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[[線型代数学]]において'''商線型空間'''(しょうせんけいくうかん、{{lang-en-short|''quotient vector space''}})あるいは単に'''商空間''' {{lang|en|(''quotient space'')}} とは、[[ベクトル空間]] ''V'' とその[[線型部分空間|部分線型空間]] ''N'' に対して、''N'' に属する全てのベクトルを 0 に「潰して」得られるベクトル空間である。これを部分空間 ''N'' による ''V'' の商空間あるいは ''N'' を法とする ''V'' の商空間といい、''V''/''N'' で表す。 == 定義 == {{harv|Halmos|1974|loc=§21-22}} に従って厳密な定義を述べる。''V'' を[[可換体|体]] ''K'' 上の[[ベクトル空間]]とし、''N'' を ''V'' の[[線型部分空間|部分線型空間]]とする。''V'' 上の[[同値関係]] ∼ を : ''x'' ∼ ''y'' となるのは ''x'' − ''y'' ∈ ''N'' であるとき と定める。つまり、''x'' が ''y'' と関係を持つのは ''x'' に ''N'' の適当な元を加えて ''y'' にすることができるときである。この定義から、''N'' の任意の元は零ベクトルと同値となり省くことができる。言い換えれば、''N'' に属するすべてのベクトルが零ベクトルの属する同値類に写されるということである。 ''x'' の属する[[同値類]] [''x''] は : [''x''] = {''x'' + ''n'' | ''n'' ∈ ''N''} で与えられ、それゆえにしばしば : ''x'' + ''N'' とも書かれる。 商空間 ''V''/''N'' はこの同値関係 ∼ による ''V'' 上の同値類全体のなす集合 ''V''/∼ として定義される。同値類同士のスカラー乗法と加法はそれぞれ * α[''x''] := [α''x''] (α ∈ ''K'') * [''x''] + [''y''] := [''x'' + ''y''] で与えられる。これらの演算が[[well-defined|矛盾無く定まる]](すなわち代表元のとり方に依らない)ことを確かめるのは難しくない。これらの演算により商空間 ''V''/''N'' は ''N'' を零ベクトルとする ''K'' 上のベクトル空間となる。 ''V'' の各元 ''v'' をそれが属する同値類 [''v''] へ写す写像は[[商写像]]あるいは'''標準射影'''と呼ばれる。 == 例 == ''X'' = '''R'''<sup>2</sup> を標準座標平面とし、''Y'' を原点を通る ''X'' 上の直線とする。このとき、商空間 ''X''/''Y'' は ''Y'' に平行な ''X'' 上の直線全体のなす空間と同一視することができる。つまり、集合 ''X''/''Y'' の元は ''X'' 上の ''Y'' に平行な直線である。これは商空間を幾何学的に視覚化するひとつの方法を与える。 別な例は、'''R'''<sup>''n''</sup> の最初の ''m'' 個の標準基底ベクトルで張る部分空間による商である。空間 '''R'''<sup>''n''</sup> は実数の[[タプル| ''n''-組]] (''x''<sub>1</sub>, …, ''x''<sub>''n''</sub>) 全体のなす集合であり、考えたい部分空間は最初の ''m'' 個以外の座標成分が全て 0 であるような ''n''-組 (''x''<sub>1</sub>, …, ''x''<sub>''m''</sub>, 0, 0, …, 0) の全体で、これは '''R'''<sup>''m''</sup> と同一視される。'''R'''<sup>''n''</sup> の二つのベクトルがこの部分空間による同じ同値類に入るのは、後ろの ''n'' − ''m'' 個の座標成分が一致するときであり、かつそのときに限る。商空間 '''R'''<sup>''n''</sup>/ '''R'''<sup>''m''</sup> は明らかに '''R'''<sup>''n''−''m''</sup> に[[線型同型]]である。 もっと一般に、''V'' が部分空間 ''U'' と ''W'' の(内部)[[ベクトル空間の直和|直和]] :<math>V=U\oplus W</math> であるならば、商空間 ''V''/''U'' は ''W'' に[[自然変換|自然同型]]である {{harv|Halmos|1974|loc=Theorem 22.1}}。 == 性質 == 各ベクトル ''x'' をその同値類 [''x''] に対応させることにより、ベクトル空間 ''V'' からその商空間 ''V''/''U'' への自然な[[全射準同型]]が存在する。また、この全射準同型の[[核 (代数学)|核]](あるいは[[零空間]])は部分空間 ''U'' に一致する。これらの関係性は[[短完全列]] :<math>0\to U\to V\to V/U\to 0</math> として簡潔にまとめることができる。''U'' が ''V'' の部分空間であるとき、''V''/''U'' の[[線型空間の次元|次元]] は ''U'' の''V'' における'''[[余次元]]''' {{lang|en|(''codimension'')}} と呼ばれる。''V'' の基底は ''U'' の基底 '''A''' と ''V''/''U'' の基底 '''B''' から('''A''' に '''B''' の各元の代表元を付け加えることによって)構成することができるから、''V'' の次元は ''U'' の次元と ''V''/''U'' の次元の和に等しい。これにより、''V'' が[[有限次元]]ならば、''V'' における ''U'' の余次元は ''V'' の次元から ''U'' の次元を引いたもの :<math>\mathrm{codim}(U) = \dim(V/U) = \dim(V) - \dim(U)</math> として得られることが従う {{harv|Halmos|1974|loc=Theorem 22.2}}。''T'': ''V'' → ''W'' を[[線型作用素]]とし、''T'' の核 ker(''T'') は ''Tx'' = 0 となる ''x'' ∈ ''V'' 全体の成す集合とする。核 ker(''T'') は ''V'' の部分空間であり、[[第一同型定理]]は商空間 ''V''/ker(''T'') が ''W'' における ''V'' の像 im(''T'') に同型であることをいうものである。ここから直ちに得られる系として、有限次元ベクトル空間に対する次元定理の一つである[[階数・退化次数定理]]がある。これは ''V'' の次元が ''T'' の'''退化次数'''({{lang|en|nullity}}; 核 ker(''T'') の次元)と ''T'' の'''階数'''({{lang|en|rank}}; 像 im(''T'') の次元)の和に等しいことを言うものである。 線型作用素 ''T'': ''V'' → ''W'' の[[余核]]は商空間 ''W''/im(''T'') として定義される。 == バナッハ空間の商空間 == ''X'' が[[バナッハ空間]]で ''M'' が ''X'' の[[閉集合|閉]]部分空間ならば商空間 ''X''/''M'' は再びバナッハ空間をなす。商空間がベクトル空間の構造を持つことは既に見た。''X''/''M'' の[[ノルム]]は :<math> \| [x] \|_{X/M} = \inf_{m \in M} \|x-m\|_X</math> で与えられる。商空間 ''X''/''M'' はこのノルムに関して[[完備距離空間|完備]]であるからこれはバナッハ空間を与える。 === 例 === ''C''[0,1] で区間 [0, 1] 上の実数値連続函数全体のなす集合に[[supノルム]]を考えて得られるバナッハ空間を表す。このバナッハ空間の部分空間 ''M'' を ''f''(0) = 0 を満たす ''f'' ∈ ''C''[0,1] 全体の成す部分空間とする。このとき、各函数 ''g'' の属する同値類は 0 における値 ''g''(0) によって決定され、商空間 ''C''[0,1] / ''M'' は '''R''' に同型となる。 ''X'' が[[ヒルベルト空間]]ならば商空間 ''X''/''M'' は ''M'' の[[直交補空間]]に同型である。 === 局所凸空間への一般化 === [[局所凸空間]]の閉部分空間による商は再び局所凸となる {{harv|Dieudonné|1970|loc=12.14.8}}。実際に、''X'' が局所凸ならば ''X'' の位相はある[[半ノルム]]族 {''p''<sub>α</sub> | α∈''A''} で生成される(''A'' は添字集合)。''M'' を閉部分空間とし、''X''/''M'' 上の半ノルム族 {''q''<sub>α</sub>} を :<math>q_\alpha([x]) = \inf_{x\in [x]} p_\alpha(x)</math> で定義すれば、''X''/''M'' は局所凸空間であり、その位相は ''X'' の[[商位相]]に一致する。 さらに ''X'' が[[距離化可能]]ならば ''X''/''M'' もそうであり、''X'' が[[フレシェ空間]]ならば ''X''/''M'' もそうである {{harv|Dieudonné|1970|loc=12.11.3}}。 == 関連項目 == * [[商集合]] * [[剰余群]] * [[剰余環]] * [[剰余加群]] * [[商位相空間]] == 参考文献 == * {{citation|first=Paul|last=Halmos|authorlink=ポール・ハルモス|title=Finite dimensional vector spaces|publisher=Springer|year=1974|isbn=978-0387900933}}. * {{citation|first=Jean|last=Dieudonné|authorlink=ジャン・デュドネ|title=Treatise on analysis, Volume II|publisher=Academic Press|year=1970}}. == 外部リンク == * {{MathWorld|title=Quotient Vector Space|urlname=QuotientVectorSpace|author=Todd Rowland}} {{DEFAULTSORT:しようせんけいくうかん}} [[Category:線型代数学]] [[Category:位相群]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:ベクトル空間]]
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