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単記非移譲式投票
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{{選挙方式}} '''単記非移譲式投票'''(たんきひいじょうしきとうひょう、{{lang-en-short|single non-transferable vote}}; SNTV)は、[[選挙方法|投票制度]]のひとつである。この制度では、各々の[[有権者]]は1人の候補者を選んで投票し、得票の多い順に所定の人数が当選者となる。一例として、4議席の選挙区であれば得票数で上位4人の候補者が当選となる。落選した候補への票や当選が確定した候補が得た余剰の票が、他の候補に移譲されることなく[[死票]]となる点で[[単記移譲式投票]]と対照的な制度である。 == 仕組みと特徴 == === 例 === 単記非移譲式投票の[[大選挙区制選挙]]で、5人の候補者(a1、a2、b1、b2、c1)が3議席を争い、a1、b1、b2が当選したとする。 :{| class="wikitable" style="text-align:center" ! 得票数 !! 候補 !! 政党 |- |style="text-align:right"|3207 |{{Color|red|a1}} |A党 |- |style="text-align:right"|1999 |{{Color|red|b1}} |B党 |- |style="text-align:right"|1996 |{{Color|red|b2}} |B党 |- |style="text-align:right"|1804 |a2 |A党 |- |style="text-align:right"|819 |c1 |C党 |} これを[[政党]]ごとに集計する。 :{| class="wikitable" style="text-align:right" ! 政党 !! 得票数 !! 得票率 !! 議席数 |- |style="text-align:center"|A党 |5011 |51 % |style="text-align:center"|1 |- |style="text-align:center"|B党 |3995 |41 % |style="text-align:center"|2 |- |style="text-align:center"|C党 |819 |8 % |style="text-align:center"|0 |} A党はB党より多くの票を獲得したが、候補者間で非効率な票の偏りが起きたため獲得議席数が少なくなった。仮にA党やB党が3議席を独占しようとして3人の候補者を擁立し、さらに得票が偏在した場合は、C党の議席獲得のチャンスが高くなる。 === 比例代表 === [[ゲイリー・コックス]]らによれば、単記非移譲式投票は、有権者の支持に関する情報を各党がかなり正確に把握し、有権者の支持の程度に従って候補者を擁立するとき、理論的には[[比例代表制]]([[ドント方式|ドント式]])と同じ結果になる。また、当選枠の数を''M''とすると、候補者aは得票数の<math>\tfrac{1}{M+1}</math>([[ドループ基数]])以上を獲得すれば当選が保証される。なぜなら、得票数で上位(''M''+1)番目以降の候補者は、候補者aよりも多くの票を得ることができないからである。 しかし、各党が自党の力量に比例した当選者数を得ることは非常に難しい。なぜなら、自党と他党の力量と、他党の候補者擁立数の動向を正確に判断したうえで、自党が擁立する候補者数を決めなければならないからである([[戦略擁立]])。たとえば擁立する候補者が多すぎると、自党支持者からの票が分散([[票割れ]]、[[:en:Split vote|Split vote]])し、各候補者の得票数が他党の候補者の得票数を下回ってしまうことで、結果的に共倒れになる恐れがある。逆に擁立する候補者数が少なすぎると、候補者が過剰に得票した分は無駄票(広義の[[死票]])となり、自党への支持に比べて獲得議席数が少なくなってしまう。さらに、たとえ適正な人数の候補者を擁立できたとしても、自党支持者からの得票を候補者間で偏りなく分散([[票割り]])させないと、政党単位での得票数に比べて獲得議席数が少なくなってしまう恐れがある([[単記非移譲式投票#例|上記の例]]のA党)。 但し有権者が戦略投票を行えば、過剰な候補者は得票数0%の実質不出馬状態になり、かつ、均等な票割りがされた状態に収斂していく。この場合、政党側が過剰に候補者を擁立したり、他党に自党と類似した候補を立てられても、票割れが抑えられ、各党が自党の力量に比例した当選者数を得る。ちなみに、候補者数を絞りすぎた政党がある場合は、「有権者」側では修正出来ない。しかし、投票権だけでなく立候補権もある「主権者」であれば、その政党に類似する無所属候補を候補者を絞りすぎた政党に補充することが出来る。多くの場合、有権者の殆どは立候補権ももっているので、候補者不足は問題にならない。つまり、単記非移譲式投票で比例代表の性質が破れるには、政党側の戦略擁立失敗だけでは十分ではなく、有権者側の戦略投票失敗も必要となる。 なお、単記非移譲式投票は、選挙区の大きさ(当選枠の数)が大きくなるにしたがって、より比例的な選挙結果をもたらす。 === 戦略投票との親和性 === 単記非移譲式投票は、有権者に[[戦略投票]]を促す可能性が大きい。選挙結果の推測が可能で、合理的な[[投票行動]]をとる有権者ならば、自らの1票が死票になることを避けるために、(本命の候補者ではなく)当落線上にいる次善の候補者に投票することになる。このため、この条件の下では特定の候補者が極端に大勝することは無い。このことは、政党が他党の候補者から票を奪うためにその対立候補に似た候補者を立てる[[戦術擁立]]の可能性を示唆している。 また、[[選挙予測報道]]などで一旦「当落線より低い得票数しか獲得できない」と多くの有権者に判断された候補者は、当落線上の候補者に票を奪われさらに得票率が下がる、という悪循環に陥る。立候補の時点で十分な得票数の見込みを有権者にアピールできない候補者は、立候補の瞬間からこの悪循環に嵌まり、単に落選確実になるだけでは済まず、得票率がその下限である0%近くまで落ち込み、供託金没収も確実になる([[泡沫候補]])。逆に言えば、有権者の選択肢は[[公示|公示日]]の時点から事実上制限されており、[[被選挙権]]を持つ人がその権利を実質的に行使するには、有力な集票組織からの[[公認]]やそれに代わる[[知名度]](たとえば[[タレント政治家]])が必要となる。このように、当選枠の数が''M''の選挙区では、泡沫候補に転落することなく選挙戦を戦い抜ける候補者は(''M''+1)人に限られるので、この選挙区から出馬する候補者数も次第に(''M''+1)人へ収斂していく([[デュヴェルジェの法則]])。 *当選者の得票率は全員、(当落線ギリギリ程度の得票率と)等しくなるように収斂していく(当落線を越える得票は無駄票になるため、当落線上の候補者に奪われる) *次点以外の落選者は得票率が0%に収斂していく この二つの性質は、[[単記非移譲式投票#比例代表|比例代表]]の項で述べた性質を生み出す根拠となっている。 === 後援会、党内派閥、利益誘導 === 単記非移譲式投票の大選挙区制選挙に出馬する候補者は、他党の対立候補だけでなく、場合によっては自党の候補者とも得票を競わなければならない。政党としては擁立した自党候補者を目論見どおり全員当選させたいと考えるが、支持者からの票を候補者間で均等に票割りすることは、よほど高度に組織された政党でない限り困難である。 [[J・マーク・ラムザイヤー]]と[[フランシス・ローゼンブルース]]は[[日本]]の[[中選挙区制]]について分析し、単記非移譲式投票の選挙制度が、(1)自前の[[後援会]]組織の育成と地元選挙民へのサービス、(2)[[派閥|党内派閥]]への帰属、(3)地元選挙区への[[利益誘導]]による自党対立候補との棲み分け、に対して強い誘因をもたらしていたと論じている。 {{Main|中選挙区制#政治的帰結}} == 各国と地域の例 == === 現在使用中 === * [[アフガニスタン]] - 人民議会 * [[インドネシア]] - 地方代表議会 * [[台湾]]([[中華民国]]) - [[立法院 (中華民国)|立法院]] :かつては立法院と地方議会の議員が単記非移譲式で選ばれていたが、立法院については[[第七回中華民国立法委員選挙|2008年1月の選挙]]から[[小選挙区比例代表並立制]]が採用されている。現在は、原住民枠において単記式の大選挙区制が採用されている。 * [[ツバル]] * [[トンガ]] - [[立法議会 (トンガ)|立法議会]] * [[日本の選挙|日本]] - 参議院、地方議会 :かつては[[衆議院議員総選挙]](いわゆる[[中選挙区制]])や[[参議院議員通常選挙]]の[[全国区制|全国区]]で単記非移譲式が採用されていた。現在でも参議院の[[参議院議員通常選挙#選挙区制|選挙区]]、都道府県議会、市区町村議会([[参議院一人区|一人区]]を除く)で使用されている。政治以外においては、[[日本相撲協会]]の理事選でも大選挙区単記制が使われている。 * [[バヌアツ]] * [[プエルトリコ]] - 上院 * [[ベトナム]] - [[国会 (ベトナム)|国会]] *[[香港]] - [[香港特別行政区立法会|立法会]]における直接選挙枠議席(来期から採用) === 過去に使用 === * [[大韓民国|韓国]] - [[国会 (大韓民国)|国会]] :[[第四共和国 (大韓民国)|第四共和国]]と[[第五共和国 (大韓民国)|第五共和国]]時代の国会議員選挙において採用された。定数は一律2名。 * [[タイ王国|タイ]] - [[元老院 (タイ)|上院]] == 参考文献 == *[[伊藤光利]]、[[真渕勝]]、[[田中愛治]]『政治過程論』有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2000年。 *[[J・マーク・ラムザイヤー|M・ラムザイヤー]]、[[フランシス・ローゼンブルース|F・ローゼンブルース]]『日本政治の経済学-政権政党の合理的選択』[[加藤寛 (経済学者)|加藤寛]]監訳、弘文堂、1995年。 == 関連項目 == * [[選挙方法]] * [[単記移譲式投票]] * [[小選挙区制]] * [[大選挙区制]] * [[比例代表制]] * [[二回投票制]] * [[単純小選挙区制]] * [[戦略投票]] * [[デュヴェルジェの法則]] == 外部リンク == *[http://www.idea.int/publications/esd/index.cfm A Handbook of Electoral System Design] from [http://www.idea.int International IDEA] * [http://www.aceproject.org/ace-en/topics/es Electoral Design Reference Materials] from the [http://www.aceproject.org ACE Project] *[http://www.aceproject.org ACE Electoral Knowledge Network] 選挙制度と選挙管理、国ごとのデータ、選挙資料の収集、最新の選挙ニュース、選挙専門家ネットワークへの質問の申し込み、これらの話題を議論するためのフォーラム、に関する百科事典を提供する専門サイト *[http://www.idea.int/publications/esd/index.cfm A Handbook of Electoral System Design] from [http://www.idea.int International IDEA] * [http://www.aceproject.org/ace-en/topics/es Electoral Design Reference Materials] from the [http://www.aceproject.org ACE Project] {{DEFAULTSORT:たんきひいしようしきとうひよう}} [[Category:選挙方式]]
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