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反応機構
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[[化学]]において、'''反応機構'''(はんのうきこう、{{lang-en-short|Reaction mechanism}})は、全体の[[化学物質|化学的]]変化を起こす段階を追った一続きの{{仮リンク|素反応|en|Elementary reaction|preserve=1}}である<ref>{{JerryMarch}}</ref>。 反応機構は全体の化学反応の各段階で起こることを詳細に記述しようと試みる理論的な推論である。反応の詳細な段階はほとんどの場合において観測不可能である。推測反応機構はそれが熱力学的にもっともらしいという理由で選ばれ、単離した中間体または反応の定量的および定性的特徴から実験的に支持される。反応機構は個々の[[反応中間体]]、{{仮リンク|活性錯体|en|Activated complex}}、[[遷移状態]]や、どの結合が(どの順番で)切れるか、どの結合が(どの順番で)形成されるか、も記述する。完全な機構は{{仮リンク|反応物|en|Reactant}}と[[触媒]]が使われた理由や、反応物および生成物で観察される[[立体化学]]、全ての生成物とそれぞれの量、についても説明しなければならない。 [[Image:BromoethaneSN2reaction-small.png|thumb|center|540px|[[SN2反応|S<sub>N</sub>2反応]]機構。角括弧中の負電荷を持つ[[遷移状態]]は問題となっている中心の[[炭素原子]]が5つの結合を持ち、不安定な状態である。]] 反応機構を図示するために{{仮リンク|矢印を使った反応機構|en|Arrow pushing}}描画法が頻繁に使われる。 反応機構は分子が反応する順番についても説明しなければならない。大抵、単段階変換に見える反応は実際には多段階反応である。 ==単純反応== 化学反応のうち、途中に反応中間体を経ずに直接に最終生成物が生じる反応を'''単純反応'''(たんじゅんはんのう)という。単純反応の代表的な例としては[[SN2反応|S<sub>N</sub>2反応]]が知られている。 :<math>\rm RCH_2X + Nu^- \longrightarrow NuCH_2R + X^-</math> S<sub>N</sub>2反応反応においては反応速度がそれぞれ[[求電子剤]] RCH<sub>2</sub>X、[[求核剤]] Nu<sup>-</sup> それぞれの[[濃度]]に比例する。この実験事実はS<sub>N</sub>2反応反応が単純反応であることと矛盾しない(ただし単純反応でなくともこのようになる可能性はある)。またS<sub>N</sub>2反応反応では[[ワルデン反転]]が起こる。これを説明するには、S<sub>N</sub>2反応の遷移状態において求核剤 Nu<sup>-</sup> は求電子剤の炭素に対して反応で脱離する基Xの反対側から結合を生成しなければならない。このように一般的に正しいと考えられている反応機構は[[反応速度]]式や[[立体特異性]]といった実験事実を矛盾無く説明できるようなものである。 ==複合反応== 大部分の化学反応は途中に反応中間体を生じる多段階の反応である。このような反応を'''複合反応'''(ふくごうはんのう)という。複合反応はいくつかの単純反応の組み合わせとして記述できる。この複合反応の各段階を構成する単純反応を'''素反応'''(そはんのう)という。例えば[[tert-ブチルアルコール|''tert''-ブチルアルコール]]を濃塩酸と反応させると[[SN1反応|S<sub>N</sub>1反応]]が起こり、2-クロロ-2-メチルプロパンとなる。 :<math>\rm (CH_3)_3C-OH + HCl \longrightarrow (CH_3)_3C-Cl + H_2O</math> このS<sub>N</sub>1反応反応が単純反応でないことは反応速度が塩酸の濃度に依存しないことから分かる。実際にはこのS<sub>N</sub>1反応は-OH基への[[水素イオン|プロトン]]の付加、水の脱離による[[カルベニウムイオン]]の生成、塩化物イオンの付加による2-クロロ-2-メチルプロパンの生成の3つの素反応からなる。 :<math>\rm (CH_3)_3C-OH + HCl \longrightarrow (CH_3)_3C-O^+H_2 + Cl^-</math> :<math>\rm (CH_3)_3C-O^+H_2 \longrightarrow (CH_3)_3C^+ + H_2O</math> :<math>\rm (CH_3)_3C^+ + Cl^- \longrightarrow (CH_3)_3C-Cl</math> この中で最終的に2-クロロ-2-メチルプロパンに変換される始めの2つの段階の生成物''tert''-ブチルアルコールのプロトン付加体とカルベニウムイオンが反応中間体である。 ==反応中間体== 反応中間体を捕捉することは反応機構の推定において最も重要な鍵となる。しかし多くの場合、反応中間体は後続する反応によって消費されるため反応系内に存在する濃度は通常かなり低く、また反応性に富む不安定な物質であるため[[単離]][[精製]]して取り出すことは困難である。 そのため各種の[[分光法]]による直接観測や[[立体障害]]などで後続の反応を妨害することによる安定化、反応中間体と選択的に反応する[[試薬]]によるトラップなどによる捕捉によって存在を示すことが行なわれる。 また実験的に捕捉できない反応中間体についても反応速度の[[ハメット則]]などへの依存性や[[同位体効果]]による反応速度への影響、[[計算機化学]]実験による反応過程の[[シミュレーション]]などによって存在の推定が行なわれる。また、これらの手法は反応中間体が存在しないことの推定にも利用される。 例えばカルベニウムイオン中間体であれば、カチオン中心近傍への[[電子供与性]]基の導入による反応速度の増加、隣接する[[アルキル基]]上の[[水素]]の[[重水素]]への置換による[[超共役]]の減少に伴う反応速度の減少といったことから存在が推定され、さらに[[超強酸]]の存在下で[[核磁気共鳴分光法]]で直接観測が可能である。 反応中間体の種類によって反応の分類を行なうことがしばしば行なわれる。例えば[[イオン (化学)|イオン]]性の中間体を生成する反応は[[イオン反応]]、[[ラジカル (化学)|ラジカル]]中間体を生じる反応は[[ラジカル反応]]に分類される。反応中間体が存在せずに複数の結合が協奏的に生成・開裂する反応は[[ペリ環状反応]]に分類される。 ==結合の生成、開裂する位置== 結合の生成、[[解離 (化学)|開裂]]する位置の研究においては、出発物質中の一部の原子を[[同位体]]で置換したものを用いることがある。例えば[[エステル]]の[[塩基]]による分解反応ではそのままではエステルの2つの[[炭素]]-[[酸素]]結合のうちどちらが開裂したのか、そのままでは分からない。 :<math>\rm RC(=O)-O-R' + NaOH \longrightarrow R(C=O)-ONa + HO-R'</math> しかし、エステルの酸素原子を同位体置換した[[基質]]を用いてこの反応を行なうと生成物のアルコールの酸素原子だけが同位体置換されて得られてくる。 :<math>\rm RC(=O)-O^*-R' + NaOH \longrightarrow R(C=O)-ONa + HO^*-R'</math> このことからカルボニル炭素-酸素結合が開裂していることが分かる。 ==遷移状態== 遷移状態は化学反応が進行する際の[[自由エネルギー]]の極大の位置にあたる。そのため直接の観測は困難であるため、実験事実から推定や計算機化学によるシミュレーションでその構造が推定されている。 例えばα位に置換基を持つ[[カルボニル化合物]]への[[求核剤]]の反応では[[クラム則]]が成立し、そのことから遷移状態の[[立体配座]]の推定がなされた。その後、より詳細な[[立体選択性]]に関する知見の集積と計算機シミュレーションによる結果から[[フェルキン-アーンのモデル]]をはじめとするさまざまな遷移状態が提案されている。 ==化学反応論== 多くの化学反応の反応機構を統一的に説明するために[[化学反応論]]が形成されてきた。[[有機電子論]]は反応系の[[電子]]の動きに焦点を当てて化学反応を説明するものであり、多くのイオン性の反応機構がこれで説明できる。一方、[[フロンティア軌道理論]]、[[ウッドワード・ホフマン則]]はその電子が属する[[電子軌道|軌道]]に焦点を当てて化学反応を説明するものであり、有機電子論で説明が困難であった[[ペリ環状反応]]の機構の説明を可能とした。 == 出典 == {{reflist}} == 関連項目 == *[[反応速度論]] *[[分子動力学]] *[[衝撃波管]] *[[燃焼]] {{Chem-stub}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:はんのうきこう}} [[Category:化学反応|*]] [[Category:有機化学]]
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