式 {{chem2|C4H10}} でありながら構造式が異なる[[構造異性体]]である2つの分子を区別して示している。

分子の{{Ill2|連結性 (グラフ理論)|en|Connectivity (graph theory)|label=連結性}} は、しばしばその物理的性質、化学的性質、挙動に強い影響を与える。同じ数、同じ種類の原子から構成される2つの分子（つまり一対の[[異性体]]）は、原子の結合が異なったり結合の位置が異なったりすると、化学的および物理的に全く異なる性質を持つことがある。このような場合、どの原子がどの原子に結合しているかを示す[[構造式]]が役に立つ。また、連結性から、おおよその[[分子構造|分子の形状]]を推定できることも多い。

=== 示性式 ===
{{Main|示性式}}
'''示性式'''（しせいしき、condensed formula、または半構造式（semi-structural formula））は、図版の使用が非常に制限されていた有機化学の初期の出版物で、有機構造を一行で記述する活版印刷上の体系として登場した。示性式は、単純な化学物質の[[化学結合|結合]]の種類と空間的配置を表すことができるが、必ずしも[[異性体]]や複雑な構造を特定できるわけではない。

たとえば、[[エタン]]は[[単結合]]した2個の炭素原子から構成され、各炭素原子には3個の水素原子が結合していて、化学式は {{chem2|CH3CH3}} と表わされる。[[エチレン]]では、炭素原子間に[[二重結合]]があるため（つまり各炭素は2個の水素しか持たない）化学式は {{chem2|CH2CH2}} と表される。炭素間に二重結合があることは、炭素の[[原子価]]は4であることから暗黙的に示されている。しかし、より明示的な記述は {{chem2|H2C\dCH2}} であり、あまり一般的ではないが {{chem2|H2C::CH2}} と記述することもある。2本の線（または2対の点）は、その両隣の原子を二重結合で連結していることを示す。[[三重結合]]は3本の線 {{chem2|HC\tCH}} または3対の点（{{chem2|HC:::CH}}）で表すことがあり、曖昧な場合は、単結合を1本の線または1対の点で示すことがある。

同じ[[官能基]]を複数持つ分子は、繰り返される基を[[丸括弧]]で囲んで表現することができる。たとえば、[[イソブタン]]は {{chem2|(CH3)3CH}} と表すことがある。この示性式は、同じ原子を同じ割合で使ってできる他の分子（異性体）とは異なる連結性を意味している。この {{chem2|(CH3)3CH}} という式は、中心の炭素原子が、1個の水素原子と3個の[[メチル基]]（{{chem2|CH3}}）に接続していることを意味する。各元素の同数の原子（水素10個、炭素4個、つまり {{chem2|C4H10}}）があれば、[[直鎖化合物|直鎖]]分子である ''n''-[[ブタン]]（ {{chem2|CH3CH2CH2CH3}} ）を作ることができる。

== 一定組成の法則 == 
どのような化合物でも、元素は常に同じ割合で互いに結合している。これが[[定比例の法則|一定組成の法則]]（定比例の法則とも呼ぶ）である。一定組成の法則とは、どんな化合物でも、その化合物のすべてのサンプルは、同じ元素が同じ割合（または比率）で構成されるというものである。たとえば、どの水分子でも、かならず2個の水素原子と1個の酸素原子から 2:1 の割合で構成されている。水の分子に含まれる酸素と水素の相対的な質量を見ると、水分子の質量の94%が酸素が占め、残りの6%が水素の質量であることがわかる。この質量比は、どの水分子でも同じである<ref>{{cite web|title=Law of Constant Composition|url=http://www.everythingmaths.co.za/science/grade-10/13-physical-and-chemical-change/13-physical-and-chemical-change-03.cnxmlplus|website=Everything Math and Science|publisher=SIYAVULA|access-date=31 March 2016}} [[File:CC BY-SA icon.svg|50px]] This material is available under a Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 license.</ref>。

=== 化学式の制約に対する化学命名法 ===<!-- what why here??? なんでここで??? -->
{{main|{{ill2|化学命名法|en|Chemical nomenclature}}}}
ブタ-2-エン（but-2-ene）という[[アルケン]]には、化学式 {{chem2|CH3CH\dCHCH3}} では識別できない2つの異性体がある。2つのメチル基の相対的な位置を示すためには表記を追加して、メチル基が二重結合の同じ側（''cis'' または ''Z''）にあるか、反対側（''trans'' または ''E''）にあるかを示す必要がある<ref>{{Cite book|last=Burrows, Andrew.|title=Chemistry³ : introducing inorganic, organic and physical chemistry|isbn=978-0-19-969185-2|edition=Second|location=Oxford|oclc=818450212|date=2013-03-21}}</ref>。

上述のように、多くの複雑な有機および無機化合物の完全な構造式を表現するためには、単純な示性式で利用できる手段をはるかに超える{{Ill2|化学命名法|en|Chemical nomenclature}}を必要とする場合がある。その例については、{{Ill2|IUPAC有機化学命名法|en|IUPAC nomenclature of organic chemistry}}（IUPAC nomenclature of organic chemistry）および、{{Ill2|IUPAC無機化学命名法|en|IUPAC nomenclature of inorganic chemistry}}2005（IUPAC nomenclature of inorganic chemistry 2005）を参照のこと。また、[[InChI|国際化学識別子]]（InChI）のような線形命名システムによって、コンピュータで構造式を構築することができ、[[SMILES記法|簡易分子入力ライン入力システム]]（SMILES）では、人間がより理解しやすい[[ASCII]]入力ができる。しかし、これらの命名体系はいずれも化学式の基準を超えており、厳密にいえば式体系ではなく命名法である{{Citation needed|reason=Sounds like opinion. Cite?|date=July 2018}}。

=== ポリマーの示性式 ===
[[ポリマー]]の示性式は、繰り返し単位を括弧で囲んでいる。たとえば、{{chem2|CH3(CH2)50CH3}} と表記される[[炭化水素]]分子は、50個の繰り返し単位を持つ分子である。繰り返し単位の数が不明または可変である場合、文字 ''n'' を使用してその式 {{chem2|CH3(CH2)_{''n''}CH3}} を示すことができる。

=== イオンの示性式 ===
イオンの場合、特定の原子の電荷を、右側の上付き文字で表わすことができる。たとえば、 {{chem2|Na+}} や {{chem2|Cu(2+)}} である。また、[[ヒドロニウム]] {{chem2|H3O+}} や[[硫酸イオン]] {{chem2|SO4(2-)}} のように、荷電分子や多原子イオンの総電荷もこの方法で表すことができる。ここでは、+1 や -1 の代わりに + と - が使用されている。

より複雑なイオンの場合、'''イオン式'''（イオンしき、ionic formula）を角括弧 '''[ ]''' で囲むことがよくあり、{{Ill2|ドデカホウ酸セシウム|en|Caesium dodecaborate}} {{chem2|Cs2[B12H12]}} などの化合物で {{chem2|[B12H12](2-)}} のように見られる。[[ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物]] {{chem2|[Co(NH3)6](3+)Cl3-}} のように、繰り返し単位を示すために、丸括弧 '''( )''' を括弧内に入れ子にすることもできる。ここで、 {{chem2|(NH3)6}} はコバルトに結合した6個の{{Ill2|金属アンミン錯体|en|Metal ammine complex|label=アンミン基}}({{chem2|NH3}}) を含むことを示し、[ ] は電荷 +3 のイオン式全体を囲んでいる{{Elucidate|date=November 2012}}。

こうした表記は厳密には任意である。化学式はイオン化情報の有無にかかわらず有効であり、ヘキサアミンコバルト(III)塩化物は {{chem2|[Co(NH3)6](3+)Cl3-}} または {{chem2|[Co(NH3)6]Cl3}} と表すことができる。角括弧は丸括弧と同様に、数学と同じように化学でも用語をまとめる役割をもつが、特にイオン化状態だけに使われるものではない。後者の場合、角括弧は、全て同じ形状の6つの基が別の1つの基（コバルト原子）に結合し、さらにその一群が1つの基として3つの塩素原子に結合していることを示してる。前者の場合、塩素をつなぐ結合が[[共有結合]]ではなく、[[イオン結合]]であることが明確になる。

== 同位体 ==
通常、元素は天然組成比の[[同位体]]混合物を意味している。[[同位体]]は[[核化学]]や[[安定同位体|安定同位体化学]]に関連するが、化学式では異なる同位体を明示するために、左上付き文字で[[質量数]]を示すことがある。たとえば、放射性リン32を含むリン酸イオンは {{chem2|[^{32}PO4]^{3-} }} である。また、安定同位体比に関わる研究では、{{chem2|^{18}O^{16}O}} という分子を使うこともある。

左側の下付き文字は、[[原子番号]]を示すために重複して使用されることがある。たとえば、{{chem2|_{8}O2}} は二酸素を、 {{Nuclide|O|16}}<sub>2</sub> <!-- 英語版では Template:ComplexNuclide が使用されていたが、日本語版では存在しないため別のテンプレートで表現した。 -->は二酸素の最も豊富な同位体種を表す。これは、[[核反応]]式を書くときに、電荷の収支をより明確に示すために便利である。

[[重水素]]や[[三重水素]]では、それぞれの頭文字をとって D や T と表すことがある。

== 内包原子 ==
[[File:Endohedral fullerene.png|thumb|180px|[[バックミンスターフラーレン]]の三次元表現<br>従来の式：{{chem2|MC60}}<br>@表記：{{chem2|M@C60}}]]
{{main|{{ill2|内包フラーレン|en|Endohedral fullerene}}}}
[[単価記号|@記号]]（アットマーク）は、ケージ内に閉じ込められているが、化学的に結合していない原子や分子を示す。たとえば、原子 M を持つ[[バックミンスターフラーレン]]（{{chem2|C60}}）は、M が化学結合せずにフラーレン内に捕捉されているか、炭素原子の1つと結合してフラーレン外にあるかに関わらず、単純に {{chem2|MC60}} と表記される。＠記号を使用すると、M が炭素ネットワークの内側にある場合は {{chem2|M@C60}} と表記される。フラーレン以外の例としては、 {{chem2|[As@Ni12As20](3-)}} があげられる。このイオンは、1個の[[ヒ素]]原子（As）が、他の32個の原子によって形成されたケージ内に閉じ込められている。

この表記法は、1991年に提案されたもので<ref name="YanChai">{{cite journal |title=Fullerenes wlth Metals Inside |author1=Chai, Yan |author2=Guo, Ting |author3=Jin, Changming |author4=Haufler, Robert E. |author5=Chibante, L. P. Felipe |author6=Fure, Jan |author7=Wang, Lihong |author8=Alford, J. Michael |author9=Smalley, Richard E. |journal=Journal of Physical Chemistry |volume=95 |issue=20 |year=1991 |pages=7564–7568 |doi=10.1021/j100173a002}}</ref>、[[ランタン|La]]などの原子を閉じ込めて {{chem2|La@C60}} や {{chem2|La@C82}} を形成する[[フラーレン]]ケージ（{{Ill2|内包フラーレン|en|Endohedral fullerene}}）が発見されたことに伴うものである。この記号を選んだ理由について著者らは、印刷や電子送信が容易であること{{Efn|＠記号は、現代使われている大半の文字符号化方式の基礎をなす[[ASCII]]に含まれている}}、視覚的に内包フラーレンの構造を示唆するものであると説明している。

== 不定比化学式 ==
{{Main|不定比化合物}}

化学式では通常、各元素の数を[[整数]]で表記する。しかし、小さな整数では表せない[[不定比化合物]]（または非化学量論的化合物）と呼ばれる種類の化合物が存在する。このような式は、{{chem2|Fe0.95O}} のように[[小数]]で表されることもあれば、{{chem2|Fe_{1–''x''}O}} のように文字による可変部を含むこともある。

== 有機化合物の一般式 ==
一定の単位で互いに異なる一連の化合物を表す化学式を、'''一般式'''（general formula）と呼ぶ。これは、{{Ill2|同族列|en|Homologous series}}の化学式を生成する。たとえば、[[アルコール]]は {{chem2|C_{''n''}H_{2''n'' + 1}OH}} (''n'' ≥  1) という一般式で表すことができ、1 ≤ ''n'' ≤ 3 で[[メタノール]]、[[エタノール]]、[[プロパノール]]という同族体を得ることができる。

また、任意の[[金属]]元素を示す M や[[ハロゲン]]元素を示す X など、元素記号を一般化して表すこともある。

== ヒルシステム ==
'''ヒルシステム'''（Hill system、またはヒル表記法（Hill notation））は、実験式、分子化学式、示性式の構成元素の表記方法であり、[[分子]]内の[[炭素]][[原子]]の数を最初に表し、次に[[水素]]原子の数を表し、その後に他のすべての[[化学元素]]の数を[[元素記号]]の[[アルファベット順]]に記述する。炭素が式に含まれない場合は、水素を含むすべての元素をアルファベット順に列挙する。

このような規則に従って化学式を各元素の原子数によって並べ替え、前の元素や数値の違いは後の元素や数値の違いよりも重要なものとして扱うことで、テキスト文字列を[[辞書式順序|辞書順]]に並べるのと同様に、化学式をヒルシステム順序（Hill system order）と呼ばれるものに対照{{Enlink|Collation|英語版|en}}することができる。

ヒルシステムは、1900年に、[[米国特許商標庁]]の Edwin A. Hill が発表したものである<ref>{{cite journal | author = Edwin A. Hill | title = On a system of indexing chemical literature; Adopted by the Classification Division of the U.S. Patent Office | journal = [[:en:J. Am. Chem. Soc.|J. Am. Chem. Soc.]] | year = 1900 | volume = 22 | issue = 8 | pages = 478–494 | doi = 10.1021/ja02046a005| hdl = 2027/uiug.30112063986233 | url = https://zenodo.org/record/1428916 }}</ref>。これは、化学データベースや印刷された索引で化合物のリストを分類するために、最もよく使われる方式である<ref name="wiggins">Wiggins, Gary. (1991). ''Chemical Information Sources.'' New York: McGraw Hill. p. 120.</ref>。

ヒルシステム順序による式の一覧では、上記のようにアルファベット順に配列され、記号が同じ文字で始まる場合は、1文字の元素が2文字の元素よりも前に来るようになっている（つまり「B」は「Be」の前に、「Be」は「Br」の前に来る<ref name="wiggins" />）。

次に例を示す式の配列はヒルシステムを使用して書かれ、ヒルシステム順序に並んでいる。
* BrI
* BrClH<sub>2</sub>Si
* CCl<sub>4</sub>
* CH<sub>3</sub>I
* C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>Br
* H<sub>2</sub>O<sub>4</sub>S

== 関連項目 ==
* [[有機化合物の一覧]]
* {{Ill2|式単位|en|Formula unit}} - イオン性または共有結合性ネットワークの固体化合物の実験式
* {{Ill2|同位体記法|en|Nuclear notation}} - 同位体や核種を指定する表記法
* [[周期表]] - 化学元素をその性質に基づいて行列に並べたもの
* {{Ill2|骨格式|en|Skeletal formula}} - 分子の骨格構造を二次元で表現した表記法
* [[SMILES記法]] - 化学種の構造を短いASCII文字列で記述するための線型表記法
* [[分子量]] - ある分子の質量
* [[立体化学]] - 分子の構造を形成する原子の相対的な空間配置や操作に関する研究

== 脚注 ==
=== 注記 ===
{{notelist}}

=== 出典 ===
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* {{cite book |last1 = Petrucci |first1 = Ralph H. |last2 = Harwood |first2 = William S. |last3 = Herring |first3 = F. Geoffrey |date=2002 |title = General chemistry: principles and modern applications |chapter-url = https://archive.org/details/generalchemistry00hill |chapter-url-access = registration |edition=8th |location=Upper Saddle River, N.J |publisher=Prentice Hall |isbn = 978-0-13-014329-7 |lccn=2001032331 |oclc=46872308 |chapter=3 }}
* {{cite journal|last=Lewis|first=Gilbert N.|authorlink=ギルバート・ルイス|date=1916-04-01|title=The atom and the molecule|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=38|issue=4|pages=762&ndash;785|ref=harv|doi=10.1021/ja02261a002}}
* {{cite book |last=Dickerson |first=Richard E. |last2=Gray |first2=Harry B. |last3=Haight |first3=Gilbert P. |date=1979 |url=https://resolver.caltech.edu/CaltechBOOK:1979.001 |chapter=Chapter 11. Lewis Structures and the VSEPR Method |title=Chemical principles |edition=3rd |publisher=The Benjamin/Cummings |isbn=978-0-8053-2398-6 |page=400 |accessdate=2010-08-17 |ref=harv}}

== 外部リンク ==
{{Wikidata property|P274}}{{Commons category-inline}}{{ウィキポータルリンク|化学|[[File:Nuvola apps edu science.svg|32px|ウィキポータル 化学]]}}
{{ウィキプロジェクトリンク|化学|[[File:Nuvola apps edu science.svg|32px|ウィキプロジェクト 化学]]}}{{Molecular visualization}}

{{Molecules detected in outer space}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:かかくしき}}
[[Category:化学]]
[[Category:分子]]
[[Category:表記]]
[[Category:化学式|*]]
[[Category:化学命名法]]