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[[数学]]において'''双線型写像'''(そうせんけいしゃぞう、{{Lang-en-short|bilinear map}})とは、二つの[[ベクトル空間]]それぞれの元の[[順序対|対]]に対しての第三のベクトル空間の元を割り当てる[[写像]]であって、各[[引数]]に関して[[線型写像|線型]]となるようなものを言う。その一つの例が、[[行列の積]]である。 == 定義 == ''V''、''W'' および ''X'' をある同一の[[可換体|基礎体]] ''F'' 上の[[ベクトル空間]]とする。[[写像]] :''B'' : ''V'' × ''W'' → ''X'' が双線型写像であるとは、''W'' 内の任意の元 ''w'' に対して :''v'' ↦ ''B''(''v'', ''w'') が ''V'' から ''X'' への[[線型写像]]であり、かつ ''V'' 内の任意の元 ''v'' に対して :''w'' ↦ ''B''(''v'', ''w'') が ''W'' から ''X'' への線型写像であることを言う。これはすなわち、双線型写像の片方の成分を固定し、もう片方を変動させることで得られる写像がともに線型写像であることを意味する。 ; 注意: ここで空間 {{nowrap|''V'' × ''W''}} を二つのベクトル空間の[[直積線型空間]]と見なしたとき、''B'' は({{nowrap|1=''V'' = 0}} あるいは {{nowrap|1=''W'' = 0}} でない限り)ベクトル空間の間の[[線型写像]]ではないことに注意されたい。実際、例えば {{nowrap|1=''B''(2(''v'',''w'')) = ''B''(2''v'',2''w'') = 2''B''(''v'',2''w'') = 4B(''v'',''w'')}} が成立するために、線型でない。しかし双線型写像は[[テンソル積]]空間 ''V'' ⊗ ''W'' 上の線型写像を誘導する。 ; 特別な場合 : {{nowrap|1=''V'' = ''W''}} のとき、''V'' 内のすべての ''v''、''w'' に対して {{nowrap|1=''B''(''v'',''w'') = ''B''(''w'',''v'')}} が成立するならば ''B'' は{{仮リンク|対称函数|label=対称|en|symmetric function}}であると言われる。 : ''X'' = ''F'' のとき(このときの双線型写像は[[双線型形式]]と呼ばれる)は特に有用である(例えば[[ドット積]]、[[内積]]、[[二次形式]]の記事を参照されたい)。 ;一般化: 体 ''F'' 上のベクトル空間の代わりに、ある[[可換環]] ''R'' 上の[[環上の加群|加群]]を用いても、特に変更点はなく双線型写像は定義される。また、双線型の概念を ''n''-[[アリティ|変数]]の写像の場合に対して一般化することもできるが、それについては[[多重線型写像|多重線型]]についての項へ譲る。 : ある非可換な基礎環 ''R'' と右加群 ''M<sub>R</sub>'' および左加群 ''<sub>R</sub>N'' に対しても、[[アーベル群]] ''T'' への双線型写像 {{nowrap|''B'' : ''M'' × ''N'' → ''T''}} を定義することが出来る。これは ''N'' 内の任意の ''n'' に対して {{nowrap|''m'' ↦ ''B''(''m'', ''n'')}} が[[群準同型]]かつ ''M'' 内の任意の ''m'' に対して {{nowrap|''n'' ↦ ''B''(''m'', ''n'')}} が群準同型であり、さらに条件 ''B''(''mt'', ''n'') = ''B''(''m'', ''tn'') (∀''m'' ∈ ''M'', ∀''n'' ∈ ''N'', ∀''t'' ∈ ''T'') を満足するもののことを言う({{仮リンク|平衡写像|en|Balanced product}}を参照)。 == 性質 == 定義より直ちに証明されることとして、{{nowrap|1=''x'' = ''0''}} または {{nowrap|1=''y'' = ''0''}} のときは必ず{{nowrap|1=''B''(''x'',''y'') = ''0''}} であることが挙げられる(これは[[零ベクトル]] ''0'' を ''0''·''0'' と書いて、線型性によりそのスカラー倍 0 を「外側」、すなわち ''B'' の手前に移動することで分かる)。 全ての双線型写像の集合 ''L''(''V'',''W'';''X'') は、''V''×''W'' から ''X'' への全ての写像からなる空間(すなわち[[ベクトル空間]]や[[環上の加群|加群]])の[[線型部分空間]]である。 ''M'' が、実双線型形式 {{nowrap|(''v'',''w'') ↦ ''v''′''Mw''}} によって、実数体への双線型写像を定義するとき、この双線型形式に[[計量テンソル|付随する]]三種類の双線型形式が[[双対空間|双対性]]および{{仮リンク|音符同型|en|musical isomorphism}}によって与えられる。 :<math> \begin{matrix} \begin{align} &V\times V\overset{M}{\longrightarrow}\mathbb{R} \\ &(v,w)\mapsto v'Mw \\ &M_{ij}=M(b_i, b_j) \\ &M\in V^{*}\otimes V^{*} \\ &M=M_{st}\beta^s\otimes\beta^t \\ ~ \\ ~ \end{align} & \begin{align} &V\times V^{*} \overset{M}{\longrightarrow}\mathbb{R} \\ &(v,f)\mapsto v'Mf' \\ &M_{i}^j=M(b_i, \beta^j) \\ &M\in V^{*}\otimes V \\ &M=M_s^t\beta^s\otimes b_t \\ &M_s^t=M_{su}g^{ut} \\ &MG^{-1} \end{align} \\ \begin{align} &V^{*}\times V\overset{M}{\longrightarrow}\mathbb{R} \\ &(f,w)\mapsto fMw \\ &M_j^i=M(\beta^i, b_j) \\ &M\in V\otimes V^{*} \\ &M=M_t^s b_s\otimes\beta^t \\ &M_t^s=g^{su}M_{ut} \\ &G^{-1}M \end{align} & \begin{align} &V^{*}\times V^{*} \overset{M}{\longrightarrow}\mathbb{R} \\ &(f,g)\mapsto fMg' \\ &M^{ij}=M(\beta^i, \beta^j) \\ &M\in V\otimes V \\ &M=M^{st}b_s\otimes b_t \\ &M^{st}=g^{su}M_{uv}g^{vt} \\ &G^{-1}MG^{-1} \end{align} \end{matrix} </math> ''V''、''W'' および ''X'' が[[ハメル次元|有限次元]]であるなら、''L''(''V'',''W'';''X'') もまた有限次元である。{{nowrap|1=''X'' = ''F''}} のとき、(つまり双線型形式の成す)空間の次元は {{nowrap|dim ''V'' × dim ''W''}} となる(一方、「線型」形式の空間 ''L''(''V''×''W'';''F'') の次元は {{nowrap|dim ''V'' + dim ''W''}} である)。このことを確かめるために、''V'' と ''W'' に対してそれぞれ[[基底 (線型代数学)|基底]] {''e''<sub>''i''</sub>},{''f''<sub>''j''</sub>} を取れば、双線型写像は行列 ''B''(''e''<sub>''i''</sub>,''f''<sub>''j''</sub>) によって一意的に表現され、またこの逆も成立する。ここから ''X'' がもっと高次元の空間のとき、{{nowrap|1=dim ''L''(''V'',''W'';''X'') = dim ''V'' × dim ''W'' × dim ''X''}} が成立することは明らか。 == 例 == * [[行列|行列の積]]は {{nowrap|M(''m'',''n'') × M(''n'',''p'') → M(''m'',''p'')}} なる双線型形写像をさだめる。 * ''V'' を、[[内積]]の定義された[[実数]]体 '''R''' 上の[[ベクトル空間]]とする。このとき、その内積は双線型写像 {{nowrap|''V'' × ''V'' → '''R'''}} である。 * 一般に、体 ''F'' 上のベクトル空間に対し、''V'' 上の[[双線型形式]]というのは、双線型写像 {{nowrap|''V'' × ''V'' → ''F''}} というのと同じことである。 * ''V'' を、[[双対空間]] ''V*'' を備えたベクトル空間とする。このとき、線型写像を適用する自然な演算 {{nowrap|1=''b''(''f'', ''v'') = ''f''(''v'')}} は {{nowrap|''V''* × ''V''}} から基礎体への双線型写像である。 * ''V'' と ''W'' を、同一の体 ''F'' 上のベクトル空間とする。''f'' を ''V''* の要素とし、''g'' を ''W''* の要素とするなら、{{nowrap|1=''b''(''v'', ''w'') = ''f''(''v'')''g''(''w'')}} は双線型写像 {{nowrap|''V'' × ''W'' → ''F''}} を定義する。 * '''R'''<sup>3</sup> における[[クロス積]]は、双線型写像 {{nowrap|'''R'''<sup>3</sup> × '''R'''<sup>3</sup> → '''R'''<sup>3</sup>}} である。 * {{nowrap|''B'' : ''V'' × ''W'' → ''X''}} が双線型で、{{nowrap|''L'' : ''U'' → ''W''}} が[[線型写像|線型]]ならば、{{nowrap|(''v'', ''u'') ↦ ''B''(''v'', ''Lu'')}} は {{nowrap|''V'' × ''U''}} 上の双線型写像となる。 * {{nowrap|''V'' × ''W''}} 内の全ての (''v'',''w'') に対して {{nowrap|1=''B''(''v'',''w'') = 0}} として定義される零写像は、{{nowrap|''V'' × ''W''}} から ''X'' への、双線型かつ線型であるような唯一つの写像である。実際、{{nowrap|(''v'',''w'') ∈ ''V'' × ''W''}} に対して、''B'' が線型であるなら {{nowrap|1=''B''(''v'',''w'') = ''B''(''v'',0) + ''B''(0,''w'') = 0 + 0}} が成立するが、これは ''B'' が双線型であるための必要条件である。 == 関連項目 == * [[テンソル積]] * [[半双線型形式]] * {{仮リンク|双線型フィルタリング|en|Bilinear filtering}} * [[多重線型写像]] * {{仮リンク|多重線型部分空間学習|en|Multilinear subspace learning}} == 外部リンク == * {{SpringerEOM|title=Bilinear mapping|urlname=Bilinear_mapping}} {{Functional Analysis}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:そうせんけいしやそう}} [[Category:線型代数学]] [[Category:双線型演算|*]] [[Category:数学に関する記事]]
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