周波数コムのソースを表示

{{翻訳直後|[[:en:Special:Redirect/revision/793937395|en: Frequency comb]]|date=2017年8月6日 (日) 06:53 (UTC)}}
'''光周波数コム'''（ひかりしゅうはすうコム、{{Lang-en-short|optical frequency comb}}）は、[[スペクトル密度|スペクトル]]が離散的で等間隔に並んだ[[周波数]]線からなる[[レーザー]]光源をいう。光周波数コムは様々な機構で生成することができるが、[[レーザー#発振方式による分類|連続波レーザー]]に対する周期的[[変調方式|変調]]（[[振幅変調]]および[[位相変調]]）、非線形媒質中における[[4光波混合]]、[[モード同期|モードロックレーザー]]により生成された{{ill2|パルス列|en|Pulse_train}}の安定化などが挙げられる。モードロックレーザーを用いた機構は、多大な労力の末に21世紀への変わり目ごろに開発された技術であり、[[ノーベル物理学賞#2000.E5.B9.B4.E4.BB.A3|2005年度ノーベル物理学賞]]の半分はこの業績を受賞理由として[[ジョン・ホール (物理学者)|ジョン・ホール]]と[[テオドール・ヘンシュ]]が共同受賞した。

理想的な周波数コムを[[周波数領域]]表示すると、次のような等間隔周波数を中心とする[[ディラックのデルタ関数|デルタ関数]]群の和となる。
: <math>
f_n = f_0 + n\,f_r
</math>
ここで、 <math>n</math> は整数、 <math>f_r</math> は櫛の歯同士の間隔（モードロックレーザーの往復速度や変調周波数に等しい）、<math>f_0</math> はキャリアオフセット周波数であり、<math>f_r</math> よりも小さい。

1{{ill2|オクターヴ (電子工学)|label=オクターヴ|en|Octave_(electronics)}}にわたる周波数コムは、<math>f_0</math> の直接計測（とそのドリフトの補正）に使うことができる。したがって、1オクターヴにわたる周波数コムはキャリア・エンベロープ位相補正[[フィードバックループ]]内の{{ill2|label=圧電駆動ミラー|ミラーマウント|en|Mirror_mount}}の制御に利用することができる。光周波数コムの二つの[[自由度]]（<math>f_r</math> と <math>f_0</math>）を安定化できる機構であれば、どんな機構でも光周波数の直接測定のための光周波数から電波領域の周波数へのマッピングに便利な周波数コムを生成することができる。
[[ファイル:Gaussian_wave_packet.svg|右|サムネイル|時間領域表示した光の[[超短パルス]]。電場はガウス関数を包絡線とする正弦波を描いて変動する。パルス長は数百フェムト秒程度のオーダーである。]]

== レーザー周波数コム生成の機構 ==

=== モードロックレーザーを使う機構 ===
[[ファイル:Dirac_comb.svg|サムネイル|300x300ピクセル|ディラックコムとは、有限の間隔 T で並ぶ[[ディラックのデルタ関数]]の級数である。時間領域ディラックコムの[[フーリエ変換]]は[[周波数領域]]のディラックコムとなる。]]
光周波数コムを生成する最も普及している方法はモードロックレーザーである。この型のレーザーはレーザー発振器の往復時間を間隔とする光パルス列を生成する。このようなパルス列のスペクトルは近似的に、レーザーの往復速度（{{Lang|en|repetition rate}}、往復時間の逆数）を間隔とする[[ディラックのデルタ関数]]の級数とみなせる。この、鋭いスペクトル線の列を周波数コムもしくは周波数[[くし型関数|ディラックコム]]と呼ぶ。

光周波数コムを生成するために最も一般的に使われるレーザーは、 [[チタンサファイアレーザー|Ti:サファイア固体レーザー]]とEr:[[ファイバーレーザー]]<ref>{{Cite journal|last=Adler|first=Florian|date=2004-11-29|title=Phase-locked two-branch erbium-doped fiber laser system for long-term precision measurements of optical frequencies|url=https://www.osapublishing.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-12-24-5872|journal=Optics Express|volume=12|issue=24|page=5872|language=EN|doi=10.1364/OPEX.12.005872|last2=Moutzouris|first2=Konstantinos|last3=Leitenstorfer|first3=Alfred|last4=Schnatz|first4=Harald|last5=Lipphardt|first5=Burghard|last6=Grosche|first6=Gesine|last7=Tauser|first7=Florian|issn=1094-4087}}</ref>であり、典型的には{{val|100|ul=MHz}}から{{val|1|ul= GHz}}<ref>{{Cite web2|url=http://kops.uni-konstanz.de/bitstream/handle/123456789/4931/Optical_Frequency.pdf?sequence=1|title=Optical Frequency Synthesis and Comparison with Uncertainty at the 10-19 Level|access-date=2021-3-25|last=Ma|first=Long-Sheng|date=2004|website=|publisher=First published in Science 303 (2004) 5665 pp 1843-1845}}</ref>程度の往復速度が用いられるが、{{val|10|u= GHz}}<ref>{{Cite web2|url=https://www.researchgate.net/profile/Dirk_Heinecke/publication/38077768_10-GHz_self-referenced_optical_frequency_comb/links/0c9605236becac6a94000000.pdf|title=10-GHz Self-Referenced Optical Frequency Comb|access-date=2021-3-25|last=Bartels|first=Albrecht|date=14 July 2009|website=Researchgate.net|publisher=}}</ref>まで高くすることもある。

=== 4光波混合を応用する機構 ===
[[4光波混合]]とは3つの周波数 <math>f_1,f_2,f_3</math> を持つ強い光が相互作用し、第4の周波数<math>f_4 = f_1 + f_2 - f_3</math>の光を生じる過程をいう。3つの周波数が完全な間隔の周波数コムの一部である場合、第4の周波数は数学的に必然的に同じコムの一部となる。

二つ以上の周波数の等間隔に並んだ強い光から始めて、この過程を用いてさらなる等間隔に並んだ周波数を持つ光を生成することできる。たとえば、2つの周波数 <math>f_1,f_2</math> を持つ光子が多量に存在するとき、4光波混合により新たな周波数 <math>2f_1 - f_2</math>を持つ光が生じる。この新たな周波数がやがてより強度を増し、連鎖的に同じコムを構成するさらに新たな周波数を生じさせる。

したがって、光周波数コムを生じさせる概念的に単純な方法として、2つのわずかに異なる周波数をもつレーザーを同時に{{ill2|フォトニック結晶ファイバー|en|Photonic_crystal_fiber}}に通すことが挙げられる。すると、上述の通り4光波混合により光周波数コムが生成される<ref>{{cite journal|date=2009|title=Optical frequency comb generated by four-wave mixing in highly nonlinear fibers|url=http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=5224363|journal=CLEO/QELS 2009|authors=Boggio, J.C.; Moro, S.; Windmiller, J.R.; Zlatanovic, S.; Myslivets, E.; Alic, N.; Radic, S.}}</ref><ref>{{cite journal|title=Frequency comb generation by four-wave mixing and the role of fiber dispersion|journal=[[J. Lightwave Technol.|Journal of Lightwave Technology]]|volume=16|issue=9|pages=1596–1605|bibcode=1998JLwT...16.1596S|doi=10.1109/50.712242|authors=Sefler, G.A. and Kitayama, K.}}</ref>。

==== マイクロ共振器を用いる機構 ====
もう1つ、4光波混合を用いる光周波数コムとして{{ill2|カー周波数コム|en|Kerr_frequency_comb}}が挙げられる。この場合、単一のレーザーを{{ill2|マイクロ共振器|en|Optical_microcavity}}（たとえば{{ill2|ささやきの回廊モード|en|Whispering-gallery_wave}}を持つガラスマイクロディスク）に入射させる。 この種の構造は自然に等間隔に並んだ周波数の共鳴モードを持つ（[[ファブリ・ペロー干渉計]]に類似）。厳密には、この共鳴モードは[[分散 (光学)|分散]]のため等間隔で並んでいないものの、上述の4光波混合効果により安定化することで完全な周波数コムを生じさせることができる<ref>{{cite journal|date=2007|title=Optical frequency comb generation from a monolithic microresonator|journal=Nature|volume=450|pages=1214–1217|arxiv=0708.0611|bibcode=2007Natur.450.1214D|doi=10.1038/nature06401|authors=P. Del'Haye, A. Schliesser, O. Arcizet, T. Wilken, R. Holzwarth & T. J. Kippenberg}}</ref>。基本的には、この系は共鳴モードに重なりあう範囲でできるかぎり多くの完全な周波数コムを生じさせる。実際には、[[非線形光学]]効果によって共鳴モードをずらすことで、より多くの完全コムとの重なり合いを向上させることができる（共鳴モード周波数は屈折率に依存するが、これは光学[[カー効果]]により変更できる）。

時間領域で見れば、この構造から生じる光は、モードロックレーザーによるものとは違いパルス列にはならないが<ref>{{cite journal|year=2016|title=Quantum Cascade Laser Frequency Combs|journal=Nanophotonics|volume=5|page=272|doi=10.1515/nanoph-2016-0015|authors=Jérôme Faist et al.}}</ref>、周波数領域でみれば安定な周波数コムとなる。

=== 連続レーザーの電気光学変調を利用する機構 ===
光周波数コムは連続レーザーを外部変調器によ無線周波帯の振幅変調および位相変調を行うことで生じさせることができる<ref>{{Cite journal|last=Murata|first=H.|date=2000-11-01|title=Optical pulse generation by electrooptic-modulation method and its application to integrated ultrashort pulse generators|url=http://ieeexplore.ieee.org/document/902186/|journal=IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics|volume=6|issue=6|pages=1325–1331|doi=10.1109/2944.902186|last2=Morimoto|first2=A.|last3=Kobayashi|first3=T.|last4=Yamamoto|first4=S.|issn=1077-260X}}</ref>。この方法では、所与の連続レーザー周波数を中心周波数とし、変調周波数、往復速度は外部無線周波数源により決まる。この手法の利点は、モードロックレーザーに比べて往復速度をより高く ({{val|10|p=>|u= GHz}}) することが可能な点と、コムの2つの自由度を独立に設定できる点である<ref name=":0">{{Cite journal|last=|first=|date=May 2017|title=Optical frequency comb technology for ultra-broadband radio-frequency photonics|url=|journal=Laser and Photonics Reviews|volume=8|pages=368–393}}</ref>。スペクトル線の数はモードロックレーザーよりも低い（典型的には数十本）が、帯域幅は非線形ファイバーを使うことにより大きく広げることができる<ref>{{Cite journal|last=Wu|first=Rui|date=2013-03-11|title=Supercontinuum-based 10-GHz flat-topped optical frequency comb generation|url=https://www.osapublishing.org/abstract.cfm?uri=oe-21-5-6045|journal=Optics Express|volume=21|issue=5|pages=6045–6052|language=EN|doi=10.1364/OE.21.006045|last2=Torres-Company|first2=Victor|last3=Leaird|first3=Daniel E.|last4=Weiner|first4=Andrew M.|issn=1094-4087}}</ref>。この種の光周波数コムは通常電気光学周波数コム ({{Lang|en|electrooptic frequency comb}}) と呼ばれる<ref>{{Cite journal|last=Metcalf|first=A. J.|date=2013-11-01|title=High-Power Broadly Tunable Electrooptic Frequency Comb Generator|url=http://ieeexplore.ieee.org/document/6553388/|journal=IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics|volume=19|issue=6|pages=231–236|doi=10.1109/JSTQE.2013.2268384|last2=Torres-Company|first2=V.|last3=Leaird|first3=D. E.|last4=Weiner|first4=A. M.|issn=1077-260X}}</ref>。初期の方式ではファブリ・ペロー共振器内に位相変調器を組み込んだが<ref>{{Cite journal|last=Kobayashi|first=T.|date=1972-10-15|title=High‐repetition‐rate optical pulse generator using a Fabry‐Perot electro‐optic modulator|url=http://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.1654403|journal=Applied Physics Letters|volume=21|issue=8|pages=341–343|doi=10.1063/1.1654403|last2=Sueta|first2=T.|last3=Cho|first3=Y.|last4=Matsuo|first4=Y.|issn=0003-6951}}</ref>、電気光学変調器の進歩により新たな配置が可能となっている。

=== 電子工学における低周波コム ===
パルス列を生成する純粋に電子的な装置により周波数コムを生成することもできる。これらは電子サンプリング[[オシロスコープ]]に用いられるが、この周波数は最高で 1 THz に達するので、マイクロ波の周波数比較にも用いられる。この周波数コムには 0&nbsp;Hz が含まれるので、後述する細工は必要ない。

== 周波数コムを1オクターヴ幅まで広げる ==
様々なアプリケーションで、周波数コムは最低1{{ill2|オクターヴ (電子工学)|label=オクターヴ|en|Octave_(electronics)}}の幅が必要とされる{{要出典|date=May 2014}} 。つまり、スペクトルの最高周波数が最低周波数の少なくとも2倍なければならない。次の3つの技術のうちいずれかを使うことができる。
* 非線形{{ill2|フォトニック結晶ファイバー|en|Photonic_crystal_fiber}}もしくは組み込み導波路中における{{ill2|スーパーコンティニューム|en|Supercontinuum}}発生
* 発振器内[[自己位相変調]]を用いる Ti:サファイアレーザー
* 長い結晶中では、[[第二次高調波発生]]が起こりうる。これに続いて和周波数発生を起こさせることにより1次高調波および2次高調波が重なるまで広がる。
これらの過程は、[[#4光波混合を応用する機構|上述]]の理由と同様の理由で同じコムに属する新たな周波数を生じさせる。

== キャリア・エンベロープオフセット測定 ==
[[ファイル:Wave_opposite-group-phase-velocity.gif|サムネイル|キャリア・エンベロープオフセットの原因となる[[群速度]]と[[位相速度]]の違い。この図では、振幅最大点の移動をみると群速度は右向きであるが、[[関数の零点|零点]]（波と軸の交点）の移動を見ると位相速度は左向きであることがわかる。]]
右図に光学位相とエンベロープ（[[包絡線]]）の最大点とのオフセットが増加していく様子を示す。各スペクトル線は往復速度の高調波からキャリア・エンベロープオフセット周波数分ずれる。キャリア・エンベロープオフセット周波数はキャリア（[[搬送波]]）周波数のピークがパルスエンベロープのピークからパルス毎にみてずれていく率である。

キャリア・エンベロープオフセット周波数の計測は通常自己参照技術、すなわちある部分のスペクトルの位相とその高調波の位相とを比較することにより行われる。いくつか別のアプローチの可能性も1999年に提案されている<ref name="Telle">H.R. Telle, G. Steinmeyer, A.E. Dunlop, J. Stenger, D.H. Sutter, U. Keller (1999). </ref>。非線形光学過程がひとつしか必要でない最も単純な2つのアプローチを下に説明する。

'''f'' − 2''f'' ' 技術では、広帯域スペクトルの低エネルギー光側の周波数が非線形結晶中における[[第二次高調波発生]]により二倍となり、スペクトルの高エネルギー側との間に[[ヘテロダイン]]うなりが生じる。このうなり信号は[[フォトダイオード]]により検知可能で<ref>{{Cite web2|url=http://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/7879266/|title=Computational Study of Amplitude-to-Phase Conversion in a Modified Unitraveling Carrier Photodetector|access-date=2021-3-25|last=Hu|first=Yue|date=15 March 2017|website=ieeexplore.ieee.org|publisher=IEEE}}</ref>、差周波数成分、すなわちキャリア・エンベロープオフセット周波数成分を含む。

その他にも、差周波数発生を利用することもできる。広帯域化されたスペクトルの両端の光から、非線形結晶内で差周波数発生を起こさせ、その乗算混合光とオリジナル光と同じ波長の光との間の[[ヘテロダイン]]うなりを計測する。このうなり周波数はこのうなり信号はフォトダイオードにより検知可能で、キャリア・エンベロープオフセット周波数に等しい。

直接測定されるのは[[位相検出器|位相]]であって周波数ではないため、周波数をゼロにあわせてさらに位相をロックすることが可能であるが、レーザーの強度とこの検知器があまり安定ではないのと、スペクトル全体が位相[http://www.attoworld.de/publications/Doctoral_Theses/Rauschenberger_thesis_2007.pdf ソース]内でうなるため、往復速度の分数で位相をロックする必要がある。

== キャリア・エンベロープオフセット制御 ==
能動的安定化を行わない場合、往復速度とキャリア・エンベロープオフセット周波数は自由にドリフトする。これらは共振器長さ、レーザー光学素子の屈折率、[[カー効果]]など非線形効果の変化につれて変動する。往復速度は[[圧電効果|圧電]]トランスデューサにより鏡を動かし、共振器長さを変化させることにより安定化させることができる。

分散制御に[[プリズム]]を利用する Ti:サファイアレーザーでは、キャリア・エンベロープオフセット周波数はプリズム対の端の高反射率鏡を傾けることにより制御することができる。これは圧電トランスデューサを使って行うことができる。

高往復速度 Ti:サファイアリングレーザーでは、ダブルチャープミラーが分散制御に用いられることが多く、{{ill2|音響光学変調器|en|Acousto-optic_modulator}}によるポンプパワーの変調がオフセット周波数の制御に用いられることが多い。位相滑りはカー効果に強く依存し、ポンプパワーを変化させることによりレーザーパルスのピーク強度を変化させることができ、したがってカー位相シフトを変化させることができる。このシフトは {{Val|6|ul=rad}} よりもはるかに小さいため、粗い調整のためには追加の機器が必要となる。1対の楔の片方を共振器内レーザービームに出し入れすることによりその目的を達することができる。

実用的光周波数コムを実現させたブレークスルーは、キャリア・エンベロープオフセット周波数を安定させる技術が開発されたことであった。

キャリア・エンベロープオフセット周波数を安定化するもうひとつの方法として、差周波数発生 (DHG) を用いて完全に打ち消す方法がある。広帯域化されたスペクトルの両端の光の差周波数を非線形結晶内で発生させるとき、生じる光周波数コムはキャリア・エンベロープオフセットがない。なぜなら、DHG に寄与する二つのスペクトル部分は全く同じキャリア・エンベロープオフセット周波数を持つからである。これは1999年に初めて提案され、近年通信波長帯のエルビウムファイバー光周波数コムを使い実証された<ref>G. Krauss, D. Fehrenbacher, D. Brida, C. Riek, A. Sell, R. Huber, A. Leitenstorfer (2011). </ref>。このシンプルなアプローチには、それまでの安定化技術には必要だった電子的フィードバックループが必要でないという利点がある。このことから、環境的摂動に対してよりロバストで安定となる<ref>T. Fuji, A. Apolonski, F. Krausz (2004). </ref><ref>M. Zimmermann, C. Gohle, R. Holzwarth, T. Udem, T.W. Hänsch (2004). </ref>。

== 応用 ==
[[ファイル:Laser_frequency_comb_installed_on_HARPS.jpg|サムネイル|[[高精度視線速度系外惑星探査装置]]に設置されている二つのレーザー周波数コムからの光のスペクトル<ref>{{Cite web|url=https://www.eso.org/public/announcements/ann15037/|title=HARPS Laser Frequency Comb Commissioned|accessdate=8 June 2015}}</ref>]]
光周波数コムは[[高周波|無線周波]]帯の周波数標準を光学周波数に直接リンクすることを可能とする。現在の、[[原子時計]]などの周波数標準は[[マイクロ波]]領域で動作するが、光周波数コムにより、それらの時計の精度を電磁波スペクトルの光領域にまで持ち込むことができる。単純な電子的フィードバックループにより往復速度を周波数標準にロックすることができる。

この技術には、2つの別々の応用がある。1つは、ある光周波数と周波数コム中のある歯とをフォトダイオード上で重ね合わせ、うなり信号と往復速度、キャリア・エンベロープオフセット周波数と、無線周波とを比較する光学時計 (optical clock) である。光学的[[計量学]]、周波数チェインの発生、光学的[[原子時計]]、高精度分光、高精度 [[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]] 技術などの応用がある<ref>[http://archive.nrc-cnrc.gc.ca/eng/projects/inms/optical-comb.html Optical frequency comb for dimensional metrology, atomic and molecular spectroscopy, and precise time keeping] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130627155632/http://archive.nrc-cnrc.gc.ca/eng/projects/inms/optical-comb.html |date=2013年6月27日 }}</ref>。

もう1つは、{{ill2|超閾電離|en|Above_threshold_ionization}}、{{ill2|アト秒パルス|en|Attophysics}}、高効率[[非線形光学]]、[[非線形光学|高調波発生]]などの[[超短パルス]]を用いた実験が挙げられる。これは単一パルスのこともあり、その場合コムは存在せずキャリア・エンベロープオフセット周波数は定義できず、代わりにキャリア・エンベロープオフセット位相が重要となる。2個目のフォトダイオードを追加し、シングルショットで位相と振幅を集めたり、パワー効率は低いがシングルショットに基いて差周波数発生に用いられることもある。

実際にコムがない場合、位相・周波数関係に着目することができる。キャリア・エンベロープがない場合、全ての周波数はコサイン波となる。すなわち、全ての周波数が位相 0 を持。時間原点は任意にとることとする。後でパルスが来ると、位相は周波数に対して線形に増加するが、ゼロ周波数の位相はゼロのままである。この、ゼロ周波数位相がキャリア・エンベロープオフセットである。2次高調波は周波数が二倍になるだけでなく位相も二倍となる。すなわち、ゼロオフセットパルスの場合にのみ低周波数テールの2次高調波が無線周波テールと位相が一致することになる。{{ill2|直接電場再構成用スペクトル位相干渉測定|en|Spectral_phase_interferometry_for_direct_electric-field_reconstruction}} (SPIDER) は位相が周波数とともにどのように増加していくかを計測するが、オフセットを決定することはできないので、「電場再構成」という名前は若干ミスリーディングである。

近年、周波数コムは[[天文学]]における分光学的観測を拡張する技術、"{{ill2|astro-comb|en|Astro-comb}}" 用途への応用が興味を集めており、例えば[[国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡|すばる望遠鏡]]の[[赤外線ドップラー装置]]に用いられている。

キャリア・エンベロープオフセット周波数を無線周波信号にロックする必要のない用途もある<ref>{{Cite journal|last=Newbury|first=Nathan R.|title=Searching for applications with a fine-tooth comb|url=http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nphoton.2011.38|journal=Nature Photonics|volume=5|issue=4|pages=186–188|doi=10.1038/nphoton.2011.38}}</ref>。なかでも、光通信<ref>{{Cite journal|last=Temprana|first=E.|date=2015-06-26|title=Overcoming Kerr-induced capacity limit in optical fiber transmission|url=http://science.sciencemag.org/content/348/6242/1445|journal=Science|volume=348|issue=6242|pages=1445–1448|language=en|doi=10.1126/science.aab1781|issn=0036-8075|pmid=26113716}}</ref>や任意光波形の合成<ref>{{Cite journal|last=Cundiff|first=Steven T.|title=Optical arbitrary waveform generation|url=http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nphoton.2010.196|journal=Nature Photonics|volume=4|issue=11|pages=760–766|doi=10.1038/nphoton.2010.196}}</ref>、無線周波フォトニクスが挙げられる。

== 歴史 ==
[[テオドール・ヘンシュ|テオドール・W・ヘンシュ]]と[[ジョン・ホール (物理学者)|ジョン・L・ホール]]は2005年の[[ノーベル物理学賞]]の半分を、その光周波数コム技術を含めたレーザーベースの高精度分光学の発展への寄与に対して共同受賞した。この賞のもう半分は[[ロイ・グラウバー]]が受賞した。

やはり2005年、フェムト秒コム技術は極端紫外光領域まで拡張され、この領域における周波数計量が可能となった<ref>{{cite journal |journal=Contemporary Physics |volume=47 |issue=2 |title=The universe from scratch |first1 = J. |last1 = Ambj⊘rn |first2 = J. |last2 = Jurkiewicz |first3 = R. |last3 = Loll |url=  https://doi.org/10.1080/00107510600603344  |year=2006 |pages = 103–117 |doi=10.1080/00107510600603344 }}</ref><ref>{{Citation|title=A frequency comb in the extreme ultraviolet|last1=Gohle|last2=Udem|last3=Herrmann|last4=Rauschenberger|last5=Holzwarth|last6=Schuessler|last7=Krausz|last8=Hänsch|first1=Christoph|first2=Thomas|first3=Maximilian|first4=Jens|first5=Ronald|first6=Hans A.|first7=Ferenc|first8=Theodor W.|url=https://doi.org/10.1038/nature03851|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=436|issue=14 July 2005|pages=234–237|bibcode=2005Natur.436..234G|doi=10.1038/nature03851|DOI=10.1038/nature03851}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Kandula|first=Dominik Z.|date=2 August 2010|title=Extreme ultraviolet frequency comb metrology|journal=Physical Review Letters|volume=105|arxiv=1004.5110|bibcode=2010PhRvL.105f3001K|doi=10.1103/PhysRevLett.105.063001}}</ref><ref>{{Citation|title=Direct frequency comb spectroscopy in the extreme ultraviolet|last1=Cingöz|last2=Yost|last3=Allison|last4=Ruehl|last5=Fermann|last6=Hartl|last7=Ye|first1=Arman|first2=Dylan C.|first3=Thomas K.|first4=Axel|first5=Martin E.|first6=Ingmar|first7=Jun|date=2 February 2012|url=https://www.nature.com/articles/nature10711|journal=Nature|volume=482|issue=7383|pages=68–71|arxiv=1109.1871|bibcode=2012Natur.482...68C|doi=10.1038/nature10711|DOI=10.1038/nature10711|pmid=22297971|PMID=22297971}}</ref>。

== 関連項目 ==
* [[原子時計]]
* {{Ill2|磁気光トラップ|en|Magneto-optic trap}}
* {{Ill2|Astro-comb|en|Astro-comb}}

== 出典 ==
{{reflist|30em}}

== 関連文献 ==
* {{Cite book|last=John L Hall & Theodor W Hänsch|author=John L Hall & Theodor W Hänsch|editor-last=Jun Ye, Steven T. Cundiff|editor=Jun Ye, Steven T. Cundiff|title=Femtosecond optical frequency comb|url=http://jila.colorado.edu/~junye/yelabs/pubs/scienceArticles/2005/sArticle_2005_YeCundiff_CombBook.pdf|date=2004|publisher=Springer|ISBN=0-387-23790-9|chapter=History of optical comb development}}
* {{cite book|author=Andrew M. Weiner|title=Ultrafast Optics|url=http://www.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-0471415391.html|date=2009|publisher=Wiley|isbn=978-0-471-41539-8}}

== 外部リンク ==
* [http://www.iop.org/EJ/article/1367-2630/7/1/116/njp5_1_116.html Attosecond control of optical waveforms]
* [http://tf.nist.gov/general/pdf/1396.pdf Femtosecond laser comb]
* [https://web.archive.org/web/20120305160807/http://www.nrc-cnrc.gc.ca/eng/projects/inms/optical-comb.html Optical frequency comb for dimensional metrology, atomic and molecular spectroscopy, and precise time keeping]
* [http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=measuring-with-lasers&print=true Rulers of Light: Using Lasers to Measure Distance and Time] by Steven Cundiff in Scientific American
* [http://www.frequencycomb.com/ World-wide installations of Frequency Combs (by Menlo Corp., illegible without Flash)]

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[[Category:非線形光学]]
[[Category:分光学]]