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和田の湖
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[[File:Lakes of Wada.png|frame|right|5段階まで掘られた3色の湖。白い部分はまだ陸である。]] [[数学]]における'''和田の湖'''(わだのみずうみ、{{lang-en-short|lakes of Wada}})とは、面上における3つの領域であって、それぞれは[[連結空間|連結]]であり、互いに[[共通部分 (数学)|共通部分]]を持たず、しかも全く同じ[[境界 (位相空間論)|境界]]を持つものの例である。 == 概要と歴史 == 平面あるいは球面上において、同じ境界を持つ2つの領域を考えることは易しい。例えば、球面を北半球と南半球に分ければ、その2つの領域は赤道を共通の境界に持つ。これに対し、3つ以上の領域が共通の境界を持つことは、直感的にはあり得ないことのように感じられる。しかし、無限に入り組んだ複雑な領域を考えるならば、そのようなことも可能である。 数学者の[[米山国蔵]]は、1917年にそのような例を発表した。米山によれば、それは彼の師である[[和田健雄]]のアイデアだったため、和田の湖と呼ばれるようになった<ref name="ian">スチュアート p.195</ref>。また、同じ境界を持つ3つ以上の領域は、'''和田の性質''' (Wada property) を持つ、という言い方をする。和田の湖は、直感に反する[[病的な (数学)|病的な]]例として人工的に構成されたものであるが、後述のように、和田の性質を持つ例が[[力学系]]において自然に現れることも、次第に分かってきた。そのようなものは、'''和田の吸引領域''' (Wada basins) と呼ばれる。 == 和田の湖の構成 == [[File:Lakes of Wada.gif|frame|right|湖を構成する様子(5日目まで)]] 文献によって細部は若干異なるが、アイデアは本質的には同等である。ここでは、右図に基いた記述を行う。また、3つのみならず、3つ以上の任意の個数の領域についても、同様のアイデアで構成できる。 単位正方形 :<math>U=\{(x,y) \,|\, 0<x<1,\,0<y<1 \}</math> から始める。これは「島」に見立てられる。1日目に :<math>\{(x,y) \,|\, 0<x<2/3,\,1/3<y<2/3 \}</math> の部分を掘って、青い湖とする。2日目には、図のように「陸」の部分の中央の筋をなぞるようにして、幅 1/9 の赤い湖を掘る。その結果残った陸の部分も幅が 1/9 であり、依然連結していることに注意せよ。なお、湖の縁は湖に含めないものと考える(すなわち湖は[[開集合]]である)。3日目には、幅 1/27 の緑の湖を掘って、陸の部分の幅も 1/27 となるようにする。4日目には、青い湖の先端から幅 1/81 の「運河」を掘って、青い湖を拡張する。これまでと同様に、陸の部分の中央をなぞるように掘っていくと、その結果残った陸の部分も幅が 1/81 であり、依然連結している。5日目には、赤い湖の先端から幅 1/243 の運河を掘る。以下同様にして、青、赤、緑の順に、幅が前日の 1/3 になるように運河を掘り続けると、陸の部分はどんどん幅を失っていく。 永遠に掘り続けた極限として、島は3色の湖 ''B'', ''R'', ''G'' と陸 ''Z'' の[[非交和]]として表される: :<math>U=B \cup R \cup G \cup Z.</math> このとき、''Z'' は ''B'', ''R'', ''G'' の共通の境界である。 全体が単位正方形であることや、1/3, 1/9 といった数値は重要ではない。肝要なのは、新しく掘った湖と残った陸との距離の最大値が、限りなく 0 に近付くように掘り進めることである。 === 補足 === 数学的議論に慣れた者にとっては蛇足であろうことを、2点補足として述べる。 まず、慣れていない者にとっては、永遠に運河を掘り続ける、というところが受け入れがたく感じられるかもしれない。しかし、[[カントール集合]]や[[コッホ曲線]]を構成する際のように、無限個の集合を扱うとか、無限回の操作を行う、などと数学者たちはわりと平気で言う。現実に絵が描けるか、ということもあまり気にはされず、抽象的な概念として把握できれば十分だと考えられている。実際、掘り方に紛れがないようにもう少し丁寧にルールを定めておけば、島の中の1点を選んだときに、その点が(とんでもなく遠い未来になる可能性もあるが)いつかは掘られていずれかの湖の一部となるか、掘られた湖の縁となって(幅のない)陸として残るか、運命はすでに定まっている。よって、「永遠に運河を掘り続ける」というのは単なるたとえ話であって、''B'', ''R'', ''G'', ''Z'' は集合としてきちんと把握できる。 また、境界とは何を意味するのか、数学的に正確な定義を知っておかねばならない。一般に、(ユークリッド空間における位相においては)点 P が領域 ''D'' の境界上の点であるとは、点 P を中心としてどんなに小さな円を書いたとしても、その円の内部に ''D'' 内の点と ''D'' 外の点の両方が含まれることを意味する。上記の構成を行うと、''Z'' 上の任意の点を中心とする円は、必ず3つの湖の全てと交わる。これで、''Z'' が3つの湖の共通の境界であることが理解されよう。 == 和田の吸引領域 == [[Image:Newtroot 1 0 0 m1.png|thumb|240px|right|''z''<sup>3</sup> − 1 = 0 の3つの解([[1の冪根|1の立方根]])に対応した3つの領域は、複雑に絡み合って共通の境界を持つ。]] [[Image:Newton roots stor.jpg|thumb|240px|right|原点近くの拡大図。[[自己相似]]性が観察される。]] 和田の性質を持つ自然な例を得るには、例えば[[三次方程式]] ''z''<sup>3</sup> − 1 = 0 を考えればよい。この方程式は三つの解 :<math>z=1,\ \frac{-1 \pm \sqrt{3}i}{2}</math> を持つ。方程式の解を近似的に求める方法として[[ニュートン法]]があるが、三つの解のうちどれが求まるかは、最初にランダムに選んだ複素数に依存する。求まる解によって、複素数平面上の複素数を色分けすると、右の図が得られる。この3つの領域は、和田の性質を持つ。ただし、和田の湖とは異なり、3つの領域はどれも連結ではなく、それどころか無限個の部分に分かれている。この例は、和田の吸引領域と呼ばれるもののうち、最も単純な例である。 なお、境界上の点は、ニュートン法では([[ゼロ除算]]が生じるなどして)解が求まらない初期値であることを意味する。ほんの少しずらせば解が求まるようになるが、3つの領域が和田の性質を持つということは、ずらし方がほんの少し変わるだけで得られる解が3通りに変わってくることを意味する。これは[[カオス理論]]が主に題材とする典型的な現象である。 == 出典 == {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Cite journal|title=Theory of Continuous Set of Points (not finished)| url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/tmj1911/12/0/12_0_43/_article| author=KUNIZÔ YONEYAMA| journal=Tohoku Mathematical Journal, First Series| volume=12| pages=43-158| year=1917}}米山による原著論文。特に pp. 60-62。島や湖の絵もある。 * [[イアン・スチュアート (数学者)|イアン・スチュアート]]著、水谷淳訳『数学ミステリーの冒険』[[SBクリエイティブ]]、2015年 ISBN 978-4797382020 特に pp. 194-197. == 関連項目 == * [[カオス理論]] * [[フラクタル]] == 外部リンク == * {{MathWorld|title=Wada Basin|urlname=WadaBasin}} {{DEFAULTSORT:わたのみすうみ}} [[Category:フラクタル]] [[Category:位相幾何学]] [[Category:力学系]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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