十勝沖地震のソースを表示

{{otheruses|北海道の十勝地方南東沖で発生する地震|1968年5月に青森県東方沖で発生した地震|十勝沖地震 (1968年)}}
{{特殊文字|説明=[[Microsoftコードページ932]]（[[はしご高]]）}}
'''十勝沖地震'''（とかちおきじしん）は、[[北海道]]の[[十勝総合振興局|十勝地方]]の沖合を[[震源]]として起こる[[地震]]。過去に数回発生しているため、発生年または[[元号]]を付して「○○○○年十勝沖地震」「○○十勝沖地震」と区別されることが多い。

== 概要 ==
北海道十勝沖から[[ロシア|ロシア連邦]]の[[カムチャツカ半島]]沖にかけて[[千島海溝]]が存在しているが、この海溝では[[太平洋プレート]]が[[北アメリカプレート]]の下に年間数cmの速度で沈み込んでいる。このため両プレートの境界で歪みが発生し、その歪みの開放により発生する[[断層|逆断層]]型の[[地震#プレート間地震|海溝型地震]]である。

想定される十勝沖地震の[[マグニチュード]] (M) は8前後、発生間隔は約60 - 80年と見られている。これまで M8クラスの地震が1843年、1952年、2003年と繰り返し発生している。400 - 500年程度の間隔で[[根室半島沖地震|根室沖地震]]と[[連動型地震|連動]]してきた可能性があり、2003年の十勝沖・1973年の根室沖の次の地震が連動した場合の規模はM8.3程度と推定されている<ref name="千島海溝沿いの地震活動">{{PDFlink|[https://www.jishin.go.jp/main/chousa/04dec_chishima2/chishima2.pdf 千島海溝沿いの地震活動の長期評価（第二版）]}} 地震調査研究推進本部</ref>（[[#17世紀型地震|後述]]）。なお、1968年の地震は震源域が「[[三陸沖北部地震|三陸沖北部]]」に分類されるため、この周期に含まれない<ref>{{PDFlink|[https://www.jishin.go.jp/main/chousa/09mar_sanriku/sanriku_boso_2_hyoka.pdf 三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価]}} 地震調査研究推進本部</ref>。

また、十勝沖では17.5年周期でM7前後のひとまわり小さい海溝型地震や27.3年周期で沈み込むプレート内部で発生するM7-8程度のスラブ内地震（[[深発地震]]）も発生する<ref name="千島海溝沿いの地震活動" />。

== 被災史 ==
文書に残る十勝地域の歴史地震は慶長年間の[[松前藩]]による[[十勝郡|トカチ場所]]の設置及び、1666年（[[寛文]]6年）の[[広尾郡|ビロウ場所]]の設置以降で、松前藩以前の道東地域に主に居住していた[[アイヌ]]による史料は残されていない<ref>七山太, 重野聖之 ほか(2003)、「{{PDFlink|[https://www.gsj.jp/data/actfault-eq/h14seika/nanayama/tokachi.pdf 北海道東部，十勝海岸南部地域における17世紀の津波痕跡とその遡上規模の評価]}}」『活断層・古地震研究報告』 2003年 第3号 p.297-314</ref>との研究があったが、[[2005年]]に髙清水康博による津波に関するアイヌの口碑伝説と記録に関する研究によれば、標高5m海岸からの距離15kmまでの地域に津波が襲った可能性ある話が成り立つアイヌ伝説は、[[鵡川町]]のムリエトへの丘伝説やウコト゜イの洞窟伝説、[[白糠町]]のキラコタン伝説、[[釧路市]]トイトウ(海抜10m海岸線3km)の津波伝説など、少なくとも20の口承伝説について成立し実際の津波被災体験に基く伝説が継承されていた可能性あった。またそれらの伝説が語られた地域は釧路海岸と日高から胆振海岸および内浦湾沿岸に多いなどの地理的分布上の特徴があった。釧路の津波伝説については[[春採湖]]の地質研究により少なくとも過去9000年間に20層の津波イベント堆積物の報告がありアイヌの人々が津波を経験していた可能性がある<ref>{{PDFlink|[http://www.histeq.jp/kaishi_20/29-Takashimizu.pdf 髙清水康博 「北海道における津波に関するアイヌの口碑伝説と記録」『歴史地震』第20号 2005年 183-199頁]}} 2015年2月24日確認</ref>。

== 超巨大地震（17 世紀型） ==
北海道東部沿岸では、[[津波堆積物]]の分布から17世紀に大規模な津波が発生したと推定されている。[[地震調査研究推進本部]]はこの津波堆積物や地殻変動から、この津波の波源を[[千島海溝]]の[[プレート境界型地震|プレート境界]]で発生したMw 9前後の地震と推定し、この地震・津波イベントを「'''超巨大地震（17 世紀型）'''」とした<ref name="chishima3">{{Cite web|和書|date=2017-12-19 |url=http://www.jishinhonbu.jp/main/chousa/kaikou_pdf/chishima3.pdf |title=千島海溝沿いの地震活動の長期評価（第三版） |format=PDF |publisher=地震調査研究推進本部 |accessdate=2018-02-10}}</ref>。

調査開始初期は、津波堆積物の堆積間隔や地殻変動から活動間隔は300年から600年とされており、2005年には[[中央防災会議]]がその平均から「'''500年間隔地震'''」と命名し、対策を始めた<ref name="十勝毎日"/>。しかし、精度の高い年代測定を実施した結果、津波堆積物の堆積間隔は平均500年間隔ではなく、100年から800年程度の非周期的なバラツキがあり、平均発生間隔は400年程度と求められた<ref name="okamura">{{PDFlink|[http://www.gsj.jp/data/actfault-eq/h22seika/pdf/okamura.pdf 岡村行信・行谷佑一：17世紀に発生した千島海溝の連動型地震の再検討]}} 産業技術総合研究所 活断層・古地震研究報告、No.11, p.15-20, 2011</ref>。

17世紀型地震による津波（痕跡）分布を説明できる断層モデルはMw 8.5<ref>[https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20030807/pr20030807.html 千島海溝プレート間地震の連動が巨大な津波をもたらした]（[[産業技術総合研究所]]）</ref>または8.6<ref name="地質研究所"/>、[[慶長三陸地震]]津波と17世紀地震津波が同一であった場合はMw 8.9以上のプレート間地震が想定されている。

=== 痕跡の発見 ===
北海道東部沿岸や南千島には、[[メナシクル]]と呼ばれる[[アイヌ民族]]集団が居住していたが、文字文化を持っていなかったため、この地域の大地震が歴史記録に残るのは[[和人]]による支配が進んだ[[19世紀]]以降となる。
一方地質調査から、[[更新世]]後期に形成された[[海岸段丘]]が広く分布しており、10万年スケールでは隆起する傾向にあると推定されている。しかし、平時は年間 1cm 近い速度で沈降しており、これまで歴史記録も含め、地震で隆起した事実はない。むしろ地震時にはわずかに沈降しており、余効変動での若干の隆起を除けば、ずっと沈み続けていることになる。この長期的スケールと短期的スケールの矛盾は超巨大地震による隆起イベントによって解消される可能性が指摘された<ref>{{Cite journal|和書|date=1996 |url=https://doi.org/10.11462/afr1985.1996.15_93 |title=活断層研究と日本列島の現在のテクトニクス |author=[[池田安隆]] |accessdate=2018-02-10 |journal=活断層研究 |volume=15 |issue= |pages=93-99 |doi=10.11462/afr1985.1996.15_93 }}</ref><ref name="Atwater2004">{{Cite journal |date=2004 |doi=10.1029/2006GL026052 |url=http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1191/0959683604hl726rp?journalCode=hola |title=Seventeenth-century uplift in eastern Hokkaido, Japan |author=Atwater, et al. |accessdate=2018-02-10 |journal= The Holocene |volume=14 |issue=4 |pages=487-501}}</ref>。その後に行った沿岸の堆積物調査で、後述の17世紀の津波堆積物と17 世紀の指標テフラを含む泥炭層との間に海成の粘土層が挟まれていることを発見し、それらの珪藻分析に基づいて、隆起が地震後数十年かけてゆっくりと生じたことを明らかにした。その隆起量は 1m 程度もしくはそれ以上と推定されている<ref>{{Cite journal |date=2004 |doi=10.1126/science.1104895 |url=http://science.sciencemag.org/content/306/5703/1918.long |title=Transient Uplift After a 17th-Century Earthquake Along the Kuril Subduction Zone |author=Sawai, et al. |accessdate=2018-02-10 |journal=[[サイエンス|Science]] |volume=306 |issue=5703 |pages=1918-1920}}</ref>。また同様のイベントが過去約2800年間に少なくとも6回生じていることも明らかになった<ref>{{Cite journal |date=2006 |doi=10.1029/2006GL026052 |url=http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2006GL026052/full |title=Recurrence of postseismic coastal uplift, Kuril subduction zone, Japan |author=Kelsey, et al. |accessdate=2018-02-10 |journal=Geophysical
Resarch Letters |volume=33 |issue=13 |pages=}}</ref><ref name="chishima3"/>。

本地域の地殻変動の矛盾は、17世紀の超巨大地震による[[余効変動]]で解消されるように見えるが、このタイプの地震の再来間隔が平均 400～500 年と仮定すると、年間 1cm の速度で沈降すれば、累積の沈降量は 4～5m にもなる。したがって 1m 程度の隆起では地震間の沈降分を回復し、更に段丘を高く持ち上げることはできない。そこで超巨大地震のサイクルの中で、余効変動終息後に始まる沈降は、最初はゆっくりで、次の地震が近づいてくると加速していくという考え方で矛盾を説明しようとするモデルも提唱されている<ref name="Atwater2004"/><ref>{{Cite journal|和書|date=2009 |url=https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/09_11_09.pdf |title=沿岸の地形・地質調査から連動型巨大地震を予測する |author=宍倉，他 |accessdate=2018-02-10 |journal=地質ニュース |volume=663 |issue= |pages=23-28}}</ref><ref name="chishima3"/>。

隆起の痕跡の発見と同時に、津波堆積物の発見も相次いだ<ref name="chishima3"/>。[[北海道大学]]の[[平川一臣]]らのグループが北海道東部の太平洋沿岸で発見し、1998年に発表した<ref name="地質研究所"/>。また、平川は道南の[[森町 (北海道)|森町]]の地層で、500年間隔地震によるものとみられる[[西暦|紀元]]前後以降3層の津波堆積物を発見した<ref>「[https://doi.org/10.11462/afr1985.2001.20_i 平川一臣、原口強：十勝平野太平洋沿岸の津波堆積物]」『活断層研究』 2001年 2001巻 20号 p.i-ii, {{doi|10.11462/afr1985.2001.20_i}}, 日本活断層学会</ref>。平川は震源域が十勝・根室沖だけでなく、[[三陸沖]]北部の青森沖まで達することがあった可能性を指摘した<ref>[http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000001107210005 「500年間隔地震」 巨大津波 道南も] 朝日新聞</ref>。

2000年2月に釧路市春採湖で行ったボーリング調査では、過去9000年間に20回の津波イベントが記録されていた<ref>七山太, 牧野彰人 ほか、「{{PDFlink|[http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/seika/h12seika/houkoku/pdf/harutoriko.pdf 釧路市春採湖コア中に認められる, 千島海溝沿岸域における過去 9000 年間に生じた 20 層の津波イベント堆積物 千島海溝沿岸域における津波堆積物の研究]}}」 産業技術総合研究所 『活断層・古地震研究報告』 2001年 No.1 p.233-249</ref>。

17世紀の津波堆積物は、[[豊頃町]]の湧洞沼付近で海岸線から4.4km<ref>平川一臣, 中村有吾, 越智智雄, 「十勝地方太平洋沿岸地域の巨大古津波 (総特集 活断層研究--そのフロンティア) -- (津波・海底断層に関する研究)」 2000年 『号外地球』 31号 p.92-98, {{NAID|40005221631}}</ref>、[[浜中町]]の[[霧多布湿原]]で海岸線から3km以上<ref>七山太, 佐竹健治, 下川浩一 ほか、「{{PDFlink|[https://www.gsj.jp/data/actfault-eq/h13seika/nanayama/tsunami.pdf イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸域の津波遡上規模と再来間隔の検討]}}」 地質調査所速報平成11年 『活断層・古地震調査概要報告書』 2001年 No.1, p.251-272</ref>まで分布しており、その他国後島から下北半島沿岸にかけて当イベントと思われる津波堆積物が発見されている<ref> 髙清水康博(2013)、「[https://doi.org/10.5575/geosoc.2013.0031 北海道の津波堆積物研究の現状と課題：17世紀巨大津波による堆積物の研究を中心に]」『地質学雑誌』 119巻 9号 2013年 p.599-612, {{doi|10.5575/geosoc.2013.0031}}, 日本地質学会</ref><ref name="中央防災会議" />。実際の津波は津波堆積物よりも内陸まで遡上したと考えられている。

17世紀初頭に北海道東部で発生した津波と同一の津波堆積物の北限は、[[北方地域|北方領土]]における分布が不明確であるため、南限についても、[[下北半島]]や[[三陸海岸]]で17世紀初頭の津波堆積物の分布が確認されているものの慶長三陸地震との区別が困難であるため不明確となっている<ref name="chishima3"/>。北海道・東北地方の太平洋沿岸に広く分布する17世紀初頭の津波堆積物のうち、北部日高海岸から内浦湾にかけてのものは、1640年の[[北海道駒ヶ岳]]の[[山体崩壊]]による津波を起源とする可能性が指摘されている<ref>{{cite journal|title=北海道日高海岸北部から内浦湾周辺に分布する17世紀の津波堆積物を再現する津波波源の推定|author=菅野剛 ほか|date=2023|journal=地震　第2輯|volume=76|pages=31-54|doi=10.4294/zisin.2022-10}}</ref>。

=== 発生歴 ===
13世紀と17世紀の大規模な津波の痕跡が確認されているが、[[松前藩]]の入植より以前の文献記録がないため、暦年の特定までは至っていない。直近の連動は[[17世紀]]初頭とされている<ref name="中央防災会議">{{PDFlink|[http://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaikou/10/siryou4/siryou4.pdf 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会（第10回） 資料4 500年間隔地震について]}} - 中央防災会議、2005年6月22日</ref>。なお、直近の活動については1635年とする説<ref name="地質研究所">{{PDFlink|[http://www.gsh.pref.hokkaido.jp/publication/digital_report/material_pdf/2011gsh_lecture_material.pdf 地質研究所調査研究成果報告会資料集]}} - 北海道立総合研究機構、地質研究所、2011年5月18日</ref>、1611年のこれまで[[慶長三陸地震]]とされてきた地震がこれに該当するという説がある一方、発見された[[津波]]痕跡が十勝沖地震のものではなく従来の推定より規模が大きい慶長三陸地震のものであるとする説<ref name="十勝毎日">[http://www.tokachi.co.jp/feature/201109/20110920-0010416.php 【津波・活断層地震から十勝を守る】（上）切迫する500年間隔地震] - 十勝毎日新聞、2011年9月</ref>がある。

=== 次の発生時期 ===
最新活動時期が1611年であるならば、既に400年を経過した状態であるため、[[モーメント・マグニチュード|モーメントマグニチュード]] (Mw) 8.5を越える地震がいつ発生してもおかしくない時期が来ていると考える研究者もいる<ref name="okamura"/>。

北海道東部や北方領土の津波堆積物は非周期的で規模もバラバラであり、津波堆積物同士の対比もよく分かっていない。17世紀型の地震が繰り返し発生するような地震・津波であるのかはよく分かっておらず、津波堆積物の統一的な時空間分布や、過去の巨大地震像の解明が必要とされている<ref>{{cite journal |和書 |author=高清水 康博 |date=2017 |doi=10.5575/geosoc.2017.0044 |url=https://doi.org/10.5575/geosoc.2017.0044 |title=北海道太平洋岸の津波堆積物研究：北方四島の津波堆積物と北海道西部太平洋側の断層モデルの検討 |journal=地質学雑誌 |volume=123 |issue=10 |pages=805-817 |accessdate=2020-03-17}}</ref>。

=== 三陸沖北部との連動 ===
1952年十勝沖地震 (Mw 8.1) の際に[[三陸沖北部地震|三陸沖北部]]で発生した1968年十勝沖地震 (Mw 8.2) の破壊領域の南側での地震活動が活発化していた。従って、十勝沖（1952年十勝沖地震）と三陸沖北部領域（1968年十勝沖地震）が連動して活動をしていた場合、マグニチュード 9 クラスの地震が発生していた可能性があるとする研究がある<ref>{{PDFlink|[http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/houkoku/45/houkoku45_p09-16.pdf 宮岡一樹、吉田明夫：日本周辺の巨大地震に伴った大きな余震] 温地研報告第45巻 2013}}</ref>。

== 前兆現象 ==
地震像（本震および余震の起こり方）が似ている1952年と2003年の地震では、同じ様な前兆現象が発生していた。しかし、前兆現象として発生するとされている『[[プレスリップ]]』（前兆滑り）は、2003年の地震では検出できなかった<ref>吉田真吾, 加藤尚之：「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.58.3_231 前駆すべりと地震の最終的サイズとの関係]」『地震 第2輯』 58巻 3号 2005年 p.231-246, {{doi|10.4294/zisin1948.58.3_231}}, 日本地震学会</ref>。

=== 震源域の静穏化現象 ===
1952年十勝沖地震の7年ほど前から震源域付近では小さな地震の頻度が低下する現象がおきていた。また2003年十勝沖地震の際も[[1990年]]以降同様の現象がおきていたことが研究者より指摘されていた<ref name="zisin1948.57.115">高橋浩晃, 笠原稔：「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.57.2_115 2003年十勝沖地震 1952年十勝沖地震からの地震活動・前震・本震・余震および誘発地震]」『地震 第2輯』 57巻 2号 2004年 p.115-130, {{doi|10.4294/zisin1948.57.2_115}}, 日本地震学会</ref>。[[太平洋戦争]]後からの記録によると、[[巨大地震|大地震]]発生の数年から十数年前に微小地震の回数が減る「第2種[[地震空白域]]」の形成が確認されており<ref>{{PDFlink|[https://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/report/kaihou85/12_08.pdf 2003年十勝沖地震前の静穏化とその有意性の検討]}} 地震予知連絡会会報 第85巻（2011年2月）</ref>、この間のすべり欠損により、大きなエネルギーが蓄積されていったと考えられている<ref>鷺谷威：「[https://doi.org/10.4294/zisin.61.479 GPS観測に基づく日本列島の地震テクトニクス]」『地震 第2輯』 61巻 Supplement号 2009年 p.479-487, 日本地震学会</ref>。

=== 深発地震との関係 ===
1952年と2003年の地震では M8 クラスの本震の発生に先立って、プレートのもぐり込み先を震源とする深発地震が増加していた<ref>茂木清夫、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.57.3_275 2003年十勝沖地震および1952年十勝沖地震に先行した深発地震活動 (続報)]」『地震 第2輯』 57巻 3号 2005年 p.275-278, {{doi|10.4294/zisin1948.57.3_275}}, 日本地震学会</ref>。

== 誘発活動 ==
1952年十勝沖地震の際は阿寒湖畔では鳴動を伴う群発地震が活発化し、1955年には[[雌阿寒岳]]ポンマチネシリ火口で小規模噴火が生じ1960年代半ばまで噴火活動が継続した<ref>[https://www.data.jma.go.jp/vois/data/sapporo/105_Meakan/105_history.html 雌阿寒岳 有史以降の火山活動] 気象庁</ref><ref>[[横山泉]], 「[https://doi.org/10.14943/gbhu.25.129 大地震によって誘発された噴火]」『北海道大学地球物理学研究報告』 1971年3月25日 No.25 p.129-139, 北海道大学理学部地球物理学教室</ref>。また、2003年十勝沖地震の際は直後に[[樽前山]]での火山活動が活発化した<ref>寺田暁彦 ほか：「[https://hdl.handle.net/2261/5754 2003年十勝沖地震（MJMA 8.0）発生直後に樽前火山で起きた高感度カメラで明るく見える現象]」『東京大學地震研究所彙報』 2004年 79巻 1/2号, pp.17-26, {{hdl|2261/5754}}</ref>ほか[[十勝岳]]、雌阿寒岳、屈斜路カルデラに至る火山フロント<ref>星住英夫、中野俊：{{PDFlink|[https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol04_12/vol04_12_p10_11.pdf 特集 火山 噴火と恵み] 産総研 TODAY Vol.4(2004)}}</ref>での群発地震活動が活発化した<ref>高橋浩晃, 笠原稔、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.57.2_115 2003年十勝沖地震 1952年十勝沖地震からの地震活動・前震・本震・余震および誘発地震]」『地震 第2輯』 57巻 2号 2004年 p.115-130 , {{doi|10.4294/zisin1948.57.2_115}}, 日本地震学会</ref>。

== 主な地震 ==
=== 1843年 ===
[[File:1843 Tenpo Tokachi earthquake intensity.png|thumb|right|240px|天保十勝沖地震の震度分布]]
'''天保十勝沖地震'''。[[天保]]14年3月26日明方（[[1843年]]4月25日）。マグニチュードは地震カタログによって異なり、M 7.5 - 8.0<ref name="2014_HDS27-13">都司嘉宣、堀江岳人、橋本佳祐、ほか：{{PDFlink|[http://www2.jpgu.org/meeting/2014/session/PDF/H-DS27/HDS27-13.pdf 天保14年(1843)根室沖地震津波の浸水高分布] 2014年日本地球惑星科学連合大会 HDS27-13}}</ref><ref>[https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_kaiko/rs_tokachioki/ 十勝沖地震]地震調査研究推進本部 M 8.0</ref>、津波マグニチュード (Mt) 8.0<ref name="chishima3"/>。『國泰寺日鑑』、『釧路郡役所報告』などに記録がある。[[ロシア]]では南千島地震としている。釧路から根室にかけて強く揺れ、[[厚岸]]で[[八幡神社]]が4-5尺ずれ、地割れがあり、江戸でも有感であった。

津波が北海道太平洋側から千島列島に襲来し、厚岸で波高4-5m、番屋や[[アイヌ]]の家屋が流失し45名の溺死者を記録した<ref name="2014_HDS27-13"/>。[[根室]]や[[国後島]]でも溺死者を出した<ref name="jiten">宇津徳治、嶋悦三、吉井敏尅、山科健一郎 『地震の事典』 朝倉書店、2001年</ref>。

この地震による津波の波源域は1894年[[根室半島沖地震]]と重なると推定される<ref>{{Cite journal|和書|date=2007 |url=http://www.histeq.jp/kaishi_22/P151-155.pdf |title=南千島～北海道東部間の歴史津波の規模と波源域 |author=[[羽鳥徳太郎]] |format=PDF |accessdate=2018-02-10 |journal=歴史地震 |volume=22 |issue= |pages=151-155}}</ref>ことから、十勝沖と根室沖の領域が連動して発生したプレート間地震と推定されている<ref name="chishima3"/>。

* 発生日時：1843年（天保15年）4月25日12時頃
* 震源の深さ：20km（推定）
* 地震規模：M8.0
* 震央域：千島海溝
* 種類：海溝型地震
* 最大震度：6
* 死者：43名
* 津波：厚岸で7m程度
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=== 1915年 ===
{{Location map|Japan
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| caption = 1915年の十勝沖地震の震源地
}}1915年3月18日3時46分、十勝沖（千島海溝）でマグニチュード7.0の地震があった<ref>{{Cite web|和書|title=日高・十勝地域の地震活動の特徴 {{!}} 地震本部|url=https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_hokkaido/p01_hidaka-tokachi/|website=www.jishin.go.jp|accessdate=2021-03-01}}</ref>。深さ約100kmの[[深発地震]]。浦河で震度5。2人が死亡した<ref>{{Cite web|和書|title=07.十勝沖地震(1915年) : 防災情報のページ - 内閣府|url=https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hokkaidonaiseioki/dbindex/database/02/06/hnj0206_07.htm|website=www.bousai.go.jp|accessdate=2021-03-01}}</ref>。震源地の座標は北緯42度12分・東経143度36分。帯広地方で被害があった。

* 発生日時：1915年（大正4年）3月18日3時46分
* 震源の深さ：100km（推定）
* 地震規模：M7.0
* 震央域：千島海溝
* 種類：沈み込むプレート内地震
* 最大震度：5（浦河町）
* 死者：2名
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=== 1952年 ===
{{地震
|shindoarea=北海道池田町・浦幌村
|name=十勝沖地震（1952年）
| image = 1952 Tokachioki Earthquake.JPG
| image name =津波襲来後の被災地
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| mark = Bullseye1.svg
| marksize = 25
| width = 250
| float = center
| border =
| caption =
| alt =}}
| caption = 震央の位置
|center=十勝沖
|location={{Coord|41|42.3||N|144|09.0||E}}
|date=1952年3月4日
|time=10時22分43.5秒
|shindo=6
|tsunami=最大6.5m
|depth=54
|scaletype=
|scale=8.2
|area=北海道・東北地方
|deaths=死者28人・行方不明者5人・負傷者287人}}

==== 概要 ====
1952年3月、十勝沖でM8.2の地震が発生した<ref>{{Cite web|url=https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/Event.php?ID=30104|title=https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/Event.php?ID=30104|accessdate=2019/08/09|publisher=}}</ref>。

;本震
* 発生：[[1952年]]（[[昭和]]27年）[[3月4日]]10時22分43.5秒
* 震源：[[北海道]][[襟裳岬]]東方沖約50km（{{Coord|41|42.3||N|144|09.0||E}}）深さ54km
* 地震の規模：M8.2（Mw8.2）
*震央域：襟裳岬東方沖
*種類：海溝型地震
*最大震度：6（池田町・浦幌町）
*死者：28名
*津波：厚岸で6.5m

;各地の震度
{| class="wikitable"
|-
! style="width:2em" | 震度
! style="width:4em" | 都道府県
! 観測所
|-
! style="background-color:#e60000" | 6
| [[北海道]]<br/>（[[区内観測所]]）
| [[豊頃町|豊頃]]・[[池田町 (北海道)|池田]]・[[大津村 (北海道)|大津]]・浦幌（現・[[浦幌町]]）・[[幕別町|幕別]]・[[音別町|音別]]・[[厚真町|厚真]]
|-
! style="background-color:#ff9600" | 5
| 北海道
| [[浦河町|浦河]]・[[帯広市|帯広]]・本別通報所・[[釧路市|釧路]]
|-
! style="background-color:#ffff00" rowspan="3" | 4
| 北海道
| [[札幌管区気象台|札幌]]（[[中央区 (札幌市)|中央区]]）・[[函館地方気象台|函館]]・[[森町 (北海道)|森]]・[[小樽市|小樽]]・[[岩見沢市|岩見沢]]・富良野通報所・[[苫小牧市|苫小牧]]・日高門別通報所・[[根室市|根室]]
|-
| 青森県
| [[青森地方気象台|青森]]・[[田名部町|田名部]]
|-
| 岩手県
| [[宮古市|宮古]]
|}

[[気象官署]]で観測された最大震度はV(5)であったが、[[区内観測所]]では震度VI(6)を観測した場所が複数見られた<ref>{{Cite journal |date=1953 |doi= |url=https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/kenshin/kenshin1.html |title=昭和27年3月十勝沖地震調査報告 |author=井上宇胤 |accessdate=2024-06-04 |journal=験震時報 |volume=第17巻 |issue= |pages=1-135}}</ref>。中央気象台の『地震調査』の原簿によれば、区内観測所である[[大津村 (北海道)|大津]]では「家屋の倒れるもの多し」と、震度VII(7)が報告され、歌笛（現・[[新ひだか町]]）・[[様似町|様似]]でも震度VI(6)が報告されている<ref>地震調査研究推進本部, [https://www.jishin.go.jp/database/#bunken_database 文献・歴史資料に関する情報]（ > 画像検索 > =中央気象台・気象庁原簿= > =地震調査= 1952年3月 > 1952年3月4日 > 128913）</ref>。

揺れは[[泥炭地]]が分布する[[十勝川]]河口付近の大津村周辺で大きく被害が集中し、震源に近い広尾では被害が少なかった<ref>宇佐美龍夫, 2003, 最新版 日本被害地震総覧 416‐2001, p.352-353</ref>。

==== 被害 ====
北海道から[[東北地方|東北]]北部で揺れや[[津波]]などの被害があり、28人が死亡、5人が[[行方不明]]、287人が重軽傷を負った。また、[[家屋]]被害は、全壊815棟、半壊1324棟、一部損壊6395棟、流失91棟、浸水328棟、焼失20棟、非住家被害1621棟であった。このほか、船舶被害451隻を出した。

北海道東部の[[厚岸郡]][[浜中町]]の中心部[[霧多布]]地区では津波により家屋が大多数流出し壊滅した。この時期の[[流氷]]及び[[海氷]]が津波により押し寄せ、家屋の破壊が拡大した<ref>木岡信治、竹内貴弘、渡部靖憲、「[https://doi.org/10.3811/jjmf.29.124 海氷群を伴う津波の陸上遡上による被害想定の研究概要 （海氷の衝突破壊・挙動および陸上遡上の実験/数値シミュレーションの試み）]」『混相流』 29巻 2号 2015年 p.124-131, {{doi|10.3811/jjmf.29.124}}, 日本混相流学会</ref>。この地区は8年後の[[1960年チリ地震]]津波でも街が壊滅し、死者11名を出す被害を繰り返す事になる。

津波は、厚岸湾が最高で6.5m、青森県[[八戸市]]で2mなど。[[津波警報]]制度発足後で初めて大津波を伴う地震であったが、発表された警報は東北地方の太平洋沿岸に「ヨワイツナミ」、北海道地方に「ツナミナシ」と過小評価されたものとなった<ref>[https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0e3c34bcbce01a85a8d3e2915594de7372e3983e 十勝沖地震から70年、心配な日本海溝・千島海溝沿いの地震、津波と共に流氷も襲う可能性] 福和伸夫, 2022年4月2日閲覧。</ref>。ただ、前日の3月3日が1933年に起こった[[昭和三陸地震]]記念日で警報伝達訓練や[[避難訓練]]も多数行われ、[[防災]]に役立った。

{{Clear}}

=== 1968年 ===
{{see|十勝沖地震 (1968年)}}
1968年十勝沖地震と命名されたものの、震源域は[[三陸沖北部地震|三陸沖北部]]（青森県東方沖）に該当する。

=== 2003年 ===
{{地震
|name=平成15年（2003年）十勝沖地震
|image=
|image name=
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|imageby=
|map2={{Location map|Japan#Japan Hokkaido
| location
| lat_deg = 41
| lat_min = 46.7
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| lon_sec =
| lon_dir = E
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| label_size =
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| mark = Bullseye1.png
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| caption =
| alt =
| AlternativeMap =}}
|caption=地震の震央の位置を示した地図
|date=[[2003年]]（[[平成]]15年）[[9月26日]]
|time=4時50分07.4秒（[[日本標準時|JST]]）
|center={{JPN}} 十勝沖
|location={{Coord|41|46.7||N|144|04.7||E|}}
|depth=45
|scaletype=マグニチュード（M）
|scale=8.0
|shindo=6弱
|shindoarea=北海道 [[新冠町]]、[[静内町]]<ref>現・新ひだか町。</ref>、[[浦河町]]など
|tsunami=4m00cm:北海道 [[えりも町]]
|type=[[地震#プレート間地震|海溝型地震]]
|after=
|mostafter=同日 午前6時08分<br />M7.1 震度6弱：浦河町
|deaths=死者1人、行方不明者1人、負傷者849人
|money=
|area=[[北海道]]
|data=[[気象庁]]
|plus=
}}
==== 概要 ====
;本震
* 発生：2003年（平成15年）[[9月26日]]（金）午前4時50分07.4秒（日本時間）
* 震源：北海道襟裳岬東南東沖80km ({{Coord|41|46.7||N|144|04.7||E|}})、深さ45km。震源は1952年の巨大地震とほぼ同じ
* 地震の規模：Mj8.0、Mw8.0（気象庁）<ref>{{PDFlink|[https://www.jma.go.jp/jma/press/1103/25b/kaisetsu201103251730.pdf 「平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震」について（第28 報）]}}</ref>、Mw8.3（アメリカ地質調査所）<ref>[http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eqinthenews/2003/uszdap/ Magnitude 8.3 Hokkaido, Japan region September 25, 2003]</ref>
*震央域：釧路沖
*最大震度：6弱（静内町・浦河町・鹿追町・幕別町・豊頃町・忠類村・釧路町・厚岸町・新冠町）
*地震種類：海溝型地震
*津波：4ｍ00cm（えりも町百人浜）<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jma.go.jp/jma/press/0310/06a/tsunami031006.pdf |title=「平成 15 年(2003 年)十勝沖地震」の津波現地調査について － 気象庁と大学等との津波の共同調査（速報）－ |access-date=2022-10-25 |publisher=日本気象庁}}</ref>
*死者：1名（津波による）

[[気象庁]]はこの地震を'''平成15年（2003年）十勝沖地震'''と命名した。

この地震の震源付近では1952年3月4日にM8.2の十勝沖地震が発生している。そのため、2003年の地震を「平成十勝沖地震」として区別することもある。

;各地の震度
{| class="wikitable"
|+ 震度5弱以上が観測された気象庁の発表地点
! style="width:2em" | 震度
! style="width:4em" | 都道府県
! 観測点名
|-
! style="{{震度色|6弱}}" rowspan="1" | 6弱
| [[北海道]]
| [[新冠町]]北星町・[[静内町]]ときわ<ref name="shinhidaka">現・[[新ひだか町]]静内ときわ町。</ref>・[[浦河町]]潮見・[[鹿追町]]東町・[[幕別町]]本町・[[豊頃町]]茂岩本町・[[忠類村]]忠類・[[釧路町]]別保・[[厚岸町]]尾幌
|-
! style="{{震度色|5強}}" rowspan="1" | 5強
| 北海道
| [[厚真町]]京町・[[足寄町]]上螺湾・[[帯広市]]東4条・[[本別町]]北2丁目・[[更別村]]更別・[[広尾町]]並木通・[[弟子屈町]]美里・[[釧路市]]幸町・[[音別町]]尺別<ref>現・釧路市音別町尺別。</ref>・[[別海町]]常盤
|-
! style="{{震度色|5弱}}" rowspan="1" | 5弱
| 北海道
| [[新篠津村]]第47線・[[栗沢町]]東本町・[[南幌町]]栄町・[[長沼町]]中央・[[栗山町]]松風・[[中富良野町]]市街地・[[清里町]]羽衣町・[[北見市]]公園町・[[訓子府町]]東町・[[苫小牧市]]しらかば・[[上士幌町]]上士幌・[[音更町]]元町・十勝[[清水町 (北海道)|清水町]]南4条・[[芽室町]]東2条
|}

[[防災科学技術研究所]]が設置した強震観測網によればK-NET広尾(広尾町広尾, 計測震度6.0)とK-NET直別(浦幌町直別, 計測震度6.3)で震度6強相当の揺れを観測した。

またK-NET大樹（十勝大樹町東本通）・K-NET池田（十勝池田町西1条）・K-NET標津（標津町北2条）・K-NET浦幌（浦幌町桜町）・K-NET阿寒（釧路市阿寒町中央）・K-NET本別海（別海町本別海）・K-NET釧路（釧路市黒金町）では震度6弱相当を観測した<ref>{{Cite web|和書|title=強震観測網|url=http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/quake/|editor=[[防災科学技術研究所]]|accessdate=2014-03-16}}</ref>。しかし、当時はこれらは気象庁の発表地点ではなく、2006年に北海道地方を中心としてK-NETの観測点146ヶ所が気象庁の発表地点に追加された<ref>{{Cite web|和書|date=2006-02-17 |url=https://www.jma.go.jp/jma/press/0602/17a/20060217shindo_katsuyo.html |title=震度情報の発表について－ K-NETによる震度データの活用 － |publisher=気象庁 |accessdate=2024-06-04}}</ref>。

;地震像
本地震の震度分布は1952年十勝沖地震に非常に類似しており、震源位置もほとんど同じである。発震機構は北西-南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型であり、この点も1952年の地震とほとんど同じである<ref name="Sugita2005">{{Cite journal |date=2005 |doi=10.4294/zisin1948.57.3_305 |url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/57/3/57_3_305/_article/-char/ja/ |title=「平成15年 (2003年) 十勝沖地震」と震源域およびその周辺域の地震活動について
 |author=杉田裕志, 横田崇 |accessdate=2024-06-04 |journal=地震 第2輯 |volume=57巻 |issue=3号 |pages=305-314}}</ref>。

しかし、津波の高さの分布には違いがみられ、釧路より西側では類似した高さ分布であるものの、釧路より東側から霧多布にかけては1952年の方が2-4倍程度の遡上高を示している<ref name="Sugita2005" />。2003年の地震は1952年の地震の震源域の西半分だけが破壊範囲になっていると推定され、これは津波遡上高の分布と調和的である<ref>{{Cite journal |date=2004 |doi=10.1186/BF03353066 |url=https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/BF03353066 |title=The tsunami source area of the 2003 Tokachi-oki earthquake estimated from tsunami travel times and its relationship to the 1952 Tokachi-oki earthquake |author=Hirata, K., Y. Tanioka, K. Satake, S. Yamaki, and E.L. Geist |accessdate=2024-06-04 |journal=Earth, Planets, and Space |volume=56 |issue= |pages=367-372}}</ref>。

;最大余震
* 発生：2003年（平成15年）[[9月26日]]午前6時08分02秒（日本時間）
* 震源：十勝沖 北緯41度42.5分、東経143度41.4分、深さ21km
* 地震の規模：M7.1

;最大余震の各地の震度
{| class="wikitable"
|+ 震度5弱以上が観測された気象庁の発表地点
! style="width:2em" | 震度
! style="width:4em" | 都道府県
! 観測点名
|-
! style="{{震度色|6弱}}" rowspan="1" | 6弱
| [[北海道]]
| [[浦河町]]潮見
|-
! style="{{震度色|5強}}" rowspan="1" | 5強
| 北海道
| [[新冠町]]北星町
|-
! style="{{震度色|5弱}}" rowspan="2" | 5弱
| 北海道
| [[厚真町]]京町・[[静内町]]ときわ<ref name="shinhidaka"/>
|-
| [[青森県]]
| [[野辺地町]]野辺地・[[むつ市]]金曲・[[東通村]]砂子又
|}

==== 被害 ====

[[File:津波伝播の様子（2003年十勝沖地震）.png|thumb|280px|津波の伝播の様子]]

北海道から東北地方の太平洋沿岸に[[津波]]が襲来し、最高で2m55cm（北海道豊頃町・[[大津村 (北海道)|大津]]で記録）に達した。[[十勝川]]などでは、津波が川を10km以上も逆流する現象も発生した。北海道では豊頃町の十勝川河口で[[サケ]]釣りをしていた[[釣り]]人の男性2名が津波にさらわれ行方不明となり<ref>[http://www.47news.jp/CN/200309/CN2003092601000535.html 河口で釣りの男性2人不明 津波にさらわれた可能性も 共同通信 2003/09/26 11:21配信]</ref>、うち1名の遺体が2005年4月に発見された<ref>[http://www.47news.jp/CN/200507/CN2005071201001232.html 十勝沖地震犠牲者と判明 DNA鑑定で2年ぶり 共同通信 2005/07/12 03:10配信]</ref>。この死者・行方不明者の他にこの地震による犠牲者はいない。北海道を中心に負傷者849人、住宅の全壊116棟、半壊368棟、一部破損1,580棟、床下浸水9棟の被害が出た<ref>[http://www.fdma.go.jp/bn/data/H160331TokachiJishin.pdf 平成15年（2003年）十勝沖地震（確定報）] 消防庁、2004年3月31日。</ref>。

なお、地震発生前日の朝から釣りに行ったまま28日夜になっても帰宅してこなかった[[帯広市]]の男性についても捜索対象となったが、後に無事に帰宅していたことが判明した。男性は29日に自分が捜索の対象になっているのをラジオで知り、出掛けていた[[知床半島]]から同日午後8時半に帰宅したという<ref>[http://www.47news.jp/CN/200309/CN2003092901000472.html 行方不明の男性が帰宅 知床で釣り、地震被害なし 共同通信 2003/09/29 14:10配信]</ref>。

この地震で政府は地震が発生した当日に[[総理大臣官邸|官邸]]内に対策室を設置し、また北海道庁は[[緊急消防援助隊]]及び陸上自衛隊[[第5師団 (陸上自衛隊)|第5師団]]に[[災害派遣]]を要請するなどして対応した。

北海道東部の各地方都市を結ぶ[[鉄道]]・[[道路]]・[[橋|橋梁]]が各地で多数破損したため、一時道東地方の交通は全面ストップし、その後、主要道路の通行止め解除には数日、完全な復旧には数か月を要した。また[[市町村道|町村道]]のような末端の生活道路の補修には数年を要した。

鉄道に関しては、[[根室本線]][[直別駅]]構内を走行中の特急[[まりも (列車)|まりも]]（8両編成）の先頭から2両目の[[鉄道車両|車両]]が[[列車脱線事故|脱線]]し<ref>{{Cite journal|和書 |title = 鉄道記録帳2003年9月 |journal = RAIL FAN |date = 2003-12-01 |issue = 12 |volume = 50 |publisher = 鉄道友の会 |page = 22}}</ref>、[[旅客|乗客]]39名のうち1名が軽傷を負った、また、同本線の路盤・橋梁・[[鉄道信号機|信号]]施設、[[鉄道駅|駅]]舎なども破損などの被害が生じ、[[ダイヤグラム|ダイヤ]]が正常に戻ったのは翌月8日に入ってからであった。

また港湾施設の被害は大きく、[[釧路港]]などでは[[液状化現象]]が多数発生した。[[釧路空港]]は[[管制塔]]の[[天井]]部分が壊れるなどして管制業務が出来なくなったため閉鎖された。[[ライフライン]]では、厚真町の苫東厚真火力発電所4号機（出力70万kW）が地震により自動停止して[[発電]]や[[送電]]設備に影響が出て、[[日高支庁|日高]]・[[十勝支庁|十勝]]地方を中心に、釧路市と周辺6町の約2万4300世帯などが[[停電]]した。

また、地震直後及び2日後に[[苫小牧市]]にある[[出光興産]]北海道[[製油所]]で2基の石油タンクの[[火災]]があった。最初の火災は、震源からやってきて苫小牧市周辺の[[堆積平野]]で[[増幅]]された[[長周期地震動]]の周期と、石油タンクの固有周期が一致し、石油タンクの内容物が[[共振]]する'''[[スロッシング]]'''と呼ばれる現象が発生し、「浮き屋根」と呼ばれる浮き蓋の上に溢れ出した[[重油]]や[[ナフサ]]が浮き蓋と側壁の接触との摩擦で発生した[[火花]]に触れて[[引火]]することによって引き起こされたタンクの「浮き屋根」の縁部分にリング状に火が上がるリング火災であった。2日後の火災は、やはり'''[[スロッシング]]'''により「浮き屋根」が損傷沈下していたタンクの屋根上にナフサが全面滞留、ナフサ表面を泡で覆う準備をしている間に何らかの原因で引火、全面火災を起こした。地震後、このような巨大地震によってもたらされる長周期地震動による大規模構造物の被害が注目された。<ref>{{Cite web |url=https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0300013.html |title=失敗事例 > 大地震により原油の浮き屋根タンクのリング火災2日後、他の浮き屋根タンクで日本初の全面火災発生 |access-date=2024-11-20 |publisher=特定非営利活動法人失敗学会}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://gcoe.tus-fire.com/archive_cms/kobayashi-k/cms/wp-content/uploads/2004/02/26c0be71cc8ed861704fa551bba01985.pdf |title=出光興産北海道製油所地震によるタンク火災 |access-date=2024-11-20 |publisher=東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 火災科学研究所}}</ref>

==== 海底地震計による観測 ====
1952年地震の余震域の最近の地震を観測するため、2002年7月20日から2002年9月20日および2003年8月7日から2003年9月21日まで自己浮上式の海底地震計による観測が行われていた。また、本震発生の4日後の2003年10月1日から2003年11月20日にも大学、気象庁、海洋研究開発機構らの共同調査班による観測が行われた。震源域に直接設置された海底地震計により、震源から離れた陸上観測点のデータを利用した気象庁一元化データには現れていない微小地震も多く観測された。しかし、柔らかな海底の堆積層上に置かれた地震計であるためマグニチュードの決定精度には欠ける。一方、直前に微小な群発地震が発生するなど約1カ月前から前兆的な微小破壊を暗示させるデータが得られた。
また、本震の直前のグーテンベルグ・リヒターの式、
:<math>\log_{10} n = a - bM</math>
の係数''b''値の最尤推定値は0.82であり、一般の地震に比較して小さい値であった（なお、一般の地震の場合の''b''値は0.6から1.1の範囲にあり、多くの場合1.0に近い）。つまり、震源域全体の地震活動は比較的静穏であった<ref>高波鐵夫、村井芳夫、町田祐弥 ほか、「[https://doi.org/10.4294/zisin1948.57.3_291 海底地震観測が明示した2003年十勝沖地震直前の顕著な現象]」『地震 第2輯』 57巻 3号 2005年 p.291-303, {{doi|10.4294/zisin1948.57.3_291}}, 日本地震学会</ref>。

==== その他 ====
本地震の約半年前の2003年3月14日に、[[地震調査委員会]]が千島海溝沿いの地震活動の長期評価を発表しており、十勝沖ではM8.1程度の海溝型地震が今後30年間に60%程度の確率で発生すると評価されていた<ref>{{cite web|url=https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0233pdf/ks0233006.pdf|title=2003 年(平成 15年) 9月26日の4時50分頃|publisher=[[国土技術政策総合研究所]]|accessdate=2024-02-18}}</ref>。

=== 2008年 ===
{{地震
|name=十勝沖地震（2008年）
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|caption=地震の震央の位置を示した地図
|date=2008年[[9月11日]]
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|data=[[気象庁]]
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}}

==== 概要 ====
;本震
* 発生：2008年9月11日9時20分51秒（日本時間）
* 場所：北海道襟裳岬 南東沖110km（北緯41度46.56分、東経144度9.06分）
* 地震の規模：M7.1
2003年の地震の震源の近傍で発生した地震で、西北西－東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型。2003年の地震で余震があまり発生していなかった場所が今回の震源となった。

;各地の震度
{| class="wikitable"
|+ 震度5弱以上が観測された気象庁の発表地点
! style="width:2em" | 震度
! style="width:4em" | 都道府県
! 観測点名
|-
! style="{{震度色|5弱}}" rowspan="1" | 5弱
| [[北海道]]
| [[新冠町]]北星町・[[新ひだか町]]静内山手町・新ひだか町静内御幸町・[[浦幌町]]桜町・十勝[[大樹町]]東本通
|}
{{-}}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

== 関連項目 ==
* [[日本の地震年表]]
* [[根室半島沖地震]] - 東隣の領域で発生する[[地震#プレート間地震|海溝型地震]]。本地震と連動する可能性がある。
* [[釧路沖地震]] - 北隣の領域で発生する[[深発地震|スラブ内地震]]。
* [[北海道東方沖地震]] - 北隣の領域で発生するスラブ内地震。
* [[三陸沖地震]]
** [[三陸沖北部地震]]
* [[三陸はるか沖地震]] - 1994年に発生した、十勝沖の南隣（三陸沖北部）の地震。
* [[東北地方太平洋沖地震]] - 2011年に発生した、千島海溝の隣の[[日本海溝]]の地震。
* [[新冠泥火山]]
* [[浜中町]]
* [[潮風の診療所〜岬のドクター奮戦記〜]] - 十勝沖地震津波被害の街へ復興のため派遣される医師と被災住民の実話をドラマ化（派遣された医師もその後の津波により被災する）。

== 外部リンク ==
* 気象庁
** [https://web.archive.org/web/20050405194622/http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/2003_09_26_tokachi/ 気象庁/「平成15年(2003年)十勝沖地震」に関する各種資料等]
** [https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/jishin/030926_tokachioki/index.htm 2003年9月26日 十勝沖地震（本震） (北緯41度46.7分 東経144度4.7分 深さ45km M8.0)]
* {{Cite web|和書|url=https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/kusirooki/ |title=平成15年（2003年）十勝沖地震関連 |access-date=2022-05-17 |publisher=[[国土地理院]]}}
* {{PDFlink|[http://www.kenken.go.jp/japanese/research/prd/list/topics/tokachioki-chosa/tokachi-20031015-1.pdf 2003年十勝沖地震における空港ターミナルビル等の天井の被害に関する現地調査報告]}}
* {{PDFlink|[http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/TOKACHIOKI03/index-j.html 2003/09/26 十勝沖地震 特集ページ]}} [[東京大学地震研究所]]
* {{PDFlink|{{Wayback|url=http://www.fdma.go.jp/data/010808111803409543.pdf |title=十勝沖を震源とする地震（最終報） |date=20160131083632}}}} [[総務省消防庁]]
* [https://www.jishin.go.jp/main/chousa/08oct/index.htm 2008年9月の地震活動の評価]地震調査研究推進本部 地震調査委員会
* 「[https://doi.org/10.5575/geosoc.2013.0031 髙清水康博、北海道の津波堆積物研究の現状と課題：17世紀巨大津波による堆積物の研究を中心に]」『地質学雑誌』 119巻 9号 2013年 p.599-612, {{doi|10.5575/geosoc.2013.0031}}, 日本地質学会
* {{NHK災害アーカイブス|D0026010486_00000|2003年　十勝沖地震}}
* {{Kotobank}}

{{日本近代地震}}

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