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{{出典の明記|date=2018年4月}} {{統計力学}} '''大正準集団'''(だいせいじゅんしゅうだん、{{Lang-en|grand canonical ensemble}})とは、[[統計力学]]において、[[外界]]との間で[[エネルギー]]と物質を自由にやり取りできる[[開放系]]を無数に集めた[[統計集団]]である。'''グランドカノニカルアンサンブル'''とも呼ばれる。 大正準集団は[[等温過程|等温]]等[[化学ポテンシャル]]条件にある系を表現する統計集団であり、外界の温度と[[化学ポテンシャル]]をパラメータとして特徴付けられる。 大正準分布は、[[小正準分布]]、[[正準分布]]とは体積が十分に大きい極限において熱力学的に等価である。 == 確率分布 == 大正準集団が従う確率分布は'''大正準分布'''(だいせいじゅんぶんぷ、{{en|grand canonical distribution}})、あるいは'''グランドカノニカル分布'''と呼ばれる。 リザバーと接している系が微視的状態 ω をとる確率分布 p(ω) は次式で定義される。 {{Indent| <math>p(\omega) = \frac{1}{\Xi(\beta,\boldsymbol{\mu})} e^{-\beta E(\omega)+\beta \sum_i \mu_i N_i(\omega)}</math> }} ここで、E(ω) と N<sub>i</sub>(ω) はそれぞれ系が微視的状態 ω をとるときの[[エネルギー]]と[[粒子数]](i は粒子の種類)で、β μ<sub>i</sub> はリザバーを特徴付けるパラメータでそれぞれ[[温度]]と[[化学ポテンシャル]]である。 β は[[絶対温度]] T と β=1/[[kT (エネルギー)|kT]] の関係にあり、[[逆温度]]と呼ばれる。k は[[ボルツマン定数]]である。 確率分布 p(ω) の分母に現れた[[規格化]]定数 Ξ(β,μ) はグランドカノニカル分布の[[大分配関数]]であり、次式で定義される。 {{Indent| <math>\Xi(\beta, \boldsymbol{\mu}) = \sum_\omega e^{-\beta E(\omega)+\beta \sum_i \mu_i N_i(\omega)}</math> }} == 熱力学との関係 == 系が微視的状態 ω をとるとき、微視的な[[物理量]]が O(ω) で与えられるとき、対応する熱力学的な[[状態量]]は[[期待値]] {{Indent| <math>O(\beta, \boldsymbol{\mu}) = \langle O(\omega) \rangle = \sum_\omega O(\omega) p(\omega) = \frac{1}{\Xi(\beta, \boldsymbol{\mu})} \sum_\omega O(\omega) e^{-\beta E(\omega)+\beta \sum_i \mu_i N_i(\omega)}</math> }} として再現される。 特に粒子数は {{Indent| <math>N_i(\beta, \boldsymbol{\mu}) = \frac{1}{\Xi(\beta, \boldsymbol{\mu})} \sum_\omega N_i(\omega) e^{-\beta E(\omega)+\beta \sum_i \mu_i N_i(\omega)} = \frac{1}{\beta}\frac{\partial}{\partial\mu_i} \ln \Xi(\beta,\boldsymbol{\mu})</math> }} となり、エネルギーは {{Indent| <math>E(\beta, \boldsymbol{\mu}) = \frac{1}{\Xi(\beta, \boldsymbol{\mu})} \sum_\omega E(\omega) e^{-\beta E(\omega)+\beta \sum_i \mu_i N_i(\omega)} = -\frac{\partial}{\partial\beta} \ln \Xi(\beta,\boldsymbol{\mu}) +\sum_i \frac{\mu_i}{\beta}\frac{\partial}{\partial\mu_i} \ln \Xi(\beta,\boldsymbol{\mu})</math> }} となる。 系の[[グランドポテンシャル]]を {{Indent| <math>J(\beta,\boldsymbol{\mu}) = -\frac{1}{\beta} \ln \Xi(\beta, \boldsymbol{\mu})</math> }} として定義すると、グランドポテンシャルは[[完全な熱力学関数]]であり、カノニカル分布における[[自由エネルギー]]と同様に、他の状態量を計算することができる。 == 量子理想気体 == グランドカノニカル分布は粒子が[[生成消滅演算子|生成・消滅]]する系でも使えるため、[[場の量子論]]における[[量子力学|量子]][[理想気体]]の平衡状態について記述する際に便利である。 理想気体なので粒子間の相互作用が無く、一粒子の[[エネルギー固有状態]]を考えればよい。 一粒子のエネルギー固有状態 j にある粒子数を n<sub>j</sub> とし、対応する一粒子の[[エネルギー固有値]]を ε<sub>j</sub> とすると、微視的状態 ω は粒子数 n<sub>j</sub> の組によって指定される。 {{Indent| <math>N(n_1, \ldots, n_j, \ldots ) = \sum_{j=1}^\infty n_j,~ E(n_1,\ldots, n_j, \ldots ) = \sum_{j=1}^\infty \epsilon_j n_j</math> }} これはグランドカノニカル分布においては、全エネルギー及び全粒子数について拘束条件が無い(一定である必要が無い)為に行える操作であり、大分配関数は次のように書き直せる。 {{Indent| <math>\Xi(\beta, \mu) = \sum_{n_1} \cdots \sum_{n_j} \cdots \left( \prod_{j=1}^\infty \exp[-\beta (\epsilon_j-\mu) n_j] \right) = \prod_{j=1}^\infty \left( \sum_{n_j} \exp[-\beta (\epsilon_j-\mu) n_j] \right) = \prod_{j=1}^\infty \Xi^{(j)}(\beta, \mu)</math> }} このように、全体の大分配関数を固有状態 j の大分配関数の各々の積として表せる。 これが、グランドカノニカル分布が他の統計分布と比べて量子理想気体を記述する際に使い勝手の良い理由である。 === ボゾン === 一粒子のエネルギー固有値 ε<sub>j</sub> をもつ固有状態jについて、ボゾンの場合、粒子数 n<sub>j</sub> は 0 以上の全ての整数値をとりうるので大分配関数は、 {{Indent| <math>\Xi^{(j)}(\beta, \mu) = \sum_{n_j=0}^\infty e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) n_j } = \frac{1}{1 - e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) } }</math> }} となる。これから固有状態jの粒子数(占有数)の期待値を計算する。これはマクロな観測量では無いが、期待値を求めておくと量子理想気体などの解析に便利である<ref>{{Cite book|和書|author=田崎晴明|authorlink=田崎晴明|title=統計力学II|publisher=[[培風館]]|series=新物理学シリーズ|year=2008|isbn=4563024384|oclc=675371709}}</ref>。結果は、 {{Indent| <math>\langle n_j \rangle = \frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial\mu} \ln\Xi^{(j)}(\beta, \mu) = -\frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial\mu} \ln(1 -e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) }) = \frac{1}{e^{\beta(\epsilon_j -\mu) } -1}</math> }} となる。これが[[ボース分布関数]]である。 ===フェルミオン=== 一粒子のエネルギー固有値ε<SUB>j</SUB>をもつ固有状態jについて、フェルミオンの場合、粒子数n<SUB>j</SUB>は0もしくは1のみをとるので大分配関数は、 {{Indent| <math>\Xi^{(j)}(\beta, \mu) = \sum_{n_j=0}^1 e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) n_j } = 1 + e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) }</math> }} となる。これから粒子数の期待値を計算すると、 {{Indent| <math>\langle n_j \rangle = \frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial\mu} \ln\Xi^{(j)}(\beta, \mu) = \frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial\mu} \ln(1 +e^{-\beta(\epsilon_j -\mu) }) = \frac{1}{e^{\beta(\epsilon_j -\mu) } +1}</math> }} となる。これが[[フェルミ分布関数]]である。 ==量子力学的な表記== [[ヒルベルト空間]]の[[正規直交系|正規直交基底]]をe<SUB>i</SUB>として、任意の演算子<math>\hat{A}</math>の[[跡 (線型代数学)|トレース]]を、 {{Indent|<math> \mathbf{Tr} [ \hat{A} ] = \sum_i \langle e_i | \hat{A} | e_i \rangle</math>}} と定義する。これを用いると大分配関数はハミルトニアン<math>\hat{H}</math>と粒子数演算子<math>\hat{N}</math>を用いて、 {{Indent|<math> \Xi(\beta , \mu) = \mathbf{Tr} [ e^{- \beta ( \hat{H} - \mu \hat{N})} ]</math>}} と表せる。 == 関連項目 == * [[化学ポテンシャル]] * [[カノニカル分布]] * [[ミクロカノニカル分布]] == 参考文献 == <references /> {{DEFAULTSORT:たいせいしゆんしゆうたん}} [[Category:統計集団]]
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