図形数のソースを表示

[[ファイル:SquareNumbers.svg|thumb|200px|正方形に対応する四角数]]
'''図形数'''（ずけいすう、{{Lang-en-short|figurate numbers}}）とは、一定の規則で図形状に並べられた点の個数として表される[[自然数]]の総称である。その歴史は、[[古代ギリシア]]の[[ピタゴラス学派]]が「万物は数である」との思想のもと、図形と数を結び付けたところにまで遡る。例えば、図形として[[正方形]]を考えると、数としては[[平方数]]を得る。平方数を図形数として見るときには、これを特に「四角数」と呼ぶ。

== 用語 ==
「図形数」に対応する英語は figurate number, figured number, figural number があるが、その意味する範囲は日本語、英語ともに曖昧さがある。古代ギリシアで扱われたもののみを指すこともあれば、4次元以上の図形に対応するものまで含める場合もある<ref group="注釈">例えば、[[MathWorld]] では figurate number を最も広い意味で用いている。</ref>。figurate number の訳語として「装飾数」が用いられた例もある<ref name="Tattersall12">{{Harvnb|タッタソール|2008|p=12}}</ref>。

== 歴史 ==
[[ファイル:Square number 16 as sum of gnomons.svg|thumb|150px|四角数は奇数の和と捉えられる。例えば、図は 4<sup>2</sup> = 1 (赤) + 3 (黄) + 5 (緑) + 7 (青) を意味する。]]
[[紀元前6世紀]]頃のピタゴラス学派は、[[三角数]]や四角数を用いて、いくつかの数の性質を導いたとされる。例えば、正方形状に並んだ点から次に大きな正方形を作るにはL字形の「部品」を付加すればよいことから、最初の ''n'' 個の[[奇数]]の和が ''n'' 番目の四角数であることが分かる。現代的な記法では
:<math>1+3+5+\cdots+(2n-1)=n^2</math>
ということである。この性質を用いて、無数に[[ピタゴラス数]]を得ることも[[ピタゴラス]]は知っていた<ref group="注釈">平方数である奇数までの和を考えることで、二辺の差が 1 であるピタゴラス数を得る。例えば、(1 + 3 + 5 + 7) + 9 = 5<sup>2</sup> より、4<sup>2</sup> + 3<sup>2</sup> = 5<sup>2</sup> といった具合である。{{Harv|ヒース|1998| pp=37f}}</ref>。また、三角数の2倍が[[矩形数]]であることから、1 から ''n'' までの和の公式
:<math>1+2+3+\cdots+n=\frac{1}{2}n(n+1)</math>
を得る。

このように、図を用いることによって、様々な数の性質が確かめられる。例えば、連続する三角数の和は四角数である。現代的な式では
:<math>\frac{1}{2}n(n-1)+\frac{1}{2}n(n+1)=n^2</math>
と表せる。やや複雑な例として、[[プルタルコス]]が記して[[アレクサンドリアのディオファントス|ディオファントス]]が引用したところによると、三角数の8倍に1を加えれば四角数となる。すなわち、
:<math>\frac{1}{2}n(n+1) \times 8+1=(2n+1)^2</math>
である<ref name="heath418">{{Harvnb|ヒース|1998|p=418}}</ref>。

<gallery>
File:Computation of a triangular number.jpg|三角数の2倍は矩形数
File:Square number 25 as sum of two triangular numbers.svg|連続する三角数の和は四角数
File:Somme de huit nombres triangulaires.jpg|三角数の8倍に1を加えると四角数
</gallery>

[[紀元前2世紀]]の{{仮リンク|ヒュプシクレス|en|Hypsicles}}は、三角数や四角数を一般化した[[多角数]]を定義した<ref group="注釈">その著作は残っていないが、ディオファントスは、ヒュプシクレスを多角数を定義した人としてその定義を引用している。{{Harv|ヒース|1998|p=311}}</ref>。その後、[[スミュルナのテオン]]、[[ニコマコス]]、[[カルキスのイアンブリコス|イアムブリコス]]らが多角数について論じた<ref name="heath418" />。

[[ファイル:Pyramid of 35 spheres animation.gif|thumb|200px|[[正四面体]]に対応する[[四面体数]]]]
[[2世紀]]頃のニコマコスは、その著書『[[算術入門]]』において、多角数は[[等差数列]]の和として定義されることを指摘したのみならず、種々の立体数についても述べている。具体的には、[[四面体数]]、[[四角錐数]]などの多角錐数、[[立方数|立方体数]]、{{仮リンク|切頂|en|Truncation (geometry)}}多角錐数などである<ref>{{Harvnb|ヒース|1998|p=54}}</ref>。それよりも前に、[[紀元前4世紀]]頃の[[オプースのピリッポス|オプスのフィリポ]]や[[スペウシッポス|スピューシップス]]が四面体数について考察したと考えられるが、文献は残っていない<ref name="Tattersall10">{{Harvnb|タッタソール|2008|p=10}}</ref>。

1544年、{{仮リンク|マイケル・シュティーフェル|en|Michael Stifel}}は、三角数、四面体数に続く[[五胞体数]]などの、高次元版の図形数を定義した<ref name="Tattersall12" />。

[[近世]]ヨーロッパの数学者、{{仮リンク|クロード・ガスパール・バシェ・ド・メジリアック|label=バシェ|en|Claude Gaspard Bachet de Méziriac}}、[[ピエール・ド・フェルマー|フェルマー]]、[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]らも多角数について論じている<ref name="Tattersall15-20">{{Harvnb|タッタソール|2008|pp=15-20}}</ref>。初等的な性質のみならず、フェルマーが[[多角数定理]]を予想し、オイラーが[[オイラーの五角数定理|五角数定理]]を示すなど、やや高度な[[数論]]にも図形数は現れる。

1996年に出版された[[ジョン・ホートン・コンウェイ|コンウェイ]]と{{仮リンク|リチャード・ガイ|label=ガイ|en|Richard K. Guy}}の『数の本』には、その他のさまざまな図形数、例えば[[中心つき四角数]]や[[中心立方体数|体心立方数]]などが図付きで紹介されている。

== グノモン ==
[[ファイル:Pentagonal number 22 as sum of gnomons.svg|thumb|150px|[[五角数]]とそのグノモン。色分けされた各部分がグノモンである。]]
先述のように、四角数からより大きな四角数を構成するときにはL字形の「部品」を付加すれば良かった。このような部品は古代ギリシアでは'''[[グノモン]]'''（'''グノーモン'''や'''グノーモーン'''とも、{{Lang-en-short|gnomon}}）と呼ばれた<ref>{{Harvnb|ヒース|1998|p=36}}</ref>。元々グノモンという語が意味するものは、[[日時計]]において影を作るための直立の棒であり、垂直を暗示するため、L字形の部品に対して用いられることとなった。

[[ファイル:gnomon.svg|thumb|right|[[エウクレイデス]]『[[原論]]』の第2巻で定義されるグノモン。]]
[[エウクレイデス]]『[[原論]]』の第2巻では、正方形のみならず平行四辺形に対して、大きな平行四辺形の頂点から相似の平行四辺形を切り取ってできる平行六辺形を表す言葉に拡張してグノーモーンという語を定義している<ref>{{Harvnb|ユークリッド|1996|p=35}}</ref><ref>{{Harvnb|エウクレイデス|2008|p=252}}</ref>。[[アレクサンドリアのヘロン]]は、その部品を付加することによって元の図形と相似な図形を得るようなものと定義した。矩形数の場合、L字形の部品を加えると、元の矩形と新しい矩形は縦横比が異なるため、厳密には相似とはいえないが、このような場合にもグノモンの語が用いられる。

[[ファイル:Carré-d'un-nombre-triangulaire.jpg|thumb|250px|1<sup>3</sup> + 2<sup>3</sup> + 3<sup>3</sup> + 4<sup>3</sup> = (1 + 2 + 3 + 4)<sup>2</sup> を示す図。各グノモンの面積は立方数である。]]
西暦1000年頃、[[アラビア数学]]者{{仮リンク|アル＝カラジ|en|Al-Karaji}}は著書『ファフリー』(Fakhri)において、グノモンの考えを用いて三乗和の公式
:<math>1^3+2^3+\cdots+n^3=(1+2+\cdots+n)^2</math>
を示した<ref>{{Harvnb|ヒース|1998|pp=55f}}</ref><ref>{{Harvnb|カッツ|2005|p=290}}</ref>。実際には彼は ''n'' = 10 の場合のみを説明しているが、疑いなく一般の場合を意識していた。四角数を用いた証明は以下の通り。ひとつの点から始め、一辺が 3 (= 1 + 2) の正方形となるようにグノモンを付加する。次は一辺が 6 (= 1 + 2 + 3) となるようにグノモンを付加する。これを繰り返して一辺が 55 (= 1 + 2 + … + 10) となるようにグノモンを付加したとき、最後のグノモンが含む点の個数は
:10 &times; (1 + 2 + … + 9) &times; 2 + 10 &times; 10 = 10<sup>3</sup>
と計算される。他のグノモンが含む点の個数も同様に[[立方数]]であることが分かるので、
:1<sup>3</sup> + 2<sup>3</sup> + … + 10<sup>3</sup> = (1 + 2 + … + 10)<sup>2</sup>
が示される。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|editor=[[ヨハン・ルードウィッヒ・ハイベア|ハイベア]]・[[ハインリッヒ・メンゲ|メンゲ]]編|title=エウクレイデス全集|volume=（全5巻）|publisher=[[東京大学出版会]]|ref=東大版}} - 「エウクレイデス全集」の世界初の近代語訳。
** {{Cite book|和書|title=第1巻 原論I‐VI|others=[[斎藤憲]]・[[三浦伸夫]]訳・解説|date=2008-01|isbn=978-4-13-065301-5|ref={{Harvid|エウクレイデス|2008}}}}
*{{Cite book |和書 |last=カッツ |first=ヴィクター |authorlink=:en:Victor J. Katz |translator=[[上野健爾]]他 |date=2005-06 |title=カッツ数学の歴史 |publisher=共立出版 |isbn=978-4-320-01765-8 |ref={{Harvid|カッツ|2005}} }}
*{{Cite book |和書 |last1=コンウェイ |first1=J. H. |authorlink1=ジョン・ホートン・コンウェイ |last2=ガイ |first2=R. K. |authorlink2=:en:Richard K. Guy |translator=[[根上生也]] |date=2001-11 |title=数の本 |publisher=[[シュプリンガー・ジャパン|シュプリンガー・フェアラーク東京]] |isbn=978-4-431-70770-7 |ref={{Harvid|コンウェイ|ガイ|2001}} }} - 特に、第2章「図を見てわかる数のしくみ」を参照。
**{{Cite book |和書 |last1=コンウェイ |first1=J. H. |last2=ガイ |first2=R. K. |translator=[[根上生也]] |date=2012-01 |title=数の本 |publisher=[[丸善出版]] |isbn=978-4-621-06207-4 |ref={{Harvid|コンウェイ|ガイ|2012}} }}
*{{Cite book |和書 |last=タッタソール |first=J. J. |translator=[[小松尚夫]] |date=2008-09 |title=初等整数論9章 |publisher=[[森北出版]] |isbn=978-4-627-08162-8 |ref={{Harvid|タッタソール|2008}} }} - 特に、1.1節「多角数」を参照。
*{{Cite book |和書 |last=ヒース |first=T. L. |authorlink=:en:Thomas Little Heath |translator=[[平田寛]]・[[菊池俊彦]] |date=1998-05 |origyear=1959 |title=復刻版　ギリシア数学史 |publisher=共立出版 |isbn=978-4-320-01588-3 |ref={{Harvid|ヒース|1998}} }} - 原著は1931年出版。
*{{Cite book|和書|editor=[[ヨハン・ルードウィッヒ・ハイベア|ハイベア]]・[[ハインリッヒ・メンゲ|メンゲ]]編|others=[[中村幸四郎]]・[[寺阪英孝]]・[[伊東俊太郎]]・[[池田美恵]]訳・解説|title=ユークリッド原論|publisher=[[共立出版]]|ref=共立版}} - 全13巻の最初の邦訳。
** {{Cite book|和書|title=ユークリッド原論|edition=（ハードカバー）|date=1971-07|isbn=978-4-320-01072-7|ref={{Harvid|ユークリッド|1972}}}}
***{{Cite book|和書|title=世界の名著9|volume=ギリシアの科学|edition=（抜粋）|others=池田美恵 訳|publisher=[[中央公論社]] |year=1972|isbn=978-4-12-400089-4|ref={{Harvid|ユークリッド|1972}}}}
***{{Cite book|和書|title=世界の名著9|volume=ギリシアの科学|edition=（抜粋）|others=池田美恵 訳|publisher=中央公論社 |year=1980|isbn=978-4-12-400619-3|ref={{Harvid|ユークリッド|1980}}}}
** {{Cite book|和書|title=ユークリッド原論|edition=（縮刷版）|date=1996-06|isbn=978-4320015135|ref={{Harvid|ユークリッド|1996}}}}
** {{Cite book|和書|title=ユークリッド原論|edition=（追補版）|date=2011-05|isbn=978-4320019652|ref={{Harvid|ユークリッド|2011}}}}

== 関連項目 ==
{{Commonscat|Figurate numbers}}
{{Div col}}
* [[ピックの定理]]
* [[ファウルハーバーの公式]]
{{Div col end}}

== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=FigurateNumber|title=Figurate Number}}
* {{MathWorld|title=Gnomonic Number|urlname=GnomonicNumber}}

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:すけいすう}}
[[Category:図形数|*]]
[[Category:数学に関する記事]]